機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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ミルキーウェイ

 

 

 

 

 

「さて、社長、本日のスケジュールですが・・・」

「何故に社長?」

「社長。聞いているんですか?」

「は、はい。ミナトさん」

「ミナトと。社長が秘書に敬語を使う必要はありません」

「ん、んん、ミナト君。今日は何の予定が入っていたかね」

「はい。本日は・・・なんかいいわね、これ。コウキ君がミナト君だって・・・」

「・・・ミナトさん。やめません?」

「えぇ~。いいじゃない。面白いし」

「ミナトさん」

「はいはい。分かったわよ。もう」

「まったく・・・」

 

さてさて、ミナトさんが専属秘書になってから幾数日。

いや。参謀も唖然としちゃったらしいぜ。

突然入ってきて、マエヤマの秘書にしてください! だとか。

う、うむ。良かろう、みたいな勢いに押された返答しちゃったらしいし。

まぁ、お陰様で助かっていますけどね。

俺みたいな行き当たりバッタリなんかじゃなくて、きちんと休暇とかも計算に入れての完璧なスケジュール設定。

お陰様で効率良く色んな所を回れるし、大分負担が減った。

いや、やっぱり行き当たりバッタリは駄目だね。

計画性って大事だよ。

 

「それで、今日は何でしたっけ?」

「午前中は基地内でエステバリスと追加装甲についての情報交換」

 

あぁ、そうだった、そうだった。

リアル型、スーパー型の実戦稼働データやら、メンテナンスの調整記録やら、色々と情報交換しようって話をしていたんだ。

エクスバリスについての意見なんかも聞きたいしね。

 

「午後はどうなっていますか?」

「アキト君から呼ばれているわよ。何でも相談したい事があるって」

「へぇ。俺に、ですか」

「なんでも出資者として相談に乗って欲しいとか」

「ふ~ん。よく分かりませんけど、とりあえず行ってみましょう」

「ご同行致します。社長」

「・・・好きですね、それ」

「いいじゃない。これぐらい付き合いなさいよ」

「ふむ。付いて来たまえ。ミナト君」

「社長はそんな事言わないわよ」

「クッ。やられた」

「クスッ」

 

そこ、笑わない!

 

「それじゃあ、早速行きましょう」

「そうですね」

 

 

 

 

 

「よく来てくれたな。コウキ」

「いえいえ。こちらこそアキトさん任せにしちゃって申し訳ありません」

「構わないさ。俺としても充実した日々を送らせてもらっている」

「そうですか。それは良かった」

 

午前中の話し合いを終え、午後の予定である(仮)火星再生機構訪問へ。

なかなか有意義な話し合いになったと思う。

エクスバリスについても、完成へ一歩近付いたって感じだし。

 

「それで、相談とは?」

「ああ。その前に、何故ミナトさんが?」

「基地待機ではなかったのですか?」

「コウキの付き添い?」

 

(仮)火星再生機構の活動場所は聞いていた通り企業のようだった。

といっても、オフィスビルの一階を借りている感じの奴だけどね。

会社名は・・・秘密かな。

まさかミルキーウェイ(訳、天の川)だとはとてもじゃないけど言えない。

・・・あ。コホン、コホン。

現在ここにいるのはテンカワ一味と結構な数の社員。

多分、ネルガルから派遣された社員だろうな。

それに、ネルガルからの派遣じゃない正社員もちょいちょいだけどいるらしい。

重要な役職の人間も揃ってきているらしいし、スカウト活動も順調みたいだ。

 

「私は今、コウキ君の専属秘書として活動しているの」

「専属秘書?」

「色々と忙しくなっちゃいましてね。俺だけだと計画性皆無で効率が悪いのでミナトさんに御願いしたんです」

 

お陰様で体調は万全です。

流石、元社長秘書。

スケジュール管理は完璧ですね。

 

「コウキ君ったら全く休もうとしないのよ。まったく・・・。どっかの誰かさんは大丈夫でしょうね?」

「ちゃんと私達が休ませています。ね、ラピス」

「・・・うん。無理はさせてない」

「別に自分ひとりでもちゃんと休むんだがな」

「嘘です」

「・・・嘘」

「・・・なんだか最近扱いが悪い気がするんだが・・・」

「「自業自得」です」

「・・・・・・」

 

