機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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感情と損得と

 

 

 

 

「・・・アキトさん」

「・・・ルリちゃん」

「先程の話、受けてください」

「・・・火星再生機構の代表か?」

「はい。そうすれば、アキトさんを含む火星人皆が救われます」

「・・・確かに、火星を再生しようというのは俺にとっても願ったり叶ったりだ」

「それなら―――」

「だが、俺には務まらんよ。戦場だけが俺の生き場所だ」

「そんな事ありません! 戦場だけなんて、そんな悲しい事を言わないで下さい!」

「・・・実際、交渉は全て失敗し、アカツキに情報を渡してしまっているだけ。組織のトップになれるような強かさもなければ、組織を運営できるような知識もない」

「それは・・・」

「俺なんかよりもっと相応しい人間が―――」

「それはどうかしらね?」

「それを決めるのは早計じゃないかしら?」

「・・・イネスさん、提督」

「組織のトップに必要なのは別にそんな事じゃないわ」

「それなら、何が必要だと言うんだ?」

「もちろん、貴方が考えている組織のトップの形も理想の一つよ。でもね、世の中に正解なんてないの。組織の為ならいくらでも冷徹になれる人間がいいのか?どこまでも潔く、どこまでも一生懸命な人間がいいのか? そんなの誰にだって分からない。初端から諦めている人間は例外だけど」

「・・・だが・・・」

「お兄ちゃんの覚悟次第なんじゃないかしら?」

「・・・覚悟」

「どこまでも清廉潔白を貫き、組織の為に献身的に働く。そんな姿勢に惹かれる人間だって世の中にはいくらだっているわ」

「それに、交渉事が苦手なんてトップにとってはどうでもいい話よ」

「何?」

「だって、その為に外交官っていう専門の役職があるんでしょう? トップの人間に大切なのは適する人材を的確に配置する事じゃなくて?」

「・・・それは俺に出来る事なのか?」

「出来る、出来ない。そんな事を言っている限り任せられないわね。マエヤマ・コウキのように、本当に火星の事を考えているなら、出来る、出来ないなんて言ってないでやってやるぐらいの心意気を持ちなさい」

「・・・・・・」

「自分が苦手な事さえしっかりと把握出来ていれば、他所から補う事が出来る。私が口先だけで出世したのは、軍事面での手柄を他所から奪ってきたお陰よ」

「・・・それは自慢気に言える事なのでしょうか?」

「例え話でしょ。ホシノ・ルリ」

「はぁ・・・」

「コウキ君の言った通り、今のお兄ちゃんには名声がある。地球を救う英雄が故郷である火星を救おうとしている。 それだけでいいのよ。それだけで多くの人間が組織に集まるわ」

「貴方が何を考えて軍のプロパカンダを引き受けたかはわからないわ。もしかしたら、我が身を犠牲にしてでも、なんてそんな考えがあったのかもしれない」

「・・・・・・」

「でも、折角我が身を犠牲にして得た貴方の、貴方だけの武器なのよ? 使わなくちゃ損だと思わない? 私だったら平気で使うわ。軍だけに良いよう使われるぐらいだったら自分の為にも遠慮なく使う」

「・・・軍人とは思えない発言ですね」

「ホシノ・ルリ、私は己の目的の為になら何だって使うつもり。私が今、火星再生機構計画を円滑に進めるって目的を掲げている以上、テンカワ・アキト、貴方の名声だって良いように使ってやるつもりよ」

「・・・そこまで堂々と言われるとかえって清々しいな」

「私の一番嫌いな事は余計な感情で計画が滞ってしまう事。やると決めたら躊躇はしない。一度決めた事を捻じ曲げるような事はしない」

「・・・昔に聞いていたら軽蔑していたであろう言葉も今なら真理に聞こえるな」

「当たり前じゃない。私の成功の秘訣だもの。貴方もいつまでも女に背中を押されないと動けないような情けない男でいない事ね。余計な感傷は邪魔なだけ。断固とした決意と信念を持ちなさい。何事にも揺るがないね」

「・・・・・・」

「アキトさん」

「アキト」

「・・・分かった。俺に何が出来るか分からないが、やってみようと思う」

「アキトさん!」

「そうだな。コウキがせっかく与えてくれた火星再生のチャンスだ。それを己の弱い部分だけを見て、引き受けないのは愚かでしかない」

「はい。私も全力でアキトさんをバックアップします」

「アキト。私も手伝う」

「ありがとう。ルリちゃん。ラピス」

「それで? 貴方はどうするつもりなの?」

「別に火星の再生になんて興味ないけど・・・」

「ないけど?」

「その組織に入ったら遺跡の研究とか出来そうだし、協力するのも吝かじゃないわね」

「ふふっ。素直じゃないわね」

「言ってなさい。それで、きちんと仕事はこなせそうなの? 敏腕提督?」

「言ったでしょ? 口先で誤魔化す事だけは得意なのよ」

「あらそう」

「まぁ、任しておきなさい」

 

 

 

 

 

「何か気を遣わせちゃったみたいね」

「アハハ・・・。はい」

 

火星再生機構の話を終えた後、提督達は帰っていった。

ついでにイネス女史まで退室。

なんか気を遣わせちゃったみたいで申し訳ない。

 

