機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

84 / 89
太平洋大戦

 

 

 

 

 

「あいつら・・・司令が危ないっていうのにどうしてあんなに気楽なんだ!」

「司令の事を思えば、もっと必死になるべきだろ!」

「クソッ。あんなにも緊張感がない奴らが一緒だと士気が下がる」

「木連をぶっ潰さないとならないっていうのに」

「絶対に許さねぇぞ! 木連! 和平を成し遂げようと必死だった司令を暗殺しようとするなんて!」

「必ず、必ず仇は討ちます。ミスマル総司令官」

 

 

 

 

 

「なんか殺伐としていますね」

 

俺達も一応、基地の一員として食事などは食堂で取っている。

以前までなら活気に溢れていた食堂も随分と静かで・・・怖いとも思える雰囲気だ。

なんとなく今の食堂には居辛い。

食べないと生きていけないから、我慢するけど。

 

「私達は司令の無事を知っているから落ち着いていられるけど、他の人は違うもの」

「ナデシコは相変わらずですけど」

「お気楽思考。でも、過去に囚われずに前を見ているとも言えるわ」

「物は言いようですね」

「それでも、落ち着いていられるだけ他の人達より何倍もマシよ」

 

楽天的思考はナデシコの強さの一つでもある。

それはナデシコとクルー皆でなら、どんな困難をも突破出来るという深い信頼の表れ。

そして、強い団結力の証。

司令が危ないと聞いても安定していられるのは自身のやるべき事が分かっているから。

パイロットは教官業を、整備班は新型機の調整を、その他の者達も己のやるべき事を自覚している。

傍目から見れば、お気楽で状況が見えていないように見えてしまうだろう。

だが、それは大きな勘違いなのだ。

彼らは状況に流されずに冷静に物事を眺め、慌てても意味がない事を自覚し、泰然としているだけ。

焦れば全てが解決するのか? 違うだろう。

無茶をすれば解決するのか? それも違う。

周囲からしてみれば、ナデシコは周りが見えていないと言うだろうが、俺達からしてみれば、この基地にいる者達の方が見えていないと思う。

徹夜をしてまで訓練をする者。

戦闘はいつあるか分からないのだ。そんなんで突然の戦闘に対応できるとでも?

どのような状況、時間帯でも活動できるよう体調管理に努めるのがパイロットの仕事だ。

ただ鍛えれば良いという訳ではない。そこを見誤ってもらっては困る。

現状に焦り、必要以上に機体を改良しようとする者。

言語道断でしかない。その機体にはその機体に相応しい形があるのだ。

これは開発者が計算し、シミュレーションした結果で導き出したもの。

無茶な改良をした所で確実に性能が向上するとは思えない。

逆にオーバーヒートしてしまったり、調整不足から空中分解の危険性も出て来てしまう。

それに、誰もが高性能の機体に乗れる訳ではないのだ。

エース級パイロットになら扱えても、一般兵には扱えない機体だってある。

現状ですら、リミッターを掛けているパイロットも多いぐらいだというのに・・・。

何も考えずに改良すれば、むしろ死の危険性が高まるだけ。唯の戦力低下でしかないのだ。

その機体のパイロットが対応できるだけの能力があれば問題ないかもしれない。

だが、考えなしに改良し、結果使い者にならなかったら、人材も費用も無駄なだけ。

せめて、開発者や詳しい者とその機体のパイロットに相談し、変更後の機体性能を確認し、シミュレーションをしたうえで行ってもらいたい。

そうであれば、改良も戦力の向上に貢献できるのだから。

殺伐とした雰囲気に更に拍車を掛ける上官。

上官の仕事はいきりたつ部下を戒め、常に泰然としている事だろう。

それなのに、部下と一緒になって無茶したり、感情のままに怒鳴り散らしたり。

上官が焦れば、部下も焦る。当然の事だ。

ピンチの時こそ冷静に。チャンスの時こそ熱くなれ。

部下のコンディションを管理するのが上司の仕事だというのに、何をしているのやら。

焦るのは分かる。悔しいのも分かる。

だが、そんな時こそ上官として部下を引っ張って欲しい。

怒鳴る事、焦る事なんて誰にでも出来るのだ。

能力を認められて上官をしているのだから、自身にしか出来ない事をやってもらいたい。

これらのように基地内の誰もが己を見失っているように見える。

もしかしたら、ミスマル司令の無事を知っている俺だからこそ、周りがそう見えてしまうのかもしれない。もしかしたら、勝手にそう思っているだけなのかもしれない。

でも、それだったら、ナデシコクルーも同じようになる筈だろう?

