「ほら。コウキ君。セレセレ洗ってあげて」
「うぇ!?」
「・・・御願いします」
「えぇっと、う、うん、分かった」
「それ終わったら私も洗ってね」
「えぇ!?」
「あ。それとも、洗って欲しい?」
「い、いいですよ。じ、自分で洗います」
「あら? 遠慮なんかしなくていいのに」
「い、いやいや」
「そっか。セレセレに洗わせようって魂胆ね。やるぅ」
「ち、違いますよ!」
「・・・洗いましょうか?」
「だ、大丈夫だから。ね、ね」
「・・・私じゃ駄目ですか?」
「うぉ! そ、そんな眼で・・・」
「それじゃあ、私も一緒に洗ってあげましょうか?」
「ミ、ミナトさんは結構です」
「ふふっ。初心ねぇ」
「セレスちゃんも大丈夫だから」
「・・・分かりました」
「じゃ、じゃあ、シャンプーするからね」
「・・・御願いします」
「あ。その前にシャンプーハット持ってきてあるからそれ使って」
「あ。はい。了解しました」
「そっか。そんな事があったんだ」
セレス嬢とミナトさんとお風呂に入った。
あぁ。心臓が痛い。破裂するかと思ったぞ、マジで。
その後、ベッドに三人で入る。
セレス嬢を真ん中にして、その両脇に俺とミナトさんで。
上から見れば、ミナトさん、セレス嬢、俺という見事な川の字になっている事だろう。
いや。ベッドが割と大きくて良かった。
小さかったら川の字には寝られなかっただろうし。
「はい。まだ決まった訳ではないんですが・・・」
風呂上がってからは色々と談笑した。
俺がいない間のナデシコや俺が基地で経験した事など。
離れていた期間が長かった分、話は盛り上がった。
セレス嬢もたどたどしいものの、一生懸命に話してくれたて・・・。
その微笑ましさに癒されたのは言うまでもない。
「そういう可能性があるっていう事は知らなかったの?」
「ええ。俺はそういう裏側の事情とかは知りませんでしたから」
結構長い時間を話していたから疲れてしまったのだろう。
セレス嬢が可愛い寝息をたてながら寝てしまった。
しかも、俺をテディベアと勘違いしているのか、俺に抱き付きながら。
いや。ま、別にいいんだけどさ。暖かいし。可愛いし。
そういえば、なんでテディベア、持ってこなかったんだろうなぁ?
いつもあれと一緒に寝ているって聞いていたからてっきり俺の部屋にも持ってくるかと・・・。
「そう。それで、コウキ君はどうしたいの?」
「・・・俺は・・・」
セレス嬢が寝たのを確認してから、さっそくミナトさんに相談。
カグラ・ケイゴ。俺の元副官。信頼できる好青年について。
木連人だとしたら、何をしに地球までやって来たのだろうか?
もちろん、俺が考えた所で結論が出る訳ではない。
知っているのは誰でもなく、ケイゴさんしかいないのだから。
「ケイゴさんとじっくり話したいです」
別にスパイ活動を咎めようと思っている訳ではない。
ただ、何を目的とし、何を考えているのかを知りたいだけだ。
「ケイゴさんは俺に言いました。木連がどのような存在であり、提督がどう考えているのかを知りたいって」
「木連人でありながら、木連の存在を知りたいって言ったの?」
「恐らく、ですが、木連という存在を知りたいのではなく、地球側から見る木連を知りたかったのではないかと思います」
「なるほどね。客観的という訳でもなく、相手側の視点から自分達の存在を見たかった訳だ」
「もし、俺が木連人だったらという話ですけどね。まだケイゴさんがそうだと決まった訳ではないので」
「そうね。でも、納得できない理由ではないわ。敵対している側から自分達を見れば、違った見方ができるかもしれないし」
「ええ。まぁ、単純に客観的に木連を眺めたいという考えもあったかもしれませんけどね」
少なくとも、ケイゴさんはゲキ・ガンガーに矛盾を感じていた。
木連人、特に優人部隊に多い“ゲキ・ガンガーを盲信し、自分側を正義と見ている者達”とは違う。
一方的な価値観ではなく、両者の価値観を知ろうというのはどこかケイゴさんらしいと思うし。
「それに、一兵士が提督の、要するに、首脳陣の考えを知りたいっていうのも少し違和感があります」
「そうね。知りたいと思う人がいてもおかしくはないけど、話を聞く限り、どこか距離を置いて眺めているようにも感じるわね」
「ケイゴさんは見極める為にここにいる。そう言っていました。見極めたその先に何があるのか。それが気になります」
見極める為にここにいる。
それで、お眼鏡にかなったのなら、ケイゴさんは何をしようと考えていたのだろうか?
