The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
◆5回連続投稿……ぎりぎり達成です(震え声)。
時系列は平和だった頃から現在の地獄に戻ります。
R05/10/24
文中の一部表記を変更
負傷者のような救助対象のみを助けるか
テロリストのような救難要素を排除するか
危険な地域を制圧して安全な地域にするか
どこか遊園地のゲームコーナーで聞いたことが有りそうな起動音が鳴ると、装置の内側にあった黒い板状の物に色がついた。それは小型ながらも正にテレビのモニター同然であった。
「お願い、繋がって……!」
アンナが祈ること数秒、モニターはしばらくどこかの部屋を映していたが、そこにアンナ目的の人物が入室してきた。
[チェルノボーグから非常コールが入ったかと思えば、やはり『イースチナ』ではないか]
Dr.エッグマンの『イースチナ』の一言に一瞬呆気にとられたが、そう言えば初対面時に偽名としてそう名乗っていたことを思い出して気を取り直した。
「(『
[ワシか?ヌワーハッハッハッハ!よくぞ聞いてくれた!ワシは世紀の大発明を成し遂げようとしている所じゃ!生物内に蓄積した源石成分を消去する装置の第一号が完成した!今は原生生物をとっつかまえての試行実験を解析しておった所よ!]
「(今さらりととんでもないことを言いましたね、この人)」
アンナは世界がひっくり返りかねない言葉を聞いてツッコミを入れたかったが、今はそれどころではないため出かかった言葉を飲み込んで
「それはおめでとうございます、博士。その件はまた後でお伺います。今日、博士とお話しようと思ったのには訳がありまして……」
[チェルノボーグにおるんじゃから暴動に関してじゃろ?少し前から都市の富裕層の移動が増えたのが
「(飛び出てくる言葉がさっきから色々と衝撃的過ぎます……)そうです。私達は今その真っ只中に取り残されています」
[ワシに助けろ、と?]
アンナはDr.エッグマンの黒眼鏡に隠れているはずの目が鋭くなった気がした。
見えない眼光に怯みそうになったアンナだったが、彼女はお腹に力を込め気合いを入れて話し始めた。
「はい、率直に言えばそうです。感染者の暴徒達は私達、都市内の学生をペテルヘイム高校に強制収容しました。周囲は暴徒に包囲されて逃げ場がなく、高校も火災事故で二つある食糧庫の一つが焼失して食糧があとわずかになりました。残った食糧庫は貴族生徒が占領して独占してしまい、校内は生徒同士の略奪と暴行が相次いでいます。あと一つ火種があれば、高校で惨劇が起こりかねません。時間の問題なんです」
アンナはその窮状をDr.エッグマンに訴えるが、対するDr.エッグマンは冷ややかな目を以て返した。
[その状況はオヌシらウルサス民が作ったものじゃろう?未知の病に対して正確に知ろうとする志を持たず、未知に恐怖して未知を弾圧したのはオヌシらの選択じゃ。結果暴動を引き起こして困窮するなどという因果応報のツケをどうしてワシが払わねばならん?]