「上手くいくといいわね。火星再生機構」

「はい。あの、その事で大事な話があるんです」

「え? 何かしら?」

 

良い機会だから言っておこう。

一緒に暮らそうと思っているミナトさんにとってもこれは大事な事だ。

 

「火星再生機構は両陣営からの賠償金で活動するつもりって言いましたよね」

「ええ。それぐらいの資産がなければ難しいでしょうからね。軌道に乗るのも当分先の事だと思うし。利益も多分少ないわ」

 

そう、火星を再生しようなんていう莫大な計画だ。

それに掛かる費用も莫大なものになる。

そして、開発ではなく、再生。

当分の間、利益は出ないと思った方がいい。

 

「はい。でも、賠償金が支払われるのって少なくとも戦争終了後だと思うんです」

「まぁ、そうなるわね」

「けど、出来る事ならすぐにでも活動したいんです。準備にだって時間が掛かりますし。人材を集めて、計画を立てて、物資を集めて、ボソンジャンプの運輸システムを確立する。今から始めたって時間が足りないくらい、組織を円滑に動かす為には時間が掛かるんです」

「・・・そっか。そういう事か・・・」

「はい。計画は賠償金が支払われる前から始める必要があります。でも、その為の活動費がない。それなら、どこかから調達する必要がある。その費用に―――」

「その先は言わなくていいわよ。コウキ君」

「・・・ミナトさん」

「貴方の貯金を当てようって言うんでしょ? いいわよ。存分に使っちゃいなさい」

「・・・いいんですか?」

 

こんな自分勝手な理由なのに、どうしてそんなに簡単に・・・。

 

「別に私ってお金持ちの暮らしがしたい訳じゃないもの。家族皆で楽しく幸せに暮らせれば満足。もちろん、あるに越した事はないけどね」

 

ウインクしながらそう告げるミナトさん。

・・・お人好しだなって思う。

お金なんていくらあっても困る事はないのに。

あればある程に贅沢が出来るっていうのに。

 

「それに、前だってコウキ君、私のヒモだったじゃない」

「そ、それをここで言いますか?」

 

・・・せっかく感動していたのに。

お茶目にも程がありますよ。ミナトさん。

 

「クスッ。大丈夫よ。それぐらいの甲斐性はあるから」

「い、いや。それを認める訳にはいかないなぁって思うんですけど」

「男の子だね、コウキ君は」

 

い、いや、だって、ヒモって格好悪いじゃないですか。

男としては、俺が支えてやるんだってぐらいの心構えじゃないと。

 

「だから、安心して貴方の思った通りにやりなさい」

「・・・はい」

 

改めて、ミナトさんが傍にいてくれて良かったって思った。

さっきのお茶目な発言だって気にしないでいいって伝えてくれたんだと思う。

本当に、俺には勿体無い素敵な女性だ。

私に任せて思う存分やってみなさい、なんて。

そんな包容力があって心の支えになる言葉は他にはない。

なんか、さっきより頑張ろうって気持ちになった。

 

「でも、一つだけ聞かせてもらっていいかな?」

「はい」

 

優しい笑顔から一転して真剣な表情になるミナトさん。

だから、俺も真剣な表情でミナトさんを見詰める。

きっと、今から訊かれる質問は、

俺にとってもミナトさんにとっても大きな意味があるだろうから。

 

「どうして、そんなにコウキ君はお人好しなのかな?」

「え? 俺がお人好し? ミナトさんじゃなくて、ですか?」

「別に私はお人好しなんかじゃないわよ」

 

え、だって、俺の身勝手な提案を許可してくれたじゃないか。

 

「もし私がお人好しだったとしたら、コウキ君は底抜けのお人好しね」

「別にそんなつもりはないんですけど」

「だって、そうじゃない。コウキ君にとってこの世界は自分の世界じゃない。それなのに、こんなにも真摯にこの世界を想っている」

「おかしな事じゃないですよ」

「どうして?」

「確かにこの世界は俺にとって本当の意味で自分の世界じゃない。でも、俺はここにいる。こうしてミナトさんの前にいる。家族だっています。ミナトさんやセレスちゃんっていう大事な家族が。既に俺にとってはこの世界こそが真実。ここは立派に俺の世界なんですよ」

 

既に昔の世界は過去のものでしかない。

今を生きる俺にとって、この世界こそが真実だ。

この世界こそが、俺の生きるべき世界なんだ。

 

「・・・そっか」

「はい。悲しい事を言わないでくださいよ。俺はもうこっちの世界の住人なんですから」

「そうね。無神経だったわ」

「いえ。改めて思えました。ここが俺の居場所なんだって」

 

俺がこれからも付き合っていく世界だから。

俺の子供がこれからも付き合っていく世界だから。

大切にしたいって思うんだ。もう他人事じゃいられない。

 

「でも、お人好しっていうのはこの事じゃないわ」

「え? 違ったんですか?」

 

あれれ?

