機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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抱え込んでいるもの

 

 

 

 

 

あれから一週間が経った。

ハッキングも練習を重ねて大分出来るようになってきたし、そろそろ捏造作業に移ろうかと思う。

OSの開発も特許取得の為に戸籍が必要だし、これが最優先だな。

 

「えぇっと・・・これをああして、これがこうなって・・・」

 

・・・意外と簡単に出来ました。

 

「やっぱり凄いな」

 

遺跡からハッキングの方法を習得し、その通りやればあっという間。

今までの練習って何だったんだろう?

 

「とりあえず地球生まれ。幼少の頃に火星へ引っ越して数年を過ごす。両親は交通事故で共に死去。それを機に地球に戻る。現在は親の遺産で一人暮らし。こんなもんかな」

 

うん。後は穴ができないように細かい設定を考えないとな。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「あ、コウキ君。ちょっといいかな」

 

一生懸命作業中のコウキ君には悪いけど、そろそろコウキ君の身の上を知っておかなくちゃ。

一週間経って、変だけど良い子だって改めて実感したし、何かあるのなら助けてあげたいしね。

 

「はい。何ですか?」

 

振り返って私を見詰めてくる瞳と朗らかな顔。

絶世の美男とか、そんな風には思えない顔だけど良く見れば割とカッコいいんじゃないかしら。

まぁ、中の上とか上の下とか、それぐらいのレベル。

スーツ着て、真剣に仕事をしている姿は大人っぽくて素敵だと思うわよ。

まだまだ子供だけどね。

 

「舌だして」

「え? えぇ!?」

 

あ、動揺しているわ。

これはいじくりのチャンス。ニヤッ。

 

「ほ~ら。いいから。舌を出して。ほ~ら」

「えぇ~っと。その。あのですね」

 

良いわね。このギャップ。

可愛らしい反応よ。

グイッと顔を近付けて。

 

「眼を閉じて。私に任せて」

「あ、はい」

 

ギュッと眼を瞑って舌を少しだけ出してくる。

もう既に顔を真っ赤。割とモテると思うのだけど、女の子への耐性がないのかしら?

ま、私としては初心な方がいじくり甲斐があって楽しいけど。

 

「はい。チクッと」

「え? チクッ? イテッ」

「うん。ありがとね」

 

呆然と私を見詰めてくるコウキ君。

そして、すぐに落ち込む。

 

「ま、またからかわれた」

 

そういう反応がまたからかってやろうと思わせるのよ。

 

「何をしたんですか?」

「あ。これよ。DNAチェック」

「げ!? ・・・大丈夫だよな」

 

冷や汗を掻いて呟くコウキ君。

どうかしたのかしら?

ま、いいわ。

 

「えぇっと。マエヤマ・コウキ。十八才。父は」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

・・・両親がいない・・・か。

悪い事しちゃったかな。

 

「どうかしました?」

「えっと。ごめんなさいね。こんな事しちゃって」

 

罪悪感が浮かんできたわ。

他人のプライベートに勝手に踏み込んで。

 

「あ、気にしないで下さい。本当だったら会った日にやられていてもおかしくなかったんです。それをずっと甘えさせてもらっていて」

「えぇっと。怒ってないの?」

「え? 怒るだなんて。ミナトさんにはお世話になりっぱなしですし。こんな怪しい奴の面倒を見てくれていたんです。感謝していますよ」

 

そう言って満面の笑みを浮かべるコウキ君。

・・・不覚だわ。年下の笑顔にドキッとするなんて。

 

「そ、そう。何か困ったらいつでも言いなさいね。コウキ君は私にとって弟みたいなものなんだから」

「ありがとうございます。ミナトさんみたいなお姉さんがいたら弟は幸せでしょうね」

「も、もう。褒めたって何も出ないぞ」

「ハハハ。初めて勝った気がしますよ」

 

もう。まいったわね。私のペースが崩されたわ。

 

「でも、本音ですからね。ミナトさんみたいに包容力がある人は中々いませんから。頼りにさせてくださいね。姉さん」

「任されました。弟君」

 

あ、眼が点。

弟君ってのが予想外だったのかしら?

