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マシュマロでもこちらでも。
「ということで、並行世界の悠仁くんでーす!」
「よ、ろしくお願いします?」
紹介されて、戸惑いがちな悠仁と、もっと戸惑う一年生。
なお、こちらの世界の悠仁は今、死んだことになっている為いない。
「並行世界のってまじで? 揶揄ってんの?」
「並行世界の俺と俺、そんなにそっくり?」
「ん……。よく見れば違うな。キューティクルとかこっちのがツヤツヤ」
「俺の方が可愛い?」
「「別人だな」」
「つーことで、昼だけお願いします……?」
「テンション低いね、悠仁!」
「あー。俺、昼は寝てる事も多いし」
「悠仁夜型?」
「そ」
「そっか。夜は目が離せないみたいに言ってたし、なんかあるのかな。制服真っ白だしね。免許見せて」
渡されたそれは、夜限定で特級と書かれていた。ちなみに昼は3級である。
「「特級!?」」
「ウケる。昼夜で等級違うの? なんで?」
「んー、勝手に色々言うと五条先生が困ると思うから言わない。俺とこっちの俺、多分事情が大分違うし、話しても事がややこしくなるだけかなって。先生も事情話すかどうかはだいぶ悩んでたみたいだけど。悩んだ末での結論だから、俺は従うよ」
「それだけややこしい事情なら、逆に知りたいけどね。じゃーまず、任務入れようか」
「……んー。わかった」
そこで、4人で任務へと向かう。
帳を下ろすと、少し雰囲気が変わった気がした。
僕が。この僕が、背筋をぞくりとさせてしまった。
悠仁は、人間離れした速度で駆けた。
こっちの悠仁より早い。
そして、聞こえる宿儺を呼ぶ声。爆発する呪力。消える呪霊の気配。
「!!」
戻ってきた悠仁は、ただ一言呟いた。
「お腹減った」
「さっきも言ってたよね。奢るって言ってるのに」
「五条先生が用意したのしか食べちゃダメだって」
「なんで?」
「言っちゃダメなんだ」
「理由はあるわけね」
「そう」
「特級なのは宿儺を呼ぶから? そこまで制御出来てんの? でもそれなら昼も特級にならない?」
「ちょっと特殊な方法でいうこと聞いてもらってる」
「マジで? それも内緒?」
「うん」
「絶対何か裏がある。宿儺を信用するのは危険だぞ」
伏黒の言葉に、キョトンとして悠仁は笑う。
「宿儺はそういうのねぇよ」
一瞬だけ見せたそれは、確かに。嘲笑だった。
「……宿儺と話せる?」
「ちょっと難しいかな」
「意識ごと殆ど吸収しちゃったとかかな」
「そうでもない」
「知りたいなー。教えてよ♡」
「先生が良いって言ったらな」
その後、伊地知から中間調査結果が来た。
よく調べると、行方不明者がかなり出ているらしい。
でも、何故それが表沙汰になったのかがわからない。
吉国の所在は、まだ調査中である。
それから、監視しつつ様子を見た。
並行世界の僕は夜は大人しく悠仁と共にバンバン依頼を片付けてくれるし、昼は休んでる。
悠仁も、凄く良い子だと思う。宿儺を使わないとまだまだだけど、その分宿儺が大人しくて従順なんだよね。
どうして問題なのかわからないな。
吉国が見つかって、僕も六眼で見たけど、変な所は何もなかった。
それで、並行世界の僕は僕に頭を下げた。
ーー数日、夜を含めて悠仁を預かってほしい。
僕は快諾した。
「ってことで悠仁! 七海! 並行世界の君だよ!」
「えっ 俺!?」
「……妙。だな」
「また厄ネタを……」
宿儺が警戒した声をあげ、七海が頭を押さえる。
「よろしくな」
「ということで、悠仁と悠仁、チェンジします!」
「へ?」
「今、追っているの、結構強いらしいし、改造人間とかも出てるだろ? 慣れてるっぽい悠仁にチェンジした方がいいと思って」
