The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆前編になります。後編は土日の間に投稿します。
※本話の要約:Dr.エッグマンのとばっちりを受けた人が登場します。
◆この話を書いている最中、脳内にずっと「命ある者の旅」BGMが流れていました。
「Art of Blade」に次いで大好きになりました。


NH-04-1/2.審問—汝、罪は在りや—

執行人は二振りの剣を持つ

法を(まつ)る剣、そして罪を()つ剣

振るわれるべきは、いずれであるか

 


 

1097年4月、正午、小春日和。

 

◆E.P.U-13区・喫茶店【向日葵の園】

 

 審問相手であるセレス=ニケが指定した場所は、街路のT字路に面した、オープンテラス付の喫茶店だった。

周囲の色濃い北土建築の中、その店はくっきりと存在感を放っていた。

ウルサス南方の風情を写した橙色の煉瓦、切り絵のように精巧な意匠の窓枠、白磁のごときオリエル窓に飾られた桃色の花が来店客を暖かく迎え入れている。

店の入り口からは焙煎の芳醇な香りが仄かに漂い、通り過ぎる人々の鼻をくすぐっていた。

 

 フェデリコが約束の時間通りに到着すると、オープンテラスの席で赤い警察服を着たサンクタ人の女性が一人待っていた。

彼よりも頭一つ分ほど小柄な彼女の視線が、やや見上げる形で彼の姿を捉える。

 

 毛先の尖ったウルフボブの金髪が、春の日差しを浴びて柔らかく輝く。

まだどこか幼さの残る顔つきに、透明感のある肌が、快活さを感じさせる丸い瞳の鮮紅色を引き立てている。

厚みのあるサージ生地の制服に包まれた体躯は、日頃の訓練で引き締まりつつも柔らかな線を描いている。

ポーチ付の帯革で固く絞られた腰回りや、防寒ズボン越しにも分かる鍛えられた脚の存在感が彼女の職務に対するたゆまぬ努力を窺わせる。

しかし、頭上と背中、サンクタの証たる光輪と光翼が端から音もなく崩れ、光の粉を零していた。

それらの輝きは崩壊によって一部を失い、特に光翼は厚みも失っている。

今や翼というより、薄く透けた飛膜のようであった。

 

「どうも初めまして。公証人役場の方ですよね?私がセレス=ニケです」

 

 人懐っこそうな笑みを浮かべて、セレス=ニケは小さくお辞儀した。

執行人フェデリコが、E.P.U-13区を訪問した理由である彼女がそこにいた。

 

 フェデリコも礼儀正しく会釈を返す。

 

「公証人役場から派遣されたフェデリコです。今日はよろしくお願いします」

「お願いします。あ、せっかくですし何か頼みませんか?ここのお店のケーキはラテラーノで働いていた人がパティシエをしてるんですよ」

「私は結構ですが、貴女が食べたいのであれば構いません。私の用件は食事をしながらでも問題ありません」

「あはは、ではついでにフェデリコさんの分も注文しますね。私の職場には他にサンクタ人がいないもので何だか嬉しくて。店員さーん、メニュー表のこれとこれとこれとこれとあとコーヒー二つお願いしまーす」

 

 セレスはにこやかに片手を挙げて店員を呼ぶ。

ただし、注文する彼女は執行人を前にして僅かに緊張していた。

 

「それで、フェデリコさんはどういったご用件ですか?その、何か相続とかそういうのは心当たりがないのですが……」

 

 二人の前に、香ばしい匂いを漂わせるコーヒーが二つ置かれてから、セレスは畏まりながら小さな声で尋ねた。

そして次にフェデリコから伝えられた訪問理由に、彼女は思わず大声を張り上げた。

 

「……しゅ、守護銃の不法技術漏洩?!え、いやいや!?わ、私はそんなことしてません!確かに私の職場は守護銃みたいな武器が沢山ありましたけど、あれって私が就職した時点で既にありましたよ?!」

 

 セレスは首を大きく横に振り、自身の潔白を強く主張した。

突然のことで混乱する彼女とは対照的に、フェデリコは凪いだ水面のように冷静に話す。

 

