The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
あとシナリオの見直しが、苦しいねんな……。
※この話自体は【孤星】以前に執筆がまとまっています。
まぁ話の展開には関与しないし大丈夫なはず。
これを着ることを夢見ていた
今それは彼女の肩に重くのしかかる
一歩ずつ。
例え遅かろうとも全力で。
叔父から借りた、ぶかぶかの警察コートを揺らしながらゾーヤは歩く。
膝をつきそうになっても、気力で踏ん張り足を前に出す。
この先にいる筈の父の姿を探して。
1096年12月。
◆チェルノボーグ・軍事警察防衛拠点◆
『いいか、何があっても自分の命を最優先に行動するんだ。もしも
ゾーヤは捕虜として収容されていた学校から監視の目を盗んで脱走を果たし、混乱する街中を走り続けた。
途中自宅の近くまで来ながらも暴徒の集団に遮られてしまったせいで寄れなかったものの、幸運にも軍事警察が防衛線を張る拠点まで辿り着くことができた。
拠点に着いた時は怒れる市民の波に巻き込まれそうにもなったが、そこには彼女の叔父であるヴァレリーが配属されていたことで事なきを得た。
しかし、そこで聞かされたものは彼女を大いに打ちすえるものだった。
向かおうとしていた自宅、その区画は
家にいるはずの母親の生死は不明、しかし全く楽観できるものではない。
その凶報を聞いてゾーヤは崩れ落ちそうになる。
更にゾーヤの父ロバンはペテルヘイム高校で感染者側に何か動きがあったことを知り、少しでも敵の情報を探るべく斥候の赴いたがそれ以降の消息は途絶えていた。
軍事警察が眼前の事態の対処に追われているため、ゾーヤは胸に誓っていた守護の精神を奮い立たせて、自身もまたペテルヘイム高校への偵察を行うのだった。
1096年12月。
◆チェルノボーグ・ペテルヘイム高校付近◆
「判ってるよ、叔父さん。私は必ず無事に、父さんと帰ってくる……」
何度かの感染者集団との遭遇を避け、どうにかペテルヘイム高校周辺まで近づいたゾーヤだったが感染者の動きが他の区画よりも騒がしくなっていることに気がついた。
ただし、その騒がしさは暴力に酔った刺々しいものではなく、何か貴重なものを見つけた時の喜びのような雰囲気を漂わせていた。
「……一体何が?」
ゾーヤが付近に転がっていた大型ゴミ箱の中に隠れて聞き耳を立てると、どうやらちょうど近くで荷台を牽いているらしい感染者が隣の仲間と話をしながらで歩いているようだった。
「全く、世の中何があるかわからないもんだな」
「だな。あんなチンケな高校からまさかべらぼうな数の食糧だの水だのが見つかるっていうんだからな。おまけにウルサス語の説明書付きの薬と包帯もあったんだと。一体学生とかいう連中は勉強などしないで冬眠前の山獣みたいにモノを溜め込む練習でもしてたのかね?」
「いや、どうもそのブツのパックには此処等じゃ全然見たことのない模様が入れ物だのに描かれて包んであったらしいぞ。だからあれじゃないか?軍事警察かどっかの貴族が隠し財産的なやつを学校に隠してたとか」
「じゃあ俺達、つうかメフィストの奴があそこに学生を閉じ込めちまったせいでソレを持ち逃げできなくなったのを学生が見つけた感じか。それが巡りめぐって俺達のものになるんだから『
「だな。実際問題なく食えるってドゥリンの同胞が言ってたし、食糧や薬はいくらあっても足りないからな。まぁ……そこにいた学生共にはもう要らない代物だしな」
「内部分裂の同士討ちでほぼ全滅だってな?やんなるぜ、いくらなんでも。メフィストの野郎、それを狙ってたのか?」
「かもな、いや、あれだけの物資があるのに奪い合いで潰しあっちまったのならどうしようもねぇよ」
「全くだぁな。それよりも気になるのがこのあたりの監視を全部叩き潰したっていう
「俺に聞くなよ。だからさっさとモノを運び出してそいつや軍事警察に奪われないようにするんだろ?それに運び役には報酬で食糧支給だってよ、急ごうぜ」
「(ペテルヘイム高校が全滅?!どういうこと?父さんは、父さんは?)」
感染者の驚くべき情報によって歪む視界と思考の中で、ゾーヤは腰ホルダーにある通信装置をそっと撫でる。
