The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆SB-5N.にて誤字報告をして頂きました、
・眠り猫 様
・マサンナナイ 様
・Cad 様
誠にありがとうございました。

◆なんとなく拙作でのアンナは★6化してほしいという贔屓目が存在する。


SB-06.待合室

生き残るために

生き延びるために

其処に貴賤の違いなどない

 


 

 またか、と、ソニアと交代した防衛班の生徒は思った。

ソニアも同じであった。

 

 まさか、と、ソニアと交代した防衛班の生徒は思った。

ソニアも同じであった。

 

 それほどにナターリアの来訪はキャンプベースを驚かせた。

当然である。

つい先程もキャンプベースを襲撃してきたナターリア派の貴族生徒を取りまとめている首魁が単身でウルサス学生自治団に面談を求めてきたのだ。

 

 キャンプベースは俄かに沸きだった。

貴族生徒の横暴に苦しめられた平民生徒の一部はこれを好機として貴族生徒への報復を主張する。

 

『ナターリア討つべし』と。

 

 しかし現在のウルサス学生自治団は皆の餓えを解消するに足る食糧を手に入れ、キャンプベースの立役者でアンナが組織の意思決定を担っている。

そのためウルサス学生自治団員や身を寄せる生徒達はアンナを無視して行動することはできず、また武闘派のソニアがアンナを支持しているため彼女の率いる防衛班が生徒達の軽挙を牽制した。

 待ち伏せしてナターリアを奇襲することを主張した生徒もいたが、生徒の大半は空腹を和らげ心身共に落ち着いたことで微睡みに浸る者が多く、温かいスープ缶を飲んだこともあって睡魔に襲われ校内の寝床に戻った生徒もそれなりにいたのだ。

 

 そうしてグラウンドに残る生徒数自体が減ったことに加えて防衛班が睨みを利かせたことで奇襲への賛同者が集まらず、大事には至らなかった。

 

 それでも腹の虫が収まらないという生徒には力自慢の生徒達の上腕筋を枕に誘眠*1させたり貴重なハチミツの入ったホットミルクを飲ませたり*2して沈静化したと防衛班から報告を受けたソニアは、アンナにこの来訪について意見を求めるべく彼女がいる救護テントに駆け込んだ。

 

 ソニアがテントに入ると、アンナは応急手当に一区切りがついたヴィカと共にスープ缶で休憩をいれている所だった。

 

「ソニア、お疲れ様です。どうかしましたか?」

「アンナ、とうとう貴族生徒連中の大御所、ナターリアがオマエの顔を拝みに来たみたいだぞ」

「……えっ?」

 

 アンナは一瞬きょとんとした後、驚きを全く隠さない顔でぼそりと漏らした。

その様子はまるでウルサス学生自治団の事実上のトップたるような者の振る舞いではなく、逆に堂々と立つソニアのほうが立派に見えるほどだった。

 

 ソニアは若干呆れながらアンナに言った。

 

「『えっ?』じゃねぇよ。こうなることは予想してたんじゃねぇのかよ」

「いや、まぁ……それはそうですが……気持ち確かに私も期待していましたよ?貴族生徒のグループならまだナターリアさんのほうが話のわかる人ですから、来てくれるならナターリアさんがいいなぁとは思っていましたが……まさか本当に、しかも自分達のグループが襲撃をかけてからのいの一番に来るとは思わないじゃないですか……」

 

 アンナがしどろもどろになりながら両手をわたわたと動かして弁明すればするほど、テント内は何とも言えない空気に包まれる。

 

「とにかく、だ。会うんだろ?ナターリアに」

 

 テント内の弛んでいく空気を一蹴するように仕切り直したのはソニアだった。

アンナはソニアの一声を受け、不思議な動きをしていた両手を止めて首肯した。

 

「アッ、ハイ。貴族生徒との交渉として窓口に適しているのは彼女をおいて他に居ません。彼女のグループは貴族を含めた他のグループの中でも特に大きいですし、他の貴族生徒相手にも物が言える家格があります。彼女がこちら側に賛同してくれるなら、多分事態はかなり好転すると思います」

 

 アンナはナターリアを自陣営に引き込むメリットを挙げるが、ソニアにはアンナの思惑通りに行くか些か疑問があった。

 

