The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆『ウルサスの子供たち』編最終部を執筆中ですが……こう、『キャラクター(具体的にはレユニオン勢)がうまくしゃべってくれない』状態になっています。
風景とかは思い浮かぶのですが……まぁ、執筆中の場面はつまるところレユニオンにとって不快なシーンなので口を聞いてくれないのは無理もないことなのかもしれません。
ごめんね幹部さん達、でもDr.エッグマンのすることだから(責任転嫁)

◆大陸でアークナイツ夏イベ情報があったそうです。
きっと背後でテラ名物の【いろいろな意味でどうしようもない事態】が起こっているんだろうな、と思った作者は毒されてしまったのだと思います。


SB-12-1/2.無法拾得物

元から手に入らぬ物を惜しむ者はいない

但し一度手の内に届く所まで至ったならば

只の一欠片程も惜しまぬ者はいない

 


 

「あの夏将軍を従えていたとは……流石、ナターリア様です」

 

 殿を務めていた貴族生徒の一人が二人の様子を見てそう呟くと、ナターリアは少し恥ずかしげに彼に言った。

 

「あ、いえ、彼女は配下とかそういったものではなく、その、親しくさせて貰っているのです(思わず二人の時の話し方をしてしまったわ。普段は話し方を崩さないように心がけていたのに……)」

「(あ、お姫さん。いつもの貴族トーク忘れて話したから照れてるな)」

 

 ロザリンはそんなナターリアを見てニヤニヤしていたが、背後の倉庫からチラホラと貴族生徒達が出てきたのに気づいて警戒を促した。

 

「あいつら、やっと裏口から回るっていう作戦を思いついたみたいだな」

 

 ナターリアと男子生徒も、入口に集まる松明の灯りを確認して苦い顔をした。

足許の雪で歩きにくい分先行するナターリア達のほうが校舎に近いものの、油断すれば直ぐに追いつかれることだろう。

そうなれば自分達は血祭りにあげられることは想像に難くない。

また、あの貴族生徒グループとは万が一和解が成立して共に脱出することになっても、今後の亡命先の活動において妨げにしかならないため、ナターリア達としては追い付かれるわけにはいかなかった。

 

「急げ、お前達!先に行って雪の少ない場所を進め……ナターリア様、後ろから飛礫(つぶて)が飛んできます!」

 

 男子生徒が配下の平民生徒に指示を出した直後、向こうから石や割れたレンガなどの飛び道具が幾つも飛んできた。

グループの間に距離があるとは言え、投擲手は他に比べて強靭と評される若きウルサス人である。

ただの飛礫は投擲手の悪意と害意を纏わせナターリア達を打ち殺す為の武器となって彼女達に襲いかかった。

 

「そいや!3ベースヒット!」

「はぁっ!好きなようにはさせない!皆様、頭を帽子や鞄で庇って下さい!」

 

 尤もそれは防衛側にも言えることで、対するはソニアと並び称された夏将軍ことロザリンがしなやかながらも猛獣の一振りを思わせるような蹴りで、一方でロストフ家から薫陶を受け爵位継承も約束されていたナターリアは鍛えられた武的センスで儀仗杖を使いこなし、飛礫を叩き落としていった。

 

 足に突き刺すような寒さが来るのを耐えながら、ナターリアはジリ貧になっていく現状をどうにか打開しようと思考を巡らせる。

 

「どうにかして追っ手の足を遅らせなければ……」

 

 幸いなことに追いすがる貴族生徒グループは雪の泥濘を嫌がっているらしく足並みが揃っていないものの、ナターリア達が校舎に入りそうになればなりふり構わず追いかけてくるのは明らかだ。

つまり、ナターリアはまだ貴族生徒グループの動きに無駄がある今の内に手を打つ必要に迫られていた。

 

「何か策は……あれは!」

 

 焦るナターリアの視界に映ったのは、先だってウルサス学生自治団が設営したキャンプベースだった。

今はもう彼等の避難は完了したらしく、人のいる気配はどこにもなかった。

 

「屋上、何あれ?!」

 

 先行する平民生徒が、目的地である校舎の上を見て不意に声をあげる。

ナターリア達がつられて空を見上げると、そこには巨大な四角い物体が三つ、支えうる柱も留めおく鎖もなく空中停止していた。

 

