機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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艦長コンテスト・結

 

 

 

 

 

戦闘を終え、改めて月へと向かうナデシコ。

本来であれば、戦場に向かうという事でもうちょっと引き締まっている雰囲気な筈なんだけど・・・。

 

「あぁ! 気になる。気になるぅ~」

「ユ、ユリカ。落ち着きなよ」

「だって~、ジュン君。私、艦長じゃなくなっちゃうかもしれないんだよ?」 

「だ、大丈夫だって。皆だってユリカが一番艦長に相応しいって分かっているから」

「本当?」

「うん。本当」

「う~ん。やっぱり気になるよぉ~」

 

と、まぁ、こんな会話がひたすら続いている訳だ。

そりゃあ、集中力もなくなるわな。

でも、それだけじゃない。

 

「どうなったと思いますか?」

「優勝に決まっているだろ! メグミが一番だ!」

「ガイさん!」

「メグミ!」

 

ガバッ!

 

「うるせぇ! 黙ってやがれ! ヤマダ!」

「グハッ!」

「あ~。八つ当たりしているぅ」

「出てないからって僻むのはやめなさい。リョーコ」

「うるせぇ! どうでもいいんだよ、そんな事は」

「えぇ~? でも、やっぱり気になるよ。ねぇ?」

「ね~」

「ダァーーー! うるせぇ、うるせぇ」

 

とか、さ。

艦長以外にも結果が気になって仕方がない人はたくさんいるみたい。

コンテスト出場者はもちろんの事、その周りも気になっているみたいで、誰もが仕事に身が入っていない。

まぁ、かくいう俺も気にはなっているんだけどさ。

多分、周りよりはそれ程でもないと思う。

他にも色々と気になる事があるからなぁ。

あのキノシタとかいう人やケイゴさんの事とか。

昨日の戦いで、向こうの福寿だったか? の事も知れたし。

知りたい事があり過ぎて、一つの事に集中しきれないみたいな。

まぁ、でも、ね、やっぱり・・・。

 

「・・・(ソワソワ)」

「・・・・・・」

「・・・(ソワソワソワ)」

「・・・・・・」

「・・・(ソワソワソワソワ)

 

隣でいつになくソワソワしているセレス嬢を見ると、どうしても応援してあげたくなってしまう。

一名のみという事でミナトさんに投票してしまったが・・・。

すげぇ罪悪感。ごめんよ、セレス嬢。

 

「どうなるのかしら。楽しみね」

「同意を求められても困るのですが・・・」

 

いや。もちろん、俺としてはミナトさん、セレス嬢のワンツーフィニッシュかなとか思うんだけどさ。

・・・はい。かなりの贔屓目ですね。分かります。

でも、かといって、本当にそうなってもなぁ。

嫌ですよ。はい。二人は僕だけのアイドルです、とか言ってみる。

 

「まぁ、後は神のみぞ知るって奴ね」

「ですね」

 

そして、それからしばらく経って、漸く待ちに待った瞬間が訪れた。

 

『さてさて、皆様お待ちかね、一番星コンテスト、結果発表の時間がやってまいりました』

 

艦内の全モニタに強制割り込み。

プロスさんの顔のドアップと共に結果発表が始まった。

 

『それでは、早速、発表してまいりましょう』

 

沈黙。

誰もが息を呑む。

 

「まずは第三位の発表です」

 

第三位、惜しくも、って奴だな。

まぁ、出場者も多かったし、美人揃いのナデシコでは三位でも充分過ぎると思うけどね。

 

『第三位はニ名ですね。まず御一人はその男心を擽る服装と声優時代のトークと歌唱力を活かし私達を元気にさせてくれたメグミ・レイナードさんです』

『おぉぉっぉっぉ!』

 

歓声。特に男共の声がうるさい。

まぁ、気持ちは分からなくないけどね。

 

『メグミィ! よくやったぁ!』

『ガイさん!』

 

ガッチリと抱擁する熱いカップル。

うお、うお。モニタに映っちゃっていますよ、御二人さん。

あれか。コミュニケを活用しての映像割り込み。

遠隔からの操作でこの演出とは・・・。

何だかんだいってノリが良いラピス嬢あたりがプロスさんを手伝っているのかな?

