The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆後編です。


EG-05-2/2.Ambush Sewer/MISSION:地下水道の異常を排除せよ

怨讐(えんしゅう)(おり)機術(きじゅつ)(すい)

感情という有機物と、技術という無機物

対極の二つに共通して存在する真理は

『強い方が勝つ』こと

 

 


 

 

第三【LAVINA】集合ハブホール

 

 Dr.エッグマンが突き止めた場所では、潜入したレユニオンらによって簡易的な指令部が設営されていた。

鉄道の機関区を思わせるそのホールは大型下水管が合流する場所にあり、旧ウルサス時代では【LAVINA】がこのポイントを通過して他の下水管の清掃にあたっていた。

下水管を通じて各ブロックの地下に赴くには最適の中継点であったため、レユニオンはここを集合地点と定めていたのである。

あり合わせの通信機などを繋いで各班への指示を飛ばしており、今は先に爆弾の設置作業を終えて戻ってきたAからC班が指令チームを囲むように防御線を張っていた。

 

「D班、設置完了とのことです」

「よし。D班が戻り次第帰投する。撤収準備、爆薬の設置を急げ!」

 

 通信機を耳に当てたレユニオン通信員が二股槍を構える工作隊長に報告し、工作隊長は他の工作員に撤収命令を下すと、工作員たちは一斉に設備の撤去と証拠隠滅用の爆薬罠を設置し始めた。

既に爆薬は壁や床に貼り付けてあり、後は起爆線を繋ぐだけである。

 

 構成員が発破用の配線を敷く中、頭部に羽角を持つ工作員がD班のエリアの方角を向いて立ち止まる。

 

「……隊長、D班の方角から何かの音の反響が」

「何、確かか?」

「はい。ほんの僅かにですが」

「ふむ……」

 

 工作員の報告を受けた工作隊長は、数瞬の沈黙の後に新たな指示を出す。

 

「B班とC班は急ぎ作業完了させろ、A班と副長は迎撃態勢だ。狙撃兵は重装兵の盾の後ろでエアライフル*1を構えろ」

「「ハッ」」

 

 工作員達が即座に得物を構え、会敵に備える。

ほんの一拍。

ホールに響くのは、下水の流れる水音と、衣類や金属が擦れる冷たい音のみ。

苦しい静寂の中、狙撃兵の射線がパイプライン口の一点に重なったその時、羽角の工作員は全身の産毛が逆立つような感覚に襲われた。

 

「高速飛翔、いや、機械の駆動音!間もなく接敵!」

「何?!くそっ!メタルソニックだ!各自、目標を視認次第撃て!面制圧を意識しろ、統制射撃じゃ当たらん!」

 

 工作隊長が指示を下した瞬間、パイプラインから甲高い爆音が轟き、風圧がホールで待ち構える工作員たちの体を打ち付ける。

その衝撃で工作員達の体が一瞬強張るが、そのわずかな時間でメタルソニックはレユニオン達の前に肉薄した。

 

「いつの間に!?撃て、撃て!」「早い!ぐおぁ?!」「何っ?!」

 

 パイプライン出入口に最も近かった重装兵と狙撃兵はメタルソニックの襲撃を受けて一蹴された。

 

「狙撃兵、とにかく撃ってヤツの直線移動を妨害しろ!最短距離で突っ込ませるな!」

 

 工作隊長の指示が飛び、一斉射撃が始まった。

彼らの腕は確かだった。

旧チェルノボーグ軍警察にも劣らぬ精確さでメタルソニックを的確に狙い撃つが、鉄球はそのボディに弾かれて床に散らばるだけだった。

閉塞的なホールと絶え間ない射撃がメタルソニックのブースター加速を封じ込めてはいたものの、それが戦況を覆す決定打にはなりえなかった。

 

 降り注ぐ鉄球をものともせず、メタルソニックは一人また一人とその鋼爪で工作員達を切り伏せていく。

 

「総員!作戦変更、退却開始!副長、『鱗粉』を出す。俺に合わせろ!」

ウーラ(了解)!」

 

 工作隊長の鋭い号令とともに、それぞれの武器ホルダーから隊長は無骨な分銅鎖を、副長は中身の詰まった革袋を取り出す。

 

「総員、伏せろっ!」

 

 射撃を維持しながら伏せる工作員らの横を、鎖と袋が猛然と通り過ぎた。

 

[SCANNING... 毒性:無、引火性:無。非殺傷の鋼鉄鎖および微細鉄粉]

 

 メタルソニックの高性能なセンサーは、飛来する物質の正体を瞬時に見極めていた。

惑星テラのどのロボットをも上回るスペックがあれば、ただの素早い投擲程度、回避や迎撃は造作もないはずだった。

 

「くたばれ、青ブリキ!」

 

 メタルソニックが腕を振るい弾き飛ばそうとしたその時、工作隊長が右手に持っていた二股槍の刃を床の縞鋼板に叩きつける。

 

 直後、刃からメタルソニックの足元に向かって何かの力場が発生した。

 

[(周囲に異常な電磁波。これは磁力か)]

 

 メタルソニックのボディを強力な磁力が襲う。

無論、Dr.エッグマン謹製の装甲には対磁性コーティングも施されており、一般機械では致命的な故障を招く磁力を浴びようともメタルソニックには何ら影響がない。

しかし、今踏んでいる縞鋼板と無数に転がっていた『自分に向けて撃たれた鉄球』は別だった。

足元の縞鋼板と鉄球は一斉に磁化され、猛烈な勢いでメタルソニックに吸着してその場に釘付けにした。

 

[!]

