「はいはい。友情ごっこはそれぐらいにして欲しいね。まったく」
対面するアキトさんとジュン君に向けて突如として告げられる言葉。
「・・・アカツキ」
「それにしても、意外だったなぁ。僕にもあんな一面があったなんて」
どこか皮肉るように笑う会長。
ふてぶてしいという表現が一番合うな、今の会長には。
「次はホシノ君の記憶だっけ? 早く見せて欲しいな」
会長だって既にバレてるからな。
完全に開き直ってやがる。
「ええ。分かりました。私の記憶、皆さんにお見せしましょう」
そんなアカツキに対してあくまで冷静に応えるルリ嬢。
うん。相も変わらずクールだ。
・・・・・・・・・・・・・・・。
始まり方は違うものの、大まかな記憶は、やっぱりナデシコの記憶が印象強いのか、アキトさんとそう変わる事はなかった。
アキトさんが行方不明になってからのルリ嬢は見るに耐えない程の落ち込みようで。
でも、その姿で、ルリ嬢はあの時からアキトさんを想っていたんだなって知った。
凄く今更な話だけど、その想いがきちんとアキトさんに伝わってよかったなって思う。
「おいおい。ルリ。お前、マエヤマの奴を」
驚きの表情でルリ嬢を見るスバル嬢。
うん、あの殺人未遂の時の奴。
「・・・今でも申し訳なく思っています。私は―――」
「はい。ストーップ」
でも、気にしてないって言っているんだから、いつまでも引っ張ってもらってちゃ俺が困る。
「リョーコさんも今更持ち上げないでくださいよ。万事解決済みなんですから」
「わ、わりぃ、でもよ・・・」
「ま、俺が気にしてないんですから。スルーの方向で」
「お、おう。分かったぜ」
ルリ嬢の記憶は、アキトさん以上に逆行後の描写が詳しかった。
ルリ嬢がこちらの世界に帰ってきてからの絶望。
アキトさん、ラピス嬢と再会した時の喜び。
俺というイレギュラーによる葛藤と困惑。
改めてこう見ると、俺って唯の怪しい人間だよなぁと実感した。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「なるほどね」
ルリ嬢の記憶を全部見終わってから、最初に溢した台詞がこれ。
ネルガル会長アカツキ・ナガレの。
「おかしいとは思っていたんだよ。掌で踊ってもらう予定の人間に引っ掻き回されて」
ヤレヤレと言わんばかりの表情でそう告げる。
「突如やって来た凄腕のパイロット。履歴を見たらネルガルと因縁深いテンカワ博士の御子息と来たもんだ」
会長も知るネルガルの闇。
その最もたる例でもある暗殺事件。
「馬鹿だなって思ったよ。またネルガルに利用されに来るなんてって」
「・・・だが、そううまくはいかなかった」
「まぁね」
会長に対して真っ直ぐな視線を向けるアキトさん。
そんなアキトさんに対して、肩を竦める会長。
「まさか、こんな大それた計画を立てていたとはね。しかも、その殆どを成功で終わらせている。本当にビックリだよ」
「アカツキ。お前の真意を聞かせて欲しい」
「僕の真意だって? 何のだい?」
「ボソンジャンプを司る遺跡。その演算ユニットをお前はどうしたいんだ?」
「もちろん、確保したいさ。あれ以上の商売はないからね」
「だが、果たして、それは利益になるのか?」
「さぁね」
さぁねって、おい。
「ボソンジャンプが使える人間は限られている。そんな事は僕だって知っていたさ」
「その条件付けは?」
「テンカワ君の記憶を見て、確信したって所かな。大まかには分かっていたよ」
大まかには分かっていた?
もしかして・・・。
「君達は本当に僕達が知らないとでも思っていたのかい?」
・・・ドキリとした。
「テンカワ君、艦長、イネス博士、あとカエデ君、だっけ? 共通点なんか一つじゃないか」
「まさかッ!」
「アトモ社が潰されようと秘密裏に実験は行える。ネルガルを甘く見ちゃいけない」
「・・・実験・・・していたのか?」
「もちろん。年齢から考えて、十五歳から三十歳の間で、火星生まれの火星育ち。火星の生き残りでその条件に適合する者に協力してもらったんだ。もちろん、自主的にね」
「本当に自主的か?」
「さぁ? その辺りの管轄はエリナ君だったからね。どうだろう? どちらにしろ、ナデシコの御陰って事になるのかな」
・・・何もかも考えが甘かった。
火星出身がA級ジャンパーだとバレないと何故判断した?
