The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
活動報告でも述べさせて頂きましたが、皆様から拙作の御愛読を賜りましたこと、改めて感謝御礼申し上げます!
◆Track.58さん、誤字報告ありがとうございます。
だがいかに理由が重要なものであっても
他者が理解出来なければそれは奇行である
1096年12月。
◆ペテルヘイム高校・空き教室◆
「(このままでいいのか?とはアタシだって思っている)」
かつて机と呼ばれていた廃材の上にビニルシートを被せた山の上に座るソニアは、校内の現状が加速度的に悪化していくのを嫌というほど実感していた。
あまり群れを作りたがらず、かつての勇名があってもそれを笠に着なかったソニアはレユニオンによってこのペテルヘイム高校に押し込められた時から、自衛のために集団化した一部の生徒達によってしばしば彼女の有する武威……或いは手柄首を求めて干渉を受けてきたがそれらを悉く退けていた。
今は幼馴染みでペテルヘイム高校で再会したアンナの求めに応じて彼女達のグループに協力をしてはいるものの、この荒廃した高校では気休め程度にしかならなかった。
何故ならソニアは既にアンナ以外の一部メンバーに一度
ただしその件はソニアが腕っぷしを以て有耶無耶にしていたが。
幸か不幸か、グループメンバーがソニアを闇討ちする直前の所で貴族生徒に隷属した他のグループがソニアとグループメンバーを諸共に襲撃してきたのだ。
突然の襲撃に慌てたグループメンバーはソニアに共同戦線を張ることを要請、その身の翻し様にソニアは不快感を禁じ得なかったものの、協力を求められた彼女は『冬将軍』の威名を遺憾なく発揮した。
その結果、襲撃者グループを返り討ちにしただけでなく彼らが先に集めていた食糧も奪取することに成功したため物資にほんの僅かな余裕を得ることが出来、ソニア達ウルサス学生自治団の完全勝利といっても差し支えなかった。
襲撃をはね除けた後、グループメンバーは改めて複数人の襲撃を物ともしないソニアの武威におそれ
「(あと『もう一度』あれば、次はこうはならねぇかもしれない)」
ソニアは貴族生徒グループ襲撃後に逃げ去った女子生徒の黄色いリボンが、不意に鉄錆のようなどす黒さに侵されたような錯覚を覚えた。
「……今はとにかく食いもんだ。それがねぇと始まらねぇ」
ソニアはこの一連の騒動ですっかり手に馴染んでしまった自衛用の防火斧を持ち出すと、廃材の山を降りて静かにねぐらとした教室から出ようとした。
「アンナがいたら声でも、と思ったが……まぁ、いいか」
アンナは少し前から教室から抜け出していた。
ソニアはアンナに一言かけておくべきかとも思ったが、ソニアがこれから為さんとすることを考えるとアンナを危機に巻き込みかねなかったために黙って行動することにした。
目標は、貴族生徒によって占領された無事なほうの食糧庫。
ソニアは襲撃が失敗して動揺しているであろう貴族生徒に逆襲をかけ、彼らが貯めこんでいる食糧を奪還する腹積もりだった。
メンバー内の不和も校内全体の混乱も、何れも貴族生徒が食糧庫を占領していることが原因である。
であればその原因を潰そうと考えるのはソニアにとって当然の流れだった。
ここペテルヘイム高校はソニアの所属高校であるため食糧庫までのルートや襲撃に適した侵入経路は見当がついており、並びに貴族生徒が食糧庫内でどういう配置で暮らしているかも推測できていた。
なのでソニアは彼らを一度叩きのめし食糧を分盗ることで、少しでも校内の、或いはウルサス学生自治団の安定化を図ろうと目論んだのだった。
「(真っ直ぐ行ってぶっ飛ばしてとっとと帰……)あ?」
ソニアが決意を固めて行動に移そうと引き戸に手をかけたと同時に教室の扉が勝手に開く。
斧を持たない手が一瞬手持ち無沙汰になって思わず放心したが、気付くと開いた引き戸の目の前には緑がかったシルバーブロンドの綺麗な髪が小さく揺れていた。
