The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆ウルサスの子供たちの夜、前編。
一夜の物語が5000字をオーバーしたため分割して2話連続投稿です。

◆ロドスキッチンの彼女とかゴールデングローとか見てるとエッグマンボーグ建設後の都市に放り込みたくなってきます(他にも某修道院とか某酒造とか色々と)。
あそこの経済活動について書こうとしたらエッグマンボーグの都市事情説明回を設ける必要がありそうですが。


SB-13-1/2.Good night near the moon

今はただ

彼女に一時(いちじ)

安眠を

 


 

◆エッグマン艦隊・エッグホスピタルシップ内◆

 

 夜の世界を移動する飛行船の中。

 

 船のプラットフォームでは毛布を掛けた生徒達が身をくっつけて寄り添い合い、ロボットから受け取った温かいドリンクを大切に飲んでいる。

誰もが心身耗弱しているが、今はただゆっくりとソレを味わっていた。

 

「それにしても、ここはすごい所ですね。私には判らないものばかりです」

 

 意味があるのか判らない衛生帽を被ったロボットから渡されたドリンクを飲みながら、ナターリアは船内を見渡す。

ナターリアのドリンクは甘い味付けのされたミルクティー。

彼女が一族の屋敷で嗜むようなそれと比べれば味は雲泥の差ではあるが、それ一杯だけでも体の疲れを労って彼女を睡魔に誘うことができるだろう。

しかしそれ以上に、ナターリアは初めて見る空飛ぶ船のほうが気になっていた。

 

 船内はかつて彼女が都市の主要エンジン部を視察した時に見たような様々なパーツがキラキラと点滅して稼働する一方で、船内は騒音の類いが殆どなく非常に静かだ。

彼女の耳に聞こえるのは船外の風切り音以外には僅かに機械の駆動音が混じる程度で、乗り物の発する独特な振動がなければ船に乗っているという感覚も忘れてしまいそうな程だ。

船内のカラーリングやデザイン・装飾等はウルサス帝国の好む趣とは全く異なる派手さではあるが、初めての乗船としては概ね好印象であった。

 

「だなぁ。何つぅか違う世界に来た気分だ。たまに都市に来るサーカス団の遊園地アトラクションのほうがよっぽど現実味があるぜ」

「乗るならアトラクションよりこっちのほうが大歓迎!だってここじゃ飲み物がフリーなんだからさ」

 

 ナターリアを間に挟んで、ソニアがスパイス入りコーラを、ロザリンが蜂蜜マシマシのホットミルクを飲みながら船内を歩く。

彼女達はそれぞれが就寝用に割り当てられた部屋に向かって歩いている所なのだが、ソニアとロザリンがナターリアの傍を歩いているのは彼女が貴族生徒グループのトップであったために貴族生徒に対して恨み骨髄の生徒から襲われるかもしれなかったからだ。

そのため近くに部屋のあるソニアとナターリアと同室になったロザリンという『冬将軍』『夏将軍』の二枚看板がナターリアの護送にあたることになった。

なお、平民生徒達には

『ナターリアと生徒間でトラブルが起きないようにナターリアを監視する』

と説明している。

表向きはナターリアを監視するという一種の上下関係、つまり見張られるナターリア(下位者)と見張るソニアとロザリン(上位者)の構造を作ったことで一部の生徒は溜飲を一時的に下げて大人しくなった。

なお彼女の待遇に難色を示す貴族生徒もいたが、彼等についてはナターリアが自らその必要性を説いたため納得をして貰い落ち着かせている。

 

「ここだな」

 

 プラットフォームから歩いて幾ばくかの後、ソニアがある部屋の前で足を止める。

そこには電光掲示板でナターリアとロザリンの名前が表示されていた。

 

「アタシもさっき他の奴の部屋を見たけど、四人部屋の上下ベッド二つにシャワー有りでまぁ悪くない。軽食用の水とパンもあるらしい。爺さんが言うには話だの何だのは朝になったらするらしいから、それまで少し休んでろってさ」

 

 ソニアは顎でナターリアとロザリンに入室を促し、二人が部屋の前に行くと静かな音を立てて扉が自動で開く。

 

 無機質な部屋である。

飾り付けや塗装等は最小限だがDr.エッグマンのデザインロゴだけはしっかりと描かれている。

まっさらな寝具を据えた上下ベッドが部屋の左右両側にあり、ベッド横の壁には物置用の棚と小物入れが埋め込まれている。

棚の中にはそれぞれ支給された軽食に体を清めるための白いタオルとバスローブ、歯ブラシにコップが置かれていた。

部屋の奥に二つの扉があり、恐らくそれがシャワー室とトイレ室になっているのだろう。

休憩する場所としての機能は一先ず満たしているが部屋としては狭く、(さなが)ら少し機能的な寝台車程度といった所だ。

 

 こういった部屋は、ナターリアのような貴族階級が休むには到底格の見合う代物ではない。

しかし今の彼女にとっては、あの高校の虚飾で誂えた倉庫の自室以上に心安らぐ場所に思えた。

この機能的で無機質な部屋には、彼女を苛む略奪の証がどこにもないからだ。

 

「朝になったら呼びかけがあるってよ。時間になったら船の食堂に集合な。じゃあな、アタシも部屋に行くから」

 

 ソニアは二人が部屋に入ったのを見届けてから、自分にもあてがわれた部屋に向かっていった。

 

 部屋に入ったロザリンは興奮した様子で室内を見回る。

 

