「第一回! 艦長コンテスト! 開催ですぞぉぉぉ!」
「イエェェェイ!」
ピースランドの滞在期間を終え、提督とカエデは基地へと戻っていった。
詳しい事はあまり聞いていないけど、融資の件は了承してもらえたらしい。
ルリ嬢はルリ嬢で原作のような確執もなく、父、母と敬っていた。
原作では、変な王族だなと思ったけど、実際は違ったらしい。
それはそうだよな。
あれだけの銀行を持っていて、業界に凄まじい影響力を持つ人物が、あんな人物な訳がない。
偽りの姿って事だろう。成長したルリ嬢はそれを見破るだけの眼力があったみたい。
謁見の時は無難にやり過ごし、その後で家族として対面したらしい。
戦後どうするかは分かりないけど、そんな悪い方向に向かわないと俺は思う。
原作では戦後、ルリ嬢が軍入りしたけど、そんな事もなくなるだろう。
まぁ、それは何よりアキトさん次第なんだと思うけど・・・。
「考え事? コウキ君」
「え、ええ。ちょっと」
カエデの事は心配で堪らない。
実際に眼にしたいと直接会ったけど、思っていた以上に落ち込んでいた。
慰めようにも方法が見付からなくて、結局、何もできないまま別れの時間となってしまい・・・。
やっぱり、ケイゴさんの生存を知らせた方が良かったのかな?
でも、それは木連人であるという事も教える事になる。
そもそも、本当に生きているかどうかすら分かっていない。
十中八九生きているとは思うけどさ。
カエデにとって木連人は復讐の仇。
好きだって明言していた以上、その相手が復讐の仇であると知ったら・・・。
きっと、カエデは更に傷付くと思う。
・・・はぁ。ケイゴさんの馬鹿。
「コウキ君。周りが盛り上がっている中、そんな暗い顔していちゃ駄目よ」
「あ、はい。そうですよね」
現在、ナデシコは月軌道線上の敵艦隊殲滅作戦に参加する為に月に向かっている。
その道中、原作にもあった艦長コンテストが開催されるらしい。
確か、木星蜥蜴が人類だと知ったクルーのモチベーションを向上させる為だったっけ?
ま、要するにミスコンみたいなもんだ。
美人揃いだしさ、ナデシコって。種類豊富でさ。
もちろん、ミナトさんも出場するとかなんとか。
こういうイベントに盛り上がらない訳ないよな、ナデシコクルーが。
ミナトさんもその一員だし。
ちなみに、月軌道上の作戦に参加する為の道中です。
なんでも月を奪還せんと連合軍が気張るとかなんとか。
作戦中に何をしているんだか、と思うかもしれないが、これがナデシコクオリティ。
仕方ない事なのさ。
「そういえば、きちんと反省したのかしら?」
「ええ。もちろんですよ。俺だって自分勝手だなと思いましたから」
「自覚しているならいいんだけどね」
いや。そりゃあもう。
勝手にセレス嬢を引き取る宣言した事には反省しまくりです。
確かにミナトさんには前もって言っておくべきだったよな。
それが筋だったと自分でも思うし。
「・・・コウキ君」
あぁ。思い出すだけで背筋が凍る。
「・・・そういう事はさ、私に一言あってもよかったんじゃないの? 先に」
「・・・すいません。突発的に思い付いて―――」
「ねぇ、コウキ君。私の存在ってコウキ君にとってそんなものなのかな?」
「え?」
「そりゃあ、私だってセレセレを引き取るのには大賛成よ。コウキ君が言わなければ私が言っていたわ」
「・・・・・・」
「でもね、そういう事も含めて相談していくのが大切だと思わない?」
「・・・はい」
「些細な事でも話し合う。私は一緒に暮らしていく上でこれはとっても大切な事だと思うの」
「・・・分かります」
「でも、コウキ君は、その事を疎かにした。私の事なんてどうでもいいとも受け取れるのよ?」
「そ、そんな事―――」
「思っていないっていうのは分かっているわ。でも、そう受け取れちゃうって事」
「・・・・・・」
「コウキ君。それって、すっごく寂しい事なんだよ?」