アトモ社が潰れたから、もう実験は出来ないと、何故そう考えてしまった?
向こうはネルガル。優秀な者達が数多く存在する大企業。
・・・この程度の事に気付かない訳がない。
「いやぁ。大変だったんだよ? 何たって適合する生き残りはたったの三人。限りある内に成功させないといけなかったからね」
「・・・お前は人の命を何だと思って―――」
「ハハッ。笑わせないでよ。テンカワ君。大量殺人者の君に言われる筋合いはないよ」
「ッ!」
「どちらも利己的な理由じゃないか。どちらにしろ、犠牲になった者は報われない」
「・・・・・・」
「ま、僕の場合は成功したらその後は多くの者に利益を齎す事になるけどね」
ニヤリと笑ってみせる会長。
「三人の内、成功したのは二人。一人は尊い犠牲になってくれたよ」
・・・どうして・・・。
「どうしてそんな事を笑顔で言えるんですか!?」
人の命を奪っておいて・・・どうしてそんな・・・。
「僕の生きる世界はね、命じゃないんだ、命を捨ててでも利を齎さなければならない」
・・・そこには冷酷なトップの顔があった。
「会長というのはね、そういうものなんだよ。そうしなければ、次に狙われるのは僕かもしれない」
「・・・それはどういう―――」
「十四歳」
「え?」
「何の数字か分かるかい? マエヤマ君」
「・・・分かりません」
「簡単な事じゃないか。僕の命が狙われはじめた年齢だよ」
「ッ!?」
「正確にはもっと前からだろうね。でも、初めて行動に移してきたのはこの時だ」
・・・暗殺?
アカツキ・ナガレもまた、命を狙われた事があったのか?
「ははっ。おかしいよね。継ぎたくないのに継がされた。それなのにこの始末。笑っちゃうよ」
・・・知らなかった。
会長の座に座る事がそんなにも重い事だなんて・・・。
「僕が出来る事。それはひたすらに利益を提示し続ける事。認めさせる事。それだけさ」
どこか自嘲したかのように話す会長。
「嫌なんだよね。割に合わない事ばっかりで。本当に、親父を憎むよ」
先代会長の残したネルガルの闇。
その重責が会長に圧し掛かっている。
「・・・マシンチャイルド計画。馬鹿みたいだよね。バレたら倒産だってのに、利益が得られるからって」
「・・・アカツキさん」
「でもね、僕は決して君達に謝らないよ。だって、それが僕の仕事だから」
「・・・・・・」
「感情を押し殺してでも利益を。・・・本当に割に合わないよ」
ネルガルの闇の最も深く関係するマシンチャイルド。
ホシノ・ルリ、ラピス・ラズリ、セレス・タイト。
彼女達を前にしても、会長、いや、アカツキが頭を下げる事はなかった。
きっと、本人が一番理解しているのだろう。
その計画の歪さを。
それでも、彼は頭を下げない。
・・・下げてはならないのだ。
それがトップたる矜持、意地なのだから。
「話を戻そうか。テンカワ君」
「・・・ああ。構わない」
「僕はね、遺跡を確保したい。その事に変わりはないさ」
「残念だが、そうもいかないな。ネルガルが遺跡を確保する事が悲劇に繋がるのならば」
「よく考えてごらんよ。果たして、本当に遺跡の独占が悲劇に繋がるのかな?」
「何?」
「たとえば、だよ。僕達ネルガルが独占したとしよう。我が社には多くの優秀な研究者がいる」
「・・・それは認める。だが、だからこそ・・・」
「それなら、遺跡の制御だって可能になるかもしれないでしょ?」
「・・・それは・・・」
「更に言えば、火星人のみのジャンプを広範囲にする事が可能になるかもしれない」
「・・・・・・」
「もっと言えば、火星人のジャンプすらも不可能にする事が可能かもしれない」
「ッ!?」
「どう? もし、それに成功すれば、火星人の悲劇は防げるんじゃないかな?」
・・・確かに。
あくまで制御できたらという前提だけど、間違った事は言っていない。
火星人の悲劇は、彼らだけがA級ジャンパーとして認められていたから。
跳ぶ事が出来たから。
それなら、その前提を崩してしまえば、もしかしたら、悲劇を未然に防げるかもしれない。
「どう? 利害は一致するでしょ? 僕達は利益を得たい。君達は悲劇を防ぎたい。この方法なら全てが丸々収まってしまう」
・・・どうするのだろうか?
