機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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出航前の談話

 

 

 

 

 

「ここをこうして・・・」

「・・・はい」

 

現在、オペレーター補佐としての仕事を行っています、マエヤマ・コウキです。

といっても、俺に出来る事はセレス嬢に簡単な事を教える事だけだけど。

何でしか知らないけど、ルリ嬢もラピス嬢も殆ど完璧なんだよな。

俺の出る幕がないって感じで。

それなら、二人の事は二人に任せて、セレス嬢を出航前まである程度出来るようにさせておくべきだろうと思った訳だ。

セレス嬢も優秀なオペレーターみたいだからな、すぐに覚えるだろ。

ある程度は習ってきていたみたいだし。

 

「ある程度の事はオモイカネがやってくれるから。俺達オペレーターがする事は意思を伝える事だけだよ」

「・・・意思を?」

「そう。だから、オモイカネとは仲良くな。ま、心配ないと思うけど」

『大丈夫』『セレス良い子』『仲良し』

 

ま、オモイカネがこう言うんだから大丈夫だろ。

ただオモイカネが幼女~少女が好きなだけかもしれないけど。

もしかして、オモイカネって・・・。

 

「ふぁ~~~」

 

・・・隣で欠伸はやめましょうか、ミナトさん。

 

「・・・ミナトさん」

「呆れられても困るわ。だって、やる事ないもの」

 

まぁ、言いたい事は分かる。

艦が動いてないのに操舵手なんて必要ないよな。

 

「あれはどうなんですか? えぇっと、そう、起動手順」

「完璧よ。コウキ君とおさらいしたじゃない」

 

そういえば、一日に何回かやっているもんな。

 

「じゃあ、停止手順とか停泊手順とか」

「完璧。シミュレーションは何度もやっているわ。実際に動かせないのだからこれ以上は仕方ないでしょ?」

 

・・・うん。駄目だ。やる事なさそう。

 

「コウキ君こそ、副操舵手と副通信士としてはどうなの?」

「副操舵手の方はミナトさんと練習しているじゃないですか。副通信士もメグミさんから色々習って勉強中です」

「あ。マエヤマさん、飲み込み早いですから、もう殆ど大丈夫ですよ」

「だ、そうです」

 

俺とてやる事はきちんとやっている。

欲張り過ぎの兼任役職だが、全てカバーしてやるぜ。

そうでないといる意味ないからな。

 

「予備パイロットはどうなの?」

「まぁ、それなりです。毎日シミュレーションはしていますし、テンカワさんから色々教わっているんで」

 

闇の王子の名は伊達じゃない。

テンカワさんが未来のアキト青年だって確信してから、積極的に操縦を教わっている。

あれ程の凄腕パイロットは他にいないだろうからな。

間違いなく地球最高のパイロットだよ、テンカワさんは。

 

「へぇ。アキト君ってどれくらい強いの?」

「そうですね。以前、俺のゲームの話したじゃないですか?」

「ええ。あのトップスコアがどうとかって奴ね?」

「はい。多分、テンカワさんなら更に倍ぐらいのスコアは取れるんじゃないですか?」

 

初心者の俺があれだけ取れたんだ。

場慣れしているテンカワさんならもっと取れるだろう。

特に一対多数とか慣れまくりだろうし。

あのゲームは殆ど一人で大軍に立ち向かうって形式のミッションばっかりだったからテンカワさんの十八番だと思う。

連合軍のトップクラスを想定していたみたいだけど、テンカワさんは軽く上回ってるって訳だ。

 

「あら。コウキ君だってかなりのスコアだったんでしょ?」

「俺は所詮お遊びのレベルだったんですよ。テンカワさんは間違いなくプロです」

 

俺はナノマシンの恩恵と卑怯なソフトを多用してようやくテンカワさんと同じ土俵に立てる。

ただのIFSであそこまで出来るのはテンカワさん個人の単純な操縦技能。

とてもじゃないけど、俺では敵わない。

良い動きだけど全体的な動きが経験不足だってテンカワさんに言われたし。

・・・そうだよね。どんな戦場だって経験豊富な人が強いんだよね。

うん。今の俺に出来る事はひたすら経験を積む事っぽい。

 

「そっか。それなら、コウキ君が戦場に出る事はなさそうね」

 

そうニッコリ笑うミナトさん。

 

「ま、そうなんですけどね。頑張ろうって決めた身としてはちょっと拍子抜けかなって」

 

そりゃあ戦場に出なくて済むのは嬉しい限りだ。

わざわざ死ぬような所には行きたくないし、有名になんかなりたくはない。

でも、護りたいって誓った身としてはさ。気合が空回りしていたみたいでちょっと情けないかなって思う。

 

