The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
王道で安心の展開だ。では
『
四月の北土が持つやや肌寒い空気と残雪の中、E.P.U-13区の市街地には些かの活気があふれていた。
他のエッグマン都市に比べて従来の生活様式に近いこの自治区には、かつての生活を取り戻そうとする難民が多く集まっており、今日も家屋の修繕や新築の槌音が響いている。
「きゃーっ?!」
「なんだぁ!?」
「危ねえぞクソったれ!!」
そんなE.P.U-13区の一角に、フルスピードで走る車に恐れおののいて避ける叫びが響き渡る。
交差点では信号機の不調で出動していたワークロボットが、車二台分の風圧でボディを独楽のようにクルクル回り、交通整理の音声もろとも吹っ飛ばされた。
あまり広いと言えない車線の道路を、二台の車が爆走している。
片や窓ガラスのないミニバンが路上の屋台を轢き飛ばしながらトップスピードで走行し、片や黒塗りのセダンタクシーがミニバンの散らした障害物を避けながらスピードを出していた。
助手席に座るエクシアが、ハンドルを握るテキサスに尋ねた。
「距離縮まんないねー、もっとスピードでないの?」
「やっている。向こうはエンジンを改造しているようだ」
テキサスはアクセルをベタ踏みし、前方からの飛礫をブレーキとカーブで躱しながらエクシアに答えた。
「けったいなことするわ。元から爆速で逃げるつもりやったんやろな」
クロワッサンは車内のアシストグリップを握りながらぼやいた。
そんな中、車内据え付けの無線機から女性アシスタントの声が鳴り響いた。
《648番、応答してください。現在その車で急発進、急ブレーキ、スピード超過が連続して発生しています》
「あ、無線や」
「私が出るね」
エクシアが無線機を取り、側面のスイッチを押して話し始めた。
「えー、こちら【ペンギン】、じゃなかった。【648番】だよ。ただいま誘拐犯を追跡中、だから違反切符は勘弁してね」
《え?》
アシスタントの困惑する声が、アクセルとブレーキ轟く車内で場違いに響く。
一拍の間を置いてから、思考を取り戻したアシスタントがエクシアに聞き返す。
《ま、待って下さい、事件ですか?》
「うん。犯人は龍門ギャング、ロボットのお嬢さんを誘拐で逃走中。乗ってるミニバンにナンバープレート無し、多分こっちで組み立てたんだろうね。スピードがすごいから改造車かな?気を抜くと置いてかれそうだからこっちもアクセルベタ踏みしてる」
《わ、判りました。警察に通報します。無線機の電波はそのままにしてください。場所を追跡します》
「りょーかい。じゃ、こっちは運転に専念するからあとよろしく!」
《……あの、648番の運転手は男性社員だったと思》
エクシアは元気よく無線機を切った。
「これで犯人が捕まったら、逮捕に貢献したってことで運転手も大金星になるかな?」
そうエクシアが言った時、ミニバン側はガラスのない窓からクロスボウを構えて撃ち掛けて来た。
高速で飛来する矢や煙幕弾をハンドル操作で躱すテキサスだったが、クロスボウの一射がセダンのフロントガラスに刺さった。
フロントガラスはまるで蜘蛛の巣のように白くひび割れ、テキサスの視界を大きく遮る。
「邪魔だ」
しかしテキサスは動じることなく、片手でホルスターから源石剣の柄を抜いた。
柄の先をフロントガラスの方に向けると、虚空に現れた茜色の刃達がフロントガラスを周囲のフレームごと切り裂いた。
セダンの天井は風圧の煽りを受けて吹き飛び、テキサス達の遥か後方に火花を散らして道路を滑って消えた。
「うわぉ、一気にオープンカーになっちゃった」
「運転手の兄ちゃん涙目やろなぁ」
「でも撃ちやすくなったよ。クロワッサン、場所交代して」
「はいな。ウチが盾やね」
「いつもの、ってやつだね」
