The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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拠って立つ地(チェルノボーグ)の全てを得るはずだった彼ら(はんぎゃくしゃ)の現状とは。

※R05/10/15後付け設定とのズレを埋めるために一部加筆修正しました。
ストーリー進行にはほほ問題ないと思います。


【サイド:レユニオン】
RM-01.割を食った者


1096年12月26日。

 

◆【レユニオンムーブメント】前線司令部:旧【チェルノボーグ】ラジオ塔会議室◆

 

「アハハハハハッ!」

 

「何だよあのジジィ……どこまでもふざけやがって!」

 

 爆風が吹き荒れ、今ではかつての隆盛を憎悪の暴威から辛うじて逃れた高層ビルからしか偲ぶことが出来なくなったチェルノボーグの元ラジオ塔会議室では、銀髪の中から赤錆色の角を見せる黒衣のサルカズ人『W』が心底可笑しそうな笑い声を挙げ、対照的に全体的に灰のように白いリーベリ人少年『メフィスト』の煮えくり返るような苛立ちの声を響かせた。

 

 ここは元チェルノボーグに存在する三大勢力の一角、【レユニオン】の主【レユニオンムーブメント】が司令部として使用しているラジオ塔で、施設内でも防音性に優れ重要な案件を話し合うに適した場所であるのだが、チェルノボーグ滅亡の引き金となった彼らは一部を除いて憂鬱な面持ちをしており、あまり会議の進捗は芳しくなかった。

 

 本来の計画であれば彼らのみでチェルノボーグを掌握しウルサス帝国やその他の圧制者達への反撃の拠点として活用する予定であった。

レユニオンは虐げられてきた多数の感染者達の怒りと少数精鋭を顕した幹部の圧倒的な武力によって都市に散らばる治安維持部隊を撃破したためチェルノボーグ市内における圧倒的優位を獲得しており、チェルノボーグ完全掌握は天地がひっくり返らない限りは約束された未来のはずであった。

 

 問題は、その天地がひっくり返ったことにあった。

 

【エッグマンランド】と称する未知の空中移動都市がチェルノボーグ上空に飛来したインパクトでレユニオン侵攻は勢いが殺がれた上に、都市中に放たれたドローンによって公開された【鉱石病】の治療実験デモンストレーションの齎した強烈な印象が逆風となって彼らの前に立ちはだかったのだ。

ウルサス帝国に不満を持ちつつもレユニオンに服従するか否かで揺れていた消極的中立派の市民や、迫害から行き場を無くしたため自棄になってレユニオンムーブメントに加入した感染者の新参者達という多数派に対して、

『エッグマンランドに降伏し治療を受ける』

という第三の選択肢が示されてしまったのだ。

両者共に「後がない」という状況で現れたチャンスはまさに光明の如きであった。

 

 結果、レユニオンはチェルノボーグの支配者ではなく最大勢力に留まった。

チェルノボーグは5割を【レユニオン】、3割をいきなり登場してきた【エッグマンランド】の【エッグマンボーグ】、2割を辛うじて生き延びた【ウルサス帝国】の残党が確保して宣言した【正統チェルノボーグ】という状態で分割されることとなった。

 

 チェルノボーグ暴動後、ウルサス帝国は引き続きチェルノボーグ全土の正統な支配者であると宣言しておりレユニオン及びエッグマンボーグの呼称を侵略者の自称であるとして一切認めていない。

 

 尤も、公的にはウルサス帝国の主張は正しいものではあれど治安維持部隊の壊滅や、エッグマンランドの未知の科学力、レユニオンの底知れない武力、移動都市という物理的な分離が容易である性質が重なって周辺都市は表向きウルサス帝国の主権は認めつつも積極的な協力は控え、事実上分離独立状態の二者に秘密裏の接触を図るという状況が生まれていた。

(接触の名目は「民間の慈善団体や個人事業主、トランスポーターを通じてチェルノボーグ内に『滞在する自都市民』の援助や取引を行う自由な活動」となっている)

 

  移動都市のブロック上の支配率はレユニオンこそ最大ではあるが、支配地域は彼らがウルサス帝国軍が交代によって都市から離れる時期に合わせた電撃的な奇襲と感染者の一斉蜂起によって壊滅している所が多い。

市街は境遇への絶望から産まれた破壊行動によって手心なく打ち壊された所が多く、現在は『己が生存圏』として居場所を得た構成員が率先して復旧を進めているが時間がかかることは避けられない。

 

正統チェルノボーグは面積こそ最小だが、ここはレユニオンがまだ攻勢をかけていなかったブロックであったため設備的な被害は最も少ない。

しかしそれは『移動都市としての重要性が低い』ブロックであったがためにレユニオンが制圧を後回しにしただけのことであった。

勢力を構成する人員も治安維持部隊の生き残りが多く移動都市に関する技術的な専門知識を持つ者もそこそこいるが移動都市機関部の維持に手一杯であり地力面においては他の勢力に対し一歩劣るものであることは明白だった。