「コウキ君も男の子だからね。でも、私としては安心よ。コウキ君が危険な眼にあわなくて済むのは」

「そう・・・ですか」

 

特別な意味なんてないのかもしれないけど、心配してくれているって思うと嬉しいかな。

 

「テンカワさんだけに負担をかけるのは心苦しいですが、その分、俺は戦場でパイロットのフォローが出来ればいいかなって思います」

「うん。責任感があるのは良い事よ。でも、フォローって?」

「情報解析は得意なんですよ。ま、オペレーターの補佐が最終的にパイロットの補佐に繋がると思うんで」

 

いざ戦闘となるとオペレーターにかかる負担は相当のものがある。

ルリ嬢、ラピス嬢、セレス嬢はかなりのレベルのオペレーターだ。

ルリ嬢は実際に一人で全戦闘をこなしたという実績がある。

でも、だからって辛くないとは限らないだろう?

俺に出来る事があるのなら、三人を補佐して、少しでも負担を減らしてあげるべきだ。

それが最終的にパイロット、そして、ナデシコを助ける事に繋がるんだから。

 

「あ。ルリちゃん。ナデシコの武装を教えてもらえるかな?」

 

確か俺の知る限りではグラビティブラストと連合軍への反乱時に使ったミサイルぐらいだったと思う。

でも、流石にそれだけじゃないと思うんだよ。

気がつかなかっただけで、違う武装も使っていたりとかしていた筈なんだ。

だってさ、二つしかない武装とか恐怖じゃん。後ろから攻められたらどうするのって感じ。

グラビティブラストなんて前しか撃てないし。

 

「主砲としてグラビティブラスト、その他に誘導型ミサイルとレーザー砲が二門あります」

 

へぇ。レーザー砲なんてあったんだ。知らなかった。

そういえば、グラビティブラストが出てくる前の主要武器はレーザー砲だったよな。

第一次火星大戦がそれを証明している。

もちろん、木星蜥蜴のDFに全て弾かれてしまっていたが。

 

「また、レールカノンを艦のいたる所に配置し、全方位に対応できるようにしました」

 

あ。そうなんだ。全方位に対応できたんだ。そいつはまたもや知らなかった。

なんだ、なんかホッとしたな。

本当に、後方への対応とかは出来ないのかと思っていたぜ。

杞憂で済んだか。

 

「そっか。配置図とか見せてもらえるかな。艦の全体図とか」

「こちらです」

 

パッとモニターに出してもらう。

正面モニター全体に映してもらったから他のブリッジクルーも何事だ? みたいな感じでモニターを見ていた。

 

「相変わらず変な形よねぇ」

 

ミナトさんも相変わらず暢気ですよね。

 

「ブレードのせいですよ。ディストーションフィールドを発生させる為の」

「そうなんだ。そもそもそのDFってどれくらいの衝撃まで耐えられるのかしら」

「えぇ~と、そうですね」

 

ルリ嬢の映し出したモニターにDFの説明を載せる。

オモイカネ、よろしく。

 

「DFって空間を歪ませて攻撃を防ぐ訳です。だから、ビーム兵器とかグラビティブラストとかそういう光学兵器にはとても有効なんですよね」

「えっと、波が伝わりにくいからって事?」

「ま、そんな感じです。光も波ですからね。防ぐっていうか逸らすっていうんですか? そんな感じですから。だから、実弾兵器には効果はあっても薄いみたいですね」

 

まぁ、高出力にすれば実弾兵器にも耐えられるらしいけど、油断はいけないよな。

所詮は、破壊できてしまう障壁でしかないのだから。

どんな武器からも攻撃を防ぐ盾、どうやっても壊れない盾、とは残念ながらいかないのさ。

 

「へぇ。じゃあ無敵って訳じゃないのね」

「ええ。特に地上じゃ駄目駄目です。油断していちゃいけませんよ。ま、そこはミナトさんがカバーするという事で」

「そう。お姉さんに任せておきなさい」

 

同じ資格持ちでも俺とミナトさんじゃ月とスッポン、天と地ほど違う。

俺も一応平均よりは優れていると思うけど、ミナトさんはもうトップクラスではって思う程に凄い。

こんな巨大なナデシコをセンチ単位、いや、ミリ単位で修正するとか半端ないと思う。

どんだけ空間認識に長けているんだよって話。

どんな経験を積んだらそんな事ができるようになるのやら。

 

「あの~マエヤマさん、教えていただきたいんですけど」

「ん? 何かな。メグミさん」

 

