The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆作者「次どうしようかな」
→過去の因果「おい、いい加減(執筆1周年時のアンケ結果)書けよ」
作者「ハイ」

お時間を頂いておりましたが、以前アンケートで募集しました周年企画のテーマを基に執筆しました。
いざテーマを設定して考えるとうまく話が出なくなるのはあるあるだと思いたいです。
21年8月書き始めからもう3年経過してしまいましたがどうかこれからもよろしくお願いします。


~周年企画・IFシナリオ~
RI-∥-1/3.ヒットメイカー


広い天空から降ってくるもの

雨、雪、偶の幸運(鴻糞)、稀の不運(【天災】)

最近は新たに一つ増えた

 


 

◆ロドスアイランド・ドクターの執務室◆

 

「ドクター、お疲れさまです。あの、『ミスター』は此方にいらっしゃいませんか?」

「ん?彼か?彼ならさっき技術部が纏めた資料を持ってきてくれた所だったが」

 

 執務室を訪れたアーミヤが部屋の主に尋ねるも、答えは首を横に振っての否だったため肩を落として溜息を吐いた。

 

「入れ違いでしたか……先にラボに行ったんですが、道中で他の人からドクターの執務室に向かったと聞いたので」

「間が悪かったな。彼がどうかしたか?」

「この前試作して貰った防塵マスクについて相談をしたくて。量産向けとしてモンキータイプ化できないかと商品部から要望があったんです」

「ああ、アレか。検証で源石検出ゼロ%の極めて高いカット率を叩き出して、医療機器の検査員が最初デタラメなデータを提出するなと返却された」

「そうです。後でケルシー先生とクロージャさんが連名でその測定結果を保証したのでもう一度大騒ぎになりました」

「まぁ、彼らの気持ちは判る。これまでのマスクはどう頑張っても空気中の源石粉塵を除去しきれなかった。バックパック式の外付け除染機があればなんとかなるが、あれは背中に背負う程の大きさな上に汚染の酷い所でもなければ許可が下りないような高級品だからな」

「それがマスク一つで賄えるなら画期的です。後は耐用回数の向上や、より廉価での製造が課題です」

 

 アーミヤは腕に抱える資料を見ながら答える。

先の会話の通り、アーミヤの相談とはつい最近開発された新型の防塵マスクのことである。

テラの大地には遍く源石の影が潜んでいる。

それこそ【天災】による源石クラスター発生のみならず、発電機や車、冷蔵庫やラジオのような家電製品、果ては手のひらサイズの懐中電灯にすら源石が動力源として使われているように、文明の恩恵を受けることは源石に身を曝すことと同義といえる。

流石に民生品や都市で流通する道具での被爆の恐れは低いものの、都市外や鉱山、開拓村、スラム、廃都市や秘境といった場所では違う。

道具の動力源に使うような目に見える源石のみならず、岩肌の奥、湧き水の底、泥濘の泡、砂塵の中にも源石の微細な結晶が潜んでいる。

それらが肌や傷口、鼻腔などから徐々に体を蝕み、そして臨界に達する(感染する)ようになるのだ。

故にロドスでは源石汚染のある土地では防塵マスクの着用を推奨しているが、これまでのマスクはあくまで源石粉塵を直接吸わないためのものであり、空気中に含まれる源石の粒を全て防ぐものではない。

また汚染が重篤な環境であれば、たとえマスクを着けていたとしても【鉱石病】の感染や悪化を促す恐れがある。

そしてマスクの性能が良かったとしても、【鉱石病】の発症や進行までの猶予を引き延ばすのが限界だった。

 