飽々するかのように言い放ったDr.エッグマンの主張が偽りない本心であることをアンナは理解していた。
以前アンナが遭遇した時にも言及したように、Dr.エッグマンにとって【鉱石病】は警戒こそすれども扱いそのものは只の病でしかない。
そのためウルサス帝国のような【鉱石病】対策として感染者の追放・排除に終始する方針は問題解決の助けにならないとして批判的であった。
更に言えば【鉱石病】根絶において逆効果でしかない不見識な方針を帝国政府が採ったことを愚かと断じたことから、Dr.エッグマンにウルサス帝国への気遣いなど一切ないどころかウルサス帝国に協力する義理すら微塵もないことも彼女は理解していた。
むしろウルサス帝国が感染者の暴徒に襲われる他国を眺める立場に立とうものならここぞとばかりに追い討ちをかけるであろうことを思えば、まだDr.エッグマンのスタンスのほうがましであるとすらアンナは思えていた。
故にアンナは、
成功の見込みは僅かしかなく、成功しても後々更に悲惨な結末にならないとは言い切れないが、それでもアンナは今のような『ただ周りの人に任せて籠もる』現状よりはマシだと確信して次の言葉を紡いだ。
それは。
「でしたら博士、私達が『あなたの国』の『国民』であればどうでしょうか?今なら新しい土地だって手に入るかもしれませんよ?」
都市一つを餌にした外患誘致。
救助要請ではなく、逆にDr.エッグマンのチェルノボーグ侵攻を唆すものであった。
◆◆◆
◆エッグマンタウン・司令塔◆
「ほう?何を言い出すのかと思えば、我がエッグマンランドの国民となるとは……実に魅力的な申し出じゃな。それでワシを鉄火場に引きずり込む気か」
イースチナの提案にワシは意表を衝かれた。
てっきり有り合わせの金をかき集めて脱出報酬を準備するだとか、ワシに身売りして保護してもらうだとか、その辺りかと思っておったが、これはまた大きく出たものじゃ。
[『世界を支配する帝国』とか言ったのは博士のほうでしょう。鉄火場なんて御手の物では?それに今なら博士の身動き一つで沢山の人達から心よりの『Dr.エッグマン万歳』の声を聞くチャンスですよ]
「ほほう、万雷の喝采の中に響くワシの名前とは……ウム、実に心地良いな!」
[そこまで言ってないんですが]
「何か言ったか?」
[いいえ、特に。ほら、よく言うじゃないですか。『真の友は窮地の時に明らかになる』と。普通なら出来る範囲は精々個人の範疇ですけれど、博士の実力なら遥か上の事まで可能だろうと思うんです。もしそうやって私達始めチェルノボーグの人達の窮地を救えば民忠アップ間違いなし、『エッグマンランド』に栄光あれのスローガンは堅いですよ]
イースチナがワシに行動を促そうと様々な言葉を投げかけてきた。
確かにワシはイースチナに最初ああ言ったものの、別に救出そのものは吝かではない。
都市に関する情報収集の一端を黙って担わせたしの、その見返りと考えれば大したことではない。
だからと言ってワシがタダで手を差し伸べるのが当然だと思うのであれば厚かましいというものじゃが、イースチナはそこを正しく弁えておる。
こやつは自身の
まさか我がエッグマンランドの国民になることで単なる奴隷だの小間使いだのになることなくワシの庇護を受ける権利を求めてくるとは。
その判断についてはワシは大いに評価しよう。
命令を聞くだけの存在ならワシのロボットのほうが優れておる。
イースチナの、自発的にワシに従おうという姿勢が良い。
「『私達』ということはその高校に居る生徒達ということか。オヌシがそやつらを説得するというのか?本当に本心からワシに従うと?」
[彼らにも苦渋の決断を強いることになります。ですが、選ばなければただ飢えと暴発を待つのと変わりませんから、真っ当に危機感を持っている人ならその事は承知できるでしょう。それでも従わないのならその人の決断を尊重するまでです。それに博士は暴徒や貴族生徒みたいな略奪しなきゃならない人達よりもずっと豊富な物資を持っているでしょうから、その豊かさで彼らの頬をひっ叩いてしまえばきっと博士を頼ってくれますよ。高校にいる人達が動揺しているのは『これからの先行きが全く見えないから』です。少なくとも当面の先行きを保障して貰えるなら抵抗は少ないはずです]
「成る程な。なら貴族生徒とやらはどうなる?聞く限りでは鼻持ちならん高慢ちきの集まりだと思うが」
まぁワシに従わないようなら置いていくだけじゃが。
[貴族って『お金』になるそうですよ?]
「はぁ?」
何を言っとるんじゃコイツは。
[早い話が身代金です。向こうの話を傍聞きした時に言っていたのですが、彼等は自分達が身代金交渉の為に収容されていると思ってるみたいです。『平民はともかく高貴な血筋の立場は存在だけでも価値がある』、だそうです。暴徒がどうして私達を強制収容したのかは判りませんし、今までそういう交渉があったとかの噂がないので暴徒の真意が知れませんが、貴族生徒がそう信じている今なら簡単に向こうの親はお金を支払ってくれるかもしれませんよ?]
