機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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少女の成長と謎の副官

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

ナデシコがネルガルの意向により月へと向かう事になった。

その為、俺とカエデはここで降りる事になる。

次に合流するのは、多分、次にナデシコが地球に帰ってきた時だろうな。

う~ん。結構、長い。

 

「・・・コウキさん」

「寂しい思いさせちゃってごめんね」

「・・・いえ。仕方がない事だって分かっています」

 

うぅ・・・。む、胸が痛む。

そんな寂しそうな眼で見られたら、思わず連れて行きたくなっちゃうじゃないか。

 

「ごめんね。多分、次、また来た時こそはちゃんとした合流だと思うからさ」

「・・・はい。待っています」

 

本当にごめんなさい。あぁ。俺にどうしろと?

神よ。恨みます。

 

「留守は任せろ。お前はお前の仕事をやってこい」

「はい。アキトさんも。ナデシコの事は任せました」

「ああ。任せろ」

 

大丈夫。ナデシコのパイロットは一流揃いだ。

完璧に成し遂げてくれる。

 

「コウキさんの分は私がきちんと果たします」

「イツキさんはイツキさんのやり方があるでしょ? 俺の代わりじゃなくて、イツキさんはイツキさんらしくやらないと」

「そう・・・ですね。それでは、教官、今までありがとうございました」

「きょ、教官はやめて」

 

そんな柄じゃない。

 

「いえ。コウキさんは間違いなく私達の教官ですよ」

「・・・はぁ。ま、いいや。イツキさん。頑張って」

「はい。コウキさんも」

 

合流パイロットとして色々と大変だと思いますが、頑張ってください。

 

「マエヤマ・コウキ。散々私の邪魔をしてくれたお返しは必ずするから」

「あ。それなら、寿司でも奢ってください、一流店の」

「そうじゃないでしょ! ・・・私は諦めた訳じゃないから」

「えぇっと、何の話ですか?」

「クッ。そうやって貴方はいつもしらばっくれて」

「すいません。身に覚えがないもので」

「覚えてなさい!」

 

悪役ですよ、その去り方じゃ。

しかし、まだ諦めてない、か。

まだ警戒を怠っちゃ駄目って事なのかな?

 

「・・・コウキ君」

「ミナトさん。また、離れちゃいますね」

「仕方ないわ。必要な事だもの」

 

理解のある方で嬉しいです。

 

「これ。大事にするわ」

 

そうやって首元からネックレスを取り出す。

これはクリスマスプレゼントとして贈らせて貰った。

 

「俺もですよ」

 

俺も首元から取り出す。

これはミナトさんからクリスマスプレゼントとして貰ったものだ。

セレス嬢のプレゼントを一緒に買いにいった時にちょっとだけ別行動を取る事にして、その時に買った。

偶然にも同じ物であり、何となく気恥しく、同時に嬉しくもあった。

似ている者同士なのかもなって、二人は繋がっているんだなって、なんてな。

あ、ちなみに、セレス嬢には等身大、もちろん、セレス嬢に合わせた大きさ、のテディベア。

ちゃんとサンタさんのプレゼントとして枕元に贈りました。

今では抱き枕となっているらしく、感無量。

 

「それじゃあ」

「ええ」

 

必要以上に言葉はいらない。

言葉じゃなくて、温もりが伝えてくれるから。

 

「いってらっしゃい。コウキ君」

「行ってきます。ミナトさん」

 

笑顔で見送ってくれるミナトさん。

それだけでやる気が漲ってくるから不思議だ。

本当なら離れたくないけど、きちんと仕事をしないと怒られちゃうし。

さっさと終わらして、早く合流しようという結論になった。

おっしゃ。さっさと基地に戻ってやる事をやってしまおう。

その頑張り分だけ、早くナデシコに帰ってこられるのだから。

・・・多分だけど。

 

 

 

 

 

「彼女がキリシマ君かね」

 

ミスマル提督の待つ連合極東方面軍の基地に帰ってきた。

早速、カエデの事を紹介しなくちゃな。

 

「はい」

 

挨拶をしろと促す。

 

「キリシマ・カエデ」

 

・・・いやさ。連合軍が嫌いだからってもうちょっとちゃんとした挨拶しようよ。

 

「すいません」

 

あぁ。恥ずかしい。

 

「いや。構わんよ。マエヤマ君に聞いた所、食堂の方で働いてくれるそうだね」

「・・・はい」

 

・・・言葉少なっ!