貴方も苦労しているんですね。

もう尻に敷かれる未来が容易に想像出来てしまいます。

というか、まるで自分を見ているようで・・・あまりにも情けない。

 

「お互い女性には頭が上がりませんね」

「そのようだ」

 

こんな事で分かり合いたくはなかったが、深く共感してしまった。

 

「さて」

 

うん。真剣な話ですね。分かります。

 

「コウキ。出資者であるお前に相談がある」

「はい。何でも」

「俺達は最終的にどういう会社になればいいと思う?」

 

なるほど。相談っていうのはそれの事か。

 

「・・・既にネルガルから活動資金はいただいているんですよね?」

「知っていたか。そうだ。手のひらを返すように援助を申し出てきた」

「別にそれ自体は問題ないんです。アカツキの思惑はともかく潤沢な資金がある。これは大きい事だと思います。活動の幅が広がるのですから」

「今のところ、火星復興に必要になるであろう物資を蓄えている所だ」

 

うん。それでいいと思う。

今できる事はそれぐらいだろう。

 

「後はスポンサーですね。ネルガルだけでは足りません」

「・・・そうだな。だが、いいのか? ネルガルを除けばお前が一番の出資者なんだぞ?」

「もしかして、出資者としての利権を欲しがっていると思っています?」

 

そう思われているとしたら心外だな。

そんな事の為にお金を出した訳ではない。

 

「分かっている。すまない。つまらない冗談だったな。許せ」

「本当です」

 

話を続けますね。

 

「その理由は二つあります」

 

至極単純な理由が二つ。

 

「一つは単純に資金不足である事。火星という星一つを再生しようというのですから、俺とネルガルの提供した資金では到底足りません」

「ふむ。いくらあっても足りないだろうし、ありすぎて困るというものでもないからな」

「ええ。もちろん、スポンサー足るか見極める必要はあります。言ってしまえば、火星再生機構は借りを作ってしまう訳ですから」

 

信用に足らない所から資金提供され、将来的に厄介な事態になったら元も子もない。

 

「そして、もう一つは、ネルガルだけに力を持たせてはいけないからです」

 

スポンサーはそれだけで大きな力を持つ。

仮にこのままネルガルの支援だけで火星を復興させたとしよう。

その結果、火星の利権はネルガルだけが握る事になる。

それは阻止しなければならない。

これはネルガル憎しとか、そういう事ではなくて、現実的に必要な事だ。

 

「ああ。明日香、クリムゾンは当然として、様々な方面で活躍している企業に声をかけている」

「それなら問題はないですね」

 

復興に必要なのは工業関係の企業だけじゃない。

様々な面で必要なモノはでてくる。

流石に俺程度で考えられる事はアキトさん達も考え付いているみたいだな。

 

「だが、各企業からの出資は必要最低限しかもらわないつもりだ。そして、復興後に全て返済もする」

「え? 何故です?」

 

返済は別にアキトさんの方針だからいいけど、必要最低限の出資って・・・。

資金がなければなにもできませんよ。

 

「まず、あまり力を持たせたくない。提供した資金はそのまま彼らの権力となる。俺達はどのような企業からも一定の金額しかもらわないつもりでいる。その分、より多くの企業の協力を得ようと活動するがな」

「気持ちは分かりますが、それだと資金が足りなくなりませんか?」

 

大企業からも中小企業からも同じ金額。

それだと基準はどうしても中小企業になってしまう訳で・・・。

提供される資金の額的にはあまり期待できない。

力を付けたくないという気持ちは分かるが、ちょっときついんじゃないかなと。

 

「コウキ。俺達の活動の前提を忘れてはいないか?」

「前提?」

 

何の事だろう?