「・・・はい」
「私に相談できない事で悩んでいる。その事は私も理解しているわ。でも、私に相談できる、ううん、相談するべき事も相談しないのは間違っている」
「・・・すいませんでした」
「謝られても駄目。最近のコウキ君は焦っていてまるで余裕がない」
「・・・余裕がないですか?」
「ええ。だから、するべき事を見失って、やるべき事を疎かにするの」
「・・・はい」
「もっと落ち着きなさいな。焦った所で何も変わらないんでしょう?」
「・・・ええ」
「ケイゴっていう人の事も、カエデちゃんの事も、悩んだ所で解決しないでしょう?」
「・・・その通りです」
「それなら、どっしりと構えてなさい。何があっても大丈夫なように、常に心に余裕をもってなさい」
「・・・・・・」
「出たとこ勝負っていうのは言い方が悪いかもしれないけど、それしか方法がないんだもの。今、貴方が悩んでいる事には何の意味もないわ」
「・・・臨機応変に対応しろって事ですよね?」
「そうよ。ちゃんと分かっているじゃない」
「・・・そう、ですね」
「自分のせいだとか、責任だとか、そんな事でクヨクヨ悩んでいる暇があるなら、今出来る事を全力でやりなさい」
「・・・情けなかったですかね?」
「ええ。そりゃあもう、清々しい程に情けないわ」
「ははっ。手厳しい意見で」
「情けないコウキ君も嫌いじゃないけど、いつまでもウジウジしている姿は見ていたくないわね。興醒めしちゃうわ」
「あはは。嫌われちゃいますか。それなら、頑張るしかないですね」
「もちろん。あ、でも、まだ、解放してあげない」
「・・・え?」
「そろそろ、コウキ君には色々と言ってあげようと思って」
「えぇっと・・・説教・・・ですか?」
「折角の機会だもの。覚悟しなさい」
「・・・・・・・・・・・・はい」
それからは本当に大変だった。
一、二時間という長時間を正座で過ごし、かつ、眼の前には眼を吊り上げたミナトさん。
腰に手を当てて、指を立てながら叱るスタイルに先生を思い出したのは俺だけの秘密だ。
いつもなら包容力で癒してくれるミナトさんのマジな説教。
いや、もしかしたら、説教されたのって初めてかもしれん。
マジで効いた。こうなんというの、妙に迫力があってさ。
怖くて言う事を聞かなくちゃというよりは、自発的に聞き分けよくしようなんて思うようになって。
と、とにかく、ある意味、トラウマみたくなっちゃった訳だよ。
あれだね。尻に敷かれているって言われても反論できないね。
え? 今更? そ、そんな事ないでしょ、多分。
「コウキ君は艦長コンテスト。誰が優勝すると思う?」
「そうですね・・・」
突然の話題転換に困惑しつつ、考えてみる。
ユリカ嬢・・・マンネリ? いや、冗談、冗談。
でも、実際、原作でもルリ嬢に破られ、ルリ嬢棄権の上で上位者達とのジャンケン勝負でようやくの勝利だったような・・・。
あ。そういえば、ユリカ嬢ですが、原作と一番違うのは彼女かもしれません。
それは・・・。
「あ。アキト。応援してね」
「・・・それなりにならな」
「ぶ~。ま、いいもん。ユリカはやれば出来る子だから」
「自分で言う台詞じゃないと思うが?」
「えぇ~ん、アキトが苛めるよぉ~」
「ユ、ユリカ。落ち着こうよ。ね」
「うぅ。ジュン君は私の味方だよね? ね?」
「も、もちろんじゃないか。僕はいつだってユリカの味方だよ」
「えへへ~。流石はジュン君。私の最高のお友達だよぉ」
「あ、あはは。そうだね」
あんまり変わらないように思えるかもしれないけど、大分、違うんだ。
なんといっても、アキト、アキト、と言わなくなった。
何だろう? こう、手の掛かる妹とその兄みたいな表現が一番ピンとくる。
ユリカ嬢がアキトを好きなのは変わらないと思うけど、なんというか方向性が変わった気がする。
最初のアキトさんの拒絶で色々と考えさせられたのかな?
