機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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技術士官として

 

 

 

 

 

「連合軍提督ミスマル・コウイチロウである。久しぶりだね。アキト君」

「お久しぶりです。提督」

 

特に問題なく無事に戦闘を終えたナデシコ。

戦闘後、アキトさんは連合軍からの呼び出しにナデシコ代表として連合艦隊へとやってきた。

ま、実際はナデシコ代表でもないし、呼び出しを喰らった訳でもないんだけどね。

付き添いは俺だけ。いやぁ。発表用の資料とか久しぶりに作ったよ。

 

「ブリーフィングルームに私達に賛同してくれた将校達が集まってくれている」

「分かりました。顔合わせとしましょう」

「そちらの青年は?」

 

あ。俺ですか。場違いですよね。分かります。

 

「彼の名前はマエヤマ・コウキ。機体のOSの開発を依頼していました」

「おぉ。あの有名な天才プログラマーの」

「ええ。ある程度OSの開発が進んだようですので、説明をしてもらおうかと思いまして」

「そうか。約束していた生産ラインはある程度確保できた。後で詳しく話そう」

「はい。分かりました」

 

・・・俺の知らない間にかなり話が進んでいたようだ。

アキトさんの行動力って凄まじい?

 

「こちらだ」

 

カイゼル提督に案内されて、ブリーフィングルームに辿り着く。

うわ。何か、緊張してきた。

 

「行こうか」

「はい」

 

扉が開く。

ギロッと視線がこちらを向く。

多分、俺の勘違いで普通に振り向いただけだと思うけど・・・。

こ、怖ぇ・・・。

 

「久しぶりじゃのう」

「あ。フクベ提督。お久しぶりです」

「もう提督ではないんじゃが」

「いえいえ。僕の中ではずっと提督ですよ」

「そうか」

 

隣席がフクベ提督でした。

それだけで、大分気持ちが楽になった。

知り合いが隣とか安心できるよね。

 

「それでは、会談を始めよう」

 

カイゼル派の会談。

徹底抗戦を訴える鷹派でもなく、戦争に消極的な鳩派でもなく、平和的解決を掲げるカイゼル派。

幸せな未来を得る為には絶対に必要な派閥である。

 

「まず、始めに彼らを紹介する。ナデシコのリーダーパイロットであり、この派閥に多大な貢献をしてくれているテンカワ・アキト君だ」

「ご挨拶に上がりましたテンカワ・アキトです」

「ほぉ。彼がそうか」

「若いのにたいしたものだ」

「派閥の立ち上げに貢献したと聞いた」

 

そつなくこなすね、アキトさん。

その勇気を俺に分けて欲しいよ。

 

「それで、こちらはマエヤマ・コウキ君。我々に足りない新規のOSを組み立ててくれている」

「え~、マエヤマ・コウキです」

「噂の天才プログラマーか」

「我々に足りないのはIFSに代わる制御機構」

「彼ならばIFSに代わる制御機構を開発できるという事か」

 

き、緊張した。

立つだけで緊張とか、ありあえないでしょ。

 

「今日の議題は・・・」

 

 

それから、長い間、派閥の方針とか、今後の事とかを話していた。

俺にはちょっと分からない事ばかりで混乱したけど、分かった事も何個かある。

政権交代が必要な事。

連合軍、連合政府共に意識改革が必要な事。

軍というものを見直す必要がある事。

などなど、カイゼル派がやる事は非常に多く、大変そうなものばかりだった。

 

「それでは、マエヤマ君、説明を」

「はい」

 

そして、最後に俺のOSの説明。

 

「私が開発したのは複合アクションシステム。略してCASです」

 

資料をモニターに映しながらの説明。

一応、紙媒体で全員分資料は配布してあるから詳しい事は説明しなくていいと思う。

とりあえず、目的と大まかな機能だけ説明すればいいよな。

 