俺では判断する事が出来そうにない。
「・・・駄目だ」
・・・アキトさん。
「へぇ。どうして?」
「確かにお前の言う事は正しい。その方法なら解決するかもしれん」
「そうだよね? でも、気に食わない何かがある、と」
「・・・お前の方法で解決するのはあくまでこちら側の事だけだ。お前は、木連側の事をまるで考えていない。それじゃあ後の禍根を残す」
「へぇ。敵さんに情けを掛けようっての? 優しいんだね、テンカワ君は」
「俺達が目指すのは嘘偽りのない和平。恒久平和なんて不可能な事は言わん。だが、出来る限り、そう、出来る限りでいいんだ、火種は失くしておきたい」
嘘偽りのない和平。
いつまでも平和でいられるなんて事は不可能。
でも、少なくとも、どちらかの陣営の暴走は防げるかもしれない。
禍根を残す事なく、次世代へと引き継ぐ事が出来るかもしれない。
恨みは消せずとも、膨れ上がる事はなくなるかもしれない。
しれない、ばかりだが、それはきっと凄く価値のある事だ。
「俺はミスマル提督と共に和平を成そうと決めたんだ。このプランに変更はない」
「・・・そう。ま、いいけどね」
断られたアカツキの胸中は・・・。
大したダメージは受けてないか。
「アカツキ」
「ん? 何だい?」
「俺達と手を組まないか?」
「へぇ。どういう風の吹き回しだい? 今、この瞬間、君は僕と決別したのでは?」
「利益を求めるのだったな?」
「そうなるね」
「それなら、こちらと手を組め」
「詳しく聞いてからにしようかな。君が何で僕を釣ろうとしているのかを」
さぁ・・・ここで決まるんだ。
アカツキを引き込めるかどうかで。
「俺の記憶を見たよな」
「うん。もうバッチリと」
「それならば、戦争後、ネルガルが右肩下がりになる現実を見ただろう?」
「確かに見たよ。でも、それは遺跡を確保すれば防げるんじゃない?」
「かもしれん。だが、確実ではない」
「確実なんてこの世の中にはないんだよ。あっても一握り」
「例えば、だ。ボソンジャンプ研究の筆頭企業に立てばそれも変わるんじゃないか?」
「おっと。そう来たか」
「地球だけで独占するつもりもない。木連だけで独占させるつもりもない。戦後、出来るならば、両陣営による管理にしておきたいんだ。互いを監視する形でな」
どちらかが変な真似をすれば、どちらかが迅速に対応する。
その為の両陣営による管理だ。
「ネルガルにはイネスさん、彼女もいる」
「あら? 評価してもらえるなんて光栄ね」
「・・・散々お世話になったからな」
未来において、アキトさんに最も近い人間の一人だったと考えられるイネス女史。
拉致されているという事を知ってすぐにネルガルが彼女の身元を隠し行方不明とした。
また、アキトさんも救出されてからはネルガルが身元を隠していた。
要するに、彼らは同じ状況下にいたという事。
即ち、同じ場所で活動していてもなんら不思議はない。
「優秀な研究者が多くいるネルガルならば、筆頭騎乗に立つ事も不可能ではないだろう」
「へぇ。要するに、君がネルガルを優遇してくれるって、そういう訳だね?」
「そうは言っていない」
「よく分からないね。君は何を言いたいんだい?」
「俺が言える事は唯一つ。遺跡を独占するより、共同研究の方が遥かに利益があるという事だ。遺跡を確保した所で次代の争いの火種となるだけ。利点は少ない」
「争いになって結構。僕達みたいな事業はね、戦争があればあるだけ稼げるんだ」
