機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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明るい未来を

 

 

 

 

 

「以上が木連神楽派との会談結果です」

「うむ。計画には賛同してもらえたか・・・。ご苦労だったね」

「ハッ」

 

極東方面軍本拠地にて待機中の我々ナデシコクルー。

皆が休暇を楽しんでいる中・・・精力的に働く僕。

クッ。俺も休みたい!

・・・いいさ。後でミナトさんの所に遊びに行くから。

 

「木連はどうだったのかね?」

「やはり市民船という事もあり、資源が乏しいという印象を受けます」

「ふむ。木連が土地を求めるのも理解できる・・・か」

「はい」

 

ミスマル司令は病室にて待機。

既に意識は取り戻しているけど、計画の為にひとまず表舞台から去ってもらう。

一応、軍所属の病院だから、司令の生存が露見する事はないだろう。

彼らも状況は違えど軍人。上司の命令には従うさ。

まぁ、しばらくしたらこっちに移動してもいいかもしれないけど・・・。

変な事をして計画に不備が出たら困るから、その辺りは司令にお任せします。

 

「ムネタケ参謀。これから私は何を?」

 

かといって俺が何度も直接司令のもとへ向かうのはあまりにも不自然。

親族という訳でもないしね。一応は元部下と上司だけど、変っちゃぁ変。

でも、同僚の参謀や親子のユリカ嬢なら違和感もない。

その為、俺の仕事の報告は全て参謀に行い、そこから司令へ伝わるようにした。

これなら怪しくないし、話も漏れないで済む。

 

「その前に君に報告する事があってね」

「報告? 私に、ですか?」

「うむ。火星再生機構及び地球内乱の事だよ」

「は!? 私にも話して頂けるのですか?」

 

だって、火星再生機構はともかく内乱は俺なんかに言える事じゃないだろ。

軍人でもない一般人の俺には話されるだけでも荷が重い話です。

 

「君を巻き込んだ方が成功率も高いと思ってね」

「ま、巻き込む・・・」

 

思わず冷や汗が・・・。

容赦ないっすね。俺は平穏を求めているのに・・・。

 

「冗談だよ」

「ほっ」

「君は木星の和平派に地球の状況を逐一報告しなければならない立場だろう?」

「ええ。そりゃあ、まぁ」

 

計画の都合上、お互いに情報交換しなくちゃならないだろうからね。

 

「でも、言っていい事と言ってはいけない事がある。それは分かるね?」

「もちろんです」

 

たとえ今後、手を取り合う間柄とて全てを公開するのは愚の骨頂だ。

状況次第で如何様にも変わる関係性であり、全てを託せる相手ではない。

公開した所で得られる物は少なく、損ばかりが目立つ。

どれだけ気の置けない友であっても秘密がある事と同じだ。

・・・あれ? ちょっと違うか。

 

「その辺りを吟味する能力を培ってもらわねばならん」

「その判断を参謀に任せる訳にはいかないのですか?」

「無論、始めは協力するが、最後までとはいかない」

「・・・そうですか」

「それに、実際に現場で判断するのは君なのだよ? マエヤマ君」

「咄嗟の判断が必要って事ですね」

「質問された際に答えなければならないのは君だからね。現場に私がいれば私が答えるが、この件に関しては君に任せるしかない」

 

・・・やっぱり責任重大だな、おい。

 

「さて、まず火星再生機構についてだが」

「はい」

「アキト君から何か聞いたかね?」

「いえ。完全にお任せしていますので」

「ふむ。まぁ、提案者である君にはきちんと把握していてもらいたい」

「分かりました」

 

とりあえず行き詰ってはいないというぐらいしか聞いてない。

 

「まず先日の暗殺事件で火星人の大半が怒りを露にしたが、アキト君がしっかりと彼らを説得し、どうにか抑える事が出来た」

「良かったです。やはりアキトさんの影響力は凄まじいですね」

「そうだな。火星人を救出したナデシコの一員である事が大きいと思われる」

「地球の英雄ですしね。アキトさん」

 

地球を守護する英雄であり、火星人を救出した救世主。

そんな人間が真摯に火星を想えば心動くよな。

 