まぁ、確かにお人好しってのとはちょっと違ったかも。

 

「もちろん、さっきのも含まれるけどね」

「それじゃあ、俺がお人好しっていうのはどういう?」

「コウキ君は別に火星出身って訳じゃないじゃない? だから、コウキ君にとって火星を再生させる理由はないわ。別に火星を再生させなくても地球で暮らせばいいだけなんだし」

「まぁ、確かにそうですね」

 

平穏で幸せな生活を送るだけなら地球でだって出来る。

俺の目的と火星再生機構はまったく関係ないって言えば、確かにそうだ。

 

「それなのに、貴方は火星の事を想い、火星の方達の事を想い、こうして私財を投げ打ってまで火星を再生させようとした。それは一体何故なの? それをして、貴方になんの利点があるの?」

「それは・・・」

 

・・・何故だろう?

ネルガルの陰謀を止めたいから?

火星人が犠牲になるのが嫌だから?

将来的に自分が巻き込まれるかもしれないから?

全てをひっくるめて、それが最善だと思ったから?

・・・俺に利点なんてあるか?

別に儲かる訳じゃない。

別に自身と火星人に何かしらの関係がある訳じゃない。

別に火星に対して何かしらの思い入れがある訳じゃない。

 

「理由もなく、利点もなく、それでも貴方はするの?」

 

・・・確かによくよく考えると、理由もなければ、利点もない。

どうして、俺はこの案件を絶対に成功させようと思ったんだろう。

 

「そうですね。・・・始めは自身の幸せを求めていました」

 

ナデシコに乗らずに、戦争なんて気にしない平穏な生活をしようとしていた。

でも、色々あって、結局、ナデシコに乗る事になった。

 

「でも、ナデシコに乗って、自身の戦後を考えるようになりました」

 

戦後、ミナトさんとどんな生活を送ろうか。

そんな事ばかりを考えていた。

教師になろうとか、そんな事ばかり。

 

「その後、アキトさん達の目的を聞いて、個人だけじゃなく、地球の戦後を考えるようになりました」

 

未来を変える為にやってきた逆行三人組。

どうしてもあの悲劇を食い止めたいと。

複雑な感情を抱えながらも、前を見る姿に感銘を覚えた。

だから、俺自身も協力したいと思うようになった。

何が出来るか分からないけど、少しでも力になれればって。

 

「まずは火星人の救出を成功させようって。そして、俺は木連による殺戮の犠牲者であるカエデと出会いました」

 

理想的な未来。悲劇を食い止める。

それだけを考えていた。どうすればいいのかって。

そんな時、俺はカエデに出会った。

家族を殺され、故郷を滅ぼされ、憎しみを抱える少女。

それでも、悲しみを堪えてひたむきに前を向いていた。

 

「彼女を救ってあげたい。もしかしたら、同情だったのかもしれません」

「・・・うん」

「でも、それがたとえ同情であろうと、俺は救いたいと思いました。全てを失った彼女を、犠牲者である火星人達を出来る事なら救いたいと」

 

生き残った火星人達。

彼らが幸せになるには、どうしてもボソンジャンプが絡んでくる。

この時から、ボソンジャンプの対策についても考えるようになった。

 

「そして、木連人であるケイゴさんと知り合います」

 

木連軍人であるケイゴさん。

ケイゴさんは木連を第三者の視線から見詰め直していた。

なんの偶然か、師弟関係みたいになっていたけど、彼は確かに木連軍人だった。

 

「どうしたら、皆が幸せになれるんだろうって」

 

別に全てを救いたいだなんて、そんな事を思っている訳じゃない。

俺はそんな大層な人間じゃないし。

 

「誰だって平穏を求める。俺だけじゃない。誰だって幸せになりたいんだ」

 

平穏。幸せ。

なんて難しい事だろうって思う。

でも、だからこそ、追い求める価値がある。

 

「だから、少しでも皆の幸せの為に貢献できたらなって。いつの間にかそう思うようになったんです。変・・・ですかね?」

 

全てを救う事なんて出来ない。

でも、何か出来る事はあるんじゃないだろうか?

俺個人の力なんて些細なものでしかない。

それでも、少しでも、貢献する事は出来るんじゃないか?

そう、思ったんだ。

 

「・・・変よ」

「・・・・・・」

 

・・・変って断言された。

でも、不思議とショックはない。

それは眼の前のミナトさんの笑みが柔らかいから。

 

「本当にお人好し。優し過ぎるわよ」

「・・・そうですか?」

「ええ。自身の幸せだけを求めてもいいのに。どうして、そうやって皆に手を差し伸べるのかな?」

「別に責任感とかじゃないんです。ただ、今、俺が幸せだから。その幸せをお裾分け出来たらなって」

「ふふっ。そっか」

「はい」

 

自分だけ幸せになるのがいけないとか、知っているのに、放っておけないとか、まぁ、そういう気持ちがあるって事は否定できない。

だけど、そういう理由で言っているんじゃないんだ。

ただ、皆が幸せになれる道があるなら、それに力を注ぐ事も悪くないかなって思っただけ。

もちろん、幸せの形なんていくらでもあるし、誰かの幸せが誰かの不幸なんていう事はいくらでもある。

だから、これは俺の独り善がりの考え。

皆の為だなんて言っているけど、結局は自分の為でしかない。

お人好しなんかじゃない。我が侭なだけだ。

 

「やらない善よりやる偽善・・・か」

「え? 何?」

「あ、いえ」

 

そんな言葉を聞いた事がある。

偽善だって言うんなら、うん、貫いてやろう。

いいじゃないか。俺が思う皆の幸せで。

後はそれぞれが自由に幸せを見つけてくれるだろう。

そう願って、出来る範囲で偽善を貫いてやるつもりだ。

 

「・・・男の子の成長って突然だからなぁ。なんだか置いていかれた気分・・・もう立派な大人なのね、コウキ君」

「え? なんか言いました?」

「ん? ううん。なんでもないわ」

「あ、そうですか」

 

なんだろう? なんか変な事でも言ったかな?