 

『はい。熱い抱擁でしたね』

 

ちなみに、僕は今現在、ブリッジでモニタを眺めています。

ブリッジクルーの殆どは結果発表の連絡と同時に会場へと駆け込んでいきました。

ブリッジに残っているのは俺、ミナトさん、セレス嬢、ルリ嬢、アキトさん、ゴートさんの六人。

・・・それだけで運営できるけどさ。それが許されちゃうのってまずいよねぇ。

そうか。これもナデシコクオリティという訳か。分かります。

 

「まぁ、分からなくないわよね。可愛かったもの」

「ナース服・・・ですか」

「あれ? ルリルリも着てみたいの? きっと似合うわよ」

「ち、違います!」

「もぅ、照れちゃって」

 

ルリ嬢のナース服―――。

 

「想像しちゃ駄目よ」

「はい。すいません」

 

すぐさま怒られました。

そうですね。ルリ嬢のナース服を見ていいのはアキトさんだけでしたね。

あれ? 違う?

 

「・・・私にも似合うでしょうか?」

 

セレス嬢!?

 

「ええ。もちろんよ。絶対可愛いから」

「・・・コウキさんは見てみたいですか?」

「え、え?」

「・・・私のナース服姿です」

 

そ、そんなにさ、首とか真っ赤にしながら聴かないでよ。セレス嬢。

 

「え、えぇ~と・・・」

 

見たいか見たくないか。

どちらかって言ったらちょっと可愛いもの見たさで見てみたい。

でも、それを熱望するのも・・・ちょっとな。

 

「・・・残念です」

 

ちょ、ちょっと待って。

頼むから、落ち込まないでくれ。

 

「み、見てみたいかな。ハハハ」

 

あぁ。言っちゃったよ。

 

「・・・分かりました。機会があったら御願いします」

「・・・お、御願いされます」

 

えぇっと・・・ミナトさんは今・・・。

 

「ふふっ」

 

えぇ!? 予想外!

何? その微笑ましいものを見ているかのような安らぎの笑顔は。

もっとこう、変な眼で見られると思ったのに。

 

「・・・コウキ」

 

・・・あ。アキトさんは変な眼で見るんですね。

まぁ、覚悟はしていましたけど。

 

『それでは、もう御一人を発表します。その抜群のプロポーションと心に響く歌声で魅力ある女性を演出し、私達を魅了してくれたハルカ・ミナトさんです』

『おおぉおぉおぉお』

 

うおっ!? 三位か。

一位でも二位でもおかしくないというのに、ちょっと残念かな。

 

「ま、こんなもんよね」

「俺はもっと上位だと思っていましたけどね」

「あら? 嬉しい事を言ってくれるじゃない」

「思った事を言っただけですよ」

 

微笑みあう俺とミナトさん。

別にガイみたいに抱擁なんかしないさ。

俺達はこれだけで分かり合えるからな。エッヘン。

 

『・・・何もありませんでしたな』

『ブーブー』

 

ふんっ。ブーイングなんかしてもなにもしま―――。

 

「チュッ」

 

・・・え?

 

『うぉぉぉ! 後で締める!』

 

・・・嘆きの叫びが聞こえてきた。

モニタ越しなのになんて迫力。

 

「・・・ミナトさん」

「期待に応えるのがエンターティナーでしょ?」

「別にエンターティナーじゃないでしょう? ミナトさんは」

「ま、いいじゃない。ノリよ、ノリ」

「はぁ・・・。まぁいいですけど」

「なによぉ? 不満なの?」

「いえ。ちょっと恥ずかしいかなって」

 

ほら。アキトさんを始めとしてブリッジにいるメンバー全員が見ている。

流石にさ・・・恥ずかしいよ。

 

『はい。見事な接吻を頂けましたね』

 

ニッコリ笑顔が憎いっす。プロスさん。

 

『それでは、次に参りましょう。第二位の発表です』

 

さて、二位は誰だろう? 美人揃い過ぎて分からん。

 

『その圧倒的なカリスマ性から会場の全てを巻き込み、忘れる事の出来ないステージを創り上げたミスマル・ユリカさんです』

『おぉおおぉおぉおぉ!』

 

お! 二位は艦長か。原作でもそうだったしな、うん。

しかし、二位じゃ艦長にはなれないんだよなぁ。

まぁ、結局、一位の人間は艦長の座を譲ると思うけどさ。

ユリカ嬢に。やっぱり艦長はユリカ嬢じゃないと。

 

『ガーン。一位じゃなかったよぉ』

 

モニタには泣き叫ぶユリカ嬢の姿。

 

『私、これで艦長じゃなくなっちゃうの?』

『そ、そんな事ないよ!』

 

おぉ! ジュン君、頑張れ!