相変わらずジュン君は不憫だけど・・・。
「艦長はまぁ、それなりかなと思います」
「ま、それはそうでしょうね。なんだかんだ結構人気高いもの」
ま、ユリカ嬢は置いといて・・・。
俺の思う優勝候補は三人。
ルリ嬢、ラピス嬢、セレス嬢。
この三人への投票はかなりの数だと思う。
やっぱりこの三人の人気は凄まじいし。
で、でも、ミナトさんだって魅力的な面では負けてない。
それなのに、優勝候補に挙がらないのは、うん、俺のせい。
いや、俺の存在が格を下げているっていう訳ではないと思うけど・・・。
やっぱり投票するなら彼氏がいない人・・・みたいなものがあるらしい。
これって艦長コンテストの名を借りたミスコンだし。
男としては・・・的なものがあるらしいんだ。うん。
も、もちろん、俺はミナトさんに投票するさ。
セ、セレス嬢と悩んだけどな。
「う~ん。やっぱりルリちゃんですかね」
「前はルリルリだったの?」
「ええ。参加はしなかったんですが、割り込みで優勝を掻っ攫っていきました」
「へぇ。ルリルリがねぇ。意外かも・・・」
顎に手を当てて予想外といった表情になるミナトさん。
ま、確かにあれは意外だった。しかも、歌った曲が曲だしな。
あれはあの頃からアキトさんを意識していたって事なのかな?
いや。アキトさん。罪深いお方ですな。
「でも、今回はその時にいなかったメンバーがいますから」
「セレセレとかラピラピとか?」
「ええ。あの二人の人気も確かでしょう。二人がユニットでも組めば最強かと」
「・・・そうかもしれないわね」
妖精の名は伊達じゃない。
ルリ嬢もそうだが、ラピス嬢、セレス嬢もまた妖精を名乗るのに相応しい程に可憐だ。
いや。俺も同じ強化体質だって言ったら世界中から大顰蹙を買うだろうなぁ~。
あの、アララギさんだっけ? メララギさん? アラララギさん?
まぁいいや。あの人は激怒するね、間違いなく。
「まぁ、艦長というのにはちょっと歳が足りない気もしますが・・・」
「でも、結局はユリカちゃんが艦長になるんでしょ?」
「そうでしょうね。やっぱりナデシコの艦長は彼女じゃないと」
個性的なメンバーが溢れるナデシコ。
真面目な人が艦長だったら、とっくに胃潰瘍だろうなぁ。
うん。やっぱりユリカ嬢こそが艦長に相応しい。
ポヤ~ってしているけど、締めるときは締めるしさ。
能力とか人柄とか求心力とかは一流だし。
まぁ、その分、ジュン君の苦労は半端ないと思うけど・・・。
でも、ま、それはそれで喜んでいるし、ジュン君。
きっと大丈夫だろう、うん。
「ミナトさんも出るんですよね?」
「ええ。艦長の座には興味ないんだけどね。私としても女として負けたくないっていう矜持があるのよ」
「矜持だなんて大袈裟な」
「駄目よ、コウキ君。女っていうのはいつでも輝いていたいのよ。大袈裟でもなんでもないわ」
「そ、そうですか」
いや。充分、魅力的なんですけどね。
「悩み事があるのは分かるけど・・・」
「・・・ミナトさん?」
「偶には楽しみなさい。別に罰なんて当たらないんだから。いいわね? コウキ君」
「・・・分かりました。楽しみます」
「ええ。それじゃあ、準備があるから、行くわね」
「はい。頑張ってくださいね。ミナトさん」
「ふふっ。任せて」
天幕の向こうへと歩いていくミナトさんを見送る。
艦長コンテストか・・・。
水着審査とかもあったよな?
