「アマノ機帰艦。入れ替わりにスバル機が発進しました」
「了解」
いや。今日も相変わらずの戦闘。
地球に落ちたチューリップの数は途轍もないらしく、ナデシコフルスロットルです。
ええ。馬車馬の如くとは正にこの事を言うのではないでしょうか?
あぁ、安息を、平穏を、癒しを、我に与えたまえ。
「・・・コウキさん。データの記録は終わりましたか?」
「もうちょいかな」
あ。ちなみに、今回の戦闘に僕は出撃していません。
だってさ、はっきり言って、俺っていらない子じゃん?
いや。それなりに活躍できる自信はあるけどさ、あの七人で充分だと思うんだ。
だったら、俺に出来る事をするべきだと、そう思った訳。
その為、今の俺は各パイロットの機動データを記録、及び、解析中。
CASを作る時にもしたんだけど、今回はちょっと違う。
武装面も充実してきた事だし、今度はソフト面、所謂OSの改造でもしようかなと思って。
空き容量はまだあるから、限界圧縮して凄まじいソフトをぶちこんでやろうかなと。
とりあえず標準補正ソフトは全機に搭載させよう。
機動予想、もとい、未来予想と空間把握ソフトは処理能力ないとむしろ頭がパンクするから載せない。
これは人を選ぶ怪物ソフトだからな。俺だってナノマシンの恩恵がなければ絶対に無理。
でも、多少劣化させたソフトなら載せられるかもしれん。・・・ちょっと考えてみるか。
「・・・お手伝いしましょうか?」
む。折角の申し出だが、俺一人でも充分なんだよなぁ。
あともうちょいだし。わざわざ手伝ってもらわなくてもね。
「ううん。だいじょ―――」
「・・・グスッ」
「や、やっぱり御願いしようかな。いい? セレスちゃん」
「・・・はい。頑張ります」
な、涙目には勝てません。
「とりあえず・・・」
セレス嬢もIFS強化体質である以上、処理速度は凄まじい筈。
唯のパイロット達よりは間違いなく速い。
うん。じゃあ、まずはこいつをかけてもらおう。
「はい」
「・・・これは・・・」
「そう。噂のサングラスさ」
ま、サングラス型なだけだけど。
レールカノンを使用する際に装着する奴で、これが意外と便利なんだ。
レールカノンごとにカメラ的な情報を得られるから、ナデシコ周辺の視界をいっぺんに確保できる。
俺一人でも対応できるけど、二人で分割すれば更に詳しく調べられるしね。
「どう? いけそう?」
「・・・はい。大丈夫です」
流石はセレス嬢。素晴らしいぞ。
「機動データとバイタルデータを記録して欲しいんだけど」
「・・・分かりました」
右半分を俺が担当。左半分をセレス嬢が担当。
これでさっきより詳しいデータを得られるぞ。
解析はいつでもできるしな。まずは記録、記録っと。
「ガイ。ドリルアームでロケットパンチだ」
『おう。いっけぇぇぇ! ゲキガンロケットドリル!』
技名長いよ! ま、まぁ、いいけどさ。
「ふむ。相変わらずガイは技名を叫ぶ時に興奮気味だな。まぁ、こいつは情熱、熱血こそが力の源だから仕方ないけど」
ゲキガンロケット・・・うん。面倒だ。
ドリルアームでのロケットパンチは中々の威力。
ジャイアントアームと比べると攻撃力では劣るが、貫通力では断然上。
ジャイアントアームはDFを纏うっていう付加効果があるからな。仕方ないって感じ。
ドリルアームの利点が活かせるのは相手のDFが強力な時だ。
ジャイアントアームでも中和は可能だけど、その後が続かない。勢いが止まっちゃう。
その分、ドリルアームでやれば、貫通後、更に敵本体まで貫通してくれる。
この威力は心強い。パッと見、ジャイアントアームよりは格好が付くし。
『ハァ! うらぁ! かかってこいや!』
「リョーコさんは相変わらずか」
あの人も基本的に熱血。あれだね。戦闘狂の領域一歩手前って奴。
向こうの数が多ければ多いほどに興奮して、好戦的になるって・・・。
しかも、問答無用に突っ込んでいく。ディストーションブレード片手に切りまくる姿はどこの剣豪だよ!? とか思った。
ウリバタケさんはウリバタケさんでちゃっかり鞘みたいのを用意するしさ。
しかも、これ、レールガンの機能を活用しているらしく、イメージで反発を起こせる。
ああ。分かってくれるだろ? 要するにレールガンをぶっ放すような勢いで剣と鞘を反発させて超高速で剣を振り抜く訳。
