SIDE MINATO
「艦長! どうするのですか!?」
焦った様子のプロスさんが問いかける。
そうよね。焦るのも仕方ないわ。
だって、今の状況はそれ程までにピンチなんだもの。
神楽派と接触する前に遭遇した艦隊。
そこに襲撃の振りをした艦隊が加わって、莫大な数の戦艦が周囲を囲み、虎視眈々と私達を狙っている。
しかも、それだけじゃない。
その莫大な数の戦艦から更に莫大な数の兵器が飛び出してくる。
視界一面に敵機体、敵戦艦の姿があり、それが360度全て。
・・・今までになかった最大の危機ね。
「セレスちゃん。レーダーをモニタに」
「・・・はい」
モニタに映し出されるのはナデシコを中心とした敵配置図。
でも、それを見た所で私にはどうしていいか分からない。
戦術関連は全て艦長達に任せてあるもの。
私はただ艦長の要求に応えるのみ。
「ユリカ。あそこが手薄のように見えるけど・・・」
「ううん。あっちは駄目」
「どうしてだい? 地球の方向だよ」
「多分、待ち伏せされている」
「え? 本当かい?」
「木連はチューリップを使った電撃作戦がある。離脱したチューリップは今どこにあるのと思う?」
「・・・あっちだって言うのかい?」
「うん。多分だけど・・・。私達があっちにいったら、待ち伏せにあって挟撃される。だから今、木連の攻撃が緩いんだよ、ナデシコをあえてあっちに逃げさせる為に」
「・・・それなら」
「うん。死中に活ありだよ。皆さん、一番防御が厚い所を突破します。ミナトさん。最大速度で。マエヤマさんを信じます」
「了解」
コウキ君を信じろっていう作戦なら、無条件に従うわ。
だって、誰よりも私がコウキ君を信じているんだから。
「マエヤマさん。準備はよろしいですか?」
「・・・いつでも」
・・・コウキ君。
信じているわよ。
「メグミちゃん。全クルーに通告。衝撃に注意」
「了解」
・・・おし。
「機動戦艦ナデシコ。突破します!」
「「「「「了解!」」」」」
死中に活あり。
あえて、最も守りが厚い場所へとナデシコは飛び込んだの。
SIDE OUT
「・・・・・・」
ひたすら撃ち続ける。
神楽派が乗っているであろう福寿のみ照準から外し、その他全ては殲滅。
時間を稼ぐ為、木連パイロットの被害を少しでも少なくする為、ナデシコが生き残る為、ナデシコが全方位の敵に対応する必要がある。
無茶? そんなの分かりきっているさ。
無謀? やってみなくちゃ分からないだろ?
今までにない程の危機。
だけど、不思議と切り抜けられる気がするんだ。
シュインッ。
「艦長! 状況はどうなってやがる!?」
・・・どうやらパイロット達がブリッジへと戻ってきたらしい。
「・・・貴方は・・・」
「ハッ。木連軍優人部隊所属カグラ・ケイゴ大佐であります。木連の私の着艦を許可して頂き、誠にありがたく思います」
「いえ。歓迎できる状況ではありませんが、歓迎します」
「ありがとうございます」
ケイゴさんも一緒のようだな。
「・・・ケイゴ」
「・・・カエデ。すまなかったな」
「・・・ケイゴ様」
「マリア。無事で良かった」
「む」
「むむ」
・・・ケイゴさん。ラブコメは後でやってくれ。
振り返れないから見えないけど、なんとなく表情が分かるぞ、二人とも。
アキトさんがいない今、ラブコメ担当は貴方に決定ですね。
「コホン」
そんな余裕はありませんよ~。
「す、すいません」
「ふんっ」
分かれば宜しい。
・・・俺も意外と余裕だな、おい。
「今はどのような状況ですか?」
「突っ込んでいます」
「は?」
「敵陣へと突っ込んでいます!」
「り、離脱をするべきです」
「だからこそ、です。マエヤマさん」
「はい」
「グラビティブラストを前方に発射。その後、敵陣を一直線に突破します」
「俺は何をすれば?」
「敵戦艦に密着し、より危険になります。ですから、敵を絶対に近づけないで下さい」
「また無茶な要求を」
「御願いします」
「分かりました。全力を尽くします」
突破後は迂回って所かな?
まぁいい。今はただ接近を阻止する事だけを考えよう。
「そろそろぶつかるわよぉ」
ミナトさんが告げる。
「セレスちゃん。グラビティブラスト発射!」
「・・・了解」
漆黒が漆黒を走る。
その跡に残るのは無数の破損パーツ。
「御願いします!」
「了解!」
敵陣を駆ける。
一体撃破してもすぐ後ろから加勢。
一隻通り過ぎてもすぐさま一隻が駆けつけ突破を阻止してくる。
「でも、負けはしない」
それなら、俺が破壊すればいい。
前方から押し寄せる機体は全破壊。
横方から押し寄せる機体は牽制を含めて一切近寄らせず。
後方から押し寄せる機体は圧倒的スピードで置き去りに。
前方から押し寄せる戦艦はミナトさんが避け。
横方から押し寄せる戦艦は集中砲火で退け。
後方から押し寄せる戦艦は機関部を集中して狙い、足止めを。
ナデシコの性能とクルーの能力なら、これぐらいの危機は容易に突破できる筈。
いや、突破できる!
