機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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聖なる夜の陰謀

 

 

 

SIDE MINATO

 

「・・・はぁ」

 

おっと、いけない、いけない。

こっちから発破掛けといて溜息吐くなんておかしいわよね。

 

「・・・ミナトさん」

「ん? 何かな? セレスちゃん」

「・・・コウキさんは今頃、どうしているんでしょうか?」

 

コウキ君がナデシコを去ってから、セレスちゃんはずっとこんな感じ。

コウキ君の代わりにセレスちゃんの面倒は私が見ているんだけど、いっつも話題はコウキ君の事。

愛されているなぁ、コウキ君、と思うと同時に、セレスちゃんには申し訳ない事をしたかなぁとも思う。

でも、多分、こうするのがベストだったんだと思う。私としてもコウキ君としても。

 

「そうね。元気にやっていると思うわ」

「・・・コウキさんがいなくなってから随分と経ちました。・・・寂しいです」

 

コウキ君と離れ、コウキ君が何をしてきたかがよく分かった。

眼の前のセレスちゃんもそうだし、何だかんだでブリッジも落ち着かない。

整備班の人達も追いかけっこの相手がいなくて寂しそうだし、カエデちゃんなんて・・・。

 

「・・・・・・はぁ」

 

・・・目に見えて沈んでいる。

う~ん。カエデちゃんはコウキ君の事をどう想っているんだろう?

表情に出やすいからなんとなくは分かるんだけど、意地っ張りだからなぁ。

素直に認めてくれなそう。

 

「今頃どうしてるかねぇ、あいつ」

「コウキは元気にやっているよ、きっと」

「大丈夫だろう。あいつならすぐに慣れるさ」

「おぉ。去っていく仲間。見送る主人公。去った友は頼もしくなって帰ってくるってか」

「典型的な展開だね。僕は嫌かな、そういう展開」

「なんでだよぉ。いいじゃねぇか」

 

パイロット勢も話題はコウキ君の事。

彼、意外と慕われているのね。

 

「・・・戻りましょうか」

「・・・はい」

 

ブリッジに戻る。

自分の席に座るんだけど・・・。

 

「どうしても空席が気になっちゃうのよね」

 

いつもなら隣にはコウキ君がいる。

でも、今は空席。どこか違和感があって、やっぱり集中できない。

 

「・・・・・・」

 

セレスちゃんは寂しい時、コウキ君の席に座る。

何を思い、どういう気持ちで座っているんだろうか?

やっぱり、あの膝の上に座っている時の事でも思い出しているのかな?

 

「皆さん。お集まりのようですね」

 

ん? 何かしら?

 

「あと数日で我々ナデシコはヨコスカベイに入港となります」

 

あぁ。そんな事も言っていたわね。

 

「入港次第、休暇と致します。せっかくのクリスマスシーズンですので、それぞれお楽しみ下さい」

 

・・・あ。クリスマスっていう大事なイベントがあったじゃない。

・・・今年は一人かぁ。セレスちゃんと祝おうかな。

 

「以上です」

 

去っていくプロスさん。忙しそうそうね。

 

「・・・ミナトさん。クリスマスって何ですか?」

 

そっか。昨年は色々とゴタゴタしていたから、それらしい事はしてないのか。

それじゃあ、今回がセレスちゃんにとって初めてのクリスマスって事ね。

 

「サンタクロースっていう優しい御爺ちゃんが一年間良い子だった子供にプレゼントをくれる日の事よ」

「・・・サンタクロース? プレゼント?」

「そうよ。セレスちゃんは良い子だった?」

「・・・分かりません。でも、楽しい一年間でした」

 

そっか。それなら、良かったわ。

 

「それじゃあきっとプレゼントがもらえるわね」

「・・・本当ですか?」

「ええ。本当よ」

「・・・嬉しいです」

 

ヨコスカに着いたらプレゼントを買いに行かなくちゃ。

セレスちゃんと一緒に買いに行くのもいいけど、サンタさんにならなくちゃね。

枕元に置いておけるかしら? それとも、泊まりに来てもらう?

うん。そうしましょう。

 

 

 

 

 

それから、数日経って、ヨコスカベイ入港の日となった。

 

「あら? あれは・・・」

 

モニターに映るナデシコ歓迎の文字。

えぇっと、歓迎されているの?

