The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
小説のあらすじを見るとあーなるほど、という設定でした。
テレシスinロンディニウムが目指すのはそっちだったり?と思ってたんですが、13章やってたら判らなくなりました……。
因みにタイトルのMEは小説の原題由来です。
都市を捨てさせたものが天からの代物ならば
拾うものも天からの存在かもしれない
「(どうしてこんな所にいるんだろう?)」
都市の警備会社に所属して長らく守衛をしていたペッロー人女性のファム=シーパードは今の状況に疑問が尽きなかった。
彼女のアパートに橙色のロボットが押し入り拉致されたと思えば清潔な水を贅沢に使ったシャワーで洗体までされて、最後には新築同然の清潔な部屋の中であてがわれた。
部屋に畳まれて置かれていた真っ赤な室内服に袖を通しながら、つい先程まで【天災】に巻き込まれ放棄された移動都市の中で震えて生き延びていた彼女は飲み放題のチキンスープを啜っている。
信じられない状況だった。
これは全て夢、又は火のついたマッチが見せる幻想であり、実は今口に触れているスープは寝床の天井から零れる雪解け水の雫だと言われたほうが彼女にとって納得できる状況だ。
であるにも関わらず、唇に触れる現実は彼女の空腹を確実に満たし、冷える一方だった肉体を暖めてくれている。
部屋その物はかなり狭く、彼女の勤めていた守衛署にある独房の広さと遜色ないものであるが快適さと清潔さ、何より簡素ながらも食事とフカフカの毛布が備えられている点がかつて存在した職場とは雲泥の差であった。
「(あ……スープ、無くなっちゃった)」
いつの間にか紙コップに注いだスープを飲み干していたファムは、壁に備え付けられているスープサーバーに五度目のおかわりをしに行った。
◆◆◆
彼女が警備を勤めていた移動都市は、感染生物のスタンピードと突発的な【天災】雪禍によって一部区画に深刻なダメージを受けた。
市街地に雪崩れ込む狂走した野生動物によって日々の生活物資は多数損なわれ、追い討ちをかけるように突発的な【天災】が発生、空から巨大な氷柱が降り注いだために移動都市の推進機構が大きく損傷したのだ。
これを受けて移動都市の上層部は、被災した一部区画を切り離して移動することを決めたものの、当該区画に残る住民のことを度外視して移動工程をこなしたため切り離し区画にまともな対処もしないまま【天災】の範囲から脱出してしまった。
結果、急な離脱に当該の区画住民は対応しきれなかった。
彼らが避難する前に区画ブロック間を繋ぐボルトが外され、女守衛を含む区画住民達は雪の積もる中動かない移動都市に取り残された。
せめてもの慰みだったのはことの発端が野生動物であるため動物の肉類の量だけは獲得できており、また気休めではあるが肉を取った動物の毛皮で防寒具もどきに充てることができたことだろう。
しかしそれは気休めにしかならない。
住民は余力のある内に移動都市から脱出しようと試みるが、【天災】の影響で区画が雪と氷で閉じ込められている状態になり身動きがとれなくなっていた。
徐々に底を突いてくる物資、【天災】でますます強くなる吹雪に住民達は次第に衰弱していき、特にファムはスタンピード時に守衛として奮闘し疲労が回復しないまま耐寒対策などに奔走したため体力が減っていた。
過労と寒さで粗雑なジャーキーを噛む力すら出なくなっていた彼女は分配された毛皮をどうにか体に括り付けて体力回復に専念したものの、やがて限界が来て力無く部屋の床板に倒れ込んだ。
「(もう少し、生きて、いたいと、思ってたんだ、けどね……)」
薄れゆく意識の中、彼女は都市全体が大きく揺れた気がした。
(◎皿◎)
「うひゃあ?!」
起き抜けの目の前にこのような顔があれば声が出るのが人情である。
「な、な、何?!」