ま、まぁ、すぐに慣れてくれるさ。うん。

 

「後でマエヤマ君に案内してもらうといい。任せるよ、マエヤマ君」

「ハッ。了解しました」

「・・・え?」

 

・・・何を驚いた顔でこっち見ているんだよ、カエデ。

これぐらいは出来るぞ、これぐらいはな。

形だけだけど習ったんだよ、敬礼。

 

「それと、君の新しい副官を紹介しよう。カグラ君、入ってきてくれたまえ」

「ハッ」

 

提督の声を合図に扉が開く。

 

「彼が君の新しい副官だ」

 

そこには俺よりちょい身長が高い屈強な身体をしたイケメンが立っていた。

クッ! イケメンが副官だと!? やり辛いじゃないか。・・・冗談だけど。

 

「カグラ・ケイゴです。よろしく御願いします」

「マエヤマ・コウキです。こちらこそよろしく御願いします」

 

良い人みたい。凄く安心。

あれかな? また教官チックな事をすればいいのかな?

 

「彼はパイロット志望として軍の募集に応募してくれた男でな。パイロットとしての腕前はかなりの物がある」

 

へぇ。提督からの素直な高評価。

提督って厳しそうだし、本当なんだろうな。

でも、なんでそんな人が俺の副官なんだろうか?

 

「教官として彼に教授すると共に彼の機体の調整を行って欲しい。彼には極東の要となってもらうつもりだ」

 

どっちかっていうと、俺の方が副官っぽくない?

ま、僕の一応の肩書きは技術士官だからいいけどさ。

 

「了解しました」

「御願いします。教官」

 

・・・教官。やっぱり慣れないな。

なんとなく・・・照れる。

 

「それでは、以上だ」

「ハッ」

 

こうして、新たな副官を得て、連合軍の基地へと戻ってきた。

俺が連合軍で出来る事は教官と調整ぐらいだからな。

とりあえず、要になるっていうカグラさんを鍛えて、カイゼル派の後押しとしますか。

他に何か俺に出来る事ってあるのかして?

 

 

 

 

 

バタンッ!

 

提督の執務室から退室する。

隣にはカエデ、少し後ろにはカグラさん。

いや。副官だけどさ。初対面の人に呼び捨てはどうもね・・・。

 

「改めまして、私はカグラ・ケイゴ。ケイゴと御呼びください」

「えっと、マエヤマ・コウキです。コウキで構いません」

「いえ。副官として、上司を名前で呼ぶなど・・・」

「突然ですが、何歳ですか?」

「ハッ。今年で二十二歳になります」

 

二十二歳か・・・。

年上だもんなぁ・・・。

軍なら年上の部下とか当たり前なんだろうけど、やっぱりやり辛い。

 

「えっと、とりあえず、仕事中はそのままで構いませんので、今のように仕事以外ではもっとフランクに行きましょう」

「・・・了解しました。善処します」

 

うわっ。固いよ、固すぎるぜ。やっぱり軍人らしい軍人な訳ね。

 

「ねぇ、コウキ、私はどうすればいいの?」

「あ。そうだったな。お互いに自己紹介したら?」

 

カエデとケイゴさんはまだお互いに自己紹介していない。

とりあえず、どっちも副官という扱いなんだし、仲良くしてくれると嬉しいかな。

 

「私はキリシマ・カエデよ。ここではコウキの副官と食堂でコックをやる事になっているわ」

「カグラ・ケイゴです。よろしく御願いします」

 

無難だ。

なんて無難な自己紹介なんだ。

 

「ケイゴって呼んでいいのよね?」

「はい。構いません」

 

うわ。勝手だ。

呼んでいいって言われたのは俺なのに。

 

「私はカエデでいいわ」

「キリシマ少尉。たとえ階級が同じとて呼び捨てはいけません」

「うるさいわね。いいのよ。私がいいって言っているんだからいいの」

 

・・・もはや何も言うまい。

 

「マエヤマ特務中尉。どうにかしてください」

 

困っていますね、ケイゴさん。困っていらっしゃいます。

 

「カエデ。一応は軍なんだから、上下関係は意識しろ」

「さっき言っていたじゃない。仕事になったらちゃんとするわよ」

 

それって仕事以外はフランクにって奴だよな。

 