「(あれが救助用の乗り物!でも後ろが気付くのも時間の問題……そうよ、『気づかせなきゃいい』のよ!)聞きなさい!私が先頭を代わります、私について来て下さい!それと私がよしと言うまでは返答以外の会話を控えなさい!」

「はい、ナターリア様!」

 

 ナターリアは屋上の救助艇をみて一計を案じた。

 

 彼女は進路を自身に委ねさせると、先頭に出てキャンプベースの方に向かって走り出す。

他の生徒達もナターリアに従って走る中、彼女に併走するように近づいたロザリンはナターリアに行動の意図を聞いた。

 

「何?何か思いついた?」

 

 ナターリアは一番にテントの天幕を潜りながら作戦の内容を語った。

 

「ベースキャンプを使って相手の視線を一旦切ります。私達がテントに入ったとなれば追っ手はテントのほうに注目して必ずこちらに来るはずです。しかし向こうはこのテント群の配置なんて知りませんから通り抜ける最短ルートは簡単には選べないでしょう。そして……」

 

 ナターリアがテント群中央の所に辿り着くと、彼女が期待していたものが今もなおそこに山積していた。

 

「やっぱり残っていましたか……ロザリン?貴女ちょっと女優やってみない?」

「ふぇ?」

 


 

 貴族生徒が占領する倉庫には、貴族の庇護を受ける平民生徒も少なからず存在している。

庇護の対価としては労働奉仕や身辺護衛、また献上品の供出などがある。

 ()()はペテルヘイム高校に来るまでに得た装飾品を献上して貴族生徒に取り入り、代わりに『倉庫の隅で寝食する権利』を得た。

 

 庇護というにはあまりに粗末、宛ら野良犬が勝手に敷地に入るのを見逃す程度の処遇。

 

 これは『彼』からの献上を受け取った貴族生徒が、見窄(みすぼ)らしい平民風情を自身の視界に入れたくがないために『己の目の届かぬ所であれば居させてやる』という()()の表れだった。

 

 胸の内に煮えたぎる激情をひた隠しにしながら、貴族生徒の包み隠さない慈悲を『彼』は恭しく賜る。

 

 何故なら『彼』は知っていたからだ。

貴族(持つ者)が全てを得る、平民(持たざる者)は何も得られないのだと。

 

◆◆◆

 

 『少年()』は平民の家柄ではあるが、生活は貧民に類するものだった。

彼は父が都市の清掃に関わる仕事をしていたことは覚えているが、とにかく苦しい生活であったのは間違いない。

 

 彼は『持たざる』ということが許されない事を知った。

 

 ある日、彼の父は路地の清掃中に高価な装飾品を拾った。

彼等の家柄では決して持ち得ない、明らかに貴族の所有物であるソレを偶然手にしてしまった父は、大急ぎで近くの警察に届け逃げるようにその場を去った。

そのような物を持っていれば、或いは換金してしまえば、後で貴族からどのような仕打ちがもたらされるか判ったものではなかったからだ。

 

 しかし、結論を言えば父は拾うべきではなかった。

装飾品を警察に届けた後日、父は窃盗罪で逮捕され、チェルノボーグから追放された。

装飾品を落とした貴族(持ち主)が『盗まれた』と言い張っていたために、警察は勘気の矛先(窃盗犯)を探していたのだ。

そこに()()()()()()()()()()男が装飾品を持ち込んだことで、警察は逮捕に踏み切った。

 

 警察が彼と父の自宅に押し掛けてきた時、彼は両手に持てるだけの荷物を掴んで逃げ出し、浮浪児になった。

住み処を転々とする中で、彼は哀れな男()()()()を耳にした。

 

―金になる装飾品を警察に届けて捕まった男がいるらしいな-

―バカな奴だ。その装飾品を金に換えていれば警察に払う金程度は手に入っていただろうに-

 

 彼が父から教わった清掃におけるコツ。

人がゴミを落とす際は何処に落ちれば見つけられないか……ひいては何処に落として見つけられなかった金銭が転がっているかを実践しながら、彼は悟った。

 

 持たざる者であったから、父は全て喪ったのだと。

 

 持つ者であったから、貴族や警察は自由に振る舞えたのだと。

 

 彼は『冠と剣を持つ双頭の鷲(ウルサス貴族と警察)』に強い羨望と嫉妬を心に宿した。

 

