The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
その手に、純なる想いが宿るとしても
それでもなお、その祈りは祈りたり得ないのか
書類を整え、淡々と告げる。
「守護銃の技術情報に触れ得る立場の者、あるいは実弾銃の製造に関わり得る者について、貴女の知る範囲で心当たりはありますか?Yes か No でお答えいただき、 必要であればその後に補足をお願いします」
「うーん……Noだと思います。私の職場の人達に実弾銃の製造や開発の関係者はいませんし、物品の納品は全て指定された業者かロボットさん達がやってます」
そのように話すセレスだったが、ふと何かを思い出したのか少し沈黙する。
「……そういえば、私が実弾銃のメンテナンスでお世話になってる武器ショップがありまして。その店は実弾銃も売ってるんですが、そこの店長さんが守護銃もメンテナンスができるって言ってました」
フェデリコは筆記の手を止めた。
「……自身の職場には心当たりはない。ただし、武器ショップの店長が、実弾銃の販売を行い、守護銃のメンテナンスにも通じている可能性がある、と」
フェデリコは顔を上げ、セレスの目をまっすぐに見据える。
「確認します。 その店長が、守護銃の技術情報に触れ得る立場にあったと、貴女は考えますか? Yes か No でお答えください。そして、必要であれば、その後に補足を述べてください」
声は冷静だが、質問の角度がわずかに鋭くなる。
セレスは店主とのやり取りを脳裏に巡らせ、やがて口を開いた。
「たぶん、はい。店長さんは私の守護銃を見て色々と特徴を言い当てましたので、元々から守護銃を知っていたか、あるいは店長さんも他の人から教わったのかもしれません」
フェデリコはセレスの言葉を反芻するように視線を落とす。
その沈黙は短いが、重さがある。
事前調査で、セレスの守護銃は選定が決まるまで時間がかかったと記録されている。
一般的な銃の型では相性が合わず、幾つかの銃工房を経由して最終的に『
つまり、セレスの守護銃は他の守護銃と比べて非常に独特なのだ。
生半可な銃知識では、その特徴を言い当てることは難しいはずだ。
そうなれば、その武器店の店主は相当に守護銃、とりわけ製造に関する知識や技術に精通していることになる。
セレスへの嫌疑とは別に確認を取るべき情報だろう。
やがて顔を上げ、淡々とした声で確認を行う。
「“恐らく Yes” という回答、確かに受け取りました。その武器販売店の店長が守護銃について詳しいのは、貴女と出会う以前からの可能性がある。 つまり、貴女が情報を提供した結果ではなく、店長自身が別の経路で知識を得ていた可能性がある……そう解釈してよろしいですね」
フェデリコは視線を逸らさず静かに問いを重ね、セレスは黙って頷いた。
「では、次の質問に移ります。貴女は、実弾銃の製造について何らかの見聞を得たことがありますか? 現場での噂、訓練場での会話、或いは先の店長からの言及など、どのような形でも構いません。 Yes か No でお答えください」
「はい。スカウト時と先月に、説明を受けました。先月のものは、月一回の座学講習で、訓練カリキュラムの一環としてです。そこで実弾銃の仕組みについてCASTさんから説明を受けました。取り扱いとか、装填とか、オーバーヒートとか、守護銃にはないポイントが多かったです。その時に『もしも希望する実弾銃のモデルがあれば支給できる』と言われまして、自身の守護銃に似たモデルがあれば欲しいなぁと思ってお願いしてみたんです、そしたらよく似た実弾銃*1があったらしくって、まさか本当に貰えるとは思ってもいませんでした」
フェデリコのペンが、彼女の証言を細かく記述する。
「実弾銃の仕組みについて、スカウト時や定期講習で説明を受けた。 さらに、希望するモデルの支給が可能であると告げられ、貴女は守護銃に似たモデルを申請した結果、希望通りの実弾銃が支給された……」
淡々とした声で復唱し、事実確認を行う。
「この証言、確かに記録しました」
視線を上げ、セレスの表情を静かに観察する。
「では、次の質問に移ります」
フェデリコは書類を整え、声の調子を変えずに核心へ踏み込む。
「貴女は、実弾銃の製造に何らかの形で関与しましたか? 部品の提供、設計への助言、構造の説明、意図せぬ協力……いずれも含みます。 Yes か No でお答えください」
フェデリコの問いに、セレスは少し黙ってこれまでの記憶を洗い出す。
ややあって、セレスは少し気まずそうな表情を浮かべて話し始めた。