「『こちら側』ねぇ……そう上手くいくか?貴族サマの中でもトップクラスのアイツがそう平民(うちら)に肩入れしてくれるかね?」

「ソニアの言うとおり、ナターリアさん相手でもそう易々と私達ウルサス学生自治団には首を縦に振らないでしょうが……」

 

 アンナは鞄から卵型デバイスを取り出しながら疑問に答える。

 

「相手が移動都市レベルなら、すぐには蹴ったりしないと思います」

 

◆キャンプベース・厨房テント◆

 

 ナターリアが通されたのは食糧配給のピークが過ぎて一旦役目を終えた厨房テントの中だった。

その場所が選ばれたのはテント自体が運動会用のそれで構造がしっかりしているため人が複数入るスペースがあったのと、湯煎や消毒目的で竃の火を常に焚いているため比較的暖かい場所だからである。

加えて火元がある故に物資から離れた場所に設営されており、万が一ナターリア側の貴族が奇襲を仕掛けたとしても物資の喪失を防げることも踏まえていた。

 

 本面談の参加者は5人。

ウルサス学生自治団からは実質トップのアンナ。

名義上のトップで冬将軍の威名を持つソニア。

アンナと共にグループを立ち上げた救護担当のヴィカ。

火種の管理をする厨房責任者のラーダ。

 

 貴族生徒グループからはナターリア。

 

 吊り下げられたランタンの灯りと竈の火が彼女達を照らす中、各々の組織のリーダーが相対する面談はナターリアから口火を切った。

 

「ご機嫌よう、ウルサス学生自治団の皆様。夜分にこうして面談の機会を設けて頂いて感謝致します。そして申し訳ございません。私の仲間達が貴女方に大変迷惑をかけました。同じ貴族からの言葉というのは受け入れ難いと思いますが、どうかまず謝罪をさせて下さいませんか?」

 

 ナターリアは挨拶も早々に自ら率いる貴族グループの不始末をアンナ達に謝罪した。

 

「「「……」」」

 

 対するアンナ達の反応は、ソニアが不信感を隠そうともせず、ヴィカが急に貴族から頭を下げられたことで焦りの表情を見せ、ラーダが先の襲撃のことで威嚇している。

 

 そしてアンナは。

 

「はぁ……予想外です。ナターリアさんは平民相手でもすんなりと頭を下げることができるんですね」

 

 ナターリアの行動が意外だと驚いた。

アンナの発言は他の貴族であれば『お前の頭は簡単に下がる程度に安い』という意味で受け取り激怒しそうなものであるが、ナターリアは苛立つ様子も見せずむしろ憂いを帯びた表情を見せて頷く。

 

「己の欲を満たす為に他に犠牲を強いるなど、本来あってはならない行いです。私達は『()()()()だから』とその行為を肯定しましたが、いくら言葉や状況で外聞を取り繕い意識をごまかした所で、それが蛮行である事実は覆せぬものであり、然るべき報いを受けることなのですから」

 

 そう、本当に……

 

 最後の言葉を口から漏れ出すかのようにナターリアは喋った。

 

 その様子は普段見聞きする威風溢れるナターリアのそれではなく、まるで彼女自身が今にも処罰を待つ罪人であるかのような姿であった。

 

「(なんか……調子が狂うな)」

 

 豹変したナターリアの姿を見てソニアは戸惑いを禁じえなかった。

今までのことを思えば、そして貴族グループのリーダーというナターリアの立場を踏まえれば、ソニアは怒りで腕を振り上げその新雪のような透き通った肌を持つ顔に拳を叩きつけたい思いに駆られるが、彼女の中にある何かがその衝動を押さえつけていた。

ソニア自身にもその理由が判らない。

ソニアは他の参加者を見たが、誰もナターリアの姿を見て困惑していた。

 

「……ひとまず、その話は横に退けておきましょう。ナターリアさん、今回私達の所に来た理由はなんでしょうか?」

 

◆◆◆

 

「(さて、ここからね)」

 

 ナターリアは地の底まで落ち込んだ気を引き締め直す。

 

 貴族生徒グループの統率者である故に多くの物に恵まれているように見える彼女の持つ手札は、その実態は簡単に切れるものではない。

というのも、ナターリアを彼女たらしめているのは所謂『貴族』にまつわるものであり、それらは現状でいえば即座に切れないか、切れば自身の身を危うくするものばかりだからだ。