「CASの目的はIFSを必要とせず、同等の機動を可能とする事にあります」

 

IFSの代わりという前提のもとに作られている。

 

「まず、IFSとCASの違いについて説明します。IFSとはイメージ・フィードバック・システム。要するに人のイメージした通りに機体を動かすものです」

 

ナノマシンによって補助脳を作り、人間自体を一つの端末、インターフェースとして用いる。

想像通りに動くという一見、凄いシステムだが、もちろん、欠点はある。

 

「しかし、想像力というものは人によって差があり、明確にイメージするには己の身体にその動きを覚えさせる必要があります」

 

いきなり己の格闘シーンを想像してみろと言われても普通は出来ない。

多くの修練を積んだ武芸者が瞑想という形で勝利をイメージし、その過程で戦闘シーンを思い浮かべる事はある・・・らしいが。

IFSとはそれぐらいのイメージがなければきちんとした形で反映されないのだ。

それはイメージの具体性に依存しているからである。

 

「地球ではIFSがあまり普及されておらず、慣れていないばかりか、忌避している感があります。たとえIFSを全兵士に普及させても実戦投入するまでに時間が掛かるでしょう」

 

火星の人間は日常からIFSを利用していた。

その為、扱いに慣れているのだ。

アキト青年がいきなりエステバリスを操縦できたのもこの点が大きい。

もし、あの時、アキト青年ではなく、地球の民間人であれば、動く事すら侭ならなかったであろう。

 

「以上の点から連合軍にIFSは合わないという事が分かります。そこで開発されたのが複合アクションシステム。略称CASです」

 

もっと早くIFSに慣れさせておけば、充分に対応できたのにな。

だってさ、何だかんだ言って操縦にIFS以上に便利なものってないし。

コンソールに手を置いて、イメージするだけで操縦できちゃうんだよ?

ま、混乱したり、錯乱したら、その動きも反映されちゃうけど。

他の操縦機構ならレバーを引いたり、ボタンを押すだけで銃を撃てるけど、IFSは明確に撃つというイメージがないと撃てないからね。

完全に精神に依存しちゃう訳。だから、トラウマがあったりするとどうしても撃てない。

・・・恥ずかしながら、僕の事なんですけどね!

 

「CASは基本形の動きをあらかじめ登録し、その後、各パイロットで調整していく形になっています」

 

基本形はヒカルの動きを参考にしている。

本当に癖がなくて扱いやすかった。

 

「調整にはトレースアクションシステムを利用します。これはパイロットの身体にセンサを取り付ける事で動きを解析し、登録するシステムです」

 

簡単なボックスみたいな物を用意したから、その中でセンサを付けて実際に動いてもらう。

そうすれば、勝手に解析して登録してくれるから、後はそれを組み合わせてくれればいい訳だ。

ボックスはウリバタケさんに協力してもらいました。

簡単だから、これを参考に連合軍の方で大量生産してください。

あ。これも資料に書かれているから説明はしません。

 

「しかし、誰もが自分で調整できるとは限りません。違う方に代わってやってもらうのもいいかもしれませんが、それではトレースアクションシステムの意味がありません」

 

トレースアクションシステムの利点は自らの動きを機体にさせる事が出来るという事である。

IFSのように自らの身体の動きで機体を動かせるから、トレースアクションシステムの意味があるのだ。

そうでなければ、自らの動きを機体に反映させるトレースアクションシステムの意味がない。

 

「そこで基本形から発展させた四つのパターン。近接格闘重視、後方支援重視、指示調整重視、機動撹乱重視のそれぞれをサンプルとして配布します」

 