通信障害さえなくなれば救援の軍隊や父ロバンと連絡がとれるかもしれないと叔父ヴァレリーが出立前のゾーヤに手渡したもので、彼女はペテルヘイム高校に近づいた時に使用してみようとこれまで考えていた。
だが、先のあのような話を聞いてしまったがために。
「(父さんの声が聞きたい……)」
塗装剥がれと錆びの濃い臭いがするゴミ箱の中で、小さく蹲ったゾーヤは通信装置のスイッチを入れたい衝動に駆られた。
「でも、これを使うのはペテルヘイム高校に行ってからだ……」
装置を撫でる手を止めて、ゴミ箱の蓋に手を掛ける。
誰もいないことを確認したゾーヤは目的地に向けて走り出した。
◆ペテルヘイム高校付近◆
「ここだ……やけに校内が騒がしい。父さんは、どこに?」
ペテルヘイム高校のあるブロックまでたどり着いたゾーヤは高校を偵察できそうな場所を探して動き始める。
父ロバンがペテルヘイム高校を探ろうとしていて、且つ校内に潜入しているのでなければそういった場所に隠れているかもしれないと考えたからだ。
とはいえ、ゾーヤ本人は隠密の素人。
本職警察の隠密や捜索に対しては非力同然に加え、此処等にはレユニオンの感染者がかなり集まっているのでゾーヤ自身が先に発見される可能性が高い。
ペテルヘイム高校が最前線より離れているお陰で感染者の注意が校内にあるという膨大な物資のほうに向かっているのが不幸中の幸いだった。
「(とにかく当たりをつけて、通信装置を試してみるしかない……父さんなら、どこに隠れる?例えば、かくれんぼとか雪おにごっことかでどういう風に隠れてた?)」
ゾーヤは己の知識や記憶を総動員して父ロバンの居場所を推測する。
そうして得た結論は、『二階まであって金品の有りそうな住宅ではなく』『商店でも金品と物資が有りそうな店舗ではなく』『高校とのアクセスが優れた家』。
「……通りの、文具屋。警察とか軍人ならともかく、金目当ての奴なら魅力的でない気がする」
ゾーヤは以前ペテルヘイム高校に来た時の思い出を頼りに行動に移す。
そこは学校付近にある小さな文具屋で、デザインが流行遅れだったり型落ちだったりするものの文房具ノート類の取り揃えが充実したお金に厳しい学生達向けの店という印象を覚えている。
博打も良いところの当てずっぽう状態だが、しらみ潰しに店を探すよりも余程ましだった。
念のため隠密がてら道中にある他の偵察できそうな建物も調べながら進んだゾーヤはいよいよ目的地の文具屋にたどり着いた。
流石に文具屋といえど無傷というわけにはいかず窓や扉が壊され売り物のメモ用紙などが打ち捨てられているものの、他の襲われた商店と比べれば綺麗な状態を保っている。
店の側に置かれた木箱に身を隠すと付近に巡回している暴徒のいないことを確認してからゾーヤは通信装置を取り出した。
「……おねがい」
一言、祈りの言葉を口にしてからゾーヤは通信装置のスイッチを入れた。
《-√*ー-~》
「……こちら『チェルノボーグ勇敢警官隊隊員』のゾーヤ、ロバン隊長、応答願います』」
ゾーヤはかつて父と警官ごっこをした時に作った役職を使って、当時よりもはきはきとした口調で通信装置に話し始めかけた。
幼い頃に作った二人だけの警官隊の言葉ならば届くかもしれないと願いながら、ゾーヤは通信装置の受信に耳を傾ける。
「ロバン隊長……父さん、応答願います、父さん、父さん……」
「……父さん、お願い、返事をして」
通信装置から父の声は返って来ない。
ゾーヤは堪えるように目を瞑った、その時。
《-√*ーヲシテ》
「!?」
ゾーヤは思わず目を見開いて通信装置を凝視した。
確かに通信装置から音は出ていない。
だが、あの音はゾーヤの声だった。
「……もしもし」
《-√*ーモシモシ》
「!!」
自身の声が、文具屋の窓枠の壊れた二階から聞こえてきた。
ゾーヤは息を殺して裏口から文具屋に入り、二階への階段を昇る。
軽い学童具類の倉庫だったのだろう二階を忍び足で歩きながら、ゾーヤは通信装置にもう一度話しかける。
「父さん、どこにいるの?」
《トウサン、ドコニイルノ?》
「……その部屋、か」
声が聞こえてきたのは学校通りに面した見張るにはもってこいの場所で、そこの戸の前には壊された錠が落ちていた。
