The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
同時に頭を悩ませるものもいる。
CS-01.新聞とシエスタと空を思う
◆【ロザリオ日報*1】◆
*コラム:写経の合間に徒然と*
◎チェルノボーグにて感染者が暴動
筆者がまず思ったのは
「我がシエスタでも同じことになるだろうか」
「この過激派によって他の感染者も厳しい立場になりそうだ」
といった月並みな話だった。
例えば龍門の感染者に対する入国チェック体制は常に厳しく、先だって龍門近衛局より入国管理の人員増化の決定が通知されるに伴い近衛局の採用枠を拡大するとの布告があった。
チェルノボーグに最も近い位置に碇泊している龍門には当面近辺を離れるような運行計画が立っていないことから、暫くは龍門が感染者の暴動における最前線ということになる。
非力な物書き坊主としては龍門警察の働きに期待する所大であるが、申し訳ないことに私の関心は他の所にある。
◎『現実は小説よりも奇なり』
様々な知見を通じて情勢を分析して将来を予測することで糧を得る職に就いている身でそのような事を口にするのは些か怠慢であると思わなくもないが、まさかチェルノボーグ暴動後に『国』が2つも生まれるとは思いもよらなかった。
公的に言えば国と認められていはいないが、周囲からの注目度は現在最も高い存在であるのは間違いない。
◎チェルノボーグを苗床にして発芽した国
レユニオン
エッグマンランド
両者に共通するのは感染者に対する扱いだ。
レユニオンは感染者の自立と不遇の打破を目指し、エッグマンランドは感染者であろうと庇護を望めば受け入れるという、並の国家であれば口にしただけで一笑に付されるであろう方針を明らかに採っている。
その甲斐あって、現在二者は周囲のみならず遠方からも感染者が迫害を逃れて亡命しにくるため急速に人口を増やしている。
あの感染者にとって恐怖の象徴であるはずのウルサス帝国のチェルノボーグに。
◎両者の共通点
それは二者共に突如として世界の表舞台に立ったというものだ。
レユニオンは感染者同士の互助コミュニティから端を発している。 筆者の調査では判明した情報が少ないため不見識で申し訳ないが、その当初の規模は恐らくそこまで大きくはなかったようだ。
慈善団体からの資金援助や自助活動で営まれる小さなコミュニティ程度の存在だったようだが暫くして急速に拡大し始め、独自の武力を持ち野盗等の武装勢力を撃退できるようになり、遂にはチェルノボーグにその刃を突き立てるまでに至った。
この爆発的な武力の拡大には原因が諸説あり、
・スポンサーが反チェルノボーグ
・支援団体にウルサス帝国の妨害を目的としたダミー組織がいる
・歴史に名を残す覇王のようなリーダーがついた
・歴戦のサルカズ人傭兵団を複数雇用した
など様々な意見が今でも市井や筆者デスク周辺では飛び交っている。
個人的には移動都市を落とせる程の組織力を運営するには正に覇王がいなければ成し得ないだろうが、覇王のような存在は現実にそうそういるわけではない。
現場ではサルカズ人傭兵団が多数いたという噂と、そんな傭兵団の雇用費用を彼らで賄えていることから、恐らくレユニオンの背後に彼らを派遣したグループがいるのではないかと考える。
そのグループの目的が何かが判らない現状、その代弁者と思わしきレユニオンの行動には深く注視するべきだろう。
もう一者については文字通り『急に降って沸いた』レベルで情報が一切ないエッグマンランド。
かの『国』がこの世界に知られる所となった切欠はあのチェルノボーグ暴動であることは誰もが認める所だ。
弊社調査員が当時かの地域にある学校に強制収容され脱出後にシエスタの親族を頼ったというウルサス人亡命者にインタビューした所、
『エッグマンランドは空から移動都市を伴って来襲し、瞬く間に周囲を制圧した』
と回答して頂けた。
デビュー当時から強力な軍事力を有していたことは明白だ。
しかもその後はレユニオンに制圧されかかった地域を一斉に奪取して今の支配地域を獲得したのだからその実力は疑うまでもない。
極めつけは今もなおウェブ上に多数アップロードされ、最初に投稿されたものに至っては未だに再生回数が増えているあの動画だろう。
◎『オリジムシから源石を生きたまま除去』
文字にすると十数文字にしかならない内容が、世界中の人々の脳裏に強く刻まれたことは誰もが認める所だろう。
専門家によると、オリジムシは源石に対する高い親和性と繁殖、育成の容易さから各種生物実験に用いられることが多い一方で体表の源石部分を外科手術等で除去すると高確率で死亡するそうだ。
死亡理由はショック死ともオリジムシの源石部分が生存に不可欠な臓器に直結しているとも言われているが、いずれにせよ強引に源石を奪われたオリジムシは生きてゆけない……それが実験における常識だったのだが、あの動画によってそれが打ち倒された。
あの動画以降もエッグマンランドの公式ウェブサイト(!)では源石部分を除去されたオリジムシの飼育記録がアップロードされている。
アップロード当初は替え玉説が出ていたものの、個人でオリジムシを複数飼っていることで有名な動画配信者『ヴイーヴルアイスクリーム』氏*2が自身のオリジムシ育成サイトにて目利きにより同一個体であると発言したため、最早あの動画の真偽は揺るがないものとなった。
もしもあの技術が医学にも応用できるなら、世界は【鉱石病】に対する新たな対抗手段を得ることになるだろう。
◎その狙いや目的とは?