窓から入ってきたらしい侵入者の姿を見てファムは慌てて後退るが、飢えと寒さに加えてパニックもしたため思うように体が動かず、未知の顔の前でもぞもぞともがくことしか出来なかった。
「や、やめっ……」
それでも抵抗しようとする彼女を無視するかのようにソレは二本の腕で彼女を掴むと女守衛の顔が見えるように持ち上げ無機質な眼球でじっと見つめた。
《カシャ》
「!?!?」
眼球が乾いた音と共に光り出す、ファムには何が何だか訳が分からなかった。
「ふぅっ、んうっやぁっ……」
その音の後一瞬ロボットの動きが止まったため、彼女はとにかく拘束から逃れようと懸命に暴れるが、一見ホース程の太さしかない鉄の腕は衰弱した彼女の力では振り解くことができない。
「ひあっ……」
再び金属の眼球がファムを見詰める。
人であるなら向けられるであろう感情の一切がないソレが不気味でしかなく、いっそ賊のほうが下卑た目線のある分判りやすいとすらファムは考えた。
《チーン》
「へぇっ?」
突然パントースターのような金属音がロボットから鳴ったかと思えば、ソレの口のような所から一枚の写真がプリントされて出てきた。
それにはファム・シーパードの顔が履歴書の証明写真のように印刷されていた。
「……私?」
その言葉には誰も答えない。
どころかロボットはいきなり背中から毛布を取り出すと有無を言わさずに彼女を簀巻きにして運び始めた。
「あ、え、いや、ちょっと?」
ファムは抗議の声を上げるがロボットは気にも留めずに彼女を担いで運ぶ。
窓から入ってきたロボットはそのまま部屋のカギを開けて外に出て、そして彼女のアパートの非常階段まで運び出してきた時、彼女はようやく外の景色に気が付いた。
「うそ……」
アパートの階段から見るその光景は信じがたいものだった。
まず、あれだけ厚く街の空を覆っていた雲がなくなっており、建物の間から見える空は久方ぶりの澄み渡った青だった。
周囲にはロボットの顔に似たデザインのエンブレムがあしらわれた船が複数上空に浮かんで鎖を下ろしており、船からロボットがエレベーターを使って出入りしている。
「(あの船はロボットを運搬用?川の船みたいに錨をおろしてるみたい)」
次に、【天災】が齎し街からの脱出を困難にしていた豪雪は止んでいた。
そこかしこに刺さっていた氷柱は削られ、各所では通行の妨げとならないようにきれいに除雪されていた。
今でもロボットが通りの雪掻きをしており、彼女と同様に運ばれている住人達の姿もあった。
そして彼女は通りの向こうにある特大の変化を目の当たりにして思わず絶句する。
さて、都市ブロック間の交通を担う動脈となっていた大通りは先の【天災】で降り注いだ氷柱によって甚大な被害を受けただけでなく、住人達が他ブロックに避難するための退路すら寸断していた。
更に不幸なことに氷柱の一本が機関部のある区画に亀裂を作ったせいで破口部に野生動物が侵入して設備を損傷させたため、機関部は熱を喪い稼働停止を余儀無くされた。
都市は文字通り氷柱によって釘付けになっていたのである。
仮に機関部を修理するなら裂口から風雪吹きつける中で作業せざるを得ず、技術者のいない残された住人だけでは到底対処できるものではない。
尤も修理用部品がブロック切り離しのドサクサに紛れて持ち去られていたらしく修理など論外だった。
こうして彼女のいる区画は切り捨てられていたのだが。
「……動いてる」
漸くファムが口にできた一言だった。
それが判ったのは、外界からの隔絶を象徴した氷柱がロボットによって撤去され視界を遮るものがない大通りから、孤立後何度も見ていた移動都市付近に聳える山脈が徐々に遠ざかっていくのが理解できたからだ。
ブロックが切り離されて以降、彼女の住むアパートの階段からは直接街外の光景を見ることが出来るようになっていた。