ここで見事に慰めればグッと得点アップだぞ!

 

『そ、それに、ユリカ!』

『ほぇ?』

『いつだって、僕の中では君が一番星だよ!』

 

・・・言った。言ったよ! 遠回しの告白。

でもね、ジュン君、そろそろ学ぼうよ。

ユリカ嬢に遠回りは効果なしだよ。

 

『・・・ジュン君』

『・・・ユリカ』

 

良い雰囲気に見える。

でも、多分・・・。

 

『ジュン君一人の一番星じゃ駄目なのぉ~~~!』

『ユ、ユリカァ~~~』

 

撃沈。

ユリカ嬢には直接的な言葉じゃなっきゃ伝わらないよ。ジュン君。

こうやって身を削って君は強くなっていくんだね。

 

『はい。いつも通りでしたね』

 

辛辣だよ。ミスター。

 

『さて、皆様、大変お待たせしました』

 

残る優勝候補はルリ嬢、ラピス嬢、セレス嬢の妖精三人衆。

誰だ? 誰が優勝なんだ!?

 

『数多くの出場者の頂点に立ち、見事に一番星に輝いたのは―――』

 

・・・ゴクリッ。

 

『―――の前に特別賞の発表です』

 

ズゴッ!

 

プ、プロスさん。

流石過ぎる司会です。

 

「ア、アタタ」

「思わずズッコケてしまった。染まっているな、俺も」

「・・・アキトさん。今更です」

「かもしれん」

 

ノリが良いですよね。ナデシコのクルーって。

ま、気を取り直して・・・特別賞なんてものがあるのは知らなかったな。

 

『こちらの賞は影の優勝と言っても過言ではない特別な方法で決められました』

 

おぉ! 影の優勝。

大きく出たなぁ。

盛り上がってきたぞぉ。

 

『もしも後もう一人に投票出来たら。皆様はそう思いませんでしたか?』

 

うん。思った。思った。

 

『そんなご期待に応える為に、皆様には極秘でアンケートを取っていたのです!』

 

ダダンと効果音付きで手を突き出すプロスさん。

うん。演出が細かいね。

 

『な、なんだってぇ!』

 

はい。わざとらしいアクションありがとうございます。会長。

 

『私が極秘で調査員を編成し、皆様の会話や言動から候補者を調査し、最も話題に挙がった者を特別賞受賞と致しました』

 

なるほどね。要するに話題性みたいなものか。

どれ程、その人の事が話に出たのかっていう。

 

『特別賞受賞はトラの着ぐるみで可愛らしさを演出した可憐な桃色の妖精ラピス・ラズリさんです』

『・・・ニャ~・・・』

『う、うぉぉぉっぉぉぉ!』

 

あ、あれは、原作でルリ嬢が来ていた猫の着ぐるみ。

な、なんてサービス精神に溢れているんだ、ラピス嬢。

それを無表情で乗り切ってしまう貴方が怖い。

 

「なにテンション上げているのよ。コウキ君」

 

おっと、失礼しました。

 

「・・・私も着てみようかしら」

「・・・今度、私も着ます」

 

聞こえていますよ。御二人さん。

うん。知らない振りして楽しみにしてよっと。

 

『それでは、今度こそ、第一位の発表を行いたいと思います』

『うぉうぉぅうぉぉ!』

 

歓声。会場は最高潮。

この盛り上がりは異常ですね。

凄まじいです。はい。

 

『なんと! 第一位は同票で二名の方が受賞しました』

『おおおぉぉぉ!』

 

なるほど。そうきましたか。

だから、優勝候補二人が残っちゃった訳ね。

 

『我々も協議いたしましたが、止むを得ない、むしろ、デュエットもまた良しという結論に達し、このような形となりました』

 

まぁ、良いと思う。

別に優勝が二人いても。

有名なサッカー漫画で優勝チームが二つなんて事もあったし。

要は納得して満足しているか、だからな。

 

『それでは、発表いたします』

 

沈黙。

会場、艦内、その全ての音が止んだ。

 

『第一位は・・・』

 

ゴクリッ。

誰もが息を呑む。

 

『透き通るような声、美しい音色、抜群の可愛らしさで私達を魅了し、虜にしてくれました。誰よりも美しく輝く銀色の妖精セレス・タイトさん』

『おぉぉぉぉ!』

『そして! その感情溢れる愛の歌で私達の心を暖かく優しく包み込んでくれました。誠に勝手ながら名付けさせていただきます。妖精の中の妖精、妖精女王ホシノ・ルリさんです』

