The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
投票数の結果、Dr.エッグマンサイドの話を投稿させていただきます。
この話とあと一、二話の後、【ウルサスの子供たち】編に入る予定です。
◆いわゆる農園ゲームの倍速プレイをする話。
◆今回は後書きに少し話が続きます。
感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。
1096年年10月7日。
◆エッグマンタウン・農業プラントベース◆
エッグキャリアーからモジュールセット一つ降ろして山側に建設した農業プラント『エッグアグリ』は順調に稼働しておる。
農作物の高速栽培を行えるこの施設は【アーク】にあったあの『時間停止装置』がなければ流石のワシとて完成には倍の時間を要したことじゃろう。
食糧の備蓄量そのものは当面問題はない、いざとなれば【アーク】と地表を何度行き来しようが無補給でいられる程度には備えてある。
が、かといって冷凍食品を数か月以上もさもさと食べるのはワシのほうが飽きるので新鮮な食材を確保できるようにせねばならん。
そこで目を付けたのが時間停止装置じゃ。
【アーク】の地上落下を阻止せんと中枢に向かうワシらを遮る隔壁ラインには、【アーク】がまだ稼働していた当時研究中だった『カオス=コントロール』技術を用いた時間停止装置が備え付けられておった。
どういう経緯であの隔壁ラインに設置されたのかは不明じゃが、ワシらが進入した時は装置が劣化しており短時間しか稼働しなかった。
とはいえ、五十余年経てもなお
・テイルスのバルカン砲
・ワシの追尾ミサイル
・ルージュのネイルズキック
・ナックルズのクローパンチ
・ソニックのホーミングアタック
を受けても一切破壊できなかったことを考えるとその耐久性は脱帽ものじゃ。
無傷だった原理についてはソニックやシャドウが『カオス=コントロール』を使うと外部からの攻撃に対して無敵になる性質から、恐らく『カオス=コントロール』を再現することで装置に向かう各種エネルギーを停止させ、結果無効化するといったところか。
よってあれは利用者の接触時に擬似的な『カオス=コントロール』空間を発生させ、利用者と装置以外の運動エネルギー等を停止させているのじゃろう。
劣化しているとはいえ、そのような高度な技術の塊である装置が今も尚稼働するというのは驚愕せざるを得ん。
或いは【アーク】での研究が進めば更なる高性能化も望めたやもしれんな。
ともあれ、ワシが装置を手入れしたことで停止装置は再度利用できるようになった。
但し『完全停止型』はかなり貴重な資源を惜しみなく投入した代物だったせいで【アーク】に現存するもの以上の数は作れそうにないため、装置の複製や地上基地への移設は断念した。
もしかすると【アーク】と密接な関わりのあったブラックドゥームから資源提供があったのやもしれんな。
代わりにワシが作ったのはダウングレード版とも言える『高速型』じゃ。
作動すると特定範囲内の時間を加速させることができ、これがあれば時間を要する実験や工程でも短時間で完了させることができる。
大体八倍速位ならさして【Be】出力もいらんかの。
そして装置を活用すれば植物の速成も造作ではない。
土壌の水分や肥料、日照を調整すれば植物由来の食糧はおおよそ生産できるじゃろう。
但し病害や連作障害も同様に高速化しかねないためプログラミングは慎重を期す必要があるが、ゆくゆくは畜産においても利用できるようにしたいものじゃ。
一先ず収穫できた農産物についてはスラム街の連中に現物支給とあわせて下げ渡すことにする。
味は大丈夫だったしあの欠食連中なら文句も言わんじゃろ。
ジャガイモと野菜があればスープやパン擬き位は作れるしな。
孤児の中には野菜嫌いの坊主がいた気もするが、それはあの纏め役の小娘が何とかする筈じゃ。
初代【エッグキャリアー】のコンセプトは文字通り空母としての運用じゃったが、当代船は【アーク】と地上基地との遣り取りを考えて内部に農業・畜産系ユニットを増設していた。