メグミさんもモニターを見ていたみたいだ。

どうやら質問があるらしい。

なんでも知っている訳じゃないから答えられるか心配だけど。

 

「何で地上じゃ駄目駄目なんですか? 地上と他とでは何か違うんですか?」

 

おぉ。鋭い質問だ。

これを把握してないから後々の悲劇に繋がったんだもんな。

丁度いいから話しておこう。

 

「メグミさんはこの艦がどんなエンジンで動いているか知っていますか?」

「えぇっと、ここには、メインエンジンは相転移エンジンって書いてありますね。どんなエンジンなんですか?」

 

あ。モニターに出てたか。

・・・何か間抜けだな。俺。

 

「相転移って分かる?」

「えぇっと、実はあんまり・・・」

 

項垂れるメグミさん。ま、別に知らなくても日常生活には問題ないしね。

 

「ま、俺もあんまり詳しくないんだけどさ。そうだなぁ・・・ほら、水って冷やすと氷になって、火にかけると水蒸気になるじゃん」

「あ、はい。なりますね」

「その変化が相転移っていうのかな。熱っていう外的要因で相が変わっているみたいな」

「う~んと」

「ごめんね。説明下手で」

 

もっと頭良くなりたいな。

あの難しい事を簡単に説明できるっていう特殊技能が欲しい。

その技能こそが頭の良い証って感じがする。

 

「あ、いえ、何となく分かればいいですから」

「そう? じゃあ、分かりづらいかもしれないけど、我慢してね。相が変わるにはエネルギーが必要になる訳。さっきのたとえなら熱みたいな」

「はい。エネルギーが必要な訳ですね。何もなくて変化する訳ないですから」

「そうそう。それで、相の変化にエネルギーが必要なら、逆に相の変化で何かしらのエネルギーが消費されているといえる」

「え~と、車のブレーキとかで熱が発生するみたいにですか?」

「お。いい例えだね。俺より説明のセンスがあるよ」

「あ、ありがとうございます」

 

俺ってば説明下手だからな。

難しい言葉を並べて誤魔化すとか良くやっていたよ。

だから、逆に質問されると答えられない事が多かった。

 

「今回の相転移エンジンっていうのは、真空の空間をエネルギー準位の高い状態から低い状態に相転移させる事でエネルギーを取り出しているんだよ」

「それなら、真空に近ければ近い程にエネルギーが確保できるって事?」

「お。流石ミナトさん。鋭いですね」

「まぁねん」

 

よく俺の下手な説明で理解できるよ。

俺としては助かるけどさ。

 

「凄く簡単にいえば、宇宙みたいな真空で一番の出力を得られて、地上みたいな真空じゃない所ではあまり出力が得られないって事だよ」

 

簡単にいえばそうなるよな。

火星でピンチだったのも宇宙に比べて出力が足りなかったからだし。

火星も一応大気があります故に。

 

「エンジンの出力が不十分なら、当然、DFとかいう奴も低出力になっちゃうのよね?」

「はい。もちろんです。だから、宇宙空間で耐えられるものが地上では耐えられないなんて事もあるんですよ。当然、同じエンジンに依存しているグラビティブラストの威力も弱まっちゃいますし」

 

攻撃力も防御力も下がるとかまずいよな。

出来るだけ宇宙空間にいるべきだと思う。

 

「何か聞く限りだと結構欠点があるみたいね」

「でも、便利ですよ。半永久的にエネルギーが得られる訳ですから。他のエネルギーは消費したら終わりじゃないですか」

「それもそうね。戦艦として働く分には丁度良いって訳か」

「ま、そうなります。エンジンの稼働率で色々と調整できますから。使い勝手もいいんじゃないですか?」

 

スピード調整とか簡単そうだし。

ま、整備班は常に点検しないといけないから大変そうだけど。

 

「御詳しいのですね、マエヤマさんは」

 

ん? これぐらいはあくまで基礎知識の範囲なんだけどな。

知っているのって変なのか?