 そんな常識を踏みにじったのがこの新型防塵マスク、その仕組みは源石粉塵を防ぐのではなく()()()()点にある。

動力源自体は事前に充電しておいたバッテリーで、このバッテリーも開発者の改良によって既存品と比べ寿命が段違いに延びているが、革命点はそこではない。

マスクの両端には小型デバイスが備わっており、これがマスクのフィルターを介して空気中の源石粉塵を直に『エネルギー化』するのだ。

この機能によってマスクに付着した源石を無力化することができる上、源石粉塵のエネルギーはそのままデバイスの動力用として蓄電されるので稼働時間の飛躍的な伸長を果たしてしまった。

 

 あまりに画期的で、常識知らずで、誇大妄想めいた発明だった。

 

「源石粉塵が体内に入って感染を引き起こすなら、最初から源石粉塵を消滅させればいいではないか」

 

と、マスクの開発者は言った。

 

 聞いた技術部のメンバーや外勤担当のスタッフは何を今更と思った、そんなことは誰もが考え、誰もできなかったことだからだ。

 

 そして開発者は、テラに生きる誰もが成しえなかったことを実現させた。

 

 実験結果を開発者から見せつけられたロドスの高等技術者であるケルシーやクロージャ、ワルファリンは驚愕に打ちのめされた。

ちょうどフィールドワークから戻ってきたドクターとアーミヤが『呆けて部屋のどこかを遠くを見るように眺めるケルシー』『試作品を実際に装着してゴミ箱に顔を突っ込み性能を確かめるクロージャ』『設計図と試作品を何度も見比べ首を90度に傾げるワルファリン』の姿を目撃することになったのだから相当だ。

ロドスのトップ層ですらこの有様なのだから、それより下のメンバー達は驚天動地の騒ぎであった。

このマスクはまだ試作段階であるが、その性能は既に見込み有と認められている。

正式に運用が開始されれば、ロドス外勤オペレーターの感染確率は格段に下がり【鉱石病】進行の恐れはぐっと減るだろう。

アーミヤの期待するところは大きかった。

 

「では、一度ミスターのラボに戻ってみようと思います。ドクター、失礼しますね」

「ああ。彼によろしくいっておいてくれ、アーミヤ」

 

 アーミヤはドクターに一礼して再び人探しに戻った。

 

◆◆◆

 

◆ロドスアイランド・通路◆

 

「あ、エイヤさん」

「アーミヤさん、お疲れさまです!」

「そのイヤーカフとデバイスグラスの調子は如何ですか?」

「はい!すっごく聞き取り易くて、この眼鏡もとっても便利で、それに可愛いシールを着けて貰いました!」

「そのシール、私も可愛いと思います。左側についているのはミスターのシンボルマークですよね、そのデザインは」

「ですね。『ワシが作るからにはブランドマークは絶対じゃ』って、ふふっ」

 

 エイヤフィヤトラは自身の両耳につけたイヤーカフと薄い青色の眼鏡を指差して微笑む。

イヤーカフのカバーの右側には丸いねじれ角の毛獣のデフォルメイラストが、左側には製作者の顔をモチーフにしたマークがシールで貼られていた。

 

 この二つの道具は、難聴に悩むエイヤフィヤトラが読唇術の訓練をしている所に出会(でくわ)した『ミスター』が彼女の為に製作した補聴器である。

イヤーカフ型にすることでバッテリーの収納スペースを設け、収音や骨伝導など様々な技術を以て補聴機能の高度化を保障している。

イヤーカフをつける今の彼女なら、混雑する昼時の食堂でも的確に自分の注文ナンバーを聞き取ることが出来るだろう。

加えて眼鏡の形をしたデバイスは、今誰が発言しているかをグラス上のマーカーで指し示す機能を有しているので今の話が誰の発言なのかを目で判断することができる。

このイヤーカフとデバイスグラスによって、エイヤフィヤトラの聞き取りにかかる負担は格段に軽くなっていた。

おまけにこの道具は録音機能も備わっており、エイヤフィヤトラに限らず他の者にも使える設計のため、会議や交渉の場、屋外で騒音が酷い状況等での活用も検討されている。

 

