「えぇっと、これをこうして・・・」
現在、俺専用のアサルトピットからOSとかを改良中。
想像通り好きに動かせるといっても戦闘経験不足は否めないしな。
それを補うべく、俺は秘策を使った。
調整してシミュレーションで試してまた調整。
これをひたすら繰り返す。
・・・ま、それだけなんだけどさ。
アハハ。笑えてくるぜぇ・・・。
と、とにかく、俺に最適な調整を見つけるまでやり続けるつもりだ。
そうしないと足手纏いだろうしな。
もちろん、ヤマダ・ジロウみたいに突っ込んで自ら窮地に陥る、なんて事はしないつもりだ。
あれは皆様にご迷惑をかけすぎる。ダメ、絶対!
ま、そもそも俺の出番があるか分からん、というよりないだろう。
だって、現段階で正式なパイロットが二人いるんだぞ。
原作ではヤマダ・ジロウが潰れてテンカワ青年しかIFSを使える人がいない為に仕方がなく、そう、仕方がなくテンカワ青年がパイロットとして使われたのだ。
まぁ、その流れで何故か予備パイロットをやらされているので俺とは経緯が違うのだけども。
今回はたとえヤマダのジロウ君が出撃できなくても正式パイロットとしてのテンカワ青年がいる。
正式なパイロットがいるのに予備パイロットは、うん、使わないだろ。
まぁ、何があるか分からないし、使えるようにはしておくつもりだけどさ。
やらないよりはやった方がいざって時にも困らないだろ?
「おぉ~い! マエヤマァ!」
「ん? この声はウリバタケ氏か。はぁい! 何ですかぁ!」
振り返るとウリバタケ氏が手招きしていた。
格納庫はうるさくて堪らん。
仕方ないけどさ。
「テンカワがお前に用があるってよ! ちょいと降りて来い」
用って何だろう?
ま、いいや、なんでも。
どっちにしろ、ちょっと待って欲しいけどな。
「ちょっとだけ待って下さぁい! もう少しなんでぇ!」
「急げよぉ! テンカワも忙しいんだからなぁ!」
出来るだけ急ぎますから待ってくださいって。
自分の命にも関係してくるので手抜きはできません。
「えぇっと、補正値はこれくらいだろ。そんで、リミッターは・・・俺の身体なら耐えられるからもうちょっと緩めるか。伝達速度は最高値で。あれ? あんまいじくると怪しまれるか?」
基準が分からん。
あんま変な設定にすると変な眼で見られる。
「ま、まぁ、試していたって言えばいいか。おし、とりあえずこんなもんだな。ウリバタケさぁん! 今、行きまぁす!」
降りる時に使うワイヤー?みたいなものに捕まって降りる。
タラップだったっけ? 何でもいいけど。
飛び降りる事も出来るけど一応やめておく。
六メートルぐらいなら問題ないけどさ。
でも、普通じゃないじゃん、それってさ。
あくまで僕は一般人を目指しているので。
あれ? 一般人って目指すものだったっけ?
・・・考えないようにしよう。
「・・・来たか。ついて来い」
あの・・・怖いんですけど・・・とっても。
「えぇっと、どこに行くんですか?」
「付いて来れば分かる」
「あ、そうですか」
強引だよ。何故か拒否できない状況だし。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
あぁ。無言。間が保たない。
重っ苦しい雰囲気です。
「・・・お前は・・・」
話しかけてくるテンカワさん。
何だ? 何を言われるんだ?
「はい。何でしょう?」
「・・・ミナトさんとお前は・・・いや、なんでもない」
「はぁ・・・」
ミナトさんがどうかしたのかな?
というか、初対面に近い人を名前で呼ぶとは・・・。
流石はラブコメ主人公!
「着いたぞ」
「ここは・・・シミュレーション室ですか?」
「ああ。予備といってもパイロットだからな。実力を把握しておきたい」
あ、リーダーとしての責任感ですね。分かります。
あぁ、良かった。何をされるのかってヒヤヒヤしていたんだよ。
「シミュレーターに入れ。一対一だ」
一対一ね。ま、やれるだけやってみますか。
もちろん、そう簡単には負けないつもりだ。
予備パイロットにも意地ってものがあります。
「場所は火星。フレームは0G戦フレーム。何か質問は?」
一つだけ教えていただきたい。
何でわざわざ火星なんでしょうか?