『おおぉぉぉっぉぉぉぉ!』

 

途端、大歓声が艦内、会場内を木霊した。

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

俺からしてみれば分かりきっていた結果発表。

 

「・・・え?」

 

でも、当人からしてみれば予想外だったみたい。

ルリ嬢は、まぁ、そこまで驚いてはいない。

一度経験積みだったからだろうな、多分。

でも、もう片方の最優秀賞受賞者は・・・しきりに首を傾げている。

そんなに予想外だったか? セレス嬢よ。

まぁ、客観と主観じゃ違うしね。

セレス嬢の性格的にも自分が優勝だとは思ってなかっただろうし。

 

「おめでとう。セレセレ。ルリルリ」

 

静寂な空気が流れていたブリッジ。

そんな空気を暖かな声が打ち破った。

 

「「「おめでとう」」」

 

ミナトさんに続くよう俺、アキトさん、ゴートさんの三人が二人に声を掛ける。

今でも眼を見開いて身動き一つしないセレス嬢の頭をゆっくりと撫でながら。

あ。もちろん、俺がね。

 

「えっと、ありがとうございます」

 

満更でもない様子のルリ嬢。

やっぱり一位は嬉しいもんさ。

魅力的だって証拠だもの。

 

「・・・・・・」

 

そろそろ反応しようか。セレス嬢。

 

「セレスちゃん」

「・・・あ。はい」

「おめでとう」

「・・・えっとぉ・・・」

 

眼をパチクリとさせながら見上げてくるセレス嬢。

そんな様子にクスッと笑いつつ、セレス嬢を抱き上げる。

 

「・・・あ」

「ルリちゃんと同時入賞だけど、第一位、おめでとう。セレスちゃん」

「・・・あ。はい!」

 

ようやく実感したのかな?

喜びを全面に押し出した満面の笑顔をこちらに向けてくれるセレス嬢。

おぉ! その笑顔が眩しいぜ。

流石は艦内で一番魅力的な女の子だ。

 

「ふふっ。さてっと、入賞者は会場に移動だってよ」

 

笑顔で喜びを分かち合う俺とセレス嬢。

そんな俺達を微笑ましそうに眺めていたミナトさんが颯爽と席を立つ。

言葉通り、会場へと移動しなければならないようだ。

 

「それじゃ、コウキ君」

「え? あ、はい」

 

えっと、この場面で何故俺に?

あ。セレス嬢も会場へ行かなくちゃいけないって事ね。

了解。了解。

 

「はい。セレスちゃん。頑張って」

 

グッと拳を握ってやる。

 

「・・・はい!」

 

満面の笑みで応えてくれるセレス嬢。

うん。頼もしい笑顔だ。

 

「違うわよ。コウキ君」

「え? 違う?」

 

セレス嬢と眼を合わせて思わず首を傾げてしまう俺。

うん。セレス嬢にはピッタリだが、俺は自重するべきだな。

とても似合う仕草には思えん。

 

「エスコートしてあげなくちゃ。貴方だけのアイドルを」

 

ニコッとウインクしてくるミナトさん。

ミナトさんの言葉の意図を理解し、視線をセレス嬢に戻すと・・・。

そこには、頬のみならず首筋まで赤く染めたセレス嬢の姿が。

あぁ。今更ながら恥ずかしいって奴ね。分かるよ。俺もちょっと恥ずかしい。

 

「今回はセレセレに花を持たせてあげるわ」

 

笑顔を浮かべつつ先にブリッジから出て行くミナトさん。

 

「えぇっと」

「・・・・・・」

「行こっか」

「・・・はい」

 

セレス嬢の手を繋いでブリッジから退室する俺。

なんでもいいけど、ミナトさん。

とてもじゃないけど、俺は花なんて柄じゃないですよ。

セレス嬢が喜ぶような花にはとてもなれません。

 

「・・・・・・」

 

どことなく嬉しそうに見えなくもないけど・・・。

 

 

 

 

 

「受賞者の皆様が揃ったようですな」

 

会場に集まった受賞者達。

その総数は六名。

二位と特別賞以外は複数受賞だけど、まぁ、仕方がないでしょ。

というより、妥当な判断だと僕は思います、はい。

 

「それでは、早速表彰式と参りましょう」

 