 

「・・・ミナトさん」

「ルリルリ?」

 

ルリルリが近付いてきて耳打ちする。

 

「以前はナデシコ反対というデモ活動でした」

「それじゃあ・・・」

「はい。火星民の救出がナデシコの好感度を上げてくれたようですね」

 

嬉しそうに微笑むルリルリ。

そうだよね。自分達がやってきた事が認められたようなものだもの。

きっとアキト君も喜んでいるでしょう。火星の民を救えて良かったって。

 

「それでは、入港します」

 

艦長の言葉を合図に、入港シークエンスに入る。

こういう細かい動作は私の担当。

パッと成功させちゃいましょう。

 

 

 

 

 

クリスマスだし、という理由で、進められていたクリスマスパーティーの準備。

久しぶりに大イベントに誰もが胸を躍らせながら準備をしていたんだけれど・・・。

 

「すいませんが、皆さん、格納庫の方へ集まっていただけますか?」

 

突然の召集命令。何だろう? と思いながらも格納庫へ向かった。

格納庫へ付くとクルーの大半が集まっていて、しばらくすると全員が揃う。

そして、提督が前に出て来て・・・。

 

「ナデシコは正式に徴兵される事になったわ」

 

・・・と告げた。当然、皆驚くわよね。

軍人になるなんて予想外だったもの。今までは軍属扱いだし。

 

「えぇ!? どういう意味ですか!?」

「そのままの意味よ。今までは軍属という形で出向扱いだったでしょ? そんなんじゃ信用できないのよ。だから、正式に軍が徴兵するの」

「でも、それって・・・」

「ええ。軍に入るって事。貴方達は軍人になれるって事よ」

「そ、そんな!? 私達は軍に入る為にナデシコに・・・」

「あら? 別に降りたければ降りていいわよ。むしろ、全員降りてくれちゃった方がスッキリしていいわ」

 

その発言にクルー全員が眉を顰める。

ナデシコは私達の家なんだから当然よね。

決して、提督の物じゃないわ。

 

「み、皆さん。落ち着いてください。提督、貴方も変な事を言わないで下さい」

「あら? 別に変な事は言ってないわよ。私は思ったままを言っただけだもの」

「はぁ・・・。えぇ、皆さん。正式に徴兵される以上、私達は軍人となってしまいます」

 

軍人・・・か。

コウキ君から話は聞いていたけど、実感が沸かないわ。

軍人になるという事がどういうものなのかも分かってないし。

 

「もちろん、今回を機に降りたいという方もいらっしゃるでしょう。その方は私までご連絡下さい」

「そうなったら契約とかはどうなるんですか?」

「私共の契約違反という形になりますので心配ありません。もちろん、退職金と合わせて違約金も払わせて頂きます」

 

破格の待遇。退職金も支払われ、更には違約金も支払われる。

 

「おい。どうするよ?」

「違約金に退職金だってさ。辞めても当分は食ってけるぜ」

「でもよぉ、こんなに居心地がいい職場なんてないんじゃねぇの?」

「そうだよなぁ・・・。どうするか?」

「俺は残ろうと思う。他の職場じゃ楽しめないしな」

「まぁ、そうなんだけどさ」

 

でも、私達にとってナデシコはもう家だし、クルーはもう家族。

誰もナデシコから離れようとはしない。

という事は、誰もが了承するという事になる。

 

「あぁ。そうそう」

 

もう解散かな? と格納庫から出ようとすると、その背中に声がかかる。

発言者は、提督だ。まだ何かあるのだろうか?

 

「ナデシコには火星の救民が乗っていたわよね?」

 

・・・何が言いたいんだろう?

嫌な予感がする。

 

「ナデシコは地球における最高戦力。そんな艦に反乱の危険性が高いクルーを乗せておけないのよ。全員、ナデシコから降りてもらうわ」

「なッ!?」

 

ザワザワとその予想外の言葉に周囲が騒ぎ出す。

 

「横暴です!」

 

火星の人だろうか? 男の人が叫んだ。

 

「うるさいわね。何故かは知らないけど、謂れのない理由で火星の人間は軍を敵視しているわ。それなら、危険扱いされても仕方ないでしょ?」

「謂れのないだと! お前達が俺達を置いて逃げたんじゃねぇか!」

「そうだ! 連合軍を憎むのは当然だろうが!」

 

提督の言葉に火星の人達が怒りを露にした。

やばいわ。このままじゃ、暴動が起こる。

 

「お、落ち着いてください。提督はお静かに御願いします」

「私は静かよ」

 

プロスさんが必死に宥めて、どうにか火星の人達は収まった。

でも、まだ怒りは隠せていない。

 

「もちろん、火星の方達にも違約金と退職金を支払います。もし、それでも生活に困るのでしたら、こちらからお仕事を斡旋しましょう」

 

軍人でもないプロスさんには当たれない。

火星の人達は黙り込むしかなかった。

 

「火星の方達以外で降りる方にも当然、仕事の方を斡旋させていただきます」

 

結局、プロスさんのこの一言でこの場は解散という事になった。

火星の人達が降りちゃうなんて。やっぱり寂しいわね。

・・・あ、という事はカエデちゃんも降りるって事?