ナデシコのクルーとて司令の無事を聞いている訳ではないのだから。

司令への思い入れの違い? それはないと言い切れる。

ナデシコクルーは家族だ。

その家族の長である艦長の父親が危険な目に合わされて怒りを抱かない訳がない。

誰だって艦長の事を思い、悲しみ、悔やんだ。

誰だって司令の仇を取りたいと怒りを覚えた。

それでも、怒りを抑え、自身のやるべき事を焦らずに着実にこなせるのがナデシコクルーなのだ。

何をすべきかをきちんと理解している。

これこそがナデシコの最強たる所以なのかもしれない。

 

「それにしても、最近は随分と静かよね」

「ええ。不気味な程に」

 

司令が暗殺されかけてからのこれまでの長い期間。

不思議な程、木連の襲撃が少なかった。

基地から出撃した回数も一、二回程度だろう。

それが不満を募らせ、基地の軍人のストレスに拍車を掛けているとも言える。

 

「決戦に向けて、戦力を蓄えているのかしら?」

「恐らく。ですが・・・」

 

木連の本拠地に未だ攻め込んだ事がない地球。

地球からしてみれば、どうしても後手に回るしかない。

攻めて来た時に対応して相手の数を減らしていくしかないのだ。

それに対して、木連は好きな時に好きなように攻め込め事が出来る。

このアドヴァンテージは本当に大きい。

常に奇襲される状況なんて恐ろしいだけだっての。

そんな木連が奇襲をせずに戦力を蓄えている。

それだけ決戦に対する想いが深いのだろう。

だが、戦力の蓄えを優先するにしたって、果たして襲撃をなくす事などありえるだろうか?

木連からしてみれば、地球の戦力の蓄えは何としても阻止したい筈。

もし地球が同じ立場にいれば、蓄えつつ、襲撃して蓄えを破壊するだろう。

戦争に勝ちたいなら、こちらの数を増やす以上に向こうの数を減らしてしまえば良いのだから。

 

「ですが?」

「いずれ、いえ、近い内に必ず―――」

 

ウィーンウィーンウィーンウィーンウィーンウィーン!

 

「仕掛けてきますよ、このようにね」

 

基地内に響き渡るエマージェンシコール。

 

「ミナトさん。指令室に」

「ええ。急ぎましょう」

 

食堂を抜け、指令室へと急ぐ。

ナデシコ主要クルーは戦闘前に指令室へ集まるように言われていたのだ。

恐らく、その能力の高さを考慮し、協力してもらう事で最善の結果を得る為だろう。

また、ナデシコパイロットがいる間は彼らが小隊の隊長とする事が予め説明されている。

全体の動きや方針を告げる為にも隊長格の人間はいた方が良い。

無論、俺もその一人として参加する予定だ。

 

シュインッ!

 

「遅くなりました」

「遅れました」

「うむ」

 

指令室には既に殆どの人間が揃っていた。

食堂は真逆だったからな、遅くなってしまったようだ。

 

「遅くなりました」

「も、申し訳ありません。遅くなりました」

 

最後は艦長と副長。

珍しいな。いつもならもっと早く到着しているのに。

どこにいたんだろう?

 

「全員揃ったようだな。説明を始める」

 

主要メンバー全員が揃い、説明が開始させる。

司令がいない今、この基地の最高責任者はムネタケ参謀。

本来ならミスマル司令が座る席には、今、参謀が座っている。

 

「太平洋に大量の木連兵器が出現した」

 

太平洋? どこかの基地が襲撃されたとかではないのか。

 

「今までにない程の大規模。被害を受ける前になんとしても殲滅せねばなるまい」

 

確かにそれだけの規模の敵が襲い掛かってきたらかなりの被害を受けるだろう。

だが、それには大きな問題があった。

 

「しかし、機体の性質上、迎撃は出来ても進撃は・・・」

 

そう、問題は重力波依存による弊害である。

確かに出力を外から補給する事で小型化、高性能化には成功した。

だが、それ故に重力波が受信できなければ、動く事すらままならない。

 

「我々の限界稼動距離は陸からはみ出せる程度でしかありません」

 

ミスマル司令がエステバリスをメインとすると決めてから、日本のあちこちに重力波アンテナ送信装置が配備されていった。

これによりエステバリス系統の機体は陸上であれば機能を発揮できる。

だが、海上にまでなると、陸からそう離れた所へは行けない。

ましてや、太平洋とまでなると・・・。

 

「それに関しては対策がされている。ウリバタケ君」

 

え? マジ? というか、ウリバタケさん?

