The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆リィンさんとんでもないな……。
前評判こそ聞いていたけれど、昇進2状態だと統合戦略の中ボスは軒並み手堅く対応できるとは。
ある意味統合戦略は危機契約の演習とは違ってオペレーターの挙動を把握するのに便利で助かります。
なお、ソーンズ・チェン・マドロックを統合戦略で使い過ぎたので彼らなしで古城探索に挑むも返り討ちに会う模様。
まだまだ精進が足りませぬ……。


SB-11.予約席締切

生き延びろ

 


 

「(どうしても、間に合わないと……っ!)」

 

 由緒ある仕立て屋で作らせた質の良い冬用靴の上からでも刺すような凍えを感じながら、ナターリアは必死に足を動かしてグラウンドを走っていた。

 

◆◆◆

 

◆食糧庫・入り口スペース◆

 

1096年12月22日、救助開始まで残り僅か。

 

「……以上がこの都市の現状、そしてこの高校から脱出するための条件になります。これよりも良い状態はもう望めないでしょう」

 

 ナターリアがDr.エッグマン(ウルサス学生自治団)と行った会談の内容は、彼女が得た大量の食糧や医療物資に色めき立つ貴族生徒達の空気を醒めさせるのには充分すぎるものだった。

 

「そ……そんな、バカな!帝国が、僕達貴族を見捨てるわけがない!」

「その情報は本当なのですか?平民共の出鱈目、いや嘘八百なのでは?」

「身柄取引の話を最初にしたのは貴女でしょう?!我々を騙したのか?!」

 

 眼前で慌てふためく貴族生徒達の反応はナターリアにとって予想の内だった。

此処にいる貴族生徒達の殆どが自身の立場の絶対性を信じて疑わないタイプの人間だからだ。

アンナ達が貴族生徒を凌駕する量の物資を持っているという事実があるにも関わらず、『平民だから』の一点で彼女達を侮るのは正に貴族らしい()()()()()だった。

とりわけ、ナターリア程ではないにせよ家柄の高い生徒や近年になって上流社会で地位を得た新興貴族の生徒は、己の拠って立つ立場の全てが否定されることは到底我慢できることではなかった。

 

「国軍の動きが遅いと思えば、そういうことか……」

「かつて狂った感染獣の発生と凶作に見舞われた地方領主が、帝都の貴族によって()()()()()()()()()処断されたとパパから聞いたことがあるわ」

「信じたくない……だが、帝都の欲塗れ共ならやりかねない」

 

 一方、情勢が読める者が全くいないというわけではない。

格としては古株でも権勢なく他家に見下され続けた貴族の生徒や帝都の権力争いに敗れチェルノボーグの血縁筋を頼って落ち延びた経歴を持つ貴族の生徒等は、帝都の譜代名家が同じウルサス帝国の同胞であっても落ち目とあれば特別の考慮などする筈がないということを父母から聞かされており、自分達がウルサス帝都を筆頭に他都市からの貴族によって食い物にされるという酷く現実的な未来展望に顔を青くした。

 

「付け加えると、先方は『後で対価を出すのであれば救助の人手を出す』と言って下さっています。対価についてはそれこそ縁戚の家を頼れば何とかなるでしょう」

 

 これまでの暮らしが暴徒によって滅茶苦茶になり生き延びる手段としてアンナ達が採った国民化。

 

 チェルノボーグありきのロストフ家であるが故に既に滅亡状態といっても差し支えないナターリアが掴み採った亡命。

 

 いずれもたった今チェルノボーグの末路を知り救助の期限が迫る生徒達が選ぶには時間も覚悟も足りなかった。

ナターリアもそのことは重々承知している。

そこでチェルノボーグ以外にもコネがある、他国からの留学である等の生活基盤に比較的余裕のある生徒の事情を考慮して、Dr.エッグマンと交渉をした際に『亡命ではなく一時避難を求める生徒については対価を支払えば救助する』旨の内示を取り付けていた。

内情は兎も角、紛いなりにもナターリアを首領として支えてきてくれた貴族生徒達の為にややハードルの低い条件を提案することで、ペテルヘイム高校から一人でも多く連れ出したいと思うナターリアの精一杯の報恩だった。

 

「身代金交渉などの予想を立てておきながら、その悉くを外した私の不明は謝罪してもしきれません。ですが、今ならここを脱出する機会が目前に迫っているのです。どうかもう一度、私を信じてついて来て下さいませ」

 

 ナターリアはそう言った後に頭を下げた。

 