いや。その威力の凄まじい事。ただでさえDF纏って半端ないのに、更に切れ味鋭くなっちゃったよ。
但し、問題もある。DFを纏ったままでは鞘に入らないし、反発の効果も得られないのだ。
まぁ、そんな簡単に物事は運べないよな、うん。
対策としては、抜くと同時にDF纏えばいいんじゃね? という意見が出たけど、それって単純に無理でしょ。
タイミングがシビア過ぎる。ちなみに、負けず嫌いのスバル嬢は必死に習得中。いつか習得しそうで怖い。
『こっちも意外といいね。僕は好きだよ、こういうの』
「飄々としているくせに興奮している模様。やっぱり好きなんじゃん、そういうの」
ジャイアントアームでお楽しみ中の会長。
その抜群の攻撃力で敵を殴り潰し、握り潰していく姿は結構怖い。
拳骨されただけで戦艦へこむとか、ありえないでしょ。
いや。おっちゃん、自重。
「ヒカルとイツキさんは器用だよね」
この二人とはこれといって特別な武器がない。
その分、どの武器でも扱える器用さを持つ。
ヒカルはどちらかというとフィールドガンランスがお気に入り。
イツキさんはラピッドライフルとディストーションブレードの組み合わせがお気に入りらしい。
片手に銃、片手に剣で、臨機応変に対応していく姿は流石としか言いようがなかった。
特に目立つ訳でもないけど、まぁ、周りが目立ち過ぎなだけなんだけどね、イツキさんは玄人な感じがしてその筋の人に好かれそう。
ヒカルはフィールドガンランスで時に突撃、時にレールカノンと一つの武器だけで多彩な攻めを展開していた。
ま、その殆どがスバル嬢の援護だけど・・・。
なんとなく、ヒカル、イツキさんの二人は周りの尻拭いがメインの仕事になりそうな気がする・・・。
いや、もう。頑張れとしか言いようがない。
「イズミさんは本当に後方支援特化」
あのお方はラピッドライフル、大型レールキャノンなど射撃の武器しか身に付けてない。
イミディエットナイフすら身に付けてない状態だ。確実に接近戦するつもりがない。
・・・一応、万が一の為にイミディエットナイフだけは持つように言っておこう・・・。
ま、イズミさんの射撃の腕前は本当に凄いからな。精密射撃という点では一番だろう。
どれだけ遠くからでも隙間を縫うような精度で敵を屠る。それがイズミさん、
イズミさんが後ろで援護してくれると思うと安心するね。
味方としてはかなり頼もしい。後は寒くなるようなダジャレさえなければ。
あれは一種の精神攻撃だと、どこぞの誰かが言っていたな。
「アキトさんは相も変わらずか。いや。マジで凄いわ」
アキトさんの要望でブースターの出力を変更して強化した。
しかも、それに加えてブースターとスラスター付け足すという所業。
あんな機体じゃ身体と精神壊します、と言いたい所なんだけど、それを成し遂げちゃうのがアキトさんクオリティ。
普通に戦闘終わらせて・・・。
「大して変わらなかったぞ。まぁ、多少は楽になったがな」
・・・とおっしゃる。
アキトさんの機動はある意味単純。
滅茶苦茶のスピードで移動して、一瞬の隙を突いて接近するか、その場から射撃するか。
どちらも移動しながら、だ、常にMAXスピード。接近して敵を貫いてもすぐに離脱する。
なるほど。ブラックサレナの時はこうやって戦っていたんだな、と実感。
あれはスピードに特化してあり、一対多数を目的としている機体だ。
計らずともこういう機動になってしまうんだろう。
そうともなれば、この程度のスピードじゃ驚いてもくらないか。
ブラックサレナの機動はもっと激しかったんだろうし。
「・・・うし」
と、ここまでがさっきまで調べていたデータ。
これからはセレス嬢と共同作業でちょっと違った見方をしてみたいと思う。
俺のターゲットはガイ、アキトさん、ヒカル、イツキ。
残りのアカツキ、スバル嬢、イズミさんはセレス嬢に任せてみる。
ま、これも勉強だと思えば、セレス嬢に任せるのもアリかな。
「まずは・・・」
それからは色々と調べさせてもらった。
たとえば、利き腕による反応の違い。
まぁ、単純に言えば、右側から来た時と左側から来た時の反応速度。
やっぱり利き腕と逆の方が反応が遅いんだけど、これがビックリ。
なんと一番反応いいのがヒカルなんだよね。次にイツキさんで、アキトさん、ガイって感じ。
要するにヒカルがこの中で一番視野が広いという事かな?