 

「でも、それでこそコウキ君って気もするわ」

「・・・ミナトさん」

「ふふっ。私も難儀な人を好きになっちゃったものね」

「そうですね。後悔するかもしれませんよ?」

「大丈夫。支える事を幸せに思うようにするから」

「理解ある奥さんですね」

「ええ。当たり前じゃない。なんたって私よ」

「そうでした。ミナトさんですもんね」

「但し、条件があるわ」

「なんでも」

「誰よりも、何よりも、私を幸せにする事。いい?」

「当然です。言うまでもないですよ」

「あら? 心強いお言葉な事で」

 

以前言われた言葉は忘れていませんよ。

自身を幸せに出来ない者に他人を幸せに出来る訳がないって奴。

だから、誰よりもまず自身で幸せを感じよう。

そして、誰よりもミナトさんを幸せに出来るよう努力しよう。

それが全ての始まり。

 

「約束よ」

「はい。約束です」

 

笑い合う。

今、既に、俺は幸せだ。

 

「・・・ン」

 

久しぶりの唇への感触。

改めて、ナデシコに戻ってきたんだって実感した。

 

 

 

 

 

「・・・コウキさん」

「セレスちゃん。ただいま」

「・・・おかえりなさい」

 

いつまでも隠れている訳にはいかない。

だから、俺は素直にブリッジに顔を出した。

驚きの表情で迎える者。

安堵の表情で迎える者。

やっぱりって顔で迎える者。

表情は様々。全員が俺を見詰めていた。

 

「ただいま戻りました。艦長」

「・・・ご無事で良かったです。マエヤマさん」

 

ひとまず報告。

 

「・・・でも、どうやって、あの状況を打破したんですか?」

「以前、CASを製作した際に念の為の機能停止ウイルスを作っといたんです」

 

騙すような形で申し訳ないけど、ハッキングの事は話せない。

たとえ記憶という形でルリ嬢のハッキングを見ていようと、それを武器として活用させる事は絶対にさせるつもりはない。

それが、俺やルリ嬢、ラピス嬢、セレス嬢といったIFS強化体質の者の為になる。

 

「流石に一体一体は無理でしたから、纏めてナデシコCから感染させました」

「なるほど。それで動きを止めてしまった訳ですね」

「はい。機動兵器の動きさえ止めてしまえば、後はこっちのものでしたから」

 

実際、ハッキングを使わないナデシコCはそこまで脅威じゃない。

もちろん、GBの威力は凄まじいけど、それは正面にいなければ何の問題もない。

側面からだったら、攻撃される事もなく、後は強固なDFを突破するだけ。

まぁ、ドリルがなければちょっと厳しかったかもしれないけど。

 

「あの、それで、向こうと接触したんですよね?」

「はい。ナデシコCを手にしたのは木連優人部隊内の神楽派と呼ばれる派閥です」

「神楽派!?」

 

お。このナデシコ内で聞いた事のない声は・・・。

 

「君は?」

「あ、私はシラトリ・ユキナ。シラトリ・ツクモの妹よ」

 

ユキナちゃんかか。ようこそ。ナデシコへ。

 

「ユキナちゃん。神楽派って?」

 

艦長が問いかける。

そうだよな。木連人に聞いた方がちゃんとした情報が手に入る。

俺としても神楽派に対する国民の印象を知っておきたい。

 

「以前までは細々と活動していたんだけど、最近は活発的に活動している木連軍人の集まり。なんか和平を結ぶ事の利点を一生懸命に説いていたかな? 男達はゲキガン魂に反するとか言って支持率は低いけど、私達女性陣からは結構、支持されていた気がする。実際、私も和平に賛成だし」

「そ、それじゃあ!」

「はい。艦長の思った通り、木連内の和平派になります」

 

徹底抗戦の草壁派。

原作ではこちらの派閥しか出てこなかった。

でも、実際は存在していたんだ。

和平を唱える和平派、神楽派が。

 

「艦長はこの戦争に対してどのような考えをお持ちですか?」

「私は出来る事なら地球と木連が歩み寄って手を取り合えたらって思っています」

 

艦長は和平を結びたいって事でいいんだよな。

まぁ、分かりきっていたけど、一応、念の為にね。

 

