The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆SB-12を分割して編集した物の半分をこちらで投稿しました。
ナンバリングこそ増えましたが前回投稿した内容の改編版です。
それに伴い一部文章を手直ししましたがまだ内容におかしい所があるかもしれません。
その点は何卒御容赦の程を宜しくお願いします。


SB-12-2/2.無法拾得物

拳を握る者は新たな物を掴めない

拳を開かない者は人の手を握れない

自ら助くる者になれず、あとは落ちるだけ

 

 


 

「テントの中に逃げたぞ!」

「今だ!仕留めろ!」

 

 追撃に加わった彼は逃げるナターリア派の生徒達を追いかけてテント群に突入した。

 

「(逃げる奴らから奪ってやる、ふん捕まえて俺のモノにしてやる!)」

 

 他の貴族生徒が足元や天幕によって移動にまごつく中、ナターリア派の生徒から物資を奪って『持つ者』に成ろうと滾る彼がテントに入った時にテント群のどこかから女子生徒の声が二つ聞こえてきた。

 

「ねぇ、こんなとこ居ないで逃げましょうよ!貴族生徒が他の生徒を追いかけているんですよ!」

「でもさぁ、こんだけ山みたいに食べ物があるなら一つくらい持って行かないと勿体ないよ!」

「どうせ貴族生徒が来たら全部取られてしまいますわ!巻き込まれないように早く校舎に戻りましょう!」

 

 その会話を聞いた彼は思わず足を止めた。

 

「(食糧が、山のように?)」

 

 確かに独善的な物欲に駆られている彼であったが、それでも食糧の確保は彼の喫緊の課題である。

今回の騒動で平民生徒の大半も逃げ出したであろう事は彼も確信しており、直に持たざる者(平民生徒)からの略奪が出来なくなるとも考えていたからだ。

そうなれば彼の羨望する『持つ者』には遠く及ばなくなるだろう。

 

「(罠か?いや、せめて軽くモノを見てみよう。声は近かった、女の脚なら少しくらい走ればすぐに追いつける筈だ)」

 

 彼は先の声が欺瞞の可能性を考慮しつつ、慎重に声のした場所に向かった。

仮に偽の話であってもその近くに女子生徒がいることは間違いなく、もしナターリア派であれば大金星、そうでなくとも貴族生徒に渡せば悪いようにはならないだろうと考えてのことだったが、真偽は彼の予想を遥かに超えていた。

 

「なにっ!?」

 

 周囲に声が聞こえる事も気にせず彼は叫んでしまった。

 

 彼の目の前には確かに山があった。

ウルサス学生自治団とかいう平民生徒グループが、巨大な甲虫ロボットを使ってどこからともなく入手したという食糧や医薬品の箱が、彼の背丈よりも高く山積みとなってそこに放置されていたのだ。

彼は中身が空の可能性を踏まえて箱のいくつかを蹴ったり叩いたりしてみるが、ずしりとした反動が体に伝わったことで大半の箱には中身が詰まっていることが判った。

恐る恐る箱の一つを開けてみると、そこにはナターリア派が持ち帰ってきた黄色いクッキー箱が隙間なく梱包されており、それが彼には金の延べ棒のように感じられた。

 

「倉庫から脱走した連中にはこれがあったのか。独占するつもりだったんだろうが、持ち出せなかったようだな」

 

 彼はナターリア派の脱走理由を平民に隷属しただの何だのと貴族生徒から聞いていたが、つまりはそういうことかと理解した。

 

「とにかく、これを他の奴らが見つける前に俺の分を取らないと……」

 

 だが、彼がそう独り言ちながら食糧箱の一つに手を出したと同時に、他の生徒が彼とは別の方角から物資スペースに辿り着いて叫んだ。

 

「こ、これはすごいっ!平民共の置き土産だ!」

「(なっ?!よ、余計なことを!)」

 

 彼の時は周囲に聞かれなかったようだが、今の貴族生徒の叫びはテントの近くにいる生徒達に十分聞こえたようだ。

にわかに周囲から物資の山に近づく足音が響き始めた。

彼は脳天気に箱の中身を見ようとする貴族生徒に悪態を吐きながら、他の貴族生徒の視界に入らないようにテントから抜け出す。

貴族生徒の目に付けば何の因縁を付けられるか判ったものではないからだ。

 

「(あの野郎!他の奴らが集まれば取り合いになるのは見え見えじゃねぇか!)」

 

 彼の懸念は杞憂とは言い難い。

例え山のような物資があっても、仮に生徒全員で分け合って余りある量があっても、一欠片も他人より少ないのを我慢できないのが人間の性の一つである。

平時なら幾分かは自制心が働くかもしれないが、このような状況では自制心……ましてや貴族生徒のそれに期待など出来るはずもない。

そして自制心を持たないのは彼とて同じであった。

 