 彼女の話を信じられない(たくない)一部の貴族生徒は更に怒り狂って言葉を荒らげる。

 

「平民共め!そもそも彼奴等はあれほどの物資を手に入れたのなら貴族に進んで献上して然るべきというのに、過分な財を得て増長したか!思い上がりも甚だしい!」

「そうだ!それを俺達貴族がわざわざ平民共の(ねぐら)に出向いてやったというのにこの仕打ちとは、全く不敬にも程がある!」

「より躾けてやらないといけないようだ!」

「我が父は常に帝国に無二の忠誠心を示してきた、その息子たる私を見捨てるなど偉大なる皇帝陛下がお認めになられるわけがないだろう!」

 

 他方、時間の猶予がない事を知った生徒は己の保身を図ろうと内輪で相談をし始める。

 

「ここに至っては命あっての物種。生き延びて外の家を頼るならひとまずは此処から出なくては……」

「本国のパパと連絡さえ取れれば、お金はなんとかなるはず……」

「シエスタにうちの本家が店を出しているから、そっちに行けないだろうか……」

 

「(やっぱり全員が、とはいかないわね……)」

 

 ナターリアの言葉に前向きな反応を見せたのはここにいる貴族生徒数十人の内の少数に留まった。

それ以外の生徒は平民生徒との協力を嫌う者と根拠の裏付けのない楽観論を盲信する者ばかりである。

ナターリアも自身の提案が全員にすんなり受け入れられるとは思っていなかったが、今この場において助かる術は最早脱出手段を得たウルサス学生自治団ひいては平民生徒達と協力し、Dr.エッグマンのエッグマンランドに身を寄せる他ない事を痛感している彼女にとっては非常にもどかしいことであった。

 

 ナターリアは最後の念押しにかかる。

 

「先に申し上げましたように、救助は本日深夜零時過ぎ……間もなく来る手筈です。猶予時間は三十分、過ぎればもう待ってくれません。私は彼らの提案を受け入れますので、皆様も何卒御決断をお願いします」

 

 タイムリミットを再度強調すると、彼女は倉庫出口に向かって歩き貴族生徒から距離を取った。

 

 倉庫から出るか、それともそのまま残るか。

 

 ナターリアの歩いた物理的な距離こそが、彼等貴族生徒の分水嶺であった。

 

 

 

 貴族生徒の不安でざわめく声が。

 

 壁の松明が燃え弾ける音が。

 

 外で吹き荒ぶ風の轟きが響くほどの静寂が、倉庫の空気を満たしていた。

 

 

 

「私は、ナターリア様の言葉に従いましょう。お前達、必要なものだけ持って戻ってこい。ナターリア様、私も準備を整えましたら直ちに戻って参ります」

 

 一拍の間が空いた時、彼女の許に一人男子生徒が歩み寄る。

彼は先の物資調達作戦において傘下の平民生徒が失敗した際に、ナターリアがその咎を庇い労をねぎらった貴族生徒だった。

彼は最初にナターリアへの賛同を表明すると、配下にしていた平民生徒達に指示を下しつつ自身も私用スペースの荷物を取りにその場を退出した。

 

「……感謝、致します」

 

 ナターリアは小さな声で謝辞を述べた。

 

◆◆◆

 

 彼の行動を皮切りに、チェルノボーグ(ペテルヘイム高校)からの脱出を決意した者とそうでない者との動きが明確に別れた。

ナターリアに従う生徒は私物の中で持参できる物の選別に取りかかる一方で、引き続き倉庫に残る者は彼らに悪態を吐きながら自分達のスペースに戻っていく。

 

 そしてナターリア達脱出派の生徒達が再び倉庫出口に集まり外へ出ようとした時、突然彼女に声が投げ込まれる。

 

「ナターリア……いや、売国奴!お前は己の身可愛さに我々を売ったのではないか?!」

 

 突然の罵倒にナターリアは振り向いて声の主のほうを見た。

そこにはペテルヘイム高校に強制収容された時に平民生徒からの略奪を提案した貴族生徒を先頭に、積極的に略奪を推し進めた複数の生徒が立っていた。

 

「一体どういうことです?何の謂われもない事を仰るのは止めて下さい」

 

 ナターリアは彼に発言の意図を質すと、その男子貴族生徒は憎悪に溢れた瞳でナターリアを睨みつけ更に言葉をぶつけてきた。

 