「その折に息子が火星人達の前に立ち、謝罪をしたらしい」

「提督が・・・ですか。どうなりました?」

「罵倒の嵐だったそうだよ」

「・・・そうでしょうね。フクベ提督の時もそうでした」

 

普段温厚な人でも恨みを抱く相手には怒りを剥き出しにする。

その形相はとても同一人物とは思えない程で・・・。

恨みや憎しみがどれだけ人間にとって大きな影響を残すのかを実感した。

 

「でも、息子はそれにも耐えて必死に頭を下げたらしい」

「・・・提督が」

「本当に息子は成長したようだ。これもナデシコのお陰かな」

「かもしれません。ナデシコは本当に暖かい所ですから」

「・・・そうかね。ちょっと羨ましいよ」

 

キノコ頭と蔑まれていた提督だけど、もうキノコなんてとても言えないな。

あんなに立派な人間を否定する事なんて出来る訳がない。

これからはマツタケ提督と呼ぼう。

・・・これも違うか。

 

「して、その結果は?」

「アキト君が介入する事もなく、息子一人だけの力で許してもらえたそうだ」

「そうですか。一安心ですね。参謀」

「ふふふ。そうだね。私とて息子が嫌われるのは辛い事だよ」

「これからそんな認識も変わるでしょう。きっと提督はもっと上に行きますよ」

「そうであって欲しいね」

 

ハハッと笑い合う俺と参謀。

本当に羨ましい親子関係だよ。提督と参謀は。

・・・なんだか俺の周りには良い関係の親子しかいない気がする。

実に羨ましい。憧れちゃうぜ。

俺もセレス嬢を始めとした将来の息子、娘に良いパパさんでありたいな。

ま、大分先の事だろうけど。

 

「ホシノ君、ラピス君の力も大きいそうだよ」

「二人が、ですか?」

「ふふっ。何が功を奏すか分からないものだね」

「え?」

 

何故に微笑む?

 

「マスコットだそうだ」

「え? マスコット?」

「うむ。火星再生機構のマスコットキャラクターに二人が採用されたと聞いたよ」

「あ、あらら」

 

マスコットキャラクターですか。

そりゃあ、二人ともそんじょそこらのマスコット以上に可愛らしくて魅力的でしょうが。

 

「乗り気じゃなかったそうだけどね」

 

二人の性格的に嫌がるだろうね。

 

「アキト君に説得されて引き受けたそうだよ」

「アキトさんが説得したんですか?」

 

そもそもアキトさんが納得したっていうのが信じられない。

 

「どうしても広告塔は必要だと熱弁されて折れたそうだ」

「誰が熱弁したんですか?」

「再生機構の広報課に属する事になる人間だよ」

 

へぇ。大分組織としての形が出来上がってきているんだな。

 

「ところで火星再生機構ってどういう形で運営されているんですか?」

「ん? どういう意味だね?」

「たとえば所属している人間は今の仕事を辞めているのかとか。火星再生機構について政府や連合軍は認めているのかとかです」

 

流石に俺が出資した金額じゃ全員分を長期は賄えないぞ。

今の所、利益が出るような活動はしてないんだろうし。

それに、あまり表でも報道されてないから、実は非公認?

政府や連合軍の許可はまだ得られてないのかもしれない。

 

「最初の質問だが、アキト君はどうなんだね?」

「・・・あ」

 

アキトさんは未だにネルガル所属の軍所属でしたね。

 

「他の構成員も同様だよ。日常の業務をこなしながらだそうだ」

「となると、大変な時期な訳ですね」

「ああ。だが、皆が精力的に働いてくれているから問題はないらしい」

 

通常の仕事をこなしながらも火星の為に・・・か。

やっぱり故郷を愛する力は凄いんだな。

専念できなくて進みも悪いだろうけど、予定通り着実に進んでいる訳だ。

しっかし、そう考えるとアキトさんの活動は偏り過ぎだよな?

俺のせいでもあるけど、アキトさんは再生機構の仕事しかしてないし。

ん? という事は軍の仕事として再生機構の活動しているのか?

 

「アキトさんは軍の命令扱いですか?」

「それが二つ目の質問に関係しているんだ」

「へ?」

 

アキトさんと政府、連合軍の認可に何の意味が?