かつての【アーク】にも同様の大規模施設があったが封鎖と共にその機能は停止され、加えて当時は最先端であっても今では五十年以上前の代物じゃしの。
【アーク】だけできたる我がエッグマンランド建国における食糧事情を賄える保証はなかったし、また【アーク】とエッグマンランドの物流ラインが適切に保たれるかどうかは未知数じゃった。
無論、ロボットに命じて【アーク】内プラント再稼働の為の整備と『エッグアグリ』の増設を推し進めておったが、流石のワシもこうしていきなり他の惑星にワープすることになろうとは思いもよらなんだ。
エッグプラントによって野菜や穀物の生産がスタートしたため、残るは食肉や乳製品などだが、幸いこの惑星では小規模な放牧型農場や都市内蔵の牧場が衛星写真で確認できたから家畜の入手位は何とかなるじゃろ。
野生の牛や羊のような動物を捕獲できない訳じゃないが、この惑星固有の風土病である【鉱石病】や他の病気に罹っていないとも限らんので除染だのなんだのが億劫じゃ。
家畜も病気持ちじゃないとは限らんがまだマシのはずだ。
とはいえ万が一家畜が手に入らなければ野生種を飼わねばならんやもしれんな。
家畜の入手および野生種の畜産化については同時進行にてかかるとするかの。
近くの牛馬や羊などを捕獲しておくとしよう。
動物の捕獲については一家言持ちじゃぞ。
◆◆◆
1096年10月20日。
◆エッグマンタウン・防衛ユニット司令塔◆
エッグマンタウンに青いショートヘアをした胡散臭い女が現れた。
『モスティマ』とかいう天使と悪魔の特徴を混ぜ合わせたような奴だが、聞くところによると個人のトランスポーターを営んでおりこの辺りを移動する際は無人になったこの町で一泊しておったようじゃ。
それで近づいてみればワシがエッグマンタウンとして再生させておったのを見て興味がわいて立ち寄ってきたというわけじゃ。
しかしあやつ、ワシが設けた応接所に呼びつけたら、一瞬呆けた面をしたかと思えばいきなり笑いだしおった。
あやつ曰わく、
『住んでいる世界が違うと一目見て判ってしまい思わず声を挙げてしまった』
らしい。
その見る目のある点を考慮して突然の行動は許してやった。
本題の家畜の入手について尋ねてみると伝手はあると言っておったから船を数隻つけて買い出しに行かせることにした。
モスティマへの報酬と買い付けの資金には【Ee】【Be】製造時に品質を満たさず処分予定だった人工宝石を宛がっておいた。
あの女は人物眼に併せて鑑定眼も持っていたようで、ワシの宝石を見て即座に天然物ではないことを理解しおった。
とはいえワシの人工宝石は天然物には全く劣らぬ故に価値は全く問題はないがの。
ワシが作ったと言えば、モスティマは再び呆けた顔をしてから笑い出しおった。
こやつは驚くことがあれば笑う癖があるようじゃの。
ともあれ、後はモスティマがちゃんと働けば家畜のひとまずの目処はつきそうじゃな。
ワシは家畜が届くまでの間に検疫施設の建造にかかるとする。
◆◆◆
◆エッグマン艦隊・物資輸送船内◆
「ちょっとした寄り道がこんなことになるなんてねぇ……」
モスティマはDr.エッグマンが準備した、自身の個人トラックを収納しても余りあるスペースを保つ『家畜輸送船』内の艦橋にてそう独り言ちた。
船には彼女以外の人はいない。
クルーはエッグマンの付けたワークロボット達のみで滞りなく運航されていた。
完全な自動化……但し、船の操作はロボット達がレバーを引いたりボタンを押したりして進められているため『ロボットの手動操作による全自動化』という回りくどい形態となっている。
飛行船のクルー以外にもオーバーオールを態々着た大男のようなロボットが家畜に着けるための頭絡や縄の手入れをしていたり、麦わら帽子を被った細身の女性ロボットが飼い葉や飲み水の支度をしたりと、動作主がロボットでない限りは普通の作業員が働いている様子にしか見えない。
彼女の乗っていた車両に至ってはロボットが手ずから源石塵の除染と車体洗浄を行っており、モスティマはそのちぐはぐさから思わず笑いそうになった。
「何だかこっちに来てから笑いっぱなしかもしれないなぁ」