「あ、ミスターと言えばエイヤさんはミスターのことを見かけませんでしたか?」

「ミスターさんですか?はい、さっき『ウィーディ』さんが水圧ポンプの改善についてアドバイスを聞いて、そのまま一緒にウィーディさんのポンプが置いてある部屋に行きましたよ」

「そうでしたか、ありがとうございます。私もそっちに行ってみます」

 

「折角ですし、差し入れでも持っていきましょうか」

 

 ウィーディ達の許へ向かう前に、アーミヤは行きがけにある購買部に寄ることにした。

 

◆◆◆

 

◆ロドスアイランド・購買部◆

 

「こんにちは。カフェラテを一つ頂けますか?」

「アーミヤさん、どうも。カフェラテね、此処で飲む?それとも自室?」

「いえ、ミスターに差し入れでも、と思いまして」

「判ったわ、ちょっと待ってね」

 

 そう答える購買部の彼女の腕には、タトゥーシールのようなものが貼られている。

 

「もしかして、新作スキンシールのテスト品ですか?」

「そうなの。まだこの前の傷痕が残っているからそれの治療と使用感のチェックね。何だか美容マスクみたいだけど、着けていても違和感とか全然ないから驚きよ」

「着けっぱなしでのかぶれとかは大丈夫でしたか?」

「全くなし!たまに着けてたことを忘れちゃう位お肌に優しいの、折角だからつい知り合いに頼んで模様描いてもらっちゃった」

 

 彼女はシールの所をさすって呟く。

 

「このシール……【Arti-Skin】には足を向けて眠れないわ。前はここにゴツゴツした源石が生えてたのに、今じゃここには(いぼ)取りした程度の痕しかないもの」

「はい、驚くばかりです」

 

 アーミヤは革命的技術の一品である【Arti-Skin】の効果に改めて嘆息した。

 

【Arti-Skin】。

 最近ロドスで発明された医療用人工皮膚シートは、ロドスに極めて多大な実用性と利益を齎した。

 

 羽獣の卵の殻と薄皮という極めて安価な素材を原料とし、薬液を染み込ませ電子回路のような配線を書き込んだソレは使用者の体内電気を動力源にして効果を発揮する。

傷口や患部に用いれば消毒と治療促進効果があり、ロドスの救急パックには欠かせない一品になっている。

また薬液成分を調整すれば傷痕の痣や肌のシミ消し等にも効果があるため、美容品業界では『美の女神の化粧品』だと大騒ぎになっている。

本来の用途が医療用であるため、当初はロドス及び提携している医療機関でのみ使用する予定だったが、術後の縫合痕を消すために使用された【Arti-Skin】を見た美容品ブランド企業がその効果を知り大絶賛、ロドスのスポンサーになる代わりに【Arti-Skin】の提供を求めたことから業界で存在が一気に広まった。

美容向けに調整され『シルクタッチ』の名前で販売が決まった【Arti-Skin】は薬液の成分比率と回路の記入こそ専用の機器が必要だが、素材はどれも調達の容易なもので作られているので大量生産も難しくない。

しかしそれ以上に需要が天井知らずなためロドスでは生産が追いつかず、新たな移動基部を購入して生産施設を建て増ししたり協力企業に素材の調達を依頼したり等で昼夜問わず製造をしている。

お蔭で現在のロドスは空前の収益を叩き出しており、経理部門では開発から今に至るまでの期間を素材の名前から取って『エッグバブル』と呼んでいる。

 

しかし、この【Arti-Skin】の最重要な点はそこだけではない。

ロドスにとってもっと大きいのは、極秘の追加薬液と回路図を用いることで得られる効果、それは。

 

【Arti-Skin】は、『皮膚や内臓の表面に生えた源石をシート上に転移させる』事ができる。

 

