機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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生まれる疑惑

 

 

 

 

 

「マエヤマ・コウキ。久しぶりね」

 

・・・遭遇。キノコが現れた。

 

「お久しぶりです、提督」

「お父様がお世話になったそうね。礼を言うわ。ありがとう」

「えぇっと・・・」

 

マジで変わったな。あれか? 進化してマツタケモンにでもなったか?

 

「私もね、改革和平派の一員になったの」

「改革和平派?」

 

何だ? それ。

 

「あら? アンタ、知らないであそこにいたの?」

「というと、ミスマル提督の派閥ですか?」

 

そんな正式名称があるとは知らなかった。

・・・いや。そりゃあ、あるよな。尤もらしい名前が。

 

「そうよ。何て名前だと思っていたの?」

「いえ。俺は分かりやすくカイゼル派と呼んでいましたから」

「カイゼル派? それって・・・」

「はい。ミスマル提督のあれが由来です」

「・・・ここは笑うべき所なのかしら?」

「いえ。恐らく違うかと」

 

顔を近付けて聞いてくるマツタケ提督。

以前だったら鳥肌が立つだろう距離も意外と苦にならない。

もちろん、嫌なものは嫌だけど、ま、仕方ないなで済むレベルだ。

 

「ミスマル提督から資料を頂いたわ。私みたいな奴ばっかりだったのね、上層部って」

「えっと、ここは笑うべき所でしょうか?」

「どっちだっていいわよ。私も腐ったミカン。上層部の殆ども腐ったミカン。あぁ。やだやだ」

 

・・・変わりましたね、マツタケ提督。

というか、腐ったミカンの方程式。なんだか懐かしい。

 

「提督は首席卒業だったらしいですね」

「ええ。よく知っているじゃない、そんな昔の事」

「ムネタケ参謀から聞きました。自慢の息子だって」

「・・・お父様・・・」

 

感激しているんですけどぉ・・・。

どう対応したらいいかわからないんですけど・・・。

 

「提督。貴方は生まれ変わったと言いましたよね?」

「ええ。少なくとも少し前までの価値観は捨てたわ。改革和平派の一員になったのもその意思の表れね」

「期待させてくださいね。真剣になった提督は俺なんかより何倍も凄いんでしょうから」

「アンタと比べられてもねぇ。ま、大丈夫よ。この艦の艦長は優秀だもの。艦の事は艦長に任せるわ。私は改革和平派の一人としてこのナデシコを導くだけ」

 

そうか。

ナデシコ内で一番の権限を持つ提督が改革和平派に属すという事はナデシコ自体が属しているといっても過言ではない。

少なくとも、周りはそう認識する。

 

「しかし、前の派閥とかは大丈夫なんですか?」

「アンタなんかに心配されなくても大丈夫よ。お父様には苦労かけるけどね」

「参謀なら喜んで背負ってくれると思いますよ。息子の責任は私が持つって」

「・・・アンタ、お父様の事をよく知っているのね。まんま同じ事を言っていたわ」

「同じ仕事をした仲ですからね。それなりには」

「・・・そう。分かったわ。貴方は貴方の仕事をしなさい。責任は私が持ってあげる」

「え?」

「それが責任者の義務ってものよ。じゃ、頑張りなさい」

 

なんか普通に良い人じゃない? 本当にキノコ提督か?

髪型と口調さえまともなら・・・いや、あれも個性と受け取ろう。

いや。うん。キノコ提督はマツタケ提督に進化した。これ、間違いないわ。

 

「意外だったな」

「あ、アキトさん。ども」

「ああ」

 

マツタケ提督を見送る俺の背中にアキトさんが声を掛けてきた。

ま、ブリッジ前の廊下だから、人がいてもおかしくないんだけどさ。

 

「もしかして、聞いていました?」

「ああ。聞いていた。変わるものだな、人は」

「そうですね。でも、多分、戻ったんですよ。きっと本来の提督はあんな人です」

「・・・そうか。キノコはキノコなりの信念があったんだな。それが貫けなかった事を弱いとは思わんよ。それほどまでに気高い信念だったんだろう」

「アキトさん。ガイを殺したキノコ提督はもはや記憶だけの存在。虚像ですね」

「ああ。これからは色眼鏡なしで向き合おう。キノコとは」

 

・・・それでもキノコなんですね、あはは・・・。

それに、やっぱりどこか刺々しい。

まぁ、それだけの事をしてきたからなぁ。

完全な和解はまだまだ先と見ていいだろう。

 

