The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
お待たせしたから、というには烏滸がましいですが、今回は二話続けて投稿します。此方は1/2話目です。
◆実はこの話そのものは前半部(インタビュー部分まで)を2021年頃に書いたまま展開を想像できず塩漬けしていたものだったり。
本当は最初のロドス会議後に挟む予定でしたが……予定は未定、いい言葉だ(震え声
繋がる可能性が一髪程だろうと
生きる為に利用しろ
起こりは少し前に遡る。
1097年1月。
◆ロドスアイランド・社員食堂フロア◆
会議が長時間に及んだため休憩をとることにしたドクターとアーミヤは、ケルシーとクロージャと別れてロドスの社員食堂フロアを訪れていた。
社員食堂には食事や休憩、雑談、うたた寝や報告書作成などリラックスしたオペレーター達がめいめいの時間を過ごしていた。
「【ロドスの強み】とは何だろうか?」
「強み、ですか?」
注文したコーヒーセットを食堂のカウンターで待つ間にて、ドクターは徐にそう言った。
アーミヤはドクターに聞き返し、ドクターはセットを受け取りながら答える。
「先程の話で我々はエッグマンランドに接触することを決めたが、向こうにロドスと接触するメリットなしと見られてしまえば交渉はできないだろう。パッと挙げられる強みは勿論『製薬』、そこからつながる化学や薬草学だ。あれだけの技術があるならエッグマンランドも化学のほうも優れているだろうが、薬品類の全てをかの御仁が自家生産するよりも一部は外部委託するほうが効率的だろう。まずは医薬品方面での提携を持ちかけるとして、他の強みは何があるだろうか?」
「なるほど……確かに交渉の材料は多いほうがいいですね。それでしたら例えばこの食堂にいる皆さんに尋ねてみたらいかがですか?ドクターとオペレーターとのコミュニケーションにもなって一石二鳥です」
「そうか、じゃあまずは……」
「アーミヤさん、すみません。製薬部門のほうから話をしたい事があると……」
ドクターはアーミヤと一緒にオペレーター達の話を聞こうとしたが、折悪くアーミヤが主要部署の職員から臨時の相談要請によって呼び止められしまった。
「あっ……」
ドクターと一緒に食堂を歩こうと思っていたアーミヤは、急な仕事に溜め息を漏らした。
「アーミヤの話が終わってからにするか?」
ドクターはアーミヤの休養が終わるのを待つことを提案するが、アーミヤは首を横に振って答えた。
「どれ位時間がかかるかも判りませんし、オペレーター達も忙しい人が多いですから、先に皆さんの話を伺って下さい。私も終わりましたら合流しますね」
「すまない、ありがとう」
別れたアーミヤに手を振ったドクターは、食堂にいる利用客を見回した。
「あそこにいるのは……『ノイルホーン』に『カーディ』『スポット』か」
セットの乗ったトレーを携えてドクターが最初に向かったのは、ロドス作戦部に属する重装オペレーターの三人だった。
『カーディ』は厚切りのベーコンステーキを頬張りながら盾を磨く『ノイルホーン』と談笑し、その横で『スポット』はパイポを咥えて訓練に関する報告書を記入していた。
「やぁ、三人共。訓練お疲れ様。少し聞きたいことがあるんだがいいか?」
「あードクター!お疲れ様!」
「時間ならあるから良いぜ。何を聞きたいんだ?」
「……面倒な内容じゃなきゃいい」
カーディ、ノイルホーン、スポットがそれぞれ首肯する。
「ああ、もしも外部の企業にロドスの良さとか提携のメリットを話すとしたら何があるかと思ってね。オペレーター達にも意見を聞いて回ろうかと」
「へぇー『自社アピール』ってやつだね!」
カーディは唇をベーコンステーキの脂で濡らしながら答えた。
「そういう話は人事部とか広報部が考えて作るんじゃないのか?」
報告書の手を止めたスポットが訝しげにドクターに尋ねた。
「勿論、そっちの担当者にもアイデアを出してもらうつもりだ。しかし『社』としての意見は大事だが勤めている『オペレーター』の声も重要だ。まぁ、今回は私のオペレーター達とのコミュニケーションも兼ねているが」