「あの、私、貰った実弾銃の試射を行った時に脱臼して、それについてCASTさんに意見を言ったことがあります。反動が大きすぎるって。そしたら、向こうからは『伏射での運用を想定した実弾銃で立射をすれば当然の結果』だって言われて。いや、えっと、そのことじゃなくて」
彼女は両手を忙しなく振って話を続ける。
「その時に、CASTさんから『守護銃と比べてどうだったか』と尋ねられたんです。なので、反動や音、
フェデリコは、セレスの怯えを真正面から受け止めるように視線を上げる。
「実弾銃の試射時に脱臼し、その反動についてアンドロイドに伝えた。 その際、守護銃との比較を求められ、反動・音・匂い・弾丸の違いなどについて答えた……」
その表情は変わらず、声色も、最初から最後まで一貫して冷静且つ揺るがない。
淡々と復唱し、記録を確認する。
「まず、結論から言います」
フェデリコはペンを置き、セレスをまっすぐに見据える。
「今、貴女が述べた内容は“技術漏洩”には該当しません」
一拍置き、言葉を続ける。
「貴女が答えたのは“使用者としての感想”であり、 守護銃の内部構造・製造技術・アーツ媒介機構といった “秘匿されるべき技術情報”には一切触れていません」
「守護銃と実弾銃の違い……これらは“使用者の体感”であり、 守護銃の技術情報とは無関係です」
淡々とした声だが、その内容はセレスの不安を正確に切り分けていく。
「よって、今述べた行為は“情報漏洩”には当たりません」
その言葉を聞いたセレスは小さく安堵のため息を吐いた。
そして、彼女の怯えに対して、 フェデリコなりの“配慮”を加える。
「……セレス巡査。 貴女が今、恐れているのは“法”を犯したこと、正しくは “自分が知らぬ間に悪を成したのではないか”という不安でしょう。しかし、少なくとも今の証言において、 貴女が“法”を犯したと断定できる事実は確認されません」
フェデリコは書類を整え、声の調子を変えずに続ける。
「では、最後の質問に移ります」
フェデリコの言葉に、セレスは体を一瞬震わせた。
「貴女は、守護銃以外の銃器……特に実弾銃の習熟を修めた理由を、 ラテラーノに対して説明できますか?」
フェデリコの飾り気のない言葉が、テラスの周囲に流れるあらゆる音よりも鋭くセレスに届く。
「これは、貴女の“態度”と“動機”を確認するための質問です。 Yes か No でお答えいただき、 その後に理由を述べてください」
「……それは、言わなければいけませんか?」
セレスの言葉は、躊躇いで震える口から漏れるように出た。
フェデリコは、セレスの震える声を受け止める。
「言いたくない、という貴女の気持ちは理解します」
しかし、その表情も声色も変わらない。
“揺れないこと”こそが、彼の職務であり、セレスへの配慮でもある。
淡々とした、事実だけを静かに置くような響きの声には、否定も強制も含まれていなかった。
「しかし、この質問は“貴女を罰するため”のものではありません。 ラテラーノに対する貴女の態度……つまり、 なぜ実弾銃の習熟を選んだのかという“動機”を確認するためのものです」
一拍置き、フェデリコの澄んだ青い瞳が、セレスの揺れる鮮紅色の瞳をまっすぐに見つめる。
「……このことも、公証人役場に報告されるんでしょうか?」
「原則として、本件に関する会話内容は全て公証人役場に報告されます」
「言いたくないと言えば?」
「無回答による司法上の罰則はありません。私はそのことについて恣意的な処理をしないことを誓いますが、報告書における貴女に対する心証に影響する可能性は否定できません」
声は冷静だが、追い詰めるような圧はない。
むしろ、選択した結果を明らかにし、意思を相手に委ねるような静けさがあった。
「セレス巡査。 貴女が話したくない理由そのものも、動機の一部です。 それを言葉にできるかどうかを、私は確認しています」
そして、最後にもう一度セレスに告げる。
「貴女は、この質問に答えられますか? Yes か No でお答えください」
「……じゃあ、言います」
セレスは冷めてしまったコーヒーを飲み、胸に手を当て、大きく深呼吸をした。
「……自分は感染者です。もしも病状が進んだら、守護銃を持てなくなる日が来るかもしれません」
フェデリコは筆記をせずに、セレスの独白を聞いている。
「そして警察です。幸いなことに、今の所ありませんがもし犯人が同じサンクタ人で、持っている武器が愛銃しかなくて、それでも撃たなきゃいけない時が来るかもしれません。その時は、はい。愛銃とはお別れだと思います。あの子に、同胞を撃たせることになった私の責任だと思います」
セレスの手が、膝の上で固く握られる。
「でも、本当は愛銃を手放したくないです」
それは、サンクタ人にとって当たり前の感情だった。