「落ち着いて下さい。私はあくまで漏洩の疑いがあり、事実を確認するよう指示を受けて貴女との面会を希望しました。公証人役場では、当地域におけるサンクタ人の所在を貴女以外に確認できていないため、まず貴女から事実確認を行います。ですので、これから私の質問する事項について正確な回答をお願いします」

「え、いや、その……はい、判りました」

 

 フェデリコはセレスの混乱を物ともせずに審問の手続を進めたため、セレスは否応なく返事をするほかなかった。

フェデリコは鞄からレコーダーを取り出してスイッチを入れる。

 

「始めます。本件に関する会話内容は全て録音及び筆記によって保存します。虚偽の発言は慎んで下さい。また、確証が不確かな部分についてはその旨を明言して下さい」

「は、はい」

 

 セレスの応答を受けて、フェデリコは鞄から資料を取り出した。

 

「これから申し上げるのは、貴女の来歴の確認です。この内容は公証人役場の登録に基づいたものであり、もし誤りや訂正などがあれば申告して下さい」

 

 フェデリコが資料の文字に目を落とした。

 

「セレス=ニケ。十九歳。ラテラーノ圏出身、ラテラーノ公民。出生地は巡礼路の宿場町として知られるBorgo=di=Sosta(ボルゴ=ディ=ソスタ)。家族構成はサンクタ人の両親のみ、いずれも故人。父親は現地の守護官、母親は宿場の管理人でした。守護銃の登録番号はCH1-E1、工房での登録名は『Baculum-Hecatiae(バクルム・ヘカティアエ)』。製造元は『Officina-Trivio(トリーヴィオ工房)』。製造担当は正規の職人であるリーベリ人女性のチルチェ・ファルコーネです」

 

 フェデリコは目線をセレスに向ける。

訂正はないらしく、彼女は黙ってそれを聞いていた。

 

「続けます。貴女は同地で幼少期を過ごし、十二歳で幼年学校を卒業後、ラテラーノ市内の警察学校に進学。四年の履修過程を修了後、故郷へ戻り守護警邏官巡査の職に着任しました」

 

 路面から流れてくる生活音よりも、フェデリコのページをめくる音が、カフェテラスにやけに大きく響く。

 

「十七歳の時、巡礼者キャラバンの貨物にあった源石バッテリーの爆発事故に遭遇。キャラバンの応対をしていた両親は爆発に巻き込まれ共に死亡。貴女自身も負傷し、その後の入院で【鉱石病】の感染が診断されました」

 

 セレスの肩がわずかに震えるが、フェデリコは表情を変えずに読み続ける。

 

「その後、天災トランスポーターキャラバンの護衛として故郷を離れ、1096年12月にチェルノボーグにて物資の補給中、レユニオンムーブメントによる暴動に巻き込まれました。現地の治安維持機構であるチェルノボーグ軍事警察に警邏官時代の経験と守護銃の技量を評価され、後方支援および避難誘導員として徴用されました」

 

 資料の中には、暴動時にセレスが服した軍務の情報も記されている。

守護銃の中でも、彼女の愛銃は超遠距離射程と破壊力を備えていた。

長所を活かし、迫りくる重装兵の盾を破壊し意図的に建物を破壊して進路を防ぐなどの活躍を見せたと、彼女を指揮した元軍事警察官が証言している。

 

「暴動終盤において、Dr.エッグマンの介入により、貴女の属した軍事警察部隊は降伏。貴女も同様に降伏しました。その後の貴女は就職活動中に守護銃の扱いと職歴を評価され、人員募集中の警察機構にスカウトされたため、キャラバンを正式に離脱。現在はE.P.U-13区にて警邏および射撃訓練の指導補佐を務めている……以上が公証人役場として確認された記録です」

 

 フェデリコは書類を閉じ、静かに顔を上げる。

 

「ここまでに、訂正すべき点はありますか?」

 

 無意識の内であろう、セレスは袖に隠れた左腕の裏側を撫でていた。

その位置は、フェデリコが読み上げなかった、爆発事故の際に源石片が刺さった箇所であった。

セレスは小さく頷いた。

 

「……ありません」

「では、これで正式に本人確認を完了します。続けて、セレス=ニケ巡査に対する聴取を開始します。 まずは事実確認から入ります。貴女の守護銃 、登録番号CH1-E1 は普段どのように管理されていますか?」