エクシアとクロワッサンは直線道路に入った一瞬で互いの位置を交換した。
クロワッサンが助手席、エクシアが後部座席に座ることで、エクシアはクロワッサンの盾を前にして安全な銃撃を掛けることができるのだ。
しかし、いざ二人が席を入れ替えた直後、ミニバンは差し掛かったT字路をスキール音を轟かせて右折した。
「はぁ?!T字路!?」
「車につかまってろ!」
「あ、喫茶店だ。後で寄ってみる?」
ミニバンが側面を曝すタイミングでエクシアはタイヤの狙撃を狙ってみたが、あいにく路面から伝わる振動で照準がうまく合わず、またタイヤ周りにつぎはぎの合板がついているせいで弾丸は当たらない。
テキサスはハンドルとブレーキを最大限に活用し、喫茶店前の看板を弾き飛ばしながらも直角に右折した。
ミニバンは変わらず最速で突っ走り、道行く歩行者や駄獣は慌てて車線上から飛びのいた。
このミニバンとセダンの暴走から免れた者は、今日一番の運を命拾いに費やしたといえるだろう。
「タイヤには当てられへんの?」
時に矢を盾で庇い、時に煙幕弾をハンマーで弾き飛ばしながらクロワッサンはエクシアに尋ねた。
「タイヤに付いてるガードが邪魔~。でも、車体狙いはエンジンや中の
うーん、と盾を風防にしながら頭を捻るエクシア。
「カーナビを見る限り、あいつらの行き先は外縁の倉庫街だろう。龍門でもああいう奴らの潜む先としては定番だ」
「けったいな……逃げ切られて倉庫ん中に入られたらかなわんで。いちいち倉庫の門開いて探すなんてめんどくさい事この上ないわ」
テキサスが車内のナビモニターを見てそう語るのを、クロワッサンは苦い顔で受け止めた。
「どこかでうまいことあいつらより先回りできないかな?もしくはせめて隣に並ぶとか。ここじゃ道が狭くて前に出れないよね」
エクシアがぼやく。
莝菰組やペンギン急便が爆走している道路は、龍門にあるような広い高速道路ではなくただの一般道だ。
今も対向車が普通に走っており、不用意に車線を変えて加速すると他の車に衝突しかねなかった。
「めんどいなぁ。こう、道が一本で他の車が通らなさそうなとこってないん?」
「私が知るわけないだろう」
「せや[ご希望の到着地点をお伝えください]なっておわっ、なんや急に?!」
クロワッサンの軽口にテキサスが適当にあしらった時、カーナビの方から急に声が響いた。
[ナビデバイスの
「なんやナビ音声かい。まだ機能が生きとったんか。何も言わへんかったしそういうのはないもんかと思っとったわ」
[質問されませんでしたので。それと、運転が乱暴でもデバイスが利用可能であれば動作します]
「……むっちゃフランクに口きくな、これ。人が
[プログラムです、ご安心を。ご希望の到着地点をお伝えください。適切なルートを調べます]
「ほな、倉庫街までに広い道路とかってある?そこに今のスピードで最速で着くルートがあれば教えてほしいねんけど」
[今のスピードでは、危険運転やスピード違反の恐れがありますがよろしいですか?]
「ええねんええねん。事件は教習所やなくて現場で起こってんねんで?このままやともっと大変なことになるわ」
[了解しました。検索中...次のルートが最速かつ倉庫街に繋がる高架橋の前に接続します]
カーナビが示したルートは、市街地ブロックと倉庫街ブロックを繋ぐ鉄橋をゴールとした最短ルート。
表の道路を通らず、市街地を巡る水路を突っ切るというものだった。
護岸や渡し道は車一台分の幅があり、水路も表の道路とは異なり倉庫街ブロックまでほぼ一本道で繋がっている。
また、鉄橋付近に護岸と道路を繋ぐスロープがあるため、たとえ一度ミニバンの背後から逸れても合流できる代物だった。
[このルートであれば、途中の信号や交通事情の影響を受けずに走行できます。基本的に護岸は封鎖されているので歩行者もおりません。いかがでしょうか?]
