The great Great GREAT Doctor is Me ! 作:東京<アズマ キョウ>
Ifストーリーとしてはここで終わりになります。
残る1/3は同時投稿しているミスターソニックのオペレーター風プロフィールになります。
オリジナルプロフィールは前々からやってみたかったことでしたので楽しかったですが表の挿入が……難しい……
「ワシの成果は『核爆弾級』じゃろ?」
核ってなんのことだろうね?言った本人も首を傾げてたけど
◆ロドスアイランド・ドクターの執務室◆
ミーティングテーブルに並べられた新型防塵マスク用素材の検討資料、その一番上にイシワタの写真付き書類が載せられている。
アーミヤから報告のあったミスターソニックの提言を受け、二人は最初訝りながらもイシワタのことを調べてみたが、その性質を理解し終えると揃って溜息しか出なかった。
「……驚いたな。確かにイシワタなら素材の条件を満たせる」
「成程、イシワタと言えば『貧者の綿布』と渾名される程度には綿の条件を満たしている。荒野や荒れた場所でもある程度の生長が出来る点、適切な肥料管理が出来れば綿の粗さはさておき十分な収穫量も期待できる。イシワタの性質上、源石汚染の影響を強く受ける故に不適合と思っていたが、源石部分がより分離しやすい性質であると考えればむしろ除染作業の面で簡単になるといえる」
マスク製造の過程で布地部分は対塵コーティングと除染処置を行うが、その際に重視されるのは素材の源石汚染耐性の強度だ。
たとえ安価な布素材があっても、源石粉塵を吸収しやすかったり素通りしてしまったりするなら当然素材候補からは除外される。
イシワタもまた汚染耐性が弱い植物という認識があったのだが、ミスターソニックの指摘を受け偏見を除いて資料を精査してみればイシワタの汚染耐性は決して低いものではなくマスク素材としては十分に性能を満たすものだった。
加えて荒野育ちで生息条件も幅広い種なので、栽培や増産の点でとても助かる素材でもあった。
こうして今までイシワタを考えもしていなかったドクターとケルシーは、いざイシワタのことを正しく検討すれば実に有用な資源であることに気づいたのだった。
「どうして今まで気付けなかったのか……布素材の候補は広く検討していたつもりだったが」
「イシワタの生息する環境のせいだろう。あの植物は基本的に他の競合生物が生息しない過酷な環境を選ぶことで生存競争を凌いできた。そういった環境は自然と人目のつかない場所になり、私達も意識から除外していた。また源石部分が葉や幹に現れやすい性質は他の植物と比べても顕著であり源石を避けるものにとっては忌避すべき植物として認識されている点もあって、今回の対源石デバイスの素材選びにおいて最初から検討していなかった」
「それと彼がオリジムシの外殻分泌液についても言っているが、ついでにイシワタで採れた源石部分の葉や幹をオリジムシに与えれば分泌液の生産に役立たないか?」
「た、確かオリジムシに源石を与えると外殻生成が早まるという研究がありましたね!除染技術研究の一環だったはずですが、確か高濃度汚染だとオリジムシのほうが耐えられなくて、外殻生成に適した濃度の源石はわざわざ準備するほうが大変だから費用対効果がないとして研究は終わったそうです。でも、イシワタの性質なら葉や幹に溜まるのは低濃度の源石塊になるはずです。オリジムシの飼料かつ外殻形成促進も検討できると思います」
「そういえば布と葉と虫……この単語で絹作りを思い出すな。確かマスクに適した最高品質の布は絹だったか。彼に絹の増産効率向上について意見を求めてみてもいいかもしれない」