 

「火星はいずれ地球、木連の両名から賠償金を貰う」

「あ。いや、でも、それは楽観的では?」

 

絶対に支払うとは限らないだろう。

 

「いや、これは決定事項なんだ。賠償金とは火星への謝罪の証。これすら成立しないのであれば、火星再生機構自体が認められない」

 

・・・確かに。

火星へ謝罪するつもりがないのなら、そもそも火星再生機構の設立に賛成する筈がない。

設立を賛成するのなら、賠償金を払わない訳にはいかない。

それが結果として火星再生に繋がるのだから。

これはどちらかだけという選択肢が始めからない選択なのだ。

どちらかを取ろうと思えば、必然的にもう片方も付いて来る。

そんな追い詰められた選択。

 

「謝罪する気があるなら払わなければならないという事ですか。賠償金を。なるほど」

「・・・俺はそこまで言ってないが・・・」

「・・・コウキさん、腹黒いです」

「・・・コウキ、腹黒い」

「・・・コウキ君、腹黒いわ」

 

・・・皆して、何さ。

そんな言い方しなくても・・・。

というか、この案は元々俺のものじゃない筈なんだけど・・・。

 

「組織のトップとしては戦争終了後、過失を過失ときちんと認め、被害者となった者に謝らなければならない。和平を結ぶのなら尚更な」

「そうなれば、謝罪は必至です」

「謝罪するなら火星再生に協力しない訳にはいかないわね」

「協力するなら眼に見える形で行う必要がある。具体的には資金提供」

「その名目が賠償金であるなら、賠償金は確実に支払われる」

「なるほど。確実に支払われますね」

 

火星側が何か行動を起こしていたら分からないが、今現在、彼らは一方的な被害者。

木連が謝罪する事は当然として、地球も火星に負い目がない訳ではない。

火星再生機構を認めるという事は火星の再生も認めるという事。

それは世間的に見れば、地球が火星再生に協力すると映る。

その状況下であれば賠償金の支払いを要求しても断られる事はないだろう。

状況を考慮すれば、その賠償金の行方がどうなるかぐらいは子供にだって予想が付くからだ。

もし断われば、それは火星に対する反省の意識がないと世間は受け取ってしまう。

それは現在でも支持率が低下してきている地球政府にとっては、

今後の更なる支持率低下の原因となってしまい、かなりの痛手だ。

だが、何の文句も言わずに素直に資金を提供すれば地球人はその懐の広さに感動するだろう。

それは支持率向上に繋がる。

軍にとっても政府にとっても一番大事なのは民間からの支持。

これは瞬間的な損に目を瞑れば、長期的な利が得られますよというものなのだ。

これぐらい少し考えれば誰にだって分かる事。

だから、我々を利用してもいいから、資金を提供してくれってメッセージにもなる。

まぁ、政治家という策謀に優れている者ならば、平然と利用してくれる事だろう。

別にそれに関して利用されても構わないんだろうな。

火星再生機構としては資金さえ得られれば良いんだから。

その者の名前が売れた所で俺達には関係のない事だ。

 

「ふむふむ。アキトさん。貴方も黒くなりましたね」

「仕方あるまい。まがりなりにも組織のトップに立ってしまったのだから」

 

苦労されているようで。

微力ながらお手伝いさせていただきます。

 

「最近はムネタケ提督とも相談を頻繁にしているんです」

「それで・・・」

 

アキトさんも黒くなってしまったという事か。

 

「だが、話を聞いただけで理解してしまうお前を俺は恐ろしく感じるよ」

「え?」

 

どゆこと?

 

「俺はあいつの話を聞いても理解できなかったからな」

「私もです」

「・・・私も」

 

えっと、アハハハ。

 

「何度も話を聞いて、三人で相談しあってようやく導いた答えなんだが・・・」

「・・・コウキさんも頭だけで出世できそうですね」

「・・・うんうん」

 

そ、それは・・・流石に無理ですよ。

俺なんてムネタケ提督やらムネタケ参謀レベルには程遠い。

 

「・・・改めてお前や提督達を敵に回さなくて良かったと思ったよ」

「ドロドロしているわねぇ」

「怖い世界です」

「・・・ぶるぶる」

 

なんか酷い言い様だ。

俺だって好きでこんな事ばかりを考えている訳じゃないのに。

 

「コホン。それなら、ムネタケ提督は火星再生機構の方針を理解してくれた上で動いてくれている訳ですね」

「ああ。そうなるな」

 

流石はマツタケ提督。

変な混乱が起きないように、軍内、政府内の意思を纏めようと動いてくれているんだろう。軍内はこれで何の問題もないな。

 