 

「現在、残念ながら連合軍、政府の両者から認可は得られていない」

「・・・・・・」

 

火星なんてどうでもいいって事か?

・・・まぁ、分かりきっていた事だけど。

戦後に火星を再生させるメリット・デメリット。

火星再生機構の設立による遺跡の共営管理体制のメリット・デメリット。

それらを考慮すれば真っ当な思考の持ち主なら賛成するんだけどな。

まぁ、個人の利益が皆無に近い事は認めますけどね。

全人類の事を考えたらどれが良いかなんて分かりきっているでしょうに。

いつでもテロに怯えるような世の中にしたくないだろ?

地球にしたって木連にしたって。

それを抑止する為の共営管理なのに、どうして分からないかね?

 

「だから、軍関連の企業として目的を隠して会社を立ち上げた」

「会社を、ですか?」

「戦争における物資の確保や機材の修理を担当する企業さ」

「世間やお偉いさんに隠しながら計画を進める為って訳ですね」

 

隠れ蓑って事か。

 

「必ず認可を勝ち取るつもりだ」

「心強いです」

「うむ。それまでの間にすぐ行動できるよう準備を進めておこうと思ってね」

「物資の確保と機材の修理。今後に活かせそうな会社方針ですね」

「無論、確保された物資や機材は戦争には用いんさ。全て再生機構の為だ」

「なるほど。流石です」

 

その方針で物資や機材を確保できればすぐに再生機構として活動できる。

あくまで世間的な目的は戦争用なのだから、違和感も与えない。

 

「アキト君はその企業に出向という形で参加している訳だ」

「確かにそれならば軍の業務の一つになりますね」

 

偏り過ぎという訳ではなく、それが今のアキトさんの仕事という訳だ。

 

「その企業の組織構成はどうなっているんですか?」

「会長、社長には火星の生き残りの方が就任した。形としてだがね」

「将来的にアキトさんがその座を引き継ぐ訳ですね」

「その頃には既に企業ではなく、一つの政府団体として活動しているだろうけどね」

 

政府団体・・・。

火星再生機構がそのまま火星政府になるかもしれないのか。

 

「それと、スポンサーが現れたよ」

「スポンサー? 会社の目的も分からないのに、ですか?」

 

何が目的だ? そのスポンサーは。

会社の方向性も分からないのに、出資するなんて。

 

「多分、君は驚くだろうね。ちなみに、再生機構構成員の大半はその会社からの出向という形で所属していたりする」

「出向? え? もしや、いや、そんなことって・・・」

 

だって、それって・・・。

 

「そう、ネルガルだよ。ネルガルが火星再生機構最大のスポンサー。そして、ネルガルは火星人の殆どを出向という形で火星再生機構に送り出した」

「・・・・・・」

 

あの野郎。この前、見た時にはそんな素振り微塵も見せなかったじゃないか。

 

「どうやら聞いていなかったようだね、君は。ネルガルと我々は今、協力体制を敷いているよ。彼曰く、その方が儲かるそうだ」

「あいつらしい事で」

 

ホント、気に食わない奴だよ。

いつも飄々としてやがって・・・。

でも、感謝はしているんだ。

御陰で計画は飛躍的に進む。

ホント、気に食わないけど。

 

「とにかく、火星再生機構の近況はこんな感じだね」

「分かりました。ありがとうございます」

 

着実と計画は進んでいる。

けど、認可されていないから、隠れ蓑の企業を立ち上げ、世間の目を欺いている。

マスコミや政府関係の人間が騒がないのも隠れ蓑のお陰。

いずれ認可を得られるようにと政府や軍内で活動してくれている人もいる、と。

とりあえず、こちらの方は順調といった所か。

・・・ネルガルの力も当然そこには含まれているけどな。

地球でも最大級に近い企業の協力を得られた。

それはきっと、本当に大きな力になる。

 

「それでは地球の内乱についてはどうなっていますか?」

「早速、ユリカ君に接触してくる者が出て来た」

「・・・改革和平派の人間でしたか? それとも・・・」

「徹底抗戦派が五名、改革和平派が・・・」

「・・・・・・」

「二名だ」

 

ニ名・・・か。

 