「イシワタ製の防塵マスクについては、まずは試作して実用性と生産性のテストをする。アーミヤ、この資料と指示書を製造部試作課に持っていくように。その時にイシワタについて説明をしてほしい。彼らもイシワタで試作するという発想には至らずこの指示に疑問を呈する可能性がある。理由が既に判っているアーミヤの説明があれば理解できるはずだ」
「判りました、ケルシー先生」
ケルシーは手早くミスターソニックの資料と指示書にサインを入れると、アーミヤにそれを手渡し彼女に試作課へ向かうよう頼む。
アーミヤはぴょこんと一礼し、速足で部屋を出て行った。
彼女が立ち去った部屋の中で、ドクターはケルシーに彼のことを尋ねた。
「ケルシー。ミスターソニックの事だが……まだ彼
「そうだ。先日三度目となる総合メディカルチェックを行ったが、結果は過去二回のチェック同様に脳の異常は全く見られなかった。にも拘らず彼の記憶は未だ戻る兆しはない」
「……彼は一体何者なんだ?」
ドクターは息を漏らすようにつぶやき、ケルシーは目を細めて伏せる。
「その予測を立てるにはまだ情報が足りない。実施したメディカルチェックでも彼の出自を推測できるようなデータは検出できなかった。彼ほどの才能と技術力があればライン生命でも上位の地位に就けるだろうが、ライン生命はおろか他の移動都市でも彼の影響を彷彿とさせるような技術の所有者は見当たらなかった。かつて滅びたガリアの情報筋も洗ってみたが成果は皆無だ。現時点で得られたデータでは、彼は『全くの無から現れた』としか言いようがない」
ロドス甲板の上空からいきなり現れて降ってきた老人の情報は、ケルシーが手を尽くして収集に当たったが全くと言っていいほど見つからなかった。
当人が記憶喪失になったこともあるが、それを踏まえても彼の過去を推測する要素がどこにもないのだ。
無名の科学者というのはどの国にもいるが、ミスターソニック程の実力者がこれまで無名だったというのは考え辛く、もしも他国で立身していれば相当な影響力を誇ったはずだ。
例えば科学研究が盛んなクルビア、サイレンスやサリアの属するライン生命なら間違いなく彼は主任クラスに抜擢される。
例えば優れた機械工学を誇るイベリア、武装や軍備に定評のあるかの国なら彼の発明を大々的に利用して世界を席巻していることだろう。
例えば守護銃という無二の兵器を抱えるラテラーノ、仮に彼が守護銃を強化する技術を培えば遠距離攻撃においてラテラーノは無敵の存在になる。
或いはガリアのような滅びた国の一般人で、彼に財や権力がなく発明に専念する余裕がなかった可能性はゼロではない。
しかし彼のような才能、いやあの性格の持ち主であれば、ロドスと接するまで水面の底に眠る
にも拘らず、情報は出てこない。
宛らテラの大地、この世界にいきなり人間が一人虚空から現れたとしか言いようがないほどに。
「彼が甲板で倒れていた時に傍に転がっていた二つの宝石……多重面体型と楕円型の宝石については何か判ったのか?出所が判れば彼についての判断材料になると思うが」
「……あれも詳細は不明だ。が、判った事はある。少なくともあの宝石は『極めて高出力のエネルギーを内包している』。そのエネルギー量はロドスにある計測器の許容量を超えていることしか判らない。特に多重面体型の宝石については仮に計測できたデータだけで推測しても、ロドス本艦の全エネルギーをあれ一つで賄える可能性すらある」
「ロドスの全てか、凄まじいな。エネルギー、ということはあの宝石は高純度の源石結晶体か同系列の鉱石なのか?」
「それは違う。源石は高純度であれエネルギーを生み出すサイクルにおいて崩壊性と浸食性を有し安定さに欠ける性質を持つが、あの宝石の組成は極めて強固で安定した状態でエネルギーを外部に放出している。その放出されたエネルギーに有毒性はなく、それだけを見ればあれは極めて優秀なエネルギー資源であると言える」