「俺達が出るか?」
「いえ。パイロットの皆さんは今後に備えて待機していてください」
「でもよぉ・・・」
「マエヤマさんを、そして、残って私達を逃がしてくれた木連の方々を信じましょう」
「・・・分かったぜ」
犠牲には出来ない。
シンイチさんはケイゴさんの副官であり、友人。
幼馴染とも言っていた。
それなら、二人の間には深い友情があったのだろう。
そんな彼が、ケイゴさんを、そして、ナデシコを逃すという。
そして、ナデシコにケイゴさんとマリアさんを託した。
・・・その信頼に応えられなくちゃ男じゃない。
友情に命を捧げた彼に応える為にも、俺達は絶対に脱出しなければならないんだ。
「・・・機関部損傷。出力10%低下」
クソッ。
捉えきれなかったのか?
「無傷で突破できるとは思っていません。ですが、必ず突破できます」
慌てるな。出力が下がったなら、その分俺らが補えばいい。
速度の低下と威力の低下? それなら、数を増やす。
別に倒れようが構わない。
今ここで死するより何万倍も良い。
「前方に敵戦艦多数。回り込まれました」
「クッ」
・・・やはり数の暴力は凄まじいな。
どれだけ突破しようと次から次へと襲ってきやがる。
「・・・・・・」
「万事休す・・・か」
絶望がブリッジを覆う。
「やっぱり俺らが出るしかないだろ!」
「艦長! 私達が!」
「・・・ですが」
「そうだぜ! 俺達に任せてくれ!」
「艦長!」
「私達が行くわ」
「私も、私も行くわ!」
「カエデ! お前は本当に―――」
「黙ってみてられないもの!」
「・・・・・・」
「貴方も来なさい!」
「お、おい。カエデ」
パイロット勢が立ち上がる。
・・・力不足で申し訳ない。
俺がもっとしっかりしてれ―――。
『フーハッハッハッハ!』
「こ、この声は?」
『こんな事もあろうかと、こんな事もあろうかと』
「「「「「ウリバタケさん!」」」」」
もしや!
『おい! マエヤマ!』
「はい!」
『出来ているぜ。グラビティライフル』
「流石です。ウリバタケさん」
『へっ。こういう時に活躍せずにいつ活躍するんだっての』
「何丁出来ていますか?」
『二丁だ。どっちもエクスバリスに載せてある。さっさと来い!』
ありがたい。
でも、今の俺はオペレーター。
この状況下でここを離れる訳には・・・。
「でも、俺がいないと―――」
「・・・大丈夫です」
「セレセレ?」
「・・・私一人でも大丈夫です。だから・・・」
「・・・・・・」
「・・・だから、コウキさんは御自分の成すべき事を」
力強い瞳で見詰めてくるセレス嬢。
まったく、いつの間にかこんなにも成長しているなんて・・・。
嬉しい。嬉しいが、流石のセレス嬢もレールカノンまでは制御できまい。
「でも―――」
「あの!」
マリアさんが一歩踏み出す。
加えて、カグラヅキのオペレーターである女性達がそれに付いてきて・・・。
「私達で良ければ御手伝いします」
「え?」
「私達はカグラヅキでオペレーターをしていました。勝手は違うかもしれませんが、微力ながらお手伝いできると思います」
「・・・・・・」
黙り込む艦長。
信じていいのか? とか、扱えるのか? とか。
色々と考えているのだろう。
「先程まで敵方だった私達ですから、信じられないかもしれません」
マリアさんはそんな艦長に対して必死に訴える。
「ですが、私達の願いも貴方達と同じ和平を成し遂げる事。どうか、どうか今だけでも、私達を信じていただけないでしょうか」
「・・・ユリカ」
下を向いて考え込む艦長。
でも、答えは一つじゃないですか? 艦長。
「・・・マエヤマさん」
「はい」
「出撃準備を。エクスバリスの初実戦です。充分注意してください」
「了解!」
信じてくれてありがとう。艦長。
「ありがとうございます」
「いえ。最善を選んだまでです。現在オペレーター席は三つ空いています。負担が大きいと思われますので、分担して行ってください」
「分かりました」
マリアさんと共にやってきた女性陣がそれぞれ席に着く。
加えて、マリアさんもIFSを持っているらしく、俺の席に着いた。
マリアさんは木連式柔を習得しており、銃の扱いも達者。
慣れないレールカノンだろうけど、多人数で分担して行えばきっとうまくやってくれる筈。
「イズミさんとイツキさんは後方支援型、他のパイロットはリアル型で出撃してください」
「「「「了解」」」」
「俺はどうするんだ?」
「ガイさんもリアル型で出撃を。スーパー型は今の状況には不向きです」