「あ。後で少し時間を頂けますか?」

「ん? 構わんが、何をするんだ?」

「いえ。友人に少しばかり格闘術を習いましてね。少し手合わせして欲しいんですよ」

「ほぉ。接近戦のスキルを身に付けてきたという事か。それは楽しみだな」

「といっても、触りだけですから。手加減は御願いしますよ」

「なに。手加減しても成長はせん。本気でいかせてもらう」

 

うわ。この人、楽しんでいるんですけど・・・。

 

「・・・お手柔らかに・・・」

 

・・・ちょっと後悔している僕。

ああ。ケイゴさん。僕に力を。憑依して身体を使ってくれてもいいですよ。

あ。僕ってばシャーマンじゃないし、ケイゴさんは霊でもなんでもなかった。

はぁ・・・。また医務室のお世話になりそうです。

 

 

 

 

 

「ウリバタケさん。来ましたよ」

 

帰艦してからの僕、意外と忙しいんです、はい。

あの基地で新たに導入したディストーションブレードと大型レールキャノンの調整。

そして、なんと、エックスエステバリス、略してエクスバリスを完成させたいという要望。

いや。無理しないで違う可能性を見つけましょうよ。そう言っても聞かないのがウリバタケクオリティ。

せめて小型グラビティブラストは完成させたいとか。

ジンシリーズを見て、欲求不満になりましたね、この人。

 

「ふっふっふ。あの基地の連中はよく分かっている」

 

・・・あぁ。嫌な予感。

 

「提供されたドリルアーム、ジャイアントアーム、ガントレットアーム。おぉ。夢が広がる~」

 

・・・やはり提供されていましたか。

うまくいったら提供するって言っていただけなのに・・・もうできたんか?

・・・あれか。多分、ウリバタケさんが途中でいいからって言って引き取ったんだな。

間違いなくそうだ。それを調整するのは・・・やっぱり俺か?

 

「ん? 説明して欲しいって顔してんな」

「いや。いいで―――」

「分かった、分かった。説明してやるよ」

 

あの、私の話を聞いてますか?

別に説明しなくてもいいんですが・・・。

 

「ドリルアームは呼んで字の如くだ。腕の先から換装するタイプで、こちらの意思で回り続ける。先端にDF中和装置も付けてあるらしいぞ」

 

好きですね、ドリル。眼が輝いてますもん。

僕は今の状況に目がグルグル回っていますが。

 

「ジャイアントアーム。これもそのままだな。そう、デカイ拳だ。だが、そこにこいつの良さがある。シンプルこそが最強なのだ。アッハッハ!」

 

ウ、ウリバタケさんが壊れている。だ、誰か、救援を・・・。

ジャイアントアームで殴れば治るかな?

 

「最後のガントレットアーム。これは通常の腕に後付する形の武装だ。使い勝手が良いな。基本的にどの機体にもこれは取り付ける事になるだろう」

 

これは確かに便利だな。

腕の横とかにライフル備え付けられれば牽制にも使えるだろうし。

何より唯一の真面目な武器。

 

「うぅ。あいつらは良い奴だ。これだけのサンプルを提供してくれた」

 

ま、まぁ、ナデシコに懸ける期待が凄まじいという事では?

ミスマル提督は娘を乗せている訳だし。

 

「知っているか!? ドリルアームとジャイアントアームはかの有名なロケットパンチ機構を備えているんだぞ!」

 

め、眼が血走っていますよ、ウリバタケさん。

俺は嫌な予感で悪寒が走っています。

 

「知っていますよ。おっちゃんにはロケットパンチを優先してくれって言いましたし」

 

今思えば失敗だったかも。苦労は俺に返ってくる訳だし。

 

「ん? という事はお前がそう提案したってのか!?」

「ガイとか好きそうでしたからね。提案したらやる気になっちゃって、今更ながら後悔―――」

「よくやった! マエヤマ!」

 

ハハハ・・・。喜んで頂けたようで・・・。

とりあえず、背中をバンバン叩くのはやめませんか。

嬉しいのは分かりましたから。

 

「俺の夢は至高のジャイアントアーム、名付けて、ギガントアームを開発する事だ。協力してもらうぜ。マエヤマァ!」

 

あの、これって既に脅しですよね? 拒否したらどうなるの? 僕。

 

「お、俺に出来る範囲でなら」

「おう! 期待させてもらうぜ! ハッハッハ!」

 

・・・はぁ。ハイテンションなウリバタケさんに対し俺は物凄くローテンションですよ。

ヘビーなローテンションです。あ、なんかちょっと違うような・・・。

えっと・・・いやはや、どうなるんでしょうねぇ・・・。

あ、あまりの混乱にプロスさんの口調になってしまった。

最早末期だな。ちょっと休もう。精神的に追い詰められている。

 