「えっと、それで、火星再生機構として最終的にどうするべきか、という話でしたよね?」

 

原点に戻りましょう、会話に困った時は。

 

「資金の目処もある。多くの企業への参加を求めている。もう火星再生機構としての形は出来上がっていると思いますけど?」

 

今更、俺に相談する事なんてないと思う。

 

「いや、正直、明確なビジョンは見えていないんだ。今は闇雲に物資を集めているだけで」

 

ふむふむ。

 

「実際、火星再生だけが目的なら資金提供も何もいらないんですよね。もちろん、あるに越した事はないですし、権力を握る為にも資本力は必要になりますが」

 

火星を再生させるという目的のみなら資金は別に必要ない。

 

「どういう意味だ?」

 

突然なんでこんな事を言い出したかというと・・・。

 

「アキトさんは火星再生機構だけで火星を復興させようとしているんですか?」

「いや、流石にそれは無理だ。当然、様々な企業の協力が必要になる」

「それは資金提供的な意味ですか?」

「ん? ああ。そのつもりだが・・・」

「俺個人の勝手な意見なんですけど、火星という星を資源だけの星にするのではなく、人々の故郷にする為には、資金よりも火星の活性化が大事だと思うんです」

「ふむ。確かにそうだな」

 

だからこそ、火星再生機構が企業に求める事は・・・。

 

「火星にとって大切なのはその企業がどれだけ火星再生に貢献してくれるかだと思うんです。資金的な意味ではなく、経済的な意味で」

「貢献してくれるか・・・」

「俺個人の考えですが、火星再生機構は火星において活動する企業や実業家達の調整役になればいいと思うんです」

「調整役?」

「火星と地球の間で運搬業を営みたい者がいたとしましょう」

「ああ」

「その者にまで資金提供を求めた所で何の意味もないでしょう。火星再生機構の仕事はその者の仕事を支援して、経済を活性化させてあげる事だと思うんです」

「・・・難しいな」

 

資金提供されてもそれを活かせなければ何の意味もない。

そんなんだったら、さっさと商売として契約して、利益の内の何割かを税として収めてもらった方が遥かに良い。

 

「数多の企業が火星に利益を見出し、地球や木連からの出入りが活発になれば、勝手に火星の経済は活性化し、放っておいても火星は再生されていくでしょう」

「・・・それならば、俺達は必要ないのではないか?」

「そういう訳にもいきません。多くの企業が活動する中、それらを誰が舵をとるんですか? それぞれを自由にやらせたら、何が起きるかわかりませんよ」

 

暴走して火星再滅亡なんて事になったら本末転倒だしな。

 

「それに、地球や木連からの圧迫もあるでしょう。火星は地球、木連に対抗できるだけの組織力と権限を持たなければいけない」

「・・・遺跡か」

「ええ。それに、多くの人間が火星に出入りすれば当然火星は荒れますよ。治安的な意味でも、勝手な者が続出します。言ってみれば、無法地帯に近いんですから」

「俺達は治安を向上させ、企業の勝手を抑止するのが仕事」

「そうなりますね」

 

最終的に独立した国家として認められるのが目標です。

法の整備、治安維持、国政のコントロール。

言わば、火星再生機構はそのまま火星政府へとシフトする。

アキトさんには言っていませんが、それが俺の狙いだったりします。

恐らく、司令やムネタケ提督の狙いも。

 

「それなら、今、俺達が物資を集めているのは無駄なのか?」

「・・・そんな」

「・・・一生懸命集めたのに」

 

え? え? 落ち込まれた?