これはからかいのチャンス。

 

「ほら。お姉さんに甘えていいのよ」

 

手を広げてそう言ってみる。

すると・・・。

 

「・・・・・・」

 

案の定、真っ赤になっている。

うん。まだまだコウキ君には負けないわね。

 

「じゃあ、姉さんは行くから。頑張るのよ。弟君」

 

ウフフ。本当に楽しい。

ちょっと悪い事したけど、コウキ君の素敵な一面も見られたし。

良かったかな?

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ」

 

去っていくミナトさんを見送る。

ミナトさんが部屋から出て行って、漸く俺は安堵の息が吐けた。

 

「ギリギリだった。後少し遅れていたらノーデータとか表示されていたかもしれない」

 

戸籍の捏造。

ミナトさんに声を掛けられると同時に終了した。

良かった。穴はなかったみたいだ。

正直、焦ったぜ。

バレたらどうなるか分からないし。

 

「それにしても・・・姉さん・・・か」

 

あんまり原作キャラと関わらないようにしようと思っていたけど、駄目みたいだ。

ミナトさんだけナデシコに乗せるのが許せない気がする。

何だろう? これが男の甲斐性って奴かな?

仮にも姉さんって思った人だ。役に立てるならミナトさんを助けようかな。

あぁ。でも、ナデシコと関わると俺の平穏な生活が・・・。

何て、何て究極な選択なんだ。俺はノンノンとのんびり過ごす事を目的としていたのに。

これが遺跡の言う逃れられない運命って奴なのかな。

・・・ま、一年後の話だ。ゆっくり考えよう。

 

 

 

 

 

「どうですか?」

「いいわ。とっても良い。使いやすいし、機能性も抜群だし。貴方って天才?」

 

まぁ、俺が組み立てた訳じゃないので何とも。

 

「どうでしょう? これで特許とか取れますかね?」

「いけるんじゃないかしら。特許とかに詳しくないけど。こんなに高機能ならバカ売れよ」

 

テンション高いなぁ。お茶のお姉さん。

でも、お茶のお姉さんから高評価も得たし、自分自身も中々に使いやすかったし、こんなもんかな。

 

「んじゃ、これで特許を取りにいきます。登録とかってネットから出来ましたっけ?」

「ええ。それぐらいは知ってるわ。教えてあげる」

 

お世話になります。お茶のお姉さん。

 

 

こうして、俺はこの世界で漸く生きていけるだけの道を拓いた。

後で・・・。

 

「有名になったら駄目駄目じゃん。バカか俺は」

 

と落ち込んだのは俺だけの秘密だ。

あ、後、慰めてくれたミナトさんだけの秘密だ。

 

 

 

 

 

「天才プログラマー・・・ね」

 

こんな渾名が付いてしまった。

俺はデータをロードして貼り付けただけなのに。

何だか、色々と申し訳ないっす。

 

「お陰で助かっているわ。コウキ君のOSってかなり高価なんだけど。私達だけ無料でインストールさせてもらっちゃって」

「お世話になりましたからね。ミナトさんには。それに皆さんにも」

 

当然の事をしたまでですよ。

まだまだ恩を返すには足りないぐらいですから。

 

「それにしても随分と儲かっているみたいね」

「ええ。俺みたいな一般市民には扱い方に困る大金ですよ。どうしましょう?」

 

特許料とかライセンス料とか、そんなんで気付けば僕も億万長者。

僕、改め、俺にはどう使っていいか分からんぐらいの金だ。

パ~~~っと使ってもいいけど、そういう高級な店は恐れ多いし、緊張して楽しめなさそうだしね。

一人暮らししてもいいけど、ミナトさんに迷惑じゃなければ、あそこに居付きたいな。

あそこってかなり居心地が良くて。もちろん、ミナトさんが迷惑してなければだけど。

 

「ウフフ。宝くじでも当たった気分かしら?」

「そうですね。特に欲しいものもありませんし。あ、そうだ。皆さんでお食事なんてどうですか? ・・・な~んて」

 