「・・・信用ならんのだが?」

「はぁ!? 私が信じられないの?」

「いや。お前が敬語を使う所が想像付かない」

「ふんっ。私だってそれぐらい出来るわよ」

「本当かぁ?」

「本当よ。まったく。甘く見ないで欲しいわね」

 

すぐにボロを出さない事を祈るよ。

 

「これからどう致しますか、特務中尉」

 

ふむ。仕事の話だな。

 

「すみませんが、先にカエデの方を案内したいのですが、よろしいですか?」

「ハッ。了解しました」

 

クッ。なんて絵になる。

イケメンの敬礼がここまで威力があるとは思わなかった。

 

「着任を終えたからな。荷物の整理か・・・」

「お手伝いしましょうか?」

「いや。俺の方は終わっているんで。カエデの方ですね」

「嫌よ。自分でやるわ」

 

ま、そりゃあ、そうだな。

んじゃ、とりあえず部屋に案内した後、食堂に案内しよう。

 

「どちらにしろ、まずは部屋まで案内する。場所、わかんないだろ?」

「当たり前じゃない。初めて来たのよ。さっさと案内しなさい」

 

こ、こいつ、なんか生意気になってないか?

 

「ふぅ・・・」

 

いつもの事だ。気にしちゃいかん。

 

「さて、案内しよう。ケイゴさんもすいませんが、付いてきてくださいね」

「了解しました」

 

三人で並んで廊下を歩く。

特務中尉の俺と副官で少尉の二人。

年齢的にあまり差がなくても階級という確固たる違いがある。

はぁ・・・。やり辛いよな。

イツキさんの時はどちらかというと俺が引っ張ってもらっていた感じだったから楽だった。

ケイゴさんは・・・引っ張ってくれそうにない。

生真面目? ま、軍人らしいっちゃ軍人らしいけどさ。

俺も上司らしく振舞わなければならないのだろうか?

・・・そんなの俺らしくないよな。

 

「なんか話しなさいよ」

 

突然の発言。

無言を嫌ったか?

 

「お前が議題を考えろ」

「嫌よ。貴方が考えなさい」

 

この我が侭女め。

 

「得意料理は?」

「肉じゃがよってなんで今更!?」

「いや。つい」

「ついって貴方ねぇ・・・」

 

うわ。呆れられた。

 

「肉じゃが・・・ですか?」

「ケイゴさんは好きな料理とかありますかね?」

「いえ。地球の料理は何でも美味しいですから」

「地球?」

 

それって地球以外で暮らしていたって事か?

もしや・・・元火星人?

 

「あ、いえ。コロニーの方に住んでいまして」

 

あぁ。サツキミドリコロニーとか、そういう事ね。

やっぱりちゃんとした土壌で作られた方が美味しいんだろうな。

 

「ま、確かに地球の方が美味しいわよ。材料的に」

 

火星は美味しくないらしいからな。

土が悪いとアキト青年が言っていた。

 

「火星の食材は美味しくないからなぁ・・・」

「あ。でも、一部には美味しい食材もあったわよ。値段は何倍もしたけど」

 

そうなのか。俺はてっきり全部が全部まずいのかと思っていた。

 

「あれか? じゃあ、お前のレストランでは偶にそんな高級食材を使っていたという事か?」

「偶にというか、毎日よ。私の家のレストランを甘く見ないでよね。私の家は高級和食レストランよ」

「な、何だと?」

 

高級和食レストランだと!

・・・そうか。なるほど。

それで、あんなに美味かったのか。

というか、そこまで和を強調するならレストランじゃなくて料亭とかにすればいいのでは?

俺の思い込みかな? このイメージ。

 

「何をそんなに驚いているのよ?」

「一つ訊く。もしや、それは一般人にはとても食いにいけない。美食な倶楽部活動みたいな所か?」

「何よ? それ」

「あ、いや、さ。とにかく、一般人には手が出せない高級料亭って事か?」

「別にそうでもないわよ。まぁ、接待とかでよく使われたけど・・・」

 

・・・こいつ、凄い家の出身なんだな。

 

「お話を聞く限り、御二人は火星出身のようですね」

「あ、はい。そうですよ」

「そうよ。それが何?」

 

おいおい。軍人というだけで敵視するな。

 

「それでは、木星蜥蜴をさぞ恨んでいるでしょうね」

 

ん?