ドクターは自分の頭をポンポンと叩きながら質問の意図に答えた。
「なるほどねぇ……だったらやっぱり【多彩な人材】、いや【人材のサラダボウル】って所じゃないか?」
磨き終えた盾のつや消しを始めたノイルホーンは、彼の持論を展開した。
「ロドスにゃあウルサスもいればサルカズもいる。ヴァルポもドゥリンも、何だったら俺みたいなオニの奴すらいる。こんなのどの都市、いや国を探したってそうそう見つからねぇぜ。まぁ全員が仲良しこよしって訳じゃねぇけどな。感染者へのスタンスのズレやら出身地や出向元の企業とかの軋轢はあるし、何だったら種族的な向き不向きだってある。けど、そんなバラバラな連中が一括りになって仕事してるなんて中々ないぜ。それはやっぱりロドスの強みじゃねぇかな?」
「確かに……」
ドクターはノイルホーンの主張に納得した。
彼の言うとおり、世界中から観光客が訪れるような国……例えばシエスタを除けばロドスほど人種や国籍が入り混じっている所はあまり見られないだろう。
ましてや感染者と非感染者が協力して仕事をしているところはより限られるはずだ。
その多様性は即ちそれぞれの人種・国民が持つ【視点の広さ】を内包しているとも言える。
無論、その多様性故に衝突したり意思疎通に隔たりが生まれて纏まりを欠く場合もあるが、ロドスに属する者はそれらをすべて承知の上で共に歩むことを決めている。
ドクターは改めてノイルホーンの言葉を胸に刻みつける。
ノイルホーンに続いてカーディが手を上げて発言した。
「じゃああたし!えっとねーはい、【給料がちゃんと入ります】!」
「どういうことだ?」
「ほらさ、あたし達って【鉱石病】とか感染者とかに結構触れる生活するじゃん?そうそう職業だとわりかし『そういうことをしなきゃやってらんない人』が働いてる場合が多いでしょ?お医者さんとかだとそうでもないかもしれないけど、大抵はそんな人達相手に足元を見る奴なんで沢山いるよね?でもロドスはちゃんと給料払ってくれるからスッゴくいいと思う」
「そうか……」
記憶喪失となって日が浅く、まだ世間の感覚に疎いドクターにとってカーディの考えは目から鱗だった。
世界に蔓延る【鉱石病】関係者に対する偏見は余程の地位を持った『非感染者』でなければ悪しきものしかない。
ドクターがロドスにいるため、感染者に対する空気感はフラット気味だと感じてはいたものの、世界的に見ればそれが非常に恵まれた環境であることをドクターは実感した。
何よりドクターは、『恵まれなかった故の結末』をほんの少し前に目撃したばかりだった。
「スポットはどうだ?」
ドクターが少し考え込んでいると、ノイルホーンがスポットに水を向けた。
スポットは一旦パイポを口から外し、報告書を書く手を止めて手短に答える。
「カーディの意見に近いが、感染者でも雇ってくれるあたりに文句はない。それに同僚を見るのも暇つぶしに事欠かないからな」
そう言うスポットの視線の先には、彼が籍を置く【行動予備隊A6】の面子である『ミッドナイト』が『ポプカル』の横でトランプタワーに挑戦している後ろから、弾込めしていないグレネードランチャーを抱えて忍びよる『カタパルト』の姿があった。
『テイクオフ!』
『うわぁ?!』
『あー。ミッドナイトお兄ちゃん、トランプ崩れちゃったね』
『……カタパルト、そういう驚かせ方は無骨だからオススメはしないぜ』
『安心しなよ。ミッドナイト相手だから直前まで弾を込めておくかどうかで悩んだんだよ?』
『そもそもランチャーを持ち出さない選択肢が俺には欲しいな』
『なぁに、ミッドナイト。あたしのアイデンティティを否定しちゃうの?悲しいわぁ、たかだか空装填の武器でそこまで言われるなんて……』
『そうか、そんなにお前は自身の得物に愛着があるというなら……課題だった高速分解と組み立ては容易いだろうな?』
『えヴっ?!』
『あ、ドーベルマンさん』
『お疲れ様です、ドーベルマン教官』
