The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆2話連続投稿していますのでもう1つの話もよろしくお願いします。
◆前書きでも面白いことを書ける筆者さんってすごいなと思う今日この頃(小並感)



SB-5N.この味は譲らない/憂鬱化のカッサシオン

新たな謎が生まれても

平穏ある夕餉が妨げられても

全ては誇りある者の責務として

 


 

 ロザリンはナターリアの隣にどっかりと座ると、次にナターリアの分のクッキーを封切った。

 

「ほら、とっとと食えよ。『タマゴサンド』味だってさ。あたしも先に一つ食ったけど、まぁ悪くはなかったよ」

 

 ずいっと、ロザリンはナターリアにクッキーを突きつける。

ナターリアはおずおずとそのクッキーを受け取ると、まるで初めて見る食べ物を試食するかのようにほんの一欠片だけ口に含ませた。

 

『タマゴサンド』味と銘打たれたソレは、ナターリアにとっては到底タマゴサンドとは言えない名ばかりの代物だった。

妙な塩っ気があり、心なしかタマゴとマヨネーズのようなもっさり感があり、それが口内に残って酸っぱさが舌にべっとりと広がった。

それっぽい味や要点をかき集めて強弁すれば確かにタマゴサンドの要素がないわけではないが、それは刻まれた茹でタマゴとマヨネーズと小麦粉を潰して混ぜあわせた塊をタマゴサンドと呼ぶような暴挙に等しく、仮にも貴族を前に同じものを朝食の食卓に出そうものならその料理人はシェフからぼろ雑巾に永久就職することは間違いない。

 

 無論、そのような不届き者は彼女の知る限り存在しない。

ただ、こうして食べているクッキーはこれまで食べてきたより美味しいタマゴサンドとは別格の味わいであり、ペテルヘイム高校に強制収容されてから食べた貴族生徒との食事とは段違いの温もりがあり……。

 

「どうしたよ、お姫さん?そっちの肥えた口には合わない味だったか?」

 

 隣に座ってクッキーをザクザクと齧るロザリンが訝し気にナターリアの顔を覗き込む。

 

「大丈夫よ。こういうものをこうして食べるのが新鮮だったから、ちょっと驚いているだけ。ロザリンはこれを食べ慣れているのかしら?」

 

 今となっては遠い過去のように思える、同級生たちとの安らかな一時を感じられることが。

 

「んにゃ。これ自体は初めてだな。でも何ていうの?『毎日食いたい訳じゃないけど偶に無性に食べたくなる』味って感じがする」

「はい?食べたいのか食べたくないのかどちらなの?」

「え、判んない?ほら、いっぺん食べたら暫くは『当分いいや』って感じになるけど、時間が経つと『また食べよっかな?』ってなる感じ。極東風インスタントヌードルとかクルビア風ジャンクフードとかを食べた時みたいなやつ」

「知らなかったわ……ジャンクフードなのに定期的に食べたくなるの?中毒性というか誘引性を持つ調味料でも使われているのかしら?」

「まじかーそこからかー」

 

 ロザリンが信じられないとばかりに手を顔に当てて空を仰ぐ。

そう言いながらも、彼女はなんだかこみ上がる笑いを抑えるかのように口元を歪ませているとナターリアは感じた。

 

 そんな時間がどうしようもなく愛おしくて、ナターリアは涙を堪えるので精一杯だった。

 


「ロザリンの持っているそちらのクッキーは何味なの?」

「コレはあたしのだから。あたしが全部食べるから。お姫さんにはこっちをあげるから」

 

 ナターリアは何の気なしにロザリンの食べているクッキーの味を尋ねたが、ロザリンはナターリアの言葉に喰い気味に被せて彼女に楓の葉と壺の絵が描かれたクッキーを押し付けたため、結局ロザリンの持っていた蜂と壺の絵のクッキーがどういう味なのかは聞くことができなかった。


 

「ところで先程『グラウンド』でと言っていたけれど、ソニアさんがこのクッキーやスープ缶を配っていたの?」

 

 クッキーを二、三口食べてからナターリアはロザリンに尋ねると、ロザリンはその時の状況を話し始めた。

 

「細かく言えばアンナとソニアがいるウルサス学生自治団が、だな。食糧の詰まった山みたいな量の箱の前を陣取って他の学生に配ってた。なんかでっかい虫みたいな機械が空からグラウンドに運んできたらしくって、何てったっけ?エッグマンランド、とか何とかいう所が食糧を準備したんだってさ」

 

「そうだったの……」

 

 ロザリンはありのままに話すが、ナターリアはその話の内容に強い衝撃を受けていた。

 

「(ロザリンは何気なく言ってるけれど、『空から』この校内に潜入するなんて軍でもできるかどうか判らない。私が知る限りではそのような部隊は公式にはいないわ。術師が少数で飛行するだけならともかく、飛行機械で収容された生徒達に配るだけの食糧を抱えて飛ぶとなればできる人間はかなり限られているはず……)」