 

「何でケイゴさんがそんな事を訊くんですか?」

「いえ。私も木星蜥蜴にコロニーを落とされて避難して来たので」

 

・・・そうか。それなら、ケイゴさんも被害者って事か。

 

「木星蜥蜴を恨んでいるかですって? そんなの恨んでいるに決まっているじゃない」

「・・・カエデ」

「家族を失って、友達を失って、恨まないほうがどうかしているわ」

「・・・そうですか」

 

俯くケイゴ。

互いに被害者だからな。

共感できるものがあったのだろう。

 

「それでは、何故、ケイゴさんがここにいるんですか? 貴方も木星蜥蜴に、いえ、木連に恨みがあるのでしょう?」

 

カイゼル派かどうか事前に知らされてはいないが、提督が俺の下に就けるという事はカイゼル派の一員なんだと思う。

何故、木連に恨みがある彼がここにいるのだろうか?

 

「私は知りたいのです」

「知りたい?」

「はい。木連がどのような存在であり、提督がどう考えているのかを」

 

木連の存在と提督の考え?

どうして提督の考えまで知りたいんだろう?

 

「木連の事は資料で拝見しました。正直、私達の被害は地球連合政府のお粗末な判断のせいだと思っています」

「そうですね。それは否定できません」

 

火星に核を撃ったり、内乱になるよう工作したり。

挙句の果てには使者を暗殺したりなど、地球政府の判断で悲劇が生じたといっても過言ではない。

 

「そんな中、こうやって地球政府に真っ向から対抗する派閥がある。トップが何を考えているのか。非常に気になったのです」

 

カイゼル派の目的は嘘偽りのない和平。

その為の両国家の国民の意識改革を方針としている。

 

「ケイゴさんは提督から?」

「はい。直接スカウトを受けました。そのスカウトを受け、派閥を見極める為に所属したのです」

「見極める為ですか。結果はどうでした?」

「・・・少し予想外でした。こんなにも真摯に真実に向き合う方がいるとは、と」

 

それはお眼鏡にかなったという事なんだろう。

 

「ですが、私自身、まだ判断しかねています。木連という組織に対する不信感がありますので」

「不信感・・・ですか?」

 

恨みや憎しみではなく、不信感なのか?

 

「ええ。あまりにも非人道的な行いが目立ちます。彼らは私達と同じ価値観を持たないのではないでしょうか?」

 

・・・そういう事か。

確かに事情を知らなければそう思うよな。

でも、価値観自体はそう変わらないと思う。

ま、向こうはゲキ・ガンガーが聖典らしいから少し変わっていると思うけど。

 

「ケイゴさんは知らないと思いますが、俺は木連の人に知り合いがいます」

「なっ!? 木連人にですか?」

「はい。知り合いと言っていいかは分かりませんが・・・」

 

捕虜としてのシラトリさんと話しただけだしな。

 

「それは、どんな人でしたか?」

「えぇっと、白鳥九十九さんといって、真っ直ぐな人です」

「・・・九十九・・・何故・・・」

 

どうしたんだろう? 何かショックを受けているみたいだけど。

 

「ケイゴさん?」

「あ、いえ。どのようにして知り合ったのです?」

「木連と戦闘がありまして。その際に捕虜として捕まえました」

「ッ!? そ、その方はどうなったのです!?」

 

何を慌てているんだろう?

横に視線をやるとカエデも眉を顰めていた。

こいつも分かってないんだろうな。

相談してもどうしようもないか。

 

「多分、逃がしたんじゃないですか? なぁ、カエデ」

 

原作だとメグミさんとミナトさんが逃がしていた筈。

特に今回はミナトさんに木連の事を話してあったし、メグミさんはガイと重なりそうだし、必ず逃がすと思う。

あ。なんか、ガイが死んだように聞こえるけど、死んでないよ、多分。

 

「私に訊かないでよってか、え? 逃がしたってどういう事?」

 

何を慌てていらっしゃる?

