The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
完全にオリジナルストーリーになりますので公式設定とのズレがあるかもしれませんが看過できないミスありましたらこっそり修正しますので教えていただけると助かります。
SBーB1.The day Before E-Day
午後のランチタイムは台無しに
◆◆◆
私は外出先でオリジムシに襲われ、辛うじて無事だったので日記に今日の出来事を残します。
私は今日、初めて異星人とコンタクトをとりました。
◆◆◆
1096年9月30日。
◆チェルノボーグ・高校内食堂◆
いよいよ寒さが本格化しつつあるチェルノボーグにてアンナが未知との遭遇を果たしたのは、ある昼休みに読書中の喫茶に合う軽食を学校の購買で買った時、友人達がある噂を話しているのを聞いたからだった。
その噂とは、
『数年前に放棄された源石鉱山の麓町タストントでオレンジ色の宇宙人が居た』
『タストント町の上空にオレンジ色の飛行物体が浮かんでいた』
というもので、チェルノボーグ市内が寒さとは違うどことなくピリピリしたような空気の流れる近況においては、荒唐無稽ながらどこか滑稽さを感じさせる噂はアンナが通う学校キャンパス内においてちょっとしたクッションのような話題となっていた。
「ねぇねぇ聞いた?宇宙人がまたタストントのほうに出たんだって!宇宙人はタストントがそんなに気に入ったのかなぁ?」
購買のテラスでクラスの同級生が話題の宇宙人のことを話し始めた。
購買部名物『ハニーシロップクリーム』を口一杯に頬張りながら宇宙人の噂に目を輝かせる女子生徒は『イリヤ』。
ボブカットの黒髪と目に掛かる毛先の茶色が特徴的な、アンナも知るSF系小説に一家言ある文芸少女だ。
「何言ってんの。宇宙人が人のいる街に来てやることなんて星の侵略だって映画の定番でしょ?」
期待に口と胸を膨らませるイリヤに茶々を入れるのは彼女の友人である『エウレカ』。
イリヤとは対照的にラクロス部に通う日焼けで褐色になった肌と銀三日月の形をしたメッシュの入った黒髪を持つスポーツ少女で、彼女はレモネード片手にイリヤの言葉に手を振って応えた。
「えー、でもひょっとしたらピクニックで来てるのかもしれないよ?」
「なにそれ。宇宙人が遠い星からここまでやって来てやることがピクニックって、随分と物好きな宇宙人が居るのね」
「いいでしょ?私は宇宙人がどんなのを食べてるのかが知りたいなぁ。タストントに行ったら会えるかな?それとも、チェルノボーグに来てくれるかな?」
「やめときなさいな。居るかどうかも判らないんだから。それにもしも……」
「もしも?」
「……宇宙人の大好物がウルサス人だったら?『タルタルの悪魔』*1みたいにウルサス人の右手をバリバリたべるよう……なっ!」
「きゃあ!急に手首掴むのやめてぇ!」
アンナの横でイリヤの話を聞いていたエウレカがふざけて彼女の右手を握りしめ、怒ったイリヤが手を掴む親友の腕を払おうとした。
尤もエウレカは彼女以上に鍛えて筋力があったために力の差が有りすぎて全く効き目はなかった。
「アンナちゃん?私の手を見てどうしたの?」
彼女の手を見ていたアンナにイリヤはこてりと首を傾げた。
ウルサス童話の愛らしいキャラクターで有名な『クマのテッド坊や』みたいな振る舞いにアンナはくすりと笑って思っていたことを言った。
「そうですね……クラブ活動のお菓子作りでたっぷり蜂蜜が染み込んだイリヤの手なら『タルタル』でも宇宙人でもしゃぶりつきそうだなぁ、と」
いやーん!と叫ぶイリヤとそれを見て大笑いするエウレカを横に、アンナは蜂蜜たっぷりのクッキーを一つ齧った。
「(宇宙人……私が今読んでいる本は、宇宙から訪れたタマゴタケ星人が都市に潜入して国一番のキノコシチューのレシピを盗もうとするのをレストランの名物料理人であるネズミのハリーがレシピを守ろうと立ち向かうというものでしたね)」
アンナは向学心ある学生として野外活動で見聞を深めるのもいいアイデアとだと思い、行動に移すことにした。
言ってしまえば郊外にあるキノコシチューが旨いと評判のカフェダイナーでランチをしながら小説を読もうというお遊びだ。
◆◆◆
◆◆◆
1096年10月2日。
購買部のテラスで予定を決めた後、アンナは学校の休講日を利用して都市郊外のカフェダイナーに向かった。
自宅の位置から徒歩でおよそ一、二時間の所にある店だったため、しばらくは本を読まず思索に耽るというのもいいだろうと思ったアンナは学校に流れる噂について考えてみることにした。
