The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆大変遅くなり、誠に申し訳ございませんでした……
以下言い訳。
チェルノボーグ事変の(くだり)は投稿しては間を空けて続きを投稿、というのをするのはなんだかなぁという感覚に加え『キャラがその場面で話してくれなくて文字起こしできない』現象と生活面での負担から約半年以上全く筆が進みませんでした。
1ヶ月程前からようやく会話イメージが浮かび若干の余裕が生まれたので執筆を再開しておりますが、それでもチェルノボーグ事変がまだ6割程度の進捗という有り様です。
なので先にある程度書き上がっていて本来はチェルノボーグ事変後に投稿予定だった話を投稿したいと思います。
チェルノボーグ事変抜きでも読める内容ではありますが、拙作における『周辺都市事情』説明回ですので本編が進行するという訳ではないことを先にお伝えしておきます。
以前より拙作を閲覧頂いておりました方々には頭を下げる他ないものですが、改めてどうぞよろしくお願い致します。

R05/12/06
作中時間を2月から3月に変更しました。


KT-01.雪中の憂

雪の降る地域での悩みといえば

主に雪に関する課題だろう

彼らのような困難は雪に限ったものではないが

 


 

1097年2月。

 

◆カランド山脈・イェラグのとある貴族の屋敷◆

 

「今更ではないか。確かに非常識ではあるが、いつか来るべきものが殊更早く訪れただけに過ぎないというのに……」

 

 日が落ち、夜の帳が完全に降りて石造りの街並みを漆黒で包み込んでいる。

 

 四季の殆どをカランド山脈から吹き荒ぶ冷気に包まれる山間国家【イェラグ】にある荘厳な屋敷の一室。

 年季を感じさせる暖炉の明かりに照らされながら、イェラグの実力者の一角である『エンシオディス=シルバーアッシュ』はその整った顔をしかめて愚痴を零した。

今の彼は日頃見せる公人としての姿ではなく、スーツを脱ぎゆったりしたガウンを着て暖炉の側の椅子に座っていた。

 

「畏れながら、我が主よ……」

「堅苦しいのは無しだ、『マッターホルン』。ここはイェラグであっても【カランド貿易】の応接室だ(イェラグではない)。此処で口調に目くじらを立てるような頑迷な者は近寄ったりはしない。社内の休憩時間と同じ位の振る舞いにしてくれ」

 

 一方、イェラグの伝統的な従者衣装を纏い、シルバーアッシュ家の家宰を務めるマッターホルンがエンシオディスに発言しようとした時、エンシオディスはそれを遮り口調を改めるように指示した。

この場合の改めとは『マッターホルンが許容出来る程度に砕けた話し方をすること』である。

 

「では、失礼します。此度の会議は随分と急でしたね。確か【曼珠院】の権限を用いた開催でしたか」

「そうだ。それも特にカランド貿易を目の敵にする派閥による強行開催だったようだ。シエスタで市議会員や取引先への挨拶廻りをしている所に、院の連絡会に属する友人から困惑と共にイェラグへの帰還を要請されたよ」

「そうでしたか。今回は私の折が悪く、他の者が共に向かわれたそうですが如何だったのでしょうか?」

 

 マッターホルンがエンシオディスに尋ねると、彼の主は会議の一幕を思い出してか、並の世の令嬢ならその横顔を見るだけでため息をついてしまいそうな程に魅力的な愁眉を湛えた表情をしてこめかみを手で抑えた。

 

「申し訳ございません」

 

 マッターホルンはエンシオディスに不興を齎したことを謝罪した。

 

「いや、いい。原因はあの老司祭とその弟子だ。いつもの……にしては今回は特に熱が入っていたがな」

 

 エンシオディスは手を振ってマッターホルンを労り、彼の一言でマッターホルンは主の不機嫌である理由を察した。

 

 シルバーアッシュ家はイェラグを巡る派閥争いから他家とは無論のこと、イェラグの国教を司る蔓珠院に対しても大小様々な因縁がある。

特に蔓珠院は脈々と受け継がれてきた信仰を至上のものとし外界及び世俗的な事柄を強く排除してきたが、源石エンジンの発明とその発達、移動都市の進歩と科学技術の進化を国外留学によって目の当たりにしていたエンシオディスは自家の運営を蔓珠院と真っ向から対立する開放政策に舵を切っていた。