もし、お眼鏡にかなわなかったのなら、ケイゴさんは何をしていたのだろうか?
疑問は尽きない。
「こう思う俺もいるんです。スパイとして何かを調査する目的もあったのかもしれないけど、歩み寄るという目的もあったかもしれないって」
「前提として調査はあるけど、接触してパイプを持つに相応しいか見極めたかったって事?」
「はい。そうでなければ、わざわざ改革和平派に近付きませんよ。だって、改革和平派ぐらいですよ? 木連と本気で和平を結ぼうなんて考えているのは」
「そっか。向こうにも和平という意思があるから、改革和平派に接触してきたっていう見方もあるのか」
「俺の願望でもありますけどね。俺としてはケイゴさんを疑いたくないんです」
「あらあら。男の子の友情って奴?」
「茶化さないでくださいよ」
今まで上司と部下として付き合ってきたけど、きちんと向き合えていたと思っている。
階級という壁もあったけど、そんなものに囚われていなかったという自信もある。
俺にとってケイゴさんは間違いなく友人だ。
そんなケイゴさんを信じてみようと思うのはおかしくないだろう?
もちろん、今までの全部演技だったって言うなら話は別だけど。
きっとケイゴさんはそんな人じゃない。
演技をしながら人付き合いとか絶対に出来ないタイプだ。
それはあの真っ直ぐな拳が表している。
まぁ、拳で分かりあえる程、俺は格闘家としての道を進んでいないけどさ。
「そっか。それじゃあ、きちんと話してみないとね」
「はい。これからナデシコはどう動くんでしたっけ?」
予定が分からなくちゃ機会も得られない。
「お掃除よ」
「え?」
お掃除?
「そう。地球に落ちているチューリップを一個一個破壊するの。今のナデシコに求められているのは地球のお掃除」
「まだチューリップを破壊できるのはナデシコぐらいしかありませんからねぇ」
ナデシコの主砲であるグラビティブラスト。
やはりチューリップ級ともなると、これぐらいの威力がないと破壊できない。
グラビティブラスト搭載艦は着々と出て来ているが、まだ性能評価の段階。
頼りになるのはナデシコとコスモスだけって事だ。
ちなみに、宇宙はコスモスが担当してくれているらしい。
いや。花の名前でありながら、宇宙を表す名前でもあるコスモス。
お似合いの名前です。宇宙に咲くコスモスとは、これまた如何に。
「今回は極東支部で補給したでしょ? 戦闘しては基地で補給というのを繰り返して、世界中を回るらしいわよ」
うわ。世界中を回るとか、随分と壮大なスケールだ。
「どうする? 通信っていう手もあるわよ?」
ナデシコからでも一応は各基地に通信できる。
でも、こういう話はちゃんと向き合って話したいから・・・。
「いえ。次に極東支部に来た時にします。きちんと話したいですから」
「そう。分かったわ」
・・・そういえば、あそこにはカエデも残っているんだよなぁ。
ケイゴさんが木連人だったとしたら、カエデはどう思うのだろうか?
「どうしたの? また、何か考え事?」
「あ、いえ。なんでもないです」
ミナトさんはカエデとケイゴさんの関係を知らない訳だし。
相談しても仕方ないよな。当事者同士で解決する事でもあるし。
「あ。そういえば、カエデの件、ありがとうございました」
「カエデちゃんの件って?」
「基地を離れる時に御願いした奴ですよ。お陰様で仲直りできました」
「あぁ。あれね。実は私、何もやってないの」
「え? そうなんですか?」
何もやってないのにカエデが考えを改めてくれたって事?
へぇ。そんな事がありえるんだ。
「そうよ。カエデちゃんと話そうと思って、食堂まで行ったんだけど、知らない男の人がカエデちゃんを説得していたのよ。だから何もせず帰ってきちゃったわ」
「知らない男の人ですか?」
「ええ。黒髪でコウキ君よりちょっと背が高いぐらいの男の人」
・・・それって、ケイゴさんじゃないか?