会場のステージの上に並ぶ六名。

その誰もが魅力的だ。うん。誰だってそう思っている筈。

まぁ、ミナトさんとセレス嬢には敵わないがな、と言ってみる。

 

「第三位メグミ・レイナードさん」

「はい!」

 

元気良く返事をして、ステージの真ん中へと歩いていくメグミさん。

その佇まいは場慣れしているなぁと実感させるプロの仕草だった。

流石は元声優。きっと多くのファンがいた事だろう。

 

「おめでとさん」

「ありがとうございます」

 

ウリバタケさんよりトロフィーを渡されご満悦の様子。

とても第三位がもらえるとは思えない程の豪華なトロフィーだった。

 

「それでは、何か一言御願いします」

 

マイクを渡されるメグミさん。

トロフィーを片手に、マイクを握り、その視線は・・・。

 

「ガイさん」

 

ダイコウジ・ガイ、改め、ヤマダ・ジロウに注がれていた。

 

「私達が侵略者だと思っていた木星蜥蜴が本当は木連という同じ人類だった」

 

その眼差しに込められた想いは何なのだろう。

 

「そんな事実を知った時、私は迷い、同時に、これが戦争なんだなって、そう実感しました」

 

ガイを真摯に見詰めるその視線。

 

「怖くて、戦争から逃げたくなって。でも、そんな私を支えてくれたのがガイさん。貴方でした」

 

その視線には無上の愛が込められていた。

 

「貴方のお陰で今の私がいる。そう私は胸を張って言い切れます。ありがとうございました」

 

一礼し、元の居場所へと帰っていくメグミさん。

 

「・・・・・・」

 

シーンと静まり返る会場。

一拍置いて、拍手音が会場中を包み込んだ。

 

「ありがとうございました。見事なスピーチでしたね」

 

はい。本当に。

ガイとメグミさんが相思相愛だって伝わってきた。

整備班の連中も文句が付けられないくらい、バッチリと。

妬みがガイに向かう事なく、むしろ、バシバシと笑顔で叩かれていた。

大事にしろよって。大切になって。幸せになれよって。

整備班の人達ってさ、なんだかんだ言って、男らしくてカッコイイ人達の集まりだと思う。

・・・これで俺を追いかけてこなくなったら更にそう思うんだけどね・・・。

 

「それでは、続いて、同じく第三位ハルカ・ミナトさん」

「は~い」

 

お次はミナトさん。

メグミさんのようなプロの仕草じゃないけど、どこか洗練された大人の魅力を感じる。

こんな色気は他の受賞者にはないだろうなぁ。

あ。タイプの違いだから。決して貶している訳ではないので。

 

「色っぽかったぜ」

「ふふっ。ありがと。ウリバタケさん」

「どこまでも魅力的な女だよ、お前さんは」

 

まったくもってその通りです。

その状況でその余裕、その笑みは最早反則でしょう。

 

「それでは、何か一言御願いします」

 

マイクを持ち、ステージの中央に堂々と立つミナトさん。

スポットライトが彼女一人に集まり、まるで舞台女優のようだった。

 

「・・・・・・」

 

無言であたりを見渡すミナトさん。

誰もが何を話すのだろうかと固唾を呑んで見守っている。

そんな中、ミナトさんは・・・。

 

「ただ一言だけ」

 

・・・ゆっくりと口を開き、言葉を紡ぐ。

 

「皆が幸せになれますように。この戦争を終えた後に皆が笑顔でいられますように。私はただそれだけを祈り、願っています」

 

一礼するミナトさん。

その言葉に込められたミナトさんの想いは深過ぎて俺には分からなかった。

でも、その優しさや暖かさが身を包み込んでくれたかのような、そんな気がした。

 

「ありがとうございました」

 

ミナトさんが去ったと同時に大喝采。

誰もがミナトさんの言葉に聞き入り、優しさに触れていたと思う。

なかには涙を浮かべる人までいる始末。本当に凄い人だなって思った。

 

「たった一言にここまで想いを込められるものなのでしょうか? 愛に包まれたお言葉でした」

 

万感の想いを込めて告げるプロスさん。

その気持ち、僕も分かります。

 

「それでは、続きまして第二位ミスマル・ユリカさん」

「はい!」

 

ビシュッと手を挙げるユリカ嬢。

相変わらず元気だなって思う。

その明るさとカリスマ性が彼女の艦長たる所以なんだろうな。

 

「惜しくも二位だったが、良かったぜ。艦長」

「ありがとうございます。ウリバタケさん」

 