 

「あの後、ナデシコは月に向かうって言っていたろ?」

「ええ。そうだったわね」

「あれは木連が月周辺にいるかもしれないからなんだぜ」

「それでナデシコが向かったのね?」

「ああ。んで、その状況なら、俺の知るナデシコクルーなら捕虜なんて認めずに返してしまうだろうなと」

「・・・本当に変な戦艦よね、あそこ」

 

うん。俺もそう思う。

 

「そ、それでは、その人は無事なんですね?」

「恐らくですが、捕虜をどうにかしようとする人はナデシコには・・・」

 

・・・いたな。会長とか秘書さんとか。

原作通りなら多分大丈夫だと思うが・・・。

 

「特務中尉?」

「あ。すいません。多分大丈夫だと思います」

「・・・そう・・・ですか」

 

何だろう? この表情。

安堵といった感じかな。

 

「どうしてですか?」

「え?」

「どうしてケイゴさんが木連人の身の安全を祈るのですか?」

「・・・私は話してみたいのです、木連の方と」

「話してみたい?」

「ええ。どう考え、どう動こうとしているのか。それを訊いてみたい」

「その為に捕虜に危害を与えて敵愾心を持って欲しくないと?」

「いえ。元々敵愾心は持っているでしょうから、それは仕方ありません。ですが、触れ合える機会を失う事になるかもしれないと」

 

ん~。なんか違和感があるんだけど。

・・・なんだろう? この妙な違和感。

 

「キリシマ少尉こそどうしてここにいるのですか?」

 

ケイゴさんがカエデにそう問う。

ま、お互い様だもんな、恨み持ちは。

 

「なんか、私をボソ―――」

「カエデ!」

 

ば、馬鹿。何を言おうとしているんだよ。

急いでケイゴさんに背を向けるようにしてカエデの向きを変える。

もちろん、手は口に当ててある。

 

「な、何するのよ!?」

「馬鹿! せっかく実験から逃れられたんだ。余計な事を言うな」

「別に彼に話したって関係ないじゃない」

「それでもだ! 他言禁止。破ったら罰ゲームな」

「はぁ!? どうして罰ゲームなんて受けなくちゃならないのよ!?」

「ほぉ。お前は約束も守れない信用できない奴って事だな」

「ちょ、どうしてそうなるのよ? それぐらい余裕で守ってやるわよ」

「それじゃあ、誰にも話さない、破ったら罰ゲーム、でいいんだな?」

「ふんっ。いいわよ。上等じゃない」

「おし。うん。決定」

「・・・あ。騙したのね」

「おう。騙した」

「騙すのなんて卑怯よ」

「ふっふっふ。騙される方が悪いのだよ」

 

素直でよろしい。いや、単純でよろしい。

 

「ふふっ」

 

な、ケイゴさんに笑われた?

 

「なに笑ってんのよ!?」

 

うお。隣は睨んでいる。

というか、どこのヤンキーだよ、お前。

すぐに人に絡んじゃいけません!

 

「いえ。仲が良いのだなと」

 

ま、異性にしちゃ仲が良い方じゃないか?

 

「はぁ!? ないない。絶対ない」

 

・・・そこまで断言されると悲しいのだが・・・。

 

「ま、いいわ。私がここにいるのは、木連という存在を確かめる為よ」

「自分で確認したいと?」

「ええ。私は絶対に許せない恨みが木連にある。それは何があっても変わらないでしょう」

「・・・・・・」

「でも、言われたわ。ちょうどいいきっかけなんじゃないかって」

「きっかけ・・・ですか?」

 

そう。きっかけだ。

カエデがきちんと木連という存在を直視する為の。

 

「そうよ。私は木連について何も知らない。どんな思想を持つ集団で、何を目的としているのか。生い立ちなんかも私は詳しく知らないわ」

「しかし、木連の事を知っても何も変わらないのでは?」

「そうね。変わらないと思うわ。きっと憎しみも恨みも消えない。でも、何も知らない相手を恨んだ所で何かが解決する訳じゃない」

「・・・・・・」

「そこの馬鹿に言われたのよ」

 

そう言って俺を指差すカエデ。

馬鹿って何だよ、馬鹿って。酷いな、お前。

 

「正面から受け止めて欲しいって。もっと木連の事を知った上で逃げずに受け止めろって。まったく。勝手なんだから」

「お前なぁ。俺は―――」

「でも、感謝しているわ」

 

感謝されているだって? 