ちょっと嫌な気もしないでもないけど、水着が見られるというのはラッキーと受け取ればいいのだろうか?
いや。でも、やっぱり、ちょっと嫌かな。
「・・・コウキさん」
ん? 誰だろう?
突如掛かる後ろからの声に振り返る。
「おぉ。セレスちゃん」
そこにいたのはセレス嬢でした。
そういえば、参加するのかな?
さっき、ミナトさんとは参加する事を前提に話していたけど。
「・・・あの」
「うん。何かな?」
「・・・見ていてくださいね?」
「え?」
「・・・私もコンテスト参加しますから、見ていてください」
カーッと真っ赤に顔を染めて、俯きながら話すセレス嬢。
いや。可愛らしい事この上ないね。
「うん。分かった。頑張ってね。セレスちゃん」
「・・・はい!」
パーッと顔を輝かせて喜ぶセレス嬢。
頑張れって気持ちも込めて頭を撫でる。
なんだか、すっかり父親気分。
引き取るって決めてから、覚悟が決まったっていうのかな?
目線というか、視線というか、そんなのが父親になってしまった。
まぁ、こんなにも可愛らしい娘なら大歓迎なんだけどね。
「・・・それじゃあ、行ってきます」
「うん。いってらっしゃい」
「・・・はい!」
元気一杯に返事をして、トコトコと走って天幕へ向かうセレス嬢。
う~ん。和む。癒される。
何度も思うけど、成長したら誰もが振り向く美人になるだろうなぁ。
あれか? 将来、俺の娘が欲しいなら俺を倒してからにしろって言う羽目になるのか?
・・・いや。それはないだろ。どこの格闘家だよって話。
でも、なぁ、やっぱり寂しいんだろうな・・・。
「・・・・・・」
おっと、そんな事を今から考えてても仕方ないだろうに。
・・・既に親馬鹿とは・・・。
自身の意外な面を発見した気分だよ。
ミスマル提督と話があったりするかもしれん。
酒を飲む時の話のタネになりそうだ。
いや、まぁ、飲むかどうかは分からないんだけどね。
そもそも引き取るって話もネルガル勢にしてないし。
も、もちろん、負けないけどな、奴らには。
「頑張れ。セレスちゃん。ミナトさん」
さて、さっそく観賞モードに・・・そういえば、今、誰がブリッジで業務をしているんだろうか?
うん。二人の出番が終わったら、ブリッジに顔を出してみよう。
ま、今は楽しむとしましょうか。
「艦長コンテスト。司会はこの私、プロスペクターが務めさせて頂きます」
「おぉ! いいぞ! いいぞ!」
うん。ムードは既に最高潮。
いや。相変わらずノリがいいね、ナデシコクルーは。
「審査は二段階に別れております。一つ目は歌唱力コンテスト。それぞれの衣装に身を包み、得意な歌を歌っていただきます」
「いやぁ。いいね。女の子の歌が聴けるなんて」
「むさっ苦しい空間にしかいられない俺達にとってはオアシスだな」
「おうよ。おうよ」
・・・特に整備班のメンバーは眼が輝いてやがる。
いや。血走っているという表現の方が的確かも・・・。
「二つ目は皆様お待ちかね! 水着審査となっております!」
「イエェェェイーーー!」
「ヤッホーーーイ!」
盛り上がり過ぎですよ、マジで。
「これらの審査にて優勝した方に艦長の座を譲りたいと思います。皆様、是非とも健闘し、自らの魅力を最大限に発揮してくださいね」
「ハッハッハ! いいぞ! 野郎共、最前席を確保しろ!」
「オォォォオォォォ!」
ズバッ! ガバッ!
は、早! 移動早!
というか、既に場所がないってどういう事?
「それでは、ここで審査員を発表したいと思います」
そういえば、審査員なんていたな。
まぁ、クルー全員が審査員である以上、彼らは解説者というかコメンテーターみたいなもんだろ。
今回は誰なんだろう?