『会話中邪魔してすまないな、カタパルトを借りていくぞ』
『どうぞどうぞ。じっくりお話して下さい』
『あ、いや、ちょっと、あたしこれからオーキッドに明日の予定を聞きにいく予定をつくろうかなって』
『さっさと来い』
『カタパルトお姉ちゃん、ばいばい』
『あああああぁ……』
「ああいうのは、見ていて飽きない」
スポットは手元のコーヒーを一口飲むと、再びパイポをくわえて報告書を書き出した。
その後暫くオペレーター達に話を聞いたドクターは、彼らから聞き出した話を一纏めにして整理した。
・『クルース』
「ちゃんと寝られることかなぁ?」
・『メランサ』
「はい、皆さん、優しくしてくれます……」
・『クオーラ』
「ご飯がおいしい!」
・『ナイチンゲール』
「ここは、静かな場所ですから……」
・『アンセル』
「未熟な身の話であっても、患者のための提案なら受け入れてくれるロドスにはとても感謝しています」
・『アズリウス』
「私みたいな体質の者でも受け入れて下さった場所は此処以外にはないと思いますわ」
◆ロドスアイランド・社員食堂フロア・喫茶スペース◆
椅子に座る。
喫茶スペースでは配膳が行われるカウンターのあるフロアとは異なり利用者の姿はなかった。
停泊している場所がウルサス~炎国間の荒野であるせいか、スペースの外から見える景色は昨晩降った残雪とここを通った移動都市のレールに踏まれたことで硬くなった土しか見えない。
己の視界にあるものが乾いた大地と文明の轍のみというのはさみしいものではある。
だがドクターにとって今の状況は、落ち着いて考え事をするにはちょうどよいかもしれない。
「中々評判は悪くない、のか?言葉を選んだというわけじゃなければいいが」
「ドクター、お待たせしました」
「アーミヤ、お疲れ様」
PDAに書き込んだインタビューの内容をドクターが振り返っていると、製薬部門職員との打ち合わせが済んだアーミヤが彼の席に合流してきた。
ドクターはアーミヤの為に予め注文しておいた軽食を彼女に手渡す。
「話は終わったか?」
「ありがとうございます、ドクター。どうするかはひとまず決まりました」
「その言い回しからすると、何か厄介なことがあるようだが?」
「はい、実は製薬部門以外にも一般患者課と人事部のほうからそれぞれ要望が届いたんです」
席に座ったアーミヤは少し疲れた様子で軽食のサンドイッチに口をつけた。
「それぞれどういった要望だったんだ?」
「製薬部門は抗【鉱石病】医薬品の生産について、期初計画以上の増産体制をとれないかという話でした。それについては社内稟議で増産のための各種資材や時間等の計算をすることになっています。ですが生産ラインとなる工場の稼働状況が逼迫しているので他の医薬品生産計画との調整が必要です。一般患者課と人事課のほうは……その、患者が働ける職場の提供希望と療養患者増による増員要請です」
「つまり感染者の働き口と、医療スタッフの確保か」
「そうです。先日、外部の感染者支援団体から要治療者として中規模の感染者グループがロドスに乗船して治療を受けることになりました。ですが、チェルノボーグの一件でロドスに保護を求める難民が一部流れてきています。その中にも感染者もいますので、彼らの治療も含めるとロドスの医療現場のキャパシティは上限に達しつつあります」
「【鉱石病】はこちらの都合を少しも考えてくれないな」
「残念なことです、ドクター」
アーミヤはサンドイッチを置いてアップルティーに口をつける。
感染者になり、それが周囲に露見することはほぼ大抵の職場では解雇に繋がる。
わざわざ感染者を雇用する企業などあまり存在しないのが実情だ。
運良くそうでない職に就けたとしても【鉱石病】対策に手が回らない、或いは対策を取るつもりがない職場が多く、【鉱石病】が悪化すれば簡単に切り捨てられる。
そうして感染者は、遅かれ早かれ都市という器から砂の様に漏れて荒野へと
その先は、そのまま荒野を彷徨う難民になるか、山野に潜む野盗になるか、或いは開拓地や鉱山等の感染者であろうと人手が欲しい現場の労働者になるかだ。