非常に聞いてみたいが・・・やめておこう。
なんか変にしゃべったら墓穴掘る気がする。
というか、ネルガルもネルガルだよな。
何故あえて火星フィールドをシミュレーターに導入した。
知っている人には分かるが、知らない人には謎以外の何ものでもないぞ。
導入してもいいけど、実際に使えるようにするのは目的地を明かしてからでいい気がする。
シミュレーターを調整する整備班の人なんかはハテナ顔なんじゃないかな?
「・・・・・・」
えっと、この状況は何?
ジーっと見られているんですけど・・・。
「いいのか? 悪いのか?」
「あ、すいません。大丈夫です」
どうやら待っていてくれたらしい。
悪い事をしてしまったな。
「それじゃあ、始めるぞ」
その声を合図に手をコンソールに置く。
切り替わる正面モニターの映像。
まるで本当に戦っているかと思う程の臨場感だ。
以前体験したゲームとはまったくの別物。
まぁ、あっちは遊び用だったから仕方ないか。
「・・・行くぞ」
イミディエットナイフを片手に接近してくるテンカワ機。
「・・・機動予想。誤差は?」
視覚からの情報だけじゃない。
俺はナノマシンの恩恵でフィードバックレベルを限界以上に高められる。
・・・あんまり高めすぎると痛みとかも感じるみたいだから、これも後で調整だな。
フィードバックレベルの向上は結果として、イメージだけの機動を超えて、ほぼ無意識な反応にまで対応するようになった。
そして、俺が急遽開発したソフトの・・・見栄はいけないな。
遺跡からロードした機動予想というソフトを機体のハードにインストール。
これは相手方の運動性能、武装、体勢などから敵機体の能力を把握し、現状からどう動いてくるかを予想するというもの。
俺が持つナノマシンとこのソフトのお陰で・・・。
「ほっと」
見える。見えるぞぉ。
「何!? あれを避けただと!?」
俺、いや、私にも未来が見える。
「チィ! これなら!」
「あ、やばっ」
ラピッドライフルが火を吹きました。
とりあえず避難です。
死にます。
「右手にナイフ、左手にライフル。・・・よし」
機体に持たせ、的確にイメージする。
自らの身体と機体とを融合させ、己の身体とする。
・・・次は俺のターンだ。ドロー! って違う、違う。
「オォォッォ!」
隠れていた建物から身体を乗り出し、対象物にラピッドライフルをぶちまける。
機動予想で先を読み、そこへライフルを放てば命中する筈。
「・・・・・・」
筈なんだけど・・・凄まじい旋回で避けられました。
ま、理論上なので確実ではないのですが・・・。
何でしょうか? あの機動は?
あんな事をしたら内臓を傷めるっての。
横も縦も凄まじいGが掛かっている筈。
俺は耐えられるかもしれないけど、普通の人にはまず無理。
よく耐えられるな。もしや、テンカワさんも普通じゃないのか?
「まだまだぁ!」
おいおい。
回避能力が凄まじ過ぎるでしょ?
あれだけ連射しているのに一発も当たらないなんて。
ん? 弾切れが近い?
とりあえず止めだ。当たらない射撃に意味はない。
意味ある射撃なら無駄弾でもいいが・・・。
今の射撃じゃ効果はイマイチって奴だ。
「・・・次はこちらから行くぞ」
俺がライフルをしまった途端、テンカワ機は再度突っ込んできた。
得物はイミディエットナイフか。
ならッ!
「ハァァァ!」
俺もナイフで応戦だ。
飛び込んでくるテンカワ機に俺も突っ込む。
「・・・考えもなく飛び込んでくるな」
「嘘だろ!?」
そのまま鍔迫り合い、とか思っていたらいつの間にか空いていた方の手にライフルを持っていました。
嘘!?
「終わりだ」
共に接近している状態での乱撃。
普通なら確かに終わりだろう?
でも、俺は残念ながら普通じゃないんでね。
「オォォオォォ!」
機体を回転。
一発一発を的確に避けていく。
最小限の動きで。
「何!?」
それが俺には可能だ。
この恐ろしい程の動体視力ならな。
・・・回転のGがありえない程に凄いけど。
内臓が洗濯機状態だけど!
「ハァァァ!」
ガキンッ。
嘘ぉ! あの一瞬でライフルを捨ててナイフに持ち替えただって?