原作ではアカツキ会長とウリバタケさんだったかな?
あんまり覚えてないな。
でも、まぁ、あそこにウリバタケさんはいるし。
ウリバタケさんでない事は確かだ。
「まずはこの方、ナデシコパイロット、アカツキ・ナガレ」
「よろしく」
あ。会長は同じなんだ。
でもさ、なんで一介のパイロットがそんな所にいるの?
あれかな? 隠すつもりなんて元々ないって事?
「次は・・・そうですな。私とジャンケンを致しまして勝ち残った方にしましょう」
と言って、手を挙げるプロスさん。
おぉ、なんか懐かしいぞ。この光景。
俺の周りの連中も手を挙げて、ジャンケンに備えている。
「ズルしたら会場からも出て行ってもらいますからね」
釘を刺す事も忘れない。
流石のプロスさん。
「一つ質問していいですか?」
「はい。なんでしょう?」
整備班の鈴木さん(仮)が問いかけた。
プロスさんは手を挙げたまま答える。
なんでもいいけどさ。早くしてね。
腕が疲れるからさ。
「審査員になるメリットは何ですか?」
「なるほど。やはり気になりますか」
ニヤリと笑うプロスさん。
手を挙げたままだからどこか滑稽。
・・・なんでもいいから早くやろうよ、ジャンケン。
手、下げていい?
「まずは席ですな。私がいる場所の隣の席、即ち、最前席より更に近く、そんな場所でコンテストを観賞できます」
「おぉ! なるほど!」
「また、審査員にはより多くのポイントが与えられます。好きな方に審査点を与えるなんてのもいいでしょう」
「おぉ。それが恋の始まりって訳か・・・」
「なかなかやるな・・・」
うん。一つだけ。
そんな優遇されるポジションにアカツキ・ナガレがいるのはあまりにもおかしすぎる。
あれか? バレてるって分かっているから開き直ったのか?
「最後にですが、トロフィーの贈呈などで実際に優勝者と触れ合う事が出来ます!」
「ウォォッォ!」
うお!? 滅茶苦茶耳に来た。
耳鳴りで耳の奥がツーンとする。
「それでは、よろしいでしょうか!? ジャンケン・・・」
高らかに挙げられたプロス氏の拳。
グーか? パーか? チョキか?
確率的にはどれも同じ。
対面している訳じゃないから向こうの心理も読めない。
・・・やはり、運任せだな。
「ポン!」
俺が出したのはグー。
プロスさんは・・・チョキだ!
「はい。負けた方とあいこの方はその場に座ってくださいね」
まぁ、そうなるよな。これだけの人数だ。
あいこは大丈夫って事はないだろう。
「それでは、もう一度、ジャンケンポン!」
俺の出したのはチョキ。
プロスさんが出したのは・・・パー。
おぉ! これはもしかすると・・・。
「ジャンケンポン!」
「・・・ガクッ」
負けました。
結局、ジャンケンで勝ち残ったのはウリバタケ氏。
やっぱり強いですね。こういう事になると。
「おっしゃあ!」
うん。あれだけ素直に喜ばれると憎めない。
「それでは、さっそく、コンテストを開催いたします!」
プロスさんのこの言葉と共にコンテストが始まりを告げた。
SIDE MINATO
・・・木星蜥蜴が実は自分達と同じ人間だった。
そんな真実を知らされたナデシコクルー達は当然、気落ちした。
そのモチベーションの低下は通常業務でさえ精彩を欠き、ナデシコ運営陣の頭を悩ませる。
ま、私は一応前もって知っていたからそうでもないんだけど・・・。
やっぱり、いざそんな事実に直面すると複雑な気分になるわよね。
それで、だ。
そんな事もあり、どうにかして艦内の空気を変えたいという事で企画されたもの。
それが、一番星コンテスト。ま、簡単に言えば、ミスコンよね。
噂によれば軍の方でも何かしらの干渉があったらしいけど・・・真実はどうなんだろう?