 

「ナデシコ搭載予定のニバリスを活用する事にした。ニバリスからニバリスに重力波を送る。これを繰り返せば限界稼動距離は延ばせる筈だ」

 

なるほど。ニバリスがあったか。でも・・・。

 

「経由が多過ぎると性能が下がるのでは?」

 

ニバリスを作動させる為にも重力波は必要であり、ロスなく全てを送れる筈もない為、必ず機体性能は低下するだろう。

まぁ、ウリバタケさんともあろう人がそれに対して何もしてないとは思えないが。

 

「無論だ。そこでピラミッド構造を展開する」

「ピラミッド構造?」

「一つのニバリスに送る重力波を二つのニバリスから配給する。それを繰り返す事で、ロスの分も補い、通常と同様の性能を発揮できる」

 

理論上はそうだけど、かなりの費用が掛かりそうだな、それ。

 

「それだけではないよ。マエヤマ君」

「参謀。他に何かが手立てが?」

「うむ。DFと重力波送信のみしかできないが、簡易敵な戦艦も用意した」

 

なるほど。

それなら、対処は可能だな。

 

「戦艦といっても航空機に近いが、重力波を配給するぐらいなら問題ない」

 

相転移エンジンを積み、重力波送信アンテナとDF発生装置を組み込んだだけのものって事か。

・・・いいさ。武器がなくとも俺達が矛になればいい。盾だけあれば充分だ。

 

「スーパー戦フレーム隊と第一、第二小隊は上陸阻止に務めて欲しい」

「「「了解」」」

「こちらはニバリス経由で陸上に備え付けられた重力波アンテナ送信装置が賄う」

 

太平洋から極東方面への侵入を防ぐのが俺の仕事か。

ニバリス経由で陸上から多少離れても行動できるようにもあった。

ちなみに、スーパー戦フレーム、ナデシコ流で言えばアドニススーパー型の小隊はガイが小隊長を務め、その他の小隊の順番はこの基地に関係性がある順となっている。

その為、第一小隊は俺、第二小隊はイツキさんがそれぞれ小隊長を務める。

なお、カエデに関してはまだ小隊長は荷が重いとされて、俺の下に配属されていたりする。

まぁ、あいつ自身はブーブー言っていたが、まぁ、意地っ張りだから仕方ない。

第三以降は関係性ではそれ程変わらないので適当な順番になっている。

第三がスバル嬢、第四がヒカル、第五がイズミさん。

スバル嬢がすぐに手を挙げ、ヒカルがじゃあ次は私と言って、イズミさんは何も言わず。

・・・なんとなく想像は付くと思う。

 

「第三、第四、第五小隊はそれぞれ航空機に乗り込み、前線で戦って欲しい」

「「「了解」」」

 

しかし、それだけでは戦力が足りないのでは?

今回の相手はかなり大規模。流石にこれだけでは少な過ぎる。

どれだけ優秀でも人間である以上、疲れもあるのだから、厳しいと思うが・・・。

 

「なお、我々極東支部以外にも、東欧支部、北米支部、南米支部、亜細亜支部からの出撃が決定している」

 

それなら安心か。充分の戦力が期待できる。

確か東欧支部と亜細亜支部は極東支部と仲が良かった筈。

でも、北米支部、南米支部は敵対とまではいかないが、不干渉だったな。

恐らく、用意する機体も割りとバラバラだろう。

改革和平派に所属する支部は小隊のリーダー機にリアル戦フレーム、その下に配属される者には、エステバリス高機動戦フレームがそれぞれ配給されている。

しかし、所属していない支部は、配給されていない。

一体、彼らはどんな機体を用意するのだろうか?

デルフィニウムは用途が違うし、クリムゾン辺りが新しい機体でも製造したのだろうか?