新品同然の座席に背を預けながらモスティマはこれまでのことを思い返した。
◆◆◆
◆チェルノボーグ北方・旧タストント鉱山付近◆
モスティマが今回チェルノボーグ北部を抜けてクルビアに移動することになったのは偶然だった。
普段ならウルサス帝国圏内ではなくリターニアでトランスポーターの仕事を請け負いながらクルビアに向かうのだが、急ぎの用があった為に他の移動都市への寄り道を減らして移動することにしたのだ。
その場合の彼女は、チェルノボーグ北方にあるかつてタストントと呼ばれた廃町で小休止するのがルーチンだった。
【天災】によって棄てられて久しいかつての生活の残骸。
最近はチェルノボーグの外周警備も訪れなくなってきたこともあって恰好の休憩地点として利用していたモスティマだったが、廃町に近づいた際にある力を感知した。
「私の『アーツ』に近い?」
モスティマは味わう筈のない『自分のものでない類似のアーツ現象』に好奇心とも気持ち悪さとも言えるような感覚に陥った。
「はてさて、何が居るやら。悪魔が笛を吹くかドラゴンがラッパを鳴らすかはたまた……」
えもいわれぬ感覚を抱いたままモスティマはトラックのスピードを上げ、廃町だった場所に辿り着いた。
「あらま」
モスティマが少し離れた所から双眼鏡で臨むタストントは一部の名残を残しつつも完全に異なる建築様式の施設が建ち並ぶ珍妙な場所になっていた。
町の新しい住民なのかオレンジ色の丸っこいロボットが『今日も一日、御安全に』の黄色ヘルメットを被って
「いやぁ、うん、絶句」
文字通り、言葉にならなかった。
【天災】とは趣旨の異なる、余りに非現実的な光景にモスティマは暫し車上で茫然とした。
「……おっと」
呆け過ぎたようで、何やら施設側から一つ、ドローンと思わしき飛行物体がモスティマ目掛けて飛んできた。
モスティマは車内に備えていた杖を握ると静かにソレの接近を待った。
このエリアは例え眼前に住む場所を間違えたかのようなものが鎮座していたとしてもウルサス帝国の勢力圏である。
質の悪い*1警備隊ならば警告抜きに攻撃してきても何ら可笑しくはない。
こういう時はとっとと逃げて相手の視界から外れるのが定石なのだが、モスティマは敢えてその場に留まってドローンの来訪を待ち構えることにした。
自身のアーツであれば後手でも対処できるという自信と、何より好奇心のほうが此方に接近してくる未知への警戒より勝ったからだ。
あの卵型の胴体に中央でプロペラを取り付けた赤と青のコーティングがなされたドローンなど彼女は今まで見たことがなかった。
加えて上部には三角形の目すら付いている。
玩具箱の中から飛び出てきたと言われたほうがしっくりくる見た目にモスティマは笑いが漏れだしそうになった。
《止まれ、そこのトラック。ここはDr.エッグマンたる我がエッグマンランドの領地『エッグマンタウン』である。用がないなら立ち去るがいい》
モスティマのトラックの前に静止したドローンから老人の声が聞こえてきた。
どうやらあの廃町だったサーカスパークのオーナーがドローンを通じてモスティマに話し掛けてきたようだった。
「いやぁすまないね、私はしがないトランスポーターさ。何分不勉強なものでウルサスにエッグマンランドなんて場所があるのを知らなかったんだ。私は以前此処にあったタストントを野営に利用していてね、今回もそのかどで此処まで来たんだけど良かったら隅でも良いから休ませて貰えないかな」
モスティマは個人のトランスポーターである。
表向きは龍門のペンギン急便に身を寄せているが会社組織などが持つような情報網は望むべくもない。
そのため移動先の土地についてはなるべく新しい情報を得るよう努めていたが、エッグマンランドという勢力は全く聞いたことがなかった。
とはいえ、認知の有無は現状重要なことではない。
大切なのは『短期間で一大拠点を構築できる勢力が存在すること』だ。
彼女はそれに属するドローンの話に沿わせつつ注目の場所への滞在許可を求めた。
《トランスポーターか。オヌシはどういうものを扱っておるんじゃ?》
「個人だから大規模のものは無理だけどある程度の物品は応相談だよ。何かお求めの品でもあるのかな?」