「……つまり、理想的な『第二のエネルギー』ということか」
「現状としてはリスク面の検証が出来ていない事、エネルギーの安定性が一過性でないと証明できていない事、そしてあの宝石の付近に居た彼がその影響を受けたがために記憶喪失になった可能性がある事。こういった点が懸念されるため、調査は一時中断させている」
「現実はそうバラ色じゃない、か。だが世界には源石以外のエネルギーが存在する、それが判るだけでも大きな一歩だろう」
更なる謎、手のひらを覆って余りある大きさを誇る二つの宝石は、一目見ただけでその金銭的、美術的価値が高いことを察するだろう。
これほどの大きさはサルゴンの皇帝が持つ【無瑕の宝玉】を上回っている。
もしも第一発見者が幼い入院患者でなければ、この宝石の放つ光に魅了されて我が物にしようとしていたかもしれない、そうなれば新たな【無瑕の宝玉】の始まりであったろう。
真贋の鑑定のために意見を求めた、出自から美術品で目が肥えている二アールやスワイヤーですらそれらを前に息を呑んで目が離せなかったのだから。
しかし、この宝石の価値は際限なく積み上がるであろう金塊や貨幣の量では決して語りきれるものではない。
エネルギー、それも高純度の源石でも捻出できないほど莫大なパワーがこの宝石の中に眠っているのだ。
ロドス艦内全てのエネルギーを賄えるとドクターに伝えたが、多重面体型の宝石は恐らく【移動都市】すら動かせるのではないかとケルシーは推測している。
彼女の知識と経験の全てにおいて埒外の存在だった。
これさえあれば、人類は源石という文明の血であり己を蝕む諸刃から解放されると思えるほどに。
そのようなものがなぜ彼と共にあったのか、判る者はどこにもいない。
「彼を見つけた時、あの宝石を握っていたということだが……あれは彼の所有物だったんだろうか。あれを見せれば、彼の記憶を戻せはしないだろうか?」
「……あれを彼の手元に返すのは賛成できない」
「何故だ?あれは彼に関する重要な鍵のはずだ」
「我々はあの宝石から出るエネルギーの制御ができていない。現在あの宝石は高純度源石専用の保管ケースに密封しているが、それでもエネルギーの観測ができる程に強い力を有している。あれを彼に見せるにはケースを開く必要があるが、少なくともロドス艦内では絶対に容認できない。あの宝石は現時点では我々に危害を与えていないが、それは安全であると証明されたわけではない。持ち出す、研究する等の行為は慎重を期すべきだ」
「そう、か……」
ドクターが肩を落とす様を、ケルシーは沈痛な面持ちで見た。
ケルシーはドクターにとってミスターソニックを、かの老人側がどう思っているかはともかく、同病相憐れむ存在として見ていることは理解している。
チェルノボーグの石棺から目覚めたドクターは過去の記憶、かつてケルシーやアーミヤ、テレジアや他の人々との記憶を失っている。
そして己の事も判らないままチェルノボーグの騒乱に飛び込むことになり、龍門と張り合い、レユニオンと不死の黒蛇を相手に戦い、今もなおテラの大地に蔓延る【鉱石病】に立ち向かっている。
己を示すバックボーンが己の中に何もないままで、世界の病理に真っ向から挑むドクターの重責は計り知れない。
無論ケルシーはドクターがいつかはこの困難を乗り越えるだろうことは信じている。
だが、その信頼と今のドクターが抱えるどうしようもない孤独感は別の領域だ。
確かにロドスにはドクターの他にも、『クオーラ』や『スルト』のような記憶喪失者や記憶障害者がオペレーターとして在籍している。
しかしクオーラやスルトはまだ其々の種族が明らかで他の同族オペレーターが誼として交流をしているが、ドクターはどこまで行っても独りしかいない。
『ドクター』は、『ドクター』しか世界に存在しないのだ。