「確かにな。だが、戦争になった時、ネルガルが軍事事業に参加できるかは分からんだろ?」
「なるほどね。遺跡を独占したら軍事産業に携われない。でも、遺跡を確保して、研究の筆頭に立てれば、ボソンジャンプ関連で稼げて、かつ、一般の軍事産業でも稼げると」
「そうなるな」
「でもさ、ネルガルって別に軍事産業だけじゃないよ? 問題ないんじゃない?」
「問題はあるさ」
「へぇ。何だい?」
「たとえボソンジャンプ研究に成功したとしても、その活用には必ず他組織の協力が必要になる」
「うん。それはそうだろうね」
「ボソンジャンプを利用する上で、軍から睨まれているのは都合が悪いんじゃないか?」
「まぁね。でも、今の軍なんか大した脅威にもならないよ。押し通せるさ」
「現状ではな。だが、今後、軍内での革命が始まる。そうなれば、以前のようなゴリ押しは通用しなくなる」
「いいのかな? そんな事を言って」
「今更な話だからな」
・・・これは賭けだ。
話さなくていい事まで話してしまった。
これで、説得に失敗すれば、こちら側の計画が潰される可能性もある。
何をしてでも成功させなくちゃならない。
「それに、だ。現状、改革和平派が常備しているのはネルガル製の兵器。こちらの話に乗って得な事はあっても、損な事はないと思うぞ」
「そうね。そうなっても不思議じゃないわ」
アキトさんの言葉に同じ派閥である提督も同意する。
改革和平派が政権を握れば、今後もネルガル製品が幅を利かせる事は間違いないだろう。
「・・・リスクを抱えてまで莫大な利を得るか、確実性を求めるか。そのどちらかって訳だ」
「どちらが最善なのか、ネルガル会長アカツキ・ナガレとして決めてもらおうか」
多くの会社員を抱えるネルガル。
大手企業として、どちらの選択肢が正しいのだろうか?
他産業でまかなえると強気に出るのがベストなのか?
大手として安定性を求め、確実な利益を得るのがベストなのか?
「ふぅ。まったく」
溜息を吐くアカツキ。
どうする? どうするつもりなんだ?
「言いようにやられたみたいで癪だけど、そんな選択肢だったら決まっているようなものじゃないか」
「・・・なら?」
「はいはい。分かったよ。邪魔しない」
・・・よかった。
嬉しさより安堵って感じかな。
これでこれ以上ボソンジャンプ実験による被害は―――
「但し、テンカワ君。戦争後、君にはネルガルに来てもらうよ」
・・・え? そんな事って・・・。
「ネルガル所属の実験体としてボソンジャンプ実験に参加してもらわなくちゃね」
そ、それじゃあ、アキトさんには自由がないじゃないか!
辛い思いばかりしてきたのに・・・。
報われたっていいのに、それなのに・・・。
また、ネルガルの駒として扱われなければならないのか?
「そ、そんな事、認められ―――」
「いいだろう」
激昂したルリ嬢の言葉を遮るアキトさん。
「ア、アキトさん!」
「どちらにしろ、俺はボソンジャンプの情報は提供するつもりだった。情報を提供するだけで終わるか、実験体としてより詳細な情報を提供するか。 ただ、その違いでしかない。事実、俺がやらなければ違う誰かがやらされる事になる」
「素直で助かるよ。テンカワ君」
ほくそ笑むってこういう事を言うんだろうな。
憎たらしいぞ、会長。
それにしても・・・アキトさん、本当にそれでいいんですか?
ルリ嬢の気持ち、ちゃんと考えてあげていますか?
「それと、そうだなぁ・・・。マエヤマ君も僕達でもらおうかな」
「なッ!?」
お、俺か?