 これまでは切開や切断手術でしか取り除けなかった源石が、シート一枚を剥がすだけで容易に対処できるようになったのだ。

あくまで肉体から源石クラスターを除去するだけなので、【鉱石病】そのものの根治には至らない。

だが、それでも源石成分を身体から簡単に除去できる技術は画期的・革命的を通り越してテラの科学界にとって破壊的な技術だ。

体表の源石クラスターは蓄積した源石成分の結晶体であるとされるが、それを肉体から直接除去できれば当然【鉱石病】の身的負担は軽減する。

また患者にとっても呪いの証である源石クラスターが目に付くところからなくなれば、視覚効果によるストレスは大幅に減少するだろう。

今の所はまだ小型の源石程度の除去能力に留まっているが、【鉱石病】初期の源石なら問題なく取り除けるため、人目につく箇所に源石が生えた患者であれば元通りの肌に出来るようになった。

 

アーミヤの前でカフェラテを淹れる女性は対源石クラスター除去の治験者であり、【鉱石病】罹患当初は腕に生えた源石をナイフで抉り取ろうとして狂乱したこともあった。

今では彼女の見える範囲に源石が無くなっているため、精神的に非常に穏やかになっている。

現在貼っているのはナイフを使った際に出来た裂傷の治療と源石再発予防目的だ。

 

「♫~はい、お待たせ。『ミスター』によろしく言っておいてね」

 

嬉しそうにカフェラテのトレーを渡す彼女を見るアーミヤは、何となく己の源石が震えたような感覚を得た。

 

◆◆◆

 

◆ロドスアイランド・サポートユニットルーム◆

 

「蓋を閉めて、これで仕舞いじゃ。水圧と放水範囲は元通り、且つ発射時の水量を調整したから稼働時間も延びるはずじゃ」

「……うん、ノズルの動きも滑らか。流石ね、ミスター。これならもっと上手く使えそう」

「へぇ……そのプログラムと配線を変えるとそんな改良ができるのね」

「おおぉ…やはりすごいなミスター(先生)は。まるで金細工師みたいだ」

 

 ウィーディの水圧ポンプの不調を直した『ミスター』は彼女にそう言い、動作確認を行い実際に排水を試したウィーディは満足そうに頷いた。

彼らの作業を横で見ていた『ブレミシャイン』と『ユーネクテス』は、『ミスター』の手際の良さと調整の正確性に目を輝かせている。

 

ミスター(先生)!次は、次はどうする予定なんだ?」

「食堂からケオベとルナカブ対策の嘆願が来ているのでな、あ奴ら向けのトラップとダミー作成をしてやるつもりじゃ。ダミーについては岡持ち機能のあるロボットアニマルを作る。あ奴らの狩り欲求を満たしつつ、興奮して暴れたときの被害を抑えるために食堂から離れた場所に誘導する狙いじゃ」

「なるほど……」

「でもミスター、あの二人がそっちに惹かれずに食堂に行ったりしないの?」

「岡持ちに詰める料理はあ奴らの好みものを、そして別途匂いを出すようにするから、飽きるまでは持つ筈じゃ。試しに廊下で寝てる間に何種類か嗅がせてテストしてみてどの料理の反応が良かったかは確認できたからな」

「以前ミスターがルナカブの側で何か小皿みたいなのをちらつかせてたのはそういうことだったのね」

「マッターホルンの出来立て鱗獣のサイコロステーキじゃ。全く……あれをケオベに嗅がせた途端、大口開けてワシの手ごと噛みつかれたのは災難じゃったわい」

 

 その時の痛みを思い出してか手を振って顔をしかめる様子を見て、よほど痛かったのが伝わりブレミシャインは思わず噴き出した。

 

「ミスター、『ミスターソニック(Mr.Sonic)』さん?」

「ん、なんじゃ、アーミヤか」

 

 そんな雰囲気の中アーミヤの声に応じて振り向いたのは、膨らんだ腹でパツパツになった黒インナーの上にロドス制服を肩がけで羽織った黒眼鏡の老人だった。

 