 

「おかしいかな?」

「え、いえ。そうではありませんが」

 

元々知っていたけどさ。原作を見ていた訳だし。

でも、やっぱり乗る側としては表面上だけじゃなくきちんと把握しておきたいじゃん。

だから、当然、何度も資料を読み返しましたよ。

内容が難しくて中々理解できなかったけど。

 

「何が目的か分からないけどさ。機動戦艦なんて名付けてあるんだから、戦う為にあると思うんだよ。俺はパイロットとかも兼任しているし、生き残る為には把握しておきたい」

「・・・・・・」

 

何だろう? この尊敬の眼差しは。

普通の事を言っただけですよ、皆さん。

 

「少なくとも艦長とか副艦長とか、戦闘指揮のゴートさんは把握している筈です。俺は全体的に補佐役を務めている訳ですから、補佐役として色々な事を把握しておく必要があるかなって」

「あ、ああ。もちろんだ」

 

ゴートさん。狼狽していると疑われますよ。

いつもの仏頂面で誤魔化すのがベストです。

というか、やっぱり知らなかったんですね・・・。

まぁ、ネルガル社員はどこかDFを過信していた節があるし、わざわざ調べなくても最強の盾だとか油断していたのかも。

 

「パイロットの方々も把握しておくべきですね。エステバリス、この戦艦に搭載されている機動兵器ですが、これもDFを持っていますし、出力はナデシコの相転移エンジンに依存していますから。多分、リーダーパイロットのテンカワさんは知っているんじゃないですか?」

「・・・もちろん、知っている」

「ラ、ラピス?」

 

何を慌てているんだ? ルリ嬢。

テンカワさんが知っているのは当然じゃないか。

未来のアキト青年だし。

二人だって知っているから落ち着いていたんでしょ?

俺の説明に皆、慌てたり、感心したりとかしていたけど、二人とも当然のように振舞っていたしさ。

 

「ブリッジは特に戦闘に携わると思うので把握しておいて損はありませんよ。俺はまだ死にたくありませんし」

「そうよね。私もちょっと勉強しておこうかしら」

 

お勧めします、ミナトさん。

 

「何だか怖くなってきました。私達って戦艦にいるんですよね」

 

まぁ、戦艦なんて現実味ないもんな。軽い気持ちで乗艦していてもおかしくないか。

 

「落とされない為にリーダーパイロットのテンカワさんを始めとするパイロットがいて、整備班や艦長、副艦長がいるんです。彼らを信じてあげてください」

「・・・はい。怖いですけど、私も頑張ろうと思います」

「そうだね。メグミさんの通信士って役目も戦闘では大切だと思うから、メグミさんの頑張りが皆を護る事に繋がると思うよ」

「私の頑張りが皆の・・・」

「うん。それにね、メグミさんだけじゃないんだ。操舵手のミナトさんだってオペレーターのルリちゃん、ラピスちゃん、セレスちゃんだって大切な役目」

 

操舵手にはナデシコの命運が懸かっているし、オペレーターはいつだって大変だ。

 

「戦闘指揮のゴートさんだって、今はいない艦長、副艦長だって必要不可欠。提督の経験は俺達みたいな経験不足の集まりにとっては何より大切なんじゃないかな」

 

戦闘経験なんて誰もないんだし、戦場で一番大切なのは経験だろうしね。

 

「あれ? 副提督は?」

「えぇっと」

 

後ろを見て、いない事を確認。

 

「どちらかというと情操教育に悪い・・・かな?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

何だ? 何故に沈黙?

 

「・・・ふふふ」

「ハハハハハハ」

 

え? だ、大爆笑? そんな変な事言ったか?

 

「ハハハハハハ。コ、コウキ君、笑わせないで」

「マ、マエヤマさん。クスッ。酷いですよ」

 

笑いながら言ったって説得力ないってば。

 

「いや。だってさ、ヒステリックであの顔はトラウマになりかねないし」

「アッハハハ。もう駄目。お腹痛い」

 

半端なく笑っていますね、ミナトさん。

 

「クスッ」

 

お。ルリ嬢が笑った。

 

「・・・何ですか?」

 

と、思ったら睨まれた。

俺ってば何かやらかしたかな?

 

「いや。なんでもないよ。ルリちゃんは一番大変だと思うけど、よろしくね」

「・・・それが仕事ですから」

 

子供に仕事を課すのは心苦しいけど能力的に彼女以上の人はいないから。

しょうがないとは言いたくないけど、しょうがない事だと思う。

だから、俺の出来る範囲で最大限のフォローをしよう。

なんか嫌われているみたいだけど、仕事はきっちりこなします!

