The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆2話連続投稿していますのでもう1つの話もよろしくお願いします。

◆ナターリアの家に関する独自設定が入っております。
原作の設定から著しく外れていないはずですが根本的に間違っていたら申し訳ございません。


SB-5A.グラウンド・ジャンクション

過ちに気づく事は正す事と同じく難しい

過ちとは認識することが難しく

何より誰も「誤った」と認めたくないのだ

 


 

「情けねぇ……。アタシもトチ狂ってた訳だな。その点、アンナは大したもんだよ……アタシよりずっと。知り合ったばかりの他国人相手に物資支援の交渉したり、迫る生徒の前で怖じ気づかずに立ち続けたりするなんてな。しかも結果は無傷ときたもんだ。アタシだったら……」

 

 目の前を医療品を運ぶ女子生徒が横切ると、ふとソニアはその女子生徒の頭が無くなったような幻覚に襲われた。

ソニアは慌てて彼女を見直すが、無論そのような事実は一切なく、寒さで耳をすぼめる彼女はぽすぽすと雪を踏みながら怪我をした他の生徒の許へ駆けつけていった。

 

「あぁ……そうだ。アタシのことだから()()()()かもしれねぇな」

 

 ソニアは今日、同じグループの生徒達に襲われかけたのを思い出す。

あの時は貴族勢力の乱入によって図らずも同士討ちは免れたが、ソニアと彼女達では実力差が有りすぎることから()()()()()()()なっていたことだろう。

そして、ソニアはグループ内不和の解決策として貴族生徒への襲撃を実行しようとした……略奪で鋭気を養う、総合戦力で勝る相手に。

つまり『ソニア』と『アンナグループの生徒達』、『貴族生徒』と『ソニア』の立場が変わっただけだった。

 

「考えてることが全く変わらねぇじゃねぇか。アンナと比べたら、アタシにいいとこなんてなかったな」

 

 自身の過ちを悟り同時に己の浅慮を自嘲したソニアは小さく苦笑すると、並々ならぬ大功を成した旧友を内心で賞賛しながらアンナのほうを見る。

そこには……スープ缶を一通り配り終えたため自ら『もっと手伝いたい』と他の作業班生徒に申し出たものの、彼女より幼いラーダよりも非力で力仕事の類に人一倍の時間がかかったため、今回の功労者ということもあってこれ以上の労働は免除となったが内心の複雑さをにじみ出してふくれ面をしたアンナがロボット甲虫の足元で座り込んでいる姿があった。

 

「ぶっ」

 

 ソニアは思わず噴き出した。

 

「……アンナは、やっぱりアンナだわな」

 

 その言葉に意味はない。

 

 ただ、ソニアは何となくそれがアンナを指す言葉なのだと感じていた。

 


 

 急遽設営となったキャンプベースは、平民側にいた男子の貴族生徒が従軍体験をしていたことが幸いして効率的に完成した。

平民生徒達はテントの中で食糧を分け与えながら暖をとることができたが、キャンプベースは常に安全というわけではなかった。

ロボット甲虫の警告音などでグラウンドの騒ぎを聞きつけた、或いは大量の食糧のことを聞きつけた貴族生徒グループや積極的に略奪を働くグループがキャンプベースを乗っ取ろうとしたり食糧を強奪しようとしたりする事態が起こっていたからだ。

尤も先に食事で体力を取り戻したソニアを筆頭とした防衛班と、テーザーガンや粘着ネットを装備していた小ロボットによって彼らは全て制圧されて事なきを得ている。

 

 そしてソニアは今、三度目の襲撃にて返り討ちにした貴族生徒を荒縄で捕縛している所だった。

 

「食後の腹ごなしにしちゃあ、もうちょい穏やかなのがいいんだけどよぉ……」

「口ではそう言いながらきっちりソイツ等縛り上げるのは流石の冬将軍だよな、ソニア」

「うるせぇ夏将軍。アンナの指示だ、何か利用方法があるらしい」

「へー、今を時めくウルサス学生自治団のアンナ大将軍様が考えた策か。だったら丁重に箱詰めしておこうか?」

「何だよその『大将軍』って。箱の無駄遣いだ、そいつらは冷えない程度に簀巻きにしときゃいい」

 

