The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

76 / 86
◆エッグマンランドは正に金の卵が溢れる籠なんだよ、という話。
本編は近日以内に投稿します。


PE-Tips.街路を往く人形(おうごん)/万金の(ゆめ)

一文半銭に心惑い

一顧万両を得ば

見利忘義して奔らん

 


 

 目先の利益に目がくらむもの。

どの時代にも、どの人種にも、どの生物にも、どの土地にも、いやどの星にでも。

例え致命的な損失を孕んでいようと、生命が自由意志と欲望を持つ限り、その衝動は常に隣に存在する。

そして、利益を得た時の栄光を夢想し、いざ獲らんと奔るものはどう言い繕おうとも存在する。

蔓植物が壺のような花に甘い蜜を湛えて蟲を誘うのは、自然界でごく当たり前の生存競争だ。

しかし、世の中、人の社会においては、壺の中身は悪辣さに変わる。

生きるに過大な対価を得ようと、不要の害を与えることに躊躇しない者がいる。

たとえば、財を肥やすために隣人や祖国を売る者。

たとえば、他者の視線を得るために無謀な危険を冒す者。

たとえば、額に飾るために貴重な生物を殺す者。

 

たとえば、欲望を満たすために他者に悪行を成すことを求める者。

 

1097年2月、夜。

龍門の裏社会に流れた欲望(依頼)は、その類の代物だった。

 


 

◆炎国・龍門-赤鵬区、【結晶塔】◆

 

 磨き上げられた赤御影石が光を受けて鈍く輝き、まるで大地に突き立てられた一本の朱杖のように天へ伸びる塔。

源石や宝石類の採掘権による莫大な利益から建設されたその巨塔は、その利益の礎となった者達から“血粧塔”と綽名されている。

近づけば黒い粒が血の凝りのように浮かび、夜になれば外のネオンの光を受けて赤黒く明滅する様は、まるで塔そのものが赤く脈打っているかのように見えた。

 

 赤い巨塔の最上層、選ばれた者のみが住むことを許される空間の頂点、その一つ。

 

飢えや寒さとは全く無縁の豪奢な部屋。

部屋の中心を見つめるように掲げられた、希少な牙獣や樹角獣の首剥製。

世界中から収集された銘酒を、見栄えよく並べるためだけの紫檀棚。

来客の背後を窺うように鎮座する、滅びた炎国旧王朝の近衛兵が着用していた全身甲冑。

墨の跡一つなく、綺麗に磨かれた楢無垢の書机。

部屋の主が成功者であると示すべく机に置かれた、巨額の富を注がれた翠玉白菜。

その部屋の誂えとしてふさわしい、貧民数ヶ月分の食費が吹き飛ぶ額の最新型テレビ。

 

 そのモニター画面に流れる、『チェルノボーグを歩くCASEAL』のニュースを眺める者が居た。

 

「あの人形が欲しい。我が背に侍らせるに相応しい」

 

 沼鱗獣の皮を張られたソファに座る男は、テレビの光を一人浴びてそう言った。

 


 

 『Dr.エッグマンのロボットが欲しい』という欲望は、1097年を生きる貴族や大商人にとって共通する内容だったろう。

【テラ】におけるロボットとは、人の手に依存していた様々なタスクを鉄と油と源石で置き換えた存在だ。

文明の進歩を象徴する技術の結晶であるが、その姿形は基本的に機能性を突き詰めており、実用性が第一だ。

 

 当たり前だ。

 

 青菜を切る裁断機に錦繍(きんしゅう)を纏わせるわけがなく、缶詰に中身を詰める注ぎ口に(べに)を引くわけがなく、商品箱を載せて運ぶ台車に銀沓(ぎんとう)を履かせるわけがない。

車や個人携帯などを好んで着飾る者はいるが、前提にあるのは実用性である。

産業ロボットに、装飾性という余分は考慮されることはない。

あるとすれば、せいぜい貴族の感性をふんだんに盛り込む時くらいだろう。

 