ありえないでしょ。どれだけ高機動戦に慣れているの? って話だ。
わざわざライフル側から攻撃したのに意味ないじゃん。
「やるな。まさか、避けられるとは思わなかったぞ」
「もう一杯一杯ですよ」
実際、そんな感じです。
ありえない機動にありえない反応速度。
俺はいいよ。色々と人間離れしているから。
でもさ、貴方ってただの人間だよね?
激しく疑問に思うんですけど・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
鍔迫り合い。
テンカワ機は両手にナイフを持ち俺の攻撃を受け止めていた。
俺は片手で押し続ける。
駄目だ。片手対両手じゃいつか跳ね返される。
その為に・・・離脱だ!
「ほっと」
機動兵器でキック。
ついでにディストーションフィールドも纏わせて頂きました。
ゲキガンキックってか?
「グッ・・・」
蹴り飛ばして、同時に後ろへと跳ぶ。
これで距離は取れただろう。
経験が浅い俺からしてみれば接近戦は危険極まりない。
接近戦ともなれば経験が物を言い、不慣れな俺では経験者には到底太刀打ちできないだろう。
太刀じゃないけど、ナイフだけど。
センスがあれば別なんだろうが、残念ながら経験に打ち勝てる程のセンスが俺にあるとは思えない。
断言しよう、出来るだけ遠くから攻撃しないと万が一の勝ちすら拾えない、と。
・・・自分で言っていて悲しいが、事実は事実として認識しなければ負けるだけだ。
間違いなく、相手は相当に経験を積んでいるだろうからな。
・・・テンカワさんってコック志望だった筈なんだけど・・・。
何があったらこんな場慣れしたパイロットになれるんだろうか?
もしかして・・・今のテンカワさんって未来から来たテンカワさん?
いや、でも、だったらもっと歳を取っている筈だよな。
それにこっちの世界のテンカワさんがいないのもおかしいし。
色々と辻褄が合わなくなる・・・。
まぁ、何かしらの細工をすればナデシコに来させない事も出来なくはないんだろうけど。
とにかく、今のテンカワさんは成人前のテンカワさんで間違いない筈だ。
何があったか知らないけど、それでも間違いはない筈だ。
あくまで見た目的な話でしかないけど。
でも、それにしちゃあ経験豊富そうだよな?
見た目に騙されちゃいけないってか?
あ、やばい。頭が混乱してきた。
・・・うん? ・・・今、気付いたんだけどさ。
俺ってもう十九歳だよな。じゃあテンカワさんより年上じゃない?
何で年上なのに敬語で話しているんだ?
ま、いいけど・・・というか威圧感的にやめられそうにない。
「戦闘中に考え事はいけないな」
「おわっと!」
いつの間にか接近を許していましたとさ。
ナイフで斬りかかられましたとさ。
ギリギリで避けられましたとさ。
「あ、危ねぇ・・・」
どうにか助かったって感じ。
下手するとさっきので負けていた。
「・・・あれも避けるか。充分に間合いは詰めていた筈なのだが・・・」
フッフッフ。動体視力と反応速度なら負けないぜ。
経験不足を補うにはそれしかないからな。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ナイフでの接近戦を終えた後はライフルでの射撃戦。
互いにライフルを構えて、機動しながらの戦闘を行う。
上下左右斜め。
状況を的確に判断し、最善の位置へと移動する。
スラスター全てを駆使して、自分の出せる最高速度で移動し続ける。
そうしなければ当たるとお互いが分かっているからこその動き。
止まれない。妥協できない。勝つ為にはそれしかないから。
だが、何故だろう? まったく勝てる気がしないのだが・・・。
「グッ!」
「ン!?」
クソッ。フィードバックが強すぎた。右腕が焼けるように痛ぇ。
フィードバックレベルを下げよう。
必死にライフルを避けながら、俺はOSを書き換えた。
・・・ふぅ。
痛みが引いたな。
反応が良いのは助かるけど痛みまで来るのはいただけない。
何かしらの対策があるまでこの状態は禁止だな。
「よく当てたな。右足が使い物にならない」
俺が右腕を犠牲にしたようにテンカワさんも右足を犠牲にしていたらしい。
という事はまだ少なからず勝機はある。
「オラァァァ」
全身にフィールドを纏いながらテンカワ機に突っ込む。
・・・足から。
「・・・・・・」
対するテンカワさんは助走をつけて飛び込んできた。
・・・ライフルを出す素振りはない。
それなら・・・。
「イメージ。イメージだ。全てのディストーションフィールドを右足に集中。蹴り倒す」
全てのDFを右足に回し、その足から突っ込む。
現在の俺が出せる攻撃の中で最大級の攻撃力を持つ攻撃だ。
これで終わらなければ負けたようなもんだと思ってくれ。
ガンッ!
