その日、五条 悟は呪専で伊地知と打ち合わせをしていた。
そこへ、伊地知の携帯が鳴る。
「はい。伊地知です」
『あ、伊地知ー? ちょっと調べて欲しいものがあるんだけど』
「五条、さん?」
『何?』
五条と伊地知は視線を合わせる。伊地知が電話番号を見せると、確かに五条のもの。
五条は電話を取り出す。すり替えられてはいない。
「……いえ。何を調べればいいのですか?」
『20年前に閉校した四辻学園の生徒の行方を追ってほしい。名前は吉国紘一』
「何故か、聞いてもいいですか? 五条さん」
『欲しい呪物を持っているらしいんだよねー。住所だけ教えてくれれば、後はこっちでなんとかするからさ。じゃあ、1時間後にまた電話するから、』
そして、電話は切れる。
「僕の名前を騙るなんて大胆だね。ちょっと見に行こうかな。伊地知。偽の住所言って。もちろん、吉国って奴の事も調べといてね」
「は、はい。わかりました」
それは、全くの気まぐれだった。
単なる好奇心。
それで済まなくなったのは、待ち伏せして相手を見た瞬間。
「せんせー。せんせーの匂いがする」
「あ、バレちゃった? 早いな!」
そういうのは、無下限術式と六眼の男と宿儺混じりの青少年……まさに、自分自身と、悠仁だった。
「うーん。僕は吉国って子と平和的に取引したいだけなんだよね。見逃してくれないかな? 自分と同じ術式の相手と戦うのは嫌だろ?」
「いい訓練になりそうだね。僕には双子の兄弟はいなかったはずだけど」
ぐっぐっと準備運動を始める。これから起こるであろう戦いに備えて。
「せんせー」
「悠仁は動かないでね。取引しないか? 五条 悟。君は吉国の現在地を教えて僕を見逃す。僕からは、そうだね。一週間だけ呪霊を祓うのを手伝うよ。呪術界はいつだって人手不足でしょ?」
「全然足りない♡ 君は何? 目的は? 僕と同じくらい動けるんなら情報料として最低1ヶ月は馬車馬してほしい」
「そうだね。僕は並行世界の君で、ここへは個人的な用事で来てる。本当は日帰りの予定だったんだ。1ヶ月はちょっときついな」
「並行世界……個人的な用事って?」
「せんせーは「悠仁」」
「悠仁を連れてきたのはなんで?」
「悠仁を抑えられるのは僕ぐらいだからね」
「せんせー、心配性なんだよな。俺、ちゃんといい子にしてるのに。そんなに俺のこと、信じられねぇ?」
「君を信じるよりは腐った蜜柑を信じる方がまだマシかな……」
「ええ……。なんで?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみよう」
悠仁は自らの腹に手を当てた。
「……お腹減った」
「悠仁。そこ胸じゃなくてお腹ね。まー君、いつも胸じゃなくてお腹で考えてるけどさ」
ウケる。こんなキャラだっけ? 並行世界っていうなら、多少の差異はあるのかな?
「なんかあったの? 後で聞けばいいか。お腹が減ってるなら食事にしようか。並行世界から来たならお金ないだろ。奢るよ」
「えっ お構いなく」
「用事が優先かな」
「20年前のことでしょ? いくら伊地知でも時間かかるよ。それこそ、1ヶ月は欲しいね」
悠仁をチラリと見る並行世界の僕。
「悠仁。1ヶ月だけ我慢出来そう?」
「俺もきついけど、先生大丈夫? 1ヶ月眠らないつもり?」
「もしかして、宿儺が制御できてないのかな?」
「ちょっと色々あってね。あまり他の術師にも会いたくない。そうだね。携帯と近場のホテルを一部屋用意して欲しい。それで携帯から任務を投げてくれれば自力でどうにかしていくから」
「一部屋でいいの? 悠仁もプライベートが欲しいよね?」
「僕は悠仁から目を離すつもりはないよ」
「せんせー。吉国に会うまでずっと寝ないつもり?」
「こちらの世界に迷惑は掛けられない」
「うーん、じゃあこうしよう。君が眠っている間、僕が悠仁を見張ってあげるよ。ほら、これで長期滞在できるでしょ。こっちの悠仁はいい子だし。その子も良い子に見えるけど?」
「……こっちの世界の悠仁は、食べるのが好きかな?」
「お寿司とか好きみたいだね」
そこで、僕は何かを決意したようだった。何を判断基準にしたんだろうね?
「……わかった。悠仁は昼は太陽の光に当てとけば大体無害だから、その間を任せる。夜は僕が直接見張る。任務も夜の間に入れてもらった方が有難いかな。太陽の光が入らない場所に行った時は無限を解かないで」
「宿儺って太陽の光苦手だっけ?」
「早速だけど、軽くお腹に何か入れて少し休みたいかな。ずっと気を張ってたし。今夜から動くからさ」
「良いけど、僕、遠慮なく特級の任務投げるよ? 悠仁と一緒に任務こなすんだ? 巻き添えとか大丈夫?」
「夜なら全然問題ないよ。ね、悠仁」
「いやー。結構痛い目あってる気がする」
その後、喫茶店に行き、僕がデザートを3人前頼んで食べた後は連れて行ったホテルで眠ってしまった。
だいぶ疲れてたみたいだね。お腹が減っていると言いながら、悠仁は食べるのを遠慮していた。
「悠仁。じゃあ報告するから、呪専行くよー」
「えっでも、良いのか? せんせー、接触はできるだけ避けるって」
「良いの良いの」
そうして、僕は悠仁を連れ出した。