大通りの先には鋭角的に伸びる山脈が並んでおり、度々街からの脱出を図る際にはその山脈を見ていたために嫌になるくらいに覚えてしまっていた。
山脈そのものに罪はないものの、この状況の中に見るそれらがある意味で一種の絶望の具現化のように感じてしまっていたからだ。
それが遠のく様は余りにも衝撃的だった。
「(……あれ?)」
怒涛の状況変化で目を回していたファムだったが、ここである疑問が浮かんできた。
「(『街のイビキ』がない……ブロック移動って、こんなに静かだっけ?にしても今日は風が強いなぁ……)」
移動都市は基底部の駆動機関が膨大な人口と建造物を抱えて【天災】蔓延る大地を走ることから移動時にかなりの騒音を伴う。
現在主流の基底部構造は移動時の減音化が進んでいるが、彼女の住む移動都市は旧式のため移動の際は未だにかなり五月蝿かった。
騒音自体はこの都市に住む者なら慣れざるを得ないものではあり、移動は主に【天災】観測などの理由から昼間に行われることが多い。
時の領主の計らいで静養や睡眠の必要な病人や幼児等の弱者は昼間専用の防音室を利用できる制度になっているものの、それ以外の人々は基本的に昼間には睡眠をとらないようにしている。
但し、夜勤などもある彼女のような職業は真っ先に『移動中でも眠る』技能を身に着けることを求められるのだが。
そうした騒音を彼女の移動都市では『街のイビキ』と呼んでいた。
夜勤明けと都市の移動が重なった時は『街のイビキ』に悪態を吐きながら、強めの酒と塩気の利いたツマミで腹を満たして眠りに就く。
それが彼女の務める警備会社の先輩が安い酒の味と共に教えてくれた『街』との付き合い方だった。
その『イビキ』が全く聞こえない、だが今も都市は動いている。
奇妙な状況に首をかしげていたが、その理由はビルの向こう側を眺めることで氷解した。
ファムが目にしたのは、恐らく彼女の都市近くを流れている川であろう暗い色の一筋。
『あろう』なのは、川を判別するには難しい程に遠く小さくなっているから。
『鳥が空から見下ろせばこういう風に見えるかも』という形でその光景を見ているから。
「う、うそ?!もしかして、
彼女の推測は当っていた。
都市の上空を飛ぶ船はロボットを積載しているのはその通りだが、同時に移動都市を持ち上げて運搬するためのものだ。
そして船から延びる鎖は錨ではなく都市を括るための舫い綱、都市を囲む船は都市を導くアンカー船だったのだ。
数多の住民の生活を支える移動都市、その移動機能を失い不動の存在となったそれを事も無げに浮かせて移動させているという現実に気付いたファムは、今まで信じてきた常識が一気に崩れて絶句しそのまま気を失う他なかった。
気絶した彼女は、そのままロボットによって彼女用の部屋に運ばれていくことになった。
◆◆◆
そうして、今に至る。
「(はは……思い返しても、何だかよく判らないや)」
ファムの身に起きた出来事は彼女のこれまでにおいてあまりに濃密だった。
【天災】に巻き込まれ、心臓の止まった移動都市に閉じ込められ、氷柱を墓碑と柩に永久の眠りに就く所で移動都市ごと飛行船で回収され、ロボットに個室に拉致されてスープを飲んでいる。
夢ですらもっと整合性があると言えるほどの流れだったが、そんなハプニングに立て続けに相まみえた彼女の目からホロホロと涙がこぼれ始めた。
「でも、あぁ、わたし、いきてるんだ……」
この【天災】で命を落とした者もいる。
死を免れても怪我や病で苦しむ者もいる。
物資を巡って争い、財を失った者もいる。
彼女自身も何もかも失っているし、自分が【鉱石病】に罹っていないとも限らない。
ましてやこの後ですら命の保証があるわけではない。
しかし、それでも、今こうして生きていることがどうしようもなく嬉しかったのだ。
「あぁ……」
零れ落ちる涙がベッドに沁みるように、彼女も身体を横たえて沈むように眠りに就いた。明日がまた訪れることを祈りながら、彼女は意識を手放した。