 

 最後に謎の新勢力エッグマンランドの勢力圏となったブロックのエッグマンボーグはレユニオンが都市の半分を制圧した頃に降伏の圧力をかけていた場所だった。

そこは着の身着のまま逃げ出した避難民や負傷者で溢れ返り、抵抗する治安維持部隊と臨時編成された自警団のお蔭で辛うじて陥落が先延ばしになっていたブロックであったがエッグマンランドの介入…驚愕の空中移動都市と世界初の治療デモンストレーションによって当該地域のまとめ役がエッグマンランドへの庇護を求め、形勢が逆転した。

 

 ブロック上層部からの恭順と救援要請を受けたエッグマンランドは空中移動都市からの直接攻撃こそしなかったが、市民の誰も見たことがない二足歩行型ロボットを大量に降下させて街に展開するレユニオンを攻撃したのだ。

 

 幹部や一部の古参構成員が持つような強力な武器やアーツを持たない一般的構成員は、ひどく丸みのある鉄のボディを持ち、まるで玩具のような『撃たれれば体が痺れてしまう謎の武器』を持った赤・橙・黄・黒のカラーリング軍団の人海戦術に呑まれていった。ナイフや鉄パイプのような貧弱な武装しか持たない一般的な構成員は為す術なく敗走した。

 

 対抗しうる幹部は当時の司令塔が設置されていた市議会議事堂で指揮をとっていたこと、潜入し何らかの作戦行動を取っているとみられるロドスアイランドを追跡していたこと、他のブロックで指揮をしていたり負傷した構成員の再編していたりなどで人手が割かれていたのと、幹部自身も予想だにしない他勢力からの乱入による混乱も相俟って適切な対応が取れず、制圧まであと一歩という所でそのブロックから追い出されることとなった。

 

 最終的には局地的に発生した【天災】がロボット軍団に直撃した幸運に、急ぎ転戦して戦線を再構築した幹部らの奮闘と、興味本位でエッグマンランド軍団の見物に行ったWが司令部からの足止めの要請を受け、軍団の進行方向にあった高層ビルを発破して倒壊させたことでエッグマンランド軍団を撤退させることに成功した。

 

 それは現在の勢力図が確定した瞬間でもあった。

 

 つまり、レユニオンの本来の計画ではチェルノボーグの全てを総取りできるはずが、彼らが得たのはチェルノボーグの大半の敷地と多数の都市基幹部を含みつつも破壊の爪痕が深く復旧に時間と資材を割かねばならないブロックばかりとなってしまった。

逆に言えば支配ブロックが少ないので計画当初に目されていた必要経費よりも少ない消費で済んではいるが、占領後の生産目算は下方修正せねばならず、レユニオンの資材担当達は辛い舵取りを余儀なくされていた。

 

 正統チェルノボーグについては主要基幹が少なく、人員も少ないため状況はレユニオンよりも更に悪い。

唯一の救いは都市機能の修繕費が一番安いこと位か。

 

 レユニオンに次ぐブロックを支配するエッグマンボーグはレユニオンが都市内部の次の攻撃目標としてまだ完全制圧に至っていなかったこともあって暴動による破壊が少なく、都市設備もそこそこ生きていた。

一方、人口の過半数が避難民、負傷者、感染者、元レユニオン構成員といったいわば無一文や疲弊した人々で占められるため治安崩壊や物資の欠乏などが時間の問題であり、本来なら彼等にあてがう資材を迅速に調えねば生半可なことでは都市運用はままならず再度暴動が発生してもおかしくなかった。

 

 しかし、ここでも非常識の権化たる『Dr.エッグマン』はあっさりとこれを解決した。その方法について、あらましを目撃した者が居た。

 

 数年前にレユニオンに参加した感染者で、国内で弾圧を受けチェルノボーグ郊外に打ち捨てられていた所を救助された為に強い忠誠心を持った構成員だった。

彼はエッグマンボーグになる前の当該ブロックで果敢に治安維持部隊を攻撃していたが、腕の立つ兵士に迎撃され重傷を負った所でエッグマンランドの介入に直面した。

 

 エッグマンランドが例え鉱石病にまつわる驚くべき技術を持っていたとしても、自分が尽くすのはレユニオン以外にないと考えていた構成員は内部で自爆でもしてやろうとエッグマンボーグに潜入したのだ。

そんな構成員がレユニオン司令部に帰還したためエッグマンボーグについての報告を行った。

 

 このようなことがあったらしい。

 




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|クリステン《みなしご》は……

  • 独り星を仰ぐ
  • 北東に空の揺らぎを見た
  • 宙を往く舟を見た
  • 神と新たに語り合った
  • 「ちょっと出張行ってくる」

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