The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
◆お待たせしました……時間が、かかりました。
代りにではないですが今回は【ウルサスの子供達(Dr.エッグマン乱入)】の始まりと前日譚を5話分立て続けで投稿しようと思います。
目標:1日1話。
投稿順番は話の流れを軸にして行うため時系列が前後しますのでご注意の程をお願いします。
斧持つ少女が立ち上がる、ほんの少しの瞬間。
運命の日:レールが変わった時。
1096年12月。
◆◆◆
◆ペテルヘイム高校・空き教室◆
かつて生徒達が学び、時に他愛な話で時間を潰し、新刊の雑誌を持ち寄って掲載された華々しい衣裳に心を踊らせ、たまに色恋沙汰で盛り上がり、ある日は自身の意地や誇りをかけて喧嘩をしたりしたであろう教室は最早その頃の名残はない。
教室にあった机は床に敷いて寒を凌ぎ燃やして暖を取るために天板を解体されてその姿はなく、残った金属製の足はうってかわって生徒の足元から生徒の手元に移り原始的な武器に成り果てた。
カーテンと名のついた布はいずれも窓から外されて、凍える体をわずかでも冷気から守るために毛布やマットの役割を押し付けられた。
以前はうんざりするほど沢山あり、その頃は散々なくなればいいのにと思っていたはずの教科書や参考書は、高校が学び舎から監獄に変わってすぐに炎に
恐らくは教師か生徒の趣味だったのだろう、ウルサス帝国で広く愛されるバラやヒマワリを活けて生徒の心を癒していた花瓶はほんの少し前に起きた生徒同士の衝突によって原型を無くし、その最期は生徒の手の甲に深い傷を与える欠片となった。
今、この学校に与えられた唯一の役目は生徒の隔離。
そして
残された時間は、ない。
限界が、近かった。
埃で薄汚れた学生服を着た、薄緑寄りのシルバーブロンドにモノクルをつけたウルサス人少女のアンナは寒さで震える膝を抱えて空き教室の片隅で
彼女はレユニオンによってペテルヘイム高校に強制収容されて以降、自身を取り巻く周囲の事態は不明瞭のまま悪化していることだけは酷く痛感していた。
収容後にどうにか友人や同年代の学生らと合流してグループを作ったものの、物資や食糧を狙う他のグループから襲撃を受けたり派閥を作ろうとする横暴な貴族生徒グループにつけ狙われたりと苦難が絶えなかった。
襲撃されて全滅する前に腕っぷしで名を挙げているソニアと合流できたことがアンナにとって唯一の幸運ではあったが、それは死に到る渇きの中の露雫程度でしかないことはしがない学生の彼女であっても判ることだった。
せめてもの連帯感を築くために自分達のグループを【ウルサス学生自治団】と名付けてはみたが、メンバーの中で独立を保つべきか貴族グループに臣従すべきかといった方針についての互い違いが生まれてきており、いずれ物別れに終わる未来も見え始めている。
そして高校に備え付けてあった食糧庫の一つが火災で焼失し、無事のほうの食糧庫も強圧的な貴族生徒達に占拠されている今、アンナは遅かれ早かれペテルヘイム高校で魔女の釜の蓋が開くであろうことを予感していた。
「(私にはソニアのような強靭な心も、ナターリアのような頂点に立つ威容も、ロザリンのような圧倒する力も、ラーダのような他者を癒やす優しさも持ってない。だったら私は校内で跋扈する貴族生徒や弱者から強奪する集団とどれだけの差があるというのでしょうか……?)」
アンナは
その手に握るものはあまりに無意味。
あるのは空腹紛れと現実逃避には役に立つ、無いよりはマシの読み途中だった連載小説の最新刊だけだった。
「……どこまで読んでいたんでしたっけ」
アンナは徐に小説の栞を挟んだ場所に手を触れた。
何となく、このままでは
「しかし、まさか物語の最初から犯人の正体からその手口までバラされるとは思ってもみませんでした」
今アンナが読んでいるのは【ズーレストランのトラブル報告書】という連続小説で、主人公でレストラン人気一番のシェフ『ハリー・ザ・マウス』が、レストランの秘伝レシピを盗もうとする宇宙人から店を守ったり熱々スープを冷まそうとしてくる商売敵から逃げながらデリバリーを果たしたりするといったコメディ寄りの明るい作品だ。
その最新話が数日前に発売されてアンナは直ぐに買って読んだのだが、今回は普段のコメディとはうってかわってシリアスなストーリーとなっていたことに驚いた。