「記憶を見たからお分かりとは思いますが、今、和平に向けて活動している者達が地球軍内にもいます」

「御父様達の事ですよね?」

「はい。俺も改革和平派の元一員として、積極的に神楽派とコンタクトを取りたいと考えています」

「マエヤマさんは改革和平派の一員だったんですか!?」

「以前、所属していたって感じです。軍から退役した時に辞しましたが、まだ色々と伝手は残っていますから」

「それじゃあ、マエヤマさんが和平派同士の橋渡し役になるって事ですか?」

「始めだけ、です。俺の仕事は両者の繋がりを持たせる事だけ。後は、両派閥内で交渉事に向いたそれらしい方々にお任せするつもりです」

 

絶対にそっちの方が良い。

俺なんかじゃそんな大役は務まらん。

 

「でも、ユキナちゃんは神楽派からの使者じゃないんでしょ?」

 

そう、問題はそこなんだよ。

これが神楽派からの使者だったら単純に喜べたんだけど・・・。

 

「私のお兄ちゃんは草壁中将直属だから多分神楽派ではないと思う・・・」

 

ちょっと困惑気味のユキナちゃん。

まぁ、仕方ない。散々和平派っていった神楽派からの使者じゃないんだから。

 

「その草壁中将っていうのはどんな方なんですか?」

「えっと、木連軍人達にとっては神様みたいな人かな」

「神様?」

「うん。お兄ちゃんもそうだけど、皆中将に心酔しちゃっているの。神楽派が出て来てからはちょっと揺らいでいるけど、それでもまだ凄いかな」

 

言い得て妙だ。

木連軍人にとって草壁は神様のようなもの。

だからこそ、あそこまで彼に権力が集中し、彼に踊らされた。

 

「そういえば、ずっと徹底抗戦を訴えていたのに、どうして和平なんて言い出したんだろう?」

「え? それなら、草壁派は徹底抗戦派って事?」

「うん。なんか、お兄ちゃんが和平を訴えて、中将が頷いたって」

 

それも原作と同じか。

要するに、この時からツクモさんは草壁にとって邪魔な存在になったんだ。

暗殺するだけなら簡単。どうせなら・・・。

そんな考えで、殺して地球側に責任を擦り付けるなんて暴挙に出たんだな。

という事はこの時から既にツクモさんの暗殺は計画されていた事になる。

ますます、ユキナちゃんを使者として送り出す理由が分からないな。

まぁ、ユキナちゃんが兄への想いから先走ったっていう可能性もあるけど。

 

「う~ん。そうなると、ユキナちゃんの立場って難しくなるよね」

「え? どうして?」

「既に木連の和平派と接触に成功したんでしょ? それなら、和平派同士で結託すればいいんだもん。わざわざ前まで徹底抗戦を訴えていた方と和平交渉する必要はないよ?」

 

ま、確かにそうなんだけどさ。

そう、ユキナちゃんを不安にさせるような事は言わなくても言いでしょうが。

 

「どちらにしろ、ユキナちゃんは大事に保護しましょう。彼女をしっかりと使者として扱ってこそ、こちらの誠意が伝わる訳ですから」

 

草壁派にしろ、神楽派にしろ、使者を暗殺したなんて事になったら一転して抗戦派に鞍替え―――。

 

「・・・あ」

 

もしかして、それが狙いなのか?

始めからツクモさんの暗殺は計画していた。

でも、万が一、そう、万が一失敗した時の事を考えて彼女を送った。

ツクモさんを暗殺できればそれでいい。

そうなればツクモさんを犠牲になった軍人として祀り上げて、その上で、国民に対して、徹底抗戦を訴えればいいだけだから。

でも、もしも、だ。万が一にでも暗殺に失敗したら。

その時はユキナ嬢を地球側の犯行として暗殺すればいい。

女子を大事にする木連、しかも、人気のあるツクモさんの妹だ。

そうなれば、当然、国民の意識も徹底抗戦に移っていく。

後は草壁がそれを煽れば良いだけだ。

結局、どちらにしろ、草壁の狙い通り、徹底抗戦へと持っていける。

原作に北辰が出てこなかったのがその最もたる証拠だ。

月臣さんにツクモさん暗殺を依頼し、その裏で北辰を動かしていた。

多分、あの時、既にユキナ嬢の近くに北辰一派が隠れていたのかもしれない。

潜り込む事なんて簡単だ。

確か、原作でもツクモさんが合流した際にゲキガン祭り的な奴をしていた。

あの時にツクモさんの艦隊の一員としてナデシコに搭乗すれば違和感も与えない。

もしかしたら、原作時点でアキトさんと北辰は出会っていたのかもしれないな。

まぁ、その話はいい。問題はユキナちゃんの身の安全だ。

俺の推測でしかないから、本当かどうか分からないけど、和平を結ぶにしろ、暗殺を防止するにしろ、彼女の身を護るのは大切な事。

ミスマル提督に頼んでしっかりとした護衛を付けて貰おう。

無論、信用できる者を。

 

「さて、話は終わったようだね。次は僕の番だ」

「・・・アカツキ」

 

ま、大方こいつの事だ。

ボソンジャンプの事で俺を追い詰めたいんだろう。

でも、火星再生機構さえ軌道に乗れば、ネルガルに遠慮する事はない。

まぁ、倒産させようとまでは流石に考えないけど。

 

「なるほど、和平派と接触したのは良い事だ。おめでとう」

「・・・・・・」

「でも、それにしては随分と追い詰められていたみたいだね。唯の和平派だったら、無傷とまではいかないけど、素直に帰って来られた筈。しかし、だ。君はこうしてボソンジャンプという形で戻って来た。それはどうしてかな? それと、どうしてボソンジャンプが君に出来るのかな?」

「残念な事に、和平派と接触後にその草壁派と遭遇してしまいまして。戦える状態ではなかったので抵抗する事も出来ず、命からがら逃げ延びたんですよ」

「へぇ。それは不運だったね。無事で良かったよ」

「ありがとうございます」

 

いちいち、皮肉な事で。

 

「さて、ボソンジャンプの事ですが・・・」

 

うむ。どうするか? 