・・・まぁいいか。とにかく俺は陸への侵入を防ぐ事に尽力しよう。

 

「それでは、皆、作戦を開始してくれ」

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

「第一小隊は俺に付いて来い」

 

アドニスリアル型に乗り込み、作戦ポイントへ向かう。

俺以外の小隊メンバーはカエデを含めた四人。

一小隊五人で構成されている。

カエデも例に漏れず高機動戦フレームで出撃だ。

俺達防衛組の作戦ポイントは日本の最東南部。

本土に侵入されないよう、絶対に死守しなければ。

 

「アザレア」

『はい。マスター』

「各機の状況を常に把握しておいてくれ」

『仰せのままに』

 

小隊長として視野を広く保つようにしなくちゃな。

 

「小隊メンバーに告ぐ」

 

シュンッ!

 

機体内のモニターに小隊メンバー全ての顔を表示する。

 

「この中にはこれが初陣の者もいるだろう」

 

配属されたメンバーはカエデ以外に一名を除き、他は全て初陣。

彼らはナデシコパイロットによるパイロット養成コース参加者だ。

未来ある若者、将来を期待される若者をここで潰す訳にはいかない。

 

「だが、心配するな。訓練通りにやれば、負けるような相手ではない」

 

まぁ、訓練通りに出来ないのが実戦なんだけどね。

 

「ヒラノ」

『ハッ!』

 

こいつは戦闘経験者。

俺の元生徒でもある。

 

「先輩として、後輩はきちんと護れよ」

『当然であります!』

「頼りにしているぞ」

 

教え子時代からこいつはかなりの能力の持ち主だったし、戦闘を経験して成長しているだろうから、安心して任せられる。

こいつなら後輩をきちんと護り、自らも生きて帰ってきてくれる筈だ。

 

「カエデ」

『何よ?』

 

そこは、はい、とか、ハッ、とか言うべきなんだけどなぁ。

まぁ、こいつにそういう事は要求しても聞かないだろうし。

気にしちゃ負けだ。

 

「初陣のような初陣じゃないような戦闘だが、油断はするな」

『分かっているわ。慢心も油断もない』

「分かった。期待しているぞ」

『ええ。任せておいて』

 

それは頼もしいお言葉で。

 

「二人一組となって敵に当たれ。アインス2はアインス4と、アインス3はアインス5とそれぞれ組むんだ。互いに援護しあい、後ろを取られないようにしろ」

『『『『了解!』』』』

 

アインス1が俺、アインス2がカエデ、アインス3がヒラノ、アインス4、アインス5がそれぞれ新人であり、一応、経験者であるヒラノとカエデに新人を組ませた。

俺は一人で援護やら遊撃やらに走り回る予定だ。

ちなみに、アインスとは小隊毎に付けられた略称である。

ナデシコだけなら個人の名前でも対応できるが、これだけ数が多いと名前じゃ厳しい。

それ故に、こういう略称が使われる。

 

「アザレア。敵の状況はどうだ?」

『第三、第四、第五小隊は交戦中。第二小隊も交戦に入りました』

 

前線組の第三、第四、第五小隊は既に交戦中。

日本の東南の海上で防衛網を張る俺達は二手に分かれており、東側にいるイツキさん達第二小隊はどうやら交戦に入ったらしい。

前線で全てを撃ち滅ぼせるとは思ってないから特に問題はない。

ガイ達スーパー戦フレーム小隊は陸上で構え、俺達の撃ち漏らしを任せてある。

後方に憂いなし。

 

『コウキ! 第二小隊が! 早く助けにいかないと』

「駄目だ」

『どうして!?』

「俺達が現場を離れれば次はこちらから抜けられる。俺達第一小隊の仕事は持ち場を死守する事だ。第二小隊を助ける事じゃない」

『でも!』

「・・・仲間を信じろ、カエデ。それが唯一、第二小隊にしてやれる事だ」

『・・・分かった。信じるわ』

 

仲間のピンチで焦るのは分かるが、冷静に対応して欲しい。

持ち場を離れれば後手に回って結局こちらから突破されてしまうのだから。

それに・・・第二小隊なら心配いらない。彼らだってもう一人前の軍人。

俺達は俺達の仕事に全力を尽くせばいい!