両側で殆どタイムラグなかったし。
まぁ、他の連中もあんまり変わらないんだけどさ。
後は背後からの反応速度とか、前方に敵がいる時の行動パターンとかを解析。
いや。面白いデータが取れたね。
前方に敵がいる時に取る行動は大きく分けて三つ。
軽く周囲を確認して突っ込むのがニ名。
相手との距離や周囲の状況を見てから行動し始めるのが三名。
悪・即・斬と言わんばかりにサーチアンドデストロイするのがニ名。
ま、内訳は想像通りだ。参考までにアキトさんはサーチアンドデストロイ。
まぁ、機動戦でやる以上、そうなるのは仕方ないとは思うけど。
思考パターンの解析って意外と面白いんだよね。
性格とか行動パターンとか分かるから。特に必要ないといわれたらそこまでだけどさ。
癖とか見つけたけど、これを修正させるか、強調させるかは自身に任せる。
俺なんかよりずっと分かっているだろうから。
「お疲れ様。セレスちゃん」
「・・・はい。コウキさんこそ」
大分データを取ったからもういいよ、という訳で記録終了。
戦闘はまだ続いているけど、俺の役目は終了みたいなもんだ。
「さて、俺は・・・」
データの解析にでも移ろうかな・・・。
そう思った矢先にそれは起こった。
「あ、新たな機影を確認」
「慌ててどうしたの? ルリちゃん」
「人型機動兵器です。映像に出します」
そして、モニターに映し出されたのは、全長六メートル程の人型機動兵器。
そう、その姿はエステバリスに酷似していた。
「敵の新型兵器か!?」
叫ぶゴートさん。
無論、誰もが驚きの表情だ。
向こうが人間だって知っているからな。
バッタとかは何の躊躇もせずに倒せたけど、あれに人が乗っていると思うと・・・。
「と、とりあえず、迎撃体制。向こうの出方を見ます」
それじゃあ、俺はとりあえずデータの記録。
機動性、武装、操作性などなど。調べておいて損はない。
「ヤマダ機が接触」
さて、どうなる?
「攻撃を仕掛けてきました」
「迎撃してください。出来るだけコクピットを狙わず機能停止させるように」
『了解!』
向こうの新型兵器は全部で三機。
ガイ、スバル嬢、アカツキ会長の三人が相手をする。
他のパイロットは援護しつつ、周囲の敵を殲滅。
あと少しで全滅だから、そう時間は掛からないと思う。
「・・・そうでもないな」
しばらく戦闘データを取っていたが、見た所、そこまでではない。
もちろん、機動性や武装面ではエステバリスに引けを取らないが、なんというか動きが雑。
無人機なのか? それとも、操作性があまりにも悪過ぎるのか。
そのどっちかだ。あれじゃあ機体性能を存分に活かしきれない。
「・・・DFを確認。エネルギーは何だ?」
重力波ではない。送信するものがないから。
まさか、今ある全戦艦に送信装置が付いているとは思えないし。
「フィールドガンランスを確認。はぁ・・・。そういう事か」
フィールドガンランス。
それに背中の形状やらから推測するにあれの基は高機動戦フレーム。
認めたくないけど・・・認めるしかないんだな。
フィールドガンランスのみで戦闘に赴いたのなんてあの時しかない。
そう、俺が強制ボソンジャンプをした時だ。
あの時に高機動戦フレームが向こうに渡っちまったらしい。
・・・アサルトピットが渡らなかったのは不幸中の幸いか。
多分、向こうはこっちのソフト面の情報がないからあんな動きしか出来ないんだ。
あの性能で自由な操作性があったら、間違いなく苦戦する。
現状ではソフト面の開発がされてないと見て良いだろう。
ソフト面の開発にどれくらいの期間が掛かる>
既に始まっているのか? それとも、あれが完成体?
