The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆お待たせしました。
ウォルモンド防衛戦、決着です。
後半は史実【ウォルモンドの薄暮】イベントにおけるトリガー的存在である彼女の出番になります。


TW-B3-2/2.全ては、より多くの命(ウォルモンド)を救うために。

レールが切り替わったのであれば

後は代償の取り立てが来る(ソレが過ぎる)のみだ

レールの跡には骸の一つも残らない

 

 

 

◆大議事塔内・医務室◆

 

「アント先生、セベリンさんの容態は?」

「巡査さん、気管からの出血は止まりましたが意識はまだ戻っていません。治療のためにはもっと適した場所に移さないと……」

 

 大議事塔の医務室に慌ただしく警察隊員巡査が入ってきて、倒れたセベリンの様子を看病するアントに尋ねるた。

アントは未だに目を覚まさないセベリンを一瞥してから治療環境の変更を要望した。

 

 アントはロボット軍団との戦闘の最中に倒れたセベリンの応急手当を買ってでて、自身のできる限りの処置を施していた。

症状から見て只の肺炎の類いではない重篤なものであると察したからだ。

だが、大議事塔内の医務室に残っている備品程度では止血や消毒、添え木程度の処置しかできず、またアントの医療技術は『アーツ技術のない場所でも治療を行えるように』と薬草学方面に習熟していたため、自作の調合薬や湿布などでセベリンの容態をどうにか安定させたもののこれ以上の処置には限度があった。

故にアントはより適切な治療が出来る場所への移動を提案したのだが、巡査は苦虫を噛み潰したように首を横に振った。

 

「無理だ。セベリンさんが倒れた上に前線でトールワルドが裏切ったせいで重装隊員がやられて大広場は制圧された。直に此処にも敵が押し掛けてくるかもしれん。扉を一ヶ所残してバリケードで塞ぐ、少しでも時間を稼げるようにするんだ」

「判りまし……ん?」

 

 アントが部屋の隅に避けていた椅子を移動させようとしたその時、椅子の側の壁が急速に凍り始めたかと思えば、凍り付いた壁の四方に突然アンカーのようなものが外から突き刺さり、そのままの勢いで壁を大きく引き抜いた。

 

「うわぁ?!」

「キャッ!?」

 

 壁が突然崩壊したことに驚く二人の前に、立ち込める粉塵の中からトールワルドが霜の残るアーツケインを携えロボットを引き連れながら現れた。

隣にいる【CASEAL】の持つ捕鯨砲が延びたワイヤーアンカーを巻き上げている。

 

「この部屋の壁は煉瓦造りな上に一部が先だって起きた【天災】のせいで脆くなっている。一気に凍らせて叩けば零下の気候で岩が自壊するかのように綺麗に割れる」

「トールワルド、貴様!?」

「手が足りないようだな、負傷者は此方で引き取ってやってもいい。()()()を抱えている余裕などないだろう?」

「我々、いやセベリンさんまでも……どこまで侮辱する気だ?!」

「尋ねているのは私だ、巡査。答える気がないなら暫く黙らせてやってもいいんだぞ?安心しろ、死にはしない。精々呂律が回らなくなるだけだ」

「野郎、性根の腐った奴め!」

「ロボット、構えろ」

「待って下さい!」

 

 トールワルドが実力行使に出ようとロボットに命令を下す間際、巡査の前にアントが飛び出して彼を庇った。

複数の銃口を向けられても尚アントはトールワルドの目をじっと睨んだまま、意識を失っているセベリンを指差して尋ねた。

 

「治療は、続けさせて貰えるのですか?今もなお処置を続けないといけないんです。あの人を連れていくなら私も連れていって下さい」

「ア、アント先生?!」

 

 アントは自らセベリンと共にトールワルドに同行することを希望する。

トールワルドは、吐き出した血が喉に詰まらないよう横になって寝かされているセベリンを横目で僅かに見た。

 

「……治療なら此方が引き継ぐ。私は君達の代わりに負傷者を()()()つもりだ」

「何をぬけぬけと!」

「医者の後ろから威勢よく話すのは楽しいか?」

「貴様……!」

 

 捕虜目当てのあからさまな発言に巡査が食って掛かるもトールワルドは冷笑と皮肉を以て返す。

巡査はいきり立ってトールワルドを警棒で殴り掛かろうとし、トールワルドのロボット二体も巡査に銃口を向けようとする。

しかし、二人の言い争いの間を割ってアントが醒めた声でそれを咎めた。

 

