機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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考察

 

 

 

 

 

「それじゃあアキト君は未来からやって来たって事?」

「・・・かもしれないんです」

 

ミナトさんの部屋にお邪魔してお茶を頂いています。

ミナトさんとは同棲・・・コホン、一緒に暮らしていたので、緊張とかはあまりありません。

うん。一年間だしね。流石に慣れるよ。

そして、相談に乗ってもらっています。

ミナトさんも分からない事ばかりだと思いますが、聞いてくれるだけで考えが纏まるから不思議です。

やっぱり凄いなって改めて実感します。

 

「でもさ、ボソンジャンプってそういうものなの? 身体ごと飛ぶんじゃないの?」

「ええ。その筈なんですけどね。でも、ボソンジャンプってレトロスペクトだっけ? とにかく、身体を一度分解して過去へ戻って未来へ具現化されるってシステムらしいんです」

「えぇっと、もうちょっと分かりやすく説明してくれるかな?」

 

分かりやすくか。俺もそんなに詳しくないんだよなぁ。

 

「間違っているかもしれませんが、それでもいいですか?」

「ええ。コウキ君なりの解釈を教えてくれればいいわよ。難しい事は分からないし、大まかな形だけ捉えられればいいもの」

「そうですか。分かりました」

 

かいつまんで話す技量が俺にあるかな? ま、やれるだけやってみよう。

 

「ボソンジャンプはある演算器によって管理されています。それがまぁ、遺跡って奴なんですけど」

「演算器が管理? という事は自由に何もかも出来るわけじゃないって事ね」

「はい。だから、時間軸移動も任意には出来ませんし、誰にだって使える訳じゃないんです」

「私には無理って事よね?」

「ええ。例外を除けば無理ですね」

「例外って?」

「いくつかあります。たとえば遺伝子手術を受ける。でも、これは危険性が高いのでお薦めできませんね」

 

MCは大丈夫みたいだけど、一般人には厳しいらしい。

 

「もう一つはとても簡単です。今でも可能ですよ」

「え? そうなの?」

「はい。高出力のDFで囲めばいいんです」

「DFって何かしら?」

 

あ、そっか。まだ知らないのか。

 

「ナデシコに搭載されている空間を捻じ曲げる事で攻撃を防ぐ特別な障壁です。いずれ見る事が出来ると思いますよ」

「ふ~ん。ま、その時まで待つわ」

「ハハハ。そうしてください。それで、その高出力のDFに囲まれつつ、導き手が導けばボソンジャンプは可能です」

 

戦艦でも機体でも、DFと一緒に跳べばボソンジャンプは可能。

ただし、A級ジャンパーがいる事が条件だけど。

 

「その導き手っていうのはボソンジャンプが普通に出来ちゃう人の事よね?」

「流石に鋭いですね。そうなります」

 

曖昧な情報でここまで的確に理解できているのは凄いと思う。

 

「ボソンジャンプが出来る人、ジャンパーって呼びますね、そのジャンパーは三つに分類されます」

「三つ?」

「はい。正確には二つと一つなんですけど、それは説明の中で補足しますね。一つはA級ジャンパー。CCという特別な石?みたいな物があればDFすら必要とせず飛べる人間。これがミナトさんのいう普通に飛べる人って認識です」

「CCって何なの?」

「ん~~~。そうですね。使い捨てのコミュニケって思って下さい。演算器にイメージを伝える為の」

「なるほど。一度しか使えない訳ね」

 

本当に鋭い。

一度のジャンプで使用されたCCがなくなるって事をきちんと理解している。

 

「次はB級ジャンパー。これは遺伝子改造を受けた人の事で、CCだけでは飛べません。確か、機械の補助があれば可能な筈です」

「そもそもさ、どうやって目的地とか決めるの?」

「イメージです。ここに跳びたいという思いがCCを介して演算器に伝わり、目的地へと運ばれます」

「イメージか。なんだかIFSみたいね。もしかしてさ、ジャンパーの条件って特別なナノマシン?」

「核心突き過ぎです。ミナトさん」

「え? 当たっているの?」

「ええ。でも、もう無理ですよ。条件はある所で生まれて、ある程度の期間を過ごす事ですから」

「何だ。じゃあ、私には無理なのね」

「まぁ、そうなりますね」

 