いずれも劣悪な環境であることが多く、適切な治療や処置など望むべくもない。
衰弱し命を落とす、何度も繰り返されてきた末路だ。
一方、ロドスでは感染者が健全な生活を送れるように様々な就業支援を行っているが、いくらロドスが複数の都市に拠点を持つ多国籍企業とはいえ、入院する感染者全員分の職の面倒を見切れるわけではない。
せめてできる限りの感染者がその命を朽ちさせることがないよう、日々身を粉にして務めるしかない。
また感染者が増加すれば、治療にあたる医療従事者も求められるのは当然の流れだ。
しかし医療、それも【鉱石病】分野という高度な技術は一朝一夕で取得できるものではなく、また『感染者を治療する』事に忌避感を我慢できるような人材は簡単に見つかるものではない。
ロドスでは感染者の中からも希望者を募り、医師や医療班のサポートを行う者を養成している
しかし、文明の発展に比例して増加する感染者に対して求められている需要、それを十分に満たすことはできていない。
医薬品製造の点においても今の環境は好都合とは言えない。
今ドクター達の居る艦には当然医薬品の製造ラインを設けているが、生産施設はロドスと提携している移動都市にもあり、生産量は其方のほうが主体になっている。
そのため医薬品の増産を試みるなら、提携の移動都市にある生産施設に依頼をして引取に向かうのが通常なのだが。
「この地域にはロドスと提携している都市が無く、あっても炎国の龍門までいかないと、だったか」
「緊急の医薬品については航空機を飛ばして積めるだけ積んで輸送する、ということもありますがあくまでその場凌ぎに過ぎません。先の打ち合わせでも取り急ぎ輸送車を手配して向かわせることになりましたが、その輸送車も余裕がない状態です」
「ないない尽くしだな」
ドクターはそう呟いて、椅子に身を投げ出すようにもたれかかった。
感染者向けの職がない、医者がない、医薬品がない、近くに設備がない、輸送車がない。
ロドスの抱える困難に対して、ドクターと呼ばれる自分には打つ手が出ないことに彼は自己嫌悪を覚えていた。
同時に、自身の救出作戦もまた今の困難な状況を後押ししているのだろうとドクターは薄々感じている。
あの作戦で、どれだけの人員が犠牲になったか、どれだけの人員が負傷したか。
戦闘詳報については目を通しているため、ドクターはその正確な数を知っている。
どれほどの物資が消費されたかも判っている。
だが、どれだけの人生がねじ曲げられたのかは判らない。
どれだけの家族が涙を流したかは判らない。
それらの消耗の上に目覚めた自分に、それに見合うだけの価値があるかが判らない。
目覚めてから幾許も無い人間に功績を求めるなと心の底から思う事ができれば、きっと己は楽になる。
それはできない。
目覚めたときに己の手を取ったアーミヤの温もりを否定することになりそうで。
あの時背中に受けた
「……ドクター、どうか気を病まないでください」
アーミヤの手がドクターの手にそっと重なる。
「これはロドスの問題、そう、
まるでアーミヤの気遣いと慈しみが指先から流れてくるかように、手の接する所からじんわりと熱が伝わってくる。
「だから、今の私達にできることをしましょう、ドクター。一人一人がその手に握れる砂粒はごくわずかでも、数が合わされば、皆さんが居れば土になって大地になって自然を育む場所にだってなるんですから」
そう言って、アーミヤはその小さい手でガッツポーズを構える。
目の前の
短く息を吐き、バイザーの奥で口元をくっと締める。
「そうだな。土地を作るにもまずは土を手に握らない事には始まらない。我々は偉大なる魔法使いの様に呪文一つで思いがまま、なんてことはできないのだから」
「そう、その意気です、ドクター」
「しかし、まずは何から手を付けるべきか。エッグマンランドへのアピール、感染者の就業問題、物資調達、課題だらけだ。まず何ができる、できる事……」
ドクターの言葉が途切れる。
「ドクター?」
「すまない、ちょっと待ってくれ」