「巡査さん、落ち着いて。ここで怒れば思うつぼです。トールワルドさんも余計なこと言わないで下さい。ここは医務室であって闘技場じゃないんですよ?」

「……アント先生、すまん」

「……失礼した」

 

 アントのおかげで巡査は揚がりかけた怒りのボルテージを何とか抑え、警棒を下ろして一歩退いた。

 

 アントはそのままトールワルドを見つめて畳み掛けた。

 

「第一そちらで預かると言いますけど、そしたら一から診察して治療をする気ですか?施術は貴方かそちらの担当か誰かがするんでしょうけど、そんなことしてたら時間がいくらあっても足りません。正直に言えばここですら時間も物も足りないんです。それこそ私だってさっさと森に行って痛み止に効く野草を探したい程なんです。ですが【天災】に巻き込まれた難民の皆さんの健康状態が心配でなんとか手持ちの薬草でやりくりしていたのに、誰も得しない戦いなんかが起きて怪我人が増えて街の診療所から来たお医者さんのほうもてんやわんやになってとてもじゃないですが何日も離れたり出来ません。そっちの事情はさっぱり判りませんが、

医務室で、

患者に関わろうとするなら、

医者の言うことは聞きなさい!

 

 ふーっ!

 

 アントはトールワルドに啖呵を切った。

 

 腕っぷしでは巡査に、武力ではトールワルドに劣る彼女がこの現場では最も強い存在だった。

 

「……エッグマン様に繋いでくれ」

[はい、トールワルドサマ]

 

 隣の【CASEAL】が腕に装着された端末を操作してエッグマンのドローンモニターと通信した。

 

《どうした?》

「エッグマン様、実は自ら捕虜を名乗り出た殊勝な心掛けを持った医者がおりまして、此方で収容する予定の警察隊員達を看護したいとの申し出なのです。つきましては彼女もエッグマン様の船に乗船させて彼らの面倒をみさせるほうが宜しいかと存じます。彼女の乗船と医療室の使用を御許可願えますか?」

《ホッホッホ、なかなかできた女のようじゃな。良かろう、船の一隻を捕虜収容施設としてそやつらを連れていけ。医療室については好きに使って良い》

「ありがとうございます、エッグマン様」

《フッフッフ、敬われるのは心地よいの。ワシのほうは蓄音機の解析を始めた所じゃ。また何かあれば伝えてこい》

「御意に」

 

 Dr.エッグマンとの通信が終わるとトールワルドはアントに向き合って言った。

 

「エッグマン様の許可が出た。アント医師、だったか。貴方にも同行してもらう、ついてこい」

「判りました。巡査さん、すいませんが士官長さんをベッドに固定するのを手伝ってくれますか?」

「おう。……トールワルド、貴様のような卑怯者にセベリンさんやアント先生を渡すのは業腹物だが、二人を無下にするようなことがあれば承知しないからな」

「言うまでもない」

 

 巡査とトールワルドが睨み合う傍らで、アントは寸暇を惜しんで周りのロボットに指示を下す。

 

「そっちの女の子ロボットさんは私の鞄を持って来て下さい。もう一人の騎士ロボットさんは私と士官長さんを運ぶのに協力して貰います。トールワルドさん、よろしいでしょうか?」

「先生が士官長(ち…しかんちょう)を運ぶのか?」

「まぁ、手が空いてるのは私ですし、医療現場で担架で大人を運ぶのは必須科目ですから」

「ならば私の友人たちも手を貸そう」

「!?」

 

 トールワルドは咄嗟にアーツケインを構えて声の方を向いた。

そこには厚手の防護服を纏った、先の防衛戦で目覚ましい活躍をしたマドロック小隊の隊長マドロックが鎚をついて立っていた。

 

「お前は……」

「傭兵隊長さん?お怪我はありませんか?」

「問題ない。先日は虫除け香を譲ってくれて助かった。お蔭で虫刺されの煩わしさから解放された」

 

 マドロックはアントに小さくお辞儀をした。

 

「それはよかったです!で、手伝ってくれるとは?」

「医術は重労働だろう?ならば体力は温存する方がいい。それに士官長は我々の雇い主だ、協力したい。特に私の友人たちなら疲れ知らずで力自慢、()()()()()()()()()()()()()()()()わけはない」

「……!傭兵、そうだな、人手は多い方がいい!トールワルド、人助けを邪魔する程落ちぶれちゃいないよな?!」

 