《なるほど……渡りに船じゃ、入町を許可する。少し商売の話をしようではないか》
「これはありがたい。こちらこそよろしく(望外のチャンスだね。このサーカスパークのオーナーに会いに行くとしよう)」
モスティマは思いがけず手に入れた謎の勢力の主と面会することになった。
いきなり拘束される恐れはあるが、その時はアーツを全力で行使するだけのことだった。
モスティマは浮遊するドローンの誘導に従ってトラックをかつての鉱山町へと走らせた。
◆◆◆
◆
廃町とは過去の姿になった場所に着いたモスティマがワークロボットに案内されて入った場所はかつてこの町で住民相手に酒と食事を提供していた宿場の大部屋だった。
この宿場はタストント町の中心からやや南側に建てられており、北の山脈側に住む鉱山労働者と南のチェルノボーグ側に住む商人や農民の憩いの場となって親しまれた所だった。
鉱山と町を滅ぼした【天災】の土砂崩れから難を逃れていたため建物の保存状態が良く、かくいうモスティマも此処に寄った際は食堂の店員用休憩室で一夜を過ごしたものだった。
「うわっっぷ?!」
《我慢せい、砂埃だの源石粉塵だのを除去するための除染作業じゃ》
「元宿場にしては大袈裟な処置だねぇ」
《当たり前じゃ。まったく、
「(そりゃ
宿場の奥にあった大部屋に向かう廊下に入った途端モスティマは前後左右から突然強い風に曝された。
見渡すと廊下には真新しい装置がいくつも取り付けられており、これらが埃の排除と吸入を行っているのが予想できた。
しかし、オーナーは壁に付け足されたスピーカーで『除染のため』と言っているが、このようなレベルの除染措置は寂れた廃墟で行うようなものではない。
人の住んでいる村であろうと精々付いた埃を手で叩き落とす程度で、ここまで徹底するのは移動都市の入国審査所くらいだろう。
除染システムのような金食い虫など、貴族クラスレベルの資本力のある存在でなければ維持できないからだ。
それをたかが宿場の廊下に据え付けておくなど常識外れもいい所だった。
「(はてさて、そんなトンデモグッズをこんなところに置いてる人はどんな人でしょーうか?)失礼しまーす」
《うむ、入るがいい》
部屋の扉をノックして、入室の許可が下りたため戸を開けて中に入ったモスティマが目にしたのは。
飾り気のなかった筈の大テーブルは真っ赤なテーブルクロスが掛けられる。
木目とささくれが目立っていたはずの壁は研磨と塗装で綺麗に磨かれている。
煤がついて灯りがくすんで見えたランプは取り外されてよりはっきりと光るライトに取り換えられている。
町に立ち寄ったいつぞやの警備隊から『扱いがなっていなくて無礼である』と難癖をつけられたとかで腫物扱いだったウルサス国旗は象形的なイラストの入った国旗めいたものに変わっている。
座れば軋み、引けば音を立てる年季の入った椅子は全て撤去されて一つ一つがかつての椅子数個分程にはなりそうな代物が据えられている。
そして何より。
「よく来たな、トランスポーター。我が名はDr.エッグマン!世界はおろか星々を股に掛ける最大最高の天才科学者とはワシのことよ!」
部屋になかった筈の貴族が座りそうな高級椅子に座り、透明なフルフェイスヘルメットをかぶった老人が、そこらのプライドだけが山のように高い貴族よりもはるかに高そうな傲慢さを隠そうとせずふんぞり返りながら自己紹介をしてきた。
「……あはははははっ!」
モスティマは我慢の限界を即座に突破して大爆笑した。
「何じゃ、人の顔を見るなり急に笑いだしおって」
「いやなに、突然すまないね。
「(住む世界が違う、つまりワシの偉大さを一目で悟ったわけか)……フッフッフ、見る目は確かなようじゃな。まぁ座るがいい、モスティマよ」
Dr.エッグマンに促され、モスティマは博士の対面となる椅子を選んで座った。
「うわぁ、座っても軋む音一切なし。上等なものを使っているんだね」
「フッ、整備中とはいえ此処は我がエッグマンランドの第一の基地。備品の質に手を抜くワシではない。で、単刀直入に聞くが『家畜』の仕入れはできるか?」
「家畜、ね……」
モスティマはDr.エッグマンの問いを受けて少し考えた。
