The great Great GREAT Doctor is Me !   作:東京<アズマ キョウ>

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◆気絶している最中に連れ去られた少女が地下の密室で悪党の老人と二人きり、と書くと別の意味で悪意ある表現に。
でもDr.エッグマンなら大丈夫そうに見える不思議。


SB-B3.Interview with Alien/Urusuress

暴風の前の、穏やかな小春日和。

過ぎ去って小雪のように散るまえの日。

狂乱の炎で消え、二度と戻ってこない時間。

 


 

◆◆◆

 


 それは尋問というよりも社会科授業で行った聞き取り調査のようなものでした。


 

◆◆◆

 

 アンナがDr.エッグマンと話し始めてから数十分が経過したが、内容自体はアンナが身構えるほどのものではなかった。

Dr.エッグマンが聞こうとした主だった点は特に政治的・国家的な重要性のあるものではなくウルサス・チェルノボーグに関する常識レベルの大まかな話と周辺諸国に関する情報、物価や流行といったアンナ程度の階級の市井にまつわるもの、そして【鉱石病】についてだった。

 

「ふむ、なるほど、そうか」

「あの、本当にこういう話でいいのですか?何というか、私にとっては常識的な話ばかりですが」

「問題ない。確かに常識レベルであり、ある程度はワシのほうでも予め調査は済ませておるが紙面での情報のみでは判断材料としては片手落ちだからの。こういうのは現地人に聞くのが有効じゃ。既に下流階級の連中からは話を聞いておるし、中流と上流の話は得ておくに越したことはない」

 

 アンナの疑問に聞き取りながらずっと手を止めずにメモを書いていたDr.エッグマンが答える。

 

「下流……それってガレージの子供達ですか?」

「なんじゃ、あやつらを知っておるのか」

「いえ、その、外で見かけまして」

「まぁいい。しかし【鉱石病】か……聞けば聞くほど無策極まれり、じゃな。全く、よくこれで文明が保ったもんじゃ

「……どういう意味ですか?」

「他も大体そうじゃが、ウルサス(この国)はとりわけ【鉱石病】という病に対して建設的な手段が一切採られておらんではないか。深刻な病だという認識があるくせに、行う対策が追放と殺処分も同然の強制労働とは呆れてものも言えんわ」

「……それはそうかもしれませんが、【鉱石病】ですからそうする他ないと思います」

 

 Dr.エッグマンのずけずけとした批判にアンナは眉を(ひそ)めながらお茶を飲んだ。

 

【鉱石病】は誰もが恐れ厭む死に至る病である。

一度罹患すれば二度と快復することはない。

己の肉体が徐々に冷たい石塊(いしくれ)に置き換わり、最期は源石を体から突き出させて朽ち果て、周囲に同じく【鉱石病】の元となる源石を撒き散らして死に絶えるという生者に対する呪いと行っても過言ではない病気だ。

そのようなものが自分を襲うかもしれないと思えば感染者となった人達には同情こそすれ忌避感を抱くのはアンナ達にとって当然のことだった。

例えウルサス帝国の対応が過激極まりないものであったとしても、自分達とて感染者の仲間入りをしたくない以上どうこうできる話ではない……故にDr.エッグマンの批判はアンナにはうわべだけの批判にしか聞こえなかった。

 アンナのそうした非難する視線を受けるDr.エッグマンだが、Dr.エッグマンはだから何だと言わんばかりに鼻で笑った。

 

「世界には一度罹れば数ヶ月で死ぬ出血病だの二度と正気を取り戻さない伝染病だのがあるのだ。それらに比べて時間的猶予が特に長い【鉱石病】を恐れて何も手を打たないのはワシから見れば思考停止以外の何物でもないわい。未知、いや、無知から来る無明によってその場で踞っているのと変わらんじゃろうに」

身勝手なことを言わないでください!病の種類とか程度とかの話で済むことじゃないんです!只でさえ治らない病なのに、そんな軽々しく……!」

 

 アンナはDr.エッグマンの【鉱石病】に対するあまりに軽率な認識に思わず声を荒らげた。

幸いなことにアンナの身内に感染者は出ていないが、彼らの痛ましい末路は骨身に染みて理解している。

自分達が同じ目に遭わないようにするにはとにかく感染者(原因)を遠ざけ離しておくより手はないのだ。

しかし、アンナの言葉を聞いたDr.エッグマンの態度は変わることがなかったためアンナは一度激昂するが、徐々に何故眼前の人物がこうも落ち着いているのかと訝しい感覚を覚えた。

