The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆説明箇所が多く、当初予定の5000字から倍になっているので読みにくいかもしれません。
※R08/03/30 世界観に合わせて銃器の表現を漢字表現に直しました。


NH-03.異邦の銃理~聖痕(エッチング)施条(ライフリング)

サンクタ(守護銃)の姿をしたものから

焼けた鉄と硝煙の(得体のしれない)匂いがするならば

それはさぞ不気味なことだろう

 


 

 エッグマンボーグE.P.U-13区にも、ラテラーノ公証人役場の支所が設置されている。

元々はチェルノボーグ内の二等地区に設置されていたが、現在はレユニオンの勢力圏内にあるため、当該地域のラテラーノ公務は機能不全に陥っていた。

公証人役場はウルサス東方から龍門の地域にかけて新たな支所の設立に迫られ、結果、E.P.U-13区で営業しているラテラーノ系ホテルに目を付けて今に至る。

その施設は、ブロックが民間に開放された場所の中でも比較的原型のあるホテルをラテラーノ商人が買い取りオープンした場所で、公証人役場はその内の一角を借りて公務を行っている。

構造こそウルサス特有の重厚さと威圧感を湛えていたが、内外装にはラテラーノの色彩が惜しみなく注がれ、かつての無骨さを微塵も感じさせない換骨奪胎を遂げていた。

 

 フェデリコはホテルに向かって歩いた。

公証人であるフェデリコは、その支所に出頭して理由を説明すれば、公証人役場が確保している宿泊部屋を利用できる仕組みになっているからだ。

 

 かつてこの都市の所有者だったウルサス帝国の、軒下や建物の隅に残雪の残る鈍色の集合アパートが並ぶ通りを抜ける。

それらは今よりも古い時代に、実用面以外の要素を排して建築されたもので、いかにも平民向けの無骨な造りだった。

エリアの支配者Dr.エッグマンの美的センスがふんだんに活かされた赤や橙の建築物の前を過ぎる。

曲線的かつ玩具めいたデザインで、サーカスか遊園地のテントと言い換えても何ら遜色のない外観をしている。

 

 それらを抜けた先に、歩道まで除雪が行き届いた逗留予定のホテルがあった。

改装によって白い石材で組み直された外壁は、周囲の建築物と比べてもひときわ丹念に磨き込まれている。

北土の弱い日差しを余すところなく受け止め、(にび)と赤が混じる街並みから淡く浮き上がるように輝いている。

装飾は控えめで過度な意匠はないが、それでも建物全体は一柱の彫刻作品のように均整が取れ、見る者に秩序だった静けさを感じさせた。

 

 門を押し開く。

春とは言えまだ寒い外の空気や周囲の喧噪が、木製の扉一枚隔てるだけで、一気に消え失せたかのようだった。

ラテラーノ調の柔らかな照明がロビーを満たし、その空間にいる者に安らぎを与える効果をもたらしていた。

大理石の床には厚手の絨毯が敷き詰められ、訪問者の足音を柔らかく吸い込んでいる。

暖炉では薪がぱちぱちと控えめな音を立て、かすかな松脂の香りとともに部屋を温めていた。

壁には『法はすべてを繋ぐ』というラテラーノの銘文が彫られ、ハロー意匠の時計が静かに時を刻んでいた。

一角には公証人役場の支所カウンター。

整然と揃えられた書類棚と簡易面談スペースが、ここが単なる宿泊施設だけではないことを静かに示している。

窓側のブースでは、サンクタ人パティシエが仕上げたばかりのタルトやプディングをケースに収めた所で、宿泊客たちが多様な甘味に目を輝かせていた。

ソファは重厚な硬木製で、座ると深く沈み込むクッションが、雪国の寒さを忘れさせる。

窓辺には、白いユリと淡い青のスノードロップといった新鮮な花が飾られている。

 

 まるでここの空間は、レユニオンや旧チェルノボーグとの紛争とは無関係であると語るような穏さを漂わせていた。

 

「ラテラーノ公証人役場から派遣されましたフェデリコです。逗留を希望します。こちらが認可証です。それと、この小切手をこの地域のレートに合わせて換金願います」

 

 フェデリコの提出した認可証と書類を見て、受付に立つサンクタ人コンシェルジュが恭しく礼をとる。

 