その髪の持ち主のアンナはどういうわけか少し息があがっており、やや興奮気味のようだった。
「……おい、どうした?」
ソニアが訳も判らずアンナに声をかけると、アンナはソニアをじっと見詰めてきた。
その眼光には気力が漲っており、ほんの少し前とはまるで別人のようであった。
ほんの少し前の雰囲気との大きなズレにソニアは眉を
「(何だ?秘蔵の……いや不良の誰かが隠しておいた密造の蜂蜜酒でもキめたか?)」
一方のアンナはソニアの目線などお構い無しに口を開いた。
「見つけました。ソニア、今暇ですか?暇ですよね?お仕事です。グラウンドに行きましょう。あと一時間したらゴマンと食糧が手に入ります。パパッと分配して終わりの簡単なお仕事をしませんか?」
「はぁ?!」
アンナのいきなりのまくし立てにソニアは一瞬圧倒されるも気を取り直して彼女に尋ねた。
聞くだに突拍子もない内容すぎることばかりだったからだ。
「待て待て、そんな都合のいいことがあると思ってんのか?貴族連中が食糧の放出でもするのか?んな訳ねぇだろ?どうしたアンナ、一体誰にそんな法螺話聞かされたんだ?あと蜂蜜酒飲んだならきっと粗悪品だからもうそれ以上はやめとくんだ、いいな?」
ソニアの彼女らしいやや乱暴な気遣いに対し、アンナは口元を拭うような仕草をしてから非難じみた顔をして応える。
その内容は更にソニアを混乱に陥れることとなった。
「止めて下さい、ソニア。お腹が空いてる時に蜂蜜酒の話はいけません、
「援助、援助だと?!つ、つまり外と連絡がついたってことか?じゃあ軍の誰かここを突き止めたのかよ?それともアンナ、お前って軍に知り合いでもいたか?」
ソニアはアンナの入手した思いがけない情報に心の底から驚いた。
仮にレユニオンムーブメントとかいう暴徒の包囲網外にいるであろう軍隊と連絡がついたのなら、確かに食糧放出の充てとしては信じるに値した。
そうなれば食糧を運搬できる程度に軍がチェルノボーグに近い位置にいることは想像に難くないことから、この深刻な状況も打破されうる可能性があることを示している。
そのような一抹の希望が誰であろうアンナの口から出たことは、ソニアにとって非常に重要なことだった。
ソニアの顔に喜色の面が浮かび上がるが、ソニアの期待の斜め上の言葉をアンナは口にした。
「軍に知り合いがいるわけないじゃないですか、落ち着いてくださいよソニア。実は私、少し前の外出時に博士を名乗る宇宙からの侵略者に出会ったんです。彼はここから離れた所にあるタストント町で拠点を構えているんですが、彼に臣民になることを条件に食糧援助の約束を取り付けました。同時にチェルノボーグの奪取作戦も行うそうなので、食糧援助を受け取ったら速やかに彼と合流します」
「……えっ?」
理解できない。
その一言に尽きた。
そしてソニアは同時に理解した。
アンナはとうとう彼女の好きな本の世界に気をヤってしまったのだと。
この高校に強制収容された生徒の中にも、先行きのなさに絶望したり他の生徒の暴行に曝されたりした果てに狂気に陥った者は少なからず存在したが、己の知る人物がその仲間入りしてしまったという現実はソニアの心を大槌で叩いたかのように揺さぶらせた。
ソニアは斧を握る手の腕を力なく下ろし、目の前の幼馴染みを襲った惨事に己が無力を痛感した。
「……そうか。判った、アタシも一緒に行こう」
ソニアは狂ってしまった幼馴染みの手を壊れ物を触るかのように優しく握った。
ソニアにとって今できることはそれだけしかなかった。
「協力ありがとうございます、ソニア。急ぎましょう、博士が時間にルーズでないとも限りませんが、予定時間までにある程度は場を整えないといけません」
「そうか、そうなんだな。じゃあグラウンドに行こうぜ、転ぶなよ?」
「私はソニアの子供じゃあるまいに。流石の私もグラウンドに出る程度の体力は捻出できますから心配いりません」
「わりぃ」
前を行くアンナの背を見て、ソニアは涙を禁じ得なかった。