「内通者だったのですか?」

「明確には分からん。最初に接触してきた奴は尋問中に舌を噛んで自決した」

「自決・・・ですか。少なくともその者は内通者であった可能性が高いですね」

「うむ。油断した我らが悪かった。情報が欲しかったのだがな」

「・・・もう一人は?」

「現在調査中だ。今回は尋問せずに言動から判断している」

「あえて放っているのでは?」

「ふふっ。それもある」

 

わざと違う情報を流して、内通者に伝えさせて敵対派閥を混乱させる。

また、違う情報であった時、内通者とその派閥での間には溝が生じる。

まさかわざと違う情報を流したのではないだろうか、と疑われれば最後。

内通者が今度は裏切り者として誰からも信用されなくなる。

どれだけ内通者が言い訳をしようと頑なになるだけっていうのがこの策の怖い所だ。

本当の情報を伝えられようと疑われている訳だから真偽は分からない。

そのまま両者が信頼しあわずにいれば、大きな隙が生まれたようなもの。

後は、命を懸けて敵陣営に乗り込んでいるのに、その者の言葉を全く信用しない人間が上司だぞとでも伝えてやれば良い。

そうすれば、あっという間に組織は空中分解だ。

誰を信じていいか分からなくなり、隣人すらも疑わなければならなくなる。

そんな状況まで追い詰めてしまえば無力に等しい。

要するに、こちらにとっては何のデメリットもなく、敵対者の力を削れるのだ。

内通者万歳。上手く利用すればここまでの事が出来てしまう。

多分、参謀の狙いにはこれも含まれているだろう。

 

「徹底抗戦派であの暗殺に携わっていた人間は?」

「判断は出来なかった。現在、それらの者も調査中だ」

 

御願いします。

 

「もちろん、艦長は毅然と断ったんですよね?」

「うむ。そのお陰で和平派の和平への意思は強まった」

「司令を慕う人間が司令の娘にそう言われてしまえば頑張らざるを得ないですからね」

「嬉しい誤算だよ」

 

艦長の態度が和平派の意思統一に繋がるとは思ってなかったんだろうな。

トップに据えて初めてその効果が出ると考えていたから。

確かに嬉しい誤算だ。

 

「木連と手を結んでいる人間は特定できましたか?」

「厳しいね。今調査している人間から序々に特定していくしかないだろう」

「そうですね。かなり奥底まで真実を隠していると思います」

「一応、候補者はいるんだけどね」

「候補者? 木連と手を結びそうな人間という事ですか?」

「うむ。まずは徹底抗戦派の第一人者である現連合軍総司令官」

 

うわっ・・・。

連合軍のトップが徹底抗戦派かよ?

そりゃあ改革和平派も苦労しているだろうなぁ。

 

「次は元極東方面軍総司令官」

 

ミスマル司令に席を奪われた逆恨みからって事か。

自身のスキャンダルのせいなのに、反省しない奴だなぁ。

 

「最後はクリムゾンと最も親しいとされている現北米方面軍総司令官」

 

なるほどね。

確かに怪しいけど・・・。

でも、別にクリムゾンと木連は利害の一致から手を結んでいるのであって、あくまで彼らがしている事は生活に必要不可欠な物資の提供などだけだ。

決して復讐の為の支援をしている訳ではない。

だから、クリムゾンと仲が良いというだけでは・・・ちょっとね。

必ずしも暗殺事件に関わっていたとは言えないだろう。

怪しくないといったら嘘になるけどさ。

 

「今の所、この三名が最も怪しいかな」

「確かに聞く限りではそうですね」

「とりあえず、君は把握さえしていてくれればいい。これらの事は私達の仕事だからね。君に負担は掛けないよ」

「そうですか。でも、何か俺の出来る事がありましたら言ってください」

「ありがとう。その時は頼りにさせてもらうよ」

 

俺にはハッキングという武器があるからな。

 

「さて、最後に今後の君の行動方針だが・・・」

「はい」

「好きに動きたまえ」

「は?」

「責任は我々が持つ。好きに動き回ってくれ」

「い、いいんですか? そんなアバウトで」

「君は自由に動いた方が良い成果を残すタイプだと思ってね」

 

そうかな? どちらかというと指示を出された方が楽なんだけど。

 