 

「カエデちゃん!」

「ん? 何よ? 何か用?」

 

格納庫を抜け、食堂に向かう途中にある廊下でどうにかカエデちゃんを見つけられた。

その顔は不機嫌そのものであり、先程の提督の言葉に怒りを覚えているようだった。

そうよね。カエデちゃんも被害者の一人で軍を嫌っていた。

あれだけの事を言われたら怒って当然か。

 

「これからどうするの?」

「さぁ。何も考えてないわ」

「大丈夫なの?」

「突然言われたって何の準備も出来てないわよ」

 

それはそうよね。

いきなりクビって言われるようなものだし。

 

「それじゃあ、私に付いてきてもらおうかしら」

 

カツンッカツンッと音を鳴らしながらやってくる女性。

 

「エリナさん」

 

ネルガル会長秘書、エリナ・キンジョウ・ウォン。

彼女はカエデちゃんに実験の参加を求めていた。

もしかして・・・。

 

「何か用?」

 

不機嫌丸出し。

お、落ち着きなさい、カエデちゃん。

 

「貴方はナデシコから降りるんでしょ?」

「正確には降ろされるんだけど」

「降りるという事実の前には些細な問題よ」

「それで? 何か用?」

「これから生活するのも大変でしょ? だから、私が仕事を斡旋してあげようと思って」

「余計なお世話よ。別に貴方の力を借りなくなって―――」

「残念。貴方はネルガルのお世話になるしかないのよ」

「え? なんでよ?」

 

どこか勝ち誇ったような笑み。

何だろう? あの笑みは。

 

「どうして火星の救民達がネルガルで働いていると思う?」

「ネルガルが助けたからでしょ?」

「そうね。でも、実はそれ以外にも大人の事情っていうのがあるのよ」

「大人の事情?」

「ええ。火星の人達は連合軍に悪い情報を持っている。それが何か分かる?」

 

火星の人達が持っている連合軍に都合の悪い情報?

 

「それは火星を見捨てて逃げたって事?」

「そうよ。流石は元社長秘書。鋭いわね」

「それはどうも」

 

それぐらいしか見当たらないし。

 

「軍としてはその情報を握り潰したい訳よ。民間人の信用を失うから」

「握り潰すですって? そんな事無理に決まっているじゃない!」

「そう。そこでネルガルの登場よ。ネルガルが軍と交渉したの。火星の人達はこちらが管理しますって」

「はぁ!? 何よ? それ」

「管理の見返りに色々と良くしてもらっている訳。善意だけじゃ企業なんてやっていけないのよ」

「それで、火星の人達は全てネルガルの社員になっているという訳ね?」

「ええ。その通りよ。だから、ネルガルとしても連合軍としても、火星の人達の動向には注意しているのよ。もしもの万が一、それがないようにってね」

「それは何? 脅しているつもりなの?」

「あら? 私はそんな事は言ってないわよ。ハルカ・ミナト」

 

この女狐め。

 

「とりあえず言える事は火星の人間は私達ネルガルにお世話になる以外に生きていく道はないという事よ」

「他会社に入社するのを邪魔する訳ね」

「さぁ。でも、ネルガルの影響力があれば、それぐらいは出来るかもしれないわね」

 

確実に出来る。

大企業としてのネルガルの影響力は凄い。

少し睨みを利かせれば、一般の会社なんて成す術がない。

 

「そして、ナデシコから退艦する者の人事権は私が握っているのよ」

「何で貴方がそんな権利を持っているのかしら?」

「あら? 当然じゃない。私ってネルガル会長秘書よ。それぐらいの権力は持っているわ」

「え? 秘書? 貴方が?」

「ええ。驚いてくれたかしら?」

 

会長秘書と知り、絶句しているカエデちゃん。

私は知っていたから特に驚きはないけど・・・。

 

「いいのかしら? そんな強引に事を進めて」

「あら? どこに不安があるの?」

「そんなに強引に事を進めていたらいつか反発されてネルガルの信用を失うわよ」

「ふふっ。甘いわね」

「何がよ?」

「人は生きていく事を第一としているの。せっかく生活できる環境があるのに、それを失ってまで反発するかしら?」

「・・・・・・」

「ま、反発したなら反発したでいいわ。すぐに鎮めてあげるから」

「鎮めるですって?」

「あら、口が滑ったわね」

 