◆◆◆

 

 しばらくして彼が流れ着いた場所は東部のスラムだった。

 

 彼と同じく持たざる者の吹き溜まり。

彼との違いがあるとすれば雨風を凌ぐ屋根を持っていること位か。

 

 空を仰ぎ見る暇は無く、この世への諦念を頭に抱えて俯き、ゴミや落ち物を探すために地面を見つめる集団の一つに彼は潜り込んだ。

スラムの顔役は(こす)いが目端は利く男で、彼が物拾いの経験を積んでいることを知ると拾い物の上納を以てスラムの居住を許す旨を彼に伝えた。

顔役は持たざる者達(スラム)で唯一の持つ者(共有財産の管理者)であり、スラムの住人は彼に従っていた。

 

 彼もまた『持つ者』に従った。

日々地を睨み落ち物や忘れ物を拾って過ごす、屋根があること以外は浮浪児の頃と変わらぬ生活だった。

 

 三ヶ月前、彼は自らその暮らしを台無しにした。

 

 彼は持つ者を羨んだ(魔が差した)

彼は共有財産の倉庫へ忍び込み、その中の何かを掴んだ時にスラムの子供達に見つかってしまったのだ。

彼は自分が何を欲してソレを掴んだのか、そもそも何を掴んだのかすら覚えていない。

ただ、彼はナニカ(持つ者)になろうとした。

 

 彼に何事かと話しかける子供の声に気づいた顔役が戻って来たことで彼は捕まった。

顔役は彼の顔を見るなり、頭に血が回って彼の体を強く殴りつける。

大人の男の拳が彼の腹部にめり込み、彼を大きく吹き飛ばした。

 

 倉庫の壁に打ち付けられた彼は、体を(うずくま)らせてずるずると床に這いつくばった。

床に臥せる彼を顔役が更に蹴り上げようとした時、子供達の世話を見に来た少女が血相を変えて顔役の足に飛びかかった。

顔役はいきなり(ふく)(はぎ)にかかった重みに驚き、そして顔面蒼白にして足を抑え掛かる少女の姿に意表を衝かれてその足を止めた。

顔役が時折見る時の少女は物静かなばかりでむしろ従順ないし没感情めいた振る舞いをしていたため、顔役は少女の豹変具合に思わず目を見開いた。

 

-どうしてカギがあいてたの?-

-カギ、なくしたの?-

 

 一拍の間が挟まる中で子供達は素朴な疑問を口にした。

顔役ははっとした様子で腰に着けた鍵束を確かめるが、鍵はどれも紛失していなかった。

顔役は少し前に倉庫の鍵を開けていたが、その時に鍵を掛け忘れていたのだ。

 

 共有財産に手を出す者は絶対に許されない。

 

 だが、財産に鍵をかけない者は間抜けである。

 

 通常スラムの共有財産に手出しした者は喩え少年(子供)とはいえ私刑の上で追放される。

だが窃盗の切欠は顔役の管理不行届(間抜け故に)だ。

ましてや同じく子供によって窃盗未遂となり、顔役の失態は子供によって衆目には晒されることはなかった。

 

罪には罰を。

但し、穏やかに。

 

 彼は腹部の治療の後にスラムからの追放処分となった。

 

◆◆◆

 

 スラムを追放された彼の行き着いた先は都市南部にある学校だった。

 

 ロストフ家の縁がない貴族が中心に出資しているこの学校にはやや裕福な貴族や商家の生徒が通っていたが、ここでは常日頃から清掃員の欠員に苦慮していた。

この学校の生徒にとって清掃員を始めとする職員は働く木人形と同義(いくら見下してもいい存在)であったからだ。

並の求職者であれば望んで勤めようとは思わない。

それでもこの校舎の事務所の戸を叩く者は大抵並以下の存在()だ。

であれば、いくら尊厳を穢した所で元々から汚らわしい以上問題ないというのがそこの生徒の発想だった。

彼は清掃員として迎え入れられた。

 