守護銃との繋がりを喪うことは、ただ引き金が引けなくなることでは決してない。
「もしも……愛銃が応えてくれなくなったその時、ラテラーノに委ねないといけなくなった時が来てからも、せめて愛銃に似たものを使えたらなって思いました」
フェデリコは一度、手元の書類に視線を落とした。
そこには、これまでの聴取内容が簡潔な文言で整然と並んでいる。
彼はレコーダーのスイッチを切り、静かに息を整えてから顔を上げた。
「確認は以上です」
その声色は、面談の最初から変わっていない。
感情を交えず、しかし突き放すこともない、執行人としての声音だった。
「本件……守護銃に関する不法技術漏洩の疑惑について、現時点で貴女が技術情報を外部に提供した、あるいは実弾銃の開発に関与したと判断できる事実は確認できません」
彼は続ける。
「エッグマンランドで使用されている実弾銃は、構造・機構・発射原理のいずれにおいても守護銃とは系統を異にしています。貴女の証言は、私が事前に確認した情報とも矛盾しません」
フェデリコは書類の末尾に、短く署名を記す。
「よって私は、本件を技術漏洩に該当しないものとして報告します。少なくとも、貴女に対する処罰や拘束を正当化する根拠は現時点では存在しません。ただし、この判断は、あくまで私の責任において行う一次判断です。ラテラーノへの正式な報告と説明は必要になります。その際、貴女に協力を求める場合があることをご理解下さい」
報告書を整え、最後にはっきりと告げる。
「改めて申し上げます。セレス=ニケ巡査、現時点において貴女は法を犯してはおりません」
北土にしては少し暖かく、そして柔らかい風がテラスの間を吹き抜けた。
「そ、そうですか……あはは、なんだか、少し、安心しちゃいました」
セレスは目じりに雫を浮かべている。
「私、いつか、
セレスの声は震え、喉が詰まり、唇が押し結ばれては解ける。
「私が法を定めるわけではありません。しかし、少なくともラテラーノ律法において貴女の背律を認めるものではありません」
「それはそうなんですけど!いや、それでも安心できるんですけど!そこで欲しい言葉は違ったかな、って!」
フェデリコが正確な解釈でセレスに訂正を伝え、セレスは胸元を濡らして彼の
「あーもう!とにかく、安心したらお腹が空いちゃいました。今回の話はこれで終わりですか?」
「最後にいくつかの法文書に署名をお願いします」
セレスが尋ねると、フェデリコは鞄から新しい書類を取り出した。
「判りました。でも先にお皿のケーキを食べてからにしましょうよ、ね?」
セレスは手つかずのスイーツを指さして笑う。
少し前に運ばれてきたパンケーキが、テーブルの上で甘くて魅力的な香りを漂わせていた。
「書類に緊急性のものはありません。あくまで当該書類は執行者立ち合いの下での署名が必要ですので、その程度なら問題ありません」
対するフェデリコは、スイーツを前にしたラテラーノ人らしからぬ無表情で応じた。
普通の人であれば、その反応からフェデリコが甘党でないと思うかもしれない。
しかしセレスは、この短い審問の時間だけでもフェデリコがそういう人物だと理解していたため、単に『順序的に問題ない』と述べているに過ぎないと受け止めていた。
「はーい。さ、フェデリコさんも食べて食べて。この店のケーキ『
この喫茶店でイチオシのケーキについて、セレスが嬉しそうに蘊蓄を語ろうとした瞬間。
店の落ち着いた雰囲気を全て轢き潰すようなタイヤ音が、フェデリコ達目掛けて押し寄せて来た。
フェデリコが振り向くと、今まさにミニバンが急ブレーキをかけ、通りを直角に曲がろうとしていた。
「ええっ?!」
セレスの叫び声が、万事解決したはずのオープンテラスに弾けた。
ミニバンは辛うじて石畳上のカーブを曲がりきった。
だが、それを追いかける屋根のないセダン、同じようにカーブへ突っ込んでくる。
次の瞬間、セダンの後部車輪に弾かれた喫茶店の看板がフェデリコ達に目掛けて飛来した。
「うわぁ?!」
セレスは思わず椅子から転げ落ちる。
だが、フェデリコは冷静にホルスターから守護銃を抜き、迫る看板を一発で撃ち抜いた。
轟音と暴風、砕け散った看板に無傷で立つフェデリコ。
そして純白のクリーム、黄金色の蜜、紅色のラズベリーで着飾ったパンケーキタワーは、茶色の木片と道路の黒い砂埃を一身に浴びてぼてっと倒れた。
「え?えっ?ええーっ?!!!!」
セレスの、タイヤ音に負けない絶叫が、暴走車両で混乱する市街地にこだました。
この騒動の発端は、ほんの少し前に遡る。
◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。
◆次回、北土の街に龍門の風が吹く。