笑みを浮かべながらわざとらしくしまったという顔をするエリナ秘書。

伊達に会長秘書なんてやってないわね。嫌らしい交渉の仕方。

 

「本来なら幾つか候補を挙げるんだけど、貴方はこちらで決めさせてもらったわ。貴方の再就職先はアトモ社よ」

「何、勝手に決めているのよ!」

「自主的に参加してくれていたら助かったのだけれど、もう手段を選んでいられなくなったのよ」

「どういう意味よ?」

「一人や二人犠牲にしてでも理論を完成させないといけないという意味よ。木星蜥蜴に勝利する為にはね」

 

正確には火星の知識を独占する為には、よね。

カエデちゃんが木星蜥蜴に恨みがあるからってこんな言い方をするなんて・・・。

なんて汚い。

 

「既にこの実験では多くの犠牲者を出しているわ。今更貴方一人を犠牲にしても、それを揉み消すなんて簡単、あ、でも、彼らは木星蜥蜴の犠牲者となっていたわね。あら怖い」

「・・・・・・」

 

実験で犠牲者を出しても木星蜥蜴のせいにしてしまえば会社イメージが下がる事はない。

そう、そうやって、貴方達は実験を正当化しているのね。全て木星蜥蜴のせいにして。

 

「クスッ。分かってもらえたかしら? 貴方が実験でどうなろうと、私達から逃げてどうなろうと、それを揉み消すのなんて私達にとっては赤子の手を捻るようなものよ」

「・・・・・・」

「反対する人なんていないわ。貴方一人の命と木星蜥蜴に勝利では誰がどう考えても貴方の命を犠牲にするでしょう? 天秤に乗せるまでもなく」

 

歯向かうならどうにでも手段はある。

ネルガルも軍も助けてくれない。

そう脅しているんだわ。

 

「ま、大人しくしている事ね。木星蜥蜴の新しい犠牲者になりたくなければ」

 

そう言って去っていくエリナ秘書。

・・・カエデちゃん。

 

「・・・どうしてよ? どうして、私がこんな目に」

 

そう俯きながら嘆くカエデちゃん。

どうして、この子ばっかり酷い眼に合わないといけないんだろう。

私には、どうする事も―――。

 

「お、いたいた。ミナトさん。ん? あれ? カエデもいたのか」

 

え? この声は・・・。

 

「えぇっと、どうかしたんですか?」

 

・・・どうしてここにいるの? 

 

「コウキ君?」

「えっと、はい、コウキです」

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

いやぁ、帰ってきました、ナデシコに。

懐かしいね、本当に。

 

「あれがナデシコですか?」

「そうですよ。イツキさんの新しい職場です」

 

輸送機に乗せられ、ここカワサキシティまでやって来た。

後は車で移動して、ヨコスカベイの軍用港まで行くだけだ。

というより、もう着いたんだけどね。

 

「久しぶりの帰艦はどうですか?」

「あそこはもう家みたいなものですからね。気分は単身赴任から帰ってきたサラリーマンです」

「ふふふ。そうですか。素敵な所みたいですね」

「ええ。イツキさんも慣れれば居心地が良いと思いますよ。慣れるのが大変だと思いますが」

「そう脅かさないでください。こう見えても緊張しているんですよ?」

「ま、楽しい所ですから。緊張して損したって思う事になりますよ」

「それならいいんですけどね」

 

軍用ドックでナデシコを見上げながらの会話。

そろそろ迎えの軍人が来る頃なのだけど・・・。

 

「少尉。特務中尉。お迎えに上がりました」

「ご苦労様です」

「ハッ」

 

この特務中尉って呼ばれるのが未だに慣れない。

というか、殆どの兵が皆してパッと挨拶してくるから逆に緊張する。

俺なんか相手にしなくていいよぉって感じで。

 

「そういえば、私の機体ってもう運ばれているんでしょうか?」

「えぇっと、多分。もしかしたら、俺のお古になっちゃうかも」

「コウキさんのですか? 私は構いませんが・・・」

 

・・・まぁ、カスタムじゃなくて、普通の設定にも出来るから心配はいらないと思うけど。

でも、一応は俺の機体で愛着があるからなぁ。

 

「お話を遮るようで申し訳ありませんが、既に運んであるとの事です」

「それは以前まで使っていたあの基地の機体って事ですか?」

「そう聞いております」

 

おぉ。いつの間に運んでいたんだ。

というか、案内役の兵士さん、やるねぇ。

出来て当たり前かもしれないけどさ。僕は感心するよ。

 