「とにかく、木連と話し合いがしたい時には君を呼ぶから、指示を受けた時にすぐに動けるようにしておいて貰えれば・・・」

「好きに動いて構わないと」

「うむ」

 

好きに動いて構わないっていうのも結構困る。

たとえて言うならデートの時に今日何が食べたい? とか、今日、どこに行きたい? とか訊かれるぐらい困る。

 

「どうするかな?」

「ふむ。それなら、当面は更なる戦力の充実を図れば良い」

「なるほど」

 

現段階で使える機体、実はまだ数種類しかない。

追加装甲タイプだから種類があればいいって訳じゃないけど・・・。

もうちょっと小回りの利いた兵器なんかも欲しいかも。

ちょっと考えてみるかな。どこに依頼するかとか。

 

「分かりました。早速、艦長に許可を貰って動き出したいと思います」

「ふむ。期待しているよ。ナデシコは我々の要だからね」

「ハッ」

 

ナデシコは期待されているんだ。

その期待に応えられるよう戦力を揃えないとな。

 

「ひとまず、今後について木連側とも話し合ってみます」

「うむ。よろしく頼む。今日はご苦労だったね。マエヤマ君」

「ハッ! それでは失礼します」

 

さてさて、どう動きましょうかね。

とりあえず今から木連に行って今後についてタニヤマ少将あたりと話し合ってみるか。

その後は・・・ん? 

好きに動き回って良いって事は別に俺は基地内で待機してなくてもいいって事か。

それなら、色々と駆け回ってみるかな。

とりあえず移動用の飛行機あたりをチャーターしましょう。

いやぁ、免許取っといて良かったな、マジで。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「全く、休暇ぐらいちゃんと休めば良いのに」

「・・・心配です」

 

ナデシコクルーに休暇が与えられてから五日。

休め休めと言っているのにコウキ君は休む様子がない。

この前だって一日どこかに行っていたし。

 

「・・・何をしているんでしょうか?」

「分からない。でも、きっと司令関連だと思うわよ」

「・・・・・・」

 

司令はなんとか一命を取り留めた。

でも、かなり危険な状況であり、予断は許されないらしい。

それが私達に与えられた情報。

もしかしたら、その穴を埋めようと皆が皆、精力的に働いているのかもしれない。

アキト君達もナデシコに戻ってこないし。

 

「でも、少しぐらい休まないと・・・」

 

どれだけタフな人間でも限界はある。

この前だって、死んだように眠っていたし。

きちんと睡眠時間を確保できているのかって心配になる。

もう、いつまで経っても心配掛けるんだから。

 

「・・・ちゃんと休んで欲しいです」

「うん。倒れられちゃ困っちゃうしね」

「・・・はい」

「だから、ちゃんと伝えに行こう」

「・・・え?」

「休んで欲しいって伝えて、部屋に拘束。レッツゴー」

「・・・あ、はい」

 

覚悟しなさいよ。

きちんと休ませてあげるんだから。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

「それでこれですか」

「そう」

「・・・そうです」

 

突然の襲撃。

今日はアキトさん辺りの様子を見に行こうと思っていたのだが・・・。

 

「いきなりで驚きましたよ」

 

艦長にそう連絡しようと廊下を移動していたら、捕捉され私室まで強制連行。

その後、気付いたらベッドの上にいました。

両サイドにミナトさんとセレス嬢で逃げられそうにありません。

 

「コウキ君。この休暇中、どれくらい休んだ?」

 

休暇中?

・・・えっと・・・。

一日目は移動先のネルガルとの打ち合わせ。

ナデシコの今後の方向性や改修内容を確認させてもらった。

二日目は会談の準備に追われ、夜は木連に移動。

こちらの計画について纏めて、参謀やら司令やらに確認してもらった。

三日目は定例会に参加して、木連将校達を説得。

中々の手応えで、神楽大将の説得もあり、計画に賛同してもらえた。

四日目は定例会の内容について参謀に報告し、再び木連へ。

地球側の計画に賛同してくれたお礼を改めてし、今後について話し合った。

五日目の今日。

・・・あれ? 本当に休んでないじゃないか。

 

「・・・休んでないですね」

「ほら。やっぱり」

「・・・許せません」

 

許せないって・・・セレス嬢よ。

 