今、彼を慕う者が多くいるのが救いである。
もしもドクターが彼らを喪うことがあれば、ドクターがその時ドクターであり続けられるのかはケルシーに断言できない。
万が一彼がその
そういう点で、いきなりロドスの甲板に降ってきたあの老人はあらゆる意味でイレギュラーの存在だった。
コードネーム:ミスターソニックという老人は、ドクターが持つ『ケルシーやアーミヤが知っている過去』すら存在しない。
種族的特徴がどれにも当てはまらず、まるでドクターと同じような肉体的特徴を有しているがケルシーには彼のような人物の心当たりがない。
そんな謎だらけの老人はドクターのように記憶を失い、更に言語経験すらも手放している。
ただ意識を取り戻した当初、彼は古代のガリア語ともヴィクトリア語ともとれるような声こそ発していた。
しかし誰も彼の意を理解することはできず、結局は一から言語を学びなおすことになった。
尤も、彼がいざ言葉や世界史、地理、文化、情報を学び始めると砂が水を吸い取るかの如き速さで全て習得し、あまつさえ並の技術スタッフでは彼の後塵を拝する程に老人の科学力は卓越している。
そうしてミスターソニックはロドス内の設備に画期的なアップグレードを施し、源石粉塵100%カットのマスクを設計し、【Arti-Skin】のようなメガヒット商品を開発したことで、クロージャに比肩する稀代の技術者としてロドスの研究者から一目置かれてるようになった。
彼の老人は、既にロドスにとって極めて有用な存在になっている。
彼の発明は【Arti-Skin】に留まらない。
例えば先のマスクに使われた源石粉塵除去技術。
【鉱石病】感染を防ぐには空気中の源石粉塵が体内に入るのを防ぐ必要があるが、彼の発明品はその源石粉塵すらエネルギー源にして稼働できる程の効率性を誇る。
空気を取り込むだけで装置が動くのであれば、いつかは源石粉塵が舞う地域では空気中の粉塵だけでも稼働できるようになるかもしれない。
これをもしも他の機械技術に転用できれば源石燃料の節約に大きく貢献できるほか、燃料物資の補給が難しい遠方の地でも活動に必要な設備を作ることも視野に入る。
源石鉱山等に行き渡れば採掘従事者の感染リスクも抑えられるかもしれない。
例えば新技術による化学的合成肥料。
テラの大地において穀物や野菜、果樹向けの肥料は畜産業界が供給を一手に担っており、基本的に飼育されている駄獣や羽獣から出る糞、飼料の残飯、死骸自体や屠畜時の廃棄物を加工処理して作られている。
つまり家畜の量が有機肥料生産量の上限であり、これまでの肥料事業はいかに家畜の量を増やして肥料作成時の無駄を減らすかに尽力されていた。
しかしミスターソニックの発明は、特殊な磁石を触媒にして家畜に依存しない化学的な肥料の作成を可能にした。
現在量産化に向けての研究がなされているが、これが実現すれば土地の痩せた辺境でも肥料が供給できるようになり食糧の大量生産も夢ではなくなるだろう。
他にもロドス内の製造設備を効率化させたりドローンの燃費を改善させたりと、ミスターソニックの貢献はロドスに特大の恩恵をもたらしている。
一部の企業や移動都市はロドスの技術的発展に気づいて接触を図っており、新発明の技術特許を己が勢力に持ち込めないかと交渉をかけてきている。
クルビアのとある人物からは、移動基部を準備するから共同で研究所を開設しようという打診すらある。
身元不明故にまだミスターソニックを正式にロドス所属の研究者として公にしていないにも拘らずこうであり、そのうち彼の才能に焦がれた者が現れ新たなチームが生まれてもおかしくない。
果たして彼がロドスに来てからまだ一年も経っていないと、ましてや言語や文化を学び直して幾許も経ていないと言われて誰が信じられるだろうか?