「あー。まあ、良いけど。順平のお母さんが殺されて、学校で暴れるんだろ? 呪詛師なら、殺していい?」
「あ“? ダメに決まってるんだろ!! ってか、順平のお袋さんが殺される!? 助けに行かないと!」
「んー。悠仁は呪詛師殺すのに戸惑いはないの?」
「っていうか、人を殺すのは好きかな。先生がだめって言うからしないだけで」
「はあ!? なんでだよ!」
「えーっと。先生がややこしくなるから言っちゃだめって」
「……理由はあるんだね。うまれもっての資質じゃなく」
「うん、オカ研の活動の時に後天的にそういう体質になった」
僕は悠仁をじっと見つめる。宿儺混じり以外に異常は見られないけど……いや。何か違う気がする。
「悠仁。心当たりある?」
「うー。活動はすげー色々してたからなぁ」
「うん。後で活動内容全部聞かれて、先生にすげー怒られた。好奇心で呪術界まで……とと」
「えっ まじで?」
「なるほど。悠仁。後で活動内容教えて」
「そうだ。順平のお母さん、早く助けに行かないと死んじゃうけどいいの?」
「そーだ! 伊地知さん、急いで!!」
「待って僕もいくよ」
救助に行くと、果たして真人はいた。
「なんで宿儺の器が2人いるのさ」
「僕も2人いるんだなぁ。すごいでしょ」
駆けつけてきた順平を悠仁が庇い、僕は真人と対峙する。
それは夜だった。
「お腹減ったなぁ」
悠仁が呟く。まただ。背筋がぞくりとする。そして、ナイフでドアを切りつけた。
何か変だ。
「五条さん! 扉が急に開かなくなって!」
バンバンと戸を叩く七海の声がする。
「結界? 全然呪力を感じないけど?」
悠仁達を庇いながら、悠仁に注意を払う。
「なあ、五条せんせー。よーやくふたりっきりになれるな♡」
「全然違うよね。あと、僕は社会的に終わるつもりはないかな」
「ああ、他の奴らは皆すぐ真人が殺しちゃうから、すぐふたりっきりになれるよ」
「うーん、なんだか雰囲気悪いし、僕は帰らせてもらおうかな」
硝子に触手を伸ばす真人。硬質な音がして、弾かれる。
「え?」
「お腹減って、お腹減って、どうしようもないんだ。今なら、残さず全部食べれそう……」
メキメキと背中が盛り上がり、パシャンと血を撒き散らして黒い羽が生み出される。
その牙は大きく、危険なほどに甘い香りが充満した。
「じゃー。今から、食い殺してあげるから順番に並んでー」
「「「はーい」」」
「母さん!!」
「小僧! 正気に戻れ!!」
順平と宿儺が慌てて2人を止める。
真人に……呪霊に牙を立てた悠仁。真人は呪力を吸われて解放されて、しゃがみ込んだ。
寒い寒いと震えながら蹲る。
僕はすぐに「赫」を撃つ。
「宿儺」
狭い場所で加減して撃たれたそれは、宿儺に防がれる。
「大丈夫だって。俺、ちゃんと首をもがないように、優しく牙を入れるし! 快楽物質もたっぷり打ち込むから、痛いのも気持ちよくなると思うし! ちょっと寒くなるけど、俺、ぎゅーって抱きしめて、温めてあげるし! もちろん、ちゃんと潰さないようにそっと抱き締めるし!」
悠仁は次に悠仁の制服の首元を破り、唇を寄せる。
無理矢理悠仁を奪って、悠仁を、いや、吸血鬼を蹴り飛ばす。
「宿儺以外の呪力が、術式が見えない……!! お前、何者だ!?」
「俺? バンパイア。ノスフェラツ。好きな方でどうぞ」
「あっ 遠くて諦めた吸血鬼伝説!!」
悠仁がハッとする。
「そー。それで吸血鬼探しに行って、食い殺されて吸血鬼になったんだ。俺ら。宿儺を食ったのはその後。呪力とか関係ないから、六眼でいくら見ても見えねーよ」
「ほほほ、本当の吸血鬼!?」
「順平、目を輝かせてんな!」
「言って欲しかったな、まじで!!」
「な、気持ちよくて蕩けそうだろ? 衝動に身を任せろよ。優しくするからさ……」
悠仁からより一層甘い匂いがする。これ、媚薬か!! やば、吸っちゃった……!