流石に女性を誘うのは緊張するな。

思わず誤魔化してしまった。

 

「あら。エスコートしてくれるの?」

「そ、そんな事は無理ですよ。軽いお食事でもどうですかっていう話です。俺にはそんな甲斐性ないですから」

「・・・自分で言っていて悲しくない?」

「・・・少し」

 

しょうがいないよな。俺って一般人だし。

 

「皆さんにはお世話になりっぱなしですから。どうですか?」

 

秘書課の皆さんに提案してみる。

 

「嬉しいけど、いいのかしら?」

「そうよね。コウキ君に奢らせるってのはちょっと」

 

う~ん。乗り気じゃないのか? 

残念だな。

 

「コウキ君」

「あ、はい」

 

口を近づけてくるので多分コソコソ話って奴だな。

 

「皆貴方が年下だからって気を遣っているのよ。嫌がっているとかそういうわけじゃないわ」

「あ。そういう事ですか」

 

納得。でも、日頃のお礼を返すだけだし。

 

「大丈夫ですよ。特別ボーナスが出たと思ってください。皆さんに意見を聞いて完成したようなものですから」

 

お茶のお姉さんだけじゃなくて色々な人に評価してもらった結果、出来上がったんだ。

むしろ、奢らせて欲しい。

 

「そう。それなら御願いしようかしら」

「じゃあ、私も」

 

次々と承知してくれる秘書課の皆さん。

うん。良かった。これで恩が返せる。

 

「それにしても、大胆ね。コウキ君」

「えぇっと、何がですか?」

「一対多数よ? 男性対女性で」

「・・・・・・」

「ん?」

「・・・あぁ!」

 

お、俺は調子に乗って何を言っているんだ。

一対一でも緊張するのに、俺だけ男の一対多数なんて。

緊張で溺死する。

 

「ミ、ミナトさん。フォロー御願いします」

「ん~。どうしようかしら」

 

ニヤニヤ。ニヤニヤ。

くぅ~~~。ニヤニヤしないで、助けてくださいよ。

御願いしますから。

 

「・・・今度、何か奢りますから」

「ふ~ん。何を奢ってくれるの?」

「えぇ~と」

 

バック・・・はもう持っているよな。

口紅・・・俺のセンスじゃ無理。

アクセサリ・・・無難か?

ピアスとかネックレスとか。

あ、腕時計もいいな。

 

「イヤリングとかネックレスとか、腕時計とか何でも」

「へぇ。その中で何を贈ってくれるの?」

 

まだ苛めますか!?

 

「・・・そうですね。イヤリング・・・とか、どうですか?」

「そうね。私に似合うのは選んできてね」

「え? 一緒に来てくれないんですか?」

「コウキ君。男の甲斐性はプレゼントにあるのよ。自分で選んで私を喜ばしてごらん」

「わ、わかりました」

「期待しているわね」

「む、無論です。期待していてください」

「ウフフ。じゃあ、契約成立ね。フォローは任せなさい」

 

笑いながら自分の席へと戻っていくミナトさん。

うん。ミナトさんに任せれば万事解決だ。

・・・お店とかどうしよう。

うん。ミナトさんに相談しよう。女性の感性は女性に聞けって奴だな。

よし。それじゃあ、その法則でイヤリングも他の秘書課の皆さんにこっそり訊いてみようかな。

それで万事解決だ。うん。そうしよう。

 

 

後日、きちんと贈らせて頂きました。

毎日のように付けてもらってプレゼントした側としても喜ばしい限りです。

 

 

 

 

 

「明日は休みだから。偶には遊んできなさい」

 

という事で街へとやって来た。

アルバイトと言えど社会人。色々と忙しかった訳ですよ。

いや。社会人。甘く見ていました!