 

「い、いや、ちょっと待ってください。それは勘違いです」

「勘違い?」

「はい。さっき俺が言ったのはある程度発展してからの話です。今の火星にいきなり価値を見出す事はありませんよ。もし見出したとしても、開発費が馬鹿になりませんから」

 

すぐに企業が活動を開始する事はないだろう。

ある程度形が整ってから動き出す筈。

 

「まずは火星再生機構がある程度の形まで再生させる。後は資金提供という形で契約している会社を優先的に入植させ、先走りや独占行動を抑止し、経済の状態を調整し、効率良く火星を再生させる。そこまで進める事が出来れば後は監視する形でも火星は徐々に良くなっていくと思います」

「それだけで大丈夫なのか? それならば、何故、前の火星はあまり発展していなかった?」

「それは恐らく地球側の工作です」

「なっ!?」

「地球は火星が独立するのを恐れていた。それは木連の歴史でも理解できます」

「そ、そうか。確かに言われてみれば思い当たる事が多い」

 

木連の先祖は月の独立派。

月の独立を防ぐ為にあそこまでの暴挙に出た。

火星にしたってそうだ。

クーデターに対する鎮圧の素早さ。

地球連合軍を防衛という名目で監視に用いていた点。

あれは明らかに火星に力を与えない為の措置。

まぁ、予想でしかないけど。

 

「だから、先程も言いましたが、火星再生機構は地球側の介入、木連の介入を阻止するだけの力、防衛力を持たなければなりません」

「その為にきちんと火星内の状況を把握しておく必要がある訳だな」

「ええ。防衛軍の設立やら色々やる事はたくさんあると思いますよ」

 

防衛軍の設立は必須だよな。

他国に防衛を任せる事ほど不安な事はない。

特に火星はいつ襲撃されるか分からないんだし。

 

「俺は火星再生機構だけで全てを再生しようと思っていたんだがな」

「不可能ではないでしょうが、いずれ限界が訪れると思いますよ」

 

資金的な意味でも人数的な意味でも。

 

「企業が火星を再生させる分には我々の負担はあまりないですし。火星人や木連人だけではとてもじゃないですが、再生なんて無理です。その道のスペシャリストが必ずしもそれらの中にいるとは限りませんし」

「確かにそうだな。いきなり農業をやれと言われても俺には出来ん」

「あ、農業で思い出しだしたんですけど、土地の状況を把握して、その土地にあった作物を探す、もしくは品種改良するのも再生機構の仕事だと思います」

「やる事はいくらでもあるって訳だな」

「もちろんです。星一つを再生しようっていうんですから、大変ですよ」

「前途多難だな。だが、やり甲斐がある」

 

頼もしいお言葉で。

 

「ほどよく緊張感も与えてあげてください」

「緊張感?」

「我々が火星で利益を上げる為には火星で成功するしかない、活性化させるしかない。そう思わせる事ができれば、勝ちです。モチベーションが全然違いますからね」

 

緊張感がある者とない者では。

 

 地球ではシェアを確立できなかったけど、火星ならって・・・。

 大手企業と中小企業では開発に掛けるモチベーションが違うと思うんですよね」

「追い詰められた者は強いですよ。連帯感も湧きますしね。一緒に頑張ろうって」

「連帯感って大事よね。裏切ろうなんて考えもしないし」

「はい。火星と企業が共に発展していく。このスタンスがベストかなと思います」

 

どちらかに依存していては成長も何もない。

互いに支え合い、共に発展して、再生の喜びを分かち合う。

これが一つの星を開発する理想の形じゃないかなと思う。

 

「後は遺跡関係ですね」

 

どうするつもりなんだろう? アキトさん達としては。

 

「俺としては、多くの会社に携わらせようと思う。少数ではなく、複数で関わる事で一社あたりの権限を少しでも削りたい」

「全ての企業に権限を与えるんですか?」

「流石にそれは厳しいだろうがな、できるだけ公平に与えるつもりだ」

「ふむふむ。そうですね。その方がいいと思います」

 

多くの企業が参加する事で、多くの研究者が派遣される。

研究もそちらの方が早く進むだろう。

多方面で活躍する研究者が一同に集うのだから。

それぞれ一番興味のある事だろうから優秀な研究者を派遣してくれる事だろう。

まぁ、今までの話は全部・・・。

 

「再生機構で火星の利益を全て独占しよう。そう考えているのなら話は別ですが」

「俺達の目的はあくまで火星の再生だ。火星を独占しようとは思っていないさ」

「それを聞いて安心しました」

 

それなら、何の問題もないと思いますよ。

 

「俺からはこれぐらいですかね」

「ああ。漠然としていたものが明確になってきたような気がする。助かった」

「いや、なんにもしてないですよ」

 