◆◆◆

 

◆ロドス艦内・ミスターソニック用開発ルームNo.300◆

 

「低価格化か、防塵マスクの性能を落として安くしても出来損ないのムダ金使いしか生まれんぞ」

 

 様々なデバイスの試作型が所狭しと並んでいる部屋に戻ったミスターソニックは、受け取ったカフェラテを飲み干した後でアーミヤの意見に対し難色を示す。

 

「それは理解していますが、高価すぎると今度は必要な人達の手に渡らなくなってしまいます。性能と価格の折り合いの付け方でミスターの知恵を借りたいんです」

「ふーむ」

 

 アーミヤはミスターソニックに頭を下げて助力を乞う。

ミスターソニックは頭を数度掻いた後、手近にあった用紙とペンを掴んでがりがりと図案を書き始めた。

 

「コストダウンのポイントは量産できる体制にある。全パーツをロドスでやろうものなら金がいくらあっても足りんが、逆にどこにでもあるパーツを使えば安くなる。重要な部品だけロドスで作り、他の所は提携企業の既製品を使えばいい」

「外部委託についてはこちらでも考えましたが、マスク専用のラインやロットを組むとコストはあまり減らない試算が出てるんです」

「では肝になる部分以外を一般的なマスクと同じにして金型もケチるか。元ある金型をそのまま使えるなら製造コストは一段階下がるし、他の企業への漏洩リスクも管理しやすくなる」

「金型が既存のものだと他の企業が真似しやすくなるんじゃないですか?」

「その部分はな。逆に言えばその部分は既に周知のものなのだから態々隠す必要がない、つまり漏洩対策をコア部分に限定できるわけじゃ」

 

 ペン先のインクを淀みなく紙面に奔らせたミスターソニックは、もう完成したらしい設計図の草案をアーミヤに見せる。

思いついたことを適当に書いたかのように素早く作られた設計図は、当人の雰囲気と振る舞いとは正反対の正確さでどこをロドスで製造すれば品質を維持できるかを的確に説明していた。

ロドスで作るべき部分、汎用品で賄える部分、更には細かい部品で既存の製品ロットから流用できそうな所などが纏まった設計図がたった数分の間に出来上がったことにアーミヤは思わず舌を巻く。

しかし、広くテラに普及させるにはあと一押しが欲しいと思う彼女は老人に更なる知恵を要求する。

 

「素材面も廉価に抑えられませんか?販売でもそうですが、ロドスのオペレーターにも十分に支給できるようにしたいです」

「あくまで粉塵吸引による発病を防ぎたいならデバイスだけ自製して他はどうにでもすればよかろう。でも、そうじゃな……」

 

 ミスターソニックは顎に手を当てて黙考し始め、その様子を見るアーミヤの気持ちはぱっと明るくなった。

この老人が黙り込んだ時はいつも良いアイデアが出る流れなのだ。

 

 少しの間が空いてから、ミスターソニックは机上のタブレットを手に取り記録されているデータの中から一つの資料を取り出す。

それはテラの荒野ならどこにでも生えるとある綿花の写真だった。

 

「ほれ、これをマスクの布に使ったらどうだ?」

「これは……『イシワタ』?イシワタの綿布でマスク作るということですか。確かに普通の綿花と比べて製造コストはとても安くなりますが……イシワタの綿花ではむしろ抗源石作用に対して悪影響を及ぼすのでは?」

 

 イシワタとはテラに生息する植物の一種で、荒野でも育ち過酷な環境に耐えることから開拓地や【天災】の被害を受けた土地などで綿布を作る際に利用されることがある。

綿の質は下の中程度なので、辺境では普通の綿花の代用品として扱われている。

そして名前に『イシ』があるように、イシワタは葉や幹に源石クラスターが非常に出来やすい性質を持つ植物である。

 