彼の変化を訝るアーミヤを制する一方で、ドクターはPDAからロドスのデータベースにアクセスして資料を探り創めた。
「ドクター、何を探してるのですか?」
「入院患者の前職及び人材派遣系の情報だ」
目的のデータを探り当てたドクターはその内容を速読する。
「エッグマンランド……向こうがたとえ我々の理解を遥かに超える国家であっても、現時点では新興なのは変わりない。新興国家、それも他都市の土地を奪って建国するような場合は人的資源が不足することが多い。まして先のミーティングでクロージャが言っていたように、かの国が彼一人で回しているようであれば、人材の確保は急務のはずだ」
ドクターの指が迷いなく忙しなく動く。
「であれば、恐らく向こうは人材に関して情報収集をしている。そしてその伝手はいくらあってもいいだろう」
彼の眼鏡に適ったであろうデータが、彼の指でいくつもスライドして流れていく。
PDAから飛び出したデータは、同時進行で彼の執務室にある印刷機に指示が飛ぶ。
「ロドスは感染者の職業斡旋のために様々な業界に顔を出しているとケルシーから聞いた。それは感染者となって失職した者以外にも、治療に支障が出ないように仕事をしたい者、身内の感染者のために治療費を稼ぎたい人々のためでもあると。ならばロドスが
「ですがドクター、政治、それも都政に関する人材をロドスで紹介するのは内政干渉ととられたりはしませんか?」
「あくまでこちらがするのは『こういう人がいる』と伝えるだけだ。要求はしない、職の斡旋も限定などしない。向こうがどう採用するかは向こう任せだ……当然、危険な職に就かせるようならこちらも抗議や横やりを入れられるようにしておかなければならないが」
ドクターは思考を巡らせる。
エッグマンランドは勿論だが、他国、そしてウルサス帝国からの警戒は避けなければならない。
ロドスが積極的に手駒を送り込んでいる、と思わせてはならない。
せいぜい他の都市も隠れてやっている程度と思わせなければならない。
またロドスからの関与をごまかすことについてはケルシーや他の者との協力が必要だ。
そしてロドスはエッグマンランドに差し出すことを武器とする。
そう、ロドスの目指すべき姿は狩りをする獣ではなく実を成らせる果樹の姿だ。
狩りのように自ら獲物を探そうとすれば、縄張りに棲む他の獣や同じく得物を狙う獣からの警戒をもたらすだろう。
ならば、相手の縄張りではなく自分の生える土地で待つ。
獣が来たくなるような果実の種を撒き、実る果物を以て誘い出す。
獣から肉を獲ろうとするのではない。
獣が樹木に成る果実を食べたいと思わせる。
獣が果実を食べたなら、果肉の中にある種は獣を通じて向こうの縄張りで芽を出せるだろう。
寄生虫や寄生菌のように相手を内側から食い殺すようなこともしない。
あくまで向こうまで運ばれるように、魅力的な匂いと味を醸し出すのだ。
獣は己の縄張りを侵すものに容赦はしないが、縄張りに勝手に生えてきた果樹を果たして警戒するだろうか。
腹を痛めてくる虫や菌を獣は吐き出そうとするだろうが、ただ単に腹を満たす果物を吐き出すことはあるだろうか。
そうして先に果実を差し出して、得られるものは新天地での結実。
その結実には、ロドスが、大地が、人々が求めてやまない【鉱石病】根治の糸口がある。
迷っている暇はなかった。
「よし、アーミヤ。早速で悪いが作戦会議だ。気合入れて詳細を詰めないと。まずはケルシーとクロージャに相談だ」
「はい、ドクター!」
ドクターは椅子から立ち上がり、荒野と残雪に背を向ける。
あの時受けた傷は、未だに少し体に痛みを遺している。
だが、その背に奔る礫の痕の感覚は、どこか自身を後押ししているような気がしていた。
◆感想や改善点などございましたら是非お願いします。
◆新ストーリーがスタートしましたね。バベル時代のエピソードが色々と公開されるようで楽しみです。
……拙作のシナリオは1部第8章頃の設定でスタートしているので孤星みたいなどでかい設定が来ると苦しみもだえるしかないので怖くてかないません(震え声