ガイやスバル嬢の動きを参考にして、出来るだけ癖をなくして汎用性を高めたのが近接格闘重視。

イズミさんや俺、そこに軍式の射撃フォームなどを参考にして瞬時に高火力を引き出せ、なおかつ精密射撃が出来るようにした後方支援重視。

ヒカルやアカツキ、そこにジュン君の指揮官としての動きや軍の戦術指導を参考にして指揮官用として中距離を担当する指示調整重視。

アキトさんを参考にして、エースパイロットぐらいにしか扱えない急旋回、急加速、急停止など癖のある機動を行う機動撹乱重視。

以上の四つだ。色々と検討して、多少劣化したが、ある程度は扱えるようにしてある。機動撹乱重視以外は。

機動撹乱重視は本当にエースパイロットぐらいにしか無理だと思う。

マジで軽く意識が飛ぶから。

 

「トレースアクションシステムでカスタマイズできない方はこれらの四つのパターンから選択して、決められたパターン内で戦闘を行ってもらいます」

 

欠点としてはカスタマイズできない事。ま、それでも充分な性能になると思う。

嫌な人はトレースアクションシステムを利用して酷似した動きまでカスタマイズした上で更にカスタマイズして欲しい。

 

「これらは充分な戦闘経験を持つパイロットの動きを参考にしたものです。その事からリアルアクションシステムと名付けました」

 

リアル。実際に戦闘を経験した者からの動きだからこそ現実的な動きが出来るだろうという事。

 

「基本形をカスタマイズした独自のパターンに四つのパターンを組み合わせて五つのパターンを常に変更可能としました」

 

自分のパターンでは状況に適合しないとなれば、あらかじめ設定されていたリアルアクションシステムのパターンに変更して戦えばいい。

 

「なお、独自パターンは初期設定に戻せるようになっていますので、再調整は容易に可能です」

 

気に入らなければ全て無にしてからやり直せばいい。

これは俺の価値観から生まれたもの。

間違った所を見つけては直すという作業を繰り返すより最初からやり直した方がいいという俺の考え方。

もしかして、俺ってズレてる?

 

「トレースアクションシステムとリアルアクションシステムを組み合わせ作り上げた為、複合アクションシステム、CASと名付けさせて頂きました。以上で説明を終わりとします」

 

後はお手元の資料で確認してくださいって感じ。

 

「質疑応答に移ります」

 

 

それから、様々な質問をされた。

うまく答えられたと思うけど、ちょっと心配。

でも、誰もが率先して手を挙げていたって事はそれ程に派閥としての活動に積極的という事だろう。

それに、自分が開発したシステムに興味を持ってくれたのなら嬉しい限りだと思う。

こうして、俺の発表を最後に会談は終了した。

会談終了後、しばらくして、俺は意外な展開を迎える事になる。

うん。本当に予想外だった。

 

 

 

 

 

「えっとぉ、出向・・・ですか?」

「ええ。連合軍から要望されまして、ですね。はい」

 

今日も流れに流れる日々。

ま、また、戦闘ですか!? の日々に罅が入った。

・・・あ、偶然にも寒い事に・・・。

 

「後日、正式にナデシコは軍に徴兵されます。元々はネルガル出向の軍属扱いだったのですが・・・」

 

軍属扱いから軍扱いにされる訳ね。

ま、原作知っているから特に驚きはないけど。

 

「マエヤマさんには先行徴兵という形で軍に行ってもらう事になったのです」

「えぇっと、これですか?」

 

首元に手を持ってきて、横に引く。

 

「いえいえ。ネルガルの意向ではなく、連合軍の意向です」

 

クビではないらしい。

 

「何故か聞いても?」

「いえ。理由は聞いておりません。ただ技術士官として迎え入れたいと」

「・・・技術士官?」

 

えぇっと、もしかして、あれの事か? CAS。

導入してみたけど開発者がいた方が便利だからちょっと君来てくれない? 的な。

 

「えぇっと、いつからいつまでですか」

「返事の連絡次第で向こう側から迎えが来るそうです。終わりは検討が付かないとか」

 

実戦配備できるまでといった所かな?

えぇっと、それまで、ナデシコとはお別れ?