それ次第で全ての状況が変わる。
まさか、あの時の最善の手が今の悪手に変わるとは・・・。
「せめて、無人機か有人機かを把握しておきたい」
無人機だからこその稚拙さなのか?
それとも、有人機でもその程度しか出せないのか?
原作ではデビルエステバリスとやらも出たが、それに類する動きでしかなければ無人機だ。
パイロット三人娘も苦戦していたけど、あれは狭まった空間だったから。
今のような状況ならそれ程苦戦しない筈。実際、今は優位に進めている。
「アカツキ機、敵機を破壊。どうやら無人機のようです」
会長の相手は無人機。それじゃあ他の二機もそうなのか?
「スバル機、敵機を破壊。こちらも無人機のようです」
三機中ニ機が無人機ともなれば、最後も無人機だと思うけど・・・。
「ヤマダ機と交戦中の敵機。突如、後退し始め、チューリップの中に逃げ込みました」
・・・どうやら最後の一機だけは有人機であったらしい。
バッタからも推察できるが、あれらは攻め込む事はあっても退く事はない。
退いたという事は、即ち有人機である事を示している。
これで分かった事は一つ。木連のソフト面開発は進んでいない。
有人機で無人機が同程度の機動しかできないようじゃソフトは杜撰だという事。
これで満足するような奴らでもないから、開発途中なんだろう。
完成される前に戦争を終結にしたいものだ。
あれが実戦配備されたら更に悲惨な状況に陥る。
それは何とか避けたい。
とりあえず、後でデータの解析をしよう。何か他にも分かるかもしれない。
「チューリップを破壊します。グラビティブラストチャージ」
「チャージ完了しています」
「それでは、撃てぇい!」
「グラビティブラスト。発射します」
チューリップを押し潰す。
これで漸く戦闘終了。
「戦闘終了。皆さんお疲れ様です」
今回の戦闘では遂に木連側に動きがあった。
ジンシリーズに変わる新しい人型機動兵器。
さて、アキトさん達と対策を練るとしようかな。
「驚きました。まさか、この段階で木連が小型の機動兵器を生産してくるとは・・・」
俺の部屋に集まっての秘密会議。
なんだか、これも久しぶりな気がする。
「恐らく、俺の機体を参考にしているんだと思います。あのジャンプでフレームが向こう側に渡ってしまったのでしょう」
「そうだろうな。しかし、そうなれば向こうはジンシリーズの生産を中止し、あの小型の方の生産を開始したという事になる」
「ええ。同時に両方やる事はプラントに依存している木連では不可能でしょうし。意外ですね」
どうしてだろう?