 

「……随分と余裕なんですね。何故博士は【鉱石病】のことを知っていながらそんな態度をとっていられるのですか?自分だけは感染者にはならないとでも?確かに除染室(こんな部屋)を作れるだけの技術を持っているだけに自信が……ある……ので……」

 

 その姿に言葉を捲し立てようとしていたアンナだったが、自身の思考で血の気が引く感覚と同時に異様な血流の高まりを覚え、震え始めた口を抑えて冷静になろうとした。

 

「(そう、そうです。こんな部屋を、アーツを封印できる部屋を作れるんです。だったら……まさか……【鉱石病】すら……?!)」

 

 アンナは口を抑えたままDr.エッグマンのほうを見やると、震える喉でどうにか彼女の抱いた推測を口にした。

 

「防ぐことが出来るんですか……【鉱石病】を?」

 

 Dr.エッグマン(悪の天才科学者)は足を組み、我が意を得たと言わんばかりにふてぶてしく笑った。

 

「まだ完全には出来ておらんがな。少なくともECRに居る限りは【鉱石病】の進行を止め、源石成分の減少を引き起こせる。そのことは浮浪児やスラムの連中で実験、証明済みじゃ」

「!!」

 

 アンナは思わず部屋を再び見回した。

今いるこの部屋が本当に【鉱石病】への切り札となるならば……只の学生でしかないアンナでもその価値の高さは嫌でもよく判る。

【鉱石病】への効果に関する証明云々がDr.エッグマンの嘘である可能性は皆無ではないが、他に類を見ない高度な性能を持つロボットを見てしまっている以上全くのデタラメではないとアンナは思い知らされた。

 

「……すごい。だったら、病気の進んだ感染者をこの部屋に入れれば病気の悪化をリセットできたりもするんですか?」

「現時点では予備群及び軽度であれば実証できておる。中度以上の【鉱石病】罹患者については要検証だがの」

「……っはー」

 

 恐らくはこの星の歴史において空前絶後の快挙と言えるであろうECRの実績を事も無げに言い放つDr.エッグマンに対し、夢物語の現実化という衝撃と大した事ではないと言わんばかりの態度に対する呆れがない交ぜになったアンナはまだ温かいお茶をとりあえず飲み干す。

お茶の香りと温もりがアンナの体に染み渡り、彼女の大いに乱された心を落ち着かせてくれた。

女性ロボットが再びアンナのカップにお茶を注ぐ。

 

「だからワシはオヌシの国の馬鹿共(上層部)に呆れたのじゃ。ワシのような天才科学者ほどの成果を求める酷なことは流石に言わぬが、それでも何かしらの出来ること位はあったじゃろう。その結論が病人の迫害・追放とは考えなしであることの証明ではないか。まぁ、科学者や医者ではないオヌシに言った所でどうにかなる話でもないがな」

 

 Dr.エッグマンは同じく空になったカップにお茶を注がれながらお茶請けをむしゃむしゃと頬張る。

 

 Dr.エッグマンの言葉は完全にウルサス帝国の方針を謗ったものであるが、実際に彼の実力を目の当たりにしたアンナにはそれが無謀な驕りとは思いきれなかった。

むしろ、開口一番に言い放った『世界を支配する』の自信の根源はこれかと納得できる程だった。

もしもECR(この部屋)がDr.エッグマンの言葉通りの性能を発揮するなら、大枚を叩いてでもECRを求める貴族や大企業は後を絶たないだろう。

ECRが死刑執行(【鉱石病】)延期させ(食い止め)る、或いは死刑宣告(【鉱石病】)撤回させ(予防す)免罪符(手立て)となるならば、それを製造できるDr.エッグマンの存在はただ血筋の年数だけが取り柄の名家名門よりも遥かに重要な存在として好待遇を約束されてもおかしくない。

更に言えば、感染者と接触する仕事を先程から甲斐甲斐しくアンナのお茶の世話をしてくれるロボットに任せることができれば罹患リスクはより抑えられるだろう。

これほどのこととなれば、英雄譚を扱った小説などでは『目覚ましい活躍を果たした青年がその功を認められ貴族に取り立てられる』という設定はしばしばみられるが、実際に『青年』の所を『宇宙人』に替えても、いや『老人』に替えても成り立つ筈だ。