「確かにそうだな。了解した」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! それじゃあ私の―――」
「カエデちゃんは待機です」
「どうして!?」
「このような局面では冷静さが問われます。失礼な言い方ですが、カエデちゃんにはまだ早いです」
「でも!」
「信じてください! ナデシコのパイロットを!」
「・・・・・・」
黙り込むカエデ。
うん。艦長の言葉じゃないけど・・・。
「俺達に任せておけ。カエデ」
「・・・コウキ」
絶対に切り抜けてやるから。
「ケイゴさんも俺達を信じて待っていてください」
「分かりました。コウキさん」
流石にケイゴさんは出撃させられない。
敵国のパイロットだし。
色々と複雑な事情がある。
「パイロットの皆さんは甲板に張り付きながら迎撃。絶対に振り落とされないで下さい。回収する余裕はありません」
「「「「「「了解!」」」」」」
「行くぞ! てめぇら!」
アキトさんがいない為にリーダーパイロットを務めているスバル嬢が叫ぶ。
「おっしゃぁ!」
ガイが飛び出し、その後ろを全パイロットが続く。
必ず甲板から飛び出ないようにとの厳命。
今はぐれたら、二度と合流できないと誰もが理解していた。
だが、そもそもナデシコを逃がさなければその意味もない。
・・・いざとなれば、俺もここに残って、ナデシコを逃してみせる。
「ウリバタケさん!」
「おう! さっさと乗れ!」
「はい!」
エクスバリス。
ウリバタケさん特製の高性能機体。
その分、リスクも高いが、今はそれを恐れている余裕はない。
今はこいつの火力が、破壊力が何よりも必要なのだ。
「マエヤマ・コウキ。エクスバリス。出ます!」
次々と飛び出すナデシコ搭載機。
俺も続き、すぐさま甲板へと張り付いた。
「やるな。マリアさん達」
予想した通り、完璧とまではいかないが、充分牽制の役目は果たしている。
銃撃なんてカグラヅキじゃなかっただろうに・・・凄いな。
「期待に応えますか」
この状況下でエクスバリスを、グラビティライフルを任された。
すなわち、今回の闘いは俺が鍵を握っている。
己惚れでもなんでもなく、マジで。
甲板に張り付くという事は動けないという事。
そうなれば機動力なんてなんの意味もない。
火力が全て。
スーパー型がない以上、一番の火力は俺だ。
俺が有する異常の一つ、MC以上のIFS処理能力。
それを使う時が来た。
『スバル機から各機へ』
スバル嬢の激励かな?
『各自配置に着いたな。おっしゃ。後は全部任せる。ぶちこんでやれ!』
『『『『「了解!」』』』』
スバル嬢らしい事で。
「さて」
多用しなくて済むと思っていた半暴走モード。
ここは分かり易くハーフバーサーカーモードとでも命名しておくか。
案外、使う場面が多いな、本当に。
結構辛いんだけど・・・なんて、泣き言ばかりじゃ情けないよな。
「フィードバックレベル、情報伝達速度、共に最高レベルに」
視界に映る全ての空間を支配する。
分析データ、解析データ、座標データを把握。
全データを把握した上で、最善の行動を導出。
「並列思考展開。食い潰せ」
支配させ、支配する。
暴れる並列思考を完全制御して初めての行動に移せる。
「・・・行くぞ」
俺の担当は前方の群がる壁。
全て破壊してやろうじゃないか。
「フル・チャージ」
二丁のグラビティライフルをそれぞれ敵方に構える。
今の状況で必要なのは一点集中ではなく、多面的な攻撃。
大丈夫。一丁でもお釣りがくる攻撃力な筈だ。
確かに実戦配備は初めてで、威力も理論上のものでしかない。
だが、機体とは別の出力源で、メーターを見てもチャージは満杯。
そもそも開発、設計がウリバタケさんとイネス女史の最高峰マッドだぞ。
信じようじゃないか。
「全標的。ロックオン」
モニタに映る全ての敵に照準を付ける。
その数は最早数えられない。
だが、それら全てに攻撃を当てる自信がある。
後は自分を信じてぶちかますだけだ。
「・・・発射ぁ!」
イメージする。
視界に映る全ての敵が殲滅される様を。
「うおっ」
両手からそれぞれ発射されたグラビティライフルの衝撃が凄まじい。
思わず仰け反る。
「どうだ?」
だが、その程度じゃ狼狽えない。
しっかりと姿勢を固定し、前方を眺める。
視界一面に広がる敵。
数秒後、視界は炎上した。
「生き残りは?」
喜びたい所を冷静に分析。
ロックオンした敵全ての破壊を確認した。
「殲滅完了」
喜びは束の間。
すぐさま前方は再び敵によって塞がれる。
いいさ。何度だってやってやる。
立ち塞がるものは全て撃ち貫いてみせる!