 

「交戦する前に・・・アザレア、北米支部の機体はなんて名前だ? 調べてくれ」

『はい』

 

エステバリスに対抗して、改革和平派以外の者が用意したであろう機体。

エステバリスに匹敵する性能があるかどうか。

確認しておいて損はない。

もしかしたら、今後、争う事になるかもしれないし。

 

『分かりました』

「報告を」

『機体名はステルンクーゲル。クリムゾン社製作の新型機と思われます』

 

・・・ステルンクーゲル。

劇場版で統合軍が正式採用していた機体。

こっちも原作より早くの登場という訳か。

クリムゾン社が原作より早く人型機動兵器生産に力を入れた結果だろうな。

でも、これは木連からの技術提供があって実現した機体の筈。

確か木連無人兵器のジェネレーターを利用していたんだよな。

やはり木連とクリムゾンは手を組んでいた訳だ、戦後を見越して。

でも、まぁ、機体を見ただけで木連との関連性なんて誰も気付かないだろう。

だから、問題には出来ない。俺とて名前が違っていたら分からなかっただろうし。

それに、確実にそうだとも言い切れない。地球製のジェネレーターの可能性もある訳だし。

OSは原作通りEOSかな?

EOSなら、己惚れるようだけど、CASの方が優れていると断言できる。

 

「機体性能は・・・エステバリスとほぼ同等と見ていいか」

 

違いは重力波アンテナに依存していない事。

これなら稼動時間の限界はあっても、稼動距離の限界はない。

まぁ、どっちが良いかと訊かれても、用途によって異なるとしか答えようがない。

防衛にはエステバリスで襲撃にはステルンクーゲルといった所かな。

一対一で争った場合、OSの差でエステバリスが若干優勢かな。

 

「ふむ。ありがとう。アザレア」

『いえ』

「引き続き、頼む」

『御意に』

 

さて、そろそろこちら側にも来るだろう。

気を引き締めなければ。

 

『敵機、レーダー範囲内に入りました』

「了解。各機、散開!」

 

ヒラノ班が右に、カエデ班が左にそれぞれ展開していく。

 

「無理はするな。互いのフォローを忘れずに確実に一機一機倒していけ」

『『『『了解!』』』』

 

襲い来るのはバッタ、ジン、六連、それに加えて新型の多分、積尺気(ししき)って奴。

積尺気は確か夜天光の量産型だったな。

機体から見て、今回の襲撃は草壁派と見て良いだろう。

 

「無駄弾は抑えないとな」

 

今後の戦闘に向けて無駄な弾は一つでも勿体無い。

それなら・・・。

 

ビュンッ!

 

「木連式剣術の腕の見せ所だな」

 

まだ習得途中だけど。

 

「ハァ!」

 

一直線に向かってくるバッタなんて的以外の何物でもない。

切り裂き、断ち切り、切り伏せる。

 

「まだまだぁ!」

 

有人機であろう六連、積尺気は予想外の接近で狼狽えている様子。

戦闘中にそんな隙を見せたらいかんだろうが。

 

ダッ! シュッ! ドガッ!

 

接近、一閃、すれ違い、過ぎ去り、爆発、サーチ。

後方で爆発の音が鳴る中、次々と敵を屠っていく。

今までの戦闘で有人機を落とす覚悟は出来た。

殺さねば殺される。戦場に同情は不要だ。

ジンシリーズは単機では時間が掛かるので、今はそれ以外を全機破壊する!

 

『マスター。来ます』

 

アザレアの言葉で近付いてくるミサイルに気付く。

六連も積尺気もミサイル装備だしな。でも、唯のミサイルなら・・・。

 

「助かる。アザレア」

 

ガントレットアーム内蔵の機関銃。

右手にディストーションブレード、左手にラピットライフル。

これだけあれば、防ぎ切れる。

 

「ま、弾幕を張るつもりはないけどな」

 

避ける、避ける、避ける。

アドニスリアル型は回避力に優れる機体だ。

たかが追尾式だけの何の工夫もない射撃に当たってやる訳にはいかないだろ!

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

すれ違い、ミサイルが旋回してこちらに向かってくる瞬間を狙う。

これならば、ミサイルは一時的に停止したと同じ。

止まっている的を外す程、俺の練度は低くない。

 

「おっと」

 

ハンドガンからの攻撃をDFで弾く。

ロックオンされた覚えはないから、流れ弾かなんかだろう。

視界を広く保っていたから、運よく見付けられた。

ギリギリでちょっと焦ったな。

流れ弾が戦死原因ナンバーワンというのも納得できた。

ある意味、死角からの攻撃な訳だし。

 

『小隊長!』

 

突然のヒラノからの通信。

表情を見るにかなり切羽詰っていると思われる。

 