彼の果断の具現化であるカランド貿易が財を大きく築き上げた結果、先代夫婦の急逝によって落ち目を迎えていたシルバーアッシュ家は再びイェラグの支配階級に返り咲いたのである。

そのことは当然の帰結として相対的に支配力を奪われた他家の一部派閥と蔓珠院の警戒と敵愾心を大きく刺激し、とりわけ蔓珠院にとっては自身の堅守してきた『信仰の表れ』を商売という世俗的活動に大きく踏みにじられた形になるため、蔓珠院の厳格な派閥や特権意識の強い他家の一族からカランド貿易は相容れぬ相手として嫌悪されていた。

 

但しエンシオディスはイェラグの信仰そのものを疎んじている訳ではない。

しかし、留学先の【ヴィクトリア】や近隣国家のクルビア・カジミエーシュ・シエスタの発展に加えて、先の国々や果ては遠く遠方にある炎国商人の資本進出などといったイェラグを取り巻く環境の変化を重く見たエンシオディスは『イェラグの鎖国めいた国策は時勢に取り残される』と判断し、たとえ強引であろうとカランド貿易の実力を育むことを決意した。

 事実、競合相手がいないが故であるとはいえエンシオディスが一代で立ち上げたカランド貿易がイェラグ国内にて急速に影響力を伸ばすことができたことを鑑みると、仮に狡猾な国外勢力がエンシオディスに先駆けてイェラグに通用する出先機関などを設け独占寡占状態のまま経済活動を実施していれば、イェラグは一方的な搾取を受けて崩壊するか国外勢力無しでは立ちゆかない植民地状態になっていたかもしれなかった。

過去に一人でカランド貿易の成長率を計算していた時にその可能性に思い至った彼は酷く青ざめ思わず悲鳴を挙げ、そして周囲に誰もいなかったことをカランドの神に感謝した。

イェラグの為に立ち上げたカランド貿易ではあるが、無意識下で未だ本質の一部に国内派閥争いの考えが存在していた彼にとって会社は勢力獲得のためのツールであるとの認識が根底にあったことから、自社が図らずもイェラグ滅亡のシミュレーションをしていたことに気付いていなかったのだ。

彼の留学時代の交流で気のよい同期生は数多くいたが、当然彼らもエンシオディスに並ぶ才能の持ち主や由緒ある血統の人物、そしてゼロサムゲームの機会となれば容赦なく他者を圧倒する者などもいた。

今のところエンシオディスやイェラグは彼らと敵対するような事態にはなっていないが、そのような未来が訪れた場合、対応できるのはエンシオディス率いるカランド貿易の中でも僅かしかいない。

 

 尤もそうした人材の不足は蔓珠院や他家に限ったことではなく、イェラグ自体がそうした対応力に劣っているというのが現状だった。

イェラグ国内にはシルバーアッシュ家お抱えの者以外にも知見に富み外交に長けた者はいるが、いざ国際社会の怒涛の干渉を受けた際に()なしきれるかは未知数であった。

そうして顕在化していないもののイェラグ滅亡の引き金が明確に存在することを強く意識したエンシオディスは他勢力に屈しないよう力を蓄え、時に取り込み時に切り崩すなどしてカランド貿易を伸長させてきた。

 

 イェラグを、そこに住まう民を、そして共に暮らしてきた一族達を守らんとしている彼が蔓珠院に属した妹と対立することになっているのは皮肉であった。

 

「私はかねてより移動都市が更なる発展を遂げ画期的な飛行手段が誕生すれば、『空を移動する都市』が完成するだろうと考えていた。そしてそれらが険しい山脈や広大な河川、【天災】による地割れなどをものともしないようになれば最早カランド山の空は不可触のものではなくなり、ともすれば空からイェラグに押し入ることすら出来るようになるかもしれないと考えていた。流石にそんな発明やそうなる未来は生きている内に見られるとは思っていなかったが……」

 

 エンシオディスの予測は正しかった。

 

 世界各国は移動都市によって漸く人的資本の集中手段を得てその成果の蓄積を歩み始めた所だった。

従来ではアーツ技術でしか成し得なかった現象の再現などの研究も盛んであり、しばしば戦場に投入される『アーツバード』はその成果である。

現在の科学技術ではまだ源石エンジンの大型化に限界があり、最新の航空機でも最大積載量に制限がある。

だが既に飛行する軍艦が開発されたという噂もあり、いずれは更に大容量を、果ては都市すら抱えて空を飛べる日がいつか来るだろうと【カランド貿易】技術部門もエンシオディスにそのような報告書を挙げていた。