故に、ケルシーは警戒する。
あの老人は
技術の限界の破壊者であり、発想の壁の破壊者であり、常識の枠の破壊者である。
今はまだその破壊のエネルギーがロドスないしテラにとって正の方向に向けられているが、それがいつか逆転して牙を剥くのではないかの懸念をケルシーは払拭できない。
記憶こそ失くした老人だが、彼の性格と心の底から滲み出る上昇志向性はかつての彼がどういう人物であったかを察するに余りある。
確かにドクターの言うように、あの老人にかの宝石を見せれば記憶が戻るかもしれない。
しかし彼の記憶が戻れば、恐らくケルシーでも想像もつかない破壊をもたらす可能性がある。
今の所ミスターソニックは(あれだけの『とんでも』をやらかしても)一応大人しくロドスに腰を据えるつもりでいるようだが、記憶が戻った時にどうなるかは定かではない。
仮に戻らなかったとしても、あれほどの頭脳の持ち主がかの宝石の真の価値、莫大なエネルギーに気づかないわけがなく、宝石を必ず欲する筈だ。
ましてや彼の側に落ちていたとなれば所有権を主張してもおかしくない。
移動都市すら動かしかねないエネルギーを彼が何に利用するのか。
彼がロドスに来て日は浅いが、少なくとも宝石をロドスのために使うとケルシーは思わない。
彼がアレを活かすと決めたなら、それは恐らく想像もつかない破壊をもたらすことだろう。
だから、ケルシーは老人に宝石を近づけない。
少なくともロドスが、ドクターが、アーミヤが、皆の無事が確かなものだと判るまでは。
ロドスの最も厳重な保管庫の、更に密閉された保管ケースの中で、二つの宝石が波を帯びて煌めいている。
◆ロドス・甲板◆
THRM-EXを追いかけまわし、捕まえた所で強引にエネルギーショックを起動させ時期外れの花火代わりに打ち上げたミスターソニック。
彼は一度私室に軽食入りの保冷バッグを取りに行ってからロドスの甲板に足を運んでいた。
ここで自分が気絶しているのが見つかったとロドスのスタッフから聞いているが、彼にはそうなった経緯の記憶が一切ない。
彼も失った記憶を取り戻すべく手を尽くしているものの、その成果は芳しくなかった。
「あの『黒いの』やケルシーがワシ相手に何かを隠しているのは判っている。恐らくはワシの記憶にまつわることじゃろう」
誰もいない甲板のベンチに座り、ミスターソニックは独り言ちる。
遠方の山にしか樹木が見えない土と石ころばかりの荒野は、彼が思索にふけるに丁度良い静寂を与えていた。
「事実、ワシにはこの景色、ロドスから見るこの大地や空、二つの月に移動都市、すべてに対して見覚えがない。じゃが、どうもこれは記憶喪失というよりも本当に見たことがないようにも思える。ワシの頭の中にある、うっすらとした記憶や景色は、こんな移動都市の轍でいっぱいの土気色ではなく、もっと色鮮やかで、そう、もっと躍動感のある『青』があるはずじゃ。……なぜか青を思いだそうとすると妙に腹立たしい感情が湧き出て困るが。それにワシのこのコードネーム、何故かこれが出てきてしまった。おさまりがいいような、しっくりこないような……何じゃろうな、この感覚は?」
ドクターや他の者には明かしていない事だが、実はミスターソニックは記憶を完全になくしていた訳ではなかった。
彼が秘匿したのはケルシーが己に向ける警戒心を察知したためであるのと、残った記憶がどうにもロドスから見える景色や資料とは合致しなかったからである。
明かせば記憶回復の一助になるかもしれないが、それが万が一ケルシー達にとっての急所であれば口封じされる可能性がある。
よって彼は、己の身の安全が確たるものにならない限りは明かさないことにした。
更には自身のコードネーム。
ロドスの教育資料でひとしきり言語について学んだ彼は、ロドスのオペレーターとして生活するために誰もが名乗るコードネームを考案することになったが、何個かの候補が挙がる中でふと脳裏に浮かんだものがある。
『ドクター』『エッグマン』『ソニック』高速で駆け抜ける『青』。
これは【核】だ。
忘れてはならない、手放してはならない。
己が何歳なのかは覚えていないが、幾星霜を経て掴んだ何かなのは間違いないと確信した彼はロドスのコードネームとしてどれかを名乗ることに決めた。
