The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
◆右手に武器を、左に酒を、心にワクワク持ち込んで、ゆけゆけぼくらのペンギン急便「ワッサンちょっとダサくない?」「うっさいわ!急に歌えって振ったのはそっちやん!」
1097年1月、夜半。
◆龍門・【ペンギン急便】『比較的無事なほうの』アジト兼事務所◆
夜の帳が降りつつも外はさながら不夜城のごとき煌めきで包まれており、逆襲を受けて倒れたマフィア達は街灯の明かりに照らされながらめいめいゴミ箱に放り込まれてごみ収集が先か彼らの組織による回収が先かの様相を呈していた。
暖色の室内灯が棚の酒瓶を照らして中の液体の色を反射させ、飾りのない壁紙を多様な輝きでコーティングするよう設計されたレイアウトは建築家のこだわりを反映している。
ここを買い取った主によって買い込んだ酒瓶が所狭しと並べられ、今宵は誰かに落とされて割られたり、
「へぇ……守護銃ともアーツ銃とも違う飛道具を持った機械の軍団の居る移動都市に乗り込め、って、ボスもなかなかどうして面白いこと言うじゃん」
今日も一日思い切り撃ちまくった愛用の守護銃を分解清掃しながら、ペンギン急便の制服を着た赤髪のラテラーノ人『エクシア』は特注の椅子にふてぶてしく座る自身の上司にニヤリと笑いかけた。
◆◆◆
現在の龍門におけるトランスポーター業界はチェルノボーグ暴動の一件で騒然となっていた。
龍門以西に輸送移動する場合、トランスポーター達が利用する謂わばキャラバンルートは個人事業主の独自ルートを除けば大きく三つに別れている。
一つ目は【カズデル】地域を経由する南ルート、二つ目は【リターニア】【シラクーザ】地域を経由する南西ルート、三つ目は【ウルサス】地域を経由する西ルートである。
カズデルルートは昨今の当該地域情勢が不安定なのとサルカズ人に対する偏見から利用者が減少、地理情報の更新や入手が滞るようになり益々厳しい状況になっている。
リターニア及びシラクーザルートは【ラテラーノ】や【ヴィクトリア】【レム・ビリトン】に向かうには問題ないがそれ以外の地域となるとやや遠回りになる。
ウルサスルートは西へ直進するルートのため大陸西部に最も早く移動できるルートとなっており、トランスポーター達は大陸南部への接続に苦慮しつつもカズデルルートを除いた二つのルートで移動していた。
その内ウルサスルートの玄関口となっていたのがチェルノボーグだ。
つまり今回のチェルノボーグ暴動、続くチェルノボーグ分裂は西ルートを揺るがす大事件となった。
龍門の保険会社は西ルートにおける輸送品や輸送車に関する保険料を値上げ、大手トランスポーターギルドはチェルノボーグ地域への移動を制限するなどして当該地域の情勢安定または判断材料となる情報が集まるまでの間は西ルートを避けて静観することにした。
一方で俄に活気づいたのは個人事業主や零細企業、感染者が勤めるトランスポーター界隈である。
チェルノボーグは暴動と分裂によって貴族や大商人らと結び付いていた既存の業者が大打撃を受けており、公式発表等はないものの多くの企業が倒産や破産をしたという噂が絶えなかった。
事実チェルノボーグ企業で消息が途切れた所は数あり、引き続き事業を継続する旨を告げた企業は旧チェルノボーグ又はエッグマンボーグもといエッグマンランドのブロックで会社を構えていた者達だった。
生き延びた企業がないとは言わないもののそれらの規模は縮小し分裂前と比べれば月と鼈である。
だが、それは即ちチェルノボーグにおける既得権益が乱暴ながらも取り除かれたことと同義であり、リスクを考慮しなければ現在のチェルノボーグは空前の自由参入可能な状態と言っても過言ではなかった。
大手組織と比べて失うものが乏しい小規模企業は上手く現地組織に取り入ることができればチェルノボーグにも拠点を得ることが出来る他、感染者の企業に至っては『まともに取引してくれるかもしれない』勢力と繋がることができるかもしれないと一縷の希望を抱いていた。
更に言えばチェルノボーグが『感染者の興した都市』『超技術の謎の都市』という未知の世界と化したことで、それらに纏わる情報や物品は価値が高騰し、些細な情報でも保険会社やトランスポーターギルドに持ち込めば高額の賞金が支払われる程になった。
結果、現在の龍門トランスポーター業界は大手組織が見守る中で、小規模企業が値上がりした輸送費を狙っての輸送やチェルノボーグへの新規参入、情報収集による懸賞金狙い等で西ルートを利用するという流動的な状況になっていた。
但し、大手企業や古参企業が全て静観しているというわけではない。