「Perfect!それじゃテキサス、いってみよー!」
エクシアはナビの提案にサムズアップをした後、L字路の先、水路に続く門扉の錠を的確に撃ち抜いた。
開放された門扉を車で豪快にぶち開け、ペンギン急便一行は無人の水路を走り始めた。
「引き続きナビを頼む」
[了解しました。手荒な運転についてはナビの想定範囲外ですので、安全については自己責任でお願いします]
「ええ性格しとるなこのナビ」
「兄貴、さっきのL字路からあいつらの姿が見えません」
「やっと撒いたか」
市街地から離れ、倉庫街に続く幹線道路の途上。
ミニバンの助手席から煙幕弾を撃っていたエーギル人の男が、運転する現場頭に話しかける。
岩石を一撃で叩き割れそうな脚でアクセルを踏み、丸太を素手で捻じ切れそうな腕でハンドルを握るウルサス人の男は、ゆっくりと肩を落としてため息を吐いた。
「だが派手に走った。サツが出張ってきてもおかしくない。そのまま突っ走るぞ」
「なんとかエンジンが保ったっすね。屑鉄の中に隠してこっちで組み立てた上に、随分古い代物を使った物でしたし、途中でぶっ壊れやしないか心配でしたよ」
「おまけに速度アップのための改造もしていたからな。だがそのお蔭で、あの忌々しいペン急共を振り切れたんだ。こいつも十分に働いただろうよ」
耳障りなタイヤ音と天井の無くなったセダンの姿が後方から消え失せたことで、莝菰組のミニバン内には安堵の空気が流れた。
ペンギン急便の介入というハプニングに見舞われたものの、非武装のCASEALを一機手中に収めた上、まだ警察の初動が追い付いていない状況だ。
このまま順調に進めば、倉庫街に潜んでいる仲間達と合流して移動都市から脱出することも夢じゃない。
後は何処よりも先にCASEALを納品さえできれば、親元の組織に上納金を納めても莝菰組の懐は一気に温かくなるだろう。
実行犯を買って出た者の取り分は最も多くする、と組長が約束していたため、例え報酬の半分が親元に取られたとしてもその額は莫大であった。
「にしてもこれがロボットかよ。まー確かに人間じゃねぇのは判るけどよ、この胸とくびれを見てみろよ。下手なゴム人形より出来がいいんじゃねぇか?お貴族様が『お人形遊び』したくなるのも判らんでもないな」
「これの中身が本当に鉄とネジか?ヒトがプラスチックカバー被ってるって言われる方がまだ現実味があるだろ」
「現実味なんてどうでもいいぜ。これさえ龍門に持ち込めればこいつの重さと同じ金塊を抱きしめられるんだからな!」
「ああ!そしたら奮発して【芙蓉苑】の女を買いに行かねぇとな!」
後部座席にいる下っ端の狙撃手達は、身動きしないCASEALを見ながら下卑た軽口を叩き合った。
そんな二人の様子を、CASEALのエメラルドグリーンのカメラアイがじっと見つめていた。
「なんだよ、言いたいことがあれば言ってみろよ」
視線に気づいた一人がCASEALを睨むと、これまで無言だったCASEALの口元が動いた。
[テイセイをモトめます。ワタシのボディはテツとネジとプラスチックカバーではなく、エッグゴウキンとラグオルレジンフレーム、
CASEALの無機質でどうでもいい情報提供に、これまでペンギン急便相手に気を張っていた狙撃手の一人は、溜まっていたストレスを逆なでされたような気になった。
「ブリキが人様の揚げ足取ってんじゃねぇよ!ぶっ壊すぞ!」
「やめろ!ソレは大事な商品だ!お前とじゃ重さの価値が文字通り違うんだよ!」
思わず手が出そうになる相方を、もう一人が慌てて止めにかかった。
「そういえば、ソイツの耐久性って大丈夫なんすかね?持って行ってすぐ壊れた、ってなって抱くのが金塊や女じゃなくて焼けた鉄柱になるのはゴメンっすよ」
後ろの内輪揉めを横目に、助手席の男はふと思った疑問を口にする。
「流石にテラでトップクラスのメカテクと噂のやつだから、【
現場頭は顎髭を擦りながら、荷台のCASEALに声を投げかけた。
[アナタのソウテイされるドウサリョウについてフメイのためセイカクなカドウジカンはおツタえできません。ですが、ツウジョウカツドウをジョウケンにサンテイすれば、メンテナンスアりでヤクヒャクニジュウネン、コリツジョウタイでヤクゴジュウネンホドのカドウジカンになります]
身じろぎ一つせず、CASEALが再び回答する。
「……俺の住んでるボロアパートより長持ちするんじゃねぇか?」
助手席の男はぼそりとつぶやいた。