「成る程……踏み倒しの可能性はあるぞ?」
[そこは言い換えましょう。身代金なら抵抗があるかもしれませんが『救助費用』という名目ならどうでしょう?貴族生徒の中には比較的は話の判る部類の人も居ますので、名目さえ通れば後は向こうが面子を守るために頑張ってくれますよ。『救助費用すら払えないなんて』とか『子供の救助費を惜しむなんて』と後ろ指を
……こやつ、よい拾い物かもしれんな。
「さっきオヌシが言った『土地』というのは?」
[チェルノボーグは軍事警察が暴徒鎮圧に失敗している以上、今や都市はもう無法地帯といっていいでしょう。軍が動いたという話が貴族にすら届いてない時点で帝国が後手に回っているのは明らかです。だったらここは言わば【無主の地】と言ってもいいのでは?それにこのままいけばチェルノボーグの主が感染者の暴徒になるだけですが、今なら先着順で博士がトップになれます。確実に座れる椅子取りゲームで賞品のアツアツのマッシュルームスープが湯気立てて皿の上に乗っているのに、それを敢えて口にせずに指を咥えて見ているのですか?]
「……ヌワーハッハッハッハ!」
面白い!
大言壮語の大法螺吹き、大風呂敷のバーゲンセールよ!
イースチナの話にはその意見を保障する現物や後ろ盾など一切ないが、それが却って困難さを表し世紀の天才科学者たるワシの偉業をより際立たせるポイントになっておる。
これを逃せば、二度目はないな。
「よかろう!イースチナよ、オヌシを我がエッグマンランドにおけるテラ領土の臣民として認めよう!エッグマンランドは『危険地帯に取り残された我が国民を救出する』ために行動を開始する!」
[ありがとうございます、博士。あと、これからはアンナと呼んでください。早速ですが先立つものが欲しいんです。そういうものの手配ってどの位かかりますか?]
「火災がどうの、とか言っておったから食糧のことじゃな?
[えっ?輸送ってそんなに早く準備できるんですか?確か博士の拠点ってタストントですから騎獣に乗っても数日間かかる場所ですよ?あれですか、とりあえず複数人分とかです?]
「なんじゃ、オヌシの取り分が気になるのか?ひとまずエネルギーバーとスープ缶を五百人分送るからそれで一晩は凌げるじゃろう」
[五百人分?!でもそんな量をどうやって運ぶって言うんですか?!]
「ヌワーハッハッハッハ!世紀の天才科学者に不可能はない!とにかくESを置いてくるんじゃ、ワシに任せよ!」
さて……エッグマン艦隊、出撃!
兵站隊は先行してESの発信位置に向かえ!
メタルソニックは艦隊進路上に敵がいないか確かめよ、見つけ次第適当に転がしておけ!
メカソニックよ、オヌシは戦闘ロボットを麾下において都市制圧作戦の準備をするんじゃ!
マッシュルームスープの冷める前に仕掛けるぞ!
「しかし何故物の喩えがマッシュルームスープだったんじゃろうか?」
◆ペテルヘイム高校・空き教室◆
大きく息を
自身と学友の未来、命、売国、全てを懸けた会談は形を成した。
「……こんなのは一学生がすることじゃないです。小説でしばしば平凡な少年が世界の命運を握るストーリーがありますが、私の器じゃ到底賄いきれません、もう二度と御免です」
今更訪れた強烈な緊張感と倦怠感によって、アンナは僅かに熱を帯びたESを握ったまま倒れるように教室の壁にもたれ掛かる。
先程までのひりつくような交渉のあった教室は元の寒々とした場所に戻っており、その変化の無さからともすればあの会話は座ったアンナの見た微睡みの世界だったと思えてしまう程だった。
しかし、握る
「広い場所、グラウンド……うん、人手が要りますね」
壁に背を引き摺るように立ち上がったアンナは頼りになる
その銀の目は爛々と輝いていた。
◆少年少女を助けに向かうは悪の世紀の大科学者。
その糸口はただ一人の少女によって掴み取られた。
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