 

「ふぅ。遊ぶぞぉ!」

 

漸く、漸く心の底から楽しめる。

余計な事は全て棚に上げて、今日はひたすら遊び尽くしてやる。

 

 

・・・そう思っていた時期が僕にもありました。

 

「私、こういう者です」

「プロスペクター氏ですか」

 

事の始まりは至極単純。

ネルガルプロデュースのシューティングアクションゲーム。

エステバリスVS地球連合軍。

・・・この時期からエステバリスってあったんだね。知らなかったよ。

原作を知る身としては、興味を惹かれて思わずやってしまった訳だ。

それで一般用とIFS用があったから、まぁ原作を味わうならという訳でIFS用を選択した。

・・・それがミスだったんだよね。

これってゴキブリホイ②みたいなものだったらしくて、テストパイロットを確保する為、常に監視されていたらしい。

この時ほど、この身体を恨んだ時はない。

高性能IFSだし、昔からこういうゲームに眼がなかった俺は相当に力を発揮した訳だ。

それで一位のスコアを抜いてトップスコアを叩き出した。

いやぁ。中々楽しかったなとゲームのカプセルから抜け出すと・・・。

 

「お待ちしておりました」

 

既に囲まれていました。

ちょっと待とうよ。在り得ないでしょ。

そして、現在に到るという訳です。

 

「どうでしょう。我がネルガルで働いてみませんか? 今なら・・・」

 

・・・この人、高速でソロバンを取り出して、高速で弾き始めましたよ。

ナノマシンで視力強化されているから見えるけど、他の人からは危ないオジサンとしか映らないだろうな。

だって、パッと見、ひたすらソロバンを弾いているようにしか見えないし。

ってか、電卓でいいじゃん。

 

「これぐらいの給与は出しますよ」

 

あ、見せるのは電卓なんだ。不思議な人だね。プロスさんって。

えぇっと、金額は・・・0が1、2、3、4、5、6・・・。

 

「これって・・・」

「貴方にはそれ程の価値があるという訳です。はい」

 

在り得ないでしょ。この金額。

プロスペクターさん。

いや。ここはプロスさんと呼ばせていただきましょう。

 

「プロスさん。貴方はアルバイト人を馬鹿にしています」

「は?」

「俺程度にこんなに払うのならもっと社員を雇ってあげてください」

 

就職難の時代を生きてきた僕ですよ。

俺としては大学生が不憫で不憫で。

 

「あの・・・」

「あ。すいません」

 

まさか、汗も掻いてないのにハンカチというプロスさんの特技?を見る事が出来るとは。

 

「すいませんが、俺、いえ、僕は既に雇われの身でして。残念ですが・・・」

「この金額では満足できませんか?」

 

それはもちろん魅力的ですよ。

でも、エステバリスのパイロット、まぁ、テストパイロットでもいいよ、かなりの死亡率でしょ。

俺は平穏な生活を送りたいのよ。戦争とか無理!

それに、現状ではお金に困ってないしね。ボーナスっていうか、定期的に大金が入ってくるし。

 

「すいません。今の会社にいたいので」

 

親切な人ばっかりだし、裏切れないよ。

 

「・・・そうですか。分かりました」

 

ほっ。どうにか納得してくれたみたい。これで諦めてくれたら・・・。

 

「先程お渡しした名刺には連絡先が書いてありますので心変わり致しましたらご連絡下さい」

 

うぅ。諦めてなかったよ。プロスさん。

 

「はぁ・・・。分かりました」

「では、失礼します。行きますよ」

 

去っていくプロスさんと黒服の人。

あぁ。今日は厄日だ。嫌な邂逅をしちまった。

 

「どうすっかな」

 

ミナトさんが操舵手として乗り込む以上、俺もナデシコに乗るかもしれん。

あくまで予定だ。まぁ、千分の、いや、万分の、いや、億分の一もないだろうが。

その時、俺はどんな役職で乗り込むべきだろうか?

パイロット・・・いや。勘弁して下さい。

整備班・・・知識は遺跡から取り出せばいいけど、技術的に厳しいかもな。

オペレーター・・・不可能じゃない。むしろ、俺に一番合っている。でもなぁ、俺の存在が公になるのはまずいでしょ。ルリ嬢に睨まれたくないし。

コック・・・アキト青年と被るでしょうが。料理は嫌いじゃないけど、プロになりたいって訳でもないし。

あれ? 俺ってば何にも出来ない駄目な子?