う~ん、ミナトさんやセレス嬢と一緒にいたいんだけどな。

 

「えっと、断ったりは出来ますか?」

「構いませんが、是非と言われている現状、私共と致しましては拒否したくないと・・・」

 

うがぁ。

どうしろと?

 

「それと補佐役を一名任命してナデシコから連れて来ていいとおっしゃていました」

 

補佐役?

正直な話、俺の仕事って調整だよね?

補佐役って必要なのかなぁ。

ってか、そもそもシステムは完成しているんだから、後はパイロット次第でしょ?

俺なんか役に立つんかねぇ。

 

「とにかく三日以内まで返事が欲しいと」

「分かりました。考えてみます。ありがとうございました。プロスさん」

「いえ。それでは・・・」

 

・・・どうしようかな?

そりゃあ、計画通り進めたいなら俺は出向するべきなんだろうけど・・・。

 

「置いていけないっしょ」

 

恋人のミナトさんは勿論の事、妹分? 娘分? のセレス嬢も放っておけない。

それに、まだネルガルが何を企んでいるか分からないし、カエデも置いていけない。

・・・やっぱり、断るかな。

 

「どっちにしても要相談だな」

 

 

「という訳で集まってもらったのですが」

 

いつもの定例会議のお時間です。

 

「ああ。ミスマル提督から話は聞いていた。最終調整という形でコウキを預けて欲しいらしい」

「最終調整ですか・・・。あ、ところでもう機体は出来ているんですかね?」

「そういえば、言ってなかったな。連合軍はエステバリスの有効性を認め、俺達がいない八ヶ月の間に大量に購入していたらしい」

 

あ、既に機体はあるって事か。

じゃあ、あれか、IFSが嫌で埃を被らせていたって訳?

うわっ。なんて愚かな。

 

「そのエステバリスには既にコウキの開発したOSを搭載してある」

「軍で大量と言っても、カイゼル派だけで考えればそれほどの数ではないのでは? カイゼル派の戦力にするには頭数が足りないと思いますが・・・」

「どの方面軍でもエステバリスは買ったものの持て余していたらしくてな。だから、廃品処理のような形で大量に安価で引き取る事に成功したんだそうだ」

「・・・なんか詐欺ですね、それ」

「まぁな」

 

そう苦笑するアキトさん。

既に配備できる事が分かっているのに廃品扱いですか。

カイゼル派も黒いなぁ。

まぁ、権力を上げる為には仕方ないんだろうけど。

 

「・・・行かないとまずいですかね?」

「・・・俺としては行って貰いたいんだがな」

 

・・・む。

俺としては残りたいんだが・・・。

 

「無論、強制するつもりはない」

 

強制するつもりはない。

そう言われても状況的に断りづらいだろ。

 

「・・・・・・」

 

・・・悩む。

 

「コウキ君は私とかカエデちゃんの事とかを考えているのかしら?」

「え?」

 

唐突にミナトさんが訊いて来る。

 

「私を放っておけないとか、カエデちゃんを放っておけないとか、そう思っているのかなって」

「・・・ええ。正直に言えば、俺が離れたくないっていうのもありますが」

「・・・ふぅ。こうまで愛されて嬉しいんだけど、良いことなのか、悪い事なのか」

「えぇっと? それはどういう・・・」

「行きなさい。コウキ君」

「え?」

 

行けって。

それは、離れても平気って事か?

 

「傍にいない方が良いですか?」

「そんな事は言ってないわ」

「え?」

 

もう、貴方が何を言いたのか分かりませんよ、ミナトさん。

 

「何を焦っているのよ、コウキ君。深呼吸、深呼吸」

「スーーハーースーーハーー」

 

焦るな。落ち着け。

きっと何か違う意味があるんだ。

 

「私がセレスちゃんもカエデちゃんも見ているから行って来なさい」

「何故、ミナトさんはそれを推奨するんですか?」

「私達の存在でやるべき事を見失わないで。やるべき事がハッキリしているのに私達のせいで行動に移せないのは駄目よ」

「・・・・・・」

「私としては嬉しいんだけど、女の為に道を見失うのは男として情けないでしょ?」

「・・・そんな事を言われたら断れないじゃないですか」

 

引き止めて欲しかったという気持ちがあった。

でも、それを本人から否定されちゃうんだもんなぁ。

あれか? ミナトさんからしても、自分のせいで行動できないっていうのが嫌なのか?