 

 例えばアンナ達と協調するのであるならば、貴族としてウルサス学生自治団を賞賛し何らかの対価と共に協力を求めるというのが手っ取り早い。

しかし、実のところ今のナターリアにはウルサス学生自治団を動かすほどの対価が出せない。

平民生徒側の物資面の不安はグラウンドに持ち込まれた食糧などによって解消され、しかも未知の機械が運んできたことをみれば最悪『物資はいつでも補給できる』可能性がある。

よって貴族グループから物資の提供などを持ちかけたとしてもウルサス学生自治団には応じずとも余裕がある状態と考えられる。

 

 その意味では時間はアンナ達の味方……正確に言えば他者から物資を奪わねば組織を維持できない貴族グループのほうが破滅は時間の問題であるといっていい。

キャンプベースの守りが殊更固いことはテントに案内される際に他の生徒(防衛班)が『貴族生徒や悪漢生徒からの襲撃は全て撃退した』という自慢を話していたことから推測できたため、持久戦による弱体化というのも望むことはできないだろう。

よって彼女には時間がかかるような方策は取れない。

 

 物資の提供が交渉材料にならないならば、他の手段として金銭的なもの、或いは社会的名誉の授与を約束することが挙げられるが、金銭面はについてはむしろ足元を見られる見込みが強い。

そもそもペテルヘイム高校に強制収容された生徒達の手持ち資金などたとえ貴族生徒からかき集めた所で雀の涙に等しいからだ。

……そしてこれは物資提供の点でも言えたことだが、金銭を対価にする方法は貴族生徒が頑として承認しないのは間違いない。

テロリスト相手への交渉なら貴族生徒が金銭取引に合意する可能性は僅かに有り得るが、貴族が『無力』と見下す平民生徒の、しかも物資が潤沢の存在となれば決して貴族からの譲歩は受け入れることができないだろう。

『貴族は平民から無条件に尽くされて然るべき』

と考える貴族生徒ならばウルサス学生自治団に無償供与、いや()()()()()()()()を求めてくることは想像に難くない。

 

 だからこそ、ナターリアは他の貴族生徒の同行を拒否したわけだが。

 

「(まずは物資提供による名誉、そして騒乱後に公の上で『褒賞』が与えられることを明文化させることから、ね)」

 

 故にナターリアが切れる手札は暴動が終息した後で社会的名誉を与えることを押しだし、後に物理的報酬を授与する旨を約束することである。

尤もこの手段はウルサス学生自治団にとっては空手形と受け取れる勝算の薄い手であるのだが、それでもナターリアがこの場で切れる手札はそれだけだった。

 

「是非とも、帝国軍からの救助が来るまで生徒同士で協力しあいたいのです。つきましては、この暴動が治まるまでの間は外部との交渉や救助時の軍との折衝を私達が担当し、皆様には代わりに物資面での協力をお願いしたいのです。勿論、協力して頂けましたら暴動鎮圧の暁には皆様方の協力があったことを明文化すると共に謝礼をお渡しすることを約束します」

 

「……随分とそっちの都合がいいことを吐けたもんだな。アンタ等がしてきたことを忘れたわけじゃねぇよなぁ?」

 

 ソニアは一気に不快さを露わにしてナターリアに近寄る。

 

「一体どれだけの奴がアンタ等の『有り難い御言葉』に振り回されたと思ってんだ?」

 

 一歩。

 

「こちとら平民ってやつだ。貴族連中から散々な目に遭った奴は沢山いる」

 

 一歩。

 

「『降れば悪いようにしない』と言っておきながら降伏した奴には『逆らったことの罰は与えなければならない』といってのリンチだの、『私が命じたのだからやれ』と平民に言いながらいざ事をしくじって助けを求めても『そいつのやったことは知ったコトじゃない』つって見捨てたりだの、アンタ等の舌がいかに軽くて薄っぺらいかの話ならいくらでも出来るぞ、判ってんのか?」

 

 一歩。

 

「おまけに倉庫のほうでも平民生徒が散々貴族連中に振り回されてるそうじゃねぇか。貴族なんだろ、お前。見てないわけがないよな?」

 

 一歩。

 

「ここまで言っても判らない、って言うならあたしだって諦めるがよ」

 

 眼前。

 