「何!? 逃げられただと!?」
「ハッ! 申し訳ありません! 足止めを喰らい、その者らは全て撃退できたのですが・・・」
「神楽の息子は?」
「消息不明です。恐らくはナデシコが保護したかと・・・」
「・・・・・・」
「も、申し訳―――」
「まぁよい」
「は?」
「木連にいなければ問題あるまい。生きていようが死んでいようが二度と木連には足を踏み入る事はできないのだからな」
「ハッ」
「ついでに挽回のチャンスをやる」
「あ、ありがとうございます」
「・・・神楽をこちらに引き込め」
「そ、それは不可能です。神楽大将は和平派の―――」
「分かっておる。だが、噂だけでよい」
「は?」
「息子を失った神楽が過激派に接触した。それだけで良い。それだけで和平派内の足並みが崩れる」
「な、なるほど」
「ナデシコを破壊できなかった事は残念だが、お前程の奴がやられたのだ、仕方あるまい」
「ハッ」
「詳しい事は報告書で確認する。すぐに提出しろ」
「了解しました」
「うむ。失望させるな」
「ハッ。全力を尽くします」
「・・・かなり追い込まれたな」
木連からの襲撃をどうにか退け、ナデシコは無事に地球へと戻る事ができた。
だが、戻ってきたから全て解決という訳ではなく・・・。
むしろ、問題は山積みである。
「正直、今後の展開が読めない」
ミスマル司令の暗殺における影響。
神楽派代表の息子の死における影響。
・・・あぁ。頭が痛いな。
ケイゴさんは生きている。
生きているが、木連人にそれを知らせる術はなく、木連人が知る術はないのだ。
木連内で死亡扱いにすれば、それはもう死亡となってしまう。
ケイゴさんを木連に帰らせる事が出来れば分からないが・・・。
草壁派がそれを許してくれるかどうか・・・。
チューリップが完全に支配下に置かれている以上、チューリップによる帰還は不可能。
ナデシコで送り届ける事は時間的にも、距離的にも不可能だろう。
司令の事もそうだ。
たとえ一命を取りとめていようと地球内の意識は徹底抗戦に傾いた。
和平派のトップが危険に晒されたのだから当然だろう。
恐らく、木連と組んだ徹底抗戦派が情報操作して木連のせいにしているだろうし。
それに加えて、代表がいない事での混乱。
その隙をつけ込まれたら抗戦派の力が強まってしまう。
・・・司令、御願いですから生き延びてください。
現状でも厳しいのに、貴方が死ねば全てが台無しになります。
貴方が生きていれば、まだ、起死回生のチャンスが必ず・・・。
「・・・とりあえず艦長待ちか」
地球のヒラツカドックに到着したと同時に艦長が司令のもとへと向かった。
無論、ジュンも連れて・・・。
それでいいのか? と問いたいが、若干諦めている。
とにもかくにも司令の容態を早く教えて欲しい。
暗いニュースばかりで気が滅入りそうだ。
「ケイゴ! はっきりしなさいよ!」
「だ、だからですね。マリアは」
「ケイゴ様!」
「お、落ち着け。ちゃんと説明するから」
「どれだけ私が心配したと思っているのよ!」
「やはり行かせるべきではありませんでした。ケイゴ様が地球に赴いたら必ず悪い女に捕まると―――」
「悪い女ってどういう事よ!」
「ケイゴ様を誑かしておいて何ですか!」
「た、誑かすですってぇぇぇ!? 怒った。もう許せない」
「こちらこそ! 許せません!」
「・・・はぁ・・・」
ハハハ。頑張ってくれ。ケイゴさん。
・・・ナデシコがどうにか脱出してすぐ。
二人きりで話がしたいとの事で、カエデとケイゴさんを応接間まで案内した。
もちろん、カエデは知っているだろうけど、一応。
そこで二人きりでゆっくり話をさせた・・・筈なんだけど・・・。
何故か、マリアさんが侵入していたらしく、話はこじれていた。
まぁ、要するに修羅場?
ちゃんとケイゴと話したいカエデ。
無論、二人きりでゆっくりと。
それなのに、マリアさんは護衛ですからと譲らず。
まぁ、カエデの性格ならもうこの時点で爆発だよな。
その後、どうにかケイゴさんが宥めて二人きりで話したらしいんだけど・・・。
そこから犬猿の仲って奴です。
今はそんな状況じゃないのにと思う一方、こういのがあってもいいかなとも思う。
殺伐としているだけじゃ良い方向にいく訳ないしね。
なにより、ナデシコっぽい。
「ふふっ。楽しそうね」
相変わらず人の恋愛事を楽しそうに眺めるミナトさん。
ん?
「いつの間にここに!?」
貴方もボソンジャンプを習得したんですか!?