「黙れ、裏切り者!そもそもが間違っていたのだ!先のしくじった平民生徒の時もそうだが、お前は無駄に平民達に甘い顔をしている!このチェルノボーグに来る救援とやらも平民ありきの話であり、恥知らず共が愚かにも食糧を抱え込んだ時もお前がやった事は何だ!?あれだけある物資のほんの僅かしか持って帰らなかったではないか!」

 

 ナターリアを指す男子貴族生徒の警棒がぶるぶると震える。

 

「お前は交渉して得たと嘯きながら、実際は奴らに媚び(へつら)ってお情けでも貰っていたんじゃないか?!ならばお前の次の企みは明白だ!お前は貴族の誇りを捨て平民共を主と仰いで我々貴族を平民の生贄に捧げるつもりだろう!」

 

 貴族生徒の偏狭極まりない暴論に、さしものナターリアも顔を赤く染めて反論した。

 

「何を仰るのです?!この様な非常事態では平民も貴族も関係ありません!今を生き延びなければ食糧も地位もあってないようなもの、死んでしまっては元も子もありません!」

 

 ナターリアの言葉に彼は顔を酷く歪ませてナターリアを嘲笑った。

 

「化けの皮が剥がれたな、貴族の面汚しめ。どうせ最初に我々を統率しようとしたのもいずれ我々を平民に売り渡して平民の仲間入りするつもりだったのだろう?その証拠に、この期に及んでお前はまだ『平民』『平民』と喚いている!最早お前は栄えある帝国貴族等ではなく、只の卑しい敗北主義者だ!」

 

 男子貴族生徒の侮辱にたまらず、ナターリアも床を強く踏みつけ怒鳴り付けて言い返す。

 

「いい加減になさい!ふざけたことを言っているのは貴男のほうです!貴族であれ平民であれ、今は共に協力しなければ生きていけないことが判らないのですか?!」

「判っていないのはお前のほうだ、恥曝し!『貴族には平民以上の価値がある』、そして貴族がこれまで無知な平民共を正しく導いてきたのは貴族が高貴なる者の使命として平民共の生殺与奪を握ってきたからだ!貴族こそが優先されて然るべきなのだ!平民がどうのと(のたま)うその性根、そして貴族の誇りを汚して地につけたお前の罪は重いぞ、害虫め!」

 

 彼の悪辣極まりない独善的な主張に、そして彼のグループがそれに大きく頷いて同意する様を見たナターリアは、沸き上がる怒りを通り越して酷く頭が冴えてしまった。

このような考えを持つ貴族生徒がこれから庇護を求めるべきエッグマンランドに入国してしまえば、Dr.エッグマンに与える貴族の印象にとって限りなく悪影響になるのは明らかだからだ。

それどころか避難先一つでも周囲との価値観の隔たりで衝突が起こるのは時間の問題であろう。

彼らは気づいていないようだが、タダでさえ抑圧と強制労働を受けて脱走の機会を見計らっていた貴族生徒傘下の平民生徒は、救助が目前だと示されてからは逃げ出すように倉庫の裏から出て行くのをナターリアは既に察知していた。

 

 下働きを担う平民生徒の離脱で最早此処は早晩秩序が瓦解するだろうと見做したナターリアに、一寸先の未来も見えていない蒙昧な彼らに構う理由は一切無くなった。

ナターリアは一刻と減る時間を惜しんで話を切り上げた。

 

「貴男の言い分は聞きました。どうぞ御勝手になさって下さい。私は此処から即刻立ち去ることにしますから、どうか皆様が御健勝であられますようお祈り申し上げます」

 

  ナターリアが彼女に従う生徒を連れて倉庫出口の扉に手をかけたその時。

 

「帝国への反逆者を誅伐せよ!!」

 

 守衛室に備えてあったのであろう警棒や飲み干して空になったワイン瓶などを持って彼らは一斉にナターリア達に襲いかかってきた。

 

 ナターリアと味方の男子生徒達は非力な女性生徒達の前に出て迎撃の姿勢をとろうとした、次の瞬間。

 

「おりゃー食らえぃアッセイ者どもー!極東ニンポ、『(ハナ)(サカ)()()()』!

 

 倉庫天井の梁から一人の女子生徒が飛び降りたかと思えば、聞き慣れない用語を口にしながらポケットや鞄から幾つもの小袋を取り出して走る貴族生徒達に投げつける。

それが先頭の男子生徒に当たった途端、中から白い粉のようなものが辺り一面に飛散して彼らの視界をいきなり奪い取った。

 

「隙あり!どっせい!

「なんだこぐふぉっ?!