実は俺がいれば飛べるんだけど、これはまだちょっと秘密かな。

確か遺跡がDFなくても飛べるっていってたし。

試すのはちょっと怖いし、しょうがないよね。

あ、俺だけは何度か試したけど、無事に跳べました。

ま、普通に生きるだけなら瞬間移動なんて特に必要ないけど。

時間掛かっても出来る事ばっかりだし、世の中。

 

「最後にC級ジャンパー。これはDFに囲まれ、かつ、A級ジャンパーの先導が必要な人間です。先導役は機械の補助付きのB級ジャンパーでも大丈夫ですね。ジャンパーと一応名前を付けてはありますが、所謂一般人です」

「へぇ。なるほどね。じゃあ、私はC級ジャンパーか」

「そうなります」

「でもさ、それなら少なくともAとBは分ける必要がないんじゃないかしら? 機械の補助があれば同じなんでしょう?」

「それが、ちょっと違うんですよ」

「どう違うの?」

「A級ジャンパーは長距離間の移動が可能。それこそ、ここから月にだって一瞬で行けます」

「へぇ。それって凄いじゃない。じゃあ、B級は短距離って事?」

「はい。距離はあまり分かりませんが、少なくてもここから月までは無理でしょうね」

 

理論上、A級ジャンパーは演算ユニットが把握している所ならどこへでも行ける筈。

平行世界という観点を除けばだけど。

 

「ただし、例外もあります。B級ジャンパーでも長距離移動が出来る例外が」

「遺伝子調整だけで長距離瞬間移動か。実現したら色々と便利そうね。問題も多いと思うけど」

 

ええ。火星の後継者の騒乱はそれが原因でしたから。

便利なもの全てが人間にとって良い事とは限らないんですよね。

ヒサゴプラン自体はそんなに悪くなかったと思うけど。

 

「その方法はあらかじめ飛ぶ場所を設定しておく事です。簡単に言えば、ワープホールを作るって事ですかね」

「ワープホールを作る? そんな事可能なの?」

「トンネルみたいな概念です。トンネルの中はワープホール。そこを抜ければ違う場所みたいな」

「トンネルねぇ。それって作れるものなの?」

「正しく言えば、あらかじめ作られているトンネルを飛びたい場所まで運ぶって事ですかね」

 

確か木連はプラントでチューリップを作っていたよな?

詳しい事は分からないが、もしかしたら設計図と材料さえあれば作れるのかも。

気になるから後で調べておくか、遺跡知識で。

 

「そっか。それならどこへでも行けるわね。運ぶのが面倒かもしれないけど」

 

きちんと制御して管理すれば便利だと思いますよ。

宇宙版大航海時代がやってくるかもしれません。

 

「それじゃあ俺なりですが、ボソンジャンプについて説明しますね」

「ええ。御願いね」

 

ウインクありがとうございます。

 

「んもう。つまんないわね」

 

最初の方は照れていましたが、流石にもう照れませんよ。

一年間ですから。同棲・・・コホン、同居生活。

 

「端的に言いますと、ジャンパーが演算器にアクセスするとまずは身体が粒子として分解されます」

「分解されて弊害はないの? 構築されないとか」

「それがジャンプミスですよ。ジャンパーじゃない者が無理に飛ぼうとすると分解されてお終いです」

「こ、怖いシステムね」

 

下手するとっていうか、簡単に死にますからね。

 

「その分解された粒子はある特別な波に乗って過去へ向かうんです。直接現地へ向かう訳じゃないんですね」

「直接向かっていたら分解、構築がすぐに出来ないじゃない。それじゃあ瞬間移動にならないわ。それに、時間軸移動についても説明できないもの」

「おぉ。鋭い」

「ふふん。まぁねぇん」

 