 源石に侵されやすい植物のイシワタは源石対策の道具には不適切ではと思うアーミヤだったが、ミスターソニックは資料の一部をつついて持論を述べる。

 

「ワシの考えじゃが、このイシワタは種を源石から守るために葉や幹に源石を誘引しているのだ。葉や幹に源石が出やすいのはそれ故じゃろう。源石を濃縮した葉や幹を自切することで重要な花部分への浸食を抑えているのだ。その証拠として、イシワタの綿花を収穫する際に源石が花部分にまで至っているケースはあまり報告されていない。あった場合の株は葉も幹も全て源石に覆われているような個体だったから、葉や幹が源石を貯め込める限りは花部分への影響は小さいと思う」

 

 ミスターソニックはイシワタの生育データを表示し、その性質を詳らかにする。

『イシワタは源石に弱い』という認識だったアーミヤの視点からは生まれない発想だった。

 

「加えてこいつは恐らく毒沼や塩湖でも育つと思うぞ。そもそもイシワタは葉に有害成分を溜め込み切り離すことで身を守っておる。源石も溜め込むせいで葉や幹に源石がつくようになったようじゃが、これなら土地の質を選ばず栽培できるし、肥料をちゃんと与えてやれば綿も十分な量も取れる。触り心地等の質はさておき用途をマスク限定にすることで綿布も大量に確保できる筈じゃ。後はオリジムシが源石を取り込んで殻を作る際に分泌する体液をマスクの外気側に塗れば、源石粉塵に反応してマスクの色が変わる仕組みが出来るじゃろう。これなら目に見えて耐用限界も判りやすくなると思うぞ」

「い、イシワタにそのような効果があるなんて知りませんでした」

「ついでにこの性質を利用すれば汚染地域の浄化にも使えるんじゃないかの」

 

 気の長い話ではあるがな、とミスターソニックは呟く。

こうやって説明を聞けば、イシワタが不適切な植物だとアーミヤは全く思えなくなっていた。

知らなかったことがすっと頭に入ってきた感覚に感動する彼女に、ミスターソニックはタブレットを渡して言った。

 

「イシワタの性質が気になるようならあの『黒いの』かケルシーにも確認をとるがいい。あの二人ならイシワタのことを言えば同じ結論になるじゃろう」

「……まだ『ドクター』のことを『黒いの』呼びするんですか?ミスターだけですよ、ドクターをそう呼ぶのは」

「ふん、あやつにドクター呼びなど百年早いわい」

 

 鼻を鳴らしてそっぽを向くミスターソニックにアーミヤは苦笑した。

 

 この老人は基本的に他者への敬意があまりない。

一線を引いている、というよりも自分が上で他が下というのを前提として、自分より優れているところがあればその者の評価を一段上げるといったところだ。

それでも自分のほうが上だという意識は変わらないが、そんな態度の彼でも一目置くのがケルシーやクロージャ、そしてドクターのような極めて秀でた才や技術を持つ人達だ。

ミスターソニックはケルシー達の優れた技術や知見については認めており、ケルシー達との会議では『まっとうな技術者』という彼の貴重な態度を見ることができる。

ただし、ドクターのことを決して『ドクター』とは言おうとせず、大抵は『黒いの』と言っている。

ミスターソニックは周囲からは身元不明の新参者に加えてその不遜な物言いで顰蹙を買っていたが、彼にケルシー達に並ぶ凄まじい技術力があり、ドクター自身がその振る舞いを気にしていないためとりあえず脇におかれている。

なお、彼にとってアーミヤは『子ウサギ』で、彼女はいつも子ども扱いされてばかりだった。

 

[ミスターソニック様!お願いです、どうか私のパワーセルを改造してください!]