「だ、そうです」

「了解しました。コウキさんには悪いですが、やはり私も自分の機体の方がやりやすいです」

「いえいえ。当然です。愛着も湧きますし」

「ふふっ。そうですね」

「あ。という事は逆に俺の機体は基地に運んでもらえるのかな?」

「そう聞いております」

「おわッ! あ、ありがとうございます」

「いえ」

 

案内役の兵士さん。独特の空気というか、絶妙の入り方というか。

ビックリしてしまった。コホン。

 

「ところで、イツキさんはCASで訓練を積んでいましたが、ナデシコではどちらを?」

「ナデシコでもCASを用いるつもりです。CASでの戦闘データが取りたいそうなので」

「あ。そうですね。実機での戦闘データは集まってなかったんでしたね」

 

所詮はシミュレーション。きちんと実戦でのデータがなくちゃ安心は出来ない。

 

「はい。恐らくコウキさんには私や既に配備された兵達の戦闘データの解析を御願いするんだと思います」

「あぁ。実戦のですね」

 

最終調整というか、フィードバックデータの応用を担当する訳だ。

ま、そっちの方が大切だもんな。実戦でのデータを活かして更に高度なOSにしろと。

・・・うわぁ。俺っていつナデシコに帰れるんだろう。

 

「着きました。それでは」

 

ビシッと敬礼してくる兵士さん。

 

「ありがとうございました」

 

そして、俺達もビシッと敬礼で応える。

うぅ。未だに慣れず、どこか恥ずかしさを覚えます。

 

「様になってきましたね」

「まだまだですよ」

 

褒められてもねぇ・・・。

恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ。

 

「ムネタケ提督」

「来たわね。あら? 何で貴方までいるのかしら?」

「少尉の付き添いであります、提督」

「あら? 軍人らしくなっちゃって」

「ハッ」

 

あぁ。やってらんねぇ。

階級って面倒だよなぁ。

キノコさんって中佐だっけ?

うわ、うわ。遠慮しなくちゃいけなくなる。

もう山菜狩りとは言えなくなってしまう。

だ、大損失だ。

 

「パイロット達に紹介しましょう」

 

うぅ。キノコ提督の後ろを歩く時が来るなんて・・・。

 

「おぉ! コウキじゃねぇか!」

「あれれ。軍服なんか着ちゃっているよ。似合わな~い」

「久しぶり。ガイ、ヒカル」

 

パイロット勢が集合している場所へ向かう。

いや。本当に久しぶり。もう一年ぐらい会ってない気がするよ。

それぐらい彼らのインパクトが強いって事だろうな。

 

「んお。新しいパイロットってそいつか?」

「ええ。自己紹介をしなさい」

「はい」

 

もう帰ってもいいですよ、提督。

ああ。こう言えたらどんなに幸せか。

 

「イツキ・カザマです。よろしく御願いします」

「よろしく~」

 

なんとも気の抜けた返事。

あ。さっそくイツキさん、唖然。

 

「後は勝手に親交を深めなさい」

 

よっしゃ! キノコが山に帰っていった。

 

「コウキ。調子はどうだ?」

「コウキ。元気にやっているみてぇじゃねぇか」

 

イツキさんが女性パイロットやアカツキに囲まれる中、アキトさんとガイがこちらにやってくる。

おぉおぉ。流石はガイ。女性はメグミさん一筋。好奇心より友情を取るなんて。熱いぜ、ガイ。

 

「ぼちぼちですね」

 

調子はぼちぼち。これからが忙しくなりそう。

 

「しばらく滞在するのか?」

「はい。数日だけ許可を貰いました。いや、大変ですよ」

「そうか」

 

そうか、っておい。それだけですか?

 

「ま、俺達の事は放っておいて早くミナトさんの所に行ってあげるんだな」

「セレスちゃんも忘れんなよ。寂しそうにしていたぞ」

 

素晴らしい助言をありがとう。アキトさん、ガイ。

まずは・・・。

 

「セレスちゃん」

 

トコトコ歩く後姿を発見。

 

「・・・え?」

「久しぶりだね。セレスちゃん」

「・・・コウキさん!」

 

おぉ。花が咲いたかのような笑み。

和みます。癒されます。

最近は癒しがなくてストレスが溜まっていてさ。

いっその事、セレス嬢を補佐として連れて帰ってしまおうか。

 

「元気だったかい?」

「・・・はい。でも、コウキさんがいなくて寂しかったです」

 

寂しい思いをさせちゃったか。

ちょっと罪悪感。よし!