 

「・・・分かりました。行ってきます」

「ええ。行ってらっしゃい」

 

こうして、俺は皆に先駆けて軍へと出向する事になった。

カエデとセレス嬢にこの事を話した時、一悶着あった事は言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

「よく来てくれたね。マエヤマ君」

「いえ。マエヤマ・コウキ特務中尉、着任しました」

 

士官学校を卒業した訳じゃないけど、無理矢理捻じ込んだらしい。

いいのか? それで? まぁ、俺としては助かるけどさ。

 

「最終調整という項目で来てもらった訳だが、その他にもパイロットとしての指導を御願いしたい」

「ええ。分かっています」

 

製作者だし、実戦経験者だし、そうなるとは思っていた。

 

「補佐役は連れて来ていないのかね?」

「とりあえずは大丈夫なので。必要でしたらナデシコから呼びます」

「そうか。了解した」

 

ミスマル提督。

カイゼル派のトップにして、うちの艦長の父親。

ずっと親馬鹿なイメージしかなかったけど、こうしてみると威厳のある立派な軍人だ。

親馬鹿な一面はまったく感じられない。

 

「それでは、こちらから副官を付けよう」

「えっと、それは補佐役がいないからですか?」

「いや。元々付けるつもりだった。軍の施設の案内もあるのでな。入ってくれ」

 

カイゼル提督に促されて入ってくるのは紫のロングヘアーの女性。

ん? どこかで見た覚えが・・・。

 

「イツキ・カザマ少尉です。よろしく御願いします」

 

イツキ・カザマ。

・・・名前を聞いても思い出せないな。

でも、確かに見覚えがある。

 

「マエヤマ・コウキ特務中尉です。こちらこそ、よろしく御願いします」

 

ふむ。どこで見たのやら?

 

「彼女は後日、ナデシコが正式に徴兵される際にパイロットとして出向する事になっている」

 

・・・ナデシコ新パイロット・・・。

 

「ナデシコのパイロットに劣らないぐらいに鍛えてあげて欲しい。彼女はIFS持ちだが、CASのテストパイロットでもあるのでCASで操縦してもらうつもりだ」

「よろしく御願いします。マエヤマ特務中尉」

 

・・・あぁ! 思い出した。

あれか。確か、ナデシコに来てすぐにジンのボソンジャンプに巻き込まれて死んでしまった人。

あぁ、あぁ。思い出したよ。なるほど。彼女がそうか。

 

「こちらこそ」

「では、さっそく、調整作業に入って欲しい。カザマ君。案内を」

「ハッ!」

 

おぉ。生敬礼。

艦長と副長の敬礼はどこか緊張感が足りなかったからあまりグッとこなかったけど、今回はグッときた。

俺も敬礼のやり方とか学ぶべきなんだろうな、本当なら。

 

「失礼致します」

「失礼します」

 

イツキ?だっけか、彼女と共に部屋から退室する。

 

「えっと、カザマ少尉」

「イツキで構いませんよ」

「あ、それじゃあ、僕もコウキで構いません」

「分かりました。コウキさんと呼ばせて頂きます」

 

やっぱりちょっと固いね。

軍人って感じがするよ。

 

「CASの扱いにはもう慣れましたか?」

「そうですね。IFSと平行して行っているのですが、IFSと同等の性能を発揮してくれます」

 

ほっ。それを聞いて安心した。

 