過去へ向かってそこで演算器に現在という未来へ送られる。

その時に何かしらの干渉があって時間軸移動が可能になっちゃうって事か。

 

「過去へ向かい、演算器によって再び未来へ送られるそうです。その際に目的地で具現化されるそうで」

「ふ~ん。それじゃあさ、演算器に何かしらの不備があれば、ボソンジャンプは何があるのか分からないって事よね」

「ええ。そうなります」

 

そう思うと怖いよな。

分解されて違う形に再構築されるなんて事になったら・・・え?

違う形で再構築? もしかすると・・・。

 

「お、何か思いついた顔ね。話してごらんなさい」

「ええ。割と現実味があると思うので聞いてください」

「ま、タイムマシンとか言っている時点で現実味なんてないんだけどね」

 

・・・それは言わないお約束ですよ。

宇宙戦艦という時点で俺にとっては現実味ない話なんですけどね、実は。

 

「テンカワさんはこの世界で始めてボソンジャンプに成功した存在なんです」

「へぇ。偉大な人って事じゃない」

「ちなみに理論を確立したのはテンカワさんのお父さんらしいです」

「あら? アキト君の家って優秀な人の集まり?」

「あ。もう一つ補足ですが、物語の主人公だったアキト青年は単純でおっちょこちょいで直情で熱血漢という典型的な主人公でしたよ」

「そ、そう。でも、ま、それは物語の話なのよ。こことは違う世界の事なの」

「そうですね。そうしましょう」

 

もし、今のテンカワさんが未来のアキト青年ならまったく同じ道筋を辿っていると思うんだけどな。

あのクールを地でいくテンカワさんにもあんな頃がありましたって知られたら、周りはビックリするかも。

 

「悪戯っ子の顔はやめなさい。貴方は顔に出るから分かりやすいのよ」

「・・・そんなに顔に出ていました?」

「ええ。やっぱり悪戯ってのは何食わぬ顔でしなっきゃ」

「よっぽど性質が悪いですよ」

「あら? 最近悪戯してなかったものね。欲求不満?」

「い、いえいえ。そんな事ありませんよ」

 

悪戯されなくて欲求不満とかやばいでしょ。

危ない人の末期ですよ、それって。

あ。前の世界の友達にそんな奴がいた気がする。

いじられキャラなのに夏休みでイジられなくて胃潰瘍で入院。

いや、偶然だと思うけどね。しばらくはそのネタで弄っていました。

と、とにかく、世の中には色んな人がいるんだよって事さ。

 

「で、話を戻しますけど」

「ええ。いいわよ」

「初めてとか、そういう事に意味がある訳じゃないんです。アキト青年がボソンジャンプを過去に行っているという事実だけ覚えておいてください」

「既にボソンジャンプは経験済みって事ね。初めてはとっくの昔に捨てていたと」

 

な、何か、違う響きに聞こえましたけど!

 

「ボソンジャンプが過去に戻ってから未来に再度送られるというシステムならば、一度粒子とされた存在はどこかに隔離され保管されているとも考えられませんか?」

「未来に送るのではなく、その時間軸になるまでどこかに保管されているという事ね」

「はい。それで、きちんとした手順でボソンジャンプをすれば正確に保管されるけど、何かしらの不備で保管に失敗したとしましょう」

「イメージが伝わり切らなかったとか、分解し切れなかったとか?」

「まぁ、どんな理由かは分かりませんが、そんな事があったという仮定です」

「ええ。分かったわ。その仮定で話を進みましょう」

「はい。もし、保管に失敗して、そこに似たようなものがあったらどうしますか? たとえば、作りかけの書類があったとします。それの未完成品と完成品があって―――」

「完成品のどこかが何故か消えていたら、未完成品から補完するって話よね。もしくは完成品を参考にして未完成品を完成させるとか」

「そういう事です。過去のアキト青年と未来のアキト青年がいて、未来のアキト青年の粒子が不完全なら過去のアキト青年を使って完全にすると思います」

「ま、穴はありそうだけど、そこまでおかしな話じゃないわね」

「多少の穴は見逃してください」

 