一応、設定としては俺って地球生まれだしな。

まぁ、ここはちょっと調子に乗ってみるか。

 

「俺が使えて何が不思議なんですが?」

「何って、君は地球生まれだろう? ボソンジャンプの最低条件は火星生まれである事。君は該当しないじゃないか? 普通ではありえない」

「ありえないなんて事はありえないんですよ。ネルガルの会長さん」

「・・・やっぱり」

「・・・バレてしまいましたか」

 

記憶流出をしていないメグミさんが呟く。

まぁ、あそこまで露骨だと普通にバレますよね、はい。

プロスさんもそう思っていたでしょ?

多分、彼、会長である事を隠そうとすらしていませんでしたよ。

 

「へぇ。じゃあ、君はその最低条件すら覆す何かを知っているって訳か」

「さぁ? どうでしょう?」

「お、教えなさい! 今すぐ、それを教えなさい!」

 

おぉ。秘書さんがヒステリックに。

 

「どうして、俺が貴方達に教えなくてはならないんですか?」

「へぇ~。そういう事を言っちゃっていいんだ?」

「別に構いませんよ。俺は貴方達に弱味を握られている訳ではない」

「それじゃあ、僕は君達の要求を呑まなくて良いって事だね?」

「確かに貴方達の協力を得られないのは困りますね」

「そう。それなら、さっそく教えてもらおうかな。その何かを」

 

ニヤニヤしちゃって。

絶対に断れないとか思っちゃっているでしょ?

でも、いや、だが、かな。

 

「断ります」

 

断ってやろうじゃないか。

 

「なっ!?」

 

なるほど。ようやくあの作家の気持ちが分かった。

予想外って表情が凄い優越感。

いやぁ。いいね。これ。癖になりそうだ。

 

「俺達はあくまで遺跡の第一発見者である貴方達を立ててあげただけです。遺跡に関して、貴方達に主導権がある訳ではありません。俺やアキトさんが我が身を犠牲にしてまで、貴方達ネルガルに従う理由なんてどこにもないんですよ。ネルガルの会長さん」

 

俺達が火星人達の事を思い、強く出られない事。

ボソンジャンプの情報の流出を恐れ、強く出られない事。

その事をアカツキ達が知っている訳ではない。

勿論、多少は感付いているだろうとは思うけど・・・。

でも、それを解決する為の案件も俺達は計画した。

既に、俺達がネルガルに対して下手に出る必要はなくなったんだ。

 

「確かにネルガルという後ろ盾、協力者が欲しいと思っていた時期もありました。でも、別に企業はネルガルだけじゃないんですよ。別の企業に協力を求めればいいだけだ。何故か高圧的な態度で交渉事に臨んでいましたが、既に貴方達を頼る理由もない。こちらは貴方達に利益のある話をしましたが、それをあれこれと理由を付けて断ったのは貴方でしょう? 最早貴方達に利を齎してあげる義理はありません」

「・・・随分と強気だね? 僕が本当に君の弱味を握ってないとでも?」

「はて? 俺に弱味なんてありましたっけ?」

「犯罪者がよく言うよ。散々後ろ暗い事をしてきたんでしょ」

 

あらら? なんてイチャモン。

証拠もないくせに、なんでそんなに強気になれるのかね?

 

「そうなんですか? マエヤマさん」

 

・・・艦長。どうして信じるかな?

 

「別に何もしてないですから。・・・艦長。信じないでくださいよ」

「あ、あははははは・・・」

 

そんなに信用されてないのかな?

軽く傷つきました。

 

「それに、俺の事を犯罪者とか言いますけど、貴方達だって充分に犯罪者じゃないですか?」

 

マシンチャイルドとかがその最もたる例。

どうして後ろ暗い事があるくせに一方的に非難できるかが分からない。

 

「残念だけど、僕にはパイプがある。君にはない。その違いさ」

「なるほど。犯罪行為である事は認める訳ですね」

「まぁね。今更だし。企業としては犯罪ギリギリぐらいの事をしなくちゃ生きていけないんだよ」

「アカツキ会長。大事な事を忘れていませんか?」

「ん? 何かな?」

 

とぼけているのか。気付いてないのか。

 

「貴方達は企業にとっての最重要人物からの覚えが悪いんですよ?」

 

大企業の後ろ暗いお金を隠してくれる大銀行のトップとその娘のね。

 

「別にそんな自覚はないけど?」

「本当に気付いてないんですか? 聡明な貴方なら理解していると思ったんですが?」

「・・・・・・」

 

知っていて誤魔化しているって所かな。

まぁ、それなら、別に言わなくてもいいか。

 