 

「最後に、ここにいるのはあのプロスさんが選んだメンバーなんだから、間違いないですって」

「コウキ君はプロスさんを信用しているのね」

「俺は色々と兼任していますからね。一応は少しずつですが、かじっている訳じゃないですか。だから、一人一人が優秀なんだなって分かりますよ」

 

ミナトさんの隠れざる技術を発掘したぐらいだ。

プロスさんの眼は凄まじいと思う。

 

「もちろんです。私がいたる所から見つけ出した最高の人材ですから」

 

おぉ。プロスさん、いつの間に。

 

「無論、マエヤマさんも最高の人材ですよ」

 

いや。そう言われると照れるかな。

 

「マエヤマさんには色々な役職を兼任して頂いていますから。大変だと思いますが、改めて御願いしますね」

「ええ。任せてくれとは言えませんが、出来る限りの事をやるつもりです」

 

生き抜かない事には始まらないしな。

やれるだけはやるつもりだ。

 

「そういえば、プロスさんはどうしてここに?」

 

うん。俺も気になった。

プロスさんがブリッジに来る必要は今の所なかったはずだし。

 

「そろそろお昼時ですからな。交代で食事をと思いまして」

 

あ。そっか。忘れていた。

 

「それでは、始めにハルカさん、レイナードさん、ラピスさん、セレスさん、休憩にお入りください」

 

ま、妥当かな。

とりあえず俺がいれば通信と操舵に問題ないし。

技量的に一番のルリ嬢がいれば、二人でも回せそうだ。

 

「じゃ、お先にね」

 

ミナトさんを始めとしてぞろぞろ出て行く。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

結果としてルリ嬢と二人っきりになりました。

・・・あぁ。なんだろうこの空気。気まずい。

 

「えぇっとさ、ルリちゃん」

「・・・何でしょう?」

 

何でそんなに拒まれる?

普通に傷つくんですけど・・・。

 

「俺って何かしたかな?」

「いえ。何も」

 

じゃ、じゃあ何故に?

生理的に無理とか?

・・・もうリタイアしてもいいですか?

ま、まぁいいさ。

頑張ればきっと報われる。

好かれるよう努力しよう。

 

「ちょっと相談事があるんだけどいいかな?」

「・・・何でしょうか?」

 

おぉ? 今度は真剣な顔付きに。

 

「武装兵器の事なんだけど・・・」

「・・・・・・」

 

何? その呆れというか、予想外というか、そんな感じの反応。

 

「・・・・・・」

「・・・何でしょう?」

 

やっぱり気まずいよ。

 

「それぞれの武装を誰が担当しているのか聞いておきたくてさ」

「全てオモイカネが制御してくれますが?」

 

え? オモイカネ任せなの?

あ、そういえば、ミサイルとかもオモイカネ任せだから連合軍に向かったのか。

 

「レールカノンとかもそうなの?」

「ええ。戦艦の攻撃は精密射撃ではなく弾幕を張る事にありますから」

「・・・詳しいね。なんか経験があるみたい」

「ッ!?」

 

普通は気付かないよね。

対象が自分達に比べて小さすぎるから弾幕を張る事で退けるのが戦艦のスタイルだって。

 

「・・・シミュレーションの結果です」

「そっか。ルリちゃんも色々と想定しているんだ。頼りになるね」

 

まだ十一歳なのに偉いよな。

・・・偉いっていうか、子供に負担かけている時点で大人失格なんだけどさ。

 

「じゃあさ、もし後方から攻められたらどう対処する? グラビティブラストって前方だけじゃん? ナデシコを旋回させるのには手間がかかるし」

「・・・そうですね。レーザー砲とレールカノンに任せるしかないかと。その為にレールカノンを導入した訳ですし」

 

その為に導入した?

まるでルリ嬢が意見を出したみたいだな。 

ま、そんな権限はルリ嬢にはないだろうけど。

 

「それだけで大丈夫かな?」

「アキトさんがいるから大丈夫です」

「そりゃあ、テンカワさんぐらいの凄腕なら大丈夫かもしれないけど、最悪の状況を想定するのは大事な事だと思うんだ」

 

テンカワさんだけを頼りにしちゃいけないよな。

テンカワさんにだって限界があるんだし?

・・・あれ? ルリ嬢ってこの時期からアキトさんって呼んでいたっけか?

何かきっかけがあったような・・・。

少なくともまだテンカワさんだったよな?

う~ん、なんだろう、この違和感。

 

「それなら、マエヤマさんならどうしますか?」

 

あ、ま、いいか。後で思い出そう。

 

「そうだねぇ。じゃあさ、レールカノンの方を俺に任せてくれないかな?」

「・・・レールカノンをですか?」

「うん。一応予備パイロットだからさ、射撃とかは苦手じゃないんだ。だから、レールカノンを任せてもらえばそれなりの命中率があると思うよ」

 

ふふふ。射撃向上ソフトを用いれば精密射撃も不可能ではない。

エステバリスと違って射撃に集中できるし、絶対に外さない自信があるぜ。

レールカノン自体の数も多いし、弾幕としても活躍させられるだろう。

 