「さっき来たばっかりよ」
「あ、はぁ・・・」
気付きませんでしたよ。
「これからどうなるのかしらね?」
「・・・そうですね。少なくとも、今回の件は悪い方にしか転びません」
両陣営で徹底抗戦派の力が強まった。
これは由々しき事態であり、和平を成し遂げたい俺達からしてみれば最悪。
崖っぷちといっても過言ではないぐらい。
「でも、ピンチはチャンスっていうじゃない?」
「まぁ、それは起死回生の閃きがあればですけどね」
「ないの?」
「ありません」
「・・・そっかぁ・・・」
テーブルの上に脱力するミナトさん。
ぐて~ってなっていて、随分と緩みきっている。
人によってはハシタナイとか思うかもしれないけど、それはそれ。
ミナトさんはこういう所がなんとなく可愛らしいと思う。
まぁ、それがセレス嬢に感染するのは勘弁して欲しいけど。
あ、ちなみに、今食堂で休憩中です。
「今後が難しくなったわね」
「はい。アキトさん達の事も気になりますし」
「あんな事があったんだもの。混乱していると思うわ」
「説明も出来たかどうか・・・」
本当に最悪の事態だな。
見えかけてゴールが遠ざかったって感じ。
フルマラソンだと思っていたら100キロマラソンだったぐらいの衝撃だ。
「ミスマル司令大丈夫かしら?」
「流石にあのような場面で無防備という事はないでしょうから・・・」
「そうね・・・」
歴史を振り返るに公の場での暗殺は少なからずあった。
それを考慮したなら、流石に防弾チョッキくらいはつけていると思う。
まぁ、つけているから絶対に安全という訳ではもちろんないんだけど。
「とりあえず、どうにかしなくちゃいけない事は分かっています」
「それって?」
「ケイゴさんの生存を木連に伝える事です」
どうやって嵌められたか、それを説明する術はない。
もちろん、映像はあるが、それを馬鹿正直に信じるとも思えないし。
でも、ケイゴさんが生きて戻り、ケイゴさんの口から聞けば、可能性はある。
たとえ証明できずとも、今の徹底抗戦の勢いは弱まる筈だ。
どちらにしろ、一刻も早くケイゴさんの生存を木連に伝えたい。
少なくとも、木連の和平派の連中には。
ケイゴさんの死によって和平派が徹底抗戦派に鞍替えしたら、それこそ終わりだ。
どうにかして、和平派とコンタクトを取れないだろうか・・・。
「秘密回線とかないのかしら? あのケイゴって子」
「う~ん、あ、そういえば、ケイゴさんが地球にいた時、木連とどうやって連絡のやり取りをしていたんだろう? それさえ分かれば連絡が取れるかもしれません」
「聞いてみればいいじゃない」
「そうですね。出来れば早く聞きたいんですけど・・・」
今はなぁ・・・。
馬に蹴られそうだ。
「ねぇ、コウキ君、話は変わるけど」
「はい」
「今、遺跡ってどうなっているのかしら?」
「遺跡ですか?」
「ええ。正しく言うならボソンジャンプ演算ユニット」
えぇっと・・・。
今は時期的に言えば、原作でいう最終回に近いと思われる。
その時、確か火星は完全に木連の支配下だけど、遺跡は確保されてない。
それは遺跡が幾重にも重なったDFによって護られていたから。
という解釈でいいんだよな?
まぁいいや。とりあえず、侵入を阻んでいた。
多分、木連は必死に突破方法を考えていたのだろう。
そこにナデシコが登場。
相転移砲をぶちかました。
でも、それでも突破できず。
そこで、フィールドランサーの登場。
一つ一つを解除して突破していた気がする。
そうして結局ナデシコが遺跡を確保。
そのまま宇宙に・・・あれ?
「・・・もしや、既に確保されている?」
木連には高機動戦フレームが渡ってしまっており、その副次的な効果としてフィールドガンランスすら渡ってしまっている。
当初は武器の一つとしての認識でしかなっただろう。
でも、何かの拍子であれの有効性が確認されたら・・・。
既にDFを突破して、遺跡を確保している可能性もなくはない。
・・・本当に俺のせいで全てが台無しじゃないか・・・最悪。
「そう。じゃあ、もし確保していたら、次にやる事は?」
「遺跡の解析でしょう」
すぐに使えるような技術でもないだろうし。
少なくとも解析に一、ニ年、実用に更に一、ニ年といった所だろうか。
しかも、木連じゃ好きにボソンジャンプできない訳だし。
俺達遺跡の事を多少なりとも知っている人間より時間が掛かる事は必至だ。
実際、いつ回収したか知らないけど、火星の後継者の決起は戦争終了後から五年も掛かった訳だしな。
・・・いや、ちょっと待てよ。
「ミナトさん。言い直します。既に回収されている可能性が高いです」
「え?」
「奴らは言っていました。チューリップは完全に自分達の支配下にあると」
「ええ」
「それはひょっとしたら遺跡を解析した結果、ただのワームホールでしかなかったチューリップを一段先へと進化させた結果かもしれません」
奴らの自信満々の笑み。
チューリップを支配下に置いたという言動。
渡ってしまったフィールドランサーの技術。
既に遺跡を確保していると見たほうがいい。
クソッ。なんてことだ。これじゃあ・・・。
「そう。でも、言い換えるなら、まだチューリップを介さないといけない段階という事ね」
「え?」
遺跡を確保された為に焦っている俺。
でも、ミナトさんには何故か余裕があるみたいだ。
どうしてだ?