「えっと、普段は私が持ち歩いてます。職場には私の守護銃だって説明してあるので、持ち歩きには許可が下りているんです。今は守護銃の調整でラテラーノホテル……公証人役場支所のある所のホテルに預けています」

 

 セレスは腰のポーチから引換証をフェデリコに提示する。

公認施設で守護銃の整備を委託した際に受け取れるもので、フェデリコもそれに見覚えがあった。

 

「確かに正規のものですね、了解しました。次の質問ですが、貴女の警察署における通常勤務は警邏および射撃訓練補佐と記録されています。 守護銃の情報に触れる機会は、職務上どの程度ありますか?」

「それは私の守護銃以外の情報とか、守護銃の一般的な情報について、ということで合ってますか?」

「その認識で間違いありません」

「それだったら、ない、かなぁと思います。この地区、というか職場では守護銃に関するノウハウはあまりないと思います。職場のサンクタ人は私だけですし。射撃訓練は実弾銃を使いますから、守護銃については私の知ってる範囲の常識とかを教えるくらいです。撃ち方の姿勢とか、狙い方とか。実弾銃について詳しい人材……CASTさん達は人材、っていうのかな?CASTさん達以外いないです」

 

 彼女は身振り手振りで警察署での職務を説明し始めた。

 

「警察署では勿論警棒とか弓とかの武器も訓練するんですけど、ザラックとかコータスとか、サンクタみたいに非力な人種がいるじゃないですか。エッグマンランドだとそういう人達が実弾銃を使うことになっています。で、武器は一部の人だけじゃなくて全員使い慣れておく必要があるということで、署員は同じ訓練を受ける規則になっているんです」

「他の署員も、実弾銃を利用する機会があるということですね」

「はい。そういえば訓練の一環で実弾銃の分解清掃とかもするんですけど、あれの構造はアーツ機構がないんですよね。何というかシンプルな感じがします」

 

 セレスは小さく息をついて、分解訓練の時の様子を思い返す。

 

「私も事前に実弾銃の試射や整備を行いましたが、確かに源石加工の痕跡は一切見られませんでした」

「フェデリコさんも実弾銃を撃ったことがあるんですか?不思議な感覚ですよね、あれの使用感。見た目は守護銃と似てるのに、持ったり撃ったりしても銃を使ってる感覚があまりなくて。うーんと、なんていうか、愛銃とか他の人の守護銃だと『うちの子』とか『お隣さんの子』って感じがしますが、警察署やエッグマンボーグで使う銃は『すごく良く似た模型』って感じがします」

 

 セレスは指で実弾銃や弾丸の形を作りながら続けた。

 

「実際に使うと確かに銃って感じで、引き金を引けば弾丸も出るんですけど普段の『撃った』って感じはなくて、どっちかといえばクロスボウの感覚に近いです。クロスボウと違って弦を張る必要はないですけど、その代わりに弾丸のほうが変わってて。鉱山とかで使う爆薬の粉みたいなものが入ってるそうですよ。でも源石とは違ってすごい音が出るんですよね。最初に聞いた時は思わず肩が跳ねましたよ」

 

 フェデリコは短く頷き、手元の書類に数行を記入する。

 

「確認しました。では次に、今回の聴取の核心に関わる点へ移ります」

 

 フェデリコの表情は変わらず、声も淡々としている。

一方、少し話をして多少緊張が和らいだ様子のセレスだったが、フェデリコの言葉を聞いて再び気を引き締めた。

 

「このエッグマンランドにて、守護銃の構造を参考にした可能性のある“実弾銃”が使用されているという報告が公証人役場に提出されました。 E.P.U-13区以外の地区で目撃、確認された銃器の一部は、外観や寸法において守護銃と類似点を持つものが確認されています」

 

 フェデリコはテーブルの上に、事前調査で撮影された実弾銃の写真を複数枚並べた。

それを見るセレスの反応を静かに観察するが、彼女に動揺を隠すなどの様子は見られない。

 

 フェデリコは審問の本題に入った。

 

「この情報は、守護銃の技術情報が何らかの形で外部に渡った可能性を示唆しています。 その可能性について、貴女は何か心当たりがありますか?」

 

 いよいよ自身の命運を左右する話になったセレスは、鮮紅の瞳を小刻みに震わせながら言葉を発した。

 