 

 口元を抑え、思考を巡らせる。

 

「(少なくとも帝国には不可能よ。ロザリンの言ってた【エッグマンランド】にも聞き覚えがないわ。暴徒達の協力組織?だとしたら確かに包囲網なんて関係なしに物資を運搬できるでしょうけど、だったらわざわざ()()()来る意味がない。普通に地上から運べばいいのだから。となると、付近の移動都市?『都合良く』考えるなら一番近い龍門が義援物資を投入することはなくはない……けれど、それこそあり得ないわ。歴史的に見てチェルノボーグと龍門は競合相手として張り合っていた関係……もし貴族が龍門に支援を要請したとなれば帝国では後ろ指さされて生きるどころか敵対派閥や他都市から『外患誘致』を疑われて破滅しかねない)」

 

 瞳が目まぐるしく動き、納得できる答えが出ない。

 

「(帝都からの命令も有り得ない。そもそも自国が統治している都市に他勢力を巻き込むよりも政府軍を送り込んだほうが費用はかかっても他勢力からの『請求』に比べれば安上がりのはず。……やっぱり判らないわ。エッグマンランドという組織は一体『どこから』現れたというの?こんな包装までした食品があるのだもの、生半可な存在じゃないわ。どこか、どこか場所や文化の推測できそうなものは書いてないかしら?)」

 

 ナターリアは少しでも情報を得られないかとクッキー箱を隅々まで調べようとしているのを、ロザリンはクッキーを食べ終え水を飲みながら眺めていた。

 

「(確かに出所が外国っぽい箱だけどそんなに珍しかったのかな?)」

 

 二人がめいめいの思いをしながら食事を続けていると、部屋の外からナターリアの部屋に向かって近寄る足音が食糧庫内に響き渡った。

 

「やべっ」

「!」

 

 ロザリンは咄嗟にソファの後ろに隠れ、ナターリアはクッキー箱などをクッションの下にしまい込んで居住まいを正した。

 

『ナターリア様。お休みの所恐れいりますが、今少し宜しいでしょうか?』

 

 扉の外から男子貴族生徒の声が届いてきた。

 

「どうぞお入りになられて」

「(へぇ……)」

 

 ナターリアの威風ある呼びかけを聞いてロザリンは舌を巻く。

確かにナターリアはロザリンの前では気を抜きつつもうっすらと貴族らしい育ちの良い振る舞いをしていたが、意識を切り替えて行動に全神経を集中させるとここまで威厳が伴うものかとナターリアの変貌ぶりにロザリンはソファの裏で感心した。

入室してきた貴族の男子生徒はナターリアに恭しく礼をとった。

 

「失礼します。ナターリア様におかれてはご機嫌麗しく……」

「ありがとうございます。ところで何かありましたのでしょうか?」

「はい。実はつい先程グラウンドに虫の形をした奇妙な物体が降り立ちまして、どうやら校外から食糧を運んできたようです。平民生徒が抜け駆けして独占したため我々も奪われまいと向かったのですが、あの冬将軍と虫型の物体に迎撃されたため確保が進んでおりません」

「……そうですか」

 

 貴族生徒の報告を受けたナターリアは一瞬怒気を露わにする。

貴族生徒はそれを『貴族に楯突く平民に対して』のものと受け取ったようで我が意を得たりと彼もまた憤慨の様相を見せたが、ナターリアの実情はまるで異なる。

彼女はロザリンの話やその様子から少なくともグラウンドには『貴族生徒に配っても差し支えない』程度には食糧があるのだろうとあたりをつけていた。

加えて冬将軍ことソニアが差配しているのならば……好く言えば誰に対しても平等に接し、悪く言えば我が強く自分の決めたこと以外には容易に従わない彼女のこと故に恐らく貴族生徒相手であっても決まった分配量があるならばちゃんとその分だけ渡すはずである。

にも関わらず貴族生徒が排除されたということは、十中八九貴族生徒の誰かが全て接収しようとしたに相違なかった。

 

 ロザリンとの食事で若干精神を持ち直していたナターリアは心の余裕がある分却って事態の面倒臭さに頭痛がしたが、そのようなことはおくびにも出さずに凜とした顔で貴族生徒に向き合った。

 

「判りました。卿らの果断即決、感服しました。ならば私が直接其処へ出向くことにしましょう」

「おお!ナターリア様がいらっしゃるとなれば、あの冬将軍であっても我々に頭を垂れることでしょう」

「ぶっ」

「?」

それでは、私は支度をしますので席を外して下さいますか?それと卿には他の生徒達に『こちらに戻る』よう伝えてきて頂きたいのです」

「つまり撤収、ですか……その、よろしいのでしょうか?」

「相手が冬将軍となれば数を頼みとするのは却って負傷者を増やすのみです。それに私達が冬将軍に構っている間に他の者がこちらの拠点に忍び込まないとも限りません。私が冬将軍を相手にしますので、その間は他の方々に我らの食糧庫を固く守って頂きたいのです。これは卿ら『なればこそ』できることです」