確かにアンナの体は気力に満ち溢れているように見えるが、それがソニアにはアンナの精神を代償に燃え上がらせている蝋燭のようにしか見えなかった。
「(コトが済んだら…まずはアンナを休ませて……やらねぇと……食糧庫行き、貴族生徒共へのカチコミはそれからだな……)」
ソニアは間に合わなかった自分への罰として、アンナの奇行に付き合うことにした。
◆◆◆
◆ペテルヘイム高校・雪下のグラウンド◆
僅かな日差しの残滓も暗闇の空の果てに沈んだ頃。
グラウンドの雪は一部を残して踏み荒らされており、白雪と泥濘ができの悪い油絵のようにぐちゃぐちゃとかき混ぜられている様は荒廃した校内の様相と相まってさながら生徒達の心境を表しているかのようだった。
そんなグラウンドの一角で、ソニアとアンナは簡易ながらも除雪作業を行っていた。
「アンナ、お前、雪掻きなんざ聞いてねぇぞ!」
ソニアは斧を腰に括り付け、変わりに円匙を構えて雪を遠くに投げ飛ばしながらアンナに怒鳴った。
「念のっ、ためっ、ですっ。はぁっ。多分っ、大丈夫だとっ、思いますがっ、はぁっ。スペースっ、はっ、はぁっ。作っておかっ、ないとっ、はぁっ。もう、泥と汗でべとべとします」
「そりゃアタシだってそうだよ!」
アンナもまたソニア程のペースではないがせっせと雪掻きをして地面を露出させていた。
「ぜぇ、ぜぇ……」
「ふぅ、ふぅ……」
時刻は教室を出てから50分。
ソニアとアンナは除雪作業で地面部分が広くなったグラウンドで息を切らして立っていた。
「これ位のスペースが、はぁっ。あれば大丈夫でしょう、はぁっ。では、これを地面に設置して、と」
「あ?なんだそれ?」
ソニアはアンナが近くのベンチに転がしていた卵のような物を拾って地面の上に置き直した。
それは一定のリズムで明滅しており、何かが動作していることは確かだった。
「アンナの物だったのかよ。それは何なんだ?」
「雑に言えば通信アイテムみたいなものです。詳細な仕組みは判りませんが博士が言うにはコレが食糧運搬を誘導してくれるとのことです」
「あー……
「
二人の会話は微妙に噛み合っていないのだが、二人共疲労困憊のためそれに気付くことはなかった。
そんな二人の行動を校舎の窓から見て気付いた他のウルサス学生自治団メンバーは、恐る恐るグラウンドに降りてアンナとソニアに近寄った。
その中の一人がアンナにおずおずと声をかけた。
「あの……アンナ、さっきからずっと雪掻きなんかして、何するつもり?」
「あぁ、ヴィカ。丁度いい所に来ました。そうですね……食卓の準備、といえばいいでしょうか。あなたも手伝って貰えませんか?」
「えぇ……?」
ヴィカと呼ばれた少女はアンナが何を言っているのか判らなかったので近くにいたソニアにも目を向けたが、『アタシに聞くな』と言わんばかりに首を横にふった。
アンナの意図がさっぱり判らないヴィカだったが、その思考は更なる驚きで上書きされることになる。
「……何?」
所々市内の火災によって赤黒く彩られた寒空の中を、ウルサス人の優れた視力が何かが此方に迫って来ているのを捉えた。
大型トラックよりも大きな、丸っこくてまるで春に飛び回る甲虫のようなソレはみるみるうちにこのグラウンドに向かって来ており、その胴体には何やら銀色の箱のようなものが引っ付いていた。
そのような見たこともない存在にヴィカ達はおろかソニアですら辛うじて握っていた円匙を落として呆然とそれを見ていた。
ただ一人、アンナだけは安堵の表情を浮かべて呟いた。
「ジャスト一時間。博士、いい仕事です。エッグマンランド万歳」
そしてアンナは降下する甲虫もどきを背にソニア達に向き合って言った。
「では、ディナータイムと洒落込みましょうか」
◆いくらテンション揚がってるからといって何の説明もなしに人に理解出来ない行動を取れば誤解もされるよね、というお話。
次回はペテルヘイム高校におけるもう一つのグループの視点になります。
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