「うわぁ、すっげー!ちゃんとしたベッドだ!あたしの家のベッドよりずっと新品だぜ!いゃっほう、棚に食いもんも入ってる!タオル!ズタボロの布切れじゃないちゃんとタオルしたタオルだ!バスローブなんて貴族様かよおい!あっでもちょっとサイズあわねぇ!うひょーテンション上がるなぁー!」

「あ、こらロザリン!そんな泥だらけの服でベッドに飛び込まないの!シャワー使ってキレイにしてからよ!先にシャワー使ってもいいから、ほら、落ち着いて」

「ん、そう?先にシャワーしてもいい?ありがと、お姫さん!」

 

 ナターリアはベッドに寝転がろうとするロザリンを制し体を洗ってからにしろと注意する。

ベッド手前で急停止したロザリンはナターリアに一言謝意を述べると、備え付けのタオルとバスローブを掴んで早速シャワー室に駆け込んだ。

 

「……ふぅ」

 

 ナターリアはタオルの一枚をベッドに敷いてその上に座る。

やや硬質なスプリングの感触がナターリアの体に返ってきたが、今の彼女には全く問題ではなかった。

高級寝具のない相部屋状態となっているこの船の部屋のほうが、あの倉庫の個室よりも安心感があってずっと心地良かったのだ。

 

 思わず、瞼を閉じてしまいそうになる。

 

-えっ、『洗濯乾燥機』?『入れたら洗濯と乾燥がたった数分』『綿・ウール(獣毛)・絹・革、何でもよし』?ってやばい!すげぇ!うわぁ手袋が一瞬でキレイになった!手洗い要らず放り込むだけとかウチにも欲しい!-

「……せめて下着だけでも洗えないかしら?」

 

 ロザリンのはしゃぐ声がシャワー室の扉越しに聞こえる中、ナターリアの切実な言葉が部屋内に漂い霧散した。

 

◆◆◆

 

「いやぁスッキリしたー!あがったよ、お姫さん」

「ありがとう、ロザリン」

 

 十数分後、ロザリンは湯気でほかほかしながら満足げにシャワー室から出てくるとナターリアが入れ替わりでシャワー室に入った。

新品同然と言える程に清潔感のあるシャワー室は先程までロザリンが使っていたお蔭で手前の脱衣スペースもやや温かくなっており、服を脱ぐのに躊躇いのない程度の室温になっていた。

 

「思えば、ルームメイトとお風呂の共有をするのって一年生寮以来かしら」

 

 暴動によってナターリアの通う高校が陥落して以来ずっと着ていた制服を脱ぎながら、ナターリアは貴族生徒が共同生活に慣れるために母校が実施したルームシェアカリキュラムを思い出した。

期間こそ一年だけの短期間でその後は家格に合わせた個室に変更されたが、既に爵位継承が有力視され周囲から若干の格差を感じていた当時の彼女にとって同世代とのルームシェアは新鮮で貴重な思い出だった。

 

「まぁ、寮室のそれとは段違いではあるけれど。今の私にはこの部屋でも贅沢よね」

 

 ナターリアはそう独り言ちながら脱いだ埃塗れの服を畳み、シャワー室に入って久々の温かい水を使ったシャワーを堪能する。

肌にべたつく埃と汗の混じった不快感が、壁のノズルから溢れる流水と共に排水口に流れていく。

全身を浸す温もりで惚けてきたナターリアは何となくその様子を見つめていたが、その水がうっすらと土色に見えてきたため慌てて備え付けの液体石鹸を手につけ体を洗い始めた。

 

手、顔、髪、首、耳、肩、腕、肘、脇、胸、背、胴、下腹部、臀、尾、腿、足、指。

 

 磨くように、禊ぐように。

泡がナターリアの体を包み、埃、汗、垢をまとめて剥ぎ取って流れていく。

 

 流石に普段彼女が使っていたような品質の石鹸程ではないものの、纏わりついていた汚れを流し去るには十分だった。

それと同時に、彼女が美しくあれと貴族生徒(平民生徒)から献上(略奪)された口紅、白粉、香油、香水も等しく汚れと共に(あな)の奥に落ちていく。

そうして(あらわ)になるナターリアの素顔は、化粧を落としても変わらぬ美しさである。

貴族令嬢であるならば、更に美しくなるべくこの後に平民の生活費以上(最高級)の化粧品を惜しみなく使って美貌の維持に精を出すものであるが、虚勢と作り笑いを貼り付けた(口紅、白粉、香油を施した)顔に戻るよりも素顔のほうが遥かに気楽だった。

 

 ナターリアの銀糸の髪と白絹の肌からペテルヘイム高校で溜まった汚れを隈無く清め終えた時、彼女は体がふっと軽くなったような気がした。

 

◆◆◆

 

 体を洗い終え歯磨きをしてからナターリアがシャワー室を出ると、ロザリンは既にベッドの毛布にくるまって寝息を立てておりその様子を見た途端に重くのしかかるような睡魔が彼女を襲ってきた。

ペテルヘイム高校に強制収容されて以来、ずっと彼女を縛り上げていた緊張の糸がとうとう緩んで彼女の体を強引にでも休ませようとしているかのようだった。

 

「これから私は、博士と今後について話をすることになるけど……今寝ちゃったら、ちゃんと起きられるかな……」

 

 ナターリアの口は後の打ち合わせの事についてそう言いながらも、足はずりずりとベッドのほうに向かい始め、体はどんどん前のめりに傾き、ベッドを前にすると吸い込まれるように倒れ込んだ。

 

「あ……だめ……わたし……かみがぐしゃぐしゃになっちゃう……」

 

 少女らしい言葉を最後に、ナターリアは完全に意識を失った。




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