「向こうは機械の補助なしでは自由に跳べない。だから、それ以上を求めて遺跡を確保して研究をしている。そうでしょ?」
「はい」
「確かにチューリップの行き先をどこからでも選べるようになったのは大きな発展かもしれないけど、あくまでチューリップを介している事に変わりはないわ。それに、そもそも、チューリップ越しなら自由な場所に行けたのだから、こちら的には大した違いはないわ」
「た、確かに」
そう言われてみればそうかもしれない。
「遺跡を確保されたと思って焦る気持ちは分かるけど、まだ時間的に猶予はあるのよ。落ち着けきなさい、コウキ君」
「そう・・・ですね。はい」
うん。落ち着いた。
流石はミナトさんだ。
「ちなみに、火星の後継者だっけ? 彼らはどうやってチューリップを介さないボソンジャンプを成功させたの?」
「A級ジャンパーを遺跡に組み込むことで情報伝達の媒介としたんです」
「それが・・・」
「ええ。艦長だったんです」
A級ジャンパーとB級ジャンパーの違いは機械補助の有無とジャンプの距離。
劇場版ではそれを覆す為にユリカ嬢を遺跡に組み込み、情報伝達の媒介とした。
要するにB級ジャンパーはユリカ嬢を介して擬似的にA級ジャンパーになった訳だ。
「どうしてそんな方法を思い付いたのかしら?」
「多分、遺跡の解析の過程でA級ジャンパーの事を調べたからじゃないですか? A級とB級の差を調べた事によって、両者の根本的な違いに気付き、もしかしたらって」
「なるほど。でも、それって前提としてA級ジャンパーの事を知ってなくちゃ駄目よね?」
「そうでしょうね。知らなければ思い付きませんよ、こんな事」
「今って、知っているのかしら?」
どうだろう?
多分、知らないと思う。
あまりボソンジャンプをした覚えはないし。
俺もアキトさんも少なくともバレるようなヘマはしてないと思う。
まぁ、ネルガルは既に知ってしまっているけど。
「恐らく、木連はまだA級ジャンパーの事を知らないと思います」
これからも注意しなくちゃいけないな。
もしも存在がバレたとしたら、火星人全ての命が危ない。
木連がまた拉致とか誘拐やらという強硬手段にでかねない。
「じゃあ、それが私達の強みね」
「強み?」
「ええ。まさか地球から何の媒介も必要とせずに木連まで飛べるとは思わないでしょ?」
そうか。必ずチューリップやジンのような媒介を木連は必要としている。
機体なし、機械補助なしのCCのみでジャンプができる存在を知らないんだ。
たとえば短距離のジャンプという意味ではそれほど強みにはならないかもしれない。
でも、イメージ次第で俺なら地球から木連まで行ける。
だから、俺がそんな事をしても、彼らにとっては思慮の範囲外という事になる。
バレたらおしまいという諸刃の剣だが・・・これは使えるかも。
「ほら。私達にだって強みがあるじゃない。もしかしたら、それが起死回生の一手になるかもしれないわよ」
「そうですね」
草壁派にバレないように和平派同士で結び付けられるかもしれない。
あ、でも、そうすると神楽派の人間にバレてしまい、結果として草壁派にバレるかも。
却下かな?
でも、それ以外にどう用いていいか分からないしなぁ・・・。
とりあえず、これもアキトさんと要相談って奴かな。
「少なくともカグラ君は生きているし、私達の強みだってある。だからね、まだ諦めるのは早いと思うわよ。コウキ君」
「はい。そもそも諦めてないですよ」
「そう? それは良かった」
「あ。信じてないですね。こう見えても諦めは悪い―――」
「はいはい。分かりました」
「もうおざなりだなぁ」
顔を見合わせて笑う。
本当にミナトさんはお茶目な人だ。
「とりあえずブリッジに戻りますか。休憩時間もそろそろ終わりですし」
「そうね。行きましょうか」
不安も残る、というか、不安だらけだけど、まだまだ終わった訳じゃない。
和平に向けてもっと頑張らないとな。
追い込まれた分、今まで以上に。
「本当にセレスちゃんは成長したよね」
「・・・そうですか?」
「うん。もうルリちゃんやラピスちゃんがいなくても安心して任せられるし」
久しぶりのほのぼのタイム。
膝の上にセレス嬢を乗せて談笑しています。
少し身体が大きくなっている気がする。
このぐらいの時って成長期だもんなぁ。
なんか時代の流れを感じました。
「・・・まだまだです」
「そっか。でも、このままだと更に俺の仕事が減るな」
オペレーターの仕事までなくなったらマジでいらない子認定されるよ。
パイロットもカエデの加入で更に居場所なくなったし。
そういえば、ケイゴさんはどうなるんだろう? 立場的に。
「・・・コウキさん?」
「あぁ。ごめんごめん」
考え事をしていました。
「・・・全部コウキさんのお陰です」
「そんな事ないと思うんだけど」
「・・・いえ。コウキさんから色々な事を教わりました」
まぁ出航当時から一緒に訓練していますしね。
ちなみに、僕もその訓練のお陰でスキルアップしています。
「そうかな?」
「・・・はい」
「そっか。それは嬉しいね」
これで君も一人前のオペレーターだ、なんて。
「・・・頑張りました」
「うん。偉い偉い」
定番のナデナデ。
なんとなく気持ち良さげだから遠慮なく。
「相変わらず気持ち良さそうね」
「・・・ミナトさん」
「これは将来が心配ね。お父さんに恋しちゃったりして」
おいおい。ミナトさん。
それはないでしょ。
「コウキ君もコウキ君でセレセレが嫁入りする時はどうなるのかしら?」
・・・セレス嬢の嫁入り。
うん。断固拒否だな。
俺を倒してからにしろ! をマジでしそうだ。
「・・・恥ずかしいです」
「なんとなく未来が想像できるのよねぇ」
・・・一体どんな未来を想像しているんですか? ミナトさん。
「ふふっ。ライバルかしら?」
それはぶっ飛びすぎ!