 そんなロボットにまつわる常識は、【天災】に見舞われた塵芥のように吹き飛ばされた。

 

 チェルノボーグ暴動時、現地のトランスポーターが撮影した一幕。

軒先の芋のように吊るされたロボットが、空を飛ぶ箱のような船から市街地へと降り注ぐ景色。

ブリキの玩具よりも丸っこいロボットが、ホースのような腕や脚を使って街路を行進する景色。

暗色の装甲を纏う角ばったロボットが、サンクタの銃のようなものを構えて目の前の敵を狙う景色。

筋骨隆々な胴や腕、機械的な頭や胸部や手足を持つロボットが、淡く輝く武器と共に制圧した暴徒を捕縛していく景色。

無機質な肌を持たねば(たお)やかな女性と見紛うロボットが、暴徒や警察官(敵味方)を問わず負傷者に治療を施す景色。

 

信じがたい、あれは奇抜な鎧ではないのか?

あり得ない、あれは蒸気騎士を見てくれだけ真似たものではないのか?

馬鹿馬鹿しい、あんなものはアーツか何かではないのか?

 

 動画を見た者は一度はそう口に出すものの、情報を調べ、本物を見た者は二度と疑念や嘲りを吐くことができなかった。

事実を知った者は次にこう口にした。

 

ぜひ欲しい。

他の無骨で不躾なロボットとは違い、あのロボットはまるで人間のようにふるまうではないか。

あれを戦わせれば、護衛にすれば、口うるさい労働者の代わりに働かせれば、どれほど便利になるだろうか。

 

 しかし、現時点でエッグマンランドと正式な国交を結んだ国はいない。

Dr.エッグマンが並外れたロボット技術を持っている事は明らかだ。

が、良くも悪くも未知数な地力、隠そうとしない野心、予想しきれない軍事力、ウルサス帝国や隣接する国家との関係性が国の上層部に二の足を踏ませていた。

一部の農協や企業はかの国と取引関係にある事は判明している。

が、取引内容は資材や食糧関係のみであり、機械製品やロボットはそれに含まれていなかった。

 

 公には動けずとも、欲しい物は欲しい。

そう考える者達はトランスポーターや大企業の子会社、裏社会のフロント企業などを通じてどうにか『お宝』を得ることはできないかと模索していた。

 

 ところで、レユニオンはエッグマンランドとの小競り合いで国境警備にあたるワークロボットやGUNロボットを破壊することがある。

レユニオンの参謀部は、残骸があれば必ず持ち帰るよう構成員に指示している。

それはレユニオンにとって極めて高い価値を持っているからだ。

残骸はエッグマンランドの研究や、リサイクルして資材化することができた。

また、ロボット技術を解析したいと望む外部勢力から物資と引き換えることにも使えた。

それが図らずも、レユニオンの今日までの増強を促している。

そして、エッグマンランドとレユニオン勢力圏の境、源石塊で囲まれた空白地に他国のスパイも混ざる『闇市』を生み出す要因にもなっていた。

 

 閑話休題。

そうして裏表で高まるエッグマンランド製ロボット需要の中、【結晶塔】の主である龍門の資産家が、ある一つの依頼を裏社会に向けて発した。

 

『あの女人形を献上した者には、人形と同じ重さの金を授ける』

 

 龍門の裏社会は色めきだった。

事前に入国していた者達からの分析では、CASEALの重量は恐らく大人の女性並かそれ以上の重さがあると予想されていた。

その分析が正しければ、現在のレートで数億~十数億幣の宝がエッグマンボーグの街並みを歩いている計算だ。

報酬の形が金塊であることも拍車をかけた。

金塊なら龍門以外の地域でも通用するため、狙う側にとってこの依頼は非常に魅力的な案件だった。

 