七海が必死に扉を攻撃する音に混じり、声が聞こえた。
「そこ退いて!」
「せんせー?」
僕の声がして、扉を刀が叩き壊す。呪力を持たない、なんの変哲もないなまくら刀なのに、それはばちばちと音をさせて何かを弾き、切り裂いている。
それから、入ってきた目つきの悪い中年の男が、火を放った。術式は見えない。呪力も見えない。
でも悠仁は、赫よりもその火こそを恐れた。
悠仁はさがり、透明なバリアのようなもので身を守って、苛立たしげに翼をはためかせた。
「悠仁。真人を食ったな。こっちの世界には不干渉って言ったろ」
「腹減った! 腹減った腹減った腹減った!! だってひでぇだろ、ちょっと拾い食いしただけで、呪術師しか食えなくなるなんて!! しかもあいつら超レアだし、すぐ呪霊と戦って死ぬし! どうすんだよ、どうすんだよ、まじで! ゾンビは処分できなくなるし、眷属作ったらライバル増えるから子作り禁止だし!!」
「ひどいのはこっちだよ。呪力とか関係ない人食いってだけでも理解不能なのに、そんな化け物が徒党を組んで日本に来るとか、呪力を、呪いの王を拾い食いなんて偶然で手に入れるとか、ほんと勘弁してよ」
「じゃあ、なんでキャリアを殺したんだよ!! 始祖様のご友人だったし、もしもの時、ゾンビが始末できなくてすげー困るんだけど」
「こっちも色々戸惑ってたんだよ、わかれ。不死族が、不死族の眷属の出来損ないにしか殺せないとか、代替わりがあってキャリアが生まれなくなったなんてわかるわけないだろ? キャリアも君らの同類だと思ったんだよ」
「腹減った腹減った腹減った!!」
「……落ち着いたら僕の血を少しあげるから、後はいつも通り豚の内臓で我慢して」
悠仁は羽をばたつかせる。しかし、なんとか折り合いをつけたのか、大人しくなっていった。
「直吸いしたい」
「僕が君の眷属になったら、呪術師達が一瞬で全滅すると思うけど? そんなに飢えたい?」
「うーうーうー」
「同情はしないよ。君、血啜りだし。そもそも趣味の悪い探索と拾い食いが原因だし」
「……」
「牙、引っ込めて」
悠仁はぐいぐいと歯を押し込んでいく。
並行世界の僕は、注射器で血を採って吸血鬼の悠仁にあげた。
ストローでちゅうちゅうと吸う。
「匂い、ひっこめて」
「……」
甘い匂いが引いていく。
そして、もう一本血をもらって、空腹が落ち着いたのか悠仁はペコリと頭を下げた。
「ごめん、せんせー。要件は済んだ?」
「これから説得」
「おい、俺はゾンビの後片付けなんてしねーぞ! 大体、殺したってどういうことだよ」
「いや、それは本当に申し訳ない。必ず守ると約束する。ゾンビになった僕の親友を火葬してあげてほしい。後は、対バンパイア装備を分けて欲しい。本当に困ってるんだ」
並行世界の僕が頭を下げ、呪力の欠片もない、けれど炎を生み出した男はため息をついた。
「他の奴らにも聞いてみる。その刀と同じような効果のものぐらいは用意できると思う」
「ありがとう、助かるよ」
「……とりあえず、悠仁。オカ研の研究資料もらおうか、後説教ね」
「……はい」