「自らカスタマイズを?」

「いえ。私は指示調整重視で訓練を行っています。私はどちらかというとフォロー役の方が向いていますので」

 

へぇ。イツキさんは指示調整か。

俺が使うとしたら後方支援重視かな。

一応、機動撹乱重視も使えない事もないけど。

 

「使いやすいですかね?」

「ええ。IFSを使わずともあれだけの性能が出せれば士気も上がるでしょう」

 

そっか。今までは散々負けていたらしいしね。

勝てると分かれば、士気もあがるか。

 

「いや。製作者としてはそのような感想が頂けて嬉しいですね」

「正直、助かっています。これを機に戦況を立て直せればと」

 

イツキさんも戦争を憂う人か。

ここにいるという事はカイゼル派の人間なのかな?

 

「ナデシコのパイロットはどれ程の腕前なのですか?」

 

ナデシコのパイロットね。

・・・個性溢れすぎたパイロット達かな。

 

「CASの動きは全部彼らの動きを参考にしていますからね。汎用性を高める為にちょっと劣化させているから、それぞれの機動のワンランク上ぐらいをイメージしてもらえれば」

「あれのワンランク上ですか・・・。凄まじいのですね」

「ま、腕は凄いですよ、ナデシコのパイロット達は」

 

腕は、ね。

・・・大切な事なので二度言わせていただきました。

 

「イツキさん。ナデシコに出向するんでしたよね?」

「はい。正確にはマエヤマさんの代わりにパイロットとして出向く形です」

「え? 俺の代わりですか?」

「名目上はそうですね。実際は軍とナデシコとの連絡係です」

「その軍というのは?」

「はい。お考えの通りです。ミスマル提督を代表として派閥とナデシコ内にいる賛同者との橋渡し役ですね」

 

なるほどね。今までも連絡は取れていたけど、これでしっかりとしたパイプが出来た訳だ。

あれ? でも、軍人いるよな?

 

「ムネタケ提督とはどうなります?」

「あの方はこちらの派閥に属していませんので、連絡を取るつもりもありません。軍といっても別個の存在であると認識してください」

「分かりました。それでは、彼の指揮下に入る訳ではないのですね?」

「はい。あくまで私は提督の副官ではなく、パイロットとして出向するので」

 

そっか。それならいい。キノコ提督の副官とか息が詰まりそうだし。

 

「こちらがシミュレーション室になります。さっそく調整業務をお願いします」

 

到着後、パイロット達と挨拶をして、さっそく仕事に入った。

まずはパイロット達の対木星蜥蜴シミュレーションを見て、ソフトに異常がないかの確認。

念入りに何度も試験したから問題はない筈・・・と思っていたら幾つか欠陥を発見して焦りました。

即行で直したので、バレてないでしょう、きっと。

その後、俺もシミュレーションに参加。CASの製作者として恥ない戦いが出来た。

所詮は製作者と舐められていたらしく、カチンと来てやってしまった。

反省はしている。だが、後悔はしてない。

俺のシューティングアクションゲームの経験値を舐めるなっての。

しかも、どことなく俺がやりやすいように作ってあるんだぜ。負けないさ。

んで、ちゃっかり自分用にカスタマイズしたパターンで蹴散らしてあげました。

あれは快感だったな。バンバンと撃てば墜ちる。もう一度やりたいと強く思った。

クルスク後に徹底的にアキトさんに苛められてトラウマも発症しなくなってきていたし。

戦闘経験はあんまりないけど、最高のパイロットと言っても過言ではないアキトさんと毎日のように訓練したんだ。

俺もそれなりに強い。まだまだ不慣れな連中には負けませぬ。

徹底的に打ちのめしてやったら教官呼ばわりされた。教官・・・甘美な響きだ。

そういう経緯で、俺の仕事は調整業務と教官という事になっちまった。

まずはイツキさん。彼女はナデシコに出向するのでそれなりの腕が必要になる。

今でもそれなりだけど、ナデシコでは少し見劣りしてしまうだろう。

彼女がナデシコに合流する前に出来るだけの事はしてみようと思う。

その他のパイロットはここでの研修期間を終えたら各地の基地に配属されエステバリスで戦うらしい。

少しでも戦死の確率を減らせるように徹底的に苛め、コホン、鍛えてあげようと思う。

それぐらいしか俺には出来ないしな。

 