第二位を示すトロフィーを受け取るユリカ嬢。

最早その豪華さは第一位と言っても過言ではない。

いや。金使っているね。ネルガル。

 

「それでは、艦長、何か一言御願いします」

「はい」

 

渡されたマイクをしっかりと握って、ステージの中央に立つユリカ嬢。

 

「艦長として、私はここまでやってきました」

 

ゆっくりと一文字一文字を丁寧に話していく。

 

「突然の火星行き、火星からの脱出、木連の真実。私達は多くの事を経験してここに立っています」

 

その真剣な眼差し。そこにはいつものぱやぱやしたユリカ嬢の姿はない。

艦長として、人を導き、引っ張っていく。そんな上に立つ人間独特のオーラを感じられた。

 

「迷った事もあったでしょう。苦しかった事もあったでしょう。それらを乗り越えて、皆さんはここにいます」

 

力強い眼差し。その瞳が観衆の心を掴んだ。

 

「皆さんは私にとって家族です。ナデシコは私にとって家です。大切な人達と大切な場所。それがナデシコです」

 

ナデシコ。俺の、俺達の船。

 

「これから私達には多くの困難が立ち塞がる事でしょう」

 

常に最前線に立たされてきたナデシコ。

最早この戦争の中心と言っても過言ではない。

いや。事実、大きな意味を持つ。

唯一、木連に対して面と向かって接触したのだから。

 

「ですが、皆さんが私に、私達に力を貸してくれれば乗り越えられると、そう思っています」

 

艦長として、一人の人間として、和平の為に尽力したユリカ嬢の姿を俺は知っている。

いつもお気楽そうに見えても、その頭の片隅では常にナデシコの事を考えているのだと俺は思う。

なんだかんだいって頼り甲斐があるミスマル・ユリカ艦長。

ナデシコクルーは誰だって、彼女を信頼し、付いていこうと考えている。

その果ての和平を目指して。

 

「もしかしたら、私は艦長じゃなくなってしまうかもしれません」

 

優勝景品は艦長の座。そう決まっている。

でも、誰だってあの席に座るべき人が誰かなんて事は言われるまでもなく理解している。

 

「でも、私はこの私達にとって大切な場所であるナデシコの為に尽力しようと思っています」

 

貴方だけじゃない。誰もがそう思っていますよ。艦長。

俺達皆で“ナデシコ”なんだから。

 

「だから、どうか皆さんも力を貸してください。まるで闇の中を歩くようだけど、必ずその先には光があるから」

 

一礼。

ユリカ嬢の想いは全てのナデシコクルーに伝わった筈だ。

改めて、俺はこの人に付いていこうと、そう思った。

 

「ありがとうございました」

 

プロスさん。貴方がスカウトしてきた艦長は最高の艦長ですよ。

誇りに思って下さい。貴方の眼は確かだ。

 

「私には推し量る事の出来ない彼女らしい想いの詰まったスピーチでした」

 

艦長は貴方こそが相応しい。ミスマル・ユリカ。

 

「続きまして、第一位に入る前に特別賞の授与を行いたいと思います。特別賞ラピス・ラズリさん」

「・・・・・・」

 

無言で歩くラピス嬢。

・・・着替えてこなかったんだね。

猫の姿のままだなんて。あまりにもシュールだ。

 

「お、おめでとさん」

「・・・ニャー・・・」

「グハッ」

 

ウリバタケさん。吐血。

いや。破壊力抜群ですよ。ラピス嬢。

 

「そ、それでは、何か一言御願いします」

 

プ、プロスさんまで!

ラ、ラピス嬢。な、なんて恐ろしい子なんだ。

 

「ニャニャ・・・ニャニャニャ~」

 

・・・一礼。

ラピス嬢が去ると同時に・・・。

 

「「「「「グハッ!」」」」」

 

男共の吐血。いや。分かるぞ。

その気持ちは痛い程に分かる。

あの破壊力の前では全てが無力だ。

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

女性の方々も恍惚とした表情で見守っているし。

一瞬にして会場はカオスだな。

艦長の余韻もあったもんじゃない。

 

「あ、ありがとうございました。か、可愛らしいコメントでしたね」

 

額をハンカチで拭いつつの司会進行。

今回はマジで汗を掻いていた模様です。

 

「そ、それでは、コホン、遂に第一位の表彰です。同時優勝セレス・タイトさん、ホシノ・ルリさん」

「はい」

「・・・はい」

 

優勝という事で差を付けたくなかったのだろう。

同時にステージの中央に移動する二人。

 

「おめでとさん。可愛かったぞ」

「・・・ありがとうございます」

 

受け取るセレス嬢。

 

「おめでとさん。想いが伝わる良い歌だった」

「ありがとうございます」

 

受け取るルリ嬢。

うん。冷静に考えてみようか。

・・・でか過ぎだよね。トロフィーが身長と同じくらいってどうよ。

ルリ嬢もそうだけど、セレス嬢とか頑張って持っている感が漂っていて落ち着かない。

こら! 誰か持ってやれっての! 重たそうにしているだろうが!