「どうした!?」

『巨大な敵に対してはどのように対処すれば!?』

 

ジンシリーズの特徴はグラビティブラストと強固なDF。

でも、その特徴は弱点にもなり、DFに頼り過ぎるあまりジンはDFがなければ唯の的。

その為、DFさえ突破すれば撃墜するのも容易いのだ。

よって、フィールドガンランスでDFを突破後に破壊、という単純な結論が導き出せる。

だが、言葉で言うのは簡単でも、踏み込む事を躊躇してしまう理由がある。

それこそがグラビティブラスト。

たとえDFを張っていようと直撃すれば終わりだ。

接近するにしても、これの存在が脳裏を掠める。

 

「まずはグラビティブラストを撃たせろ」

『は?』

「接近すると見せかけて、GBを発射させる。それを確実に回避すれば、チャージまでの時間を稼げる。その後、ペアと協力して、片方がDFを突破、もう片方が突っ込め」

『了解!』

「GBを回避してもまだロケットパンチやミサイルがある。油断はするな!」

『はい!』

「ボソンジャンプしそうだったら離れる事。巻き込まれたら死ぬからな!」

 

訓練でジンシリーズ撃破の一連の流れはやった筈。

それをヒラノが忘れる訳はないので、恐らく新人に聞かせる為のものだろう。

新人は緊張と混乱で忘れている可能性があるし、仲間の、その中でも特に隊長である俺の声を聞けば多少は落ち着く筈。

攻略法の確認と同時に混乱を落ち着かせる為の通信だった訳だ。

あいつ、俺を利用しやがって・・・。

助かった、ヒラノ。どうやら、俺はリーダーの自覚が足りなかったようだ。

もっと周りを見ないといけないな。

 

「アザレア。各機の損傷は?」

『アインス5は右腕を損傷、ですが、行動できない程ではありません。アインス4はDF発生装置に不備が発生。援護主体で距離を取っています』

 

アインス4はカエデとペア。

カエデは接近戦に弱いから、どちらも援護主体になってしまう。

 

「各機に通達! アインス4はアインス3と組め。ヒラノ! 前に出ろ!」

『『了解!』』

『私は!?』

「カエデ? アザレア。アインス2の損傷はどうなっている?」

『機体に大きな損傷はありませんが、ラピットライフル、レールカノン共に弾切れです』

「考えて弾を使え! 馬鹿!」

『しょ、しょうがないじゃない! 敵が多かったんだから!』

「あぁ! もぅ!」

 

ここで責めていても仕方ないか。

後で説教喰らわしてやる。

 

「アインス5。お前は俺と組め。左腕をメインにフィールドガンランスを使うんだ」

『了解』

 

右腕を損傷しているが、完全に破壊されている訳ではない。

フィールドガンランスを構える事ぐらいは出来る筈だ。

 

「カエデ。受け取れ!」

『え? え? うわッ!』

 

カエデにラピットライフルを投げ渡す。

 

「大して使ってないから弾は充分ある。それでアインス3とアインス4を援護しろ。アインス4は今、DFが張れない状況にある。敵を近づけるな。それと、無駄弾はなしな」

『わ、分かったわ』

「アインス5。巨大な敵に張り付いて、DFを突破しろ」

『その後は?』

「即行で離脱。突破後は俺が切り裂く。それとも、自分で行くか?」

『いえ。怖いのでやめておきます』

 

ハハッ。怖いなんて言いやがった。

普通、戦場でそんな事は言わないだろ。

でも、それでいい。怖くていいんだ。

 

「了解。怖がれ。怖がった方が生き残れる。一機潰して死ぬぐらいなら何もせずに生き延びた方が良い」

『了解!』

「でも、逃げるなよ。逃げるのは駄目だ」

『む、無論です』

「ハッハッハ。頼むぞ! アインス5。俺の命、お前に預ける」

『は、はい!』

 

一機潰れる事で戦線を維持できなくなるなんていうのはよくある事だ。

それだったら、怖がっていても、後ろからきちんと援護している方が良い。

まぁ、ずっと怖がられていても困るけどな。

だが、生き延びていれば、いずれ恐怖を克服できる時がやってくる。

死んだらそれまでだか、生きれば希望があるのだ。

無駄に命を捨てる必要などない。

とりあえず、この戦闘中に恐怖を克服してくれる事に期待しよう。

まぁ、厳しいとは思うが、ありえなくはない。

 