 

 そんなやり取りをしている時、いきなりルームの扉が開いたかと思えばTHRM-EXが音声ユニットから大音量を鳴らしてミスターソニックに改造を要望してきた。

その音に思わず耳を塞いだ二人、そしてミスターソニックはこめかみを引きつらせて怒鳴り返す。

 

「またキサマか!何度断ったか覚えておらんのか?!」

[前回で四十九回目です、ミスターソニック様!今回のお願いはなんと五十回目、実にキリがいいですね!ですのでパワーセルの寿命が更に五十時間延長するような改造をお願いします!]

「やかましいわ!」

 

 まだ頭の中で音がきんきんと響いているアーミヤの前で、老人とロボットが大声で殴り合いのような会話が繰り広げられた。

 

THRM-EXはクロージャに並ぶミスターソニックの技量を見込んで度々パワーセルの改造を依頼していた。

事実、ミスターソニックが手掛けたロボットやドローンなどの機械は数多くが耐用性や燃費が向上しており、現在彼の所属を巡って医療機器部門とエンジニア部門をはじめとした各部門で殴り合い(交渉)が繰り広げられている。

なお、マシン性能アップの改造はミスターソニックの気分が乗れば行う状態なのでロドス内の機械全てが更新されたわけではない。

彼の気分次第という状況に不満を漏らす者はいるが、一方で優れた奇人変人の多いロドスではそれもまた一種の個性として受け入れられている。

因みにTHRM-EXはそんな事情などまるで無視して己の更なる性能アップを求めて度々ミスターソニックに直談判をかけていた。

 

「よかろう……キサマの望み通り、パワーセルの容量を倍にして寿命が百倍になる改造をしてやろうではないか」

[ひゃ、百倍ですと?!さーすーがーです!ミスターソニック様、貴方様ならして下さると思っていました!]

 

 ミスターソニックが拳を震わせ、絞るような声で放った言葉にTHRM-EXは歓喜の発信音を鳴らせる。

 

「その代わり……」

[その代わり?]

「キサマ自慢の爆発機構と、そのよく回る発話回路にまわされるエネルギーも全てパワーセルに転換させて、キサマをただのタイヤ付きバッテリーにしてくれるわ!」

[お、おやめくださいミスターソニック様!そのような改造は改造ではなく処刑というものでは?!]

「良く判っておるではないか、ほれ、パワーセルを改造したいんじゃろ?とっととあのボックスに入って電源をオフにするんじゃ!」

[あれは機械を分解して資源を再利用するためのリサイクルボックスであって私達を輸送するためのボックスではありません!クロージャ様、お助け下さい!!]

「ええい、今日という今日は覚悟しろ!キサマを叩きのめし、ロドスのドローン専用バッテリーに改造してやるわい!」

[ひえーっ!どうかお許しを!どうかお許しくださいミスターソニック様!]

 

 普段ならエネルギーショックを直ちに発動するべく温存しているエネルギーを、THRM-EXはタイヤの駆動に全て回してこの場からの遁走に費やした。

あと少しでも遅くその場にいれば、ミスターソニック謹製の改造用作業アームデバイスがTHRM-EXを物言わぬ高効率バッテリーロボットに仕立て上げていたかもしれなかったからだ。

 

「逃がすか!まてーぃ!」

 

 ミスターソニックは部屋に置いてある作業アームデバイスと空圧ジェットパックを担き、逃げ出したTHRM-EXを追いかけるべく部屋を飛び出していく。

 

 その場に一人残されたアーミヤは、とりあえず先の提案をドクターとケルシーに伝えに行くことにした。




◆感想や改善点などございましたら是非お願いします。
続きは近日投稿の予定です。
なお「イシワタ(石綿)」と言えば現実ではアスベストのことを言いますが、ここでは単に「源石が点きやすい綿植物の名称」として用いていますのであの冒険家オペレーターとは関係ありません。
(個人的に彼女の隣にトカゲ型のアニマルロボットがお供にいてくれると楽しい気がします)
※植物学について詳しくないのでふわっとそういうものだと思っていただけると幸いです。
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