「確かに大企業としては様々な伝手があるでしょう。でも、それと同じぐらい、民間からのイメージって大事だと思うんですよね」

「何が言いたいんだい? まさか、この僕を脅しているのかな?」

「さぁ? どう受け取るかは貴方次第です。まぁ、脅されていると思う時点で貴方に思い当たる部分があるという事なのでしょうけど」

 

散々下手に出ていたけど、別に既に下手に出る必要性はなくなった。

まぁ、今、暴挙に出られたら困るから追い詰めはしないけど。

 

「・・・・・・」

「マエヤマさん。よろしいですか?」

「なんでしょうか? プロスさん」

 

眼鏡をクイッと上げながらの登場。

相変わらず、渋いな。

 

「貴方にはネルガルの利益を第一に考えるという義務があります。それを忘れていませんか?」

 

確かにそういう契約をしたな。

だけど・・・。

 

「プロスさん。貴方こそ忘れていませんか? 俺達は確かにネルガルに利益が出る計画を提案しました。それを会長自らがあれこれと理由を付けて、主導権を握ろうとしたのが悪いんです。まさか、そこまでされても義務を果たせと?」

「・・・それは・・・」

 

プロスさん。

既にこちらは手を差し出している。

それに乗ってこなかったのは会長の判断です。

 

「マエヤマ君。散々強気な発言をしているけど、僕達が火星人を確保している事を忘れてないかい?」

「もちろん、忘れていませんよ」

 

さて、隙を見せたらやられる。

ここは冷静にやってかないと。

 

「でも、先日、貴方も言ったじゃないですか? 遺跡を確保さえすれば、火星人のジャンプを不可能にする事が出来るかもしれないと」

 

実際、俺自身はそうするつもりだ。

その上でチューリップかそれに代わる何かのみでジャンプできるように調整する。

イネス女史のような研究者に任せれば、何年かでそれも実現できるだろう。 

それでも、更に脅しをかけてくるなら、俺が即行で調整してしまっても良い。

俺は既に異常を使う事に何の忌避感もないのだから。

 

「なるほど。でも、それには時間が掛かる。研究も必要。そうでしょ? そして、その為には火星人の協力が必要になる。もちろん、火星人を確保している僕達のも」

 

そりゃあ、火星人の協力は必要ですよ。

でも、別にネルガル所属の者達以外でも問題ない。

すいませんが、名前を借りますよ。アキトさん。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

視線で問う。無事に返事をもらえた。

 

「それこそ、貴方が言ったじゃないですか。アキトさんや俺が協力すれば良いって。問題ありません」

 

別にボソンジャンプが出来るのはネルガル所属の火星人って訳じゃない。

わざわざネルガルの介入を許す必要もないのだ。

勿論、ネルガル所属の火星人もうまく引き取るつもりだけど。

 

「それに貴方が火星人を確保しているのは軍の要請があり、協力があるからだ。軍が火星人を解放してもいいという結論を出せば、ネルガルが火星人を拘束していられる理由もなくなる」

「拘束だなんて人聞きが悪いねぇ。僕達ネルガルは仕事がない彼らを善意で雇ってあげているだけだよ?」

「それなら、火星人が転職を言い出しても受理していただけるという事ですね。ありがとうございます。それとも、まさか、労働の自由を奪うおつもりでは・・・ないですよね?」

 

ネルガルが火星人を確保できていたのは軍の協力があったから。

だから、他の企業へ行かないようにもできたし、強硬策にも出られた。

だが、軍の協力がなくなってしまえば、ネルガル単体でそこまでの事はできない。

法律に引っかかる部分でもあるし、人権損害に当たる行為はどんな企業であろうと世間にマイナスイメージだ。

どれだけ巧妙に隠そうと全て世間に晒してやるさ、証拠付きでな。

 

「君が彼らに職を斡旋すると? 何の伝手もない君が」

「確かに伝手はありませんが、やりようはいくらでもあるんですよ」

「そうかい。それは楽しみだ」

「ええ。楽しみにしていてください」

 

買い言葉に売り言葉。

もうネルガルと手を組むのは諦めた方がいいのかもしれないな。

ここまで対立してしまったら、修復はかなり難しい。

だが・・・彼らの力を借りる事ができたら、事業は爆発的に進んでいくのも事実だ。

もうこちらから手を差し出した。

次は・・・あちらから手を差し出すように仕向けなければならない。

そう提督は言っていた。

 

「アカツキ会長。貴方は利を求めてこそ企業だとおっしゃいましたね」

「・・・もちろんだよ。それが会長として部下達にしてあげられる唯一の事だ」

「協力と対立。現時点で貴方はどちらに利があるとお考えですか?」

「また手を差し出してくれるとは優しくて涙が出るね。でも、もう君達と僕達は決別した。違うのかな?」

「確かにもう生半可では修復できないほどの溝ができているとは思います。だが、溝なんて飛び越えてしまえば何の障害にもならない。違いますか?」

「ふっ。言うようになったじゃないか。感情を押し殺して損得で考えろと僕に言いたいのかな?」

「そう受け取ってもらって構いませんよ」

 