「(ふざけるな!アレは俺が最初に見つけた物だ!俺が一番好きにできるはずだ!しゃしゃり出てきた馬鹿に奪われてたまるか!)」

 

 彼は物色する貴族生徒に憤慨し、自分が『持つ者』になるがために策を練り、閃き、実行に移す。

彼は物資スペースから十分に離れたテントまで身を隠すと、食糧や医薬品(彼の物)に群がろうとする貴族生徒を潰すために殊更大きな声で言い放った。

 

『ナターリアの子分が物資を狙っている!どさくさに紛れて奪って向こうに持ち出す気だ!』

 

 そう、彼は居もしない敵の影を物資スペースの貴族生徒達に押し付けた。

これは一つの賭けであった。

万が一貴族生徒達がナターリア派の虚像を警戒して冷静になって物資を守ろうとすれば彼の取り分はゼロになるだろう。

暗闇とは言え適切にこの場にいる相手の顔や名前などを確かめれば、相手がナターリア派ではないことはすぐに判るからだ。

 

 だが彼にはこの策にある程度の自信があった。

貴族生徒から離脱した者がいるという事実は彼ら貴族生徒に一つの疑念を抱かせた。

『私以外の生徒は実は裏切っているのではないか?』という、他者を信じない思考だ。

そして結果は彼の望み通りになった。

 

貴様、その箱に近付くな!脱走者共の所に持って行く気だろう?!

ふざけるな!お前こそどれだけナターリアに手土産を持って行くつもりだ!そのような裏切りは絶対に許さん!

 

 互いを貶す罵詈雑言は次第にキャンプベース全体を包み、至る所で悲鳴と殴り合う音が聞こえてくる。

彼は策の成果に深く満足げに一息つくと、冷え切った体を労るようにテントの切れ端で身をくるんで夜風の当たらないよう、少しの間休憩をとることにした。

騒音がある程度収まる頃には一人頭の()()()()()()減って彼の取り分は圧倒的に増えることだろう。

 

 彼は人生最大とも言える収穫量を夢見てその時を待った。

 


 

 救出地点の屋上まで上がってきたナターリア派の生徒達は、今にも倒れ込みそうな程に疲弊していた。

アンナとソニアは急いで医療班のヴィカを呼び戻して応急手当の準備を指示をすると、歩くのにも苦労している生徒達の介助を行った。

 

「ナターリアはどこ行った!?」

 

 一行の中にナターリアの姿が見えなかったため、ソニアは後続の男子生徒に尋ねると彼は体を震わせながらもソニアに答えた。

 

「ナターリア様は夏将軍と共に屋上までのルートに障害物を置かれに行っている!もうすぐ来られるはずだ!」

「は?夏将軍って、アイツも?」

 

 ソニアは思いがけない名前を聞いてやや裏返った声が出た。

 

「そういえば避難生徒達の中に居ませんでしたね、彼女」

 

 アンナも今更そのことに気づく。

撤収作業に忙殺されていたが故のことだった。

 

 屋上の出入口が勢い良く開け放たれた。

 

 そこには汚れだらけになりながらも、しっかりと二本の足で立つナターリアと後ろを振り返るロザリンの姿があった。

 

「ソニア、校舎にはもう誰も居ませんわ!」

「アンタわざわざ確認してたのかよ!?」

 

 ナターリアの埒外な行動力にソニアは叫ばざるを得なかった。

 

「ロザリン、扉お願い!」

「あいよーお姫さん!どるぁっしゃーい!

 

 ナターリアが扉を閉めると、ロザリンが助走をつけ、強烈なドロップキックを以て扉の蝶番辺りを蹴り抜く。

扉は歪んだ鉄板に成り果て、屋上の扉としての機能は果たせないようになった。

 

「いぇーい、試合終了(タッチダウン)!ほら、お姫さん手出して」

「え?こ、こう?」

「はいパーン!ハイタッチ!

「は、ハイタッチー!」

「何やってんだアイツら……」

 

 ソニアは目の前の寸劇が夢か何かじゃないかという気がしてきた。

よりによって演者の一人があのナターリアであるという荒唐無稽さを除けば、その所作はまるでどこかの部活か何かであった。

 

「お二人は知り合いだったんですか?」

 

 アンナがナターリアとロザリンをエレベーターに誘導しながら尋ねる。

 

「えーっと、あたしが落下して、お姫さんがマット替わりになった仲」

「何のことだかわかんねーよ!」

 

 ロザリンの答えを聞いたソニアの叫びが屋上にこだました。

 

《時間は十分程オーバーしておるが、まぁ大目に見てやる。もうこれ以上は待たんぞ。準備はよいか?》

 

 スピーカーからDr.エッグマンの声が響く。

 

「はい、博士。エレベーターをお願いします」

《うむ。エッグマン戦隊!エレベーター格納と同時に発進、最大船速でペテルヘイム高校上空から離脱せよ!これよりエッグマン艦隊臨時待機空域に帰投する!》

 