「頑張ってくださいね。ミナトさん」
「ふふっ。任せて」
ま、私としてはあまり肌を晒したくないんだけどねぇ~。
せっかく出場するのなら、やっぱり勝ちたいじゃない?
優勝したら艦長の座がもらえるとか言っていたけど、そんなものはもちろんいらないわ。
私も女として魅力的でありたいのよ。
コウキ君に応援もされたしね。
「えぇっと、メグミちゃん。その格好は?」
コウキ君と別れて天幕に入る。
その途端、視界に映るのはナース服のメグミちゃんの姿。
え? コスプレする企画だっけ? これ。
「私、声優をする前は看護学校に通っていたんです」
「へ、へぇ~」
い、意外と多才なのね。
看護学校から声優ってのいうは中々不思議な気もするけど・・・。
「やっぱり男心を擽るならこの服かなって」
そ、それは確かに擽られるとは思うけど・・・。
ちょ、ちょっと違うんじゃないかな?
「ガイさんも似合っていると言ってくれましたから~」
ニヘへと笑いながら告げるメグミちゃん。
そ、そっか。それならいいんじゃないかな。
恋人の趣味ならさ、うん。
「ミナトさんは何を着るんですか?」
「え? 私? そうねぇ」
どうしようかしら?
やっぱり私も男心を擽るような―――。
「・・・あの・・・」
「ん? セレセレ?」
振り向けば、そこにはセレセレ。
コウキ君曰く、今回のコンテストの優勝候補。
どうかしたのかな?
「・・・ミナトさん」
真剣な眼でこちらを見てくるセレセレ。
「・・・浴衣の着方。教えてくれませんか?」
「・・・浴衣?」
「・・・はい」
えぇっと・・・。
「それはコンテストに浴衣で出ようって事?」
「・・・(コクッ)」
うわ~。セレセレの浴衣姿・・・。
・・・本当に優勝しそうで怖いわね。
可愛過ぎるだろうなぁ。
「ミナトさん。セレスちゃんが浴衣を着たら優勝もってかれそうですね」
どうやらメグミちゃんも同じ事を思ったらしい。
まぁ、そう思うのが自然かな。
「・・・駄目・・・ですか?」
う。コウキ君はいつもこれに屈しているのか。
ようやくコウキ君の気持ちが分かったわ。
涙目で見上げられたら拒否できない。
まぁ、私の場合は可愛らしくてっていう理由の方が強いけど。
「ううん。いいわよ。教えてあげる」
優勝は逃しちゃうかもしれないけど、将来娘になるかもしれない子を可愛くコーディネートするのも良いかもね。
私は準優勝でいいわ。・・・なんてね。
「・・・ありがとうございます」
「はい。どういたしまして」
ペコっとお辞儀をするセレセレ。
その姿は本当に可愛らしい。
駄目だなぁ。どうしても甘やかしちゃいそう。
「セレセレは浴衣かぁ・・・」
メグミちゃんはナース服。
セレセレは浴衣。
うん。どっちも男心を擽る服ね。
本当に、私はどうしようかしら。
「・・・ミナトさんはどうするんですか?」
「それが、決まってなくてね。困っているの」
「・・・・・・」
う~んと指を顎に当てて考えてくれるセレセレ。
何か提案してくれるのかな? 期待しちゃうぞ。
「・・・ミナトさんも一緒に着ますか?」
「一緒にって、浴衣って事?」
「・・・はい」
浴衣も素敵だけど、流石にかぶっちゃうのは申し訳ないかなと思うのよ。
「そうですよ! ミナトさん!」
「え? な、何?」
いきなり大声をあげるメグミちゃん。
その、良い事を思い付いたって顔は何なんだろう?
「二人で一緒に出ちゃえばいいじゃないですか」
「え?」
「だから、一緒に浴衣を着て、一緒に出ちゃえばいいんですよ。グループ参加も認められていますし」
グループ参加?
あの、ホウメイガールズみたいな感じで?
私とセレセレが?