国との縁を強めるためにうら若き姫と婚約を結ぶというのも物語ではよくある話だが、この場合は眼前の老人(Dr.エッグマン)に後妻といって貴族の未亡人を紹介することもあり得る。

そうしてどこかの国がこの博士の技術を得られたならば国家間のパワーバランスはとんでもないことになるだろう。

 

 

「(なんでこんな人がチェルノボーグに地下室なんて造ってるんですか。確かタストントに本拠地?があるんでしたっけ)」

 

 アンナは片手で顔を覆いながら天井を仰いだ。

尤も、只の学生に過ぎないアンナの立場上Dr.エッグマンと住む世界が違うであろうことから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということが不幸中の幸いだった。

そもそも一学生ごときが手に負えるような相手ではない面倒臭い存在とアンナは痛感した。

同時にこの先Dr.エッグマンと関わりを持つ人物は様々な厄介事やデタラメな事に巻き込まれるのだろうなとアンナは思った。

 

「(……何だか鼻がむずむずします)判りました。博士のデタラメ具合が私の理解を遥かに越えているのが判りました」

「フッフッフッフッフ、ワシの偉大さに圧倒されるのも無理はない。

何故なら!

ワシこそが世紀の天才科学者!

Dr.エッグマン様だからじゃ!!

 

ヌワーハッハッハッハッハ!!!

ヌワーハッハッハッハッハ!!!

 

 Dr.エッグマンの高笑いに合わせて控えていたロボット達が拍手を送る。

何だかバカバカしい気持ちになってきたアンナは自身の常識とすりあわせることの無意味さを理解した。

 

「(もう、そういう『お話』なんだと考えるほうがよさそうですね)そういえば、そんな博士はモビウス(向こう)では何をなさっていたのですか?これだけの技術があるなら、あっちの生活はさぞ安泰だったと思うのですが」

ムグッ

「?」

 

 アンナの疑問はDr.エッグマンの沸き上がる高笑いに決定的な栓をした。

Dr.エッグマンは一転して悔しげな表情を浮かべ、先程とはうってかわって苦々しい声を口から漏らした。

 

「あと一歩、あと一歩の所でワシの輝かしい時代が始まるというのに、その時になると()()()が現れる……それどころかワシの輝かしい時代を進まんとする第一歩の所でも()()()が現れ、邪魔をしていく……!今回だってそうじゃ、ワシが()()()らの持つエメラルドを我が物にしようとしたのに姑息な手段で妨害された……あの時ちゃんとエメラルドを手に入れておればこんな惑星におらんかった!」

 

 Dr.エッグマンは拳をわなわなと震わせた。

 

おのれソニック!

次に会ったその時を!

キサマの命日にしてくれるわ!!

ガンッッアイタっ!

 

 遥か銀河の彼方にいるであろう『ソニック』という怨敵を思い浮かべたDr.エッグマンは掲げた拳に誓いながら勢いよく立ち上がるが、大きく振り上げた拳は勢い余って隣に立っていたロボットにぶつかってしまった。

結果、ロボットはラグビーボールみたいな体をごろんと倒し、Dr.エッグマンは痛みで手を振り、女性ロボットはDr.エッグマンに駆け寄って(いたわ)るという何ともマヌケな光景がアンナの前で繰り広げられた。

 

 たった今まで滾っていたDr.エッグマンの復讐心はものの見事に水を差された。

 

「……まぁ結果的にはワシも知らぬ惑星にたどり着けたという点はプラスマイナスゼロではある、かの」

 

 そしてDr.エッグマンは鈍い痛みを発する手をさすりながらそう呟く。

その何とも締まらない様子にアンナは自身の気が抜けていくのを抑えられなかった。

 

「とりあえず博士が色々としくじっていることも判りました」

「今何か言ったか、イースチナ?」

「いえ、何も」

 

 アンナは素知らぬ顔でお茶を一口飲んだ。

 

◆◆◆

 


 ガレージの一件から秘密基地を出るまで、太陽も少し傾いた程度の時間が過ぎていましたが、今日の出来事は一日の内容としては非常に濃いものでした。


 

◆◆◆

 

「はー……疲れました」

「オツカレさまでした、イースチナさま。どうかおゲンキで」

「あ、はい、どうも。荷物を持ってくれてありがとうございます、えっと、CASEALさん。そちらもお元気?で」

 