俺達とネルガルの間には確実に深い溝ができた。

だが、埋められない溝なんてないんだ。どれだけ深かろうが確実に修復はできる。

最初はその溝を飛び越えて歩み寄ればいい。

いずれその溝は時間が埋めてくれるだろう。

 

「確かに利益だけを考えるのなら、協力した方がメリットはともかく、リスクはない。そういう意味では良いだろうね。でも、別に遺跡さえ確保してしまえば何の問題もないさ」

「果たして、ネルガルが遺跡を確保できますかね?」

「何故、そう思うんだい?」

「現在、火星は木連の支配下にあります。ナデシコだけじゃ太刀打ちできないと証明済みでは?」

「それなら、コスモスや他のナデシコ系の戦艦を持ち込めば良いだけだよ」

「軍と対立した上でそんな事が可能ですかね?」

「・・・どういう意味だい?」

「ナデシコが軍属の状態だったら理由次第でナデシコを自由に使えたかもしれません。しかし、ナデシコは既に完全な軍所属の艦隊です。好き勝手に使う事は出来ませんよ?」

「別にナデシコの力なんていらないさ。それ以上の戦艦を用意すれば良いだけだから」

「本当にそんな事を思っているんですか? 用意する前にどこかが遺跡を確保してしまいますよ?」

 

ネルガルはもちろん、最も確保の可能性が高い木連も遺跡を狙っている。

戦艦一つ建造するのにどれくらいの時間が掛かると思う?

そんなに余裕ぶっこいていたら、いつの間にか先を越されてしまいますよ。

 

「それなら、こちらに協力して、遺跡確保に一役買った方が合理的だと思いますがね」

「・・・・・・」

 

地球だけで確保する訳でもなく、木連だけに確保させる訳でもない。

両陣営で協力して遺跡を確保できれば、互いの距離も縮まる。

その上で、火星再生機構さえ立ち上げに成功すれば、遺跡関連の問題も無事に収まる。

 

「一度、ゆっくりとよく考えてみてください。俺達にネルガルのような大企業の協力が必要なのは事実です。それは否定しません。協力者はいればいる程、上手く事を運べますからね。でも、それを他企業に依頼する事がどれ程、貴方にとっての損になるか。そして、戦後、遺跡確保に助力した事がどれ程に生きてくるか。貴方程に物事を長期的に考えられる人なら、どちらが得なのか、分かるでしょう?」

「ふっ。随分とイメージが変わったね。前はあんなにも情けなかったのに」

「色々あれば成長しますよ。まぁ、まだまだだとは思っていますが」

 

実際、交渉とかはムネタケ提督とかの方が凄いと思う。

後はプロスさんとかね。俺なんてまだまだ。

 

「ま、前向きに検討させてもらうよ」

 

それでも了承しないんだから、へそ曲がりな奴だ。

 

「結論は早い方が良いですよ? 俺はすぐにでも動き出すつもりですから」

「ホント、厄介な人間になっちゃって」

 

急かすのも忘れない。

時間制限を設けるからこそ、焦って妥協案を出してくれる。

その時間制限が曖昧であればある程に効果は抜群だ。

 

「さて、最後になりますが・・・」

 

なんだかんだと陰謀染みた話が多かったけど、俺がブリッジに顔を出した一番の意味をまだ成していない。

 

「皆さん、ご心配をかけてすいませんでした」

 

精一杯、頭を下げる。

ボソンジャンプで帰って来たとか、色々と話さなくちゃいけない事が多いけど。

まずは謝罪。これが大事だと思うんだ。

 

「いえ。マエヤマさんのおかげで無事に済んだんです。ありがとうございました」

「そうだな。コウキが無事で良かった」

「ああ。むしろ、こちらが謝るべきだな。負担をかけて悪かった。マエヤマ」

「副長。当然の事をしたまでです」

「なんとも頼り甲斐のある言葉だよ」

 

そう笑って告げるジュン君。

なんかユリカ嬢が想いを受け入れてくれてから勢いが更に増していますね。

いや。なんか、今更だけど、おめでとう。

 

「これからはもっと忙しくなるわね。コウキ君」

「ええ。でも、最後まで頑張りますよ」

「私が支えてあげるんだから。ちゃんとしないと駄目よ」

 

ウインクしながらそう告げてくれるミナトさん。

なんとも心強いお言葉だ。

ネルガルが協力してくれるかどうかも分からない。

木連が、特に草壁が何を考えているかも分からない。

そんな中で、俺達は最善を探し、どんな事にも対応できるように準備をしなくてはいけない。

いや。なんか、色々と大変そうだ。

でも、少しずつ、進めていくしかない。

先は霧に阻まれて何も見えないけど、足元は見える。

着実にゆっくりと少し前を見て進めていけば、いずれ目的地に辿り着ける。

俺は一人じゃない。ミナトさんやアキトさん。皆が協力してくれる。

それでも駄目なら、もっと協力者を集えば良い。

ムネタケ提督。フクベ提督。ミスマル提督。

立場ある理解者がいるんだ。

きっと、いや、絶対に達成してみせる。

俺達の手で万全な体制を創り上げてみせようじゃないか。

それがきっと、今、俺がここにいる理由なのだから。

 

 

 

 

 


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