「……全く心当たりないです。さっきも言ったように、この国には既に実弾銃があったんです。私もびっくりでした。『カモワ*1』でスカウトされて訓練場に行ったらもう実弾銃がガンラックに入ってましたから。最初はアーツ銃を沢山集めたのかな?って思いましたが、よく見ると拳銃タイプだけじゃなくて。散弾銃や狙撃銃タイプもあるし、握っても全然アーツ反応がないしで触った時はちょっとぞわぞわしましたね」

 

 フェデリコは、セレスの動揺を視線で静かに受け止めながらも、表情を変えない。

淡々とした筆記の音だけが、テラスの空気を区切る。

 

「……心当たりはない、ということですね。了解しました」

 

 一拍置き、ペンが記述を止めただけの音がこの空間に小さく響く。

 

「では、嫌疑の提示に移ります」

 

 彼の声色に変化はないが、言葉の重さがわずかに増す。

 

「貴女が訓練場に赴いた時点で、すでに実弾銃が存在していたという証言は理解しました。しかし、守護銃と外観が類似した銃器が複数確認されている以上、ラテラーノとしては“守護銃の技術情報が外部に渡った可能性”を排除できません」

 

 フェデリコはセレスを正面から見据える。

 

「そして、貴女は守護銃の扱いに熟達し、実弾銃の指導も行っている。両技術の情報に触れる機会が他者より多い立場にあります」

 

 淡々とした声で、そして迂遠な表現を含まずに続ける。

 

「以上を踏まえ、貴女が何らかの形で守護銃の情報を外部に提供した可能性がある――これが、公証人役場の貴女に対する嫌疑になります」

 

 書類に手を添えたまま、静かに問いかける。

 

「ここからは Yes か No でお答え下さい。貴女は、守護銃の技術情報を外部に横流ししましたか?」

「していません!するわけないじゃないですか!」

 

 セレスが大声をあげると、その音に驚いた羽獣の群れが、街路樹からバサバサと飛び立っていった。

セレスははっと冷静さを取り戻し、居住まいを正して謝罪した。

 

「……すみません、大声をだして」

「問題ありません。貴女のこの行為に対して、私が審問の判断に考慮することはありません」

「ありがとうございます……それに、守護銃の扱い方やメンテナンスは確かにラテラーノ警察学校で学びましたけど、製造とかの分野は触れてないので私は他の人に守護銃をどう造るかとかの説明できませんよ」

 

 フェデリコは短く頷き、筆記を続ける。

ペン先が作る事務的な響きが、喫茶店のオープンテラスに広がった。

 

「了解しました。では次の質問に移ります」

 

 書類をめくる音が、街並みの雑踏に小さく混じる。

 

「貴女は、守護銃の技術情報が外部に漏洩するような行為を行いましたか? 管理上の過失、説明の不備、第三者に見られる状況を作ったなど、故意でなくとも該当します。 Yes か No でお答え下さい」

「……ないです、Noです。私の守護銃ですが、今はホテルに預けてますけど勤務中は肌身離さず持っています。これまでに盗まれたり没収されたりしたことはありません。一応、この国に入る時は源石の汚染がないかどうかや爆発物か否かの確認をするためにちょっと預けたり、勤務開始時の持ち物検査の時は鞄などの中身を透かして見るスキャナーに守護銃の入ったケースを通したりすることはありました。でも、そういう手放しの時間はよくて数分程度でした」

 

 フェデリコは淡々と筆記を続け、セレスの言葉を一つも漏らさないように記録する。

その傍らで、彼は鞄からエッグマンランドの入国手順が記された書類を取り出して確かめる。

 

「入国マニュアルを確認しました。公的機関や担当職員への一時預託、勤務開始時のセキュリティ対応……いずれも通常の手続きであり、そこに違法性は認められません」

 

 フェデリコの表情は変わらず、声も一定の温度を保っていた。

一度だけ視線を上げ、セレスの動揺の度合いを静かに観察する。

 

「では、次の質問に移ります」

*1
カモンワーカー職業紹介所




◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。

◆後編でもそうですが、一番の難産はフェデリコの会話内容でした。フェデリコならどういう質問をするか、話し方は、とかがもう……。今はAI相手に壁打ちとか疑似ロールプレイができますが、ベースとなる会話とか質問は事前に考えないといけないから大変でした。
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