 

「ひとまず床において頂いてもよろしいですよ」

 

一生懸命持ち上げていたトロフィーを床に置いてようやく一息。

うん。こっちもようやく落ち着いたよ。

 

「それでは、お先にセレス・タイトさん。一言御願いします」

 

プロスさんからマイクを受け取り、ギュッと握りこむ。

恥ずかしそうに俯くその姿からは庇護欲を湧かせる。

う~ん。将来が怖いぜ。名付けるなら天然系子悪魔か?

男共が骨抜きにされるのが今からでも想像できる。

 

「・・・私はずっとずっと暗い所にいました」

 

その小さな口からゆっくりと紡がれる言葉。

 

「・・・苦しくて、寂しくて、辛くて。私がいた所はそんな場所です」

 

非合法で、非公式な研究所。

それが彼女の生まれてからナデシコに来るまでの居場所だった。

 

「・・・毎日が実験の日々でした。毎日窮屈なカプセルで寝させられていました」

 

IFS強化体質、所謂マシンチャイルド。

それが彼女、セレス・タイトの抗えない事実。

彼女は罪深き科学者によって生み出された実験体なのだ。

 

「・・・死にたい。普通ならそう思うのでしょう。でも、私にはそう思う感情もなかった。私は・・・人形でした」

 

ただ実験し、成果を記録されるだけ。

それに対して、何の感情も浮かべずに流されるままだった。

当たり前だ。生まれて感情を育む時間さえ与えられなかったのだから。

 

「・・・でも、そんな私にも大きな転機が訪れました」

 

人形として生きてきたセレス嬢。

そんな彼女が変われた瞬間。

間違いなく・・・ナデシコだろう。

 

「・・・突然、光明が差し込んだんです。こんなにも暖かくて優しい場所が私を迎え入れてくれました」

 

ニコリと笑うセレス嬢。

その笑顔は初めて会った時とはまるで別人の心からの笑顔だった。

ナデシコが彼女を変えたんだ。こんなにも魅力的な女の子に。

もう人形なんて言わせない。セレス嬢。君は紛れもなく人間だよ。

 

「・・・たとえマシンチャイルドであろうと受け入れてくれる人がいるんだって、そう教えてくれました」

 

これから先、きっとマシンチャイルドである事を受け入れてくれない人もいると思う。

でも、少なくとも、ナデシコクルーは皆、君の味方だから。

たとえ、IFS強化体質であろうと、木連人であろうと、素直な気持ちで受け止めてくれる。

そんな優しい人達が君の後ろで君を支えているんだ。

だから、安心して踏み出そう。ナデシコだけじゃない。もっと大きな世界に。

 

「・・・マシンチャイルドである事。皆さんのお陰で私はその事に誇りを持てるようになりました」

「・・・・・・」

「・・・私は・・・私は今、とっても、とっても幸せです。私は・・・ナデシコが大好きです」

 

ペコリと一礼。

途端、大歓声が会場を揺るがした。

 

「・・・強くなったな。セレスちゃん」

 

マシンチャイルドである事。

それが彼女にとっては負い目だった。

自分はマシンチャイルドだからって。

そうやっていつも自分を蔑んで。

でも、こうやって一人の人間として、しっかりと自分を持てるようになった。

何だろう。自分の事のように嬉しい。

勝手に頬が緩んでしまう。

 

「心に響くコメントでした」

 

うん。本当に。

セレス嬢の想いが伝わってきた。

セレス嬢と同じ時間を過ごせていた事が俺にとっても誇りに思える。

少しでも、俺が彼女の力になれたんだって。

そう思うだけで幸せだ。

 

「それでは、最後になります。ルリさん。御願いします」

「はい」

 

多くの心に響くコメント。

その最後にルリ嬢が現れる。

彼女は何を語るのだろうか。

誰もが静かに、固唾を呑んで見守る。

 

