The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
そしてこちらが1/2話です。
但しもう2/2話は本編と全く関係ない話です。
それこそWikiやニコ百科やピク辞典読んでたら関連単語のリンクがあった位のやつです。
そこには『山雪鬼が/雪宝蝶姫が』居るかもしれない―
~イェラグのことわざ~
マッターホルンが温かいお茶を淹れ、一息いれたエンシオディスはイェラグ国民に古くから親しまれている『リコリス紋様』をあしらったテーブルクロスを敷き、カランド山脈から採れた杉で誂えた重厚なテーブルの上にカランド貿易の抱えるトランスポーターが集めたエッグマンランドについての情報を広げマッターホルンと精査を始めた。
「『ヴァイス』がロドスから購入した情報と我々の持つものとの共通点は多い。確度は高いとみていいだろう」
「かなり
マッターホルンの報告にエンシオディスは薄く微笑んだ。
「我が盟友はカランド貿易の欲する所をよく理解しているようだ……彼との出会いはカランドの恵みだったな。しかし、エッグマンボーグに支店を立てるとなればウルサスから警戒されるのでは?」
ドクターの提案はエッグマンランドとの縁が一切ないカランド貿易にとってよいきっかけになるものだった。
エッグマンランドは現在貿易対象を制限していないものの新興企業であるカランド貿易の参入は他の営利団体と比べ遅れをとっていることは間違いない。
ロドスが先立ってアーミヤとドクターがDr.エッグマンに対する方針を協調の方向で定めたことはエンシオディスの耳にも入っている。
ドクターはそれにカランド貿易が関与する機会を設けようという話である。
カランド貿易にとっては他の参入者と同じ条件で競合するよりも行動の幅が広がるものである。
ただ、エンシオディスの懸念にあるように、エッグマンランドが支配するエッグマンボーグで目立つ行動を取れば事実上喪失しているとは言え正当な支配者であるウルサス帝国の不興を買うのではないかと危惧していた。
「同時に旧チェルノボーグにも拠点を築くことも計画中だそうです。名目はチェルノボーグのウルサス勢力への医療支援で、医薬品類の完全持ち出しは効率に限界があるため、取扱品目の一部製造をエッグマンボーグに委託することでチェルノボーグ地域全体への安定した供給を目指すようです」
「全体?」
「ゆくゆくはレユニオンの方も視野に入れているのだとか。彼ら感染者はその境遇ゆえ医薬品類の入手には難がありました。今のところエッグマンボーグにいる感染者を経由して医薬品類を調達しているようですが、そのラインを太くしてレユニオン側もといロドスの関係の薄い感染者コミュニティとのパイプ作りを狙うそうです」
「成る程……流石は我が盟友」
エンシオディスは一連の背景を聞いて深く頷いた。彼は年始のタイミングでドクターと初の会合を行っていた。
それはイェラグという【天災】の恐れが小さいメリットを以てシルバーアッシュ家の領土に製薬工場と研究所を誘致するための方策だった。
ロドスとカランド貿易との相互契約を結ぶ為の会議でオブザーバーとして参加していたドクターと話をしたのだが、ドクターはエンシオディスに自身の『体調不良(記憶喪失)』を前もって断りエンシオディスに対する我が身の至らないであろうことを先に謝罪した。
エンシオディスは会議の後に私的な会合を設けてドクターと話をしたが、彼にとってその時間はカランド貿易抜きにしても非常に有意義なものであった。
彼は国内外に敵のいる現状において『ドクター』を得難い存在と認識し、『盟友』として今後共に歩むことを定めた。
ドクターの属するロドスにも思惑がある以上全て思い通りになるとは考えていないが、彼にその提案を蹴る理由はどこにもなかった。
……その会合の後に今は対立関係となった
同じく、連絡要員として派遣されたヴァイスに連れ立って【鉱石病】治療のためにロドスに籍を置いた妹によればある日ふらっとロドスに来たらしい。
ロドスに協力しているペートラム族女性の手引きがあったようで、当人曰わく。
「『偶には外の話を聞きに行くのもいいんじゃないかしら?カランドの神も貴女からの新しい知見を聞きたいんじゃないの?』ってバッチャさん*2が言ってました」
ということらしい。
因みにエンシオディスにはその事件に対して心当たりがあった。
彼がロドス訪問後に国外へ出向いた時、部下から『蔓珠院が慌ただしくなった』との報告があったのだ。
その騒ぎは直ぐに沈静化したが、十中八九原因は巫女の『家出』なのは間違いなかった。*3