「来るぞ! 避けろ!」

『はい!』

 

グラビティブラストが迫る。

碌なパイロットじゃないな。射線上には誰もいない。

 

「張り付け!」

『はい』

 

ロケットパンチに警戒しつつ、フィールドガンランスを突き刺すアインス5。

 

「後は任せろ」

『了解。離脱します』

 

DF突破後、すぐさま離脱。

ロケットパンチが迫っていたが、どうにか回避できたようだ。

後は・・・。

 

「俺の仕事だ」

 

既に攻撃態勢。

動きの鈍いジンでは避ける事など不可能。

右手に持っていたディストーションブレードを両手で持ち、翔ける。

 

『ジャンプフィールドが展開されました』

 

逃げようって魂胆か?

でもな、そんな余裕は与えんよ。

 

「ハァァァ!」

 

シュッ!

 

今にも跳ぼうかというジンを腰から真っ二つに切り裂く。

ディストーションブレードの切れ味の前ではジンの装甲など紙同然。

 

『す、凄い』

「凄くなんかないさ。全てはお前の援護のお陰だ」

『あ、ありがとうございます』

「ふっ。いくぞ。次だ!」

『はい!』

 

意外な事で恐怖を乗り越えたか?

まぁ、ここで調子に乗って自分から行こうとしたら流石に止めるけど。

そんな様子もないし、出来るだけ破壊しまくるとしよう。

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

「鬱陶しいな。バッタ」

 

まるでハエのようにたかって来やがる。

ラピットライフルはなくても、ガントレットアームが俺にはある。

たかがバッタに遅れは取らんよ。

 

「まだまだ来るか」

 

六連も積尺気もまだまだ数は多い。

流石に人型兵器にはガントレットアームでは牽制ぐらいにしかならないだろう。

でも、DFを張る前であれば・・・。

 

「レールキャノンで仕留める。重力場展開」

 

サーチ。

 

「発射!」

 

ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ!

 

かなりの反動を生じながらの三連発

錫杖片手に突っ込んできていた六連二機を破壊し、後方からミサイルで狙ってきていた積尺気一機を合わせて撃破する。

相変わらず凄まじい威力だな。

 

『行きます』

 

アインス5が再びジンに張り付こうとする。

でも、ちょっと落ち着こうか。

 

「待て。不用意に飛び込んだら危険だ。まずはグラビティブラストを回避しろ」

『す、すいません。焦っちゃって』

 

今度はシュンと落ち込む新人。

いや、別に落ち込まなくてもいいんだが・・・。

 

「なに、ミスなんて誰にでもある。落ち着いていこう」

『はい。あ、来ました』

 

こちらへと銃口を向ける敵機。

・・・甘いな。

回避に専念している相手にはそう簡単に当てられないものだ。

どれだけ強力な攻撃だろうと、当たらなければ、何の意味もない。

 

『・・・ハァ・・・ハァ・・・回避・・・成功』

 

完全に向こう狙いだったな。

まぁ、どうにか回避できたみたいだし、何の問題もないだろう。

 

「行けるか?」

『行けます!』

 

頼りになる新人だ。

 

『ハァァァ!』

 

叫びながら飛び込むアインス5。

だが、今回は接近を阻止されてしまった。

ロケットパンチが機体を掠ったのだ。

 

「大丈夫か?」

『はい。損傷は軽微です』

 

運が良かったな。

直撃を食らっていたらどうなっていたか分からない。

 

「それなら、俺が行く」

『私がトドメを?』

「いけるか? 無理なら、俺が行くが?」

『い、いけます。やらせてください』

「よく言った。やってみせろ」

『はい!』

 

手に持つディストーションブレードを腰に戻し、背中に備え付けてあるフィールドガンランスを取り出す。

 

「DF突破後、突入しろ」

『了解!』

 

フィールドガンランスを前面に出し、接近する。

先程と同じようにロケットパンチが向かってくるが、それに当たる程、俺も甘くはない。

 

「これで―――」

『マスター! 後ろです!』

「何!?」

 

ロケットパンチを避けて突破したと思ったら後方から向かってくるミサイル群。

そうか。ジンシリーズの掌にはミサイルが搭載されていたんだったな。

今回も完全にアザレアに助けられた。

気付きさえすれば、対処法はいくらでもある。

 

「ガンランスを嘗めるな」

 