「まず始めに、私は謝らなければなりません」

 

突然の謝罪にあたりがざわめき立つ。

どうしたんだろう? ルリ嬢。

 

「艦長コンテストという舞台で、私はただ一人の為だけに歌を唄いました」

 

静かに、ゆっくりとした口調で話すルリ嬢。

ざわめいていた会場が静まり返る。

 

「私の想いは伝わってくれましたか? ・・・アキトさん」

「ッ!?」

 

ルリ嬢の口から紡がれたアキトという言葉。

アキトさんが肩を震わす。

 

「貴方の傍にいたい。私の願いはただそれだけです」

 

真摯にアキトさんを見詰めるルリ嬢。

アキトさんもまたルリ嬢を見詰め返していた。

 

「貴方はいつも無茶をして、たった一人で全てを背負おうとします」

「・・・・・・」

「私はそんな貴方の姿が苦しかった。私じゃ何も出来ないのかって、いつも嘆いていました」

 

まるで会場にはルリ嬢とアキトさんしかいないかのような。

そんな錯覚に襲われる。

 

「いつか遠くへ行ってしまうんじゃないかって。いつも不安で・・・」

 

二人だけの世界。

でも、それこそが正しい。

今の二人にとって、俺達は何の意味も持たない。

だけど、そうでなければ意味がない。

二人だけで、答えを見つけて欲しい。

意味を持たない俺は、俺達はただそれだけを祈ろう。

事情が分からない人間だって中にはいると思う。

でも、きっと、誰もが二人の事を想って見守っている。

 

「ずっと貴方の傍にいて、ずっと貴方を支えていきたい」

「・・・・・・」

「私の我が侭なのかもしれません。アキトさんにとっては迷惑なのかもしれません」

「・・・・・・」

「でも、こんなにもただ一人を想った事なんて今までに一度もありません。・・・アキトさん」

「・・・ルリちゃん」

「私は貴方を愛しています。貴方の隣に・・・私の居場所はありますか?」

 

涙を浮かべたルリ嬢の告白。

どこまでも深い愛がルリ嬢からアキトさんに注がれた。

人を愛する美しさを感じさせてくれる。

そんなただ一心に相手を想う告白だった。

 

「俺はいつまでも変わらず無茶をし続けると思う」

「・・・・・・」

「無茶してでも結果を残す。それが俺の贖罪だと、今までずっと考えていた」

「・・・・・・」

「でもね、ルリちゃん、辛いんだ」

「アキト・・・さん?」

「何をしても報われず、どれだけ経っても悪夢が襲う。碌に眠れる日なんてあれから一度もない」

 

まるで生きる事に疲れたかのような。

そんな重みのある言葉がアキトさんの口から紡がれた。

 

「でもね、ルリちゃんが傍にいてくれる。そう思うだけで生きようって思えるんだ」

 

今のアキトさんでは考えられない昔のアキトさんの口調。

きっと今、二人は昔の二人に戻っているんだ。

罪を償おうと生き急ぐアキトさんではない。

昔の優しいコックだったアキトさんに。

 

「ルリちゃんが支えてくれる。そう思うだけで頑張ろうって思えるんだ」

「・・・アキトさん」

「こんなにも情けなくて頼り甲斐のない俺だけど、いつまでも無茶し続けて、心配させ続ける俺だけど・・・」

「・・・・・・」

「ルリちゃん、君はずっと俺の傍にいてくれるかい?」

「・・・ッ! はい・・・はい!」

 

零れ出る涙。

それはきっと心から溢れた喜びの雫。

ようやくルリ嬢の想いがアキトさんに伝わったんだ。

 

「アキトさん!」

 

ステージから飛び降りて、一直線にアキトさんのもとへと向かうルリ嬢。

周囲で二人を見守っていたクルーは暖かい笑顔で道を作る。

 

「アキトさん!」

 

ダッとアキトさんへと飛び付くルリ嬢。

アキトさんもまたしっかりとルリ嬢を支え、抱き締めた。

 

「いつまでも傍にいて欲しい。ルリちゃん」

「はい。いつまでも貴方の傍に」

 

溢れんばかりの拍手の中、二人はこうして結ばれた。

ルリ嬢が抱えていた長く深い想い。

その想いが叶った瞬間を俺は見届ける事が出来たんだ。

おめでとう。ルリ嬢。アキトさん。お幸せに。

 

 

 

 

 


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