そもそも思い付きですし。

きちんとした理論展開した訳じゃないですから。

その道の専門家はもうちょい後で登場しますのでその時にでも。

 

「補完し終わって同じような完成品が二つ出来上がってしまった時、片方の完成品はどうしますか?」

「ま、あえてとっておくか、いらないって捨てちゃうわよね」

「ええ。ま、それはどっちでもいいんです。とっておいたのなら、未来のアキト青年が望んだ場所に望んだ時期に具現化されるだけですから」

「捨てられたなら何も起きないだけって事ね。でも、どうでもいいってどういう意味よ?」

「大切なのはどちらも同じような完成品だという事です。遺跡は過去のアキト青年を未来のアキト青年になるように作り変えてしまったんですよ」

「あ。そっか。未完成品を完成品にしちゃったんだものね」

「はい。物凄く簡単に言うと過去と未来が混ざっちゃったんです。過去と未来の二人のアキト青年が今のテンカワさんという一人の人間として」

「なるほど。うん。割といけているんじゃないかしら」

「ですよね。そうなれば、身体は過去ので意識は未来のでみたいな不思議な事態も成り立ってしまう訳ですよ」

 

割と良い案だったと思う。

穴は半端なくあっただろうけど。

 

「じゃあさ、次は私の考えを聞いてみてよ」

「お、流石はミナトさん。考え付いたんですね」

「ええ。でも、私のはコウキ君のより穴があるわ」

「いえいえ。是非とも聞かせてください」

「そうね。でも、その前にお茶の御代わりを用意しましょう。すっかり冷めちゃっているわ」

「・・・あ」

 

話に夢中で忘れていた。

あぁ。一つの事に熱くなっちゃうのは悪い癖だよな。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「それでね」

 

はい。お茶を飲みながらの再スタートです。

ズズッと美味しいお茶を頂きます。

 

「私も不備の状態での保管という点では一緒なの。そこからがちょっと違うのよ」

「ほぉ。お聞かせ下さい」

 

ちょっと違うってどんな違いだろう?

 

「私は現実世界で補完されるんじゃないかと思うの」

「げ、現実世界って何ですか?」

 

何です? その隣には魔法の世界みたいな響きは。もしくは夢の世界とかですか?

 

「現実世界っていうか、本人としての身体がある世界の事。粒子の状態で補完されている世界を保管世界とでも呼びましょうか」

「それじゃあ、ミナトさんは現存している人間の身体に情報としての粒子が混ざり合って一つの個体になると?」

「あら。少ないキーワードでそこまで分かるなんてコウキ君って結構頭いいじゃない」

「ハハハ。どうもです」

 

褒められるのはちょっと照れるかな。

 

「ふふふ。詳しくは分からないから結構適当なんだけど、粒子になったって根本的には同じ身体じゃない? それなら、自分と同じ存在なんだって認識するんじゃないかしら?」

「むぅ。なるほど。既に具現化されていてもそれは足りない状態として認識。だから、粒子として身体に混ざりあう事で補完する訳ですね」

「ええ。遺跡が完成品としての形を認識していれば、その形で具現化しようと頑張ると思うのよ。だから、不完全な状態でいるのが嫌で補完させたみたいな」

 

なるほど。そんな考え方もあるのか。

 

「でも、それでは矛盾が生じませんか? それじゃあボソンジャンプする度に過去の自分を補完する事になっちゃいますよ。常に完成品に近づけようとしちゃいますもん」

「不備の状態での保管という事が前提よ」

「不備の状態って事は欠陥している何があるって事ですよね。現実世界での補完では欠陥している所を補えないんじゃないですか?」

「だから、何かしらの不備があるんじゃない。たとえば、成長する以前の身体とか。現にアキト君は過去のアキト君の身体なんでしょう?」

 