 

「はぁ・・・」

 

やめよう。落ち込むから。

というか、俺だってその気になれば何でも出来る。

パイロットだって高機能ナノマシンの恩恵がある。

艦長だって参謀だって遺跡の知識から最善の戦術を導ける。

オペレーターなんて下手すると世界最高だ。

でも、それじゃあ駄目。

アキト青年を始めとして、この物語はあのメンバーだったからこそ成り立ったんだ。

劇場版的にはハッピーエンドとは言い辛いけど、物語としては成立していた。

そこに俺が介入してより良いハッピーエンドにしたいとは思っている。

でも、俺が介入する事でメンバー間に何か誤差が生じるかもしれない。

それは駄目だ。俺の介入が最悪の展開に繋がるかもしれない。

俺はあくまでオマケ程度。補佐の補佐の補佐ぐらいが丁度良いんだ。

 

「ふぅ。どうしようかな・・・」

「あら。溜息なんてついてどうしたの? 折角の休みなのに」

「あ。ミナトさん」

 

振り返るとお洒落な格好に身を包んだミナトさんがいた。

あれ。凄く着飾っている。これは・・・。

 

「もしかして・・・」

「ん?」

「デート・・・ですか?」

「あら。妬いてくれるの?」

 

早速からかいに来ましたか。

 

「まぁ。俺の存在が邪魔にならなければと思いまして」

 

ほら。俺なんかと同棲しているなんて相手方が知ったら怒るでしょうが。

 

「もぉ。素直に妬いてくれれば良いのに」

「えぇっと?」

 

どう応えろと?

 

「大丈夫よ。ただのお買い物だから」

「買い物なのにそんなお洒落に着飾ったんですか?」

「仕方ないのよ。今度、企業間での立食パーティーがあるの。そこで着るドレスとか買わないといけなくて。流石にいつもの格好じゃ入りづらいじゃない?」

 

あぁ。納得。

 

「秘書も大変ですね」

「そうなのよ。大変なの」

 

でも、それ程にミナトさんが優秀って事だろう。

それにさ・・・。

 

「ミナトさんは美人ですからね。着飾ったら注目の的ですよ。きっと」

「あら。嬉しい事言ってくれるじゃない。冗談でも嬉しいわ」

「冗談なんて言っていませんよ。ミナトさんなら望めば望むだけ」

「ウフフ。いいのよ。今の私は仕事女。彼氏なんていいの」

 

勿体無いなぁと思う。

ミナトさんを恋人に出来る人は絶対幸せだと思う。

ちょっと露出とか激しいけど、包容力はあるし、美人だし、気遣いとか完璧だし、理想のお嫁さんランキングとか取ったらダントツで一位でしょ。

 

「それじゃあね。折角の休日なんだもの。楽しんでいらっしゃい」

「あ、はい。ミナトさんも」

「そうね。他の買い物もしちゃいましょう。またね」

 

そう言って立ち去っていくミナトさん。

 

「・・・あ」

 

あんなに着飾っているのに俺が贈ったイヤリングを付けてくれている。

何か嬉しいな。もしかしてミナトさんの好みに合っていたのかな。そうだと嬉しいけど。

 

「さてっと。自宅用のIFS専用端末でも購入しようかな。そうすれば色々と出来るし」

 

という事で俺は電気機器のあるショップへ向かった。

IFS専用端末はIFSの使用頻度が低いからか全然なかった。

三つぐらい回って漸く見つけたぐらいだからな。

でも、三つ目で見つかったのはかなり運が良いのかもしれない。

早速、買いってね。

こうして俺はいつでも画策できるよう環境を整えた。

よし。色々と計画を練ろうかな。

まずはMCの救出からだ。

ラピス嬢の生い立ちとか詳しく知らないけど違法だったらしいし。

もしかしたら、他にもそんな犠牲者がいるかもしれない。

違法とか、人体実験とか、流石に見逃せない。

解決策があるならそれを実行するまでだ。

・・・匿名で企業に連絡すれば俺ってバレないよね?