 モデルの違いか、CASTもだがCASEALには高身長大体格のタイプや低身長小体格のタイプがあった。

大金を見込んで大型CASEALを狙うか、慎重を期して小型CASEALを狙うか。

様々なプランニングが裏の世界を飛び交い、龍門のみならず他国の裏社会からもCASEALを求めてエッグマンボーグに入り込もうとする者が急増した。

もしも国家が正式にエッグマンランドと国交を結んだならば、政府に伝手のある上位の富裕層がCASEALを手に入れることは不可能ではないだろう。

そうなれば、黒社会への依頼も取り下げになってもおかしくない。

期間未定の高額報酬を逃すまいと、裏世界の住人はいかにCASEALを手に入れ、龍門まで持ち運ぶかを画策し始めた。

 

 因みに、国家も裏ではDr.エッグマンのロボットを欠けなく入手した者が出た暁には、あらん限りの違法性をこじつけてでも没収なり買取なりを強引に執行しようと目論んでいる。

ロボットの武装や強度の程度によってはヴィクトリアやウルサスのような軍事国家への切り札になるやもしれず、またその性質から源石汚染著しい地域に投入できるかもしれないからだ。

汚染のために人が踏み入ることすらできぬ戦域から、疲労も病も持たぬ機械の兵が敵国の急所を突く。

あるいは、不眠不休で立ち続ける鋼鉄の守り手が、これまで死地とされてきた要衝を守り抜く。

ロボット一つから得られるテクノロジーは、技術進歩を進め国力を倍増させるに違いない。

その結実は、国家にとって計り知れぬ優位となる。

 

 このようにして、国や悪党の思惑が混ざり合った結果、エッグマンボーグではギャングや野盗といった裏世界の住人に加え、組織の密命を帯びたスパイによるロボット強奪事件が発生している。

とはいえ、現時点ではいずれも未遂である。

Dr.エッグマンのロボット軍団、傭兵を抱き込んだエッグマン私兵団、エッグマンポリス、地元自警団が外部犯罪からの干渉を阻止している他、強奪対象のロボット自体も武装があるからだ。

特に『見た目がいい』『持ち運びやすそう』という理由で人気が高いCASEALは、Serveress(サーヴァレス)*1Battleress(バトラレス)*2タイプ共に近接・遠距離武装を備えているため、たかだか少人数程度なら十分に相手取れた。

そうしてCASEALの抵抗を受けた強奪犯達は、その後の増援によって鎮圧される。

無事に祖国に戻ってきた者は一人もいない。

スパイなら裏に繋がる組織への取引材料に、ただの悪党なら農林鉱水産業の労働力として使われることになる。

 

 だとしても、もしもボディ一つをエッグマンランドから持ち出せれば、その瞬間から人生には金色に輝く道が通る。

いかに危険であろうと、それを夢見る者達は、一攫千金のチャンスを逃すまいと舌なめずりして今も街に潜んでいる。

 

 とある昼、そのチャンスが龍門の黒社会に属す組織の前に転がってきていた。

*1
レイキャシール

*2
ヒューキャシール




◆なおレート的人気度は
【CASEAL(レイキャシール>ヒューキャシール)>CAST>Eシリーズ量産型>アニマルロボット=GUNロボット>ワークロボット>ロボット残骸】です。
軍部や実用面を重視する勢力からはCASTやGUNロボットを求める声がありますが、裏社会や貴族、政府からは外見や目的用途、サイズ感からCASEALの懸賞金が高めになっています。それでも龍門の資産家が出した報酬は過去最高額なのでロボット強奪計画は過熱しています。
◆これまで破壊されたことのある機種は(Eシリーズ量産型:微少/アニマルロボット:微少:GUNロボット:少/ワークロボット:多)でCAST系統は損失なし。なのでCASTテクノロジーは一切漏れていません。逆にワークロボットはレユニオンとの抗争で破壊される機体があるので技術流出が起きています。破壊された機体の大半はレユニオンがリサイクル(ドローンやロボットの製作、家電修理や鉄資源化など)しますが、品質によっては外部勢力に物資や武器と交換で取引をしています。源石資源については源石塊壁があるのでエネルギー問題には困らないのがレユニオンの強みになっています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。