「しかし、弾幕としてレールカノンを」

「せっかく木星蜥蜴に有効なレールカノンを弾幕に使うのはもったいないよ。レーザー砲で敵のミサイルとかを防いでレールカノンで仕留めるってどう?」

「悪くないですね。でも、マエヤマさんがいない時はどうするんですか?」

 

む。それは考えてなかった。

 

「その時は弾幕として使ってくれればいいよ。俺がいる時にだけ操作を任せてくれれば」

「・・・そうですか。分かりました。プロスさんに訊いてみます」

「ごめんね。御願いするよ」

 

納得してもらえたみたいだ。

良かった、良かった。

これぐらいの事はしないと、僕ってばいらない子になっちゃいますので。

 

「ま、基本的にDFで戦艦を囲っちゃうと思うから必要ないかもしれないけどね」

 

グラビティブラストを放つ時にもいちいち解除しなっきゃいけないのって面倒だよな。

ま、仕方ないんだけどさ。砲台だけ外に出す訳にはいかないし。

 

「色々と詳しいんですね、マエヤマさんは」

「そうかな? 普通だと思うけど」

「DFの特性、DFの弊害、武装の事など普通の人では考えない事ばかりです。それに後方から攻められた場合なんて考える人はいません」

「いや。だって、死にたくないしさ」

 

戦艦に乗るんだぜ。

把握しとかないと怖いじゃんか。

未来を知っているからって危険がない訳じゃないんだし。

少なくとも俺がいる以上、何かしらの変化はある筈だ。

 

「それに、ルリちゃんだって考えていたでしょ? ナデシコクルーは皆が皆、お気楽だからね。考えている人の一人や二人いないと墜ちちゃうよ?」

「お気楽がナデシコの良い所ですから」

「そっか。子供が少ないからさ。お姉ちゃんとしてルリちゃんが二人の面倒を見てあげてね、ラピスちゃんとセレスちゃん」

「・・・子供じゃありません。・・・ですが、任されました」

 

あの有名な台詞、少女です。が聞けるかと思ったけど、聞けなかったな。ちょっと残念。

 

「うん。頼りにしているよ。お姉ちゃん」

 

お姉ちゃんとしての自覚がルリ嬢に良い影響を与えるかもしれない。

うんうん。結構、良い事したみたいだな、俺。

改めて助け出せて良かったって思うよ。

実際に助け出したのは俺じゃないけど。

 

「あの、聞いてもいいですか?」

「ん? 何だい?」

 

おぉ。少しは距離が縮んだか。

ルリ嬢から話し掛けてくれるなんてな。

 

「マエヤマさんはどうしてナデシコに乗ったんですか?」

 

ん? 前にも似たような事をテンカワさんに聞かれたな。

 

「それは理由とか目的とかって話?」

「はい。天才プログラマーのマエヤマさんが何故戦艦に乗っているのかと」

「ルリちゃんもテンカワさんと同じ事を訊くんだね」

「ッ!?」

 

何だかんだいって気が合うんだろうな。

一緒に暮らしていた時期があったみたいだし。

合わなかったら一緒に暮らさないだろ?

思考展開とか意外と似ているのかも。

 

「そうだなぁ。お世話になった人を死なせたくないってのと、生き抜く為にって所かな」

「お世話になった人とは、ミナトさんの事ですか?」

「え? 良く知っているね」

「ミナトさんと共に紹介されましたので、接点があるのかと」

「鋭いね。ルリちゃん」

 

ま、一緒に回っていたんだからそう思われるか。

偶然、同じタイミングで合流したとか思うよりそれらしいし。

 

「ミナトさんにはお世話になりっぱなしなんだ。恩人を一人危険な所に向かわせるのは薄情だしさ、役に立てる事があるかもしれないじゃん?」

「・・・ええ。まぁ」

 

納得してもらえなかったかな?

 

「それでは生き抜く為ってどういう事ですか?」

 

う~ん。ナデシコに乗るのが当たり前になっていたって言うのはおかしいよな。

とりあえず、誤魔化しておくか。

 

「木星蜥蜴が襲ってきているでしょ?」

「はい。それとマエヤマさんに何か関係があるんですか?」

 

スーッと眼が鋭くなるルリ嬢。

いやいや。襲撃と俺に関連性はないですから。

 

「そうじゃなくてさ。どうせ巻き込まれるなら、中心になりそうな所で頑張りたいと思って」

「・・・何故、ナデシコが中心になると?」

 

うわ!? 余計に鋭くなった。

 

「ちょっと考えれば分かるって。軍の情報を見ると他の戦艦じゃまったく木星蜥蜴の相手にならないんでしょ? そんな中に現れたネルガル重工のとっておきであるナデシコ。その技術は地球最新鋭であり、ナデシコであれば木星蜥蜴にも対処可能。違う?」

「・・・理論上は対処可能です」

「それなら、ナデシコが中心になってもおかしくないでしょ? まぁ、すぐに同系統の戦艦が出来上がってもおかしくないけどさ」

 

それでも、施工に時間がかかる事に変わりはない。

二番艦であるコスモスでさえ後一年ぐらいはかかるみたいだし。

 

「・・・そうですか。マエヤマさんにはそんな理由が」

「うん。それじゃあさ、ルリちゃんの理由と目的を聞かせてもらっていいかな」

「・・・・・・」

 

あ。無言。

・・・まずかったかな?