金属同士が衝突した音。
俺の機体の右足とテンカワ機の右手が正面から衝突していた。
ディストーションフィールド同士の真っ向勝負か。
面白い。やってやろうじゃないか。
「グゥ!」
「クッ」
DF同士の衝突は凄まじい衝撃らしく、俺の機体もテンカワ機も吹き飛ばされた。
俺がその衝撃で眼を回している時にテンカワ機が強襲。
コクピットに拳を叩き込まれて負けてしまいました。
「クソ~~~。負けちまった」
やばい。かなり悔しい。
「いや。よくやったと思うぞ」
クソッ。それは勝者の余裕か。
余裕の笑みか。
「そう悔しがるな。俺はエステのテストパイロットを一年間やっていたんだ。負ける方がおかしい」
・・・一年? すると、サイゾウさんに拾われてからすぐにテストパイロットになったって事か?
どういう事だ? アキト青年に何があったんだ?
「・・・お前はどうして予備パイロットに?」
「俺が予備パイロットになった理由ですか?」
「・・・ああ。お前から頼み込んだのか?」
俺から頼み込んだ訳ではない。
そりゃあ最終的には自らの意思だけど、きっかけは別にある。
「なんかネルガルがプロデュースしていたゲームで最高記録を出してしまいまして。それでパイロットに適正があるとかでスカウトされました」
「すると、お前はパイロットとしてナデシコに来たという訳か?」
「いえ。予備はおまけですよ。ゲーム機でパイロットとしての実力が計れる訳ないじゃないですか」
ゲームは所詮ゲームだ。
確かに今のシミュレーションに近いものはあったけど、ゲームで適正を計るのは間違っていると思う、物凄く。
「では、何故、ナデシコに? お前の目的は何だ?」
鋭い眼光で睨みつけてくる。
こ、怖いって。
それにしても・・・。
「理由・・・ですか。そうですね。放っておけないからですかね」
「放っておけない? 何が、だ?」
・・・視線が鋭くなった気がする。
「俺が途方に暮れている時にミナトさんが助けてくれたんです。だから、ミナトさん一人を戦艦に行かせる訳にはいかないかなって」
「・・・ミナト・・さん?」
「ええ。お世話になりっぱなしでしたから。少しでも恩返しできればなって思って」
これは本当。ナデシコにいる間にミナトさんには多くの選ぶ時があると思う。
もちろん、決定権はミナトさんにあるんだけど、悩んでいたり、苦しんでいたりする時に助けてあげられればなって思っている。
だから、白鳥九十九とか、ミナトさん関連の話は一切してないんだから。
「予備になったのも本当に危機に陥った時、自分が何も出来ないのが嫌だからです。本当は予備とはいえ、パイロットになるのは嫌だったんですけど、嫌がってて死んじゃったら本末転倒かなって」
生きなければ幸せは望めない。
まずは生き抜く事。それが大前提。
「俺のちっぽけな力で誰かを護れるのならそれでもいいかなって思っています。ミナトさんに言われたんですよ。一人で出来る事なんて限られているって」
「・・・・・・」
「だから、とにかく身近な人を護ろうと思います。地球全体とか、木星蜥蜴でしたっけ? そんなのを一人で背負いきれる訳ないんで」
「ッ!」
「まずは自分。その次に大切な人。それで、もし、まだ余裕があるのなら他の人の事も考える。そうやって幸せを求めるものだって俺は習いましたから、ミナトさんから」
自分を犠牲にして誰かを救う。
それじゃあ幸せになれないんだな。
自分の犠牲が救われた誰かを苦しめるかもしれないし。
幸せになるって簡単そうに見えて本当に難しい。
特にこんな戦争の時代なんてね。
「理由は放っておけないから。目的は・・・そうだなぁ、無事に生き抜いて、幸せを求める為、ですかね。俺は生き抜きますよ。ナデシコクルーも護りきってね」
どれだけ異常な力を持っていても所詮は人間。神じゃない。
出来る事と出来ない事があるんだ。
出来ない事を出来ると突っ走る事も時には大切かもしれない。
もしかしたら、本当に実現させてしまえるかもしれない。
でも、俺にはそんな事は無理だと思う。
それなら、出来る事を全力でやるしかないだろう?