「うわぁ?!」

 

 突然のことに驚いて足を止めた生徒一人に女子生徒は鋭いキレの蹴りをお見舞いし、勢いそのままに貴族生徒達に叩き返したため吹っ飛んできた生徒に巻き込まれ後続はなし崩しに巻き込まれて倒れた。

 

「よし、逃げるぞお姫さん!」

 

 ロザリンはナターリアのほうを向くとにっかりと笑った。

 

 ナターリアはロザリンに蹴り飛ばされたあの貴族生徒と衝突した後ろの貴族生徒が揉めて言い争いをし周囲を巻き込んでいくのを後目に、彼女に賛同した仲間を全員連れて倉庫から抜け出し始めた。

仲違いから外れて追いかけようとしてくる貴族生徒も僅かにいたが、ロザリンが追い討ちとして残った灰を全てぶつけ、咽ている所に壁に掛けられていたペテルヘイム高校旗を被せて視界を完全に遮った。

高校旗を外そうと藻掻く生徒がふらついて他の生徒にぶつかり、そこからまた言い争いが勃発する。

 

 彼らは誰もお互いを助けようとはしなかった。

 

 脱出までの時間を稼いだナターリア達は、物資回収を担当した平民生徒を先頭に歩きやすい場所を探させて行かせ、戦いに不慣れだったり怪我をした生徒を続けて行かせる。

そして尚も言い争いが響く倉庫の閂に折れた鉄パイプで楔を打ち込むと、ナターリアは男子生徒達と共にグループの殿を務めながら隣を走るロザリンに尋ねた。

 

「ロザリン、貴女まだ脱出してなかったのね?」

「いやぁ倉庫にお姫さんが戻ったって聞いたからお姫さんが部屋に忘れた水とかを渡そうともういっぺん忍び込んだらさ……何か剣呑な雰囲気の連中が棒だの瓶だの武器を集め始めたからヤな予感してね。自炊用の窯から灰だの燃えカスだのかき集めてよ、梁の所で待ち伏せしてたらあたしの下でお姫さんと言い争いし始めるもんだからさ、あいつらがダマになって動く時にしこたま灰をぶつけて、やったぜ!ってわけ」

「そうだったの……」

 

 ナターリアは文字通り降ってわいた幸運に溜め息が出る。

もしロザリンの奇襲がなければ脱落者が出ていてもおかしくはなかった。

 

「それにしてもロザリン、私は貴女が強いってことは当然知ってたけれど、まさか極東の体術まで身に付けていたなんて思いもよらなかったわ。一体どこで学んだの?」

「んにゃ、アレはあたしの聞きかじり。以前龍門から来たトランスポーターから聞いた話でさ……極東には『NINJA』っていう武術スパイ軍団がいるらしいんだけど、そいつらの使う『ニンポ』っていう技にそういうのがあるんだって。何でも極東にいる魔法使いの爺さんは灰を使って植物に花を咲かせる魔法を使うらしいんだけど、『ニンポ』ではそれを真似て敵に灰とか粉っぽいものをぶつけて油断させた後にぶっ倒すんだって。向こうの伝説では『NINJA』の爺さんが、襲いかかってくる騎士の連中を木の上から『ニンポ』を使って返り討ちにしたらしいよ」

 

 ロザリンは走りながらも器用に身振り手振りを交えてナターリアに説明した。

 

「まぁ、極東にはそんな技術があるのね!アーツ技術か何かかしら?」

「その辺は知らないけど、いやぁ知ってて助かったよ」

「それを言うなら私こそロザリンのお蔭で助かったわ。本当にありがとう!」

「いいってことよ、お姫さん」

 

 未だに危地を抜けてはいないものの、ナターリアは灰で汚れたロザリンの顔を見て微笑む。

 

 ペテルヘイム高校に押し込められて以来、他者から奪い続けることしかできなかったナターリアが略奪を経ずに得たロザリン()の顔は、ランタンの灯りしかない宵闇の中であっても眩しく見えた。




◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。

◆1周年企画への投票ありがとうございました。
得票多数につきテーマは「もし博士がロドスに属していたら」という内容で執筆予定です。
ただ、大まかな内容は決めているのですが
・inロドスしているときのDr.エッグマンの状況ってどういうものだ?
というので色々と悩んでいたりします。
「組織に属するDr.エッグマン……映画版かな?でもあっちも政府相手に好き勝手してたしなぁ……」
と、作者が博士の破天荒さに振り回されております。
それと企画の投稿については現在進行の「ウルサスの子供たち」編が終わってからの投稿とさせていただきます。
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