 足元でロボット小甲虫のスタンガンで気絶した貴族生徒を拘束しながら、冬夏の二将軍と称えられるソニアとロザリンは和気藹々とした空気で話をしていた。

因みにウルサス学生自治団において『春』はその爛漫とした笑顔で周りを暖かくするラーダで、『秋』は読書のそれということで自治団結成の発起人であるアンナが割り振られていた。

しかしこの潤沢な食糧と医薬品の獲得によって『収穫の秋』『恵みの秋』としてアンナの声望は一気に高まっており、自治団のリーダーということで『大将軍』と呼ぶ者が出始めていた。

 

「終、わ、り、っと。悪かったな、ロザリン。お前も巻き込んじまってよ」

 

 痺れて目を回す貴族生徒を縛り上げたソニアはロザリンに軽く謝った。

というのもロザリンがグラウンドでの出来事を知って合流した際に貴族生徒グループの襲撃があり、その乱闘に彼女も巻き込まれて図らずも共闘することになったからである。

 

「いいってこと……じゃないな、うん。じゃあ折角なんで『バイト代』貰いたいんだけど、いい?」

「バイト代?」

 

 ソニアはロザリンの口から出た言葉に訝しむと、ロザリンは苦笑して事情を話した。

 

「いやね、あたしもアンナの提案に乗っかるつもりだけど……実は知り合いが貴族生徒側にいるもんでね。立場的に周りが貴族だらけだから出歩くのもままならないんだわ。だからあたしが代わりに食べ物とか持って行ってあげたいんだけどさ……ほら、あんた達が『来た人にだけ渡す』って方針にしてるから普通に貰いに行ってもあたしの分しかだめじゃん?だからバイト代ってことでその子の分も欲しいなって。防衛班でしょ?しかも冬将軍だし、ちょっと配給の融通を利かせてくれよぉ」

「あー、そういうことか。向こう側ってことはあれか?貴族生徒グループに入った平民生徒とかか」

 

 ソニアは思い当たる節があった。

この校内では自発的であれ強制的であれ貴族生徒の傘下に加わった平民生徒というのは少なくない。

アンナの方針で、喩え貴族側にいた生徒であってもアンナの案を呑むようなら食糧を分配するようにはしているが、貴族生徒グループに組み込まれた平民生徒となるとそうそう自由行動できるものではなかった。

 

 ソニアの質問にロザリンはにへらっと笑って答える。

 

「そんな感じ。毎日毎日貴族連中に振り回されてて苦労が絶えない奴なんだ」

「判った。だったらアタシがアンナに話してやるよ」

 

 ロザリンの言う『知り合い』の様子に嘘はないと感じたソニアはロザリンの希望を受け入れた。

 

「マジで?ありがとう!」

「バイト代だからな。働いたなら食ってよし、今回はある意味働いたアンタの分をソイツに分けるようなもんだからな」

 

 ソニアとロザリンはアンナ達のいる分配班の所に行き、事の次第を話すと分配班はクッキー箱とスープ缶、水入りペットボトルを一人分多くロザリンに快く渡した。

 

「ところでその生徒は何て名前だ?」

「あ、えっと、何て名前だったっけ…そうだ、確か『ロサ』だったと思う(目から朝露みたいな涙を流してた印象あるし)」

「『(ロサ)』?まぁいい。とっとと持って行ってやんな。貴族に絡まれてるんじゃ、そいつも無闇に動けねぇだろうからな」

「あいあい、助かるわぁ」

 

 ロザリンはポケットや鞄に食糧を詰め込むと、貴族生徒が占拠している食糧庫のほうへと闇に紛れて向かっていった。

 

「やれやれ、じゃあアタシもちょっと休もう……」

「ソニアさん、襲撃だ!貴族の奴らが来た!」

 

 いざ休憩を取ろうとしたソニアであったが、折り悪く貴族生徒の襲来が重なった。

 

『どけい、平民共!速やかに我々貴族にその物資を差し出すのだ!』

 

 キャンプベースの奥まで届く声がひどく耳に響いて思わず頭痛がしたソニアは、痛む額を抑えながら斧を刃が内側になるようにして構えた。

 

「残業代って出たりしねぇかなぁ」

『な、なんだこの巨大な虫はアバババババ

 