 

「これからブリッジに行くの?」

「・・・はい」

「じゃ、一緒に行こっか」

「・・・はい!」

 

笑顔で頷いてくれるセレス嬢。

まずい。マジで補佐として連れて帰りそう。

 

「はい」

 

手を差し出す。

無論、手を繋ごうという意味さ。

 

「・・・ポッ」

 

照れながらも握り返してくれる小さな手。

何だろう? 改めて帰ってきたって実感。

 

「俺がいない間に何かあった?」

「・・・特には。あ、今ですが、クリスマスパーティーの準備をしてます」

 

あ。原作でもやっていたな。クリスマスパーティー。

・・・む。プレゼントを忘れていた。ちょっと抜け出して準備しなくちゃ。

それぐらいの余裕はあるだろう、きっと

 

「・・・サンタクロースがプレゼントをくれるってミナトさんが言っていました」

 

なるほど。ミナトさんもプレゼントを用意するつもりだな。

うん。ここは便乗するか。

 

「そうだね。セレスちゃんは良い子にしていたからきっともらえるだろうね」

「・・・本当ですか?」

「うん。セレスちゃんならもらえるって」

「・・・嬉しいです」

 

本当に良い子でした。

貴方は私の心のオアシスです。

 

「シタテルは元気にしているかい?」

「・・・オモイカネといつも一緒にいます」

 

ま、お話機能以外の機能は付けてないからな。

あんまり容量取っちゃうと怒られるし。

 

「そっか」

 

それからはブリッジに着くまで楽しくおしゃべりしていました。

珍しくセレス嬢がどんどん話すからずっと聞き手。でも、それはそれで楽しい。

一生懸命に伝えようと話す姿は可愛らしさ抜群です。

 

「お久しぶりです、皆さん」

 

ブリッジに入るとギョッと驚いた眼でこちらを見てくるクルー一同。

あれ? 連絡されてなかった?

そういえば、セレス嬢も驚いていたな。

 

「お久しぶりです、コウキさん」

「・・・コウキ、久しぶり」

「久しぶり。ルリちゃん、ラピスちゃん」

 

ブリッジクルーそれぞれと挨拶しながら、自分の席に座る。

あれ? ミナトさんはまだいないのか。

 

「・・・コウキさん」

「ほっと」

 

言われる前に抱き上げる。

いや。僕としても役得なので。

 

「・・・・・・」

 

太腿の上でご機嫌そうに笑うセレス嬢。

思わず頭を撫でていた。この感触も久しぶりだな。

 

「どう? 何か変わった事あった?」

 

さっきのセレス嬢に聞いたのとは別の意味。

ルリ嬢に聞いたのは原作と変わった事。

 

「いえ。特には。・・・あ、一つだけ」

「え? 何々?」

 

原作と違った所があったっていうのは意外と一大事だと思うんだ。

でも、ルリ嬢はそんなに慌ててないし。杞憂かな?

 

「入港する際に市民の方から歓迎して頂きました」

「え? 歓迎してもらえたの?」

「はい」

 

原作ではナデシコ反対とか過酷な現実を叩きつけられていたけど、今回は歓迎か。

あれですね。火星の民達の救出。あれが、きっと好感度を上げたんだろう。

 

「そっか。良かったね」

「はい」

 

嬉しそうだね、ルリ嬢。この分ならアキトさんも喜んでいたんだろうな。

未来を変える。その結果がこうなったんだから。

 

「・・・・・・」

 

それから結構な時間、ブリッジクルーと楽しくおしゃべりしていたんだけど、ミナトさんはやって来ない。

 

「ねぇ、ルリちゃん」

「はい。何でしょう?」

「ミナトさんが今どこにいるか分かる?」

「少々お待ちください。・・・いました。どうやらここにいるみたいです」

 

そう言ってコミュニケに居場所を教えてくれるルリ嬢。

 

「えぇっと・・・廊下? 格納庫寄りの」

「そうみたいですね」

 

あっちゃあ。別ルートから来ちゃったからなぁ。

道理で会えない訳だ。来るのを待つより会いに行くか。

 

「じゃあ、ちょっと、俺はミナトさんの所に行ってくるね」

「分かりました。セレス、コウキさんは移動するそうなので」

「・・・嫌です」

 

おぉ。セレス嬢がルリ嬢に反抗した。

 

「セレス。コウキさんに迷惑をかけちゃいけません」

「・・・迷惑ですか?」

 

そ、そんな顔されたら迷惑だなんてとてもじゃないけど言えない。

 

「う、ううん。そんな事ないんじゃないかな」

「コウキさん! ミナトさんに会いに行くんじゃなかったんですか!?」

 

おぉ。ルリ嬢、落ち着いてくれ。

不可抗力というか、仕方のない事なんだ。

 

「すぐに戻ってくるからさ。ごめんね、セレスちゃん」

「・・・・・・」

 

う、俯いてしまった!? 