「冗談よ」
ですよね。
シュインッ。
「ふむ。そろそろ艦長から連絡があってもいいと思うんだが・・・」
あ。ゴートさん。
「プロスさんは何をしていますか?」
「ああ。会長達と連絡を取っている」
大変ですね。プロスさんも。
ネルガルとナデシコの間で板挟みにあって・・・。
また胃薬を送らせてもらおうかな。
「専門家から見てどうですか? あのコースは致命傷ですか?」
「ふむ。心臓直撃のようにも見えたが・・・」
・・・心臓直撃はやばいでしょ・・・。
「心臓は人それぞれだからな。運が良ければ免れているかもしれん」
なんて不安なお言葉。
「だが、心臓直撃だからこそ助かる可能性もあるな」
「どういう事ですか?」
「危険だからこそ、護りも厳重という意味だ。何かしらの防護策をしてあれば、基本心臓は護れる」
「それなら!」
「ああ。防弾チョッキも進化していてな。黄金銃ならまだしも大抵の銃ならば防げる」
・・・黄金銃って。
一撃死の煌く弾丸ですか・・・。
「流石に無防備で演説など行わないだろう」
「そうですよね!」
「ああ。しかし、それが分からない木連ではあるまい。何が狙いなのか・・・。ただの暗殺であれば頭を狙えば良い」
また不安な事を・・・。
「暗殺されかけたという事実から生じる何か・・・」
考え込むゴートさん。
「徹底抗戦の意識を強めただけではないな」
ちょっと不気味です。ゴートさん。
でも、確かに考えさせられる議題。
ただの暗殺にしてはお粗末。
わざわざ姿を現す必要が果たしてあったのだろうか?
まぁ、木連と勘違いさせたかったというのもあるんだろうけど。
それだけじゃないってなんとなく思える。
「もしかして―――」
「来ました! 艦長からの連絡です!」
おっと、ようやくか。
『えっと、マエヤマさんいますか?』
え? 俺?
何だろう?
「はい」
『カグラさんを連れて、ここまで来て頂けますか』
「えっと、別に構いませんが」
『御願いします』
プツンッ。
「えっと、とりあえず行ってきますね」
「どうしたのかしら?」
「さぁ?」
僕にもまったく。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるね。セレスちゃん」
「・・・はい。頑張ってきてください」
「うん。それまで、ナデシコの事、頼むね」
「・・・(コクッ)」
最後に頭を撫でて、セレス嬢の席に降ろす。
カグラヅキのオペレーターも手伝ってくれるらしいから負担もあまりないだろう。
うん。任せたぞ。セレス嬢!