 

 メタルソニックの鈍った隙に合わせたかのように、分銅鎖と鉄粉がボディに直撃する。

鎖と鉄粉がまるで意思を持つ生き物のようにメタルソニックの腕や関節部分へ絡みついた。

そして間髪を入れず工作隊長は二股槍のアーツユニットを活性化させて更なる磁力場を展開すると、ホール内に落ちている釘や鉄骨の破片を巻き込んでメタルソニックを鉄屑の繭に封じ込めた。

 

「今だ、行け!」

 

 工作隊長が叫び、工作員達が負傷者を引きずってレユニオン側に繋がる縦坑から脱出していく。

 

「おいブリキ人形、俺のアーツとガマン比べしようぜ。お前が磁力でペシャンコになるか、俺が磁力でローストになるか勝負しようじゃねぇか!」

 

 工作隊長はアーツユニットの出力を更に引き出した。

二股槍の刃の間に青白い磁場が宿り、宙に漂っていた鉄粉が樹状に逆立って付着する。

メタルソニックを包む鉄繭が磁圧で軋み、猛獣の歯ぎしりを思わせる、鼓膜を削るような摩擦音を鳴らす。

同時に工作隊長の体も凶悪な磁力波に晒され、平衡感覚が狂い、三半規管が悲鳴を上げた。

網膜には存在しないはずの光の飛沫が乱舞し、口内にはどろりとした、不快な金属の味が溢れ出している。

またメタルソニックを縛る鎖は誘導過熱によって急速に赤熱し、その熱は鎖を握る左手に伝わった。

グローブは燃え、肉を焼く熱の痛みに襲われ、神経が燃え尽きたかのように次第に感覚を喪っていく。

 

「(こ、こでこいつを、足止めし、て、後は爆弾で、トドメだぁ!)」

 

 最後に二股槍を事前に設置していた点火用の爆薬に投げつければ、連鎖爆破が発生してホールは自分諸共丸ごと吹き飛ばされるだろう。

メタルソニックにこの作戦が捕捉された以上、本来の目的……来る日の反撃作戦の『種まき』は失敗になるが、この場でメタルソニックを葬れるならエッグマンランドに対する攻撃としては十分だった。

未練はある。

しかし、【感染者】として尊厳を奪われ泥水を啜って生きて来た人生を思えば身を盾にして同胞を逃がすこと、レユニオンの脅威であるDr.エッグマンの兵器を一つでも滅ぼすことは冥途の土産にしては何物にも代えがたい成果だった。

 

 工作隊長の右耳に侵入路の縦穴が蓋された音が入り、他の工作員が全員退避したことが判った。

残るは屑鉄玉の核になったメタルソニックと半死半焼(半死半生)になった自分だけである。

左半身に奔る激痛を噛み殺し、工作隊長は仕上げにと右手の二股槍を爆破起点に向けて構える。

 

 一瞬だけ、意識がメタルソニックから逸れる。

だが、Dr.エッグマン自慢の傑作マシンは、彼の決死の一手を凌駕した。

 

 二股槍を投げようとする工作隊長の手先が動くよりも早く、メタルソニックの赤いカメラアイが怪しく明滅する。

 

《CHAOS=CONTROL》

 

 次の瞬間、空間そのものを切り裂くような緑の光と共に、彼の姿は磁界の檻から掻き消えた。

屑鉄の塊にぽっかりと穴が開き、辺り一面に金属片が弾けるように飛散していた。

 

「な、何……?!」

 

 メタルソニックはどこだと考える暇は工作隊長にはもはや残されていなかった。

右目に焼き付いたライムグリーンの閃光。

今にも放たれようとしていた二股槍は物理法則を無視してそこに現れたメタルソニックの爪によって砕かれ、返す刀の如き一撃が隊長の体をチェストプレートごと切り裂いた。

 

「ば、バカな……」

 

 眼前で起きた理解不能の現象。その圧倒的な絶望に呑まれながら工作隊長は意識を手放した。

 

[対象沈黙]

 

 メタルソニックは逃走した工作員を追跡すべく、糸の切れた人形のように倒れる工作隊長を一顧だにせず横切り、彼らが消えた縦穴へと向かう。

しかし、縦穴を塞ぐ蓋をこじ開けたメタルソニックの赤いカメラアイは、即座に追跡の中止を演算した。

 