「何故そうなる? 俺だけで充分だと思うが?」
「企業なら誰だって欲しいと思うけど? 情報社会においての彼の力は凄まじいからね」
「だが、それとこれとは関係ないだろ?」
「そうかな? マエヤマ君だって君達の仲間の一人なんでしょ? テンカワ君一人だけを犠牲にするなんて事、仲間ならしないよね?」
「・・・俺は・・・」
・・・どうすればいい?
ネルガルの独占を防ぐ為に、俺は・・・。
「マエヤマは関係ない」
「関係なくなんかないよ。あのCASだって、君達の為に製作したようなもんでしょ?」
「製作を依頼しただけだ。唯の外部協力者でしかない」
「別にマエヤマ君の立ち位置なんてどうでもいいんだ。僕が欲しいのは能力だから」
「関係ないものを巻き込まないでもらいたい」
「あ、そう。それなら、考え直させてもらおうかな」
「クッ! 卑怯だぞ! アカツキ」
「卑怯で結構。言っているでしょ? 利益の為なら何でもするって」
・・・クソッ。
こんなんじゃ、答えは出ているようなものじゃないか。
「俺は―――」
「タイムアップよ」
え? イネス女史?
「大切な話をしている途中で悪いけど、そろそろこの空間から追い出されるわ」
「追い出されるってどういう意味ですか? イネスさん」
「艦長。あそこを御覧なさい」
イネス女史が指差した壁はどこか歪んでいた。
「あっちの世界で制御の乗っ取りに成功したようね」
制御を取り返したから、混在世界から追い出されるって訳だ。
「そう、ま、いいや。よく考えておいてね。テンカワ君。マエヤマ君」
「・・・・・・」
そうニヒルに笑ってその場から消えるアカツキ。
・・・どうやら追い出されるのは適当な順番らしい。
「・・・コウキ」
「・・・よく分かんねぇけど、ピンチっぽいな」
「ええ。でも、私達にはどうする事も出来ないわ」
「・・・コウキさん。お先に失礼しますね」
パイロット四人娘も消えていった。
「元気出せよ、コウキ。なんかあったら呼んでくれ。いつでも助けになるぜ」
「ああ。サンキュ。ガイ」
「あばよ。先、行っているぜ」
「私も先に行っているわよ」
「はい」
ガイもムネタケ提督も消える。
「すまない。コウキ」
「・・・いえ」
「俺の力不足でこんな事に」
「・・・俺の事よりも、アキトさんはいいんですか?」
「・・・覚悟はしていたさ。そうなるであろう事も」
「ルリちゃんやラピスちゃんはどうなるんですか?」
「・・・それは・・・」
「・・・アキトさん」
「・・・アキト」
「・・・俺の事は俺で解決しますから、アキトさんは三人できちんと話し合った方が良いと思いますよ」
「・・・ああ。すまないな」
アキトさん、ルリ嬢、ラピス嬢も消える。
消える前の心配そうな表情が印象深かった。
「・・・コウキさん」
「・・・俺達もそろそろ行かないとね」
「・・・私、あともうちょっとで揃えられたんです」
そう言われ、セレス嬢の牌を眺めると俺の牌が・・・。
・・・うん。危なかったみたい。
「・・・せっかくコウキさんの事を知れると思ったのに・・・残念です」
俺としては助かったけど、俺だけ記憶を見せてないっていうのはなんか申し訳ないな。
「今度、俺の昔話を聞かせてあげるね」
「・・・はい。それなら、いいです」
アカツキの言葉に頭の中はこんがらがっていたけど・・・。
「・・・楽しみです」
眼の前で無邪気に笑うセレス嬢を見ていたら、うん、なんか、元気でた。
「悩んでいても仕方ない、か」
断固として認める訳にはいかない。
交渉とか、そういうのは苦手だけど、やるしかないんだ。
「・・・一緒に暮らすって言っちゃたしね」
「・・・ん? 何でしょうか?」
「ううん。なんでもないよ。行こっか」
「・・・はい」
セレス嬢の手をしっかり握って、俺も混在世界から脱出する。
色々と考えさせられる事ばかりだけど、決して屈しはしない。
諦める訳にはいかないんだ。平穏な生活を得る為にも・・・。