 アンナはCASEALにガレージの出入口まで案内され、恭しい礼を以て送りだされた。

 

「……今日の出来事があまりに濃密でした。現実は小説よりも奇なり、とはよく言いますが、私がそうなるとは思ってもみませんでした」

 

 アンナは背後のガレージを一目みてそう呟くと、オリジムシに齧られて穴の空いた所が修繕され、そこだけ縫って真新しくなった鞄を()げて帰路に就いた。

 

◆アンナの自宅がある住居ブロック◆

 

 チェルノボーグの街並みは自宅を出発した時と全く変わっていない。

ウルサス調の石造りの住宅街は秋のひんやりとした空気に包まれ、空は冷気をたっぷり含んでいるであろう雲が沈み始めた太陽の光に照らされてうっすらと朱くなっている。

住宅の玄関では、階段を使って遊ぶ子供達を花壇の周りを手入れする老婆が見守っている。

市に雇われた掃除夫が街路樹に積もった落ち葉を掃き集めて他の枯れ草などと共に燃やしており、少しばかり着込んだ男性が焚き火にあたって暖をとりながら掃除夫と四方山話に興じている。

友人同士か姉妹であろう婦人達は、夕飯の食材を入れた買い物籠を片手に先日値上がりした薪と小麦についての不満をとめどなく喋っている。

 

 そこにあのロボット達は無論、ガレージで見た子供達のような下流階級の存在はいない。

それがアンナの日常で見る風景だった。

アンナは『日常』に帰ってきたのだが、鞄の中にあるとある物が彼女に非日常な出来事の証拠をもたらしていた。

 

「これ、効果があるんですかね?まぁ、あの博士のアイテムなら、多分効果があるんでしょうが」

 

 アンナは鞄をまさぐってそれを取り出す。

それは卵サイズのオレンジ色をした装置で、アンナが秘密基地のECRを退出する際にDr.エッグマンに渡されたものだった。

 

◆◆◆

 

◆エッグマンランド・秘密基地◆

 

「尋問はこれで終了じゃ。所でついでにバイトをしてみる気はないか?」

 

 そう言ってDr.エッグマンが取り出したのは、卵サイズのオレンジ色をしたカプセル風なものだった。

 

「これは何ですか?」

「ワシが開発した、空気中の源石成分を検知してアラームを鳴らす装置【エッグ()スキャナ()】じゃ。例えるならガイガーカウンター、いや、鉱山のカナリアといったところか。源石成分を強く検知すればその方向を向いた時に警戒音を発するようになっておる。車のエンジン程度には反応せんが、剥き出しの源石や設備の故障で源石成分が漏洩しているような場合には反応する。こいつはその装置の新型でな、もしもESの至近距離で源石成分を検知した場合はその場で所有者をバリアで保護……要は源石避けを自動で行うのじゃ。こうした都市内ではどういったものに反応するのかを確かめたくてな、これを持ち歩いてみてもらいたい」

「……そんなトンデモ品を一学生にホイホイ渡さないでくれませんか?」

「ワシにとっては朝飯前じゃ。バイトなので当然ちゃんと給料はあるぞ。支払方法は好きなほうを選ぶと良い」

 

 いきなり現代の科学では製造できないであろう一品を試供品のような感覚で渡されたアンナの睨み(ジト目)をDr.エッグマンは気にもせずに再び壁にあるスイッチを押すと、今度は天井が二ヶ所開いてアンナの前にラックのようなものがするすると降りてきた。

今度は何が来るのかと降りてきたものを見たアンナは、彼女の掌に乗ったハイテク品のことを一瞬忘れるほど衝撃を受けた。

 

「ちょ、ちょっと?!これ!幾らあるんですか?!」

「必要なことに金を惜しむのは愚の骨頂じゃ。なーに、ただソレを持ち歩くだけなんじゃから簡単な仕事じゃろう?」

 

 そう、アンナの目の前に並べられたのは大粒の宝石が載った盆と目に見えて厚みの判る茶封筒(ウルサス紙幣)だった。

アンナはそうそうお目にかかれないであろうお宝と大金を一度に見て震えが湧き出してきた。

 