 ソニアの声は、甚振(いたぶ)られ傷を負った獣の発する唸り声のように低く重かった。

ソニアの前に立つナターリアは、彼女の慟哭のような言葉を聞いて再び貴族に対して失望した。

 

ソニアは知らないことだが、ナターリアこそ貴族生徒の横暴を抑圧せずむしろ発散させることで統率していた張本人だ。

ただ、実際に略奪を働く貴族生徒達の言動については初日の暴挙を除いて食糧庫の中で見るのが殆どだ。

彼女自身は貴族生徒が校内で変わらず恥ずべき行いをしているだろうと確信していたが、ナターリアの目の届かない所で更なる暴虐をほしいままにしていたことを知らされて血の気が抜けるような納得感とおぞましさから来る怒りで酷く気分が悪くなった。

そして貴族の悪行の裏付けとしてキャンプベース内の平民生徒達からの隔意や裏表のないソニアからの言葉を聞いたことでとりわけ強く貴族生徒達に対する嫌悪感を得てしまった。

 

 とはいえ、ナターリアは唾棄すべき振る舞いをした貴族生徒達の代表としてこの交渉の場に立っているため、彼等を見限ることは出来ようがない。

 

 どうしようもない悪辣な貴族への嫌悪感を、それでも手放したくない己が貴族としての誇りを以て強引に心の奥へ押し込むと、ナターリアはソニアから目を逸らすことなく提案に乗るメリットを全面に出して反論した。

 

「仰る通りかもしれませんが、もしも将来を見据えて考えるならば皆様方に必要なのはこの後の生活ではないですか?今の感情だけで反目しあい互いが協力しない状態を続ければ迎えられるはずの明日ですら訪れないと思います」

 

 ソニアからの怒気が圧を伴って大きくなるが、ナターリアは怯まずに提案の道理を説く。

 

「逆に伺いますが、この場から無事生還できたとしても感染者の暴徒によって街が荒らされてしまった以上、経済的・権威的後ろ盾もないまま今後どうやって暮らしていくおつもりですか?むしろ今貴女方が私達に協力して下さるなら、貴族生徒達の親族相手に恩を売ることができることでしょう。貴族の大人達からの感謝の念はこれからの生活にとって大きな伝手になるはずです」

 

 瞬間、ソニアの感情が爆発する。

 

「そういう上っ面なことをまくしたてるアンタ等の口が信じられねぇって言ってるんだよ!」

 

 ナターリアも声を荒らげる。

 

「ならば貴女方自分達だけでこの混乱とその後を生きていけるというのですか?!グラウンドの箱を後生大事に抱えたまま、テントの中で籠もっているつもりですか?!この『破滅を待つチェルノボーグ』の中で、凍えて果てるつもりなのですか?!」

「っざけんなよ、テメェ……!」

 

 ソニアは怒り心頭に一回り大きいナターリアの体をつかみあげ、一方のナターリアもソニアを睨みつける。

二人の鬼気迫る空気にヴィカとラーダは思わずお互いに身を寄せ合っているが、アンナだけは表情を崩さずに二人の中に割って入った。

 

「落ち着いて下さい、ソニア。漸く胃袋に食べ物が入ってお腹の音が鳴らなくなった所なんですから貴重なエネルギーを無駄遣いしてはダメです」

「アンナ!オマエはこいつを!貴族の奴らを庇うっていうのか?!」

 

 ソニアの肉食獣が発するような怒気に内心凄く竦みながらもアンナは彼女を諭す。

 

「ナターリアさんに肩入れとかそういうつもりはないです。ですが、ナターリアさんには伝えなければならないことがあります。なのでソニアに降ろして貰わないと、ただでさえ身長差があるのでそのままだと私はずっと見上げて話をしなきゃならないんです」

「……っ!」

 

 ソニアは遣り場のない怒りを発散させるようにナターリアを投げ捨てるかのごとく降ろす。

流石のナターリアも勢い余ってどさりと地に伏せ、その上質な衣類と澄んだ柔肌は泥にまみれた。

 

「話の、続きをしますがいいですね?」

 

 アンナはナターリアに手を差し伸べた。

 

*1
眠りに落とす(物理)

*2
すやぁ……




◆1話当たりの文字数上、末文のキリが若干悪い状態になっています。
あと2話程はキリが悪くなるため何卒ご勘弁の程をお願いします。

◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。
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