ここまでセンセーショナルな行動が目立つエッグマンランドだが、その全容や過去は全くはっきりしていない。
あれだけの科学力に加えて空飛ぶ移動都市を有していることから、必ずどこかの地域にかの者の下地となった場所や支援組織があるはずなのだが、その詳細は一向に明らかになっていない。
各国はこぞってエッグマンランドの情報を探ろうとしているが、アプローチ手段が現状直接エッグマンランドに行く他ない状態だ。
公的にはエッグマンランドは国家ではなくウルサス帝国の都市にいる無所属の勢力という扱いのため、大手を振るって現地に赴くことは敬遠されている。
ましてやかの地にはレユニオンもいることから各国揃って慎重に様子見しているため、チェルノボーグは世界で一番謎の多い移動都市となってしまった。
かの地の情報が本人達からの発信か天災トランスポーターからの聞き込みでしか得られない現在、私のできることは写経の一句を唱えながら新しい情報を得る幸運について祈ることだけである。
◆◆◆
1097年1月、小春日和。
◆シエスタ・『ドルクス』邸、海の見えるテラス◆
「『セイロン』様、お茶が入りました……新聞ですか?」
シエスタの『海』から吹く風が冬の空気を含みつつも暖かな日差しによって心地よさを与えてくれるような穏やかな昼。
ここシエスタの市長を勤めるヘルマン・ドルクス邸のテラスにて二人の女性。
一人はヘルマン市長の愛娘にして源石分野に見識を持つ若き学者、青のドレスに白のデザインが爽やかさと気品さを目立たせているセイロン。
もう一人はアッシュグレーのショートヘアーと敏捷性を第一としたような軽装か身軽な肉食獣のようなシャープさを見る者に与えるセイロンのボディーガード。
彼女は陽光浴びながら新聞を読む主に紅茶を渡しながら尋ねた。
「ありがとう『シュヴァルツ』。そうよ、偶々いつも本を持ってきて下さるお店の方が一緒に売っていたからついでに購読してみたの」
「『ロザリオ』ですか、あの新聞なら低俗なものはないでしょう。何をお読みになられていたのですか?」
「北に新たに生まれた国についてのコラムよ」
「レユニオンとエッグマンランドですね」
シュヴァルツはセイロンの回答に頷いた。
「私、率直に言えば国は減るようなことはあっても増えることがあるとは思ってもみなかったわ。しかも片方は空を飛ぶ移動都市だなんて!まるでおとぎ話の『雲の向こうの天空城』みたいだわ」
「ご興味がおありですか?しかし治安の予断が許せない状況です。ましてやセイロン様は……」
シュヴァルツは舞い上がる主に対して忠告した。
注目度こそあれ、かの地は現在内戦状態のカズデル地域や戦国時代只中という極東地域に並ぶ危険地域であることに代わりはなかったからだ。
セイロンは残念そうに首を縦に振った。
「解ってるわ、私の立場上そう軽々と紛争地域に赴くような真似は許されないことも。それに今はシエスタ周辺の地質調査があるからそちらをちゃんと務めるつもり。でも夢があるじゃない?移動都市にあるビルよりも高くからやってきた都市よ?空から、それも高層ビルよりも高い所を飛ぶ都市からシエスタの海やイェラグのような峻険な山脈を眺めたらどんな風に見えるのかしら?」
セイロンは空を見上げて嘆息した。
それは宛ら空を飛ぶ鳥に憧れる子供のような横顔だった。
「イェラグの『カランド山脈』ですね。確かにあそこは一般人の登山には厳しい制限がございますから近くに寄ってみることも叶いません」
シュヴァルツの言うように、イェラグでは霊峰でありカランド国教の象徴であるカランド山脈は一部の存在にしか入山を許していない。
カランド国教にとってカランド山脈は世俗から
そのためカランド山脈は『研究者や学者の知らない地質情報が眠っている』とセイロンが通っていた大学でも噂されており、飽くなき探求心を持つ教授達からの熱い眼差しを受けている場所でもあった。
「いっそ空から直接山や谷に向かって移動するのもできるかもしれないわね。ああ、子供心にあった『空を自由に飛べたら』なんて思いが現実に存在するなんて」
「セイロン様でしたら航空機のチャーターも可能では?」
「それはそうだけど、あれは精々決まったルートを飛ぶだけだし、運用法上そこまで高く飛べるわけじゃないわ。気球もあるけど、あれだって浮いてるだけみたいなものだわ。あのような『巨大な建造物が悠々自適に飛行している』のがすごいのよ。そうだ、あの移動都市から各地の地形や断層とかを撮影できたら面白そうじゃない?」
セイロンの夢物語を聞いていたシュヴァルツだったが、突然顔色を変えてしかめ面を作ってしまう。
即座に顔色を整えるとセイロンに頭を下げ退出する旨を伝えた。
「……申し訳ございません、セイロン様。旦那様に報告する話があったことを思い出しました」
「お父様に?判ったわ、終わったらまたお話に付き合ってね」
「かしこまりました」
セイロンのテラスを辞したシュヴァルツは風のような速さで屋敷を飛び出すと、彼女の父であり此処シエスタ市を治める市長『ヘルマン』が勤める市政府庁に急行した。
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