え? えぇ? どうしよう?

 

「パッと行ってパッと帰ってくるから」

「・・・すぐに帰ってきてください」

「う、うん。絶対にすぐ帰ってくる」

「・・・約束です」

「うん。約束」

 

ど、どうにか説得成功。セレス嬢は自主的に降りてくれた。

どうしてだろう? いつもならもっと聞き分けが良いというか・・・。

ま、まぁ、いいや。とりあえず、ミナトさんの所へ行ってくるかな。

 

「えぇっと、ここか」

 

コミュニケに表示される地図を頼りにミナトさんの所へ向かう。

それにしても、何でこんな所にいるんだろう?

何にもないし、特別な部屋って訳でもないのに。

 

「お。いたいた。ミナトさん」

 

あの後姿はミナトさんだな。

ん? 一緒にいるのはカエデみたいだな。

 

「ん? あれ? カエデもいるのか」

 

バッと振り向くミナトさんと眼を見開いてこっちを見てくるカエデ。

 

「えぇっと、どうかしました?」

 

珍しいツーショットという訳でもないけど、二人してなんでここにいるかが分からない。

 

「コウキ君?」

「えっと、はい、コウキです」

 

なんで疑問形?

まさか、しばらく会わない内に顔を忘れられた!?

なんて、ありえないか。

 

「な、なんで、ここにいるの?」

「え? いちゃ駄目ですか?」

「そ、そんな事は言ってないわ」

 

やっぱり聞かされてないか。

誰の陰謀だ? これは。

 

「帰ってきたの?」

「いえ。違いますよ。ちょっと用事がありまして」

「・・・そう」

 

なんか二人とも様子が変だ。

深刻そうな表情。なんというか、落ち込んでいるというか、ショックを受けているというか。

 

「何かあったんですか?」

 

俺が力になれるか分からないけど、相談ぐらいなら受けられる。

 

「えぇっとね」

「はい」

「実は―――」

「ごめん。コウキ」

 

えぇっと、何故、謝られるのかが知りたい。

 

「何で謝るの?」

「貴方から散々注意されていたのに、結局、実験を受ける事になっちゃいそう」

「はぁ!?」

 

え? だって、断るって言っていたじゃん。

 

「え? どういう事? なに? やっぱり復讐したいって事?」

「ち、違うの。私としても意味が分かんないだけど」

「俺の方が分かんないっての」

 

意味分からん。どういう事?

 

「私が説明するわ」

 

御願いします。

 

「ナデシコが正式に軍に徴兵されたのは知ってるわよね」

「はい。もちろんです」

 

なんと言っても俺が先行徴兵ですから。

今だって、軍の制服を着ているんだぜ。

 

「その際に火星の人達全員が降ろされる事になったの?」

「え? なんでですか?」

 

何故、火星の人達を降ろす必要がある?

意図がまったく掴めない。

 

「火星の人達は軍に歯向かう可能性があるからって」

「・・・歯向かう? そんな事件が起きたんですか?」

「ううん。いきなりよ。いきなり退艦しろって」

 

そんな事件も起きてないのに、いきなりなんて酷いな。

何が目的だろう?

 

「それで、その後はどうなりました?」

「会社を斡旋するからって言って誤魔化していたわ。でも、その後、カエデちゃんに接触してきて」

「まさか、秘書さんがですか?」

「ええ。そのまさかよ」

 

うわっ。もしかしてそれが狙い?

どうしてもクビにする理由が見つからなかったから、火星の人達全員を一斉に退艦させたとか。

ネルガルならやりそうだ。というより、エリナ秘書ならやりそうだ。

 

「それでなんて?」

「本来なら会社を選ばせてあげるけど、貴方は勝手に決めさせてもらったわって」

 

な、なんて横暴。

随分と強引な手段できたな。

 

「ちなみに会社の名前は?」

「確か・・・」

「アトモ社って言っていたわね」

「アトモ社?」

 

うわ。確信深まりって感じ。

 

「アトモ社はボソンジャンプ研究施設です。間違いなく実験に参加させられますね」

 

おいおい。どうするよ?