「それじゃあ」
ブリッジから飛び出し、ケイゴさんのもとへ。
「お取り込み中、申し訳ありませんが」
「あ、はい。何でしょうか? コウキさん」
・・・まだやっていたのかよ、二人とも。
こりゃあ艦長とアキトさんの追いかけっこに変わる新しい名物になりそうだ。
「付いて来て欲しい所があります」
「付いて来て欲しい? 木連人の私に?」
「はい。詳しい事は移動中に御話します」
「分かりま―――」
「私も行くわ!」
「私も行きます!」
「うおっ!」
び、びっくりした。
「いきなり入ってくるな。カエデ」
「だ、だって」
「その通りです。貴方はここで―――」
「マリアさんもです」
「そ、そんな。私はケイゴ様の護衛として」
「内密な話なんです」
「マリア。すまないが、待っていてくれ」
「・・・分かりました。ケイゴ様が仰るのなら」
はぁ・・・。
意外だ。マリアさんってケイゴさん絡みだとこうなるんだ。
なんか冷静に何事も対処してしまうタイプの人間だと思っていた。
「それで、どこへ?」
ナデシコの廊下をケイゴさんと歩く。
「ミスマル司令の所です」
「それじゃあ―――」
「生死は分かりません。でも、それ関連で話があるらしく」
「・・・そうですか」
「とりあえず、病院へ向かうので付いて来てください」
「分かりました」
ドック外へ。
病院は近くもなく遠くもなくという微妙な距離だから、
いくつかのリニアモータカーを乗り継いでいこうと思います。
さて・・・。
「ケイゴさん」
「はい」
「ちょっと一緒に考えて欲しい事があります」
病院に着くまで、さっきゴートさんが言っていた事を考えてみよう。
「今回の暗殺、どういう意味があるんでしょう?」
「私と司令を同時に暗殺する事で両陣営の抗戦の意識を高めたのでは?」
「それはもちろんですが・・・」
ただ殺して影響力を落としたというだけではないと思う。
もちろん、ケイゴさんの言っている事も含まれるだろうが。
でも、その後の展開まで考慮していたら・・・。
「司令関連かな?」
「司令? ミスマル司令ですか?」
「はい。木連にとって、というか、草壁派にとって司令は邪魔な存在じゃないですか」
「まぁ、そうでしょうね」
「だから、影響力を落とす為にとか」
「それもあるでしょうね。司令が和平を考え直したら和平派の足並みは狂うわけですし」
「抗戦派に鞍替えを望んでいるとかいうのも」
「ないでしょうが、考慮はしているかもしれません」
ミスマル提督が死ねばそれで良し。
死なずとも少しでも木連に恨みを持ってくれれば良し。
和平派のトップが徹底抗戦派に鞍替えしてくれればなお良し。
う~ん、ちょっとなぁ・・・。
「もしかしたら、内乱が目当てかもしれません」
「内乱? 地球のですか?」
「はい。時間稼ぎの為に」
ミスマル司令復活後に実は対立している派閥の陰謀でしたとリーク。
その結果、派閥間で戦争が勃発。
地球内がゴタゴタしている間に木連はしっかりと基盤を整えて、とか・・・。
うん。なんかありそう。
というか、そのリークの役目とかナデシコが担いそうだよ。
ちょっと様子見ないとまずいかも。
「時間稼ぎとは?」
「えっと、草壁派が遺跡を確保したとか何か聞いていませんか?」
「遺跡?」
「もしかして、知りません?」
「火星の遺跡の事ですか?」
「あ、はい」
知らないかと思った。
「コウキさんこそよくご存知ですね」
「え? どういう意味ですか?」
「その事は木連ではトップに近い人間しか知りません。私も最近父から聞いて初めて木連が火星を狙った意味を知りましたし」
「あ。そうなんですか。まぁ、色々とありまして」
それじゃあ末端の兵士は知らない訳か。
そういえば、原作でツクモさんも遺跡の事を触れていなかったしな。
少なくとも知っているのは少将以上とか、名家とかって事だろう。
「・・・その遺跡が草壁派によって確保されたかもしれないと?」
「ええ。もしかしたらです」
「・・・それはかなりピンチですね」
「はい。でも、実用化には時間が掛かります」
「・・・その為の時間稼ぎですか・・・」
「恐らく」
遺跡を確保した以上、草壁にとって何よりも欲しいのは時間。
ここで地球側が内戦でもしてくれればかなりの時間が稼げる。
加えて、内乱にこじつけて木連がやりやすいように干渉なんかしたりして。
もしそうなら結局、徹底抗戦派の連中も草壁の掌の上で踊らされてたって事になるな。
まぁ、それはどっちでもいいか。
たとえ内乱で和平派が権力を握ろうと混乱を落ち着かせるまでに時間が掛かる。
下手したら内乱が長引いて年単位でなんて事も。
そうなれば完全に手遅れ。
木連支配の世界が始まるかもしれん。
遺跡は解析に成功すればそれぐらいの意味はあると思うし。
長引けば長引く程、不利になるとはこれ如何に。
「やはり一筋縄ではいきませんね」
「はい」
別にあそこでナデシコを潰しても、リークする方法ならいくらでもあるし。
単純に受け渡しの証拠を曝け出せばいいだけだしな。
うん。なんかこれっぽい。やっぱり様子見しなくちゃいけなさそうだ。
「それにしても何故私なんでしょう?」
今更ケイゴさんと会っても・・・というのが正直な意見。
下手すると死亡扱いされている訳だし。
現時点で木連内におけるケイゴさんの影響力は皆無に等しい。
ふむ。何の話をするつもりだろうか・・・。
「まぁ、とりあえず着いてからです」
「ですね」
そろそろ到着か。
・・・それにしても、なんかマジでかなり追い込まれている気がするな。
ミスマル司令の安否も気になるし。
う~ん、なんか幸運が転がり込んでこないかな?
「・・・いや、運任せは良くないな」
もっと考えよう。
もっと考えて起死回生の一手を。
ミナトさんも言っていたじゃないか、ピンチはチャンスだって。
まだまだ諦めちゃいない。
和平を成し遂げないと安心して平穏な生活を送れないしな。
逆境こそ男の見せ場だと知れ!
この状況を覆してこそ本当の和平が成るんだ!
やるしかないだろ、俺。