きっと、それが俺の生きる道なんだよ。
「・・・一人じゃ限界がある・・・か」
何か思い当たる事でもあったのかな?
「これは俺の人生観ですから。テンカワさんに押し付けるつもりはありません。テンカワさんにはテンカワさんの考えがあるのでしょうから」
「いや。参考になった。そうだな。人一人が背負うのに世界は重過ぎる」
世界を背負う?
話が大きいな。
でも、世界を舞台に戦う人間もいる。
たとえば、そう・・・。
「それでも、足掻いて、足掻いて、無理だと理解しても足掻き続けて、いつか無理だった事すらも乗り越えてしまう。そうやって不可能を可能にしてしまう人もいますけどね」
物語の主人公ってそんな感じ。
どれだけ逆境に立たされても諦めない心で打ち勝ってしまう。
眼の前にいるテンカワさんになら、あるいは・・・。
「足掻く・・・か。今の俺にピッタリの言葉だ」
足掻く事がピッタリ?
どういう事だろう?
「良い言葉だ。足掻く。決められた運命にも足掻き、非情な現実にも足掻き、そして、いつか、俺が望んだ光景を見る。それが俺の目的か・・・」
神妙な顔付きで話すテンカワさん。
その表情から全てを理解する事は出来ない。
でも、テンカワさんが隠し切れない苦悩と責任という重圧に押し潰されている事は分かる。
完全に原作のアキト青年とは別人なんだってこの時に理解した。
本質的にアキト青年とテンカワさんは違うみたいだから。
あの時のアキト青年は逃げの構えだったからな。
このテンカワさんは必死に足掻き続ける攻めの姿勢。
いや、根本的には同じなのかな?
劇場版のアキト青年こそ今のテンカワさんと瓜二つ―――。
「・・・同じだ。同じなんだ。どうして気付かなかったんだろう。いや。ありえないって否定していたのか」
「・・・どうかしたのか?」
「い、いえ。何でもないです」
間違いない。
このテンカワさんは本来の時間軸の未来からやって来たアキト青年だ。
身体は原作開始時と同じ。でも、経験とか、考え方とか、そういうのは劇場版のアキト青年。
実体のないボソンジャンプ? 精神だけのボソンジャンプ?
いや、でも、そんな事ってありえるのか?
「あの、機体の調整とかしたいんで、もういいですか?」
今は考える時間が欲しい。
「ん? ああ。時間を取らせてすまなかったな」
「あ、いえ。良い経験でしたから。また御願いします」
一礼して、急いで格納庫へ向かう。
今は自分のアサルトピットに閉じ篭りたい。
考えても無駄かもしれないけど、自分の考えは纏めておきたいからな。
・・・今度、ミナトさんに相談しようかな?
「悪い人間ではない。腕も確かだった。彼ならナデシコを護ってくれるだろう」
「そうですか。アキトさんが言うのならそうなんでしょうね」
「だから、悪い人じゃないって言った」
「そうでしたね、ラピス」
「・・・ルリちゃん。俺達は足掻くんだ。無理かもしれないが、それでも足掻き続けよう」
「はい。あんな未来はもうたくさんです。足掻いて、足掻いて、足掻き続けましょう」
「ああ。不可能を可能にしてやる。足掻き続けて、諦めなければ、いつか、いつか・・・」
「・・・アキトさん」
「・・・アキト」
「協力してくれるか? ルリちゃん、ラピス」
「何度も言っているじゃないですか。私はアキトさんを支え、助ける為にここにいるんだって。貴方が望みを捨てない限り、いえ、たとえ捨てても私はいつまでも貴方を助け続けます」
「アキト。私はアキトの眼、アキトの耳、アキトの手、アキトの足。アキトが望めば私も望む」
「・・・そうか。頼むな、二人とも。たとえ一人で背負いきれなくても二人となら、皆となら背負いきれるんだ。俺だけじゃ無理でも皆がいれば、きっと・・・」