 彼は屑同然に扱われた。

唯一の救いがあるとすれば、生徒寮の共有浴場から出る廃棄水を盗めば多少なりとも行水や洗濯ができる事だった。

父は清掃の汚れが身体に入れば病になり体を蝕んでいくと教えてくれていた。

それに身汚くしていれば悪目立ちして、生徒の良い手慰みの的にもなるからだ。

事実、彼の後に入職した者は服の汚れで生徒から難癖を付けられ、汚物のような扱い受けてその身をくらませていた。

それを踏まえれば垢や毛の浮く水であっても、清潔にできるなら下水のソレよりはましである。

 

やはり、貴族や商家という持つ者は持たざる者を好き勝手できるのだ。

 

彼は真理を追認し、真理を恨み、真理に納得した。

 

 

 その後、彼は真理に裏切られた。

 

 レユニオンムーブメント。

 

 感染者という持たざる者の中でも最下層の存在の群れ。

彼の信じる摂理であれば何も成さぬまま散っていくはずの集団が、チェルノボーグに反旗を翻して彼の勤めていた学校に襲い掛かる。

 

 持たざる者であるはずの白貌の暴徒達は、校門前の守衛も宿舎の警備員も塵芥のように蹴散らして学校を制圧した。

 

 通う生徒が混乱に陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す中、彼は校舎から逃げ遅れた。

逃げる彼を突き飛ばし、暴徒への身代わりしようとした女子生徒と争いが起きたからだ。

 

 その生徒は本来であれば持つ者であったが、同時に彼女はこの校舎の学長の娘でもあった。

 

 そして校舎がレユニオンによって陥落した今、彼女は彼にとって同じ立場である持たざる者だった。

故に彼は激怒した。

 

 持つ者でない者、持たざる者に命を譲る謂れはない。

お前がそうするなら、俺もお前から奪うだけだ。

 

 校舎を手に入れ新たな持つ者であるレユニオンが彼を発見した時。

手に持つモップは水気を酷く吸い込んでおり、辺り一面に汚れを撒き散らして佇んでいたという。

 

 その後、彼は他の生徒と共にペテルヘイム高校に収容されて今に至る。

 

◆◆◆

 

 コミュニティからはぐれた他の生徒からなけなしの物資を略奪し、一部を貴族生徒に上納してから塒で休んでいた彼がナターリアが脱出の計画を話していると人伝に聞いた時、彼はナターリアが何故脱出しようと思ったのかが()()()()()()()()

この倉庫においてナターリアは、彼の上納先である貴族生徒よりも遥かに上の持つ者だ。

しかしチェルノボーグ全土がレユニオンによって蹂躙されている今、一度倉庫から出てしまえば彼女は一転して持たざる者に落ちぶれるのだ。

それこそ、家族も身寄りも家も財産もない彼と同じ立場になると言ってもいい。

そんなナターリアが亡命と称して自ら此処を抜けるということは、彼にしてみれば敢えて持たざる者へ成り代わるという決断と同じであった。

しかも手持ちの物資を絞った上での脱出となれば、己の身を進んで(やつ)す行為に他ならない。

 

 彼はナターリアがソレに至った理由が何なのかが判らなかった。

尤も、彼にとって気がかりなのは、ナターリア達がそれでも持ち出そうとする物資のほうである。

ナターリアに付いた貴族生徒が身支度を始め、倉庫に残る貴族生徒がナターリア派(貴族の恥曝し)を討たんと準備する傍らで彼はナターリアの持ち帰った物資箱の中身をあらためた。

『私以外の者が私の為に物資を仕舞う』と信じて隅に置くことすら誰も為さなかった箱には彼が決して口にできないだろう物が入っていた。

その内一つをくすねて封を切り食してみると、独特な味ではあるが彼が今まで感じたことがない程に腹持ちの良さそうな代物だった。

故に尚更、これらを自分の取り分を決めずに倉庫から出ようとするナターリアの言動は彼には理解し難いものであった。

 

 彼は、それでもナターリアが脱出するということは。

それに足る、或いは余りあるモノ、それこそ『持つ者』が『持たざる者』に落ちぶれようとも。

もしくはナターリアが校外でも『持つ者』のままでいられる理由があるのだと考えた。

 

 彼にとっての理由(真理)、つまり物資があるということだ。




◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。

◆R04/08/17追記。
感想欄によるご指摘を受け、補足文を入れるべく《彼》の行動について再考察していたところ思った以上に改編を施すことになったため、
SB-12を分割して編集・投稿することになりました。
読者の皆様にご迷惑をおかけすることになり申し訳ございませんでした。
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