「あの、カエデがケイゴって呼んでいませんでしたか?」
「・・・あ。そういえば・・・」
どこか気まずそうなミナトさん。
いや。ミナトさんは悪くないんだけどさ。
「そ、それじゃあ、そのカエデちゃんと話していた人が木連人の疑惑があるケイゴさんっていう人だって事?」
「・・・はい」
相談しなくても一緒だった。
ミナトさんも見ていたんだな。カエデとケイゴさんの事。
「・・・複雑ね。私が見た限り、二人ともなかなかお似合いだったのに」
「・・・ええ。応援したいんですけど・・・ケイゴさんの出身を聞いた時にカエデがどう思うか。それが心配です」
「・・・そうね」
・・・なんか暗くなっちゃったな。
カエデが木連に対して恨みを持っている限り、ケイゴさんじゃ厳しいかも。
う~ん。複雑だ。
「ま、まぁ、あれよ、まだそうと決まった訳じゃないし」
「・・・それもそうですね。それに、もしかしたらケイゴさんがカエデを変えてくれるかもしれません」
「そっか。むしろ、そっちの方に期待しよっか」
「ええ。それに、そもそも俺達がお節介やくような事でもないですよ。恋愛は当事者達の問題ですから」
「そうね。でも、少し背中を押すぐらいはいいでしょ?」
「ま、そのあたりはお任せします」
ミナトさんの趣味だもんね。
人間観察。特に恋愛観察は。
「それじゃ、そろそろ寝ましょうか?」
「そうですね」
「ねぇ、コウキ君」
「はい」
「おやすみの前に・・・」
「ええ」
久しぶりの唇の感触で心地良い眠りに付く事が出来ました。
三人で川の字になって眠るのも悪くないかな。
いや。むしろ、幸せです。ええ。とっても。
「マエヤマさんはどうしますか?」
「新武装を色々と試したいので、エステバリスで出ます」
「了解しました」
はい。という訳で久方ぶりの戦場。
もちろん、実機での訓練もしていましたけど、戦場には出ていませんでしたから。
いや。もうずっとシミュレーションばっかりだったので、腕が落ちてないか心配です。
「いいの? 自らパイロットなんてやっちゃって」
「大丈夫ですよ。ナデシコでなら、別段目立ちませんし」
ナデシコパイロットは誰もが凄まじい腕前だからね。
俺は目立たない自信がある。アキトさんでしょ、目立つなら。
「それに、これだけ戦力が整っちゃっているとレールカノンの出番もありませんし」
何よりもこれが大きい。
エステバリスの装備も充実している今、無理にナデシコが攻撃する必要はない。
ナデシコはDFを張りつつ、GBをチャージして、一気に殲滅。これがお仕事。
ま、俺自身もシミュレーションでしか試してない新武装の性能評価をするだけだから、別に心配はいらなかったりする。
「そう。それならいいけど」
「心配要りませんよ。大丈夫です」
「分かった。いってらっしゃい。コウキ君」
「はい。それじゃあ」
始めるとしますか。
「ウリバタケさん」
「おう。マエヤマ。出撃するんだってな。武装の方、どうする?」
「とりあえず色々と試します。何回か補給に戻るので準備をしておいてください」
「分かったぜ。それなら、最初はディストーションブレードと大型レールキャノンを搭載しておく」
「御願いします」
基地で補給後、初めての戦闘。
新しい武器が導入されて初めての戦闘でもあり、興奮気味なのが何名か。
「うぉぉぉ! こ、これはロケットパンチかぁ!」
ガイの装備は両手にジャイアントアーム。
これでディストーションアタックしたら半端ないだろうなぁ。
不恰好さに眼を瞑れば、攻撃力はダントツかもしれん。
「おぉ! 剣じゃねぇか! 居合い抜きは・・・出来ねぇか。後でウリバタケに作ってもらうかな」
居合い抜きが特技らしいスバル嬢は両手にディストーションブレード。
射撃撹乱にはガントレットアームの簡易ライフルを用いるらしい。
完全に接近戦する気まんまんって事だよね。
「へぇ。ドリルか・・・。僕も嫌いじゃないよ。こういうの」
そして、意外にもドリルアームに興味を示したのはアカツキ・ナガレ。
いや。てっきりリアル系が好きだと思っていたけど、意外と会長もスーパー系が好きなんじゃないか?
嫌いみたいな事を言っていたけど。ほら。天邪鬼って奴?
「それでは、行くぞ」
他のメンバーもそれぞれ任意で武装を搭載。
でも、やっぱり、一番人気はフィールドガンランス。
あれってやっぱり使い勝手いいからね。
ま、色々と試してみてください。
ちなみに、エクスバリスはまだ調整中の為、誰も使いません。
小型グラビティブラストを撃つのはいつになるのかね?
まぁ、難しいから、気長にやるしかないでしょ。
だってさ、劇場版で小型グラビティブラストって登場してないでしょ?