 ソニアは一つ溜め息をつくとバカ(貴族生徒)が痺れている場所に走って戻った。

 

◆◆◆

 

◆食糧庫-グラウンド間歩道◆

 

「ある意味ここまで予想範囲内だと、それはそれで溜め息が出るわね」

 

 ナターリアはグラウンドに設営されたキャンプベースに単身で向かう中、先程倉庫であった遣り取りによる徒労感に愚痴を漏らしていた。

ナターリアが単独で向かうと伝達させた際、貴族生徒達はこぞってナターリアに同行を申し出たからだ。

尤も、それはナターリアを案じてというものではなく交渉における自身の利益を最大限に得るためのパフォーマンスのほうが強いことを彼女は既に推察していた。

若輩ながら人物鑑定眼を生家より鍛えられたナターリアは貴族生徒の隠そうとしない承認欲求を見抜き、貴族生徒のいずれもが交渉するに不適切だと判断したため

『冬将軍と衝突する』

『捕縛され慰み者になる』

等のリスクを誇張し益以上の危険があることを強調して説明した。

 

 結果、貴族生徒はノーリスクでない点を嫌いナターリアの指示通り食糧庫の警備に専念することを決めて彼女を見送ることとしたのだった。

 

「まぁ話に横槍が入ってこない分、交渉とかもしやすいわけだけど……」

 

 貴族生徒の同行によるデメリットのほうが大きいと判断したナターリアではあるものの、こうもあからさまに彼らが危険を避けたを思うと何とも言えない気持ちになる。

しかし、感傷に浸る間は彼女には無かった。

 

「今から行く場所で、もしも五体満足で交渉が終われば父祖達に感謝の祈りを捧げるとしましょう」

 

 ナターリアは気を引き締めた。

彼女が向かう場所は貴族の力が通じず、ソニアという校内で随一の武名持ちの生徒が居り、貴族生徒最大の強みであったはずの物資のアドバンテージすら持っている一大勢力【ウルサス学生自治団】のキャンプベースである。

 

「そうよ、弱気になっても立ち止まってはいけないわ。【ロストフ家】は、如何なる時代でも歩み続けることで『成り上がり』であっても家名を保ち続けたんだもの」

 

 ナターリアは指の震えを抑えるように儀仗を握り締める。

 

 彼女の生家たるロストフ家はチェルノボーグでは有数の名家ではある。

しかしウルサス帝国初代皇帝が東方より襲いかかる遊牧民族からの侵略に対抗してきた頃より連なる名族達と比べればその家名は軽い。

また家の起源が旧伯爵家の従士であることから、帝都に居を構える譜代の家系やウルサス拡大に伴い帝国に下った家系と比べてもその立場は外様に位置している。

にも関わらずロストフ家が今日まで存続してこれたのは父祖達が如何なる苦境にも止まらずに歩みを進めてきたからだった。

このチェルノボーグでの騒乱で、貴族に対するナターリアの意識は致命的なまでに覆されたことは間違いないが、それでもロストフ家としての誇りは彼女を彼女たらしめる物として残っている。

 

 故に、この機会は彼女にとって自身の信じる貴族として在るべき姿を見せる最後のチャンスでもあった。

 

 仮に他の貴族生徒が平民生徒と交渉に当たれば、決裂と破滅的な結末が訪れるのは目に見えているため、決して彼らに任せてはおけない。

また平民への範となる貴族として誠実に振る舞おうとして、結果平民生徒などの弱者から搾取するキッカケを作ってしまったことをナターリアは大いに悔やんでいた。

 

 だがもし、この交渉で生徒双方に犠牲を強いない結論を得られたのであれば。

 

「(私は、『私』とロストフ家に恥じぬ女として、漸く立って歩けるかもしれない)」

 

 そう、ナターリアは覚悟してキャンプベースのテントに進み出す。

 

 その覚悟は。

貴族としての根元的な欲求たる『家名への誇り』を守ることと、ナターリアにとって『在るべき貴族の姿』を守るための、彼女が心の底に唯一残っていた貴族らしい独善さの名残であった。

 




◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。

◆次回、彼女達の邂逅。
(でもそろそろウルサス編以外の話も投稿するほうがいいかな?)
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