「わひゃう?!」
強烈な地響きと共にファムは丸まっていた身体を起こし耳を立てた。
すわ【天災】かと身構えたものの、その後は地響きは起こらず今は部屋から機械の駆動音が聞こえるだけだった。
〈Ping pong〉
何かの電子音と共に部屋の入り口に小さな板が降りてくると、それは船が目的地に到着して停止したことを告げており、十分後に集合だから忘れ物なく部屋から出るようにとの告知が表示されていた。
「目的地って、どこだろ……?」
疑問はあるが、それはひとまず横に退けて彼女は身支度を始めた。
身に着けるものが何もかもボロボロで、これから自分がどうなるかは判らない身ではあっても、せめて身なりだけはまともにしておきたいと思う彼女なりの矜持だった。
十分後、迎えに来たロボットの後を付いて外に出た彼女は改めて街の様子を見ることができた。
驚くべきことに、街の上空では数多くの船が浮遊して建物に刺さった氷柱を引き抜いており、その傍らで彼女を攫ったロボットとは異なる見た目をした……先のロボットが歩く二段山パンならばこちらは歩く箱ばった人型ロボットらが丸いロボットなら入れないであろう場所で瓦礫の撤去をしていた。
【CAST】とプリントされているロボットはパワーがあるらしい。
通りでは大量の飛行ドローンがサーチライトのような光で周囲を探すように照らし、何かを感知するとビーコン音を発して付近のロボットを呼びつけているようだった。
呼ばれたロボットは丸いロボットの他にもミニスカートとカチューシャを付けたような女性的なロボットがあり、彼女?には〈CASEAL〉とプリントされている。
それぞれの背中には宝石のようなものが埋め込まれた掃除機のような装置を背負っており、口元は意味があるか判らないが布のような物を着けている。
彼等彼女等が照らされた場所にノズルを向けて何かを吸引する姿はロボットであることを除けば只の掃除夫、清掃婦にしか見えなかった。
[注目、注目ー!]
ファムの頭上から声がしたかと思えば、空に浮かぶ飛行船の一つがゆっくりと降下してきている。
側面には大型モニターとラッパのようなスピーカーが備え付けられており、先の声はここから出ていることが分かった。
モニターには黒の丸眼鏡に
[ホーッホッホッホ!都市に住む住人達よ、聞こえているか?ワシの名はDr.エッグマン、この都市はワシが頂いた!オヌシらに拒否権はない、我がエッグマンランドの軍門に降り、ワシの為に忠を尽くすがいい!一先ずは都市の機能及び住居環境を修繕してやろう、住民は今から言う特徴の艦に赴き、身分登録を行うように。拒むなら、この都市から強制退去にしてやる!ヌワーハッハッハッハッハ!]
老人の話を聞く限り、どうやら自分達はオマケで、エッグマンランドとやらが【天災】で死んだ筈の都市を目的にわざわざあんなことを成し遂げたらしいとファムは思った。
エッグマンランドやDr.エッグマンの事などファムは聞いたことがない。
そもそも今まで暮らしていた都市は外の情報なんてあまり入ってこない程に田舎な場所であり、学があると云えない彼女にとって、文字通り空から降って湧いた彼らの事を知る由もなかった。
都市がそのエッグマンとやらに接収されたことでこれからの生活がどうなるのかなど彼女には全く予想ができない。
ただ唯一判るのは、エッグマンランドの目的はどうであれ、自分達はあの氷獄から助け出されたという事実だった。
◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。
◆なお、以前『移動都市を持ち上げてひっくり返す』事を感想に書かれた方がいらっしゃいましたが、当時からこの「移動都市を持ち上げて移動させる」構想を書いていたので「やっぱりDr.エッグマンならこの位できるって思うよなぁ」と感じていました。