チェルノボーグ分裂によって打撃を受けた企業は失地回復を図ろうと小規模企業に劣らず動き始めていた。
◆◆◆
彼女の上司であり、龍門屈指のトラブルメーカー【ペンギン急便】のボスである彼はどこからどうみてもペンギンの手で、依頼の掲載された書類をばさりとテーブルに放り投げた。
依頼主は先のチェルノボーグ分裂で打撃を受けたほうの企業になるが、テーブルの上を滑る紙面には彼が読むには酷く格式張った、文字からしてありありと格の違いをわからせようとする形式文が書かれていた。
「俺たちのカンパニーにもチェルノボーグ行きのトランスポーター依頼が来たからな。依頼主は旧側のほうだが、何もルートまでも依頼主に聞かなきゃいけない程俺たちはヒヨッコじゃねぇ。だったら騒がしい所だろうが静かな所だろうが好きに行っても問題ねぇだろうが」
エンペラーはテーブルに置いている衝動買いしたワインをボトルのまま一口飲むと
「マズい」
と言って放り投げた。
「あわわわわ、ボス、これ二桁万かかったワイン言うとったやつやん!勿体無い!」
フォルテ人女性で社員の『クロワッサン』は荒事の際に構える重装備とハンマーを持った時のような機敏とはまるで異なる早さで宙を舞うワインボトルをこぼさずにキャッチすると、棚から適当なグラスを取り出してせめて一口とボスの不興を買ったワインをあおった。
「何やこれ普通に美味しいわ、何があかんのボス?」
「俺はもっとガツンとくる味が欲しかったんだよ」
「じゃあウチが貰っとくで♪」
思わぬ役得にクロワッサンがいそいそと二杯目を注ごうとすると横から整備を終えたエクシアが彼女の持つワイン目掛けて飛び付いてきた。
「私にも分けてよ!」
「あっぶ、何すんの!ちょ、溢れる!イヤや、エクシアに分けたら一滴も残らへんやん!」
「残り一滴になるまでの時間が早いか遅いかでしょー?」
エクシアとクロワッサンがワインボトルを巡ってやいのやいのしている様を見て、同じく社員で源石剣の使い手であるループス人のテキサスは呆れ顔をして溜め息をついた。
「あれだけ掴みあってもワインは一滴も溢さないとはな」
「アハハハ……えっとそれで、観光も兼ねてのトランスポーター業務ってことでいいんですよね?」
ペンギン急便と取引して在籍しているアイドルの『ソラ』は、苦笑しながらソファに座るテキサスの隣に腰かけると今回の目的についてエンペラーに尋ねた。
エンペラーは次の酒の封を切るとサングラスを正して告げ始めた。
「チェルノボーグについては以前アソコと取引してた頭の堅い連中がウチとの契約を一方的に切りやがった事があった。ウチが感染者との遣り取りが他社より多いだの何だので不適切だとよ」
「それって確か少し前の年契更新時の話でしたっけ?」
「表向きはそういうことだったが、中身は単なる癒着と競合排除だったな」
当時護衛としてエンペラーの側に控えていたテキサスがその時の状況を思い返して呟いた。
昨年秋、以前よりペンギン急便が移動都市間のトランスポーター契約をしていた企業の取締役が、天下りで所謂
理由は彼が触れたペンギン急便の取引先についてに加え、グローバル戦略だとか組織規模だとかのお題目を言い並べてはいたものの、次に契約する企業がチェルノボーグに支店を持ちウルサス貴族にもパイプがあると噂される企業だったことからその切り替えが出来レースだったのは明らかだった。
「それで合ってるぞ、ソラ、テキサス。……うるせえぞお前ら、喧しくするなら別室に行きやがれ」
エンペラーはカウンター席でのじゃれあいからそのまま酒盛りに移行したエクシアとクロワッサンを睨んで怒鳴ると改めてソラとテキサスのほうを見た。
「まぁ今となっては年契どころか契約穫った会社は暴徒に襲われて素寒貧になっちまったとさ。トランスポーターを旨い汁が吸える都合のいい所に一本化しようって腹だったから今回の状況はチェルノボーグ寄りの連中には完全にオオコケ状態よ。そこで一度は切ったウチに恩を着せようと再度トランスポーターの仕事を振ってきたわけだ」
年契更新交渉を粘るほどの相手でもなく、第一あからさまにエンペラーの足元を見ようとする見下した態度で通告してきたため彼はむしろこちらから願い下げだと年契満了後すぐにその企業と手を切っていた。
元契約先の企業は用は済んだとばかりに新たな提携会社との契約を進めたのだが、その後チェルノボーグでは暴動が発生して状況が一転した。
向こうの経済と治安が大混乱に陥ると、ウルサスの過激な手法に『適合』していた支店は真っ先に暴徒らの怒りの矛先となって壊滅し財産の全てを喪う羽目になった。