ルリ嬢ってネルガルに買われて強制的にクルーになった訳だし。

特に理由はありません、買われただけです、とか言われたら俺も嫌だしルリ嬢も傷付くと思う。

あぁ。俺ってばバカ! 無神経すぎる!

 

「・・・そうですね。私がここにいるのはここが私のいるべき所だからです」

 

いるべき所って・・・買われたからって意味?

・・・やばい。罪悪感で胸が痛い・・・。

 

「目的は幸せになる事です。私が望む幸せに」

 

あれ? 予想と違った答え。

 

「幸せになる・・・か。難しいけど、素敵な目的だね」

「・・・馬鹿にしています?」

「まさか。俺も似たようなもんだよ」

 

そう白い眼で見ないでくれよ。

馬鹿になんかしてないんだから。

 

「笑われるから秘密にしてね」

 

口元に指を立ててしゃべらないでと忠告。

ま、ルリ嬢は秘密にしてって言った事を誰かに話すような人じゃないだろ、きっと。

 

「俺の最終目的は幸せになって平穏な生活を送る事なんだ」

「・・・幸せと平穏・・・ですか?」

「男の夢にしては小さいかな?」

「い、いえ。素敵な目的だと思いますよ」

「ハハハ。ルリちゃんもそんな感じでしょ? 今は戦艦なんかに乗っているけど、誰だって幸せになりたいと思う。それなら、こんな戦争なんて早く終わらせなくちゃ」

 

戦争なんて百害あって一利なし。俺みたいな庶民にはね。

それに、そもそも戦争の理由がくだらないと思う。

どっちが悪いって訊かれたらどちらかというと地球だと思うし。

いや。どっちも悪いんだけどさ。

どっちかっていうと地球側だよね。独立派に核を撃ち込むとかありえないと思う。

 

「・・・戦争・・・ですか?」

 

あ。まずったか?

戦争って人間対人間を表す言葉だもんな。

未確認物体からの襲撃は侵略というのが正しいかもしれん。

ま、どうにかして誤魔化そう。

 

「侵略ってのが正しいのかもしれないけど、いまいち相手側の目的が分からないんだよね」

「相手側って。向こうは知性のない―――」

「知性がなかったらもっと被害を受けているって」

 

知性がないからこの程度で済んでいるってのはむしろおかしいでしょ。

知性がないなら野生の獣みたいなものだよ、見境なく破壊するって。

知性があるからこそ、これだけの被害で済んでいるんだと思うんだよね。

 

「それにさ、機械で攻めてくるって事は誰かしらがどこかで生産して、かつ、制御しているって事じゃないかな?」

「じゃあ、何故接触してこないんですか? 知性があるのなら、誰かしらに接触すると思うのですが?」

「う~ん。そうだな。言葉が通じないとか?」

「・・・はぁ・・・」

 

呆れられちゃった。ミスったかな?

 

「言葉が通じなくても意志の疎通は可能だと思います。そうでなければ、地球連合が発足する訳がないではないですか?」

 

ま、そうだよな。

言葉が通じなくても意志疎通が出来たから国際間で手を取り合う事が出来たんだ。

そりゃあ誰かが通訳としていたのかもしれないけど、その通訳自体が意思疎通できなければ始まらないし。

 

「マエヤマさんは鋭いようでどこか抜けているんですね」

 

呆れられた果てに嫌な印象を与えてしまった。

抜けているとか。十一歳の子供に言われるのは情けなくないか?

いや、自覚はあるけども。

 

「ルリちゃんが鋭いんだよ。ルリちゃんは大人だね」

 

背伸びしている感じ? 子供扱いされるのが嫌いって早く大人になりたいって証拠でしょ?

 

「大人にならなければならない環境にいましたから」

 

えぇっと、とても十一歳の子がする表情じゃないんですけど。

憂いとか蔭りがある表情とか。本当に十一歳でしょうか?