空飛ぶ船の件で曼珠院による緊急招集があったにせよ、エンシオディスが外遊をする程度に時間の猶予があったのはそういうことだろうと彼は考えていた。
「いいだろう。ヴァイスにはその提案を骨子に具体策を検討するよう伝えてくれ。追加資金については必要なだけ求めてもよい」
「そのように」
エンシオディスはヴァイスの報告書と各種必要物資の要望書にサインした。
「次にこちらがカランド貿易のみで入手した情報になります」
マッターホルンが続けて広げた資料はエッグマンランドが所有する航空船舶についての分析である。
エンシオディスは資料を手に取り丁寧に読み込んだ。
「全長約2~3kmの小型移動都市相当の飛行船を中心とした航空船団、全長200mの大型飛行船数隻他最低でも大容量輸送車並の小型船を多数所持……これは国営コンボイ以上の規模だな」
エンシオディスは自身の親しむ基準で考え、エッグマンランドの力量を計る。
【天災】や野盗、難民、感染生物が蔓延るこの大地において人々の生活圏を繋ぐ所謂『圏外メイン』の商人やトランスポーターで、中小規模企業や移動都市からの支援を受けていない業者は移動時に他の同業者と組んで行動するキャラバン方式はよく見られる形態である。
また少量の嗜好品や手紙といった軽い荷物ならまだしも食料や工業部品、生活必需品などの量や重さがかさばる荷物については業者単独での輸送では困難なため自然と複数の業者がコンボイを組むことになる。
特に大型トレーラー等にて構成された輸送車団は規模によっては辺境の開拓村の人口以上の業者が寄り添って活動するため彼ら相手の需要を見込んで食事屋台や青空銭湯といったサービス業が自ずと集まってくるのだ。
特に人気のあるサービスは荷物を敵対勢力から守るための傭兵、即ち軍事力である。
これは取引先の移動都市が利益保証の一環で手配したり、車団側が予め契約しておいたりして軍事力を用意するが、時折軍隊崩れで実質野盗の武装集団が『護衛報酬』と称したみかじめ料をせしめてくる場合もある。
こうした集団から身を守るためにも商人・トランスポーターは武力を身に着ける必要がある。
当然カランド貿易もイェラグの自然に鍛えられた人員で構成された『警備部』を有しており、その質の高さがカランド貿易継続成長を守護していた。
傭兵以外の防衛手段では輸送車の武装化が挙げられる。
広く普及しているのは幌馬車にも設置できる軽バリスタで、通常の鏃の他に鏑矢、閃光弾、臭い玉、催涙弾などバリエーションは多い。
グレードを上げれば連射性能を持たせたり簡易ながらも追尾照準や自動装填などの機能も付与できたりするため装甲車両でも採用されることが多い。
国営企業や軍事企業でない会社で有名なのは
・『雛の住む巣を親鳥が嘴に矢を、足に弓を携えて守る』空色の企業ロゴで知られるクルビアの【ネスト社】
があり、他にも
・『4つのFを二重丸で囲った』真っ赤なロゴの【イブリース社】
・極東から徐々に進出してきた【知久環組】
など様々な企業がある。
更に国営企業や軍事企業の護衛となると装甲車両自体を重武装化させ戦闘力を高めることがある。
これを『重武装戦闘装甲車両』通称『戦車』と呼ぶ。
又はこれら車両の元祖が源石を格納したタンクの輸送車に重武装を施したものとなるため『タンク』と呼ぶことも。
流石にただのコンボイに戦車が簡単に投入されることはないが、最新の戦車では大型ながらもサンクタ人の銃火器を再現して搭載した小型移動トーチカのようなタイプも登場している。
国家規模になると移動都市そのものが要塞ないし兵装を備え攻撃機能を有する戦闘鑑を建造している勢力もあるが、そのようなものは通商護衛では滅多に出るものではない。
しかし最新鋭の戦車であっても、或いは地平線を睨む大砲を持つ戦闘鑑でも上空から到来する敵に対する明確な対抗手段は未だ存在しない。
ましてや車両よりも巨大な飛行船ともなれば言わずもがなだ。
各国はますます対策に頭を痛めることになるだろう。
「移動可能距離と高度は判るか?」
「不明、いえ未知数です。エッグマンランドは他にも一ヶ所チェルノボーグ近隣にある山の麓に拠点を構えており定期的に輸送船が拠点とエッグマンボーグを行き来しているようです。ならば複数回の輸送が可能な程度の能力はあるかと。それと、正確な裏はとれていないのですが……」
「どうした?今は正解を求めて話しているのではない。どんなことでも話すがいい」
マッターホルンは少し言い淀むもエンシオディスが促すと彼は再び口を開いた。
「社員の中から『エッグマンランドの輸送船が空高くまで浮き上がって見えなくなった』という目撃情報があがっております。その者は元山岳警備員で視力は確かです」