という事は五年後でも実現されてないって訳。
そりゃあ、急には無理でしょう、うん。
「マエヤマ・コウキ。高機動戦フレーム。行きます!」
うぅ・・・。このG。凄く久しぶり。
やっぱり心臓に悪いね、これ。
ちなみに、今回からIFSを使う。
こっちの方が俺的に合っているしね。
だって、ナノマシンの恩恵があるもの。
『こちらテンカワ機。各機、散開。チームを組んで攻撃に当たれ』
「『『『『『『了解!』』』』』』』」
総勢八名による殲滅戦。
ナデシコの出番がないぐらい、暴れまわってしまおう。
『オラァァァ!』
ジャイアントアーム。
エステバリスの拳の何倍もの重量と大きさを誇る攻撃力重視の武器。
拳を囲むようにDFを展開し、接近しては次々と殴り壊していく。
いや。凶暴な獣を見ているようだ。ガイ、熱いぞ。
ちょっと心配な腕と各間接部。後でウリバタケさんと意見交換しよう。
『おぉ。おぉ。いいね。これ』
ドリルアーム。
先端にDF中和装置を付けた貫通力重視の武器。
貫いてよし。飛ばしてよし。殴ってよし。
三拍子揃って意外と使い勝手がいいかも?
問題は何も握れない事だけだな。
まぁ、拳だけで近距離から中距離はカバーできるから問題ないか。
やはりベストは片手だけにドリルつけて、もう片方で牽制かな。
アカツキ・ナガレ。会長が熱血しちゃっています。
『ハァ! フッ! タァ!』
ディストーションブレードとガントレットアーム。
ガントレットアームで搭載された簡易ライフル、まぁ、ハンドガンとでも言おうかな、で撹乱し敵に近付く。
そして、一閃。簡単に敵を切り裂いていく。
うーん・・・やっぱりDFを纏わせるのは大きいみたいだな。
攻撃力が段違いだ。スバル嬢。どんどん切り裂いちゃって。
・・・ストレスが溜まっている訳じゃないよね? その暴れん坊振りって。
『コウキさん。チームを組んで戦艦に向かいましょう』
「了解しました。イツキさん」
万能型パイロットのイツキさん。
射撃も格闘も優秀というバランスの取れたパイロットだ。
ヒカルがポジショニングに長けている万能タイプならイツキさんは各技能に長けている万能タイプといった所。
その技量は俺も知っているし、安心して背中を任せられる。
「大型レールキャノンを試したいので、敵の方を牽制していてください」
『了解』
大型レールキャノン。
おっちゃんはDFを纏った敵戦艦を貫けると言っていた。
シミュレーションでもその性能は確認済みだ。
「セット」
空中で放ってもいいけど、色々な場所で試したい。
最初は地上から。しっかりと固定した上で放つ。
ダンッ! ダンッ!
地上に展開。折りたたんであったのを展開すると本当にでかい。
エステバリスの全長を超えるっていうのは本当だったらしい。
太さもかなり。これだけの穴からそれ相応の弾が出たら、そりゃあ凄いだろうよ。
「イツキさん。離れてください」
『はい』
前方でラピッドライフル片手に敵を撹乱してくれているイツキさん。
準備完了です。ありがとうございました。
「発射!」
ズドンッ!
いや。凄い音。
反動は・・・それ程でもないかな。
予想よりはなかった。流石に固定してあるのは大きい。
「・・・・・・」
撃たれた弾を眼で追っていく。
凄まじい速度だが、機体で解析と同時に見ているから充分に把握できる。
数多のバッタの隙間を縫うように敵戦艦に直接向かう。
バッタに当たって威力が落ちたら検証できないからね。
当たらないでよ。頼むから。
「DFに接触。貫けるか?」
敵戦艦のDFに接触したレールキャノンの弾。
DFさえ突破できれば、敵戦艦の装甲は紙のように薄いから、沈むだろう。
「・・・うし」
敵戦艦の破壊を確認。
すぐさまレールキャノンを折りたたみ、肩に装着。
こいつは熱放出が凄まじいから、連続では使えない。
現在、冷却中。その間は、ディストーションブレードの出番だ。
『援護します』
「御願いします」
流石、イツキさん。
こっちの意図に気付いている。
「ディストーションブレード展開」
ブオンッ!