[これは……源石の柱状結晶か]

 

 かつては点検孔であった筈の空間には途中までは錆びた梯子が続いていた。

だがその先は、半透明の黒結晶-巨大な源石の柱が通路を一直線に貫く巨大な楔となって孔の先を完全に分断していた。

反響音やエネルギー波によるスキャン結果は、これが都市に横たわる源石塊壁の『枝』がハブホール下まで伸長して都市基部を侵食した成れの果てであることを示している。

結晶に走る不規則な亀裂の中に、人一人がようやく通れる程の狭隘な隙間と、頼りない縄梯子が残されている。

対源石エネルギーコーティングを施されたメタルソニックといえども、これほどまでに巨大な源石塊の中を進むのはリスクが高すぎた。

レユニオンはDr.エッグマンのロボットでは侵入不可能なこの『天然の抜け穴』を利用して、今回のテロ工作を試みたようだった。

 

《……ック、メタルソニック!どうした、何があった?!急な磁場の乱流がオヌシのいる場所で発生したようじゃが!》

 

 磁場によって追跡機能が途切れていたのだろう。Dr.エッグマンが慌てて通信をかけて来たがメタルソニックは感情なく応答する。

 

[レユニオンの隊長格と思わしき構成員と交戦。敵は磁力を操るアーツを行使してきたが制圧した。他の構成員は逃走。都市地下に延びた源石塊の亀裂を経路にしているためこれ以上の追跡は困難と判断した]

《ううむ、確かにオヌシのいる地点で強力な源石エネルギー反応が出ている。あの源石塊壁め、実に忌々しい!だが、流石に今の装備でその穴を深追いするのは危険というものじゃ。加えて、オヌシ自身も関節部の至る所にダメージを受けておる。他のロボット部隊であればγ以外はペシャンコのガラクタになっておったところじゃろう。オヌシを向かわせて正解であったわい》

 

 Dr.エッグマンは満足げに自身の髭をしごく。

 

《まぁ下手人の数人は確保したし爆発も阻止できた。逃げたネズミどもは放っておいて構わん。ミッション終了じゃ。オヌシはそやつと共に帰還せよ。フン、厄介な穴なぞ掘りおって……後でコンクリートを流し込んでおいてやる。ああ、メタルソニックよ、念のためクリーンルームに寄って除染を受けるように。そやつも拘束してからクリーンルームに放り込んでおくんじゃぞ》

[了解。これより帰還する]

 

 通信を切断したメタルソニックは、意識を失ったレユニオン工作隊長の襟首を無造作に掴み上げた。

関節の隙間に噛み込んだ鉄粉が、一歩踏み出すたびに摩擦音を立てる。

メタルソニックの赤いカメラアイが、その『不快な音』の発生源を、そして自分を縛り上げた磁力罠の戦術を静かにスキャンした。

 

 弱者が絞り出した知略を、さらなる強さへの糧として学習する。

そこに敗者に対する敬意はなく、ただ己を強くする『貪欲さ』の発露に過ぎない。

全ログの記録を終えると、彼は自身の関節を軋ませた男を無機質な動作で引きずりながら闇の奥へと消えていった。

 


MISSION COMPLETE

SCORE--19,930

TIME--1h:9m:23s

RINGS--4,389/9,680

RANK--B

*1
エアライフル:圧縮空気で鉄球を撃ちだすタイプの銃で、チェルノボーグ軍警察の倉庫に保管されていたアーツ銃をレユニオンが改造して製造した武器。従来のアーツ銃は利用者のアーツ適正や弾丸のアーツ装置に性能が左右されるため持ち手を選ぶ代物だが連射性能や装填速度、そして数で押してくるDr.エッグマンのロボット対策として採用。汎用性を高めるための改造が施されている。特に参考にしたのはエッグマンランド軍用銃の鹵獲品で、アーツ装置抜きで弾丸を発射できる機構は科学技術や物資に乏しいレユニオンにとって兵士育成の大きな援けだ。レユニオンの武器開発班による研究や潜入構成員による情報収集によって、弾薬の再現はできていないものの、何らかの可燃性ガスの圧力で弾丸を撃ちだしていることは判明したため彼らは風船に空気を詰める時のガスボンベを参考にアーツ銃を改造してエアライフルを自作した。結果、純正のアーツ銃やエッグマンランドの軍用銃の性能には及ばないものの、クロスボウや弓と違い取り扱いの簡易性と連射性を獲得。更にアーツ武器の対抗策であるアーツジャミングを受けないステルス性の高い代物となった




◆感想や質問、改善点などございましたら是非コメントお願いします。

◆初期の頃にはレユニオン術師にオペレーターがしばしば撃ち抜かれて敗走した覚えがあります。だから強いモブ術師はそこそこいると思うんですよね。今回の彼もそういう人です(当初は重力を操る系にしようと思いましたがアンジェと被るので変更に)が、相手が悪かった
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