 

 

 

 

 

「エリナ君。まただよ」

「またですか?」

「うん。社長派のMC計画。禁止にしたのにね。違法だからやめろって」

「仕方ないかと。社長派は何かしらの手柄が欲しいのでしょう」

「ごめんなんだよね。人体実験とか。エリナ君もそう思わないかい?」

「・・・そうね(甘ちゃんが。結果が全てなのよ)」

「ま、いいや。プロス君呼んで来て。いつもの謎の匿名君からの連絡だって」

「分かりました」

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

何度見ても胸糞悪いな。

もしやと思って調べてみたけどまさかこんなにいたなんて。

ルリ嬢、ラピス嬢、ハリ少年だけがMCだと思っていたけど、それまでにこれだけの数が犠牲になっていたなんて。

何だよ!? これが人間のする事かよ!? クソッ!

 

「・・・どうしたの? 難しい顔して」

 

あっと。ミナトさんに見つかる訳にはいかないな。

きっとミナトさんが見たら暴走するに違いない。ミナトさんって子供好きそうだし。

これは俺がするべき事だ。

 

「・・・いえ。何でもありませんよ」

 

閲覧画像を消去して、ミナトさんにそう告げる。

笑顔を浮かべているが、内心では苛立ちとか絶望とか、そんな負の感情がぐるぐる回っている。

人間に対して俺は今、恐怖を感じていた。

俺の周りには変だけど良い奴らしかいなかった。

・・・でも、少し外へ視線を向ければ、こんな人間もいる。

俺の人間像が根底から崩れ去った気がした。

 

「コウキ君」

「え?」

 

視界が一色に染まる。

全身に伝わってくる優しい温もり。

あぁ。俺は今・・・。

 

「いいのよ。何があったかは知らないけど。辛いなら辛いって言えばいいじゃない。悲しいなら悲しいって言えばいいじゃない。怖いなら怖いって。そう言えばいいじゃない」

 

・・・抱き締められているんだ。

ミナトさんに。

 

「ミナト・・・さん?」

「コウキ君。私は頼りないお姉さんかな?」

「そんな事・・・ありません。頼り甲斐のある優しいお姉さんです」

「ウフフ。ありがとう。だから、ね? 頼っちゃいなさい。無理に事情は聞かないわ。でも、胸を貸してあげる事ぐらいは出来るわ」

「・・・・・・」

「泣いて楽になるなら泣いちゃいなさい。温もりが欲しいなら私が温もりをあげる。いいのよ。何の遠慮もいらないわ」

「ミナト・・・さん」

 

強く。

強く抱き締めた。

人間不信に陥りそうで。

でも、やっぱり人間は暖かくて。

優しくて。

抱き締められているだけで癒されて。

心が落ち着いて。

あぁ。何でこんなに色々な人間がいるんだろう。

あぁ。何でこんなに暖かいんだろう。

あぁ。何でこんなに罪深いんだろう。

あぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「・・・コウキ君ってば、こんなに重たかったんだ。やっぱり男の子なんだな」

 

私の胸の中、まるで子供のように安らかに眠るコウキ君。

邪気のない笑顔を浮かべて、変な子で、ちょっと頼り甲斐がなくて、いじり甲斐があって、それでも一生懸命な男の子。

一体、コウキ君に何があったんだろう?