 アンナの回答に合わせてエレベーターが上昇するにつれ、次第に校舎を臨む視界が狭まっていく。

過ごした時間は長い訳ではないか、生徒達にとっては何年も経ったかのように感じる程の濃い日々であった。

 

「そういえば、ロザリン。オマエの言ってた『ロサ』ってやつは無事だったのか?」

 

 ふと、ソニアはロザリンに貴族生徒グループに居るという彼女の友人のことを尋ねた。

 

「ふぇ?」

「あら、ロザリン。貴女私以外の親しい生徒がいたの?せっかくだから紹介してくれないかしら」

 

 ロザリンが何ソレ?といった顔をし、ナターリアはロザリンの交友関係に興味を抱いて尋ねる。

 

「何だっけ?」

「何だっけじゃねぇよ。さっきキャンプベースのバイト代でそいつの分の食糧を持って行ってたろうが」

「あっ」

「まぁ。貴女って私以外にも食べ物も渡したりしてたの!私の他に人助けをしていたのね!」

 

 ソニアがロザリンの呆けを訝しみ、ナターリアが感心した様子でロザリンを褒めると彼女は事態を悟ったようで苦笑した。

そろそろとナターリアの隣に移動すると、両手をナターリアのほうに向けて言った。

 

「紹介します。『ロサ』こと、ナターリアお姫さんです」

「……」

 

 一瞬の間が空く。

 

「……平民生徒じゃねぇじゃねぇか!?」

 

  ナターリアは何のことだか判らずに首を傾げ、ソニアは真相を明かしたロザリンに噛みついた。

 

「いやーあたしは別に『平民生徒』とは言ってないし、それにあの時のお姫さんがマジでボロボロなレベルで貴族生徒に振り回されてたのは確かだし。メンタルぐずぐずで飯はあれど全然食えてる感じじゃなかったから、あたしが食いもん持って行こうかなって」

 

 ロザリンは悪びれた様子もなく答える。

実際ロザリンはソニアを騙して必要以上の食糧を横領したわけではなく、ナターリアに運んだソレも彼女の労働の対価によってのものであるため理屈としては筋違いというわけではなかった。

 

「じゃあ、何でナターリアじゃなくて『ロサ』なんて名前言ったんだ?素直に誰に持って行くか言やぁいいだろ」

「いやーきついでしょ。だってあの時って他グループや貴族生徒が食いもん狙いで襲ってきてる時じゃん?いくらあたしの真っ当なバイト代だからってお姫さんの所に持って行くなんて言ったらダメになるかもしれないし。或いは貴族生徒グループへの手土産にとか思われたりさ」

「う……」

 

 ソニアは偽名を使われた事に不快感を示したものの、ロザリンの言い分自体は理解できるものだった。

ソニア達の方針としては貴族生徒がこちらの提示する条件を呑めば分配するつもりではあったが、仮にあの時に他の平民生徒がそのことを聞けば一悶着あったかもしれないのだ。

また平民から貴族への物資提供ルートを認めてしまえば、貴族生徒グループ傘下の平民生徒が物資を受け取り貴族生徒がそれを徴収するという図式が出来たかもしれない。

そうなるとアンナとソニアの間でロザリンの要望を断っている可能性は否定できなかった。

 

 ソニアがロザリンの考えを聞いて黙り込むと、事情を察したナターリアがロザリンの手を握り涙を溢しながら頭を下げた。

 

「ごめんなさい、ロザリン……私は、貴女に危ないことをさせてしまっていたみたいね……私が……至らないばかり、に……」

「え?いや、ちょっと?!何でお姫さん泣いてんの?!」

「……ままならねぇ」

 

 ナターリアが涙目になりロザリンが困惑しソニアが顔をしかめる。

 

「何なの、これ?」

 

 ナターリア派生徒の介抱を終えたヴィカがぼそりと呟いた時に。

 

 ガコン。

 

 エレベーターの床が飛行船に完全に格納され、ペテルヘイム高校の景色が完全に遮られると全身を包む浮遊感が一瞬アンナ達に訪れた。

 

「上昇している、のでしょうか?」

 

 ナターリアが不安を僅かに滲ませながら呟く。

 

「判りませんが……もう体が冷えてかちこちです。さっき飲み物を配っていると聞きました。ひとまず、一服しましょう」

 

 アンナは冷えた耳を帽子の中に仕舞い込む。

体育館程の広さがある船内、その向こうの場所ではコック帽を被ったロボット達がいくつものテーブルを揃え、コンロを置き、ポットを並べて温めている。

ナターリアより先に救助された生徒達が、テーブルの前でロボットの注ぐ飲み物を順番に受け取っていた。

 

「きっと人数分ありますよ。ここはペテルヘイム高校じゃないですから」

 




◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。

◆結局、ペテルヘイム高校が争いを以て幕を閉じることに変わりはなく。
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