「承りました、フェデリコ様。守護銃はお預けいただければメンテナンスをしますが、いかがなされますか?」

「私が処理します。この区画における法律の資料を提供してください」

「お時間をいただきまして、後程部屋にお持ちします。食事はいかがされますか?」

「資料と共に部屋に届けてください。それと、周辺地図の提供をお願いします」

「準備いたします。外出のおつもりがございますか?」

「はい。明日『射撃訓練場』に向かう予定です」

 

 そうフェデリコが伝えると、コンシェルジュは一瞬眉をひそめる。

通常、テラにおける射撃訓練場といえばアーツ銃か守護銃の試射スペースのことを指す。

ラテラーノ公証人役場紐づけのこのホテルでいえば当然守護銃用のスペースになるが、施設はホテルの中にある。

にも関わらず、わざわざ外に向かう。

つまり、サンクタにとっての『恩寵』とは無縁の、焦げた鉄とマッチの焼けるような匂いを漂わせる『実弾銃(模造品)』を試すということになる。

 

「あの模造品をお試しになられるので?」

 

 彼のようなラテラーノの法の下(揺り籠の中)で育ったサンクタ人にとって、()()は奇異な代物だった。

守護銃ともアーツ銃とも異なる、鉄と科学法則の理に従う物体。

(さなが)ら『人の形をしたマネキン』であり、生物に極めて酷似する被造物を見た時のような不快感を覚える者もいるだろう。

しかし、職務に忠実たるフェデリコにはそのような私的感情は持ち得ていなかった。

 

「それが私の職務に必要なことです。地図の提出をお願いします」

「……畏まりました。一部の施設は、利用の際に宿泊先ホテルの紹介があれば手続が一部省略されますので、証書をお部屋にお持ちします。こちらがお部屋の鍵でございます」

 

 コンシェルジュはフェデリコにルームキーを手渡した。

 

◆◆◆

 

【エッグ-ガン-レンジ】。

 

「おや、珍しい。サンクタのお客さんだね」

 

 翌日、フェデリコは実弾銃の射撃訓練場に足を運んだ。

鉄骨と鉄板を組み合わせて建てたような、どこか仮設の工事現場を思わせる造りの屋内射撃場だった。

壁にはこの訓練場で試射できる銃器の名前と写真が貼り出されており、形状によって銃の種類が異なるのは守護銃と同様のようだ。

縁日の射的場を思わせるネオンライトの看板が輝く中、訓練場の受付に立っていたのは袖の千切れたジャンプスーツを羽織り、獣のとさかを思わせる赤い鬣を持ったフェリーン人女性だった。

露出した両腕には刺青があり、前から見える肌にそれぞれ『Vis』『Bellum』と彫られている。

 

「ホテルの紹介状です。確認を」

「はいはい、わざわざこっちで撃ちに来るなんて変わってるね。サンクタだったら自前の銃はラテラーノ系列で済ませるって聞くけど」

 

 フェデリコが差し出した紹介状を、カウンター隣のスキャナーに通しながら女店主は呟く。

 

「こちらで射撃訓練をする訪問者は、サンクタ以外の人種でしょうか?」

「だぁね。ここじゃ普通は撃てない銃の試射ができるし、アーツなしでお手軽ってことで体験会として人が来るんだよ。まぁ、警察とかの公務員さんは専用の場所で訓練するから、こっちはもっぱら観光客向けかな」

 

 女店主はスキャナーのモニターに必要事項を入力している。

 

「あー、でも最近だとひーふーみー、三人のサンクタが来たね」

「というと?」

「一人は一週間前にここで少し試し撃ちをしたっけね。全身真っ黒だけど肌は透き通るように白い別嬪な男だったよ。ラテラーノの”キョウコウチョウ”とかいう所から来た、とか行ってたね。その次は龍門から来た赤髪で元気そうな()。同僚さんのループスとフォルテと一緒に射撃大会をしてたねぇ」

「(キョウコウチョウ、教皇庁の黒い恰好の男……恐らくあの方ですね。あの方の出張計画にはそのような予定はなかったはずですが)」

 

 フェデリコは、【彼】がラテラーノを離れて独自の行動をしていることに少しだけ眉を顰めた。

 

「あとは最近こっちに赴任した金髪でデカい守護銃を持った()でね。その、感染者で肩身が狭いのとサンクタのホテルじゃ取り回しづらいからってんで、整備後の守護銃を慣らしも兼ねてこっちで実弾銃と一緒に試射してるのよ」

「その女性とはこの人物のことですか?」

 

 フェデリコは女店主にセレス=ニケの写真を提示すると、彼女は驚いたように写真を指差した。

 