「見えなくなった?」
エンシオディスが珍しく上擦った声をあげた。
浮遊そのものは(既に滅茶苦茶だが)よいとして、視力の良い社員ですら見えない程となれば相当の高度になるだろう。
「山の拠点に近付いた際に目撃したようです。発見をおそれて遠目からの調査をしていたそうで、輸送船が山の拠点の均された土地から浮上したとのことです」
「なるほど……改めて思うが奇想天外だな。これではひょっとするとカランド山はおろか宇宙にだって行っているかもしれないな」
「夢みたいな話ですね。俺も家の杉の木から飛んで宇宙に行けないかと小さい頃に思ったものです」
「私もだ。全く世の中予想外なことだらけだ」
二人はやや苦笑混じりに笑う。
過ぎ去った年少期の思い出は一抹の寂寥感を醸し出した。
「だが、そうなればますます蔓珠院にはエッグマンランドのことは知られたくないな。彼らが既にカランド山の上空に至っている可能性を知れば一気に態度を硬化させる。他家も『カランド山への侵入を防げなかった』とこじつけて攻撃してくるだろう」
「同感です。情報については差し押さえ漏らさないよう指示しています」
「引き続き調査させろ。だが踏み込んでの活動は中止だ。これからの接触次第で選べる手段が変わるやもしれない」
「御意」
「それにこれはチャンスだな」
「といいますと?」
マッターホルンは深く椅子に座る主に尋ねた。
「少なくとも山越えに充分な能力を持っていることが判っただけでも対策を講じる材料になる。そしてイェラグの彼らが我々と同じ結論に至るにはまだ
「お嬢様は先の訪問については特に院に報告していないようです。内容までは把握できませんが、ロドスが先の情報を入手して公開しない限りはお嬢様の耳に届くことはないでしょう」
「なら、まだ猶予はあるか。よし、まずは派出所に必要な人員の割り当てを考えるとしよう。次の会議で最初に議題に挙げるぞ」
「畏まりました、手配します。次の資料ですが……」
静かな街の夜が更けていく。
◆◆◆
「(この世界の遠くとおくから見知らぬ方がいらっしゃるなんて、世の中は何が起こるか判らないものね)」
今宵、蔓珠院の一角にある聖なる間では当代の巫女が偉大なるカランドへの祈りを一夜明けるまで言祝ぐ仕来たりとなっている。
その聖なる間の隣にある侍従の為の部屋で寝ずの番をするイェラは椅子に腰掛けて一人物思いに耽る。
彼女の前にはカランド山脈を空高く飛ぶ鳥の目から描いたとされる刺繍の織物が敷かれており、その上には折り紙で作られた山と舟が置かれていた。
椅子に座って敷物を見下ろしているはずのイェラは、しかしどうしてかその目線はどこか遠くの空を見上げているかのような雰囲気を醸し出している。
不意に、折り紙の舟が誰も触らぬまま折り紙の山に向かってするすると動きだした。
「あらあら」
イェラは隣室の巫女に聞こえぬ声でそう呟くと、彼女は
「よし」
早さを優先した割にはよい出来だと小さく満足したイェラは折り紙の小鳥を敷物の上、そして今もなお折り紙の山に近づいてくる舟の前にこそりと置き、そして氷のように透き通った蝶飾りのリングを嵌めた指を紙の山の側に立てた。
「(こんばんは、遠くとおくの空から来た貴方。昼も夜もなくこの空を飛ぶ貴方はとても働き者ね。だけれどごめんなさい、今宵はあの子が起きているから遠回りをして貰うと助かるわ)」
イェラが風雪の音にかき消される程の声音でそう呟き、折り紙の山の周りを囲うようにくるくると指でなぞると、侍従室の外から聞こえる風の音が急に変化した……まるでカランドの山々をまるまると包むかのように。
それとほぼ同じタイミングで折り紙の舟は二度三度と震えた後、紙の擦れる音を出しながら山を迂回するように動きだした。
「優しい子で良かったわ……今のイェラグには少し刺激が強すぎるもの。巫女様、
イェラは小さく微笑みながら折り紙の山々と舟を摘まんで小ぶりな木箱の中にしまいこんだ。
部屋の隣ではいつもと変わらず当代の巫女による祝詞と鐘の音が響くのみだった。
【①山雪鬼のように拒否される②山雪鬼のようなトラブルが迫っている③山雪鬼並に迷惑だ】
という意味を持つ。一方で雪宝蝶姫とはイェラグのお伽噺に描かれる蝶のような氷雪飾りをつけた貴人のことで、カランドの化身の一つであるとされ彼女を見てもてなした者は宝を得るという逸話から
【④困難から利益を得る⑤いかなる機会も受け入れよ】
という意味もある
◆実はこのKT回は風雪一過より前におおよそ執筆していた話だったのでブラウンテイル家とペイルロッシュ家が出てきてボツにしようか悩んだことがあります。
◆感想や改善点、質問などございましたら是非コメントお願いします。