 

 

 

 

「ミスマル提督」

「うむ。なんだね?」

 

基地内での行動にも慣れ、軍服もそれなりに着こなせるようになってきた今日。

ミスマル提督に確認しなければならない事に気付いた。

 

「CASの事ですが、まだ正式には配備されていなんですよね」

「うむ。正式にはまだとなっている」

「そこの製作者名とかどうなっています?」

「無論、君の名前を書いてあるが?」

「そこなんですけど、私と他の技術士官達の共同開発という事にしておいてくれませんか?」

「何故だね?」

 

そりゃあ、僕の最終目的が平穏人生ですから。

今まで敗戦続きだった連合軍を立て直させたOSを作り上げたなんて知られたら、俺の命が危ない。

嫌だぞ? 常に狙われる人生なんて。まったく平穏じゃない。

 

「私は名誉なんていりません。それに、将来はどこかで教師でもやってみようかなと考えています」

「なっ!? それだけの能力をもってして教師かね?」

「私は戦争が終了したら即刻軍を辞めて、新しい人生を始めるつもりですから。軍のOSを作ったなんて情報は百害あって一利なしです」

「むぅ。私としては軍に残り、技術士官として働いて欲しいのだが」

「残念ですが、こればっかりは譲れません。お誘い頂き光栄なのですが」

「いや。君の言う事は尤もだ。分かった。手配しておこう」

「ありがとうございます」

 

いや。よかった、よかった。

軍に残るなんて選択肢は絶対にないです。

 

「して、調子はどうかね?」

「ええ。順調です。誰もが訓練に集中していますし、きちんと成果を残すパイロットになってくれそうです」

「そうかね。それは安心したよ」

 

ハッキリ言って、頑張り過ぎです、皆さん。

俺が帰ってからも居残りで訓練していたり。

今はまだ大丈夫だけど、このままじゃ製作者としての尊厳が・・・。

 

「三日後にイツキ君はナデシコに合流する事になっている」

「そうですか。私はいつ頃に復帰になりそうですかね?」

「すまないが、まだ当分は無理そうだ」

「・・・そうですか」

 

まだ帰れないか。

毎日のように連絡入れているけど、やっぱり寂しいものは寂しいな。

あぁ。ミナトさんが誰かに色目使われてないか心配だ。

あぁ。セレス嬢が寂しい思いをしてないか心配だ。

あぁ。カエデがネルガルに何かされてないか心配だ。

・・・うん。ここは・・・。

 

「厚かましいとは思いますが、お願いがあります」

「三日後、イツキ君と共に合流したいのかね?」

「いえ。私は私の役目をしっかりとこなしてからナデシコに戻るつもりです」

 

仕事放棄して戻ったら怒られちゃうじゃん。

でもさ・・・。

 

「それは心強いな。それで、御願いとは?」

「イツキ少尉の付き添いとして、ナデシコの様子を見てきたいのです」

「なるほど。それならば許可しよう。但し、数日のみだぞ」

「了解しました。感謝します」

 

おし。これでナデシコの状況を確認できる。

あぁ。ちょっとした期間留守にしただけで、浦島太郎のような気分だよ。

 

「ナデシコと合流する事でイツキ君が副官から外れる訳だが、どうするかね?」

「どうするとは?」

「またこちらから副官を用意してもいいし、君がナデシコから副官を招いてもいい。副官には少尉の階級を用意しよう」

 

えぇっと、随分と優遇してくれているな。

 

「いいのですか?」

「なに、君が開発してくれたOSの手柄に比べたら、微々たるものだ。あの功績ならば君にはもっと高い階級を与えていてもおかしくない」

 

えっと、今が特務中尉だろ? だから、あれか、大尉とかって事か?