「そうそうその娘。なんだ、知り合いだったの?」

「いいえ。彼女との面識はありません。公証人役場の服務による面談を請求している所です」

「おおぅ……公証人役場から、というと随分とお堅い話っぽいね。これ以上のことは聞かないでおくよ」

「職務規定の都合上、私からも公開できることはありません」

「お手柔らかにね、お兄さん。こっちに来て私もあのコもまだ日が浅いけど、いいコなのは守護銃の扱いを見ていても判るからさ。あんまりあのコをいじめてあげないでよ」

「私としても彼女に不必要な危害を加えるつもりはありません」

「そ、ならよかったわ」

 

 ピー、とスキャナーから『問題なし』の判と共に紹介状が排出される。

 

「はいOK。お兄さんはどの銃を試したい?」

「これらの系統の銃器はありますか?」

 

『認可』の判が押された紹介状を受け取るのと入れ替えに、フェデリコは希望の銃器リストを女店主に提出した。

女店主はそのラインナップ量に思わず目を見開いた。

 

「沢山あるわねぇ。どれもこの店で撃てるけど、お金とか体力とかは大丈夫?実弾銃は特に音と衝撃が結構クるのよ?さっきの子が実弾銃で肩を痛めてるから、お兄さんも気を付けてよ」

「存じております。それを踏まえての試射です。いくら必要ですか?」

「うーん、と……」

 

 女店主は書類棚から料金表を取り出して、フェデリコの求める銃器類の利用代を試算した。

 

「だいたいこの位、それに清掃代と初回の指導代を足してこうなるわね」

「清掃は私が行いますのでその指導もお願いします。費用はこのカードで処理をしてください」

 

 フェデリコは公証人役場支所で渡されたエッグマンボーグ用カードを提示した。

女店主が受け取って処理を済ませ、フェデリコにカードを返す。

 

「今、訓練場のカギを開けるからね」

 

 女店主はその場を振り向いた。

背面に『Pacem』『Para』と彫られた腕が、訓練場のカギとなるレバーを降ろすとフェデリコの隣の扉からガコンという音が聞こえた。

 

「続きは中のコ達から指示を聞いてね。ごゆっくり」

 

◆◆◆

 

【エッグ-ガン-レンジ】内射撃スペース

 

 室内にいた二体のCASEALから、貴重品の保管や実弾銃の操作、清掃、整備や管理について指導を受けたフェデリコは、自身の守護銃に近い形状の散弾銃から試射を始めた。

彼はまず補充用の弾薬箱を取り回しのいい場所に配置し、眼球保護用のゴーグル及び爆音対策のイヤーマフを装着した。

 

 銃筒に弾丸を込めるその前に、フェデリコはその内の一つを手に取りじっと眺める。

つるりとした橙色の弾頭と、円形に窪む黄金色の基底部を持つそれには、守護銃やアーツ銃にとって必要不可欠であるエッチング加工は全く見られない。

むしろ装飾や切削の類は非効率だとみなす設計思想が見て取れた。

加えてアーツや精神感応の兆しが一切確認できず、ただ無機質な触感だけが肌に伝わるのみだ。

実物はそこにあり、物質的にも重量があるにもかかわらず、どこか空洞めいた感触が脳裏に響いていた。

 

「(異様だ。まるで人間の姿に皮膚と心臓を描かなかった絵画のようだ)」

 

 弾丸を握り、改めて装填する。

体の重心を前に置き、足を肩幅程に開き、片足を半歩前。

利き足のほうへ僅かに体重をかけると共に、膝を軽く曲げて体が強張らない姿勢をとる。

銃床を肩に当て、頬を寄せて目線と銃身の先を向こうにある的を狙う。

引き手にグリップ、添え手にフォアエンド、銃口は的の中心に。

 

 この一連の流れは、まるで精密な工業製品の製造ラインのように滑らかだった。

 

一発。

 

 アーツ制御時とは異なる物理的な衝撃が肩を突き抜けた。

信仰の発露とは異なる、神の慈悲も恩寵もない物理的な光が銃口で輝く。

網膜に映る光には精神の一切が介在せず、ただ科学現象の結果として存在していた。

また、守護銃には有り得ない硝煙の(何かが燃える)つんとした匂いが辺り一面に漂い、微動だにしないフェデリコの鼻孔に沁み込んでいく。

 

「未経験の現象です。祈りの反応が無い、術式の残滓も感じられません」

 