護身用の杖と小説本の続巻、メモ書き用の日記を持って出発。
天気は冬の寒空の中の快晴、絶好の外出日和だった。
「そういえば噂の鉱山町といえば……」
鉱山町タストントはかつてチェルノボーグの移動機関部用燃料を始めとした各種動力源である源石が他の金属鉱物と共に採掘される場所として栄えていた。
周囲を複数の鉱山で囲まれた町は優秀な鉱脈を抱えており、他の鉱山町よりも多くの源石が採掘され重宝されていた場所だった。
町の名前もウルサス語で『石に囲まれた』を意味する言葉が名付けられた程だ。
しかし、数年前に発生した大規模な【天災】によって有力な鉱山がいずれも崩落や山崩れを起こした上にタストントを土砂で半分以上埋めてしまうという事態が発生、復旧は不可能と判断されて放棄されることとなった。
崩落時は【天災】発生後すぐに町人達は全員チェルノボーグに避難していたため巻き込まれた者はなく、結果としては犠牲者数ゼロという奇跡的な状況ではあった。
しかし鉱山で働いていた人のその後は他の鉱山に行くためにチェルノボーグを離れたり都市で職が見つからずにそのまま失業したりするなどで後味はあまりよろしいものではなかった。
「そういえばあのダイナーはタストントで宿場を営んでいた人が親族の伝を辿ってオープンした場所でしたか。確か町の宿場をなるべく再現して当時の面影を偲ばせるように改装したんだとか……」
アンナは昨晩読んだ目的地のカフェダイナーが掲載された雑誌の内容を思い出した。
幸運なほうの避難者である宿場の店主は、町の同胞が昔の良き記憶を忘れないようにと思いを込めて店を開いた。
評判のキノコシチューもタストント町の宿場当時から町の人々に親しまれてきた一品だったという。
かつての宿場の定番料理で、宿場で頂くのは無論、鉱山労働者向けの弁当でも看板メニューであったり一品食卓に欲しいと思った主婦が選ぶオススメ惣菜でもあったりと、町の誰もがそのキノコシチューを食べたことがあるほどの評判料理であった。
アンナの期待は高まっていった。
◆カフェダイナー・【
その後アンナが日記に思い付いた言葉を度々記入しながら歩いていると目的のカフェダイナーの目印になる山の形をした看板が見えてきた。
【青空】という古いウルサス民謡のワンフレーズ『どんな少年少女も何時までも青空の下で踊ろう』を引用した店名を持つダイナーからは食欲をそそる
「此処ですね」
実際の宿場にあったものと同型であるという扉を開けてアンナは入店した。
「いらっしゃい。お好きな席をどうぞ」
「おおー」
カウンターの向こうで手回し式のフォノグラフ*2を手入れするマスターが来店客のアンナに声を掛けてきた。
複数の客がめいめいの食事を取る店の中はチェルノボーグにある他のレストランとはまた違った趣となっていた。
帝都で主流の、切削によって豪奢と剛健さをアピールする、チェルノボーグの店ならどこでも見かけるようなウルサス風石工建築の技術はあまり見えず、無愛想な石壁に凍土でも育つゴブリン松*3の板を被せて外見を取り繕っている。
言い方は悪いが鉱山町の、見た目を気にしている余裕のなさを感じ取れる味のある内装だ。
今では電化しているものの、かつてはゴブリン松の果実から絞り出した油で火を灯していたというランタンが当時の煤け具合を再現しており、まっさらなガラスランプのそれとは異なった明るさを室内に提供している。
室内全体を暖めるためか、食堂にしては珍しく暖炉が部屋の両側に設けられており、その隣にはゴブリン松の薪とマシュマロ用の鉄串が立て掛けられている。
鉄串のほうには『大マシュマロ5個:1大コイン・12個:1小ビル』と値段札がぶら下がっていて、暖炉の火でマシュマロを炙ることも出来るようだ。
暖炉の上の壁にはウルサス帝国旗が掲げられているが、どういうわけか旗は額縁の中に納められており、額縁の中には他に勲章のような布細工品が詰め込まれている。
何やら因縁のある旗のようで、鈍色に輝く額縁の金属プレートには、
と帝国を讃える定型句が彫られている一方で、その直ぐ横に取って付けたような木製のプレートには
と殴り書きが施されていた。
色々と目を引くものが多いが、特に目立つのは部屋の中央にある分厚く大きな板で作られた宴会用大テーブルだった。
部屋には他に横に四人用中テーブルが十席、窓際にソファ付個人用テーブルが数席並べられているが、大テーブルの真ん中には一まわり大きいランプが置かれており、そのランプにはかつて宿場で現役だった頃のテーブルに関する武勇伝の説明板がぶら下がっていた。
■先代テーブルの戦績■