「どうして?」
ナイス。ミナトさん。
「ゲキ・ガンガーが大好きな木連が頼りなさそうな小型兵器を好んで使うわけがないという事です」
「生産の切り替えの時にかなりの反発があっただろうな。それを捻じ込んで生産に向かわせたという事はかなりの権力者だ」
・・・なるほど。そういう考えもがあったのか。
「コウキ。データを解析していたようだが、何か分かった事はあるか?」
「ええ」
あれからデータを解析した結果、色々な事が分かった。
「まずはあの機体の性能ですが、こちらのエステバリスとほぼ同等の性能を持っています」
下手するとあっちの方が高いかもしれないな。
こっちは現状で満足しちゃっているけど、向こうは研究し続けてそうだし。
「同等? それにしては、こちら側が優位だったように感じるが?」
「パイロットの腕、と言いたいですが、これもちょっと誤りがありますね。ソフトの差です」
「ソフトの差?」
「はい。こちら側がIFSに対し、向こうはIFSとは違う何らかの操作ソフトを使用しているのでしょう。ですが、それの性能が一段と悪い」
「要するに先程の戦いは向こうの操作面の性能の低さに助けられたから勝てたという事か?」
「ええ。もし、向こうがIFSに匹敵するソフトウェアを手に入れたらやばいかもしれません」
性能は少なくても互角。
ナデシコパイロット程の腕前があれば対処は可能だけど、まだ新人だったらやばい。
バッタ程度だからこそ対抗できるだけで、同程度の性能を持つ機体なら錬度の低い彼らでは心配だ。
「IFSに匹敵するソフトウェアなんてそう簡単には―――」
「いえ。ありますよ。木連でも実用化できるソフトウェアが」
アキトさんの言葉をルリ嬢が遮る。
IFSに匹敵するソフトウェア。
しかも、木連が手に入れられて実用化できるソフトウェアなんて・・・。
「ルリルリ。それって、もしかして・・・」
「ええ。IFSに匹敵する性能。私達は毎日のように眼にしている筈です」
「毎日のように?」
「まだ気付かないんですか? コウキさん」
・・・なんか言葉に棘を感じるんですが・・・。
「イツキさんがIFSに勝るとも劣らない性能を実証しているではありませんか」
「ッ!?」
・・・そ、そうか。何で気付かなかったんだ?
自分で作っておいて、その存在を度外視していた。
「複合アクションシステム。コウキさん。貴方が製作したソフトウェアです」
性能が互角。その状態でナデシコパイロットの動きを参考にした機動をされれば・・・。
「現状ではナデシコ以外に対処のしようがないでしょう」
そう、とてもじゃないが、新人達では敵わない。
向こうの錬度が高いという保証もないが、高機動戦フレームを使いこなせるようになれば、それこそ驚異的。
もしも、もしもだ。木連兵士の全員がケイゴさんのように・・・ケイゴさん!?
「そ、そうか! アキトさん!」
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「目的ですよ! ケイゴさんの目的が分かりました」
「ケイゴ? 確か、お前が基地で教官をしていた時の訓練生だったな」
「もし、ケイゴさんが木連人であれば、ソフトウェアの性能で負けている事は理解している筈。その対処法として・・・」
「狙いはそれか!?」
スパイ活動。希望的観測で歩み寄る姿勢と捉えたが、甘かったか!?
何らかの情報を得て、CASを狙ってきたとしたら・・・。
「アキトさん! すぐにミスマル提督に連絡を! 情報漏洩に注意するよう」
「ああ! 了解した!」
急いで部屋から抜けだすアキトさん。
恐らく自室に通信する装置があるのだろう。
クソッ。なんてこった。俺の行動が全て裏目に出ている。
木連側にエステバリスの製作機会を与えてしまったのも俺。
そのエステバリスを操作するシステムを作ってしまったのも俺だ。
俺の存在は逆に地球を危険に陥れてやがる!
「コ、コウキ君。どうしたの?」
「コウキさん?」
「・・・コウキ」
心配そうにこちらを見詰めてくる三対の眼。
ルリ嬢とラピス嬢はアキトさんの慌てようから事態の重大さに気付いているようだ。
「もしかしたら、CASを提供した連合軍内に木連人のスパイがいたかもしれないんです」
「スパイが!?」
「それって、例のケイゴさんって人の事?」
「はい。楽観視していた自分が恨めしいです。ケイゴさんがCASのデータを木連に持ち帰れば・・・」
「・・・木連にCASが渡り、操作性が向上する・・・」
ルリ嬢が顔を青褪めながら呟く。
「それだけじゃないんです。CASはナデシコパイロットの動きを参考にしています」
カスタマイズで来る可能性もあるが、カスタマイズする為の施設がなければ、各種特化のパターンを使ってくるだろう。
「使いこなす事に時間は掛かりますが、使いこなせばナデシコパイロットと同等の能力を発揮できるんです」
要するにナデシコパイロットが敵に回るようなもの。
向こうは唯でさえ遺伝子改造により身体能力に優れる。
もし北辰のような化け物がパイロットとして攻め込んできたら・・・。
「俺達が止めるしかありません」
・・・辺りに静寂な空気が流れる。
そうだよな。ナデシコパイロットが敵に回るなんて事になれば、被害は甚大間違いなし。
クソッ! 本当に俺は疫病神じゃねぇか!