単語をいくつも組み合わせては考え直してをくりかえし、最終的にはドクターは
名前としては悪くないと思っている。
これが彼を彼たらしめる、手元に唯一あるアイデンティティだ。
だがミスターソニックはそのことを全く悲観していない、何故なら己にはロドスの知識陣を圧倒する高い知力と科学力も備わっているからだ。
故に彼は、この地上を走る艦を仮住まいとして雌伏の時を過ごすことにした。
科学力を以て地位を挙げてロドスを牛耳る立場になるか、或いは【Arti-skin】を始めとした新製品から湯水のように得られる特許費や開発者利益を元手に独立できるようになるまでは。
その時には
「まぁ、いいわい。ワシとてまだこのロドスに来て日が浅い。ワシのやりたいことをするには金を貯めるかロドスでの地位を高めねばならん。見ておれよあの猫娘……いつかワシがキサマのことを顎で使ってやるからな!ヌワーハッハッハッハッハ!」
ケルシーはミスターソニックに何かと
いつかやり返してやると思っているがそのための手段や手駒が足りないため、今のところは屈するしかない状態にある。
試しにミスターソニックは想像する。
あの不愛想な医者が己の命令を受けて秘書のように書類を取りに行ったり、彼女の飼っている?Mon3trが己を乗せる人力車を牽いて動く様を……その姿はさぞ面白かろう。
いつか来る未来を想って大きく高笑いをしてから、彼は保冷バッグから食堂で作ってもらったチーズ&スモークベーコンバケットサンドイッチを取り出して。
「おじーちゃーん!」
「ぐっふぉ?!」
「いただきます!」
いつの間にか甲板に来ていたらしいケオベのタックルを丸々とした胴体に食らった。
その衝撃で手に持っていたバケットサンドイッチが宙を舞うが、ケオベはミスターソニックの胴体をトランポリンにして上空に飛び出し、勢いそのままにキャッチしてかじりついた。
「
「おい、コラ!ケオベ!いきなりワシの腹に突っ込んできおって!」
「おかわり!」
「あげません!ケオベ、オヌシには前々からワシに物をねだるならどうしろと言っておったか?!」
「あ、そうだった!」
ケオベはぴんと耳と尻尾を立ててから、背中に担いだウェポンホルダーを置いて中をごそごそと漁りだす。
「はいこれ!」
「どれ、見せてみろ」
ケオベはホルダーの中から武器を一本取り出してミスターソニックに手渡した。
ケオベはロドスの食堂で有名なつまみ食い系オペレーターの一角だが、ミスターソニックは彼女の食欲を利用することにした。
あえて餌付けを行い、その対価としてケオベが外出した折に入手した武器や道具の一部を提供するよう躾けたのだ。
ケオベは謎の巡り合わせでそういったものに出会うことが多く、ついでに荒野の通貨である源石錐を渡しておけばよく判らない経緯で珍品を持ち帰ってくることがある。
当たり外れがあるので必ずしもミスターソニックの望んだものが手に入るわけではないが、まだ自由な外出が許可されていない彼が艦外の技術や文化を手に入れるためのルートの一つになっていた。
ミスターソニックは薔薇の花と蔓が巻き付く飾りのついた華美な鞘、それと対照的に真っすぐで実用性を重視したような分厚めのナイフを矯めつ眇めつ分析する。
「ふーむ、意匠はリターニアの、しかし特徴は旧ガリアン式。リターニアのどこぞの貴族が戦利品をお国のデザインに変更したか。オヌシ、これをどこで見つけたか覚えておるか?」
「うーんと、バケツのマントからにょろにょろしてる人から貰った!あ、違う、
「バケツというと『キャノット』のグループか。まぁ、あやつのルートなら出所はともかく質に問題なかろう。よくやった、ケオベ」
「えへへー、おかわり!」
「ほれ、ワシが作ったソーセージじゃ。火を通すから少し待て」
「
「よだれを拭くんじゃケオベ」
ミスターソニックはケースの中に入れていたナプキンで
「……いきなりケオベが走り出したと思えば、ミスター。あの子にあまり三食以外の食事を与えないでほしいのだが。満腹になると廊下でも昼寝を始めてしまうのだぞ」