あんな表情は今まで見た事がない。

久しぶりの休日で、でも、雨だったから、コウキ君と二人でのんびりしていた今日。

ふとコウキ君を見ると一生懸命画面を眺めていた。

どうしたんだろうって思って観察していたんだけど。

眉を顰めて、ずっと苦々しい表情をしていたわ。

どうかしたの? って声をかけると慌てて画面を操作して誤魔化して。

身体を震わせながら、なんでもないって無理して笑って。

瞳に涙を浮かばせて、それでもなんでもないって。

弱々しい笑みで私を気遣うコウキ君が迷子の子供のように見えた。

知らない道で親からはぐれちゃった幼い男の子。

お母さん、お母さんって一生懸命に呼びかけて、それでも見つからなくて。

寂しくて、悲しくて、泣き喚きたいけど、必死に堪えて母親を探している健気な男の子。

強くて、弱くて、必死で、諦めかけていて。

そんなコウキ君を私の身体は無意識に抱き締めていた。

おかしな事だけど、その時、やっぱり男の子なんだなって思った。

男特有の固くて逞しい身体。抱き締め返される力強さは不思議と私にも温もりを与えてくれた。

泣きたいのを必死に我慢して、顔を見られないようにって顔を隠すのもどこか意地っ張りな男の子で。

私に微笑を与えてくれた。

護ってあげなくちゃ。

眠るコウキ君を見て、私はそう思ったの。

あの弱々しい姿を見せるコウキ君を私が支えてあげよう。

なんでもない。何の特別でもない今日この日。

この日が私の誓いの日となった。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「ほら。コウキ君。行くわよ」

 

ミナトさんに抱き付いて泣いてしまうという俺にとってトップ3に入る程に恥ずかしい思いをした日から数日が経った。

あれから、どうもミナトさんが過保護な気がする。

嬉しいような恥ずかしいような情けないような、まぁ、そんな感じだ。

決して嫌じゃないんだけどね。いや、やっぱりちょっと恥ずかしいかな。

 

「それにしても、いつの間にかハッキングが上手くなっていたな」

 

非公式研究所をハッキングしている内にかなりのレベルのハッカーになっていた。

今ならビックバリアの解除パスワードとか入手できそう。

いや、試してないけどさ。バレた時に怖いし。

それにIFSの扱いにも慣れてきた。

イメージとかも明確に出来るようになってきたし。

随分と成長したものだ。うんうん。

そうそう、あれから色々試したんだけど・・・。

俺の身体ってオリンピックも夢じゃないっていうか、オリンピック選手を侮辱しているんだよね。

オリンピックがこの時代にあるかどうかは分からないけどさ。

俺のいた世界ではって話。

信じられない事に百メートル走とか五秒とかそんなんだよ。

握力とかも百キロ軽く超えているし、背筋とか三百キロ超とかだし、跳躍力は・・・訊かないでくれ。

人外になっちまったと思ったけど、本当に人外でした。

ってか、生きていく力が欲しいって言っただけなのにやり過ぎでしょ。

日常生活にこんな逞しい身体能力は必要ないよ。

そりゃあないよりはあった方が良いけどさ。

無駄だって。俺は平穏な生活を望んでいるの。

それにさ、努力しているスポーツ選手に申し訳ないよ。

努力もなしにこの能力って・・・。確実に侮辱しているよね。

自分が怖いです。やり過ぎです。

 

「はぁ・・・」

「どうしたの? 溜息なんかついて」

「いえ。何でもありませんよ」

「そう? 無理しないでね」

 

自分が怖いなんて言ったら変な子だって思われるよね。

流石のミナトさんにだってこんな事は言えない。

 

「それにしても、コウキ君って運動神経良かったのね。そうは見えなかったのに」

「ハハハ。そうですね」

 

苦笑いしか出ませんよ。ミナトさん。

ミナトさんが知っている理由はとても単純。

だって、この異常に確信したのってこの前の体力測定の時だし。

前々から変だな? 異常だな? って思っていたんだけど、あの時ほどそれを実感した時はなかった。

会社の身体測定の一環で行われた体力測定。

そこで俺は化け物ぶりを発揮してしまった。

ほら。日常生活で全力を発揮する事なんてないから。

それで久しぶりの運動だなって全力で走ったりしたんだけど。

・・・前々から制御できるようにしておけば良かったと激しく後悔したさ。

下手すると会社単位で活動する駅伝部とかに参加させられる所だった。

あれから、よく色々な所からスカウトされるよ。

サッカー部とか野球部とか。

楽しいよ。球技って。経験者だし。

でもアルバイトだしさ。ミナトさんに迷惑かけられないし。

とりあえず保留です。

 