おぉ。なんだかそれらしい。

 

「それらしい理由です」

「でしょ?」

 

笑顔でウインク。

ミナトさんって結構可愛らしい所もあるんだよな。

綺麗なだけじゃないんだ。

 

「あ、でもですね、それが正しいとして、いつ補完されるんですか? 保管世界での補完は別にいつでもいいですけど、現実世界での補完はタイミングが掴めませんよ」

 

どれくらい過去に戻るのかは知らないけど、下手すると幼少の時とかに補完してしまう可能性もある。

だって身体はあるんだから。

 

「それがミソよ。これは予想でしかないけど、そのタイミングこそジャンパーが望んだタイミングなんじゃないのかしら」

「ジャンパーが望んだタイミング?」

「経験ないから分からないけど、もし走馬灯という形で記憶を思い返していたら? あんな幸せがあった。あの頃に戻りたい。そんなのがイメージとして伝わっていたら?」

 

時期の指定か。普通なら出来る筈がないけど、逆にイメージに不備があるからこそ可能になったとも考えられるか・・・。

 

「ジャンパーが望んだ時期に具現化したい演算器。でも、そこには既に具現化している対象がいる。あれ? あれは具現化の途中なのでは? それじゃあ完成させないとって」

「具現化したい対象が既に存在していて、しかもその存在が完成品に比べて不完全だから、その対象を演算器が責任を持っていじくるって訳ですね」

「ええ。いじくるっていうか、まぁ、そうよ。完成させようと頑張るのよ」

 

ふむふむ。何か色々と分かってきた気がする。

もし間違っていても、俺はこれで納得しよう。

 

「要するに、粒子としての不備を補う為に演算器が頑張っちゃった結果、こうなっちゃったって訳ね」

「ええ。演算器の責任感ある行動が記憶や能力のみを逆行させるという不思議な事態を作りあげてしまった訳ですよ」

 

あぁ。謎が解けたらスッキリした。

ま、完全に解けた訳じゃないけどさ。モヤモヤが消えたんだからいいだろ、これで。

 

「納得できたみたいね。安心して疲れちゃったかしら」

「ハハハ。そうですね。今日一日ずっと考えていた気がします」

「そっか。はい」

 

えぇっと、はいって?

 

「え、えっと、その、あの・・・」

「いいじゃない、偶には。サービスしてあげるわ」

「あ、えっと、その・・・ですね・・・」

「ほら。早く来なさいよ」

 

女の子特有の正座に似た座り方で、太腿の上を手でポンポンと叩いている。

これって、あの、その、噂の・・・。

 

「嫌かしら?」

「え、あ、いえ、むしろ、嬉しい限りというか、でも、その緊張するというか」

「いらっしゃい。コウキ君って眼を離すとすぐ抱え込んじゃうから心配で」

 

あれ? 何の魔力だろう。

身体が勝手にミナトさんの方へ向かっている。

 

「はい。素直でよろしい」

 

ミナトさんの隣に座り込む俺。

ミナトさんは優しい笑顔で見詰めてきて、気付いたら頭がミナトさんの太腿の上にありました。

後頭部に幸せの感触が・・・。

 

「ふふふ。何だかコウキ君が幼く見えるわ」

 

僕は恥ずかしくて何も見えません。

 

「もう。眼なんか瞑っちゃって。可愛らしい」

 

これは完全に遊ばれているね。

うん。なら、いいや。存分にこの感触を味わおう。

あぁ。柔らかくて安心する。

 

「ふふふ」

 

何ですか。その笑みは。

 

「何かね、子供が出来たらこんな感じかなって思って」

 

こ、子供・・・。

そっか。ミナトさんもいつか結婚して子供を持つようになるんだよな。

俺もいつまでも甘えていられないか。

・・・ん。ちょっと胸が痛い。

 