 銃身を僅かに傾け、銃口を確認する。

 

「機構としてはクロスボウのようなオート武器のそれに近いですが、矢の発射は張力による作用。こちらは純粋な燃焼による推進力によって発射されるようです。肩の衝撃も爆発物の効果に依るものでしょう。漂う匂いも爆発物の燃焼時のそれに類似しています」

 

 フェデリコは視線を標的に戻し、フォアエンドを最短のストロークで引き戻した。

乾いた金属音と共に、空の薬莢が計算された放物線を描いて弾き出される。

即座に押し戻されたフォアエンドが次弾を薬室へ送り込み、銃身は再び完璧な静止を保った。

 

一発。

再度銃弾が放たれる。

先ほど的に空いた穴よりやや上に着弾し、嗅ぎ慣れない燃焼の匂いが更に強く周囲を浸食した。

 

「自由意志による精密誘導は不可能。この武器及び弾薬にはアーツの介在する余地が全くありません。命中には射手の熟練度合いが重要なようです」

 

 フェデリコは装填、射撃のスピードを上げた。

銃声が重なり、もはや一発の長い轟音へと変わるほどの猛射でありながら、彼の肩は精巧な機械細工のように微動だにしない。

凄まじい連射速度に反してフェデリコの視線は的の一点に釘付けにされたままであり、銃身は水平を保って固定されていた。

まるで機械が吐き出す火花のように、排莢口から薬莢が絶え間なく躍り出る。

 

 フェデリコの精密射撃によって的は破壊され、新品の的が天井から追加された。

 

「装填」

 

 一言発し、彼は視線を的から外さずに弾薬箱へ手を伸ばした。

だが引き抜かれた指の間には、四発の弾丸が完璧な等間隔で整列している。

今のフェデリコが扱っている得物を知らない者が見れば、さもアーツの精密操作で弾丸を手にしたと思うだろう。

その間も体幹をブレさせることはなく、銃の向きを変えて装弾口に親指をかけた。

弾丸を二発同時に装填し、それをもう一度。

機械的なリズムで滑らかに弾倉へ四発滑り込ませ、それを二度繰り返して装填を完了させると同時にフォアエンドを叩き込み、銃身を標的へと固定した。

その動きは、先の射撃をカメラ再生したかのように寸分違わぬ所作だった。

 

 再度、凄まじい連射音が射撃場の空気を震わせた。

連続射撃による強烈な反動が銃身を跳ね上げようとするが、フェデリコはその衝撃を骨格の奥へと逃がし、無効化する。

吐き出される空薬莢の軌跡が、彼の厳格な意思に従ったかのように一箇所へと重なっていた。

 

 実弾銃は生命の意思や術式の介入を想定しない純然たる機構、そして肉体に宿る技量と神経による操作のみで動作する兵器だ。

守護銃でなく、ましてや守護銃をベースとして製造されたアーツ銃でもない。

サンクタ人にとって、最も違和感のある存在かもしれなかった。

にも関わらず、フェデリコは滑らかな挙動で数メートル先の的を狙い撃ち、リロードも完璧にこなして射撃した。

 

「射撃完了。銃身及び操作系機構の一部に不溶性の燃焼残渣を確認。燃焼効果に起因する残滓と思われます。発砲の際に常に発生するのであれば、それを考慮した利用が必要のようです」 

 

 マットホワイトとガンメタル配色の監督役CASEAL及びホワイトとライトブルー配色の指導役CASEALが二体揃って彼の背後でその腕前を称賛し拍手を送っているが、当のフェデリコはそれを無視して使用後の分析をする。

その後、フェデリコは清掃、整備、小休止を挟んでから、他の体系の銃……拳銃や狙撃銃、軽機関銃や短機関銃も全てのルーチンを実施した。

 

◆◆◆

 

「どうだい、実弾銃の感想は?」

 

 約三時間もの試射を終え、射撃場から退出したフェデリコに女店主が声をかける。

 

「未知数の経験です。守護銃やアーツ銃は無論、クロスボウともランチャーとも異なる法則で動作しています」

「そうだね。アタシもこの店始めた時に聞かされたけど、最初はなんかそういう物が入ってる弾丸の尻を強く叩けばいい、ってことくらいしか判らなかったね。だから今でも勉強中。ま、詳しい事はうちのCASEALちゃんズに聞けば答えてくれるから助かるよ」

 