┣シチューの大鍋:四つ
┣厚切りベーコン:五十枚
┣ウオッカ瓶:置く側から無くなるので計測不能
┣腕相撲:生涯無敗
┣コサックダンス:「三分間舞ってやる!」と宣言したダンサーが
┣宣言から後十秒のところで酔いが回り転落してリタイア
┗喧嘩:ヤガバーバ夫人による
「っふふ」
「ご注文は~?」
アンナが面白おかしいテーブルの紹介文を読み終えた時を見計らって、店名を入れた布帽子とエプロンを着たウェイトレスがぱたぱたとメニューを持って来た。
アンナは窓際にあるゆったりと座れそうなソファの席に座ると、差し出されたメニューを手に取り中身を見た。
「それじゃあこのキノコシチューと、バケットのタマゴサンドで。あと、食後にコーヒーとマシュマロをお願いします」
「かしこまりました~」
ウェイトレスは仕事に差し支えない程度に縛られた、横にふんわりと広がる茶色のロングヘアーをゆらゆらと揺らしながらオーダーを伝票に書き込んでカウンターへと向かう。
伝票を受け取ったマスターは、手入れを終えたフォノグラフの
昔タストントに来た楽団の曲を録音したものだというレコード盤は、往年の活気ある鉱山町を偲ばせるような音調を部屋の中に響かせた。
料理を待つ間、アンナは小説の続きを読み始める。
今彼女が栞を挟んでいる話は、タマゴタケ星人がスーパーにある食料品売り場のキノコに紛れてレストランに忍び込もうとしているのを料理人ハリーの友人でトリュフソムリエ有資格者のイノシシ銀行員ファーツァイが見つけ出そうとする場面だ。
作中で守銭奴めいた振る舞いをする彼は追跡調査の間『一文の得にもならない』『時間外労働だ』とぼやいてはいるものの、山奥に眠るトリュフを発見できるその嗅覚を遺憾なく発揮し、ついでにタマゴタケ星人が潜伏のためのダミーで紛れ込ませた美味しいキノコを役得とばかりにお腹のポケットに放り込む様子は読んでいて面白い。
何せ行が進む毎にキノコの詰まったお腹が膨れていく描写があるのだ。
途中から『ゆっさゆっさ』と擬音がつくくらいにキノコが詰め込まれているにも関わらず、周囲のキャラクター達がまるで意にも介さないでいるため想像するほど珍妙な景色が脳裏に浮かんで吹き出しそうになる。
最終的に居場所のバレたタマゴタケ星人が隠れ家に逃げたためハリーとファーツァイが後を追いかけようとするのだが、ここでファーツァイはポケットに詰め込んだキノコでお腹周りが大きくなりすぎたため、道の曲がり角を通るところで街灯に腹をぶつけて辺りにキノコを撒き散らし、ファーツァイ本人も落としたヌメリタケによって足を滑らせ気絶、リタイアすることとなる。
「おまちどおさま~」
ウェイトレスがぽてぽてと両手に料理を持って来たため、アンナは読書を切り上げて料理を受け取り代金を支払った。
「いただきます。おぉ……シチューのとろみがキノコの傘の
ひとすくい、じわり。
「味付けで入っているチーズや具材のベーコンとジャガイモの味もキノコがスポンジみたいに吸いとっているからキノコ一つ一つが食べる度に他の味わいになって素晴らしいですね。なんとなれば、キノコ本体の味もありますしキノコに切れ込みをいれたり炒めたりで手間がすごく細かいです」
ひとすくい、もぐもぐ。
「ベーコンとジャガイモの他にも具材の種類が多くて、これは多分元の町では地元で安く入手できた具材がふんだんに使われていたということでしょうか……」
「うふふ~シチューはタマゴサンドのバケットを浸して食べても美味しいんですよ~では、ごゆっくり~」
「浸ける、ですか。では……おほぉ、このタマゴサンドも玉子の味の濃さと酸味がいい塩梅でたまりません。バケットのほうもシチューがあると堅めのパンが程よく軟らかくなった上にバケットの若干の塩味がシチューの味わいをまた変化させていいですね。なるほど、これは納得の美味しさです」
ひとすくい、さくさく、ひたひた、もぐもぐ。
ウェイトレスに勧められた食べ方も交えながら、アンナはダイナーの定番メニューに舌鼓を打った。
◆◆◆
◆◆◆
伝承の経緯には諸説あり、当時敵対していた民族が行っていた風習だとか、盗みを働いた者を『タルタル』と名付け罰として右手を切ったとか諸説あるが、今は親が幼い子供に躾る際の喩えとして使われることが多い
◆※ウルサスの貨幣設定についてはルーブルなのかウルサス幣なのか判らなかったため小銭=コイン、紙幣=ビルと表現しています。
◆次話「Encount:不思議の世界」、次の夜頃投稿予定です。
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