「えぇっと、どうしよっか? セレセレ」
私は別に構わないかな。
セレセレと一緒に出るのも良い記念になると思うし。
何の気兼ねもなくコーディネートできるしね。
「・・・(フルフル)」
あら。断られちゃった。
ちょっと残念かな。
「・・・一人で頑張ってみたいです」
「そっか」
そんな理由があるならしょうがないわね。
どちらかというと静かなセレセレがこんなイベントに参加するぐらいだもの。
きっと、相当の勇気を出したんだと思うわ。
だったら、私はそれを応援してあげなくちゃね。
「分かった。それじゃあ、うんと可愛くしてあげるわね」
「・・・はい。よろしく御願いします」
うん。それじゃあ、やっぱり浴衣は駄目ね。
私は違う服装にしなくちゃ。
「歌の練習はしたの?」
「・・・(コクッ)」
「そっか。頑張ろうね。セレセレ」
「・・・はい」
コンテストは歌唱審査と水着審査の二部構成。
歌唱審査の服装で困っている訳だけど、やっぱり歌にあわせた服装にしようかな。
「それじゃあ、私はあれにしましょう」
うん。服装は決定。
「じゃ、着替えに行こうか。セレセレ」
「・・・はい。御願いします」
セレセレの手を取って衣裳部屋へ。
さてっと、セレセレを可愛くコーディネートして・・・。
私も準優勝に向けて気合を入れるとしましょう。
SIDE OUT
「それでは、さっそく参りましょう」
実況のプロスさんが企画を進めていく。
本当にこういう時のプロスさんは楽しそうだな。
凄く輝いています、ミスター。
「トップバッター。エントリーナンバー一番は我らが癒しの声。メグミ・レイナードさんです」
「皆ぁ。よろしくぅ~」
「メグミちゃぁぁぁん!」
現れるナース姿のメグミさん。
途端に轟く男共の歓声。
なんか場慣れしているよね、メグミさんって。
流石は元声優。そういうイベントとかがあったんだろうな。
「はい。御注射しましょうね」
原作でもあったシーン。
これから始まる歌って・・・。
「いいぞぉ! メグミぃ!」
後ろから大きな声でまぁ・・・。
想いが痛い程に伝わってきましたよ。
「あ。おい! コラッ! てめぇら。見るんじゃねぇ!」
歌が終わって脱ぎだした瞬間、またもや騒ぎ出すガイ。
いや。流石に五月蠅いよ、うん。
「はい。メグミ・レイナードさんでした。解説のアカツキさん。如何でしたか?」
「うん、そうだねぇ。男心を擽るナース服といい、チャーミングな笑顔といい、高得点が狙えるんじゃないかな?」
「ほぉ。中々の高評価。これは期待できるのでしょうかね? 解説のウリバタケさん」
「まぁな。彼女の人気は相当のもんだ。ま、唯一の難点は後ろでうっせぇ奴がいた事だな」
うん。確かに五月蠅かった。
「それはまぁ仕方ないでしょう。それでは、次へと参ります。エントリーナンバー二番。我らが食堂に舞う可憐な花達。ホウメイガールズの皆さんです」
「うぉぉっぉぉぉ!」
おぉ。凄い歓声。
確かに彼女達は可愛いもんな。
食堂で可愛い子に対応してもらえたら男は嬉しいもんだ。
こればっかりはどうしようもない。
「はい。ホウメイガールズの皆さんでした。見事なまでに料理への愛情を感じさせつつ、彼女達の魅力を最大限表していましたね」
「そうだね。ナデシコ食堂は味良し、値段良し、環境良しの三拍子が揃った食堂だ。その中でも彼女達の存在は大きい」
「整備の後で疲れた俺達にとっては天使のようだぜ。心から癒される」
会長も評価しているみたいだし、ウリバタケさんは本当にそう思っているんだなって感じさせる幸せそうな顔をしている。
俺はあんまり話さないけど、ホウメイガールズはやっぱり皆に愛されているんだなぁ。