「こ、これは一学生、が持つには大金すぎや、しませんか?」

「口止め料も含めておるからの。この装置(ES)を無闇に他人に明かさないように、な。イースチナという名前であるからには嘘は吐かんよな?」

「こ、んなもの、持っていたら私の、金銭感覚が死んでしまい、ます」

「わがままなやつめ。では物納ならどうじゃ?その金額分だけ買ってやる」

 

 Dr.エッグマンから呆れながらも報酬の代替案を聞いたアンナは、何度かの深呼吸にて冷静さを強引に取り戻すと彼女にとってまだ何とか受け入れやすい条件を考え出した。

 

「……それでしたら、以前から読んでいる小説が幾つかあるんですが、巻数が多いので買うにはハードルが高くて小説誌で追いかけるくらいしかできなかったんです。それを頂けますか?」

「よかろう。家の場所とタイトルをこのCASEALに教えておけば後で送ってやる。もしも動作や精度に関して気になることがあれば、ESを捻ってから上下に引っ張れば通信会話機能が作動するようにしてあるから連絡するがいい」

 

 Dr.エッグマンに親指で指差された女性宇宙人ロボットことCASEALがアンナに向かってお辞儀した。

 

「女性ロボットさん……CASEALさんですね、判りました。では、それで」

「頼んだぞ。ロボット共、イースチナを家の外に案内してやれ」

 

◆◆◆

 

「いや、もう、小説だってこんなことは起こりませんよ。むしろ作家さんが書き出しでもすれば編集者から却下される程にはデタラメですよ、ほんと」

 

 アンナは少しばかりES(卵もどき)を手の上で転がすと再び鞄の中にしまいこみ、代わりに先のカフェダイナーでテイクアウトしたマシュマロを一つ取り出して齧った。

大ぶりのマシュマロは嚙み口から口の中でふわふわと広がり、舌の上で甘い味がじんわりと満たされる。

精神的に疲れた頭に、マシュマロの糖分が染み渡るような心持になった。

 

「まぁ、一度きりくらいなら、こういう日もありなのかもしれまんせんが……どうなるんでしょうね」

 

 アンナの誰に宛てたともない、何を差したともない一言は、チェルノボーグの日常の中の一風景に漏れ出でたまま消えていった。

 

 後日、かねてよりアンナが欲しがっていた小説が全巻新品で自宅に届いたため、彼女はこっそりと『Dr.エッグマン万歳』と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆秘密基地・コンピュータールーム◆

 

「ふむ、ESは誤作動なく動いておるようじゃな」

 

 偵察ロボットなどによって秘密基地に集められたデータや情報を処理するコンピュータールーム。

専用の椅子に座るDr.エッグマンは地図で表示されたチェルノボーグ市内を移動する光点をモニターで見ながら独り言ちた。

 

「新ESには同時に周囲の通信や音声等を記録・収集する機能を取り付けた。都市の大まかな通信は偵察ロボットで傍受できるが細々としたものや実際の会話などは流石に把握しきれんからの。中流階級の生活に紛れ込む電波だの単語だの何だのを拾うならこの手もありじゃろう……ん?」

 

 モニター上に新しい単語がいくつも浮かび上がる。

これはアンナの持つESを中心とした情報収集範囲内で検知した通信及び会話等をモニターに表示させるシステムで、偵察ロボットとは違い移動や潜伏のできない装置である一方傍受範囲をロボットより拡大させることでカバーしたものであった。

 

「ぶつ切り状態での受信になっておるな、まだ出力の調整が必要か。さて拾った言葉は……

- 『決行』『奪還』『移動』『救出』-

- 『解放』『復讐』『攻撃』『鏖殺』-

……やれやれ、この街は思った以上にきな臭いようじゃな。プログラムを自動集計に、『周波数及び単語を全て記録してデータ分析をかける』……と」

 

 Dr.エッグマンはコンピューターにコマンドを入力するとその場から立ち上がり、ワープルームへと向かう。

 

「フッフッフッフッフ、いくらこの街がきな臭かろうとも関係ない。いずれこのDr.エッグマン様がワシの前に立ちはだかるもの全て纏めて相手してやるわい」

 

 黒硝子のレンズが通路の電灯に照らされて鈍く輝く。

Dr.エッグマンは直に訪れるであろう混乱の時を視野に入れながら、その後に起こる雄飛の瞬間を脳裏に描いて嬉しそうに嗤った。

 




◆後のエッグマンボーグ市長代理「くしゅっ」

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