 

 

 

 

「・・・はぁ。癒される」

「・・・どうかしましたか? コウキさん」

「いや。なんでもないよ」

 

久しぶりのナデシコブリッジ。

そして、久しぶりのセレス嬢の膝乗せ。

うん。荒んだ心を癒してくれるよ、セレス嬢は。

 

「緩み過ぎよ。コウキ君」

 

いや。ミナトさん。仕方ないんです。

 

「ちょっと色々ありまして」

 

ウリバタケさんとおっちゃんの陰謀に気苦労が絶えません。

アキトさんとはガチバトルの約束までしちゃったし。

 

「今更な気もするけど・・・」

 

えぇっと、何でしょうか?

 

「おかえり。コウキ君」

 

・・・あ。そうだった。

 

「ただいまです。ミナトさん」

 

ナデシコに帰ってきてから色々あってまだちゃんと言ってなかった。

 

「ただいま。セレスちゃん」

「・・・おかえりなさい。コウキさん」

 

振り返って、俺を見上げるようにして、ペコリと頭を下げるセレス嬢。

なんだか、改めて、ナデシコに帰ってきたんだなって実感した。

 

「・・・ん」

 

あ。頭を撫でる感触も久しぶり。

う~ん。やっぱり背が伸びている気がするな。

 

「セレスちゃん。背、伸びた?」

「・・・分かりません」

「う~ん。勘違いかな?」

「多分、伸びているわよ。この年頃の女の子って成長するのが早いから」

 

おぉ。ミナトさんのお墨付き。やっぱり背伸びてるか。

 

「女の子の成長は早いですからね」

「ええ。セレセレもあっという間にレディーになっちゃうわね」

 

セレス嬢が大人になった時・・・。

 

「・・・未来は明るいですね」

「どゆこと?」

「セレスちゃんが成長したら、そりゃあ、もう美人になるだろうなぁ~と」

「ふふっ。間違いないでしょうね」

 

ま、何年も先の話だから今気にしていても仕方ないんだろうけどさ。

 

「・・・何の話ですか?」

「セレスちゃんは将来美人になるだろうなって話」

「・・・美人さんですか?」

「そうだよ。今でさえこんなに可愛らしいからね。将来は凄い美人になるよ、きっと」

「・・・ポッ」

 

いや。本当に可愛らしい。

 

「セレセレね。サンタさんから貰ったテディベアを抱き枕にしているのよ」

 

へぇ。大事にしてくれているんだ。

 

「・・・恥ずかしいです」

「でも、分かるわぁ。あれの抱き心地は最高だったもの」

 

うん。あの感触は最高だった。

 

「・・・あの・・・コウキさん」

「ん? 何かな?」

「・・・今日、一緒に・・・」

「一緒に?」

 

何をしようっていうのかな?

 

「・・・寝てくれませんか?」

「・・・・・・」

 

・・・・・・え?

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

・・・・・・あ。

 

「・・・駄目ですか?」

 

な、涙目。や、やばい。

 

「えぇっと、それは、大丈夫なのかな?」

「・・・駄目ですか?」

 

あぁ。な、泣かれる? ちょ、ちょっと待とうか。

 

「ミ、ミナトさん」

「あら? 別にいいんじゃない。私も良くセレセレと一緒に寝ているわよ」

「で、でもですね、俺って男だし」

「・・・駄目ですか?」

 

うがぁ! 俺はどうすれば・・・。

 

「・・・分かりました。諦め―――」

 

い、いや。大丈夫だろう。おう。大丈夫だ。

セレス嬢を泣かせるより何倍も良い。

 

「い、いいよ。セレスちゃん」

「・・・いいんですか?」

「も、もちろんさ。おいで」

「・・・ありがとうございます」

 

ほっ。良かった。

でも、そんなに眼をキラキラさせるようなものかな?

 

「セレセレ」

「・・・はい。何でしょうか?」

「一緒にお風呂には入らないの?」

「ゴホッ!」

 

ミ、ミナトさん。何を言っているんですか!?

 

「・・・入りたいです」

「だってさ。コウキ君」

 

ニ、ニヤニヤして、ミナトさん、流石にそれは・・・。

 

「・・・駄目ですか?」

 

あぁ。この眼は駄目。断れる気がしない。

 

「う、うん。いいよ。一緒に入ろう」

「・・・はい!」

 

げ、元気な返事だね。セレス嬢。

 

「私も一緒に入ろうかしら」

「ミ、ミナトさん!?」

「・・・一緒に入りましょう」

「セ、セレスちゃん!?」

「は~い。決定! 今日は二人でコウキ君のお部屋にレッツゴー」

「・・・レッツゴー・・・です」

 

楽しそうな二人。

えぇっと、俺ってば大丈夫なの?