内容は『シェフのハリー自慢の【キノコ入りポタージュスープ】に必要なマッシュルームが瓶ごと盗まれたため、その日のディナーまでに見つけようとズーレストラン内を駆け回る』という所謂推理物なのだが、実は犯人がストーリー最初に出てくる冷製料理が評判の同僚シェフだと冒頭から明記されているという斬新なものだった。
粗筋としては同僚シェフの『ソリオ・ザ・スネーク』を唆したのはいつもの黒幕で、ズーレストランの秘伝のレシピを狙う宇宙の食いしん坊タマゴタケ星人だ。
ソリオは料理の絹糸のように繊細な味わいと食感の滑るような喉越しのよさから高い評判を持つ一流のシェフである一方、彼自身は極度の猫舌でアツアツのスープ料理は味わうどころでない天敵の料理として嫌っており、ハリーがスープ料理で評価されている現状に強い不満と嫉妬を覚えていたのだ。
そこに目をつけたタマゴタケ星人がソリオに対し、
『ハリーのマッシュルーム瓶が今夜のディナーまでに見つからなければ、スープ料理は作れずに他のメニューを出さざるを得なくなるだろう』
と嘯いたことでソリオは犯行を計画、タマゴタケ星人の協力を得てマッシュルーム瓶隠蔽計画を実行した。
そのプランがまた驚きで、ソリオはいかにもマッシュルーム瓶泥棒が外から来たように見せかけておきながら、実際には瓶を丸呑みして胃袋に隠すという奥の手を繰り広げた。
これにはハリーも当初はまんまと騙されてレストラン外の調査に向かったりするのだが、次第に外部の痕跡が意図的なのとソリオが調子の悪そうに腹の辺りを撫で回すことからレストラン内の犯行を考察し始め、ディナー時間の一時間前に真相に辿り着くという話である。
無論ハリーは現場に残された痕跡や知り合いの警官であるボリス・ザ・ドッグ刑事の鼻を頼りに調査を進めるのだが、その裏でソリオが偽の証拠の作り方やアリバイ工作、また胃に重くのしかかるマッシュルーム瓶と戦いながら犯行を隠し通そうとする描写はアンナを唸らせる出来であった。
「(……いけませんね。面白いですがコレはやっぱり飯テロです。文字で見る味覚の暴力です)」
アンナはストーリーの一節に思いを馳せた。
ハリーが調査に行き詰まった時にソリオがタマゴサンドを差し入れするのだが、それはソリオの妨害だった。
ハリーが表現豊かにタマゴサンドに舌鼓を打つ間にソリオは偽の証拠を持ち出して調査を誤った方向へ誘導しようとするのだが、ここでソリオは一つのミスをした。
ハリーの相談に乗ることでミスリードを目論むソリオだったが、会話のふとした拍子にマッシュルーム瓶底の特徴的なマークについて触れてしまうのだ。
ソリオは瓶を呑み込む際にその瓶底を見ていたためにそのマークのことを口にしたのだが、実はそのマークを知る人物はレストランの中ではハリーだけだったのだ。
それをきっかけにハリーはこれまでの着眼点を一新することになり、マッシュルーム瓶の本当の隠し場所を見抜き、最後にソリオの腹の内に秘めた思い等に気づくことになった。
ストーリーの最後でハリーが何故マッシュルーム瓶を棄てなかったのかをソリオに尋ねた時、ソリオが『食材を無駄にすることは例えハリーのスープ相手であってもできなかった』と告白するシーンは彼が抱える身勝手な嫉妬に憤慨したアンナであってもそのプロ意識には思わず目頭が熱くなった。
「……食べたいですね、タマゴサンド」
アンナは最後にタマゴサンドを食べたのがいつだったかを思い返した。
「確か……そう、あの日、あのダイナーで……そういえば家が……」
アンナは唐突に思い出した。今までの極限状態ですっかり忘れていたが、彼女は衝撃的な出会いを果たしていた。
「……Dr.エッグマン」
少し前の外出時に偶然にも出くわした、自らを支配者と名乗るイレギュラー。
謎の男。
異星からの侵略者。
驚異の科学者。
唯我独尊。
浮かぶ言葉はどれもポジティブなものではなかったが、それでも今はタマゴタケ星人の悪辣な知恵に耳を傾けるソリオと同じように縋りたくなった。
「博士が私にくれたカプセルは……」
アンナは鞄の中を弄ると一つのオレンジ色をした卵サイズの装置を取り出した。
用途は源石避け。
もし装置に不調などがあれば
アンナは源石避けの原理こそよく判らないがとにかく『通信』の機能に望みを託し、Dr.エッグマンから教わった起動法である装置中心の溝に沿って半回転させて、上下に引っ張った。
◆次話「The day Before E-Day」、次の夜頃投稿予定です。
◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。
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