「でもさ、良かったの。そういう事を話して」

「・・・そういう事って何ですか?」

 

痛みを堪えて平然を装った。

変な心配掛けたくないし。

 

「未来の話とかボソンジャンプの話とか。誰かに聞かれていたら困るんじゃない?」

 

ま、確かにね。

特にボソンジャンプの件とかネルガル所属の戦艦で言うもんじゃないよ。

でも、大丈夫。

そこの所はきちんと対処してあります。

 

「大丈夫ですよ。オモイカネ、あ、オモイカネっていうのはこの戦艦を管理するスーパーAIなんですけどね、そのオモイカネに頼んで、偽造映像を流してあります」

「えぇっと。偽造映像を流す必要があったって事は常に監視されているの?」

「いえ。そうじゃないですよ。オモイカネは全艦内を管理しているので防犯とかも担当しているんです。だから、その気になればオモイカネを介して監視できる訳です」

「や、やっぱり監視できるんじゃない。嫌よ、そんなの」

「ただし、オモイカネを介する事が出来るのはオペレーターだけですよ。それ以外だったらオモイカネが許す訳ありませんから」

「そ、そっか。それなら安心・・・って、コウキ君もでしょ!? 全然安心できないじゃない!」

「え? ちょっと待とうよ。俺はそんな事しないよ。あ、えっと、しませんよ」

「でも、ほら、コウキ君も男の子じゃない。そういう事に興味あったりするんじゃないかなって」

「え。そりゃあ、ありますよ。でも、ですね、やっていい事と悪い事の違いぐらいきちんと理解しています」

 

当たり前じゃないか。

それぐらい耐えきれない男だったらとっくにミナトさん自身を襲っちゃっていましたよ。

 

「えぇ・・・? 人の寝顔を勝手に見たりとか、人の着替えを勝手に覗いたりとか、そういう事するんじゃないの?」

 

し、しないって。

した事ないでしょ? 俺。

 

「あの・・・俺って信用されていませんか?」

「ううん。信用してなっきゃ部屋に入れてあげないわよ」

「ですよね。良かった。・・・ん、なら、何であんな事を言ったんですか? あ。そうですか、そういう事ですか。またからかったんですね」

「さぁ。どうでしょう?」

 

ニッコリと笑うミナトさん。

ミナトさん、その笑顔は悪戯が成功した時に見せる笑顔ですよ。

 

「・・・ま、いっか」

「ん? 観念したの?」

「ええ。ミナトさんと一緒にいられるのなら、からかわれてもいいかなって思いまして」

「・・・・・・」

 

え? 無言?

何か反応して欲しいんだけど。

でもねぇ、眼を開けたらさ、見てはいけないものを見てしまうんだよ。

詳しく言うなら視界の右側に。

・・・状況によっては左側だけど。

一発KOされる自信があるね、この角度からなら。

 

「ミナトさん?」

「え、う、うん、なんでもないわよ。もう。コウキ君が変な事を言うからいけないのよ」

 

めっとか言いながら額を叩くのはやめてください。

もう子供じゃないんですから。

 

「それとナデシコって完全防音らしいですよ。だから、廊下に声も漏れないですし、偽造映像を流している以上、誰かに聞かれたりバレたりする事はありません」

「そっか。それなら、色々と安心なのね」

 

色々? 色々って何だろう?