「ま、まぁ、色々と立て込んでいましてね。今日こそ休もうと」

「本当に?」

「ギクッ。も、もちろんじゃないですか」

 

言えない。

今日はアキトさんの所に行こうとしていた、なんてとてもじゃないけど言えない。

 

「そう。それなら良いけど」

「・・・ホッ」

「・・・ミナトさん。コウキさん、嘘吐いています」

「ギクリ」

「よね~。私達に嘘を吐くなんて、どうなるか分かってないのかしら?」

「ど、どうなるんですか?」

「どうしましょうか? セレセレ」

「・・・お仕置きです」

「お仕置き!?」

 

ど、どうしたの? セレス嬢。

そんな子じゃなかったでしょッ!

 

「・・・話してください」

「セレセレ?」

「・・・今、コウキさんが抱えている事を私達にも教えてください」

「・・・セレスちゃん」

「・・・私達じゃ、私じゃ何も出来ないかもしれませんが・・・」

「そうね。話すだけでも楽になるかもしれないわよ」

「・・・そう・・・ですね」

 

実は結構ストレス感じていたり。

地球の今後を背負っている訳だから、重い責任が圧し掛かってきてさ・・・。

 

「絶対に秘密にしていてくださいよ」

 

話すか話さまいか悩んだけど、やっぱり二人に秘密事はなしにしたい。

己惚れじゃないけど、きっと俺の事を想って言ってくれているのだろうから。

家族に隠し事はなしだよな、うん。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「そう、コウキ君はそんな大きな仕事をしていたのね」

「・・・驚きました」

 

ミスマル司令の生存から起死回生計画までの全て。

セレス嬢にはそれに加えて俺のボソンジャンプ能力まで話した。

異常についてもいつか話さないといけないだろうな。

・・・セレス嬢に怯えられないといいけど。

 

「休暇中といえど、忙しい時期でしたから、休めなかったんですよ」

「そっか。でも、これで当分は休めるんじゃない?」

「でも、やる事はいくらでもあって・・・」

「たとえば?」

「ウリバタケさんやイネス女史の御手伝いもありますし」

 

プログラミング関係や調整は俺の仕事。

特にグラビティライフルやエクスバリスの調整は困難だから頑張らないといけない。

 

「ナデシコの戦力を充実させるという勝手ながらも艦長に許可を貰った仕事もあります」

 

参謀に提案されてすぐに艦長に連絡を入れて、許可を貰った。

責任は私が持ちます、と参謀に言われた事と同じ事を言われて驚いた覚えがある。

 

「後は会談の為の情報整理や準備もあるし、一応、アキトさん達のお手伝いもしなくちゃいけませんし」

 

会談でどのように話を進めていくかの相談とか現在の情報を纏めたりとか。

アキトさん任せにしちゃっている火星再生機構だけど、顔ぐらいは出さないと。

俺なんかでも何かしらの手伝える事があると思うし。

 

「ん?」

 

・・・あれ? なんか異様に忙しくないか?

 

「はぁ・・・。それを全部一人でやるつもりなの?」

「ええ。まぁ・・・。自分で言っていてビックリしました」

「ちゃんと予定組んでいるの?」

「・・・えっと、行き当たりばったり?」

「はぁ・・・」

 

物凄く深い息を吐かれてしまったんですけど。

 

「セレセレ、どう思う?」

「・・・大変過ぎだと思います」

「予定を組んでない事は?」

「・・・無謀です」

 

グハッ!

セレス嬢に言われると物凄く心にダメージが・・・。

 

「分かった」

「何が分かったんですか? ミナトさん」

 

何故だか決意を秘めたような表情で突然立ち上がるミナトさん。

 

「私が全部面倒を見てあげる。予定もしっかり」

「へ?」

「専属秘書になってあげるって言っているのよ」

 

せ、専属秘書!?