「成る程、判りました!」

「他には何かありますか?」

「はっ、ございません!失礼します」

 

 貴族生徒は足早に部屋から出て行ったのを確認すると、ナターリアは恨みがましそうにソファの裏側を覗き込んでロザリンに抗議した。

 

「ちょっと!何であの時に笑うのかしら?!一瞬肝が冷えたわ!」

「わりーわりー。だってソニアだよ?ソニアが

『お~おヒメさま~アタシはアナタにヒレフします~どうかそのテにキスをさせてクダさい~』

なんて言ったりしないでしょ」

ぶっそ、そんな風には言ってなかったじゃないの」

「お姫さんだって笑ってるじゃんか。それとさっきの奴は気づいてなかったみたいだけど、お姫さんさぁ……命令する時さらっと貴族生徒を『能無し』扱いしたよな?『数を頼みにしても負ける』とか、『貴族生徒なら守りを任せられる』とかさ。最後のって要は『それ位しか役に立たない』ってことだろ?」

「……」

 

 ロザリンの指摘にナターリアは苦笑しながら踵を返して、元は校長室にあった箪笥から外装と儀仗を取り出して衣装を整え始めた。

 

「『事実』ですもの。数任せで挑めば連携不足どころか犠牲の押しつけ合いで同士討ちや自滅しかねないわ。それに万が一平民生徒を人質にしたりでもすれば、彼らの敵意を一気に増やしてしまうから浅慮を起こしかねない人はその場にいないほうが望ましいの。勿論、私達の不在を狙う輩がいることを考えてはいるけど……人を下がらせることでソニアさん達からの警戒を下げることを考えたわ。あと……あの方々は人の話を聞かず、ソニアさんとの交渉に口を挟んできそうだから……この食糧庫にひとまとめになっているほうがよっぽど気が楽よ」

 

 ナターリアの直球な本音にロザリンは笑いそうになったが、その直後に彼女が少女らしからぬ『この世全ての苦労』を吐き出すかのような溜め息をついたのを見てロザリンは流石に空気を読んだ。

 

「まぁ行くのは判ったけど、だったら貴族じゃなくて平民生徒を連れて行ったら?あたしが言うのも何だけど、今のグラウンドは貴族相手にめっちゃピリピリしてるよ。あたしが口利きしてみようか?」

 

 空気は読んだが、同時にグラウンドにおける空気を知っているロザリンは貴族生徒のトップであるナターリアが単身ウルサス学生自治団のエリアに向かうことを気遣うが、ナターリアは首を横に振って彼女の提案を拒否した。

 

「今の状況で私と平民生徒が一緒に歩けば貴族グループとアンナさん達の両方に邪推をもたらすわ。こちら側(貴族)は平民生徒が私に同行する権利がどうの、向こう側(平民)は平民生徒が私に身代わりをさせられてるとかどうの……みたいな話が出てきかねないでしょ?ロザリンなら身代わりという発想は出ないでしょうけど、むしろ貴女がこちら側と見なされるかもしれないから危険よ」

「あー……否定しきれないなぁ。アンナの所にも平民側の貴族生徒がいるけど居辛そうだったし、貴族生徒に従った平民生徒も嫌ってる奴もいるし」

「それに状況的に貴族生徒の方に非があるのは私は充分に理解しているし、アンナさん達にしっかり謝罪を示す必要があると思っているけれど……その姿をソニアが私に平伏すと思っているような貴族生徒の彼等に見せる訳にはいかないわ。……要はこちら側の面子の問題だからアンナさん達に対して不誠実な話ではあるだけど、残念ながらそうせざるを得ないのが現状なのよね」

「うーん、言いたいことは判ったからあたしはせめてお姫さんの無事を祈っておくことにするよ」

「ありがとう、ロザリン。では、悪いけどまた窓から出ていってくれるかしら?もう暫くすればこの周りは貴族生徒だらけになるわ」

「あいあい、そっちもお勤め頑張ってな」

 

 ロザリンの返事にナターリアは少し柔らかく笑うと、貴族令嬢として相応しい偉容を纏いながら部屋から出て行った。

 

「……あ、お姫さんソファにクッキーとか隠したままじゃん。……預かっとこ」

 

 そしてロザリンは残されたクッキー等をそそくさとポケットに突っ込むと、来た()を逆戻りして部屋を後にした。

 




◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。

◆思えばあと2ヶ月で本作投稿してから1年経つのか…早いのか、それとも34話/年は遅いとみるべきなのか。
……毎日投稿とか1年で100話とか達成した筆者さんがいるもんなぁ。
◆1周年記念に何か投稿すべきか悩み中。
IF話を書くか、お題を貰うか……。
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