あ、もちろん、僕も彼女達に癒されていますよ、はい。
「それでは、次は・・・」
そうして、次々とエントリーした者達がパフォーマンスを披露していった。
その中にはナデシコ主要クルーに勝るとも劣らない程の美人がいたりして、驚いた時もあった。
普段は言っちゃ悪いけど、地味な人が、このミスコンで化けたんだよ。
いや。彼女はこれから大変だろうなぁ。一夜にしてスターだし。
別に優勝しなくても魅力的な事は証明してしまったからな。
歌も心に響く素敵な歌声だったし。いや、大変だ。
「それでは続きまして、エントリーナンバー十四番。我らが包容力に溢れた優しいお姉さん。ハルカ・ミナトです」
「わぁぁぁぁぁぁ!」
ウインクをしながらの登場。
飛ばしていますね。ミナトさん。
その服装は・・・漆黒のドレス。
丈の短いドレスでかなり際どい。
それがあまりにもセクシーで、思わず赤面した。
その見事すぎる身体に黒のドレスがマッチして妖艶な魅力に溢れている。
あぁ。なんか、この人が恋人って事が不思議で仕方がない。
本当に魅力的な女性だなって改めて思った。
「~~~♪」
歌い出すミナトさん。
その透明感溢れる歌声と彼女が醸し出す雰囲気に、会場は静まり返った。
ただただ無言で聞いていたい。そんな気持ちにさせる歌声だった。
もちろん、途中で服を脱ぎ、水着姿にもなった。
でも、その妖艶な魅力は変わらず、水着姿になって更に増したようで・・・。
結局、歌い終わるまで歓声があがる事もなく、誰もが黙って歌を聞き浸っていた。
「・・・・・・」
そして、最後のニコッと笑みを浮かべた後、去っていくミナトさん。
その瞬間・・・。
「うぉぉぉっぉぉ!」
途轍もない歓声があがった。
今までで一番じゃないかと思える程の大音量で。
「ハルカ・ミナトさんでした。いやはや。まるで別世界にいたかのような気持ちでしたね。どうでしたか? 解説のアカツキさん」
「・・・言葉に出来ないよ。僕は思ったね。彼女に包まれたいと。全身が身震いしたさ。彼女の全身から迸る至上の愛に」
「・・・ああ。思わず涙が出そうになった。全身に鳥肌が立つ事なんて初めてだ。歌がとびっきり上手いという訳じゃねぇ。だが・・・」
「・・・そう。感情が伝わってきたんだ。彼女の感情が僕達の心に。出来る事ならば毎日聴きたいよ」
「・・・俺もだ」
・・・大絶賛ですね。
気持ちは物凄く分かりますが・・・。
俺も本当に鳥肌が立った。
目頭は熱くなったし、心も震えた。
二人じゃないけど、俺も毎日のように聴きたいと思ったんだ。
「それでは、続きましてエントリーナンバー十五番・・・」
SIDE MINATO
「ふぅ~」
緊張したわ。
あんなに大勢の前で歌った事なんてなかったもの。
「ミナトさん! 凄かったです!」
どこか興奮した様子でそう言ってくれるメグミちゃん。
ふふっ。割とうまく歌えていたみたいね。
「そう? ありがと」
「鳥肌が立っちゃいましたよ。心に響いてきました」
「そ、そう」
そんな大袈裟な・・・。
「・・・ミナトさん」
「セレセレ」
チョコチョコと可愛く近寄ってくるセレセレ。
「・・・凄かったです。感動しました」
「ふふっ。ありがと」
感謝の気持ちを込めて、セレセレの頭を撫でる。
うん。コウキ君がセレセレの頭を撫でたがるのがよく分かるわ。
柔らかくて良い匂いがして、とっても心地良い。
さて、次はセレセレをコーディネートしなくちゃね。
「うん。じゃあ、行こうか。セレセレ」
「・・・はい。よろしく御願いします」
はい。任されました。
思いっきり可愛くしちゃうんだから!
SIDE OUT