しかし、当時の契約を主導した元政治家はその責を問われ辞任こそしたが、役職以外の待遇は維持の上後任に一族の者を据えてのやり直しであったことから事実上お咎めなしの状態であると言っても過言ではない。
「なんとまぁ都合のいいこっちゃ……エクシア、ジャーキーくれへん?」
「契約切ってきた時のあの担当者、ほんと居丈高で事務所に来直したよね。『直ちに問題はない』とか言い張ってたけど、実態知ってる身としては可笑しいったらなかったわ……そこのチーズと交換で」
再度『取締役の名代』としてペンギン急便を訪問した前任者は前回とほぼ同じ態度で契約の再履行を求めてきた。
内情を既に情報筋から仕入れていた彼女らは虚飾で完全武装した前任者の面の皮の厚さに思わず笑いそうになったことを振り返りながらお互いのツマミを交換した。
「お前ら、俺にアンチョビクラッカー寄越せ。でも俺は過去の事はすっぱり忘れる男だ。ど偉い担当者の有り難い御指名を慎んで受けたって訳だ」
エンペラーはやれやれといった様子で肩を竦めるも、さも大人の態度を示すかのように契約の再締結を決めたことを社員一同に発表した。
「「「「本当は?」」」」
「担当者様を過去の物にするからウチでチェルノボーグの販路を握るぞ」
「やっぱり」
「セヤナー」
「だろうな」
「デスヨネー」
今度はお眼鏡にかなった酒をぐいっと飲むエンペラーの宣言に、社員一同は心を一つにした。
「で、まずはあの爺さんの所に行くっちゅうわけなん?」
クロワッサンがグラスを持った手を挙げて質問した。
「旧地域は今落ち目だ。しかも中じゃ逃げ延びた地元の業者がなけなしの公務分を受注しようと共食いしてる所だ。体力の残ってる奴が勿論勝つがそもそも旧地域自体がジリ貧だ。相当のテコ入れでもない限り保たん。あそこがどの勢力主導でまとまるのかは判らんが、そうなるまでには当分時間がかかるだろう」
エンペラーは旧チェルノボーグ地域をそう断じた。
「そしたら次は当然外に目が向くが、旧地域の連中だけじゃ都市外販路をイチからなんて時間が掛かり過ぎて余程上手くやらねえと飢え死にだ。あいつらにはできん。残るは『同じ』チェルノボーグの他ブロックとなるが、片方はウルサスを目の敵にしてて、もう片方はよくわからんが金のタマゴかもしれんとなればそれしか手はない」
「当たり前だな。自ら感染者を切って捨てたのだ。今更旧チェルノボーグの連中が感染者に近づけばどうなるかは火を見るより明らかだ」
「火がつかないと気づかない奴もいそうだけどねー」
テキサスがツマミのスティックチョコをかじり、エクシアが野菜チップスの袋を開けながら首肯した。
「つまりチェルノボーグ地域がそれなりに落ち着くまでに販路を作ってしまうってことですね?」
「そういうことだ。あとあん時に飛んでたモニター付ドローンとかが欲しい」
ソラが作ったアンチョビクラッカーを受け取ったエンペラーはついでにチェルノボーグ騒動の時のドローンについてボヤいた。
「あれ売っとるんかな?」
「自作っぽいよねー」
「チェルノボーグ全域に飛んでいたらしいですよ?スゴいですよね」
「(あれでラップランドを騙したり出来ないだろうか?)」
「アレがあると新しい演出とか出来そうでよ」
ペンギン急便の営業会議は引き続き白熱していった。
◆◆◆
◆龍門・何処かの雑居ビル◆
「カシラ、ペン急にやられた組員の撤収終わりやした」
「それとペン急の奴らもチェルノボーグに向かうようです、頭。近くの宿無しが漏れ聞いてやした」
「全く手間のかかるダボ共がぁ……もういい、そいつらは医者のセンセイの所に放り込んでおけ。治療最優先だ、痛がっても殴って黙らせろ。麻酔代分安上がりだ」
強面の男達から『カシラ』と呼ばれた虎髭の男はペンギン急便のロゴの載った写真を握り潰して硝子の灰皿に放り込むと、懐から葉巻を取り出し忌々しさと苛立ちを隠さないまま葉巻の先を噛み千切った。
香りからして上等なのものであろうそれに火をつけ、二吸い大きく紫煙を燻らせた後、男は自身の椅子にどっかりと座り込み龍門市内発行の新聞を手の甲で叩いて部下に命令した。
その新聞には一面に『チェルノボーグ陥落!現地の治安は最悪か?!』との煽り文句が印刷されていた。
「
「カシラ、ペン急や他の組はどうしやす?」
「向こうで土地獲るのを優先しろ、だが出会したなら潰せ。何だったら向こう名物のロボット軍団にでも押し付けられればあいつらをしょっぴいてくれるかもしれん。そうなりゃこっちとしては楽で好都合だ」
「へい、すぐにかかりやす、頭」
男たちがどかどかと駆け出す。
龍門の西の大地は表と裏のどちらもが注目する場所であった。
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