・・・意外だ。俺はてっきり嫌々了承したと・・・。

そして、何よりも素直に感謝された事が意外だ。

 

「コウキにそう言われなければ、私は恨みや憎しみといった負のフィルターを通してでしか、木連を見られなかったと思うもの」

「負のフィルター?」

「どんな事実であろうと私にとって都合よく解釈してしまうフィルターよ。それじゃあ、正面から受け止めた事にならない」

「・・・・・・」

「きちんと感情に左右されずに木連の事を知り、きちんと受け止めた上で結論を出そう。そう決めたのよ」

 

・・・俺が自分で促しておいて言うのもなんだが、こいつ・・・。

 

「「強いな」」

 

え?

思わずケイゴさんの方へ振り返る。

彼は彼で驚いた顔で俺を見ていた。

 

「何を見詰め合っているのよ。気持ち悪い」

 

おっと。俺にもその気はないぞ。

 

「カエデ。俺は嬉しいぞ。お前がそう考えるようになってくれて」

「はぁ? 貴方がそう考えるように言ったんでしょう?」

「それでも、だ。正直、お前がそう考えてくれるまでもっと時間がかかると思っていた」

 

こいつの復讐の念は深かったからな。

 

「別に。私だって色々と考えているのよ」

「そっか。強くなったな、お前」

「は? 意味わかんないわよ」

「いえ。私もキリシマ少尉は強い人だと思います」

 

お。ケイゴさんもそう思ってくれたか。

 

「憎しみを持つ相手をきちんと受け止めようとするその姿勢。好感が持てます」

「貴方に好感を持たれたからって別に私にとってはどうでもいい事よ」

 

こ、こいつは・・・。

 

「すいません」

 

とりあえず謝る。

ケイゴさんは苦笑で済ましていた。

な、なんて大人な対応。尊敬します。

 

「私はまだ割り切れそうにありませんね」

 

彼も失った人だからな。割り切るのに時間が掛かるだろう。

 

「キリシマ少尉は憎しみを抱えつつも前を向いている。少し羨ましくもあります」

 

彼はどんな憎しみを抱えているんだろうか?

そのどこか遠くを見る眼は一体・・・。

 

「別に私だって割り切った訳じゃないわよ。さっきから何度も言ってるけど、憎しみを持っているのは本当なんだから」

「それでも、前を向いている。私には真似できません」

「前なんて向いてないわよ。そいつに向かされているだけ」

 

は? また俺?

 

「後ろ向こうとするとすぐにやって来て前を向かせるんだもの。もう嫌な奴よ、本当に」

「い、嫌な奴ってな・・・」

 

しょ、正直、ショックだ。

そんな風に思われていたなんて。

落ち込む。

 

「貴方さぁ、人は散々からかうくせに自分が言われると落ち込むの?」

「え?」

「冗談よ。冗談に決まっているじゃない。別に嫌な奴だなんて思ってないわよ」

 

え? 冗談?

 

「本当か? 本当に嫌がってないんだな?」

「さっきからそう言っているじゃない。感謝しているって」

「そ、そうか・・・」

 

少し自分勝手だったかもと思っていた俺だ。

感謝されているって言われるのは素直に嬉しい。

こいつが木連や連合軍に嫌な感情を持っていると知っていてこの道を強要したからな。

嫌がられても不思議はなかったし。

いや。なんか、良かった。うん。

 

「良い恋人をお持ちですね」

 

・・・はい?

 

「ちゃんとお互いを支えあっている。理想的な―――」

「ちょっと待ちなさい! 私はこいつの恋人なんかじゃないわよ!」

「そ、そうですよ! か、勘違いです!」

「いえ。誰にも言いませんから誤魔化さなくて結構です」

 

だ、だから、違うって。

 

「いや。本当に違うんですって」

「そうよ。どうして私がこんな奴の―――」

 

こんな奴?

 

「おい。てめぇ、こんな奴って何だよ!?」

「こ、こんな奴はこんな奴よ。ふんっ。貴方なんかじゃ私にはつりあわないわ」

「て、てめぇ、ふんっ、お前こそ俺には物足りないね」

「な、何ですってぇ!?」

「何だよ!? 言いたい事があるならもっと成長してから言いやがれ!」

「ちょ、も、もう本気で怒ったわ」

「おうおう。怒ったら何だって言うんだ?」

「・・・本当に仲が良いですね。流石は恋人同士です」

「「違う!」」

「相性もバッチリみたいですね」

 

 

結局、取っ組み合いの喧嘩に発展してしまった。

異性とこうまで喧嘩したのは初めてかな?

冷静になった今だからこそ言える感想です。

 

 

 

 

 


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