 

「どうせナデシコがなければ私って用なしじゃない?」

 

そ、そんな事、訊かれても困ります。

 

「だから、以前の経験を活かして、コウキ君のお手伝いをしようと思って」

「そ、それは助かりますが・・・いいのかな?」

「いいの」

「は、はい」

「おし。それじゃあ早速私も責任者に許可を貰ってこよう。誰かしら?」

「今は基地単位で管理されていますからムネタケ参謀あたりかと」

「ムネタケ参謀ね。分かったわ。ちょっと行って来るわね」

「ミ、ミナトさん、ちょ、ちょっとぉ・・・はぁ、行っちゃった」

「・・・ミナトさんらしいですね」

「セレスちゃん。笑い事じゃないよ」

 

苦笑するセレス嬢に苦笑で返す。

まったく・・・あの行動力には驚くばかりだよ。

そういう意味では見習わなくちゃいけないかな。

まぁ、自重は忘れちゃいけないけど・・・。

 

「・・・コウキさん」

「ん? 何だい?」

「・・・私にも御手伝いできる事はありますか?」

「え? いつも手伝ってもらってばっかりじゃん」

 

この前のシミュレーターや適性検査でもそうだし。

 

「・・・全然です。コウキさんが抱えているものに比べたら全然」

「いや、俺としては凄く助かっているんだけど」

「・・・それでも、もっとお手伝いがしたいです」

「そっか」

 

本当に良い子だな。セレス嬢は。

でも・・・。

 

「大丈夫だよ。セレスちゃんは充分色々な事をしてくれている」

 

まだまだ子供だ。無理はさせられない。

 

「・・・でも・・・」

「それに、また手伝ってもらう時があったら俺から御願いするからさ」

「・・・そうですか」

「うん。その時はよろしくね」

「・・・分かりました。頑張ります」

 

ちょっと悲しそうに見えるけど・・・うん、納得してもらうしかない。

苦労は買ってでもしろとか言うけど、それはもっと先の話。

このぐらいの歳の子は元気一杯遊んでゆっくり休むのが一番良いんだ。

だって、まだ十歳にもなってないんだぜ。

無理なんかさせられる筈がない。そんな苦労を背負うのは大人だけで充分だ。

・・・今でも普通の子と生活が違い過ぎるぐらいなんだぞ。

もっと子供らしい生活を送らせてやりたいよ。本当に。

 

「ねぇ、セレスちゃん」

「・・・はい」

「セレスちゃんはさ。この戦争が終わったらどうしたい?」

「・・・コウキさんやミナトさんと一緒に暮らしたいです」

「そっか。俺もだよ」

「・・・とっても楽しみです」

 

そこまで喜んでくれるのは嬉しいかな。

うんと大事にしてあげなくちゃね。

でも、俺が聞きたいのはそれとはちょっと違う。

 

「他には?」

「・・・他ですか?」

「うん。将来の夢、みたいなの」

「・・・将来の夢ですか・・・考えた事もありません」

 

寂しい事を言うなぁ。

 

「それじゃあ、考えてみようよ」

「・・・私の将来・・・やっぱり私なら―――」

「別にマシンチャイルドの能力を活かそうだなんて考えなくていいんだよ」

「・・・え? ですが・・・」

「それはセレスちゃんのたくさんある内の一つの武器でしかない。そんな事でセレスちゃん、君は自分の可能性を狭める必要はないんだよ」

「・・・私にたくさん武器があるんですか?」

「もちろん。それにね、セレスちゃんはこれから幾らでも勉強ができる。いくらだって自分の力だけで自分の目指す夢を切り拓く事が出来るんだ」

「・・・自分の力で切り拓く・・・」

「夢が広がらないかい?」

「・・・え?」

「博士になっているセレスちゃん。医者になっているセレスちゃん。 教師になっているセレスちゃん。社長になっているセレスちゃん。もしかしたら、パイロットになっているセレスちゃんだっているかもしれない」

「・・・色んな私・・・」

「そう。君にはいくらだって可能性があるんだ。だから、色んな自分を想像してごらん」

「・・・なんだか楽しくなってきました」

「そっか。良かった。」

 

君はもう夢を膨らませて良いんだよ。

これからいくらだって好きな事が出来るんだから。

障害? 障害なんて俺が全部ぶち壊してやるさ。

 

「どんな夢だっていい。君はもう自由なんだから」

「・・・はい」

 

セレス嬢が安心して子供らしい暮らしが出来る様に・・・。

その障害である戦争なんて一刻も早く終わらせよう。

未来は明るくあるべきなんだ。誰にでも・・・。

 

 

 

 

 


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