 マドロックが石像の能力を強調したことで、巡査は()の意図するところを理解した。

『石像の力があれば、アント先生やセベリン士官長を抱えて逃げる事ができる』と。

巡査はここぞとばかりに人手の有用性を説いてトールワルドにアントとの同行を認めさせようとした。

 

「……判った。お前達は先生の指示通りに動け。傭兵隊長もそのように」

「イエッサー」

[リョウカイしました]

 

 一拍の間を置いてから、トールワルドはマドロックの同行を許可すると共に彼に従うロボットに命令を発した。

 

「私も先生の指示に従おう」

「先生、セベリンさんを頼みましたぜ」

「皆さん……ありがとうございます!」

 

 アントは勢いよく頭を下げるとこれまでのカルテや創薬用機材などを急いでまとめ始めた。

そこにアシスタントとして【CASEAL】が機材の梱包等を手伝い、【CAST】は無線で医療用途で割り振られた飛行船の誘導にかかった。

 

「ロボットさん、患者を運ぶ医療室ってどんな所?」

(エッグ)(メディカル)(クリーン)(ルーム)です。コンカイのカンジャのチリョウにテキしたヘヤです]

「どういう設備があります?」

[カンジャのフショウをイヤすヒールキノウとオリジニウムのジョセンキノウがトモにソナわっています]

「えっなにそれすごい。ほしい」

[あげません]

 

「傭兵」

「なんだ?」

 

 ロボットがアントの作業を手伝う傍らで、石像を造り出すマドロックの隣に来たトールワルドはマドロックのほうは見ないまま話し掛けた。

 

「ウォルモンドの為に戦ってくれたこと、感謝する。お前達は警察隊に劣らない勇敢な傭兵隊だった」

「……仕事の途中だ、まだ過去の話ではない。だが、礼は受け取ってはおく」

「そうか」

 

◆◆◆

 

 1097年6月。

 

 Dr.エッグマン率いる飛行船団の急襲によってウォルモンドは一時占領された。

 

 Dr.エッグマン軍による略奪で警察庁舎の財産及び蓄音機が多数強奪されるも、その後救援に駆けつけた憲兵隊によって都市は奪還され、ウォルモンドは正統な支配者の許に帰属した。

 

 憲兵隊がウォルモンドを離れて逃げる船団を追撃したが、武運奮わず取り逃がすこととなる。

その際、別のルートで逃走し山越えをしようとしていた離反者を捕捉。

短時間の戦闘の末、離反者は渓谷から川に落下した。

川に落ちたため確認はとれなかったが、直前の攻撃による負傷と落下の状況を鑑みて生存は絶望的と判断され、船団追撃作戦は終了した。

 

 被害こそあったが、侵略者の排除は完了したものとして憲兵隊長は作戦の成功を発表するとともに、ウォルモンドの平和は取り戻されたのである。




◆感想や改善点などございましたら是非コメントお願いします。

◆次回、ウォルモンド編決着です。

<以下、作中のトールワルド視点での目的と状況などを整理したものです>
(文中で表現しきれた自信がない……)

★目的:ウォルモンドが物資と治安を得ること
┗▼計画:人為的に緊張状態、暴動を発生させることで貴族の救援を呼ぶ
 ↓
 ◎エッグマンランドの襲撃:計画の頓挫
  ┗▼結果:貴族が戻ってくるのは高確率
    結果:市民と感染者の衝突は発生していない

★問題:エッグマンは『何か(蓄音機)』を狙って来た
┗▼状況:最近滅亡した都市はない
  状況:トランスポーターから悪評は聞かない
  状況:わざわざウォルモンドに来た

★課題:貴族が救援に来るまでの物資が乏しい
┗▼問題:エッグマンに付くか否かで分裂しかねない
 |問題:貴族が降伏した市民を罰するかもしれない
 |問題:相手はチェルノボーグを滅ぼした存在
 |問題:抵抗する時間が長引くほど、ウォルモンドの衰弱が深刻化する
 ↓
 ◎解決:トールワルドだけが降伏する
  →・トールワルドにヘイトが偏る(=市民に恨みやすい共通の敵が出来る)
   ↓アドリブ
   +・トールワルドの手引きで憲兵施設の資金や蓄音機を渡す
    →・エッグマンの自尊心を満たす、憲兵のヘイトをトールワルドに向ける
   +市民を懐柔する目的として食糧の供出を提案する
    →・うまくいけば貴族が来るまでの間の物資を得る
      (事実、大量の食糧供給が行われた)
   +捕虜として警察隊の一部とセベリンを確保する
    →・武力削減による暴発の阻止

といったイメージになります。
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