 

「あ。そうだ。なら、今日は泊まってく? 折角だし」

「え? えぇ!?」

 

い、いや。いいですよ。

 

「え? そんなに・・・嫌・・・なの?」

 

ちょ、ちょっと悲しいトーンで言わないで下さい。

からかわれていると分かっていても罪悪感を覚えますから。

 

「だ、駄目ですよ。部屋の行き来でさえあんなにうるさいのに泊まったりなんかしたら」

「大丈夫よ。だって、偽造映像流しているんでしょ? 明日の朝だけ気をつければ問題ないって」

 

ク、クソッ。これは駄目か。なら・・・。

 

「ほ、ほら、ベッドも一つしかないですし」

「一緒に寝ればいいじゃない」

「む、無理です」

「嫌?」

 

グハッ。良心の呵責が・・・。

でも、駄目だって。

 

「眠れませんよ」

「え? それって」

 

何を赤くなっているんですか? ミナトさん。

 

「俺が眠れません。緊張で溺死します」

「・・・バカ」

 

え? 何でバカって言われるの?

 

「緊張して損したわ」

「緊張するなら誘わないで下さい」

「そっちじゃないわよ! もう・・・発言に責任を持ちなさいよね!」

「えっと、すいません」

「何かも分からずに謝らない!」

「は、はいぃ! すいません!」

 

たとえ怒られようと律儀に眼を瞑り続ける俺なのさ。

赤い血で溺死したくないから。

 

「そ、それにですね。今までは部屋が別だったから大丈夫でしたが、同室となると、ねぇ、同じベッドともなると、ねぇ」

 

ねぇ。分かってくれますよね?

 

「え? どうなっちゃうの?」

 

ニヤニヤニヤニヤと。

分かっていて聞いてやがる。

 

「と、とにかく駄目です。そういう事はもっと進んだカップルがするものです」

「・・・年頃の男の子にしては強情ね。これは考えが甘かったかしら」

 

見えない。聞こえなぁい。何を言っているのか分からなぁい。

 

「何自分で言って恥ずかしがって悶えて耳を塞いでいるのよ。カップルって言うのがそんなに恥ずかしかった? それとも、もっと先の事を想像しちゃった?」

 

既に緊張+羞恥心で溺死しそうですが、何か?

 

「あ。もしかしてそうやって眼を瞑って耳を塞ぐ事で私の太腿の感触を覚えようとしているのね。このこの」

 

や、やめてください。つんつんとかしないで下さい。

既にこの柔らかな感触と芳しい匂いで俺の精神は陥落寸前なんですから。

 

「じゃ、じゃあ、そろそろ俺は帰りますから」

「あら。早速、如何わしいものを盗み見ようとしているのね」

「ち、違いますよ。自分の部屋で寝るだけです」

「う~ん。信用できないな。やっぱりこの部屋でコウキ君を監視してようかしら」

 

や、やばい。もう駄目!

 

「え? コウキ君?」

「し、失礼します。明日、また来ますから」

 

退避、退避だぁ。

俺の理性がなくなる前に。

 

 

次の朝、いつも以上に悶々として寝不足になったのは言うまでもありません。

だってさ、夢にまで太腿の感触とか心地良い匂いとかが出てくるんだよ!

耐えられる訳ないじゃん。

ミナトさん、やっぱり俺で遊ばないで下さい。寝不足で死んじゃいますから。

あ。でも、膝枕はして欲しいかな・・・って駄目駄目。

気持ちよさと恥ずかしさとで理性を失いかねん。

あれはそう・・・何かのご褒美としてやってもらおう。

そうすれば、やる気もでる・・・コホン、そんなにされなくて済むだろう。

・・・名残惜しいが致し方あるまい。

ん? いやいや、そうじゃなくて、え、名残惜しいのか?

いや。ま、正直名残惜しいけどさ、さっき特別な時だけだって。

う~ん・・・今日もしてもらおうかな?

 

「あ。おはよう。コウキ君」

「ハッ! お、おはようございます! ミナトさん」

「何? どうしたのよ? そんなに慌てちゃって。あ、そっか。昨日の事を思い出して変な事考えちゃったんでしょう? このこの」

 

朝っぱらからする話題じゃないですよ。ミナトさん。

それとつんつんするのはやめて下さい。

 

「さ、今日も一日頑張るわよ。コウキ君」

「はい。ミナトさん」

 

さて、今日も頑張るとしますか。

 

 

 

 

 


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