ゾーヤは廊下に立て掛けてあった大型コンパスを警棒代わりに携え、壁に身を張り付かせつつ部屋の戸を開けて中の様子を見た。
部屋は静かで、窓から外の空気が流れ込んで冷えており、外れかけた窓枠が風に揺られてきぃきぃ音を鳴らしている。
そして他に何かないかと探すゾーヤの目に、父が出動する前に被っていた警官帽が飛び込んできた。
「父さん!」
部屋に入ったゾーヤは帽子を拾い、首を左右に振って父の姿探す。
壊れた窓、なし。
ひび割れた壁、なし。
先ほど開けた戸、なし。
崩れた棚、恐らくカーテンだったのだろう布が被さっている。
その布の端に、靴を見た。
「父さん!!」
ゾーヤはコンパスを放り出して崩れた棚に駆け寄り、急いで被さる布を剥がすとそこには胸部防刃プレートを大きく凹ませた父ロバンが倒れていた。
「父さん、起きて、父さん!!!」
ゾーヤは大声を出してロバンの肩を揺する。
ロバンの体は冷えきり肌に血の気は引いているものの息は整っており、何か重篤な様子がないことだけはゾーヤは理解できた。
ゾーヤはロバンの体を温めるように彼の頬や手を擦って再度呼び掛ける。
「父さん、父さん!」
「……その声、は、ゾーヤか?」
「……父さん!」
ゾーヤはロバンの肩に思い切り抱きつく。
彼女の頬に触れるロバンの体は未だ冷たいものの、その肌の奥には彼が生きていることを示す温もりが確かに存在していた。
「ゾーヤ、どうしてここに?いや、お前も無事で良かった……」
家に居るはずの娘がこんな文具屋の二階に居ることにやや混乱しているロバンもまたゾーヤを抱き締め返す。
あの時以来別れていた父娘は、まるで永きに渡って出会えなかったかのようにその再会を抱き合って喜んだ。
「父さん、怪我は?一体何が合ったの?」
ゾーヤは剥がした布を掴みロバンの体をこれ以上冷やさないように包ませながら尋ねる。
ロバンはぶつけたらしい後頭部を
「確か、ここに着いた時、カーテンを少し開けて窓から校内を覗こうとしたら、空から何か青い光のようなものが凄いスピードでこっちに飛んできて、突き飛ばされた。いや、あれは、殴り飛ばされたのかもしれない」
「殴られた?感染しゃ……」
の攻撃か、と言おうとする直前にゾーヤはここに来るまでに盗み聞きした感染者の話を思い出した。
『青い光が感染者を襲った』と。
ロバンはどうやらその光に襲われたようだった。
不幸中の幸いか、ロバンが吹き飛ばされた先に木棚がありそれが砕けることでクッション代わりにとなり、お陰でロバンは硬い壁に全身を打ち付けるような事態にならなかった。
口を噤んだゾーヤを見やりながらロバンは続けた。
「情けない、私はどうやらそのまま気絶してしまったようだ。でもゾーヤ、ゾーヤはどうしてここに?ペテルヘイム高校に収容されていたのか?」
「違う、父さん。私が居たのはピョートルドム学園*1のほう。そこから抜け出してヴァレリー叔父さん合流したんだけど、叔父さんから父さんがペテルヘイム高校に行ったって聞いたから探しに来たんだよ」
「……ゾーヤ、何故そんな危険な真似を!」
「私は、父さんの娘だから!父さんみたいに、皆のために何かしたかったから!でも、ごめんなさい!」
単身で感染者の勢力圏で動き回ったゾーヤを叱ろうとするロバンに対して、彼女は弾けるように胸に詰まった思いを吐き出した。
怖かった、助けて欲しかった、寒かった、痛かった、会いたかった。
でも、
ゾーヤは家族とはぐれた幼子の様に涙を流した。
「……ゾーヤ、お前はどれだけ危険なことをしたかが判っているんだな?ヴァレリーにも心配をさせたのだろう?」
「うん……」
「……救援感謝する、『チェルノボーグ勇敢警官隊隊員』ゾーヤ殿」
ロバンは顔を伏せるゾーヤの頭に左手を置き、部屋の寒気とは正反対の暖かさで彼女を撫でると空いている右手で敬礼をした。
「……ヤー、隊長殿!」
◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。
◆こぼれ話。
実は当初ゾーヤの逃走はDr.エッグマンの横槍に合わせるつもりでしたが時系列的な問題があったので慌てて変更。
アークナイツは時系列の見直しが大変なのよね……ウルサスの子供達は心に追加ダメージが入るから尚更(白目)