「コウキさん。そのケイゴさんっていう方の本名を教えてください」
「ルリルリ?」
突然、どうしたんだろう?
「聞き覚えがあります。もしかしたら・・・」
アキトさんも名前に聞き覚えがあるとか言っていたな。
ルリ嬢は連合軍に籍を置いていたから、未来のケイゴさんの事を知っているのかもしれない。
「カグラ・ケイゴ。多分、偽名ではないと思う。木連人が地球に来て、偽名にする必要はないから」
「・・・やはり、そうでしたか」
ルリ嬢がどこか深刻そうな顔で呟く。
ルリ嬢はこの名前に覚えがあるという事か。
「ルリちゃん。未来でのケイゴさんの役職は?」
「・・・地球連合統合平和維持軍所属のカグラ・ケイゴ少将。木連出身の若き将校です」
・・・統合軍の少将? あの歳で?
「ケ、ケイゴさんはやっぱり木連人?」
「ええ。そうなりますね」
冷静に答えるルリ嬢。
でも、その額に汗が物事の重大さを語っている。
「カグラ・ケイゴ少将は木連の歴史ある名家であるカグラ家の長男。この家はゲキ・ガンガーを聖典として政府に捧げた事で今の立場を得たようです」
「・・・ケイゴさんの親の役職とか分かる?」
「統合軍で大将を担っていた事から、木連でもかなり高い地位にいると思われます」
カグラという名前は原作にも劇場版にも出てなかったから、そんな事実、ちっとも知らなかった。
「ルリルリ。詳しいのね」
「ええ。カグラ・ケイゴ少将は有名な方でしたから」
「そうなの? どんな感じで?」
ケイゴさんが有名?
どう有名なんだ?
「熱血クーデターはご存知ですか?」
「木連の政権を若い軍人達が勝ち取った活動だよね」
「はい。カグラさんはその際、三羽烏の秋山さん、月臣さんと共に中心人物として活躍しています」
「所謂木連の中心人物?」
「ええ。その後、地球と木連との間に和平を結ぶ為に尽力しました。その事から両陣営で終戦の英雄と謳われています。あくまで軍内での話ですが」
「・・・終戦の英雄・・・」
有名なのは当たり前か。
終戦へと導いた人物なら。
でも、それってやっぱり和平派の人間って事かな?
駄目だ。情報が全然足りない。
「地球に潜り込んだ過去があるっていう情報はあった?」
「いえ。私が調べた中にはありません。隠されたのか、歴史が歪められたのか・・・」
・・・どちらにしろ、これでケイゴさんが木連人という事はハッキリした。
何がなんでもケイゴさんの活動を阻止しなければ。
CASが木連に渡ったら、最悪の事態に―――。
シュンッ。
「アキトさん! ミスマル提督は!?」
「・・・・・・」
無言のアキトさん。
一体、それは何を意味しているのか・・・。
「・・・遅かったな。先日の戦闘で一人のパイロットがチューリップに吸い込まれて戦死扱いされている」
「そ、そのパイロットの名は?」
「・・・カグラ・ケイゴ。カグラ・ケイゴだ」
・・・やられた。
チューリップ越しなら違和感を与えない。
しかも、未だに生体ボソンジャンプの成功例がない以上、確実に戦死扱いだ。
見事なまでに証拠隠滅と同時に情報を運んでいる。
「高機動戦フレームとCASのデータが入ったアサルトピットを同時に持ち運ばれた。CASを搭載した機体が戦場に出るのも・・・時間の問題だろう」
・・・目の前が真っ暗になった。