 

「脅されたもの。今更一人ぐらい殺した所で揉み消すのは簡単だって」

「・・・エリナ秘書が?」

「そう。エリナ秘書が」

 

か、かなり本気だな、おい。

 

「カエデ。断って別の会社に行け」

「無理よ。行けたら苦労しないわ」

「え? なんでだよ?」

「ネルガルが圧力をかけるって。他会社に就職できないように」

「ネルガルの影響力なら可能でしょ? 間違いなくやってくるわよ?」

 

・・・思わず頭を抱えちまった。

そ、そこまでするのか、ネルガルは。

 

「れ、連合軍に保護を求めればいい―――」

「無駄よ。断言は出来ないけど、連合軍も協力しているみたい。反対する人なんていないって言っていたわ」

「ま、マジですか?」

「マジです」

 

ネルガルも連合軍も助けてくれない。

お~い。アキトさんの時より状況悪くないか?

 

「えっと、カエデは参加したくないんだよな?」

「当たり前じゃない。なんか死にそうな事言っていたし」

 

下手すると死にますからね。カエデなら大丈夫だと思うけど。

 

「分かった。ちょっと提督に相談してみる」

「提督ってムネタケ提督? コウキ君。何を考えているのよ?」

 

信頼性皆無ですね、キノコ提督。

 

「違いますよ。俺が今、お世話になっている所の偉い人です。キノコさんじゃありません」

「あ。そっか。そうよね。ムネタケ提督に頼るなんて事はないわよね」

 

本気で安心していますね、ミナトさん。

カエデはよく分からないって感じだけど。

 

「待ってろ。カエデ。絶対に阻止してやるから」

「・・・コウキ」

 

何? その不安そうな顔。

 

「信じられない? 俺の事」

「そんな事ないわ! 信じている!」

 

お、おぉ。そうまで大声じゃなくても聞こえているぞ。

 

「そうまで信じられたら応えるしかないな。ま、任せとけ」

「・・・うん」

 

しおらしいカエデは変な感じだな。

 

「んじゃあ、俺はこのまま提督に連絡してくるから、仕事に戻って待っていろよ」

「分かったわ。待っているわね」

「おう」

 

去っていくカエデ。

阻止してやるって誓ったしな。

頑張りますか。

 

「コウキ君。おかえりなさい」

「ただいまです。ミナトさん」

 

そして、ようやくミナトさんと二人きりになれた。

 

「お元気そうで何よりです」

「ええ。コウキ君も頑張っているみたいね」

「それなりにですけどね」

 

なんだか本当に久しぶりだ。

 

「助かったわ。私じゃどうしようもなかったから」

「カエデの事ですか? 俺だってどうしようもなかったですよ」

「でも、コウキ君のおかげで解決策が見つかりそうじゃない。それもコウキ君の力よ」

「他力本願ですけどね」

 

でも、ミスマル提督の力をお借りすればそれぐらい出来る筈。

極東方面では幅を利かせているからな、カイゼル提督は。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

何だろう? 色々と話す事を考えてきたんだけど、全部吹っ飛んじゃった。

えぇっと・・・あ。そうだ。

 

「えぇっと、ミナトさん」

「何かな?」

「セレスちゃんにサンタクロースの話をしたそうですね」

「ええ。したわよ」

「もうプレゼントは買いました?」

「ちょっと時間なくてね。まだ買ってないわ」

「それなら、時間が空いたら一緒に買いに行きましょうよ」

「いいわよ。私も買いに行きたかったし」

 

うん。さり気なくデート作戦、成功。

久しぶりだしね。二人っきりで過ごしたい。

 

「・・・カエデちゃんやセレスちゃんの事ばっかりなのね」

「え? 何か言いました?」

「え、ううん。なんでもないわ。もちろん、私にもサンタさんは現れるのよね?」

「随分と若いサンタでよろしければ」

「ふふっ。楽しみにしているわ」

「あんまり期待しないでくださいよ。こういうのを選ぶのは苦手なんですから」

「あら? 私はサンタさんに頼んでいるのよ。コウキ君は何を言っているのかしら?」

「・・・参りました」

 

うまく切り返されました。ニヤニヤと笑っています、この人。

 

「それじゃあ、私はブリッジに戻っているから、連絡してきちゃいなさい」

「分かりました。すぐにブリッジに行きますので待っていてください」

「ま、いつまでも待たせていたらどうなるか分からないけどね」

「勘弁してくださいよ。すぐに戻りますから」

「はいはい。それじゃあね」

 

パッと手を振りながら去っていくミナトさん。

相変わらずだなって思った。

 

「さてっと」

 

ナデシコから連絡取ってもいいけど、内緒話だし。

このドッグの通信室を借りようかな。

ふっふっふ。こういう時に軍人だと楽だぜ。

権力は使える内に使っておかないとな。

 

 

 

 

 


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