 女店主の視線の先には、試射場に散らばった薬莢や砕けた的の片づけ、排気フィルターの交換、壁や台座の煤掃除、使用された実弾銃の撤去などの作業を淀みなく行うCASEALの姿があった。

 

 テラに一般的に普及しているドローンやロボットとは一線を画すエッグマンランドのロボット。

武装しているロボットやドローンは既に軍民共に存在して久しい。

提携先のロドスでは多くの武装ロボットが運用されており、また小規模の反社会的組織であっても抗争で武装ドローンを投入することは珍しくない。

しかし人間のような動きをする生気を持たないアンドロイドが、無精神的な実弾銃を持ちながら試射場内を歩く姿はどこか終末世界の景色を想起させた。

 

「質問があります。貴女の店の実弾銃で最も古い物はどれになりますか?」

「古いの?うーん、ここにある物自体は入荷して間もない物ばかりだけど……ねぇ、ちょっといい?」

 

 女店主は試射場の監督役CASEALに呼びかけ、フェデリコの提示する条件に合う銃を出すよう指示した。

監督役CASEALは立ち止まり、自身のアイレンズを一瞬明滅させる。

データベースに該当する銃を検索したのか、CASEALは倉庫に向かった後、一丁の銃を二人の前に持参した。

 

[こちらのジュウは、”GUN”でセイシキサイヨウされているタイプのナカでもカイハツがサンジュウネンマエのものになります]

 

 CASEALの持つ実弾銃は、コンパクトかつ機能性を突き詰めた設計だった。

鋼鉄と樹脂で組まれた外装には、守護銃に見られる職人の手仕事も、象徴的な意匠も一切ない。

光の反射を抑えるために全体が黒く塗られ、香油ではなく工業油の匂いがわずかに漂っている。

機関部は直線的な部品が大半を占め、その姿は工業製品としての合理性だけを語っていた。

ハンドガードは均質で無機質に銃身を覆っており、守護銃職人が第一とする『持ち手の意思』よりも『誰が持っても』同じように扱えるように作られている。

湾曲した弾倉部分は、先ほど他の短機関銃を試射した時に見た弾丸の形状に合わせたものだろう。

精緻な職人技の息吹は全く存在しない、ただ稼働するための合理性がCASEALの腕の中にあった。

 

「見せて頂いても?」

[どうぞ]

 

 CASEALから実弾銃を受け取ったフェデリコは、まず外装を精査した。

守護銃に必ず刻まれる職人の刻印や銘柄、工房ごとの意匠などを調べたが、いずれも己の知る特徴は一つも該当しなかった。

次に彼はPDAを取り出し、実弾銃の全体像を撮影する。

PDA内のラテラーノ守護銃年鑑に照合し、該当するものがないかを検索した。

ラテラーノにおいて守護銃は全て画像付きで登録されている。

所有者、工房、来歴、紛失や盗難の履歴に至るまで、一元的に管理された記録体系。

故に年鑑に存在すれば、記録が必ず一致する。

しかし結果は『該当なし』、類似形状すら検出されない。

即ち、フェデリコが今手にしているコレの姿は、連綿と続くラテラーノ銃文化において一度も存在しなかった事の証明だった。

 

「(年鑑にも該当しない。そしてロボットの言った『”軍”で正式採用』と『三十年前』……その発言が全て事実とは限らないが、少なくともこの実弾銃が守護銃とは独立した存在である可能性は極めて高い)」

 

 その推測は、公証人役場第三課が挙げていた『実弾銃は守護銃のコピー品』という主張を揺るがすものだった。

残る『セレス=ニケが守護銃情報を提供した』の主張についてはこれからの審問で確認するべきことである。

 

「ありがとうございました」

「あ、ちょっと待って」

「何か?」

 

 女店主は実弾銃を返却して去ろうとするフェデリコに声をかけて立ち止まらせると、カウンターの下から白いタオルを差し出した。

 

「お兄さんの顔、ゴーグルのあったとこ以外が黒くなってるわよ。まるで氷原牙獣*1みたいだから、店を出る前に顔を拭いていきなさいな」

 

 フェデリコが思わず手で顔を拭うと、指の腹には黒い粉のようなものが付着した。

女店主が笑いながら手鏡をフェデリコに見せると、そこには目元だけが白く青い瞳だけが鮮やかに浮かぶ黒斑の男が映っていた。

 

◆◆◆

 

 試射場の轟音とはまた異なる市街の喧噪の中、フェデリコは試射場を去る直前に行った会話を反芻していた。

 