実際、再確認のようなものが多かったと思う。

 

「そうか。相変わらずだな」

「え?」

「いや、感謝している。また相談させてくれ」

「はぁ、それは喜んで」

 

お役に立てたようで何よりです。

 

「将来的に億単位の人間を火星に住まわせたいんですよね」

「それはまた莫大な話だな」

「でも、それぐらいになって漸く火星が再生された事になると思います」

「そうだな。確かに火星人や木連人だけではこの広大な土地は広過ぎる」

「ええ。だから、人口増加の為にも多くの地球人の参加が必要なんです」

「火星を故郷として愛してくれる者が増えるといいな」

「増えますよ。火星を愛する者が火星再生の為に身体を張って頑張っているんですから」

「ふっ。よく言う」

 

その頑張りが報われない訳がないですよ。

貴方達の頑張りは本物だ。

 

「ルリちゃん。早速条件に合う企業をピックアップしてくれ」

「はい。すぐにでも」

「ラピス・火星再生機構の目的、方針、協力する事のメリット・デメリットを纏めてくれ」

「分かった。資料にしておく」

 

文字通り、早速動き出した三人。

なんだか物凄く忙しそうに動き回っていて・・・。

 

「お邪魔でしょうから帰りましょうか」

「そうね」

 

ここにいるのが邪魔な気がした。

 

「アキトさん! 俺達は帰ります!」

「そうか。わざわざすまなかったな」

「次はナデシコの現状の報告も兼ねたいと思います」

「助かる」

「それでは・・・」

 

邪魔にならないようサササと退室する。

退室する前にルリ嬢とセレス嬢が一礼してくれたので、もちろん返しました。

挨拶は大切ですからね。

 

「頑張ってください、アキトさん、ルリちゃん、ラピスちゃん」

 

 

 

 

 

「相変わらずコウキは頼りになるな」

「はい」

「・・・でも、ちょっと偉そうだった」

「そうだな。だが、それはコウキが火星再生を真剣に考えていてくれているからだと俺は思う。あいつは多忙な生活を送りながらも再生機構の事を我が身のように考えてくれている。わざわざ負担を抱える必要もないのに、協力してくれるとも言ってくれているんだ」

「分かっている。分かっているけど、悔しかった」

「コウキの言葉で方向性が分かった事が、か」

「うん。物資を集めて、その後何をすればいいのか分からなかった」

「そうですね。大手企業から協力を得る事だけを考えてその先は考えていませんでした」

「交渉材料もなく、大手企業が乗ってくれるとも限らないのにな」

「助かったのは確か。でも、やっぱり悔しかったし、ムカッなった」

「フッ。分かるよ。俺もだからな」

「え? アキトさんも、ですか?」

「実際に活動しているのは俺達。コウキはあくまで第三者でしかない。それなのに、とな」

「はい。恥ずかしながらも私も、です。でも、よく考えたらこの企画もコウキさんが考えてくれたんですよね」

「それに加えて資金援助もしてくれている。俺達は文句を言える立場じゃないんだよな」

「そんな事はない。これは私達の仕事だって胸を張るべき」

「そうか。・・・そうだな」

「そう」

「そうですね。・・・あの、アキトさん」

「ん? 何だい? ルリちゃん」

「もしかしたら、コウキさんが一番この仕事をやりたかったのかもしれませんね」

「そうだな。だから、再生機構にとって何が大切で何が必要なのかを考えていた」

「・・・忙しいもんね、コウキ」

「きっと歯痒い思いをしているんだと思います。自分も参加したい。でもって」

「それなら、あいつの分まで頑張るとしよう。失望されないようにな」

「そうですね。今度は私達が驚かせてあげましょう」

「賛成。いつまでもコウキ頼りじゃ情けない」

「ああ。それで、あいつが無事に自分の仕事をやり終えたら、笑顔で迎え入れてあげよう」

「コウキさんも火星再生機構初期メンバーの一人ですからね。大事な仲間です」

「むしろ、創始者」

「あいつのお陰だからな。こうして活動していられるのも」

「感謝して、届かない分、努力で補いましょう」

「おし。それじゃ、やるか」

「はい」

「うん」

 

 

 

 

 


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