いや。いいんだけどさ。

むしろ、掛かって来いって感じなんだけど・・・。

ま、まぁ、成せば成るさ。何事も、うん。

 

 

 

 

 

「さて、準備はいいか?」

 

ブリッジでの癒しタイムを終え、さっき頼んでおいたアキトさんとの手合わせ。

いや。何だろう? あの顔、本気っぽい。

 

「え、ええ。いいですけど、お手柔らかに」

「ふっ。まずはそちらの実力を見ないとな」

「で、ですよねぇ」

「だが、無論、手加減なしだぞ」

 

ど、どっちなんだよ!?

 

「では、始め!」

 

は、始まっちまった。

 

「ふぅ・・・」

 

まずは深呼吸。

ケイゴさんは言っていた。

冷静に、それでいて、心を燃やせって。

要するに、クールになりつつ、ホットになれ。

・・・うん。正直な話、理解してない。

と、とにかく、まずは心を落ち着かせよう。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

俺の正面で構えているアキトさん。

おし。俺も構えよう。

 

「ッ!? その構えは・・・」

 

なんか驚いているけど、今は勝負の時。

冷静に相手を眺めつつ、隙を窺う。

 

「タァァァ!」

 

うん。隙なんかない。それなら・・・自分で作るまで!

アキトさんに迫って掌を突き出す。

 

「ふっ」

 

ダンッ!

 

「グッ!」

 

腹に掌底。

あっさりと避けられて一撃を打ち込まれた。

 

「鋭いし、早さもある。だが、正直すぎないか?」

「俺の師匠がそういう人でして。でも、師匠はそれでも打倒する強さがありましたよ」

 

そう。俺はまだまだだけど、ケイゴさんクラスまでいくとフェイントすら必要ない。

どんなフェイントをしようと、どれだけ不意打ちしようと、まるで全て分かっているかのように対応されてしまう。

シンプルこそが強い。いや、基本を鍛え抜いたからこそ、シンプルだけで圧倒できるんだと思う。

 

「ほぉ。相当の実力者に弟子入りしたようだな」

「ええ。お陰様で耐久力だけは師匠よりも上ですよ」

 

ケイゴさんは鬼。偽りなき鬼です。

手加減してくれていたんだろうけど、一発喰らう度に焦った。

何度か気絶させられた事もある。

 

「そうか。だから、まるで利いてないんだな」

「いやいや。充分利いていますよ」

 

腹筋鍛えといて良かったぁ。

ケイゴさんと訓練してなかったら、寝込むぞ、痛みで。

 

「次だ」

「はい」

 

たまには意地見せないとな。

このダメージ、少しぐらいは返してみせるさ!

・・・きっと

 

 

 

 

 

それから、結構の時間を手合わせに費やした。

アキトさんは予想通り強くて、まるで歯が立たなかったけど・・・

身体能力では俺が勝っている。それは確か。

でも、虚を突く攻撃、裏を付く攻撃、こちらの攻撃を受け流しての攻撃など。

正面から打倒するケイゴさんとはまた違った強さで、碌に攻撃を当てる事が出来なかった。

ケイゴさんは柔術と言いながらも正面から打ち破る、剛のスタイル。

アキトさんは時折フェイントなどを混ぜながら隙を作り、不意を付く、柔のスタイル。

まるで反対のスタイルで、戦う側としては非常に参考になる。

・・・どちらも圧倒的に敗れているという事には眼を瞑ろう。

 

「凄まじい身体能力だな」

「まぁ、ナノマシンで強化されていますから」

「そうだったな。だが、まだ振り回されている感がある」

 

うん。そうなんだよね。

俺は身体能力に技術が追いついてない。

あまりにも強すぎる身体能力に振り回されているって感じ。

ケイゴさんにもそれは指摘された。

まぁ、身体能力が優れているからこそ剛のスタイルを教わってきた訳だけど。

 

「アキトさんは技術が凄いんですね。どんな攻撃も捌かれましたよ」

「こちらに来る前であれば、身体も鍛えてあったんだが、こちらに来る時は身体が貧弱でな」

 

劇場版の時はかなり鍛え込まれていた訳だ。

それに比べちゃうと、原作開始時点での身体能力じゃ満足できないか。

 

「こちらに来てすぐに鍛え始めたんだが、やはり物足りなくてな。その状態でも鍛えられる事は何だと考えた所、捌きだったんだ」

「では、ずっと攻撃を捌く事を?」

「ああ。ひたすらに捌く事を鍛え続けた。今の俺があるのはその経験だな」

 

そういえば、アキトさんには劇場版までの経験があるんだよな。

その時、ひたすら鍛えていたアキトさんがこの世界に戻ってきて更に鍛えた。

これって、単純に何倍もの経験があるって事だよね?