唯のランスじゃない。

これにはライフルも含まれているんだ。

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

ロックオン、ショット。

ガンランスの先端から飛び出した弾でミサイルを破壊する。

 

「覚悟は出来たか?」

 

意表を突かれて止まってしまったが、もう止まってやらない。

ロケットパンチが戻る前に突破してやる。

 

「ハァ!」

 

DFに取り付き、突破する。

今更ながら気付いたが、相転移エンジンを主動力としているジンは、地上では充分な量のエネルギーを産み出せない為、GBもDFも出力不足だ。

これなら二人一組にならなくても破壊できるかもしれん。

まぁ、今は・・・。

 

「いけ!」

『はい!』

 

新人に花を持たせてやろう。

 

『ハァァァ!』

 

フィールドガンランスの先端をジンに突き立てる。

 

「いいぞ! 離脱しろ!」

 

その後、ジン周辺から離脱。

同時に爆発音が周囲に響き渡る。

 

『お、俺が・・・ジンを』

「初陣で大きな戦果だな。よくやった」

『た、隊長のお陰です』

「それでも、お前はよくやったよ。誇っていい」

『は、はい。ありがとうございます!』

 

本当に誇りに思っていいと思う。

ジンシリーズは一つの街を壊滅寸前まで追い詰めた悪魔の機体。

エステバリスとサイズを比べても子供と大人以上の差がある。

それを破壊する事が出来たんだ。

パイロット冥利に尽きるだろう。

 

「付いて来られるな?」

『はい! 行きましょう!』

 

どうやら自信を付けたみたいだな。

イキイキしてきた。

やはり10の練習より1の実戦という訳か。

ま、実戦を生き延びられる力がなければ、無駄死にさせてしまうだけだが。

 

『アインス4被弾。安全機動限界を超えたダメージです』

 

クソッ。全てが順調とは行かないか。

 

「アインス4。早く離脱しろ」

『りょ、了解』

「アインス5。残念だが、これまでだ。アインス4を拾い、一度基地に帰還しろ」

『・・・・・・』

 

・・・返事がない。

ここで帰るのは気が引けるってか?

それとも、見栄が出てきたか?

どちらにしろ、右腕が損傷している状態じゃ長く戦闘はできない。

再び合流したいのなら、まずは損傷部を直して来い。

 

「返事はどうした! アインス5!」

『は、はい! 帰還します!』

 

ドカンッ!

 

アサルトピットが抜け出してから数秒後エステバリスが爆発する。

プカプカと浮かぶアサルトピットに近付くアインス5。

 

「援護しろ! 近づけるな!」

『『了解!』』

 

アサルトピットを手に持ち、離脱していくアインス5。

 

『離脱を確認』

 

おし。残ったのは三機か。

 

「俺達だけでも行けるよな?」

『無論です』

『む、無理』

「は?」

 

ここで無理って何だよ?

そこは無理でもいけるって言うべきだろ。

 

『だ、だって・・・』

「何だよ?」

『どうしました?』

 

もしや、何かあったのか?

 

『た、弾切れだもの』

「・・・・・・」

『・・・・・・』

『・・・コウキ?』

「てめぇ! この野郎! 少しは学べ!」

『しょうがないじゃない! 弾が少ないんだもの!』

「それを考慮して撃てっての!」

 

どれだけ無駄弾が多いんだよ?

あれか? シミュレーターのつもりでやっていたのか?

・・・どうやら、こいつが一番実戦経験を必要としていたみたいだな。

帰ったら、実戦を想定した訓練を死ぬほどやらせてやるから覚悟してろよ。

 

 

「はぁ~~~」

『隊長。如何しますか?』

「ああ。分かった。分かった。カエデ。ほいっ」

 

フィールドガンランスをまたもや投げ渡す。

 

「次はないからな」

『え、ええ。分かっているわ』

『これもどうぞ。まだ使っていませんので』

 

ヒラノもカエデにラピットライフルを渡す。

もうこれで弾切れはないだろう。うん、ないで欲しい。

 

「仕方ない。接近戦だな」

『ええ。お付き合いします』

「カエデ。ほどほどに援護よろしく」

『ええ。ビシバシ援護するわ』

「・・・頼むから考えて撃ってくれ」

 

もう弾切れは勘弁だぞ。

戦線が維持できなくなる。

 

「さてさて、あとどれくらい戦えばいいのやら」

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。