「どうして参加しなかったの? コウキ君なら活躍できたでしょうに」

「ま、まぁ、いいじゃないですか。今の仕事を楽しんでいるんですから」

「そう? それなら良いけど」

 

ミナトさんからも勧められているんだけど。

いや。あれだよ。

汚れた服とかミナトさんに任せるのは嫌だし。

自分で洗うのとかもなんか嫌だし。

俺は遊びの範囲で球技とかスポーツとかが出来たらなって思う。

 

「ま、コウキ君は他にも才能あるからね。あれから結構特許取ったでしょ?」

「ええ。まぁ」

 

才能って言うか、反則技だけどな。

使えそうだなって思うアプリケーションソフトとかを遺跡からダウンロードして少し細工して表の世界に公表する。

それが評価されているだけ。

決して俺が作っている訳じゃない。

 

「仕事がやりやすくて助かっているわ」

「それは光栄です」

 

でも、プログラムって結構楽しいんだよな。

最近は遺跡に頼らないで自分の力だけで作ってみたりしている。

ま、勿論、駄目駄目だけどさ。

それでも、自分の力だけで達成するのって楽しいんだよ。

 

「資格とか興味持ち出したし。充実しているのね」

「ミナトさんが資格持ち過ぎなんですよ。何となく負けたくないっていうか」

「ウフフ。男の子ね」

 

笑われてしまった。

でも、本当にミナトさんは凄いと思う。

俺はずっと疑問に思っていたさ。

何で社長秘書が戦艦の操舵手が務められるんだよって。

気になって訊いてみた所・・・。

 

「う~ん。いつか使えるかなって思って」

 

・・・普通はそう思いませんから。

実際にそんな日がやって来る訳ですが・・・。

 

「とりあえず目標はミナトさんが持つ資格を全部手に入れる事ですかね」

「そう。それなら、私は追いつかれないように頑張ろうかしら」

 

頑張りますね。ミナトさん。

変な資格は取らないでくださいよ。

 

「でも、意外だったわ。何で最初に操舵手の資格を?」

「え? いいじゃないですか。ミナトさんに追いつく為ですよ」

 

あれから、俺は考えたんだ。

どの役職で乗り込もうかって。

そして、俺はこう決めた。

何でも屋になろうと。

ま、詳しく言えば、副操舵手、副通信士、サブオペレーターとか兼任してみようかなって。

その為のこの資格です。

ブリッジクルーって何かあった時に困る役職ばかりだろ。

だから、俺が常に補佐して、代わりになれれば役に立てるんじゃないかなと思って。

とりあえず・・・。

 

「戦艦の通信士って何の資格が必要なんだ?」

「急にどうしたの? コウキ君」

「あ。えぇっと。何でもないですよ?」

「何で私に訊くのよ」

「とにかくなんでもないですよ。色々と俺にも考えがありましてね」

「そう?」

 

心配そうに見詰めてくるミナトさん。

・・・そんなに眼を合わせられると照れるんですけど。

 

「ま、いいわ。何かあったら相談なさい。いつでもいいから」

「ありがとうございます」

 

やっぱり優しいな。

相談相手がいるってだけでとても心強い。

 

「さあ、今日も一日が始まるわ」

 

出社。

うん。この世界に来て、もう半年か。

月日が経つのって早いな。 

後半年で遂に始まる。

スキャパレリプロジェクトが。

アキト青年を中心に動くドタバタラブコメディSFロボットアニメ。

・・・こう訊くと設定盛り込みすぎだよな。

良く成立したと思うよ。

製作者って凄いな。

 

「何をボ~っとしているの? 行くわよ」

「あ、はい」

 

ミナトさんに腕を引かれての出社。

別にそんなに珍しい訳じゃない。受付嬢も苦笑して済ませているし。

無論、男性社員の視線は物凄く鋭いけど。

・・・いつか刺されるんじゃないか? 俺。

ま、そうならないように後半年。頑張りましょうか。

 

 

 

 

 


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