そりゃあ、勝てないよな。俺なんてまだ習ったばかりなんだし。

 

「次は一撃入れます」

「ふっ。いつでも掛かって来い」

 

かといって、俺も諦める訳ではない。

こう見えても負けず嫌いなんで、自分。

ケイゴさんにだって未だに一撃入れられてないし、また一人目標が出来たな。

絶対に二人とも一撃入れてやる。

・・・打倒するっていうのが目標じゃない俺は小さい男なのだろうか?

いや。千里の道も一歩から。コツコツと目標を達成していこうではないか。

 

「おし。ありがとうございました。アキトさん」

「ああ。こちらこそ。鍛錬になった」

 

それは良かった。

んじゃ、さっさと帰りましょうかね。

ミナトさんとセレス嬢と一緒にお風呂入る約束しちゃったし。

まずは一人で即行入る。だって、汗臭いのとか嫌だし。

その後、三人で入ればいいだろう、うん。

・・・いや。なんかドキドキしてきたな。

心を落ち着かせる為にも一人で一度風呂に入るべきだろう。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ―――」

「ちょっと待ってくれ」

 

な、何だ!? 俺の風呂入りを妨害するつもりか!?

・・・そんな訳ないか。アキトさんは知らないだろうし。

 

「その柔術は誰に習ったんだ?」

 

ケイゴさんです。

と言っても分かんないよな。

 

「基地にいたパイロット候補に習いました」

「名前は分かるか?」

「えぇっと、カグラ・ケイゴさんですけど」

「・・・カグラ・ケイゴ・・・」

 

ケイゴさんと知り合い?

まぁ、俺は未来全てを知っている訳ではないからな。

俺の知らない所でアキトさんがケイゴさんと知り合っていてもおかしくはない。

どこにも関連性が見当たらないけど。

 

「どうかしたんですか?」

「・・・いや。人違いか? しかし・・・」

「あの? アキトさん?」

 

何だろう? 物凄く考え込んでいる。

なんか深刻そう。

 

「アキトさん?」

「あ、ああ。すまない」

 

どれだけ考え込んでいるんですか。

 

「名前にも覚えがあるが、同じ名前の別人という可能性があるから何も言わん。だが、一つだけ確信した事はある」

「えぇっと、それは?」

「コウキ越しにだから違う可能性もあるが、十中八九、そいつは木連式柔を知っている」

「え? それって・・・」

「そうだ。お前の構えや型。それら全ては俺も習った木連式柔の一部。要するに、そいつは・・・」

 

木連式柔。

木連人が用いる柔術の流派。

優人部隊の隊員は誰もが柔術の達人であるらしい。

木連人の男にとって木連式柔は一つのステータスであり、木連式柔を知るという事は木連人であるという事。

即ち・・・。

 

「木連人である可能性が非常に高いという事だ」

 

・・・ケイゴさんが木連人?

地球の基地にいたケイゴさんが・・・木連人だっていうのか?

 

「そ、そんな事・・・」

「ありえない話ではない。木連が地球の情報を得たい為に誰かを送り込んで来ても不思議はないだろう?」

「でも、ケイゴさんはコロニー出身ですよ。資料にだって、そうやって―――」

「コウキ。お前は自分の事を忘れてないか?」

「え?」

「お前はどのようにして戸籍を手に入れた?」

 

・・・ハッキング。データの捏造。

 

「そうだ。データの捏造をすれば、木連人であろうと地球に戸籍を持てる」

 

ケイゴさんが木連人?

それじゃあ・・・。

 

「絶対にそうとは言えないが、頭に入れておいても損はないぞ」

「・・・はい」

「それじゃあな」

 

アキトさんが訓練室から出て行く。

俺はその背中を見送る事しかできなかった。

 

「・・・ケイゴさん。貴方は・・・木連人なのですか?」

 

ただただケイゴさんが木連人であるかどうかを自問自答する。

仮にケイゴさんが木連人であった場合のカエデの事を考えながら・・・。

 

 

 

 

 


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