困るな。サングラスが必要になっちゃうじゃないか。

・・・すいません。反省しています。

 

「あ。でも、遠慮します。開発者じゃなくなった訳ですし」

「本当に君は変わった男だ。誰もが求める名誉を自ら破棄するなどと。君は英雄と呼ばれてもおかしくない人間なんだぞ」

 

ハハハ。大袈裟です、カイゼル提督。

たかがOSを製作した程度で英雄なんて。

 

「英雄はなるべき者がなるものです。私みたいな平凡な人間には荷が重い」

「・・・そうか。どちらにしろ、君には副官を付ける。ナデシコから戻ってくる際には誰か一人連れて来て欲しい」

 

副官ねぇ?

誰か付いてきてくれるかな?

でもなぁ、皆、ナデシコを愛しちゃっているし。

離れたくないとか思っているんじゃないかな?

 

「もし、私が誰も連れてこなかったら?」

「その時はこちらが副官を用意しよう」

「分かりました。それでは、失礼します」

 

一礼して、部屋から去る。

ふむ。副官ね。どうするか?

 

「どうしました? コウキさん」

「あ。イツキさん。お疲れ様です」

「お疲れ様です」

 

部屋から出ると丁度イツキさんがいた。

ふむ。報告しておこうかな。

 

「イツキさんは三日後にナデシコと合流だそうで」

「ええ。今までお世話になりました」

 

教官というにはお粗末過ぎだけど、最初の教え子といえばイツキさん。

きっと、今ならナデシコでもやっていけるだろう。

 

「三日後、イツキさんの付き添いという形でナデシコに付いて行く事になりました」

「え? コウキさんも合流ですか?」

「いえ。あくまで付き添いですよ。数日滞在したら帰ります」

「そうでしたか。分かりました」

 

ニッコリと笑ってくれるイツキさん。

いやぁ。割と仲良くなれたかな。

そりゃあ、ずっと副官としてお世話になりましたからね。

それでも、仲良くなれなければ、俺とイツキさんの相性が悪いか、俺の性格が悪いかだな。

イツキさんの性格は好感が持てるし。

 

「ナデシコとはどういう所でしょうか?」

 

ナデシコはどんな所かだって?

そんなの決まってんじゃん。

 

「ドタバタコメディな場所ですね」

「え? えっと・・・」

 

ちょっと分かりづらかったかな?

 

「クルー全員が全員、個性的でしてね。毎日、色んな事があって退屈しません」

「えぇっと、軍艦ですよね?」

「イツキさん。あそこを一般的な軍艦と一緒に考えない方がいい。固定概念は捨て去った方がいいですね」

「・・・・・・」

 

固まっちゃった。

ま、イツキさんは良くも悪くも軍人だからな。

ナデシコの空気に慣れるまで時間がかかりそうだ。

 

「ナデシコのクルーは能力が一流なら性格は問わないという前提で集められています。いや、もう、本当に個性的過ぎる変人達が集まっていますから」

「・・・私、やってけるでしょうか?」

 

不安そうな顔をしていらっしゃる。

脅かしすぎたかな?

ま、嘘は言ってない。

 

「個性的ですが皆良い人ですからね。慣れればやっていけるかと」

「・・・慣れられそうにないです」

 

ま、頑張れ。

としか俺には言えない。

 

「それでは、俺は格納庫に行きますので、何かありましたら連絡下さい」

「あ、はい。分かりました」

 

シミュレーションでの調整を終えたから、その結果を実機にも反映させないといけない。

俺にもやる事は色々あるのだ。

さて、今日も頑張りますか。

 

 

 

 

 


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