『もう一つ、質問よろしいでしょうか?』

『うん?』

『貴女は何故この職に就いたのですか?』

『何故?って、そりゃ応募があったし、給金もちゃんとあったから。審査も通りゃOKだったからそこまで込み入った理由があるわけじゃないよ』

『アンドロイドや未知の兵器に対する恐怖などはなかったのですか?』

『怖いかどうか、ねぇ?』

 

 フェデリコの投げかけた質問に、女店主は頭を掻き腕を組んで考えた。

 

『……不思議だとは思ったね。実弾銃の弾は弦もゴムもアーツも無しで飛ぶわ、ロボットはこんだけしっかり動くのにエネルギーに源石を使ってないわで信じられない事ばかりだった。でもまぁ、それを言ったらアーツのほうが不思議な代物だし、出来る事はずっと多い。そう考えたらどうでもよくなったかな』

『どうでもいい、ですか』

『そ。原理だの何だのの賢そうな話なんて、うちらが生活していく分には直接必要ないからね。実弾銃は弾さえ抜いておけばただの鉄の塊で、そこらの金槌と何ら変わりはない。同じ鉄なら刃のあるナイフのほうがおっかないよ。それにアンドロイドだかロボットだかが勝手に歩いてるのはこの街じゃ当たり前のことだし、人とは違って魔が差して金庫の金を盗むことはないだろうさ。あのコ達に必要なのは金じゃなくて充電だから。そういう意味じゃ人のほうが怖いまであるね』


 

 ロボットは金を盗まない存在、そして弾丸のない銃は金槌と同レベル……実弾銃とはいえ、守護銃に心の拠り所を置くサンクタ社会には容易には出てこない発想だ。

そして、この地域にとって実弾銃とは()()()()()であり、数ある暴力の一つに含まれることをフェデリコは理解した。

 

◆◆◆

 

「戻りました。私宛に何か荷物や届いているものはありますか?」

「おかえりなさいませ。フェデリコ様に警察機関より伝言が届いております」

 

 ホテルに戻ったフェデリコに、コンシェルジュは封蝋の施された伝言書と白銀のレターオープナーを載せたトレイを静かに差し出した。

伝言書の折り返し部分にオープナーを滑り込ませると、ぱきりという封蝋の割れる音が彼の耳に届く。

封を開き、文書を取り出して目を通す。

そこには、セレス=ニケが戻ったこと、明日以降なら応対できること、そして面談は指定の喫茶店で行いたい旨が簡潔に記されていた。

 

「(早速公証人役場から明日にアポイントを取るよう依頼しましょう)ありがとうございました」

 

 フェデリコはコンシェルジュに礼を言い、公証人支所スペースに向かおうと踵を返す。

その時、ロビーのソファに腰掛けていた宿泊客の一人が、ふと鼻先に手を寄せて小さく首を傾げた。

実弾銃が吐いた硝煙の匂いは、彼が思っていた以上に強く、清浄を是とするロビーにはわずかに不釣り合いだった。

その気配を察したかのように、コンシェルジュが静かに声をかけた。

 

「フェデリコ様。恐れ入りますが、お召し物に外の試射場の香りがわずかに残っているようでございます。よろしければ、衣類をお預かりし、香木を用いた香り付けの仕上げを承りますが、いかがなさいますか?」

 

 フェデリコがコンシェルジュの顔を見ると、表情こそ変わらないものの、どこか鼻にかかる気配を感じた。

彼は改めて自身の服の匂いを嗅ぐと、三時間も硝煙の中にいたために、服にはすっかりその匂いが染みついていた。

試射を始めた時こそ匂いに感づいたフェデリコであったが、長時間にわたる試射によって鼻の感覚がマヒしてしまっていたようだった。

 

「……お願いします」

「畏まりました。お手数ではございますが、後ほどお部屋に担当者を伺わせ、衣類全体を拝見したうえで香り付けの仕上げを施してお届けいたします」

 

 コンシェルジュが恭しく礼を取る。

 

「(匂いに関しては、守護銃のほうが扱いやすいですね)」

 

 フェデリコは内心ひとりごちた。

*1
いわゆるハスキー犬




◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。

◆散弾銃の試射シーンでは頭の中でターミネーター1メインテーマがずっと流れてました。
因みに途中でCASEALが持ってきた銃はラテラーノには無さそうな近代銃としてMP5をイメージしていますが、万が一ゲーム内スチルに似たデザインが出ていた場合は教えてください……
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