その傍らで携帯コンロを同じく取り出して網焼きの準備をしていると、彼の後ろからかんかんと甲板を踏んでこちらに来る足音があった。
ミスターソニックが振り返ると、そこには欠けた角と無骨な鉄の脚を携える痩身なミノス人女性が立っており、呆れた様子で彼とケオベの許に近寄ってきていた。
「『ヴァルカン』か、オヌシも来たか」
「工房作業が一段落ついてね。気分転換で甲板にケオベと一緒に来たところだったが此処に来た途端な。この子はミスターのおやつがお気に入りらしい」
「こやつに与えるために準備しておる訳ではないのだがな。ワシが何か食おうとすると何処からともなく現れよってからに。まぁ飯についてはこやつにも言い聞かせておる。そこは駄犬の躾と同じじゃよ。ほらケオベ、ソーセージが焼けたぞ。購買部から分けて貰ったクレープを巻いてから食べるように。手を汚すんじゃないぞ。燻製玉子もあるが、オヌシの
「
ケオベは自分の指三本分の太さのソーセージをクレープと共に齧り付く。
焼きたての香ばしさと濃厚な肉汁、弾力ある腸皮と歯ごたえある具材が口の中に溢れ出す。
外に漏れた肉汁はクレープが吸い取るので、ソーセージは余すところなくケオベの腹に収まっていく。
今日は当たりだとケオベは思った。
特に具材の中にこりこりとした
味付けは濃いめの香辛料が強く、ミスターソニック曰く『セントラル式』らしい。
この『セントラル』というのがケオベには、しかも言い出したミスターソニックにも判らないものらしいが、この味が外を出歩いて汗をかいたケオベの体に良く染み込む味だった。
「ヴァルカン、酒を寄越せ。その腰の鞄にスキットルが入っているのは『パラス』から聞いているぞ。ユーネクテスから貰ったサルゴンのナッツジュースがあるんじゃが、現地では酒で割って呑む者もいるというでな」
「あの飲兵衛め……私にもジュースとソーセージをくれ、交換条件だ」
「良かろう。味はどうする?」
「ハーブ入りはあるか?以前『パフューマー』がミスターのハーブソーセージを食べて美味しかったと言っていたんだが」
「あるぞ、しばし待つがいい」
ヴァルカンはミスターソニックが追加のソーセージを焼く隣に座り、鞄からスキットルを取り出して一口飲んだ。
「おい、酒は残しておけよ」
「その程度の調整はする、私を何だと思ってるんだ。それに酒自体は私の物なんだから少し位先に飲んでもいいだろうが」
「まぁブレイズやパラス、ホシグマの連中よりはマシではあるな」
「あいつらと私を比べるのは暴論すぎやしないか?」
ぱちり、とソーセージの皮が弾ける音が食欲を唆る香りと共に甲板の上に広がった。
◆感想や改善点などございましたら是非お願いします。
◆もしもDr.エッグマンのスタート地点がロドスだったら?のお話でした。
「何故記憶喪失?」「【アーク】はないのか?」と思われたかと思いますが、博士に下手なリソース与えるとさっさと離反だの独立だのしそうで、作者がどうしたら抑えられるかな?と考えた結果です。
記憶ありでもひょっとしたら面従腹背を熟せるかもしれませんが、その場合はアーミヤの読心術とケルシーの目星判定を突破しないといけないので記憶なしで解決することにしました。
なお、宝石は勿論カオスエメラルドとエッグエメラルドです。
【IR-01.世紀の大失敗】でワープ事故を起こし、エメラルドと博士だけ転移したパターンになります。
記憶喪失は本来アーク他膨大な物資を転移できるエネルギーをDr.エッグマンが一身に浴びたことによる障害で、エネルギーのせいで記憶が圧迫され隅に追いやられている状態になっています。
(それでも心の底に残っているものは押しつぶされていませんが)
なのでもしもカオスエメラルドとエッグエメラルドに接触した場合、Dr.エッグマンの中に押し込まれたエネルギーが調整されるため記憶を取り戻します。
そうなったら世界征服の開始です。
因みにカオスエメラルドのエネルギーが体に溜まっているのでやろうと思えばカオスコントロールやアーツめいた技術が使えるのが裏設定です(使い方が判らないので発動はしませんが)。
……書いていて今更思いましたが、ひょっとすると、エネルギー保持状態の今ならワンチャン博士はスーパー化できる……?