「(こんな所で畜産を始めよう、なんて正直どうかしてる。ならどこか別の場所に輸送するんだろうけど、此処だって警備隊以外の人間は来なくなって久しいし、キャラバンだってもっと真っ当な場所を通るから此処からの輸送、も考えにくいな。だったら単純に伝手としての話、かな?だったら以前ギャングの抗争に巻き込まれてた所を助けて以来縁のある牧場があるからそこを紹介すればいいかな?)だったらクルビア外周部に付き合いのある畜産家がいるから一筆書こうか?あっち方面にはちょうど向かうつもりだったし」
「ふむ……飼育数に余裕は?」
「競りのシーズンじゃないから多いわけじゃないけど、今なら予約を取れば確保できるはず。必要な分を教えてくれれば向こうに伝えるけど?」
「なるほど。
「相当家畜の数が要るみたいだね。牧場を立ち上げる計画があるのかい?」
「そう、ワシは今エッグマンタウンに引き続き新たに『エッグマンファーム』を建設する予定じゃ。目下の課題は畜産業でな。そのためにまずは家畜の数を揃えねばならん。食肉用、乳製品用、衣類用、増産のための種付け用と色々とな」
「……そりゃたまげたね。牧場一つ分以上の家畜が欲しいと言うのも納得だよ。でも今からだと私がクルビアに着く頃には他の事業主も牧場に予約とかを入れ始めるだろうから数は難しいと思うよ?」
「だから、『今から』ならどうだと聞いたのじゃ」
「(
「判った」
モスティマの意見を聞いたDr.エッグマンは隣に置かれた机から書類とペンを取り出すと、さらさらと内容をしたためて彼女に差し渡した。
「モスティマよ、今からクルビアに赴いてこの分だけの家畜を調達するのじゃ。予算を出し、経費はワシが負担、報酬は予算の余りを全てくれてやる。但し味噌っかすみたいな家畜を仕入れたら承知せんからな」
「やれやれ、休みなしでもう出発……ってちょっと、さっきの私の話は聞いてたよね?今からだと向こうに着く頃には数は見込めないって。第一こんな数は多すぎて不可能だよ」
モスティマが目を通した書類には相当数の家畜が指定されており、例えモスティマが全速力でトラックを走らせたとしても数の確保は不可能だった。
そもそも注文数が大キャラバンによる輸送でもなければ移動が困難な程*2で、私営トランスポーターに頼むには余りに荷が重すぎる指示だった。
「フッフッフッフッフ、そうか、
「(からかうにしては雑すぎるし、目を通さずサインしたら契約違反でも訴えるつもりだったのか?)何だい?」
「いやなに、うむ、オヌシの考えは常識的じゃよ。だが、このDr.エッグマン様にとってはその常識的なぞものの数ではないわ!」
悪質というにも杜撰な悪戯と思える依頼に口を挟んだモスティマだったが、当のDr.エッグマンはむしろ我が意を得たりといわんばかりに笑いだした。
訝しげに見詰めてくるモスティマに対し、Dr.エッグマンはどこからともなくスイッチのある四角い箱を取り出すと自信満々にそれを押した。
突如、部屋の外で巨大な音と共に暴風が吹き荒れ、部屋の窓全てを揺らし始め、外の光が遮られて部屋の中が少し暗くなった。
「な、なんだ、【天災】?!」
「おっとすまんな、オヌシを勘違いさせてしまったの。だがこれがあれば家畜の数も充分収容できる計算じゃ。外を見るがいい」
モスティマはDr.エッグマンの指差す方の窓から外を見た。
「な、なん…?!」
外を見たモスティマは絶句した。
先程まで空の見えていた空間が、突如飛行する何かによって占領されていたからだ。
そしてその何かには部屋に飾られている国旗のようなものと同じくマークがデザインされており、それがDr.エッグマンの所有物であることを理解した。
「まさか、飛行船?」
「そうじゃ。輸送船をオヌシに貸し与える。牧場から家畜を運び出すためのトラックと作業員もな。これがあればクルビアまで一直線で飛んで行けるから数時間もあれば外周部に着けるじゃろう」
「そんなものまで持っているのかい……」
「いかにも!不可能なぞワシにかかれば実現可能であり、困難もワシにかかれば楽勝よ!
これが!
世紀の天才大科学者!!
Dr.エッグマン様である!!!」
ヌワーハッハッハッハッハ!