 

「そっか。でもさ、ナデシコなら子供でもいいんじゃないかな? 優しい人ばっかしだし」

 

ミナトさんがいればルリ嬢は甘えられると思う。

今までは研究所で機械みたいに育てられていたみたいだけど、これからはミナトさんが優しく暖かく育ててくれる筈だから。

 

「私、子供じゃありません。少女です」

 

おぉ。ここにきてこの台詞が聞けるとは。

 

「そっか。それなら、少女として大人の女性に色々と教えてもらいなよ。将来立派な女性になる為にもね」

 

少女も子供だよって言い聞かせるのもいいけど、こういう説得方法も悪くないんじゃない?

こう言えば、もっと早くミナトさんとかに心を開くかもしれないし。

 

「・・・そうですね。そうします」

 

・・・納得してくれました。

何だろう? こんなに物分りの良い子だったっけ?

他人を遠ざけるような態度も取らないし。

・・・俺は敵視されているけどさ。

・・・自分で言っていてなんか悲しくなってきた。

 

シュンッ。

 

「コウキ君。ルリちゃん。交代しましょ」

 

ブリッジの扉が開いて、ミナトさんの声が聞こえた。

食事を取り終えたみたいだ。

 

「分かりました。ルリちゃん。一緒に行く?」

「・・・いえ。用があるので」

 

・・・断られてしまいました。

やっぱり俺には心を開いてくれないか。

これは長い目で見るしかないな。

 

「そっか。分かった。じゃ、また後でね」

 

一人寂しく食堂へ向かいます。

あぁ。早く友達作らないと。

ずっと一人で食事とかになったら嫌だしな。

ま、早く食って来て、さっさと戻ってきますか。

今日はカツ丼にしよっと。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

「えぇ!? 同棲していたんですかぁ!?」

 

食堂でご飯を食べているとコウキ君の話題に自然となっていた。

メグミちゃん曰く・・・。

 

「大人って感じですよね、何かお兄さんみたいでした」

 

ふふふ。それは日常生活のコウキ君を知らないからよ。

 

「コウキ君って結構子供っぽいのよ。初心だし。変な所で負けず嫌いだし」

「・・・ミナトさんってマエヤマさんの事に詳しいんですね」

「そりゃあ一年間ぐらい一緒に住んでいたもの」

「へぇ。一年間も・・・って。えぇ!? 同棲していたんですかぁ!?」

 

となった訳。ま、同棲していたなんて普通じゃないものね。

 

「同棲じゃないわよ。同居していただけ」

「で、でも、同じ部屋に男女でいたんですよね」

「嫌ねぇ。姉弟みたいなものよ」

 

初めて部屋に入った時なんてカチコチだったし。

ふふふ。思い出すだけで可笑しいわ。

 

「それじゃあミナトさんとは何もないんですか?」

「え? 特には・・・」

 

何だろう? 認めたくない。

それでも、私のペースは崩さない。

 

「どうしたの? 惚れちゃった?」

「そういう訳じゃないんですけど、何か頼りになるし。若くして成功していますしね」

 

・・・何だ。

憧れか。

・・・良かった。

 

「あら。玉の輿って奴を狙っているの?」

「そんなんじゃありませんよ。でも、成功していて悪い事なんかないじゃないですか」

 

ま、若い子には魅力的よね。

・・・私もまだ若いけど。

何だろう? やっぱり私は結婚とかにも充実感が欲しいかな。

 

「ミナトさんはマエヤマさんの事をどう思っているんですか? 姉弟とかじゃなくて、個人として」

「そうね。優しくて可愛い変な子って感じね」

 

優しいし、いじり甲斐がって可愛いし、変な子だし。

 

「・・・とっても穏やかな顔していますよ。ミナトさん」

「そうかしら?」

 

コウキ君といると落ち着くしね。

 

「セレスちゃんとラピスちゃんはマエヤマさんの事をどう思ったかな?」

 

メグミちゃん。

小さい子に何を聞いているのよ。

でも、ま、女に年齢なんて関係ないか。

 

「・・・悪い人じゃない」

「・・・優しい人だと思います」

 

ふふっ。良かったじゃない。コウキ君。

高評価よ。

飴が効いたかしら。

 

「そっか。じゃあ、色々とコウキ君を頼るといいわよ。コウキ君って結構世話焼きだから」

 

子供好きなのかしら?

セレスちゃん達を相手にしている時、とっても優しい眼をしている。

 

「・・・分かった」

「・・・はい」

 

頑張ってね、コウキ君。

 

「そうそう、ミナトさん」

 

ここからは女の子だけの姦しい話みたいね。

メグミちゃんもそうだし、皆良い子みたいだから、これからが楽しみね。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 


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