いいね。この音を聞く度にやる気が漲ってくるよ。
「ケイゴさんに笑われないようにしなくちゃな」
柔術と共に剣術も少し習った。
基本だけと言えど、習った事に違いはない。
恥をかかせちゃいかんだろう。
「フッ」
一閃。
両手で柄を持ち、接近してくるバッタを切り裂く。
DFを纏っていようとディストーションブレードには敵わない。
「おっと」
ミサイルは確実に避ける。
切り裂いてもいいけど、爆発に巻き込まれた馬鹿みたいだしね。
「・・・低いな」
空中で戦っている時、下から攻められると意外に対処しにくい。
ディストーションブレード、改め、DBは下には届かないし。
まぁ、下降しながら対処すればまったく問題ないんだけど、折角だから・・・。
「ハァ!」
DFを纏わせた足で蹴り裂く。あ。これ、造語ね。
折角、柔術の足技も習ったんだ。使わなっきゃ損、損。
あれだね。気分は流浪人に敵対した御庭番衆の御頭。
剣術と柔術の複合。これ、意外といけるかも・・・。
「・・・狙ってみるか」
どことなく隙がある敵戦艦。
途中に何体かバッタがいるけど、気にしちゃいけない。
すれ違い様に切り捨てて、戦艦もDBで墜としてしまおう。
「イツキさん。突っ込みますので援護を御願いします」
『危険ですが、教官時代のコウキさんを知っているので安心して任せられます』
「どうも」
一応は教え子と教官。俺の機動を知っている。
教官時代はそれなりに無茶な事も成し遂げた。シミュレーションでだけど。
イツキさんも援護してくれるようだし、すぐに終わらせてやる。
「ハァァァ!」
高機動戦フレームの特徴である瞬間加速を利用して、一気に最高速度へ。
出来るだけ速度を落とさないよう必要最低限の動きで避ける。
蔓延るバッタを時に切り捨て、時に避け、殆ど直線で肉薄した。
「ウォォォ!」
DFに向けてディストーションブレードを振り下ろす。
ディストーションフィールド・・・突破ぁ!
「ハッ!」
正面からぶった切る!
ディストーションブレードはまるで熱したナイフでバターを切るかのように敵戦艦の装甲を断ち切った。
「離脱」
振り下ろした時の下に流れる力を利用して下方向に離脱する。
パッとDFを全身に纏い、最高速度で離れる。
バァン!
爆発音を背に、次の標的へ向かう。
次は空中からの大型レールキャノン。
反動がどれくらいか実機で試す。
「セット」
空中には流石に固定できない。
一応は重力場で足場を作り出せるけど、あまり意味はないだろう。
「発射」
若干、遠い位置にあるが、この距離でも充分。
標準をあわせて・・・。
ズドンッ!
「うお! ・・・グゥ・・・」
凄まじい反動。
予想通り足場なんてなんの意味もなく、元々いた位置から何メートルも移動していた。
でも、威力は抜群。
多少の距離なんてものともせず、敵戦艦を沈めた。
「次!」
その後の展開は圧倒的だった。
スバル嬢とガイが前線で縦横無尽に動き回り、その抜群の攻撃力で敵を屠る。
ヒカルが抜群のポジショニングで前線組みをフォローし、敵に反撃の隙を与えない。
大型レールキャノン、ラピッドライフルと遠距離から支援に徹するイズミさんは頼もしい限り。
会長もオールラウンダーな能力を発揮し、一人で何人分もの働きを見せていた。
イツキさんは主に俺の援護をしてくれ、更には他のパイロットの援護もしてみせた。
そして・・・。
『ハァァァ!』
アキトさんの活躍は言葉では到底表せそうにない。
機体が出せる最高速度を維持しつつ、急旋回、急上昇、急下降と飛び回り。
『ハァ!』
片手にそれぞれディストーションブレードを持ち、あっという間に殲滅していく。
バッタだろうと戦艦だろうと、その勢いは止まらず、簡単に潰していった。
一言で表すなら嵐か? アキトさんが通った場所で生き残っている敵はいなかった。
鬼神の如き活躍。紛れもなく、アキトさんこそが最強のパイロットだと再認識した。
『チューリップ。グラビティブラスト射程距離圏内に入りました』
『グラビティブラスト発射!』
『グラビティブラスト発射します』
そして、締めは黒き閃光。
重力という名の暴力がチューリップを破壊する。
敵戦力はもはやナデシコを妨害する力もなく、ナデシコは何の損傷もないまま戦闘終了となった。
抜群の性能を誇る戦艦。そして、それらを的確に運営するクルー達。
最後に、そんなナデシコを確実に護り切る凄腕のパイロット達。
それら全てが揃ったからこそこんなにも凄まじい戦力になるのだろう。
こうしてまた、ナデシコの名声が世界中に轟くのだった。