尤も彼らの予想では『その展望は数十年以上先だろう』と括られていたが……。

 

「まさか未来が空から降って来るとはな。人生何が起こるか判らないものだ」

 

 突然の来訪、【テラ】に未だ訪れていないはずの未来。

 

 エッグマンランドとDr.エッグマンはエンシオディスの立てた予測を見事に体現した。

レユニオンムーブメントという要因があったにせよ、いや、感染者の武装蜂起とそれによる移動都市の『事実上の』陥落は世界各国の民衆や指導者の心胆を確かに寒からしめたが、それ以上にエッグマンランドという空想の産物だったはずの空中移動都市の具現化がチェルノボーグを制圧したことで各地の移動都市に『制空圏』『防空戦術』という新しい概念もとい課題が与えられたのだった。

一応、エッグマンランド以前のこれまでにそうした思想がなかった訳ではない。

浮遊型アーツによる潜入や航空機の発明による強行着陸、或いは大量の飛行する感染生物や隕石を伴う【天災】などへの対策から空中の対象への攻撃手段というのは議論されていた。

しかし術者の浮遊や航空機は運用に数が限られ感染生物についてはそこそこに追い払う他ない。【天災】についてはそもそもそれの範囲外に抜け出す事を目的としたのが移動都市であるため、対空装置が十全に稼働する状況自体が深刻な事態である。あくまで【天災】の余波を危惧しての話であり、第一隕石が降るレベルの【天災】でU3以上*1だった場合の最善策は『退避』の一言に尽きる。

君子でなくとも危うきに近寄るべきではないのだ。

 

 以上の点から各移動都市の上空警戒は主に遠方の【天災】兆候や不法潜入者、航空テロなどの発見が主目的だった……空想科学(エッグマンランド)が現れるまでは。

 

 各国はチェルノボーグという実例を受けて急遽『大兵力の上空侵犯』への対策に追われることになり、その流行は山間国家であるイェラグにも波及していた。

そのため……。

 

「『空から聖なるカランドを侵しうる勢力に対し速やかに警告を発するべし。適任は自らカランドを離れ外の知見を得たシルバーアッシュ卿こそ相応しい。卿の達者な口ならばかの勢力に思い留まらせることが叶うだろう』と言ってきた。私に矢面に立てということだ」

「そうでしたか……随分と口の滑る者がいたようで」

 

 マッターホルンは主の不愉快に納得した。

 

 ライバル(向こう)はカランド貿易に身代わりになれと要求しているのだ。

カランド貿易がエッグマンランドに相対している間にイェラグ国内の影響力を高めようと画策するのは目に見えており、カランド貿易の削ぎ落としや妨害を仕掛けてくることは明白だった。

しかも他家や蔓珠院が彼らを一代で出し抜いたカランド貿易の実力を充分に理解しているため性質が悪い。

両者はエンシオディスが無謀な方策を採らず慎重を期すと読んでいるからこそ身代わり、時間稼ぎになると踏んでいるからだ。

 

「他の方々はそれを懸念なさっておりますか。町の人々は相変わらずの様子ですがね。平和で、よいものです」

「私も厳つい司祭殿や毛を逆立てた弟子殿の顔よりも皆の顔を見たかったな」

 

 エンシオディスはマッターホルンの言葉に苦笑した。

 

*1
クルビアが提唱した【天災】の危険度ランク:U級の1~5のこと。U級は隕石などの宇宙規模の【天災】に対して振られたクラスで、数字はそれぞれ

1.対象移動都市、以下【対象】から離れた場所で発生又は可能性あり。運航変更の必要はなし

2.【対象】の運航予定先に発生又は可能性あり。発生地の環境変化に注意

3.【対象】の運航予定先に発生中。現在地にて余波を受ける可能性あり。運航予定の見直しを推奨

4.【対象】の近隣で【天災】発生中。速やかに圏外への移動を推奨

5.【対象】の直近で【天災】発生中。至急圏外への移動を警告

9.【天災】により【対象】が壊滅又は消失で被害を受ける【対象】が不在になった※政府関係者に対する隠語として用いられる。近年では数件報告されている




◆感想や改善点、質問などございましたら是非コメントお願いします。

◆なお投稿直前でマッターホルンの本名が『ヤーカ=マッターホルン』じゃなくて『マッターホルン=ヤーカ』なのに気がついて大急ぎで直した模様。
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