Dr.エッグマンが背を仰け反らせて高笑いする。
そのまま反らせばころんと転がりそうな体躯をバランス良く立たせて笑う姿、そしてとても愉快に笑う姿にモスティマはどうしてもつられてくすくすと笑ってしまった。
「また笑いおったな。本当によく笑うやつじゃ」
「もう驚きすぎて笑うしかないよ。今日と言う日は驚きと笑いで顎が外れそうだ。判った、あれがあるなら確かに『今から』行ける訳だ。いいよ、この依頼引き受けよう」
「宜しい、では予算じゃが」
「あー、それなら経費の方で『守秘義務』用のを追加してほしいかな。大口の買い物をする時は売主相手にそういう契約をしておかないと後で同業他社に情報をバラされたり資金を集られたりで面倒な事が起きるからさ」
「ふむ、それもそうじゃな。良かろう、それも予算に含めてやる。これを使うがいい」
Dr.エッグマンが腕に着けた端末を操作すると、モスティマの頭上にある天井の一部が開き、中から小箱がクレーンに吊られて降りてきた。
「随分凝ったギミックだね……っと、おお?」
彼女がそれを受け蓋を取り開けてみると、そこには七つの色を持った大小様々な宝石が室内の照明に照らされて煌々と輝いていた。
「これはまた沢山あるね。でも……これ、どれもこれも形が同じように綺麗に整っているね。削ってそうした、というよりも
「ほう、判るか。いかにも、それらはワシが作った宝石じゃ」
「人工宝石!噂では存在すると聞いたことはあったけど、大抵はガラス製の偽物か宝石によく似た石とばっかりなのに、これはどう見ても宝石にしか見えないよ」
「そうじゃろうそうじゃろう、ホッホッホッホッホ!」
「(本当によく笑う人だなぁ)」
モスティマがそれぞれ宝石を手に取って眺めてから己の感じた違和感を伝えると、Dr.エッグマンは己の自信作を誇るように笑った。
こうしてモスティマはDr.エッグマンと契約を結び、目的地のクルビアまでの数時間、何にも邪魔されない空の旅を味わうこととなった。
◆エッグマン艦隊・物資輸送船内◆
「……よ、う、や、く、見つけたわ!」
「あ、居たんだ。っていうかどうやって入ったの?ここ上空だよ?」
「貴方が船に乗り込んだと思ったら突然飛び始めたから急いで外側に捕まったの!どんどん高度が上がるし寒いしで災難だったわよ!天辺の扉が開いたから何とか中に入れたけれど、もう二度とやりたくないわ」
「それはまぁ、御苦労さま。そこの君、彼女に毛布とか温かい飲み物とか出せないかな?」
「カシコまりました、モスティマサマ」
「あ、これはどうも……って、なんで貴方が主人然としてるのよ。そもそも私、言っちゃえば不法侵入なんだけど普通に応対されるのね」
「ほら、あれ、私の方は現地担当者的な。あと多分私が君と敵対してないから同行者とみなされてるんじゃないかな?」
「ちょっと敵味方認定が甘くないかしら?まぁ追い出されないだけ有難いわね」
「ふふふ、まぁいい経験が出来たんじゃないかい?アーツ以外で空を飛ぶ体験なんて滅多にないよ」
「それはそうなんだけど……いいわ、隣貸しなさいよ」
「どうぞ」
「……何なのかしらね、これ。ラテラーノでも見たことがないし、イベリアでもあるかどうか判らないわ」
「さあね?でも、面白いことは確かだよ。山よりも高い空からこの世界を見られるなんて夢にも思わなかったよ」
「私としてはこのトンデモがラテラーノに累を及ぼさないかが心配。あの男、見るからに相当に傲慢で野心家よ。それがこんな玩具……いや兵器を持っているなら好き勝手使うのは目に見えているわ」
「だろうね、それこそラテラーノの
「貴方、その言い方はよしなさい。とはいえ、こんなこと報告しても信じてもらえなさそうね。正気を疑われるのがオチだわ」
「いっそ正確に伝えて病気休暇でも貰うようにしたら?」
「バカ言わないでよ、私は仕事をさぼったりしないわ」
「真面目だね。ま、とりあえずクルビアまで数時間かかるからそれまでゆっくりしておこうよ。おーい、私にも一杯頂戴」
「カシコまりました」
「馴染みすぎよ……」